デート・ア・ライブ 精霊剣客浪漫譚   作:ソード.

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第三話 ラタトスク

「ここの副司令、神無月(かんなづき)恭平(きょうへい)です」

 

「そして、私が解析官の村雨(むらさめ)令音(れいね)だ」

 

金髪に長身の青年の神無月と目の下に隈のある二十代ほどの女性の令音から挨拶されるが、彩人は笑顔で返すことなどできなかった。

 

「いや、唐突すぎてわからないんだが……」

 

彩人はフラクシナスと呼ばれる場所の一室に連れられていた。半楕円形の部屋取りで入口近くに艦長席と思しき椅子、奥には巨大なモニターと左右にはクルーたちが座って何やら複雑な機械を操作している。

こういう機械に疎い彩人にとっては何が何やらわからなかったが、少なくとも悪ふざけやイタズラの類いの線はなくなった。

 

「だからさっきも言ったでしょ? 私たちは〈ラタトスク〉。さっきあなたが戦ってた精霊やASTに関係してる組織よ」

 

「いや、だからいきなり用語を並べないでくれ。この数分で知らない単語が四つも出てきたぞ」

 

艦長席、正確には司令席に先程のツインテールの少女が座って腕を組んでいる。口に棒つきキャンディを咥えているが子供らしさはそこまで感じられない。

 

「はあ……察しが悪いわね」

 

少女は指でキャンディの棒をピンッと弾く。何か意味があるのだろうか。

 

「それについてはもう一人が来たら話すわ」

 

「もう一人?」

 

「あなたと一緒にいた愚兄のことよ」

 

「え? ってことはまさか――」

 

彩人が言い終える前にドアが開いてさっきの少年、五河士道が顔を出した。

士道が開口一番に放った言葉に彩人はまたもや驚愕することになる。

 

「こっ、琴里!?」

 

「ええええッ!?」

 

「そうよ。私は五河琴里。ここの司令で、そこの愚兄の妹ってこと」

 

正直、この子が件の妹であることに今日一番驚いた。

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

彩人と士道は早速別室に移動して琴里、神無月、令音の三人から説明を受けていた。

 

「じゃあ、早速説明するわね」

 

琴里が机に置かれたフリップを二人に見えるように置いた。そこには何やら可愛らしい絵で剣を持って戦う女の子と空を飛んでいる人間が四人書いてある。

 

「あの女の子は精霊で、飛んできた集団がAST。空間震は精霊が現れるときの余波で、つまりは空間震の原因。だからそれを排除するためにASTっていうのがいるの。ここまではわかった?」

 

「ああ、その上手なのか下手なのかよくわからない微妙な絵がなければよりわかりやすいと思う」

 

「ふんっ!」

 

琴里は彩人のコメントに対してフリップの投擲で答えた。彩人にとってはそんな行動は簡単に読めた。首を横に傾けて回避した。

 

「何避けてるのよ!」

 

「大人しく当たれってのか!? 当てたかったら時速百五十キロは超えてみろ小娘!!」

 

というか飛天御剣流の使い手である彩人にとって常人の攻撃など当たる方が難しいのだ。

たとえ相手が熟練の軍人であろうとまともにやり合える自信がある。

 

「まあいいわ。続きよ続き」

 

琴里は気を取り直して新しいフリップを取り出す。今度は士道と思しき人物と精霊の少女が描かれていた。

その二人の絵の間には何故か大きなハートマークがついている。

 

「それで、精霊を殺さずに平和的に事態を解決する方法がこっち。精霊とデートして恋をさせるの。ラタトスクの方針はこっちね」

 

「は?」

 

「ん?」

 

彩人と士道は同時に首を傾げてしまった。いきなりデートだの恋だの言われて真剣な空気が有耶無耶になってしまったからだ。

 

「いや……それが何で空間震を止めることに繋がるんだ?」

 

士道が尤もらしい質問をした。確かに話が飛躍しすぎている気がする。あんな恐ろしい戦闘能力を持った存在とそういう関係になるというのは、正直現実性に欠けると思う。

 

「ほら、よく言うでしょ。恋をすると世界が変わって見えるって。精霊も感情のある女の子なんだから、この世界の素晴らしさに気付けば戦う気も失せると思わない?」

 

「でも、そんなの誰がするんだよ」

 

「あなたに決まってるでしょ、士道」

 

「俺っ!?」

 

琴里からビシッと指を差され士道は面食らってしまう。いきなりすぎる。そしてまだ理解も追いついてない。

彩人は内心、可哀想になどと思っていたがここである疑問が生じた。

 

「ちょっと待て」

 

「何かしら?」

 

「じゃあ何で俺はここに呼ばれてる? 士道がその役をするなら俺はわざわざこんな説明受ける意味はないだろ?」

 

彩人の意見に琴里だけでなく神無月や令音も眉をピクリと動かした。

琴里はキャンディを口の中で転がして口角を少し上げた。

 

「それについては今から話すわ。士道も一緒に聞いてちょうだい」

 

琴里は部屋のモニターを操作し、ある映像を再生した。そこにはさっきの精霊との戦闘で彩人が何もない空間から刀を出現させた場面が映っていた。

 

「あなたは精霊の力を使えるの?」

 

…………何のことだ。彩人はそう返したくなったが留まった。さっきまでの話からして額面通り受け取るような姿勢でいては駄目だ。

 

「意味がわからないな。さっき俺が出した刀がその精霊の力ってヤツなのか?」

 

「精霊と正面から戦っても刃こぼれ一つしないなんて妙だと思って……すぐに解析した結果、精霊と同じ霊力の測定が確認されたの」

 

「……これは昔の事故の後遺症みたいなものだ。それに、俺は空間震を起こした覚えもない」

 

「たとえ精霊じゃなくてもあなたはそれに酷似した力を使える。それだけで十分よ。私からの提案を聞いてくれないかしら」

 

話の主旨が見えてこない。琴里は何を確かめたいのだろう。

 

「それで、俺をどうしたいんだよ?」

 

「あなたには士道のサポートをお願いしたいの。主に戦闘面のね」

 

そういうことか。琴里も彩人の表情の変化から理解し、話を続けた。

 

「士道が精霊と話している最中にASTが現れでもしたら完全に邪魔になる。だからそれを食い止めるだけでいいの。お願いできる?」

 

「………それはつまり、俺にラタトスクに入れって意味か?」

 

「そういうことになるわね」

 

「……そうか」

 

彩人は目を閉じて深く考える。確かに個人的に士道やあの精霊の少女を助けたいとは思う。

義理や対価がどうのと言うより、彼女たちと関わって状況を理解した今、自分の存在はその手助けになるはずだ。

 

しかし、ここで問題があった。彩人の気持ちと同じくらい重大で、危険を孕んだ問題が。

 

「琴里、お前たちは知らないだろうから言っておくけどさ……」

 

「何?」

 

「俺は自分の流派の特性上、そういうことをしたらいけないんだ」

 

「どういうこと?」

 

言うべきか迷ったが、別にいいだろう。下手に誤魔化しても多分彼女たちは納得しない。

 

「飛天御剣流の使い手はな、特定の組織や派閥に属するわけにはいかないんだ」

 

「飛天御剣流?」

 

彩人以外の全員が頭に疑問符を浮かべる。これだけではわからないだろう。彩人は一息ついて説明を続けた。

 

「ラタトスクに所属している人間はこの艦内の全員じゃないんだろ?

ましてや、こんな大規模な機械や優れた技術を誇る以上、上の立場の人間は表向きでもかなり地位のある人間のはずだ。

お前たちを疑うわけじゃないが、組織の中には必ず野心や私欲を持つ人間がいる。そういうところに入ればどうなるかわかるだろ?」

 

「権力に利用されかねない……と言いたいのかね」

 

彩人の右側に立っている令音が口を挟んだ。彩人も若干顔を曇らせながら「ああ」と頷く。

 

「だから俺は将来どっかの小規模な会社に就職するのならいいが、そんな世界規模の大組織に加担するべきじゃない」

 

「………じゃあ、士道のためってことならどう?」

 

「士道のため?」

 

「ええ、あなたは精霊から士道を守った。あれは打算や見返りがあってのことじゃないんでしょ?」

 

「ああ」

 

だが、彩人はそこまで納得できなかった。それが理由でラタトスクに所属するにはまだ足りない。

 

「つまり、アヤには情報提供のみを行い、協力者としてラタトスク側についてほしいということだね?」

 

令音が琴里の代弁をするように尋ねた。だがここで、彩人は何か引っ掛かった。

 

「アヤって……もしかして俺のことか?」

 

「いけなかったかね? 確かそういう名前だったと思うのだが……」

 

「違うから。それだと女子の名前みたいだし……彩人だよ、俺は」

 

「まあ、それはさておき、アヤはどうなんだい?」

 

「聞いてないの!?」

 

初対面のときから薄々思っていたが、令音はちょっと感性が常人とは違うらしい。

彩人は頭を掻いて椅子にもたれかかりながら答えた。

 

「それなら、まあいいよ。あくまで俺は外部の人間で一般人、ラタトスクの活動に協力するだけならそこまで問題はないだろうしな。」

 

「……協力感謝するわ」

 

琴里が渋々といった感じで了承する。彩人は近くに置いてあった自分の鞄を取ると部屋の出入口へと歩いていった。

 

「琴里、断っておくが俺は精霊は勿論ASTや一般人を殺したくもない。お前がそんな命令をするとは思わないが、一応それだけは理解しておいてくれ」

 

「わかってる。しないわよ、そんなこと」

 

「……そうか、ありがとな」

 

自動で開いたドアをくぐって通路へと移動した辺りで後ろからまた誰かに声をかけられた。

 

「待ってくれ、彩人!」

 

「……士道?」

 

士道が椅子から立って彩人と目を合わせた。

 

「俺のこと、何で助けてくれたんだ? 俺とお前は初対面だし、それに――」

 

「初対面だと、助けたらいけないか?」

 

彩人が肩をすくめて言うと士道と琴里は呆気にとられて声も出ない。彩人はクスッと笑うとからかい気味に付け足した。

 

「強いて言えば、お前らの兄妹仲の良さに当てられたからかな?」

 

「「彩人ォ!!」」

 

息ぴったりじゃん、二人とも。




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