デート・ア・ライブ 精霊剣客浪漫譚   作:ソード.

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今回で原作一巻は終了です。
あんまり設定とかを省きたくなかったので自分なりにやってみましたが、長くなりましたね、( ̄▽ ̄;)。


第八話 封印成功

「士道、どうだそっちの様子は?」

 

『ああ、順調だよ。彩人は今どこから見てるんだ?』

 

「さあな、お前らがしっかり見えるところとだけ言っとくよ」

 

士道は翌日、無事に十香と合流した。今は十香を来禅高校の女子の制服に着替えさせ(十香の能力で作ったらしい)、士道とのデートを楽しんでもらっている最中だ。

彩人はというと、琴里から指示を受けて二人を近くの建物の陰から監視している。琴里曰く、『まだ十香が士道を信じきっているかわからないし、ASTに介入されでもしたら台無しになるから見張っていて』ということらしい。

 

「十香の機嫌はとれてるか? 見たところ楽しそうな顔してるけど、本当に本人なんだろうな? ラタトスクの用意したエキストラじゃないよな?」

 

『いや、会ってから俺もずっと一緒にいるから、それはないだろ。それにこんな娘がそんな簡単に用意できるわけない』

 

「それもそうか」

 

彩人はインカムで士道と会話しながら十香の様子を見る。昨日までと打って替わって無邪気な女の子のように士道と歩いている。やはり非の付け所がないくらい美しい少女だ。

確かに世界中探しても、彼女に似ている人物が探せるかどうか怪しいくらいだ。

 

「というか、お前はさっきから何をしてるんだ? きなこパンとかフランクフルトとか食べさせてるようにしか見えないが。食べ歩きデートか?」

 

『ああ……十香のやつ、食べ物が珍しいんだろうな。引っ切りなしに食べてる。俺の財布がどんどん軽くなってくよ……』

 

「経費として落としてもらったりできるといいな……」

 

あのツインテールドS司令官様が了承してくれるかちょっとわからなかった。

士道が奢ってくれなかったら十香だって機嫌が悪くなるだろうから、そこら辺は何とかしてくれるはずだ。

そうだといいな、士道。

 

「じゃあな、引き続き監視しとくから。切るぞ」

 

彩人はインカムの通信を切ると、先程コンビニで買ったカフェオレのペットボトルの中身を飲み干し、近くのゴミ箱へ持っていく。

 

「ん?」

 

彩人がゴミ箱の左からペットボトルを捨てようとしたところ、右側から別の人物が同じくペットボトルを捨てようと手を伸ばしてきた。

 

「すいません、先にどう……ぞ?」

 

「……!」

 

彩人は相手に譲ろうとしたが、その人物の顔を見た瞬間に一瞬言葉が詰まった。

その人物は来禅高校の制服を着た少女、鳶一折紙だったからだ。

数秒黙った後、彩人は左手でペットボトルを捨てた。続けて折紙も手に持ったペットボトルを捨てる。

 

「何故あなたがここに?」

 

「こっちの台詞だ……お前こそここで何をしてる? 昨日の空間震のせいで今日は休校のはずだが」

 

「それは知っている。私は偶然ここにいるだけ」

 

怪しい。あっけらかんとした風に言ってはいるが、彼女はASTの一員なのだ。もし彼女が十香とデートしている士道を見かけたのなら尾行くらいはしそうなものである。

 

「今日はあの刀を持っていないの?」

 

ふと、折紙が彩人の左腰を見ながら質問してきた。

持ってるわけないだろう。

 

「銃刀法違反って言葉知ってるか? そんなもん持ってたら捕まるだろ」

 

「……では、昨日あなたが持っていたのは何?」

 

彩人は折紙の意図を察して顔をしかめた。彩人はあくまで知らない体を装うように言葉を返す。

 

「何の話だ? 昨日そんなものを持ってた覚えはないぜ」

 

「とぼけても無駄。昨日あなたが学校で私たちと戦った映像もある。それに、あなたは私に名前を呼ばれて返事をしていた」

 

「人違いじゃないのか? 同姓同名で顔の似てる別人ってこともある。よくある顔と名前だ」

 

勿論、これで言いくるめているつもりなどない。これは単純に『そんなことを真剣に議論するつもりはない』という意思表示だ。

 

「それとも、俺がお前の言ってた『精霊』って奴だと決まりでもしたのか?」

 

「それはまだ。けれど、あなたが精霊に次ぐ危険人物だとは殆ど決まっている」

 

「だったら上層部にこう言っておいてくれ。『その男とよく似た顔をしてる来禅高校の男子生徒は全くの無関係だから間違えて攻撃するな』って。

まかり間違って夜道で殺されるなんて御免だからな」

 

折紙の目が細められる。あくまで違う人物だと貫き通すつもりなのか、と。

 

「……少し話しすぎたな。俺はもう行くから、お前も寄り道せずに真っ直ぐ自分の家に帰るんだな」

 

折紙の脇を通りすぎてその場を後にした。

背後から彼女の鋭い視線を感じたものの、彩人は無視して先へと進む。

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

「どうだった? お前を殺そうとする奴なんかいなかっただろ?」

 

士道と十香がデートして数時間。夕日が空の向こうへと沈もうとしている頃だった。

二人は高台からの景色を眺めながら今日のことを振り返っていた。

 

「ああ……今日初めてわかった」

 

十香も最初より幾分か和らいだ様子で士道と見つめ合う。

 

「私は、この世界に現れる度にこんなにも美しいものを壊していたんだな」

 

十香が儚げな表情で士道から街の景色へと視線を移す。

 

「だけど、それはお前の意思じゃ……」

 

「わかっている。どちらにしろ、私にはどうしようもないことだからな。

だが、これであのASTとやらが私を殺そうとしてきたのも納得できた。

当然だ。私がいない方が皆が幸せになれるのなら、至極真っ当だと思う」

 

まだ孤独さや自己嫌悪の残る十香の姿に士道はたまらず声を上げる。

 

「今日は空間震が起きてねぇだろうが! それさえなかったら、お前が殺される理由なんかなくなる!」

 

「……ッ、今度もそうなるとは限らないぞ。向こうに帰ったらまた――」

 

「だったら帰らなきゃいいだろ! ここにいて、皆と同じように暮らしていけばいいんじゃないのか!」

 

十香の目が見開かれて戸惑いの色を見せる。十香は動揺しながら「だが……」と返事をする。

 

「私はこの世界について何も知らないぞ。生きていく上で必要なものも、揃えられるかわからない」

 

「そんなもん俺が何とかしてやる!」

 

「予想外の事態でも起きたら……」

 

「そんなもんは起きてから考えればいいだろ!」

 

十香は士道の言葉に少しずつ目元を潤わせていく。

僅かに考えるような仕草を取って、口を開いた。

 

「きっと、そんな風に言ってくれるのはシドーだけだぞ。ASTも、他の人間も私のことを拒絶するに決まっている。

それでもシドーは、私に生きていてもいいと、そう言ってくれるのか?」

 

「当たり前だ!」

 

士道は喉が潰れんばかりに大声でそれを肯定した。

十香の不安を、心配を消し去るがごとく。

 

「誰がどんなにお前を否定しても、俺はそれよりずっと強くお前を肯定してやる!」

 

士道は右手を十香に差し出す。

 

「握れ! 今はそれだけでいい!」

 

十香は晴れやかに笑いながらその手を取る。

 

 

はずだった。

 

 

「――!」

 

士道の正面。十香の背後だ。

自分達のいる高台よりも上の足場に光る点があった。それが何なのか判別に一瞬時間を要したが、直感的に士道はそれを理解してしまった。

その光る点にある黒い影に。そして、十香の背後を狙うような位置取りに。

士道の直感が、嫌な感覚がそれの正体を導き出す。

 

(スコープの反射光――!!)

 

士道は考える間もなく十香を突き飛ばしていた。十香は突然のことで反応できずに地面に尻餅をついてしまう。

 

その刹那、士道の脇腹を凄まじい衝撃が襲った。立つこともままならず地面に仰向けに倒れる。

痛いとか、苦しいとか。そんな感覚はなかった。死の感覚を、とても身近に感じる。

 

士道の意識は薄れ、やがて視界が真っ黒に染まった。

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

「琴里……士道がッ!!」

 

『わかってるわよ、こっちでも確認したわ……』

 

彩人は士道と十香を陰から監視していた。その過程で士道が腹を大きく削り取られ、倒れていく一部始終を見ていた。

すぐに士道の元へ駆け寄ろうとしたが、琴里から通信が入り、今は彼女に報告をしている。

 

『彩人、心配しないで』

 

焦りに満ちていた彩人の心中を察したのか、琴里が冷静に説明してくる。

 

「心配するなって、どういうことだよ?」

 

『士道はこれくらいで死んだりしない。治り次第十香のところに送るから、それまでどうするかわかるでしょ?』

 

「……本当に大丈夫なんだろうな」

 

腹に重傷を負って瀕死になっている士道に対しての琴里の信頼が何処から来ているのか、彩人にはわかりかねた。

彩人の不信感を含んだ言葉に琴里は少しだけ間を置いて答える。

 

『私が何の措置もなしに自分の家族を見送るとでも思ってるの?』

 

「………」

 

今までの余裕さが少し揺らいでいる。彼女は決して士道をないがしろにしているわけじゃない。むしろ、士道のことを心から気にかけている。

そうとわかれば、琴里にも何らかの策があるのだろう。

 

「士道が回復して戻ってくるまでどれくらいかかる?」

 

『数分あれば大丈夫よ。だからそれまで――』

 

「あのお姫様を抑えてろ、か?」

 

『……お願いするわ』

 

「委細承知」

 

彩人はインカムの通信を切ると、左手に『天使』を顕現させる。

 

「翔ろ、〈天舞黒刀(アザゼル)〉」

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

十香は地面に横たわる士道を光のない眼で見ていた。絶え間なく血を流し、指先一本すら動かせなくなってしまった彼を。

もしかしたら、自分を救ってくれるかもしれなかった彼を。

 

「シドーとなら、もしかしたら……できるかもしれないと――生きられるかもしれないと、そう、思っていた」

 

叶わなかった。そんな淡い期待も、思いも。

世界は簡単に踏みにじった。現実を突きつけた。

 

「世界は――私を、否定した……!」

 

今の十香に考えられることはただ一つ。士道を殺した奴を、殺す!!

 

「〈神威霊装・十番(アドナイ・メレク)〉!」

 

精霊の身を守る絶対の装備。彼女の精霊としての力をその身に纏う。

 

「〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!!」

 

十香の立っている地面から巨大な玉座が出現する。十香は玉座に刺さった大剣、彼女の天使である〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を引き抜いた。

 

「【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】!!」

 

十香はさらに手に持った剣で玉座をバラバラに切り裂く。切り裂かれた破片は剣に纏わりつき、その一部へと姿を変えていく。

全長十メートルはあろうかというほどの巨大な剣。

 

「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもッ!!」

 

自分の親友を、自分を肯定してくれた彼を殺した者に対する全身全霊。

 

十香は自分の姿を見て言葉を失っている『標的』に剣を振るう。たった一太刀だけで斬撃は広大な足場を両断した。

 

十香を前にして、もはや逃げることすらままならなくなった少女を見下ろす。

 

こいつが、シドーを――

 

(ころ)して(ころ)して(ころ)し尽くす。()んで()んで()に尽くせ」

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

鳶一折紙は、目の前の光景を受け入れられなかった。ASTから狙撃許可が下りて、つい先程士道と一緒にいた精霊〈プリンセス〉を仕留めたと思った矢先、士道が彼女を庇って殺されてしまった。

自分の大切な人を自分が殺してしまったことに、彼女の思考は追い付かなかった。そうしている内に精霊は真っ先に自分を殺しに現れた。

 

(私は……人を、殺した)

 

精霊を殺し、もう二度と自分のような人を生まないためにもと、必死で技を磨いたのに。

その結果は、自分の好きな人を殺した。

 

(精霊と……同じ――)

 

折紙の失意とは裏腹に精霊はその手に握った剣を振るう。折紙が展開させていた〈随意領域(テリトリー)〉が一撃で破られ、地面に背中から倒れこむ。

 

「終われ」

 

折紙が〈随意領域(テリトリー)〉破壊の余波で身動きがとれないところに、追撃がかかる。

間違いなく、次の一撃を受ければ自分の身体は粉々にされる。

 

「シドー、今、仇を――」

 

精霊の剣が空を裂き、折紙の身体へと届く。

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

「やめろ、十香。やりすぎだ」

 

精霊の一撃を刀で受け止める金髪の少年が、そこにいた。

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

「貴様……何のつもりだ。何をしに来た?」

 

「お前を止めに来たに決まってる。剣を下ろせ」

 

「邪魔をするな!!」

 

十香の剣が振るわれ、彩人は地面に靴裏を擦らせながら後退する。以前彼女と斬り結んだときとは明らかに違う。

以前の彼女の虫を追い払うような雰囲気は消え失せ、明確な殺意が溢れ出ている。

 

(これは……まずいな)

 

彩人の頬を汗が一滴伝う。下手をすれば彼女は自分を殺しにかかる可能性が出てきたからだ。

 

「鳶一、さっさと離れろ」

 

「……でも」

 

「いいから! 庇ってやれる余裕はないんだ、早く行ってくれ」

 

折紙は重い足取りで武装を展開させ、空へと飛び立つ。

彩人は十香を牽制して何とか折紙が離れる時間を稼いでいたが、二人だけになった途端に十香が怪訝そうな顔つきで睨んできた。

 

「貴様、よく見ればあのときの……シドーと一緒にいた男だな」

 

「覚えてたのか、なら話は早い。聞け、十香。

鳶一が士道をあんな目に遭わせたのは事実だ。だけど――だからって、殺したら駄目だ」

 

彩人はひとまず説得を試みるが、十香の心にはそんな言葉は届いていない。

十香は歯軋りしながら剣を横凪ぎに構え、彩人に斬りかかる。

 

「貴様は……!!」

 

「ぐっ……」

 

彩人は刀で十香の剣を受け止めた。しかし、一撃の威力が通常と全く違う。骨まではいかないが、刀を握る手がビリビリと痛む。

 

「貴様は、シドーの仲間ではないのか!?」

 

「……仲間だよ。まだ一ヶ月も経ってないけどな」

 

「だったら! 何故貴様はそんなに平然としていられる! あの女はシドーを殺したのだぞ! あの女を殺すことの一体何が悪い!? 私があの女を憎むことが、殺したいと思うほど恨むことの何が間違っている!?」

 

十香は叫ぶ。彩人は叫ぶたびにその長大な剣【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】による斬撃に見舞われる。

如何に精霊の力を使用できる彩人でもこの攻撃を捌ききれるわけがない。来禅高校の制服が所々傷付き、肩や足に血が滲む。

彩人は息を切らしながら口を開いた。

 

「悪くはないな、確かに」

 

「何?」

 

「だけど、士道はそんなお前を肯定してたのか?」

 

「……っ!」

 

十香の斬撃が止まる。自分の心にあった淀みを探られたような、そんな顔をして。

 

「確かに、鳶一は間違いとはいえ士道を傷つけた。それにお前が怒るのも当然だ。殺したいと思うほどにな。

そうだとしても、士道はお前にこんなことを望むと思うか? 自分の仇を討って、またお前が孤独に苛まれることを。命を狙われ続けて、普通の暮らしを奪われるお前を」

 

十香は何も言えずに顔を俯かせる。

 

「お前が会って、過ごしてきた士道は、今お前の心の中で笑ってるのか?」

 

「……まれ」

 

十香が剣を強く握り、上段に振りかぶる。

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇ!!」

 

彩人は攻撃を察知して後退したが、降り下ろした剣から放たれた斬撃は地面を割り、彩人へと迫る。

 

龍巣閃(りゅうそうせん)(がらみ)!!」

 

神速の乱撃術、龍巣閃の派生技。全体ではなく、一点を集中しての斬撃で相殺する。

十香も渾身の一撃を放っての反動か、肩で息をしている。

 

「もうシドーは死んだ! 殺された! 私は戻るしかないのだ! またいつもの如く戦うしかない! だったらもうそんなことに構っていられるものか!!」

 

十香は目に涙を溜めながら声を上げる。彼女の心の拠り所を失った悲しみ、彼女からそれを奪った者への憎しみが綯い交ぜになっている。

彩人は軽く深呼吸を繰り返すと、十香の後ろの空を指差す。

 

「そう言うなよ。お前を助けようとしたお人好しが、やっと戻ってきたんだから」

 

「……! あれは!」

 

そう。空だ。士道をフラクシナスが回収した後、どういうわけか空中に転送されたらしい。琴里の仕業か。

十香は剣を持ったまま空へと飛び上がって士道を受け止める。

 

彩人は右耳のインカムの通信を入れて、士道に繋げる。

 

「士道。ほら、ようやくお姫様を助けるチャンスが巡ってきたんだ。格好よく決めとけよ」

 

『なっ! そんな簡単に言うなって! 色々心の準備とか……』

 

インカム越しに士道の恥ずかしげな声が聞こえてくる。彩人は悪戯っぽく笑いながら刀の切先を滞空中の士道たちに向けた。

 

「十香を助けるって決めたんだろ? だったら早くしろよ、例のアレ」

 

 

 

『……わ、わかったよ! 十香! 俺と……その、キスしよう!』

 

 

 

遠目ではあったが、彩人のいる位置からでも十香と士道が互いの唇を合わせたのがわかった。

 

その瞬間、十香の剣が砕け散り、彼女の纏っていた霊装が光の粒子へと変化していく。

そして、ゆっくりと元いた高台の公園に着地する。

彩人はそんな二人を見守りながら刀を鞘に納める。

 

「士道、長かったな。お疲れ様」




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