この話から第1章が始まり、物語が動いて行きます。
楽しんで貰えたら幸いです。それではどうぞ!
過去のキオク
黒崎 真白side
気がついたら私はどこかの家の廊下に立っていた。
「ここは・・・? 私は学校にいたはずなのに・・・。それにしても、ここって・・・。」
周りを見回すと見覚えがあった。
ここは12年前、私がおじいさんに引き取られる前まで実の両親で暮らしていたアパートの部屋の廊下だった。
廊下を進むと、明かりの漏れている部屋が見える。確か居間だった場所・・・。
「・・・! 女の子・・・!」
ドアを開けると、中には幼い女の子が1人横たわっていた。
「たいへん! 助けないと!」
女の子に触ろうとするが、手が女の子をすり抜ける。
「え!? 触れない!? なんで!?」
幾ら触ろうとしても私の手は女の子をすり抜ける。
『おとうさん、おかあさん、いつかえってくるの? ましろ、おなかへったよ。』
「!」
目の前に横たわっている女の子の口から弱々しい声が聞こえてきた。
その声で気が付く。女の子が昔の私だという事に。
という事はこれは私の過去の記憶なのだろう。
私がまだ黒崎 真白でなく、岡 真白だった時の、しかもこれは両親が亡くなった時の記憶だ。
「え? わっ!」
突然床に横たわっていたわたしが起き上がり、私は彼女に押し倒され手首を固定される。
5歳児の短い手で押さえ付けられているせいで顔は触れてしまう程近かった。
乗っているわたしを退かそうと腕を動かすが、ピクリとも動かせない。12歳も離れている筈なのに・・・。
『あなたの予想通り、この夢は12年前の記憶よ。ここにいるわたしはまだ幼く、両親があの事故で死んだ事を知らずにこの部屋で独り2人を待ち続けていた、何も出来ないわたし。』
過去のわたしは真っ直ぐ私の眼を見て語りかけてくる。
『でも真白、あなたはわたしと違うでしょ? 何で行動しないの? また、誰かに助けて貰うのを待っているの?』
「! そ、それは・・・。」
彼女の言葉に私は動きを止めた。
『“あれ”の事が怖いの? そうよね、噛まれたら“あれ”になっちゃうんだものね。でも思い出して、葵さんや音緒さんよりは短いけど、あなたもあなたのおじいさんから戦う方法をちゃんと教わっている事を。』
「・・・そんなの知らない。」
私は過去のわたしから顔を背けた。
『・・・仕方ないわね、わたしの力を少し貸してあげる。』
「痛っ!」
頭痛が走った。そして強烈な睡魔に襲われる。徐々にぼやけていく視界で、私はその睡魔に抗うことが出来ず眠りについた。
1日目 6時00分
「う、うん・・・?」
薄い意識の中、太陽の光を感じて私は瞳を開ける。
そこは私の部屋ではなく2-Bの教室だった。途端に昨日の事を思い出し、急いで窓辺に寄る。そこには既に登校している“かれら”の姿があった。
「そっか、夢じゃなかったんだ。・・・夢? 何かの夢を見た気がするけど・・・なんだったっけ?」
なんかとても大切な、懐かしい夢だったような気がするけど・・・。
「・・・ん?」
手首を見ると、そこには小さな手で掴まれていたような痕があった。
その痕を見た瞬間、私の中でカチャリと、何か鍵を開けるような音が聞こえた。
若狭 悠里side 8時25分
「朝か・・・。」
チャイムの音が聞こえ、コンクリートの床にブルーシートを敷いただけの簡易な寝床で目を覚ました私は周りを見渡す。
そこは普段園芸部で活動する時に使っている、学校の屋上だった。
視線を周りから左右に向けみんなを見るが、まだ誰も起きておらず寝息を立てていた。
私は枕元に置いてある携帯を取り、画面を点け時刻を確認すると、みんなを起こさないように音を立てずブルーシートから出ると、落下防止柵まで行き、そこに寄り掛かる。
視線を遠くの方に向けると、煙を上げている建物がちらほらあり、視線を下に下げると、校門から次々と“かれら”が入って来るのが見えた。
「・・・そっか、やっぱり夢じゃなかったんだ。」
その光景に私は肩を落とした。
昨日起こった事は全て夢や幻覚で、いつも通り家の布団で起き、お父さんとお母さんとるーちゃんと私の4人で朝食を食べて学校に行く。そんないつも通りの日常が始まるのかとどこかで思っていた。
でもその日常はゾンビのような“かれら”によって一瞬で壊れてしまった。きっともうあの日常は戻っては来ないだろう。
「・・・真白さんごめんなさい。」
私は昨日騒ぎが起こる直前に屋上を出て行った後輩の名前を呼び、謝罪の言葉を述べた。
今、あの子の安否は分からない。
もし彼女が“かれら”になっていたら、私は死ぬほど自分を責めるだろう。自分が殺したのと同じなのだから。
ダンダン! ダンダン!
「!」
突然屋上の叩く音が屋上に響く。
その音で眠っていた他のみんなが飛び起きた。
「「「・・・・。」」」
私達は目配らせをして、武器を持っている恵飛須沢さんを先頭にロッカーや洗濯機で塞いである扉に近付いていった。
黒崎 真白side 8時20分
いつからだろう、“かれら”のどこを狙えば“かれら”を殺せる事を知ったのは・・・。
いつからだろう、“かれら”を殺しても何も感じなくなったのは・・・。
いつからだろう、この身体がまるで“かれら”を殺す機械のようだと錯覚し始めたのは・・・。
目の前にいる腐り脆くなっているヒトの頭と右胸にそれぞれ刺さっている棒を無理やり抜き取る。
元は掃除用のT箒だったそれは、既に穂体部分は壊れ取れてしまっており、青色だった柄の部分はどっぷりと奴らの血が付いていた。
私は棒となった箒を2,3度振って付着している血を払ってから、近くに置いてあるテニス用のバックにそれを入れる。
バックの中には十数本もの箒が入っており、その半分も既に穂体部分が取れ、棒となっていた。
廊下にいる“かれら”に刺さっている全ての棒をバックに入れた所で、それを肩にかけた私は後ろを振り向く。
そこには廊下のあちこちに絶命した“かれら”が転がっていた。
その数は既に10を超えており、廊下の床一面に“かれら”の血が広がっていた。
廊下にいる“かれら”は私が今まで殺してきたモノたちだ。私が生き残るために一方的に。彼らもある意味被害者だというのに・・・。
そう思っていると、チャイムが廊下に響き渡る。その瞬間、2つの不思議な事が起きた。
1つ目は、私の中で、さっきまで何も感じなかった筈の“かれら”の事を怖いと感じ始めた事。
そして、その“かれら”が次々と1階から上がって来た事だ。
今までなら3体位なら纏めて来てもなんとかなるが、今パッと数えただけでも10体はゆうに超えていた。
その数を相手にするのは無理だと判断した私は、中央階段を上がり、拠点としている2-Bの教室に戻ろうとしたが、私が2階にいる間に北側の階段から3階に上がっていたのか、既に階段を上がってすぐの所まで“かれら”が来ていた。
仕方なく階をもう1つ上がって行くと、踊り場で向きを変えた時に、下からのろのろと“かれら”が付いて来ているのが見えた。
私は階段を上り切り、屋上に続く扉のノブを回すが、
「! どうして開かないの!?」
幾らノブを回しても、扉を押しても向こうにある何かで妨がっている為、扉は開かなかった。
ア゛ア゛ア゛ア゛ーー!
後ろから聞こえる“かれら”の呻き声。振り向くと、“かれら”は既に踊り場にまで来ていた。
「! 誰か、誰かいませんか! 開けて下さい!」
必死に扉を叩きながら声を出していると、向こうから何かを引きずる物音が聞こえ、ガチャリという音と共に扉が開かれ、紫色のツインテールの髪の少女が現れる。
「! 早く!」「わっ!」
その少女に手を引っぱられ、その反動で床に転がる。
顔を上げると、鍵を閉めた扉を必死で押さえている3人の姿の中に見知った顔があった。
「若狭先輩!」
「・・・! 真白さん! 良かった無事だったのね!」
「先輩こそ無j」「話は後にして、扉押さえろ!」
ツインテールの少女から浴びせられた激で再開の喜びを一旦中断し、私も含めた5人で扉を押さえはじめた。
“かれら”が去った後、改めて屋上を見渡すと、先輩とツインテールの少女の他に後2人、生存者がいた。
その2人は私が屋上を出る時にすれ違った2人だった。ただ、その時とは違い、女の子は佐倉先生から離れようとはしない。
・・・彼女達4人の他には生存者はいないようだ。ただ、落下柵の近くに一体の“かれら”となった男性の死体が横たわっていた。
「・・・・。」
「・・・真白さん、ごめんなさい。」
「え?」
いきなり若狭先輩からの謝罪に、周りを見ていた視線を若狭先輩に向けると、先輩は俯いていた。
「・・・何故、謝るんですか? 先輩は私に何かしましたか?」
「だって、私があなたを屋上から・・・。」
顔を上げた先輩の目尻には涙が溜まっていた。
「音緒の事で構われるのはいつもの事でしょ? 今回の事は誰にも予想出来なかった事です。私が出て行った時に運悪く今回の事が起こっただけ。だから先輩のせいじゃありません。もちろん誰のせいでも。」
今回の事は運が悪かっただけ。だから、先輩には自分を責めて欲しくなかった。これが私の気持ちだ。
「・・・でも」
しかし先輩はなおもぐずっている。ので私は強行手段に出る事にした。
「もう! 私は先輩と再会出来て嬉しかったのに、先輩は私との再会を喜んでくれないんですか? もしそうなら怒りますよ。泣きますよ。拗ねちゃいますよ。言っときますけど私、一度機嫌悪くすると長いんですからね!」
自分でも引く位子供っぽい態度を取ると、漸く先輩は微笑んでくれて、「・・・真白さん、ありがとう!」と、言ってくれた。
その後私は屋上の物陰で若狭先輩から“かれら”に噛まれていないかどうか身体検査を受け、そのついでに身体を拭き、制服に着替えた。
身体を拭いた時に気が付いたのだが、ここの水道は生きていたので血の付いた体操服とジャージを水洗いした。
服を干した後、私は荷物から携帯を取り出し画面を点けると、音緒からは何通も不在着信が来ていたが、お姉ちゃんや圭や美紀からの連絡は無かった。こっちから連絡を取ろうにも、既に圏外となっていた。
真白がめぐねえ達と合流しました。
次も真白sideの話です。
箒の残数:20本