ASTの使用している武装には
ASTはそれを利用して、身体に特殊なスーツや武装を展開している。
原理は何となく理解できたが、彩人にとっては大した問題ではなかった。
あの精霊――十香より弱いのならどんな武器を使っていようが負けるはずがないのだから。
「翔ろ、〈
彩人は黒い日本刀を現出させ、鞘を左腰に納める。これで戦闘準備は完了だ。
彩人の現在地は来禅高校のグラウンド。ASTは体育館側の空中に浮遊しながら銃で校舎の壁を破壊している。数は全部で八人。
彩人は士道たちとASTを横から見る位置に転送してもらったのだ。
今士道は十香と話している。余計な邪魔が入ると、十香としても戦闘に回らざるを得なくなってしまうだろう。
そうならないようにするには――
「割って入る、か」
彩人は高く跳躍し、校舎の二階の高さまで到達する。そこから半壊した二階の足場を蹴って再び跳躍。
本来なら階段で移動する高さでも彩人にとっては大した高さではない。
彩人は十香と士道の姿を確認する。十香はこちらに背を向けているが、士道とは目が合う立ち位置にあった。
士道に目線で応援の意思を送ると彩人は二人とASTの間、銃弾の弾幕の中に身を晒した。
「飛天御剣流――」
通常なら弾幕に呑まれて即死だが、彩人にはそうはいかない。腰に差した鞘から刀を抜き、その神速の剣を振るう。
「
銃弾の一つ一つ、彩人の身体に傷を負わせるそれはことごとく刀によって弾かれる。
その神速の乱撃術によって銃弾は彩人の身体を触れることない。
数秒間弾幕は続いたが、リーダーと思しき女性が左手を挙げて攻撃を一旦中止させる。正体不明の敵との遭遇に慌てているのだろう。
彩人は刀を鞘に納めるとそのリーダーの女性と対峙する。
「武器を納めてここから立ち去れ。俺もこれ以上無駄な争いはしたくない」
相手が応じるとは思えないが、何の警告もなしにすぐ戦闘というわけにもいかない。
ASTと違って彩人の目的は時間稼ぎなのだから。
「何者なの!! 危険だからさっさとそこをどきなさい!!」
リーダーの女性はこっちの言い分を聞く気はないようだ。そればかりか避難を促してくる。
「……あの精霊を殺すつもりなら容赦なく邪魔させてもらうぞ。それでもいいのか?」
「一体何を……って、折紙! 待ちなさい!」
彩人と話している最中、隊員の一人がこちらに急接近してくる。彩人はその顔に見覚えがあった。それにリーダーの女性が叫んだ『折紙』という名前。
こちらに迫ってくる妙なスーツを着た少女、士道と彩人のクラスメイトの鳶一折紙だ。
「チッ……」
折紙は持っていた銃を捨ててレーザーブレードに持ち替える。銃が通じない以上、接近戦で挑もうというわけか。
彩人も刀を抜き、迫ってくる折紙の攻撃を受け止めた。
「容赦なく邪魔させてもらうって言ったはずだぞ」
「そんなことは関係ない、今すぐそこをどいて」
折紙は相変わらず感情を表に出さずにこちらを睨む。数秒間は鍔迫り合いになったが、彩人の方が力は上。刀を振り払うと折紙もそれに押されて後ろに下がってしまう。
「何故あなたは精霊を庇おうとするの。以前は敵対していたはず」
「前は成り行きだったんだよ……それに今はもうあの娘――十香に危害を加えるつもりもない」
「理解できない。あなたは精霊のことを知らないからそう言っているだけ」
「知ってるよ。少なくともお前よりはな」
「……!」
折紙は持ち直してレーザーブレードを上段から降り下ろしてくる。
持ち前の身体能力に顕現装置を使った剣の速度と威力は大したものだろう。だが、彩人にとっては凡人と大差はない。
「飛天御剣流 抜刀術――」
彩人は鞘を腰から外し、それに刀を納める。剣術の一つ、抜刀術の構えだ。
折紙の斬撃より速く抜き放たれた刀は彼女のレーザーブレードに衝突する。
折紙も押し負けずに刀を受け止めるが、さっきのような徹は踏まない。刀を流すようにレーザーブレードの角度を曲げて刀を回避する。
そこから間髪入れずに
「
彩人は左手に持った鞘を逆手のまま抜刀の勢いで折紙に向けて振り抜いた。その二段攻撃に折紙は対処できず右脇腹に鞘の一撃を受けてしまう。
いくら力を底上げしていようが元は人間。鞘であろうと彩人の攻撃をまともに受けて耐えられるわけがない。
折紙は打撃を受けた部位を抑えて蹲ってしまう。
「その程度で精霊を殺そうなんて片腹痛いな。悪いことは言わない。お前こそ精霊への復讐なんて諦めるんだな」
横から見ているASTはこちらに発砲してこない。今撃てば彩人が折紙を盾にする可能性があると考えたのだろう。
彩人にそんなつもりは当然ないが、確かに今撃たれると折紙を巻き込むことになるのは明らかだ。
折紙は膝をついたまま彩人を睨む。
「この力……それに今の攻撃……やはりあなたは……精霊……」
「そう思ってくれて結構だよ」
他の精霊が狙われるより彩人が精霊だと思わせて注意を引く方がよっぽどいい。
彩人は鞘を腰に差し直すと、上空からこちらを見ているASTを睨む。
「今のを見ていただろ。これが最後の警告だ。痛い目に遭いたくなかったらさっさと俺達の前から消えることだな」
「くっ……前衛三人は接近! 残りは援護に回りなさい!」
彩人の警告もやはり聞き入れないようだ。わかってはいても少々心が痛む。
彩人は右耳のインカムから士道に声をかける。
「士道、ASTはこっちで引き受けるからお前は早く十香をデートにでも誘え。何ならここで口説き落としてもいいぜ?」
『なっ……馬鹿言うなって!』
彩人が悪戯気味に言うと士道は慌てて反論してきた。戦闘の真っ只中ではあるが少しだけ頬が緩んだ。
「何はともあれ、頑張れよ。士道」
『……お前もな』
彩人は接近してくる三人のAST隊員を検めると、士道との通信を切った。
相手は折紙と同じくレーザーブレードで近接戦に持ち込むが、またもや甘い。
向こうにとっての敵は彩人だけあっても、彩人きとっての敵は全員なのだから。殺さないようにするだけで構わないのだから。
彩人は迫りくる斬撃と銃弾を紙一重で回避し続けていた。
相手が彩人を精霊と思っているかはわからないが、少なくとも敵としては認識したようだ。
だがこの程度で彩人を倒そうだなんて冗談としか思えない。
「それじゃあ足りないんだよ」
彩人はレーザーブレードを振りかぶって走ってくる三人の中心の位置から空高く跳んだ。援護者撃をしていた他の隊員たちの高さまで。
「しまっ……」
一瞬で高低差を埋めてきた彩人に反応が遅れた上空の隊員たちは咄嗟に銃を向けるが、それもまた遅い。
彩人はそれよりも速く刀を振りかぶっていた。
「
刀を水平に構え、振ると同時に高速で身体を横に回転させる。まるで竜巻のようなその技に隊員たちは一網打尽となってしまう。
上空の敵全員の武器は綺麗に切断されたため、もはや銃も剣も使い物にならないだろう。
残るは下の敵のみだ。上空へ飛び上がったのは援護射撃を潰すためもあるが、もう一つ理由がある。
上空から次の技へ繋げるためだ。
「
落下の重力を利用し相手の頭上から斬撃を叩き込む。狙うは相手の武器。
案の定相手は回避が間に合わず受け止める方向で来たようだ。
彩人の一撃には隊員は防御しきれず、武器を見事に破壊された。彩人は着地と同時に左手で相手の顎の先端に横から裏拳を入れる。
顎は人体の急所の一つ。強打されると衝撃は脳まで伝わりしばらく動きを封じる。これで一人は無力化した。
「やあああっ!!」
彩人が一人倒している隙を見計らって別の隊員が背後から斬りかかってくる。
彩人は腰の鞘を左手で抜いて振り向かずに背後の敵の鳩尾を突いた。予期せぬ反撃に敵は呼吸困難に陥った。これで二人目。
「さて、まだやるのか?」
最後の一人、彩人の間合いのギリギリ外にいる隊員に剣先を向ける。既に全身が震えて目も焦りの色に染まっている。
彩人は一歩踏み出してもう一度問い詰めようとした。
「総員撤退! 早く撤退しなさい!」
上空にいたリーダーが大声で隊員たちに呼び掛ける。それに伴って隊員たちも武器をしまって全力で上空へと飛んでいった。
やっと終わりか、と彩人は肩を竦めて刀を納めた。
「御虚彩人」
「……何だよ」
折紙が脇腹を押さえながらこちらに歩いてきていた。彼女ももうまともにやり合っても敵わないと理解しているはずだろう。彩人は両手を刀から降ろして聞き返した。
「あなたは、人間? それとも……精霊?」
「……俺は人間だよ。少なくとも、自分ではそのつもりだ」
違いも大してわからないがな、と付け足したくなったがやめておいた。
精霊を仇としている彼女にとっては特に意味のない台詞なのだと思ったからだ。
折紙は苦しげな表情で「そう」とだけ言った。そのまま、こう続けた。
「けれど、もしあなたが精霊なら私は容赦なく殺す。絶対に」
「……そう思うなら何度でも挑戦してこい。他の奴らを巻き込まないのならな」
折紙は彩人の最後の言葉に返事はしなかった。ただ無言で他の隊員たちと一緒に去っていった。
ASTが完全に見えなくなった頃を見計らってインカムで琴里に通信を繋ぐ。
「琴里、こっちは撃退完了だ。士道と十香は?」
『十香は
「了解」
通信を切ると、身体が妙な浮遊感に包まれ、彩人はフラクシナスに回収された。
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