FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫ 作:ふゆー
①ビサイド島
機械文明が最も発達していた時代。
二つの都市国家の思想は互いに溝が埋まることなく、ついに戦争にまで発展しようとしていた。
互いの都市は機械技術を殺戮のために磨き、前代未聞の巨大な戦争が起ころうとしていた時節。
二大都市国家のひとつがここに存在した。
都市と呼ぶにはいささか技術の桁が違いすぎる機械文明の謳歌した都市。
巨塔のようにそびえ立つなだらかな曲線を描く建物の群像が彼方まで続いていた。
幾重にも連なる巨大な建造群はどれもが眩いばかりの光を放ち、真夜中の機会都市を照らしていた。
世界は闇一色の静寂さに浸っていたが、その都市だけは煌々とした光に満たされていた。
夜空にあるであろう星たちは都市の光に追いやられるかのように、その姿を見ることはできない。
深夜だというのに昼間のような明るさを誇る街並みの中で、人々は日常を楽しんでいた。
仲間たちで笑いあい、生活を楽しみながら暮らし、多様多種のエンターテインメントに没頭し、時間を忘れ、日常の区別を忘れていく。
戦争に突入しようとしているこの時期であってもだ。
この都市には昼夜の区別もなく、街も人も眠らない。
眠ることを忘れてしまったかのような人々の生活とリズム。
いつしかこの都市はこう呼ばれるようになった。
“眠らない機械都市 ザナルカンド”
都市の光がおぼろげに反射する真夜中の海。
月光が海中に鮮やかに降り注ぐ。
白銀の月が水面に鮮やかに写り込み、波の揺れる様とともに朧げにうつろいでいる。
星々の輝きを写すかのように海面には小さな輝きが溢れていた。
ゆるやかで心地よい波の音色。
半身が海に浸かるティーダに小刻みな波が押し寄せる。
伸びた髪や、右肩から手の甲、そして人差し指まで流れる黒い羽織などの水滴が光り輝く。
「ずるいよな‥」
ティーダは横一線につぐんでいた口を開いた。
「見せたかったんだろ。わからせたかったんだろ」
水面に反射する光が、強い意志を秘める瞳にうつっていた。
「答えろよ‥!?」
ティーダは勢いをつけて振り返った。
バンッ。バンッ。
どこまでも澄みきった青空を切り裂く音とともに花火が弾け、いくつもの閃光が彩りをみせる。
一瞬の光は、名残惜しむことなくすぐに消えていった。
煙は優雅に遊ぶように舞いながら薄れ消えていく。
ルカの中央広場には人々が入り混れ、雑多に押し合いあいながら歩いている。
人同士でもまれながらも行き交う人々は賑やかに盛り上がっていた。
歩きながら、飲食を行う者もいる。骨つきの肉。カップに注がれたアルコール類。カラフルな色づけをされたお菓子。みな、それぞれに様々な食べ物を持ち歩きながら食べている。
盛大な祭りのような有様に、みな浮かれていた。
今は一大イベントの真っ最中である。
その最中、雑踏の中を掻き分けて歩くティーダがいた。
眼前に見えてくるのはブリッツの試合が行われるスタジアム。
遠目からでも一目でわかるほどの大きさを誇るこの街のシンボルとも呼べる存在であった。
三年前と変わらない目の前の景色に、ティーダは嬉しさがこみ上げる。
ティーダは微笑ながらスタジアムを見た。
スフィアプールに満ち満ちている水が、陽の光で乱反射をして煌めく様をみせる。
眩しそうに目を細めるティーダ。
その後方で黄金色の髪、小麦色の肌をした青年はティーダを眺めながら歩いていた。
顔の彫りは深く凛々しい表情をしている。
ティーダと青年の頭上にある陽の光が一瞬だけ陰った。
ティーダたちは陰ったことに気づかずに界隈を歩いて行く。
二人の頭上に雲はない。
陰の正体は飛空艇であった。
ルカの上空を、巨大な飛空艇が通過していった。
その飛空艇は特徴のあるフォルムをしており、機械仕掛けの動力で飛んでいた。
飛空艇後方部を構成する黄金色の円盤が大きな特徴を生む。
円盤の中にさらにもう一回り小さい円盤があり、それが時計回りに回転をしていた。
飛空艇下部には二基の武装兵器が搭載されている。
白と淡い紫を基調とした曲線型の外層が太陽の光に照らされ輝く。
アルベド族が三年前に海から発掘した代物で、かつてシンとの『最終決戦』のときに突入したとされる飛空艇。
地上からは飛空艇が手のひらサイズの大きさに見える。
ルカにいる人々は、ほとんど気づかずにいる。
飛空艇の窓には女の子の姿があった。
立て肘をつきながら外の様子を覗いていた。
女の子の金色の前髪は編み込んであり、そしてロングの髪は右後方でひとつにふわりとまとめられている。
顔を動かすと、軽やかに金の髪が楽しそうに揺れる。
女の子はアルベド族が好んで着る、体に密着するタイトな服を着ており、しなやかな細身のスタイルが見て取れる。
その女の子は何を考えるわけでもなくぼうっと退屈そうにルカの街並みを眺めていた。
《今年の開幕決勝戦、もう目が離せません!後半戦になって・・おおっと!?また、やってくれましたーーー》
興奮するアナウンサーの声がスタジアム内に響き渡る。
スタジアムを包み込む割れんばかりの歓声と抑えきれない人々の興奮。
笛や太鼓、様々な打楽器、菅楽器の音が我先に天高々と鳴り響き、混在した音たちがいよいよ収集がつかなくなってきている。
観戦者たちは一様にみな興奮していた。
目を見開く者もいれば、あまりの驚きで固まる者。
席を立って声が枯れるまで応援する者も数え切れないほどいる。
盛り上がりは佳境を迎えていた。
コツコツ‥。
スタジアム会場に続く薄暗い廊下を歩く一人の女性がいる。
一定のリズムを刻みながら高く澄んだ足音を奏でる。
静かに一歩すつ、だがしかし確かに踏み出すその足取りには強い意志が感じ取れた。
青の紐で結わえ、丸みの帯びたビーズの耳飾りがしゃらりと揺れる。
中央から左右に流れる艶のある長い前髪。
髪の間からのぞく清潭な顔にはかすかな緊張が滲んでいた。
左右の色彩が違う綺麗な瞳。いまはその目がきりりと鋭く潤んでおり、張り詰めた様相が見え隠れする。
期待、そして不安に怯える色がその瞳に映る。
彼女の中で相反する感情が綯い交ぜ(ないまぜ)となっていた。
彼女が着ている振袖のような和装の服には左肩だけなく、そこからきめ細かい滑らかな肌が見える。
その決意の瞳はスタジアムから射しこむ一筋の光にまっすぐ向けられていた。
青一面の透明な世界。
冴え冴えとした果てしなく青の世界の中で沈黙が続く。
透き通った淡い光が海中の遥か奥まで照らし出していた。
光が屈折し無音で静かに揺らめく様がずっと続いている。
どこまでも続く音のない世界。先の先までずっと見通せるほど澄み切った海を沈黙が支配していた。
そして光届かぬ深海は、一面の闇の中で虚無が満たしている。
ボコッ。
それはすぐにかき消えそうなほどの微かな音であった。
無数の泡が水面を目指して上昇していく。
海面から射し込む光の中をくぐりながら、泡は光を目指し突き進んでいく。
ブリッツの試合は、クライマックスを迎えようとしていた。
天まで響かんばかりの大歓声。
スタジアム全体が揺れているのではないかというくらい人々の熱気と歓声が凄まじく、止まることはなかった。
興奮の渦中にあるスタジアム中央付近。
エボン兵たちの警護の中、一人の女性が試合を観戦していた。
紫と水色を基調とし高貴な雰囲気を漂わせるエボン僧官の服を着た若い女性。
左に髪をまとめており、束ねた髪の間から見え隠れするように尖った耳がうかがい見える。
右の髪は耳にかけており、その耳は人間と同様に丸みを帯びた形をしている。
彼女が興奮で立ち上がった瞬間、長い髪を束ねる大小いくつもの真珠を連ねた髪飾りが凛と輝いた。
束ねられた髪が跳ねるように揺れる。
彼女は、我を忘れて試合に魅入っていた。
スタジアムへと続く薄暗い廊下にいる青の耳飾りをした女性は何かを感じ取り、静かに振り返る。
ロングのスカートが流暢に流れた。
海中。
長い長い静寂が時を支配していた。
終わらない静寂が、永遠を暗示させる世界。
それを裏切るかのような変化があった。
淡く発光する玉が見える。
永遠が鳴り止む瞬間であった。
漂う海中の水底に8つの幻光虫が集い出す。
戯れるように幻光虫たちは円を描き出す。
ルカのブリッツスタジアムから少し離れた路地裏。
ここにも試合の歓声は聞こえてきた。
観客たちの熱がここまで伝わってくるほどのすさまじい熱気がスタジアムから流れてくる。
暗がりの路上に立つ長衣を着た黒髪の青年。
寡黙な雰囲気をもつ彼は手もとを見ている。
スタジアムから聞こえてくる歓声は遠い響きとして彼のもとにも聞こえていたが、特に関心を示す様子はなかった。
青年の手に持つひび割れた小さなクリスタルが虹色に光り、手もとが鈍く光る。
青年の顔も若干照らされた。
その真剣な眼差しはすがるように虹色のクリスタルを見つめるばかりであった。
黄昏のような感情が黒髪の青年を過る。
ここは全てが朦朧とし曖昧で、永遠の静けさが漂う空間。
ずっと長い間、意識はあるが眠っていたかのような感覚が続いた。
時間がどれだけ経ったのか検討もつかず、そしてそのことすら忘れてしまいそうになる。
だがしかし、ひとつの変化があった。
そのきっかけは一筋の光のようなものであった。
意識に直接語りかけてくるかのように、かすかなこだまが響いてくる。
遠い世界から響いてくるかのような淡い響き。
「1000年前から来た・・ってか」
「誰も・・代りにはなれない」
「ユウナを守れ!」
「また、会えるんだよね?」
「キミと・・会えて良かった」
次々と語りかけてくる記憶の断片と言葉たち。
それらは確実にひとつの感情を揺さぶった。
そして
『他の誰でもない。これは、お前の物語りだ!』
稲妻の如く衝撃が貫き、止まっていた衝動が動き出した。
くすぶり続け錆びていたものが一気に燃え上があがり、物語が今ふたたび始まりを告げた。
ボココッ‥。
海中で8つの幻光虫は戯れるように環を描きながら、寄り添い出す。
それらしばらく優雅に舞いながら、ひとつの輪郭をおぼろげに形作り、そしてそれはうずくまる人の形となった。
その人物は微笑みながら目を閉じている。
眠っているかのように水中にうずくまり現れた彼は、目を開き水面へと浮上した。
泡沫(うたかた)の長い夢から醒めるように意識が蘇ってくる。
鳥のさえずりがくすぐったく聞こえてきた。
うっすらと飛び込んでくる柔らかい光が瞼の内へと流れ込んでくる。
芳しい木々の匂いがやたらと鼻についた。
まぶしくて思わず目を細めてしまうが、すぐにこの明るさに順応した。
「ここ‥は」
1000年前のザナルカンドから来た青年。
かつてシンとの大戦で、シンと成り果てた実の父親を倒し、そしてエボンジュをも倒し、そして自らも夢の存在として消えるという物語を辿った人物。名はティーダ。
その目に映るのは、鬱蒼と生い茂る青々とした森の景色であった。
太陽は高い位置まで昇っている。
聞こえてくるのは木々のざわつきと鳥のさえずむ歌のみ。
混濁としていた思考が次第と明晰になってきた。
寝転がった状態からゆっくりと起き上がるティーダ。
ぼんやりとしながら周りを見渡す。
そこは暖かな日差しが森の中に流れ込んでくる場所であった。
その風景以外に特に目立って新しいものは見当たらない。
近くには誰か他にも寝泊まりした形跡が残ってるが、しかし今は近くに人のいる気配はなかった。
ここにいるのはティーダ独りである。
ティーダは何度か深呼吸をして、大きく背伸びをする。
森の新鮮な空気が肺の中に流れ込んでくる。
ティーダはゆるやかな足取りで森の中を歩き始めた。
草木を掻き分けて進む。
しばらく歩くが景色はずっと緑一辺倒で特に変わる様子はない。
まだ頭がぼうっとしているせいか無心で歩き続けるティーダ。
ふと我に返り、今来た道を振り返る。
落ち着いてあたりを見渡すとティーダは異変に気づいた。
気づけば森のなかは不気味なほど静まり返っていた。
先ほどまでの鳥の歌声は今はどこにもない。
明るかったはずの森のなかも、どことなく暗く感じた。
不穏に揺れる草木の音。
ティーダは音のした方を見るも、生い茂る草木が邪魔をして、その先を見ることができない。
耳を澄まし警戒をするティーダ。
その先にいるはずであろう何かを凝視する。
「!?・・」
大地が震えたかと思ったその瞬間。
突如として草葉を撒き散らしながら、大きな影が飛び出した。
大地を踏みしめ土煙をあげながらそれはティーダの正面に来る。
耳をつんざく野太い獣声。
足から飛び出る爪も人間の腕ほどもある。
ティーダの眼前に現れたのは巨大な狼の魔物であった。
その巨体に驚き戸惑うティーダ。
「な‥」
魔物を見上げながらティーダは
「でけぇーー!」
渾身の声で叫ぶ。
身の丈はゆうに人間の2倍以上の大きさを誇っている。
短剣の如き鋭利な牙を剥き出しにする巨大な魔物。鈍く凶悪な光を放ち、ティーダを威嚇する。
獰猛さを帯びる瞳はティーダを獲物としてとらえていた。
荒ぶる咆哮をあげる魔物。
魔物のあまりの大きさにティーダは圧倒され、後ろへ数歩踏み下がった。
咄嗟に武器になるような物がないか周囲を見渡す。
しかし森の中には枯れ落ちた木の枝程度しかなく、到底武器になるような物は見つからなかった。
魔物が一歩踏み出した。
牙を剥き出しにして襲い来る魔物。
「待っ・・」
ティーダの言葉が途中で切れる。
ひと蹴りでどんどん加速を増し、ティーダを噛み切ろうと牙が迫ってくる。
ティーダの本能が危機を察知し、身体が硬直する。
それでもその身を奮い立たせ、身を翻し転がり避けるティーダ。
間一髪のところで魔物の牙をかわす。
魔物が通り抜けた勢いで突風が巻き起こった。
軽く飛ばされそうになるティーダ。
魔物は軽い身のこなしで反転しティーダを見据えた。
巨大な魔物は再び走り始めた。
執拗にティーダを追い回す。
魔物は動きがとても素早く、ティーダは走って逃げるも振り切ることが出来ない。
全速疾走で走るティーダ。
草木をへし折りながら追従してくる巨大な魔物。
後ろを振り返りながら走るティーダは目の前の石に気づかずつまづき、前のめりによろけた。
前のめりに体勢が崩れるティーダ。
その隙を逃さない魔物は一気に迫り太い腕を振り上げた。
魔物の目がギラつく。
指の間から人間の腕ほどもある爪が飛び出した。
無防備な体勢のティーダには避ける術がない。
魔物の腕が急速降下する。
狙うはティーダの背中。
ティーダの脳裏に絶望がよぎった瞬間。
「伏せろっ!」
ひとつの叫び声がティーダの耳に届いた。
その声を頼りにティーダの思考は賦活し、その場で身を屈める。
ティーダとの直線上、巨大な魔物越しにアルベドの服を着た黄金色の髪の青年が岩の上で銃を構えていた。
青年は魔物を見下ろす。
そして青年は飛び出し、粗い岩肌の斜面を軽やかに跳ね降りた。
青年は赤き光に包まれながら、銃弾を魔物に放ち、眩い閃光が魔物へと突き走る。
銃弾は魔物の背中に直撃をし、魔物は衝撃とともに背中がくの字に曲がる。
魔物の体勢が崩れ、爪はティーダを捉えることが出来ずに空を切った。
巨大な魔物はその身をよじり苦痛の悲鳴をあげながらのたうちまわる。
地面に降りた青年は巨大な魔物との距離を詰めるように歩いていく。
銃を構えながら巨大な魔物を警戒する青年。
「ディンゴか。無属性なのは有難い‥んだが厄介なのは」
青年の横に走り並ぶティーダ。
「助かったっス!・・なぁ、剣とかない?」
青年は素っ気ない態度でティーダを眺めた。
「・・よし来た。これ使え」
青年は背中に備えつけていた剣を投げ、それを片手でキャッチするティーダ。
手にした剣を掲げるティーダ。
機械仕掛けの精密な鋼の剣。
柄の部分は重さを軽くするために中央に円形の穴がいくつか開けられている。
重厚な灰色の刃が鈍く光る。
「あと。・・ほら!」
青年は腰のポケットから何かを取り出し、それをティーダに投げた。
放物線を描きながらそれは宙を舞い、何度か瞬きながらティーダの手の中に収まった。
硬い感触が手のひらに伝わる。
「え。‥これは?」
ティーダの手の中には澄みきった青の美しき結晶があった。
吸い込まれるような不思議な輝きをもつ。
「見ての通り〝ブル″だ。生憎、他のクリスタルは持ち合わせてねぇ」
「は・・?」
青年の単語の意味を汲み取れないティーダは疑問を投げかける。
しかし、その答えを聞く余裕はなかった。
巨大ディンゴの咆哮であたりの木々が揺れ、葉が落ちてくる。
衝撃でティーダたちの鼓膜も震える。
巨大ディンゴは目を血走らせながら、牙を剥き出しにして二人にめがけ雄叫びをあげた。
青年の攻撃を受けて苦痛で血が沸騰してるが如く暴れ狂い、顔を凶暴に歪ませている。
野太い脚で地を蹴り上げ、地面をえぐりながら走り迫って来た。
剣を構えるティーダと銃を構える青年はほぼ同時に動いた。
二人は左右に別れ、巨大なディンゴの動きに合わせながら走っていく。
青年が巨大ディンゴの動きを挫く(くじく)ために銃弾を放つ。
巨大ディンゴへ足先への攻撃を集中。致命傷にはならないものの痛みとともに巨大ディンゴがたたらを踏みとどまった。
魔物がひるんだところへティーダが滑り込み、魔物の腹に剣を跳ね上げ斬撃を放つ。
しかし、剣は魔物の硬い皮膚にはじかれてしまい効いている気配はまるでない。
手が痺れつつもティーダは一旦、巨大ディンゴと距離を取りつつ青年と合流した。
青年は怪訝そうにティーダを眺める。
その間も巨大ディンゴは二人へと走り迫ってくる。
青年は眉間に皺を寄せながらティーダのもつクリスタルを見る。
「…?クリスタルを握るんだ」
「握る・・?こうか」
結晶を握りしめるティーダ。
すると結晶の輝きが増しティーダの指の隙間から青き光が洩れ始めた。
「ぅお!?」
「一致したか」
言いながら、青年はうなづく。
「持ち手に意識を運びつつ剣を振れ」
「えっと・・つまり集中っスね!」
さらにティーダ自身からも青き光を帯びる。
自分自身から青い光が溢れ出ているのが確認できた。
根拠は分からないが、ティーダはいける気がした。
「・・おし!」
ティーダは意気込み、いきり立つ巨大ディンゴを睨む。
巨大ディンゴは我を失うほどの怒りで血が沸騰していた。
その目に宿る意思とともに巨大ディンゴに向け走り始めるティーダ。
「ちょ、待て!」
ティーダの突発の行動を慌てて止めようとする青年は手を前に突き出す。
しかし青年の制止を聞かず、ティーダは眼前の巨大ディンゴに飛び込んだ。
巨大ディンゴは、両の腕を振りかざす。
牙と爪の猛攻を紙一重でかわしながらティーダは機を見計らう。
大振りの攻撃のあとにできた巨大ディンゴの隙を突いた。
ティーダは巨大ディンゴの脇をめがけ高速剣技を叩き込んだ。
体勢を崩す巨大ディンゴ。
さらに追撃するティーダは攻撃の手を緩めない。
剣が青い軌跡を描きながら巨大ディンゴの身体を疾走していく。
いくつもの衝撃が巨大ディンゴを刻み込み、たまらず悲鳴の咆哮をあげる。
「いきなり〝リミット″。・・やんじゃん」
青年は走りながらティーダの戦闘を観察している。
苦しみながら後ろに下がり始める巨大ディンゴ。
「どうよ」
駆けつけた青年にティーダは得意げに笑いかける。
青年は弱りきった巨大ディンゴを眺めた。
「誰もに属性がある。クリスタルにも属性がある。その属性同志が一致すると〝属性力″が引き出されるんだ」
青年の説明にティーダは物知り顔にうなづく。
「この光がか」
ティーダは自身をみて、属性力というものに少しだけ実感が湧き始める。
「属性は6種ある。お前に渡したのは〝ブルクリスタル″だ。握った事により光、つまり所有者のお前に反応した。属性力は引き出されると対外で光となる・・」
青年は静かに銃を魔物に向けて構えた。
巨大ディンゴは弱りながらも威嚇の咆哮をあげ、二人に向かって走ってくる。
「お前は〝ブル属性″の持ち主つう事だな。効力は知っての通り短距離戦・・この巨大ディンゴの厄介なのはスピードだったんだがもう問題ねぇな」
青年は赤き輝きをその身に纏った。
「!?」
ティーダは青年の色に目を見張る。
青年は銃口を、巨大ディンゴに狙いをつけた。
「俺はお前と逆の効力、遠距離戦・・〝ルージュ属性″だ」
青年は躊躇なく人差し指で銃の引き金を引いた。
「ギマカラ!(じゃぁな)」
凄まじい音とともに放たれる銃弾。
反動で銃が跳ね上がり、薬莢が排出される。
青年の狙い通り、赤い軌跡を残しながら一直線に巨体ディンゴの眉間に命中した。
銃弾を食らった巨大ディンゴは力尽きその場に倒れ、幻光虫が朧げに舞い散った。
巨大ディンゴを倒した森の中には静粛さが戻る。
ティーダは剣先をおろし一息ついた。
「戦闘慣れしてるな」
青年は銃を腰のホルダーにしまいながら話しかける。
青年の言葉にティーダは
「十分!」
と、威勢良く答える。
しかし青年はじと目でティーダを見ながら
「・・何が十分だ、クリスタル知らねぇって奴珍しいぞ!?」
言われてティーダは頭を掻く。
その手がとまり青年をみつめるティーダ。
何か言いたげなティーダの表情に青年も見返す。
「あのさ、・・ここって?」
「ここは〝ビサイド島″だ。お前は浜辺に倒れてたんだ」
青年は言葉を続ける。
「一先ず運んで来た訳なんだが」
きょとんとした顔をするティーダ。
二人の会話にほんの少しだけ間が空く。
「なんで・・」
今度は青年が惚けた顔をした。
不思議そうにティーダを見る。
「なんでって・・ほっとくわけにもいかねぇだろ」
さも当たり前かのように言う青年。
そしてティーダはずっと引っかかっていた疑問を青年に問いかけようとする。
しかし開きかけた口が閉じ、言葉が消散した。
決意に綻びが生じてしまい躊躇する。
迷いがその目に映り、ティーダは目を閉じた。
大きく息を吐き、深呼吸をする。
再び目を開けたときに、ティーダの内から言葉がこぼれ落ちるようにして口がひらく。
「なぁ、ここは〝スピラ″で『シン』は倒されて・・〝永遠のナギ節″が来た。であってるか」
「?」
青年は怪訝な顔をした。
「‥あれから、3年の月日が経った」
青年の言葉を聞きながら心の中で反芻するティーダ。
心が、頭が、現実に追いつかない。
何から整理していけばいいのか。
“永遠のナギ節、スピラの平和は現実になった。俺は、現実に‥なれた?”
その問いにたいする答えはどこにもなく、ただ風に流されるかのように散るしかなかった。