デート・ア・ライブ 精霊剣客浪漫譚   作:ソード.

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第五話 実技訓練

「士道、何か手伝おうか?」

 

「じゃあ、そこの皿取ってくれ。棚に入ってるから」

 

「はいはい」

 

士道と彩人のギャルゲー訓練から数日。彩人が五河家の隣に越してきて初の休日が訪れた。

これから一緒に行動する仲として親睦を深めようという意で彩人は五河家にお呼ばれされていた。

現在、士道の夕飯作りを手伝っている。因みにこの部屋には二人以外誰もいない。

 

「今日は琴里は留守なのか?」

 

「いや、多分そろそろ帰ってきて――」

 

彩人がたった二人のリビングに違和感を持って士道に尋ねたところ、それに合わせたように軽快な声が玄関から届いた。

 

「たっだいまー!」

 

声からすると琴里だというのはわかった。しかし、彩人はそれが一瞬あのツインテールの司令官殿の声と一致しなかった。

何だか声が弾んでいたような、女の子らしいというか……

 

「おー、おにーちゃん! 今日は何作ってるの?」

 

「今日はカレーだぞ、琴里」

 

琴里が玄関からリビングへ入ってきた。彩人はまず間違いなく彼女のことを知っている。

彼女は五河琴里。士道の義理の妹にしてラタトスクの司令を務める少女。

だが、今の彼女は彩人から見て同一人物なのかと疑った。口調や表情がかなり幼く見える。

 

「ホントにー!? 後どれくらいで!?」

 

「もうすぐだから、着替えてこいよ」

 

「わかったのだ!」

 

トテトテと学生用鞄を持ってリビングから去っていく琴里。彩人は頭に手を置いて考えてしまった。

一体今のは誰だ? と。

 

「なあ……士道。あれって琴里……だよな?」

 

「え? ああ、そっか。彩人は黒リボンの方しか知らないんだったな」

 

「黒リボンの方?」

 

思い返してみるとさっきの琴里はいつもの彼女と明確に外見が違う部分があった。彼女のツインテールを括っているリボンの色だ。

彩人が何度か見てきた琴里は黒いリボンだったがさっきは白いリボンを使っていた。

 

「本当に並大抵の奴がいないんだな……ラタトスクって」

 

「うん、それは俺も思うよ」

 

士道曰く、白いリボンのときは妹モード、黒いリボンのときは司令官モードと言うらしい。

彩人と琴里が会った日の前までは琴里は白いリボンだったらしいが、初めてそれを見た彩人からすれば違和感ありまくりだった。

あんなのはギャルゲーの妹キャラでしか見たことない。

 

「ところで士道、お前どうなった? ギャルゲーの進み具合」

 

「あと少し……まだCGのコンプリートしてないから」

 

「俺もだ……あの選択肢をしらみ潰しに選ぶわけにもいかないからな」

 

士道は黒歴史、彩人はいくつかの私物を失敗する度にお釈迦にされている。そのお陰で腕が上がっているからいいものの、よく心が折れないなと自分を誉めたくもなった。

飛天御剣流の修行も大変だったが、こちらの修行は精神的に大きな苦痛を伴う。

 

「確かにいくらか資金援助してくれるのはありがたいけどさ……この一週間ほどで俺の身の回りのものが何個もご臨終なさったぞ」

 

「言うな彩人。俺も人としての尊厳が地に落ちるほどの失態になったんだ。でもあと少しだ。もうあの地獄の日々も終わりに近づいてる」

 

「士道、そういう口調してたらまた中二病とか言われるぞ」

 

「………」

 

黙ってしまった。多分中二病という単語に色々敏感になっているのだ。そりゃそうだ。こんな短期間に自らの黒歴史を不特定の人間にバラ撒かれたのだから、士道としても勘弁してほしいのだろう。

 

「だけどさ、もしこの訓練終わったら俺たち何をするんだ? 琴里からは何も聞いてないんだが」

 

しばし黙っていた士道がカレーを煮込んでいる鍋を混ぜながら言った。

 

「さあ……正直俺には想像もつかないな。だって世界救うためにギャルゲーやったりするわけだから、常識に捕らわれた考えなんか軽く越えてきそうだぞ?」

 

「だよな。俺は結局精霊を、その……口説かないといけないしさ。もしかしたら今度は実際に誰かと話したりするのかな……」

 

「それってあれか? 琴里から『試しにあの娘をナンパしてきて』とか言われるとか? ……ないよな、流石に」

 

「ははっ、それは流石に考えすぎか」

 

そんなぶっ飛んだ事態を二人は想像したが、「まさかねー」と笑いながら否定した。

そのときリビングの扉が少しだけ開いて、黒リボンの琴里が笑みを浮かべた顔を覗かせていたような気がしたが。

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

「琴里、俺たちの話盗み聞きでもしてたのか?」

 

「さあ、どうかしらね? 何はともあれ、フラグ回収お疲れ様」

 

後日、無事に士道たちはギャルゲーの地獄から解放されたものの、士道には新たな訓練が待っていた。

精霊を口説く前にまずは身近な女性を相手にしよう、と。二人の嫌な予感が的中した。

 

「俺がやらなくて助かったよ……もしやってたら噛みまくってただろうしな……」

 

「そんなに苦手なの? 見た目通り女々しいのね」

 

「………言わなくていい」

 

いつものように来禅高校の物理準備室で琴里、令音、彩人がモニターの前に待機。士道は廊下に出て校内の女の子を口説く破目に。何と可哀想な。

 

「そもそも、こんなことやっていいのか?」

 

「どういうこと?」

 

彩人がおもむろに琴里に尋ねると、琴里は咥えているチュッパチャップスの棒を動かしながら聞き返した。

 

「口説かれる相手側が拒否するしないに関わらず、士道の社会的信頼が損なわれるような気がするんだが……それに関してはどうする?」

 

「大丈夫よ。こっちで相手は選ぶし、多少はアドバイスくらいするから。それに、相手がOKするはずもないでしょ」

 

「そんなもんなのか?」

 

士道が女性にモテるのかは知らないが、彼の友人として心配なところはあった。

とにかく頑張れ、士道。

 

「で、まずは誰にする?」

 

モニターに映し出された士道の映像を見ながら彩人は琴里と令音に聞いた。

因みにこの映像は士道の周りを浮遊している超小型の自律カメラからリアルタイムで映しているらしい。

 

「まずは岡峰教諭からにしよう。彼女なら大丈夫だ」

 

令音が手元のマイクに指示を出すと、画面上の士道は困惑したように彼の耳元のインカムに手を当てた。

無理もない。岡峰先生は士道と彩人の担任の先生だ。

 

『ちょっ……どういうことですか!?』

 

「彼女ならまず受け入れはしないだろうし、他人に言いふらすとも思えない。まあ、お望みなら女子生徒に換えても変えてもいいが……」

 

「士道、ここは大人しく岡峰先生にしておけ。生徒にやったらお前の二年間棒に振ることになると思うぞ」

 

『……っ! そう、だな』

 

士道も理解できたのか、渋々といった様子で廊下を歩き始めた。岡峰先生は見た目は高校生くらいだが、れっきとした成人女性。士道からの告白など生徒のからかい程度に思ってくれるだろう。

ちょうどその頃、士道の歩く先に岡峰先生の後ろ姿が。

士道は歩くペースを早め、近づいたところで声をかけた。

 

『あれ、五河くん? どうしたんですかぁ?』

 

『ああ……えっと……』

 

士道も何を言うか決めていなかったためか、声をかけてもその先が続かない。

 

「落ち着きたまえ、シン。ここは私の言ったことを復唱してみるんだ」

 

『だ、大丈夫なのか?』

 

「……多分な」

 

彩人は我ながら責任感のない返事をしてしまったが、こればっかりは仕方ない。女性の口説き方など彩人の方が知りたいくらいだ。

士道は彩人と令音からの指示を受けて岡峰先生の攻略にかかる。

 

『先生……俺、最近学校に来るのが楽しいんです』

 

『そぉなんですか。よかったですね』

 

『はい、先生が担任になってくれたから』

 

『え……?』

 

岡峰先生は満更でもないように照れている。思ったより順調だな。

 

『俺、本気なんです。先生のこと……』

 

『で、でも……流石に先生と生徒ですし……』

 

『本気で先生と、結婚したいと思ってるんです!』

 

士道が結婚という単語を口にした瞬間、岡峰先生は士道の両手を掴んで目をギラギラさせてきた。

 

『本当ですか? 五河くんが結婚できる歳になったらもう私三十歳越えちゃってるんですよ? それでもいいんですか? 両親に挨拶に来てくれるんですか? 婿養子とか大丈夫ですか? 高校卒業したら私の実家継いでくれるんですか?』

 

画面上でそれを直接見ている士道よりはマシだが、彩人も彼女のその様子に引いてしまった。

いつもの人となりの良い彼女とは違う、ドロドロした面が見えた瞬間である。

 

「令音さん……いいんですか、こんなの言わせて。岡峰先生完全に言質取ろうとしてますよ」

 

彩人は発案者である令音の方を流し目で見ると、いつも通りの眠たげな目をした彼女の様子があった。

 

「ふむ、二十九歳の独身女性ならこれは効果覿面だと思ったが、予想以上のようだね」

 

令音が割とリアルな分析をしていた。というか岡峰先生って独身で二十九歳なのか……何で結婚できないんだ?

 

「まあいいわ、士道、適当に謝ってその場を離れなさい」

 

琴里がマイクで士道に指示を出すと、士道は未だにヒートアップしている岡峰先生に頭を下げて謝罪した後、走ってその場から逃げた。

士道は必死に走っていたので前を見ておらず、角を曲がる際にうっかり誰かにぶつかってしまう。

 

『いって……すまん、大丈夫か?』

 

『平気』

 

士道は慌ててぶつかった相手を確認すると、その人物に顔をひきつらせた。

肩まで届くほどの白い髪に、人形のように整った顔立ちの少女。鳶一折紙が廊下に倒れ、ちょうど立ち上がっていた。

 

「ちょうどいいわ。士道、彼女でも訓練しましょう」

 

士道が折紙とぶつかったのを好機と見た琴里が士道に指示を送る。

何してんの一体!?

 

「待て琴里! あいつはASTだぞ! なるべく接触は避けた方が……」

 

「そこまでのことじゃないわ。同年代のデータもとっておきたいし、ASTの一員っていうのも参考になりそうじゃない。それに、運良く彼女も言いふらすようなタイプには見えないわ」

 

確かにAST隊員のデータなどはかなり貴重だろうし、折紙が他の生徒に士道との会話を面白可笑しく吹聴する様も想像できない。

一先ずは様子見をするべきか。

 

『でも、何から話せば……』

 

「誉められて喜ぶタイプでもないからな……普段の様子からして。

よし、じゃあここはこの台詞で行こう」

 

令音や琴里に任せているとまたおかしな方向に行ってしまうので、今度は彩人がアドバイスをすることにした。

 

『なあ、鳶一』

 

『何?』

 

『その髪型、可愛いな。凄く鳶一の雰囲気に合ってると思う』

 

『そう……嬉しい』

 

『それに……俺って鳶一みたいな寡黙で小柄な女の子がタイプなんだ』

 

『嬉しい』

 

『だから一緒のクラスになれて凄く嬉しくてさ、良かったら俺と付き合ってくれないか? ……って、唐突すぎやしないかこれ?』

 

士道が不振に思ったのかインカムを小突いて彩人に聞いてきた。彩人は戸惑いながらもマイクで返事をする。

 

「まあ、前半は言われて嫌なことは言ってないし……少なくとも悪印象は抱かれないだろ。それに鳶一が了承するわけな――」

 

 

 

『構わない』

 

 

 

『「……………は?」』

 

画面の士道とそれを見ていた彩人は同時に意味がわからないといった風の声を出してしまう。

話の流れからすると折紙は士道からの告白を受け入れたという意味にしか思えない。

士道は勘違いか何かの可能性に懸けて改めて折紙に向き直る。

 

『ど、どっかに行くのに付き合ってくれるってこと……なのか?』

 

『違うの?』

 

折紙はほとんど表情が変えなかったが、心なしか残念そうな様子になる。

 

『えっと……鳶一はどういう意味だと思ってたんだ?』

 

『男女交際のことかと思っていた』

 

男女交際のことかと思っていた……男女交際のことかと思っていた……男女交際の……

 

士道と彩人の脳内をその文章がエコーのように繰り返される。

てっきり普段の雰囲気からそういった関係には興味がないのだと決めつけていたので、士道はダラダラと汗を垂らして動揺してしまう。

彩人は何とか修正しようと再び士道に指示を出す。

 

「士道、まだだ! 今ならまだ勘違いで通せる!」

 

士道からは折紙の言うような関係についての話はなかった。今なら折紙の勘違いと言えば助かる。

士道は慌てて弁明しようとしたが、折紙に近寄られ問い詰められる。

 

『違うの?』

 

『えっと……だから……』

 

『違うの?』

 

『………』

 

『違うの?』

 

『………違いません』

 

「おい士道ォ!!」

 

折れるな。折れたら完全にギブアップだろうが。

ギャルゲー的に言えばトゥルーエンドかもしれんが。

 

「琴里、これ結局訓練になったのか?」

 

「まあ……なったでしょ、多分」

 

流石の司令官様も予想外だったようで目を泳がせていた。おい、首謀者。

 

「あとで士道に謝っておこう……」

 

と、彩人がため息混じりに呟いたときだった。

 

 

 

ウゥゥゥゥゥ――

 

 

 

「ッ!? 空間震……!」

 

「来たみたいね」

 

何の前触れもなく、辺りに空間震警報が鳴り響く。士道と折紙もその警報を聞き取り、足早に移動を始めた。

 

「士道、彩人、一旦フラクシナスに戻るわよ」

 

空間震警報。すなわち、プリンセスと呼ばれたあの精霊の少女と接触する機会が巡ってきたのだ。

 

「琴里、出現予測地点は?」

 

彩人が荷物を纏めながら琴里に聞くと、琴里は得意気に笑いながら答えた。

 

「ここ、来禅高校よ」




結構間が空いてごめんなさい。書きたいところとかが削れなくてこんな結果に……おろろ

それでは、感想、意見などありましたら遠慮なくご記入ください。
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