FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫ 作:ふゆー
なだらかにくだる斜面の一本道のその先に、狭く細い入り口があった。
道の両側には等間隔に並ぶ石柱があり、そこからとめどなく流水が溢れ、水路をつたっていく。
狭い通路を抜けたその先は、洞窟特有の岩のごつごつした感じとは違い、綺麗に整った球形の空間があった。
ティーダとユウナは、物珍しそうに天井付近を見上げながら進んでいく。
悠久の時を過ごしたであろう、神殿を模したその空間は多少のヒビや朽ちている様子は見て取れるも、その荘厳さの雰囲気は色濃く残っており肌で伝わってきた。
さらに奥へと続く通路から、かすかな清涼な歌が聞こえてくる。
「!?」
ユウナは、その通路に目を見張った。
「祈りの歌、・・とは少し違う?」
この神聖な空気に包まれた空間に、不思議と懐かしさと居心地の良さを感じていた。
ティーダはこの幻光河の底に存在する洞窟の中に、一体なぜこのような神殿があるのか検討もつかなかった。
二人は導かれるようにその広い空間を抜け、狭い通路へとはいっていく。通路には、装飾として描かれたであろう青の壁画で埋め尽くされていた。
それを眺めながら、最奥の部屋へとたどり着く。
そこは正方に切り取られた石が隙間を空けつつ秩序よく綺麗に並べられていた。奥へいくほど石段は高くなっておりピラミッドのような形をとっている。
石と石の間には、幻光虫を含んだ水が流れており、そのためにこの空間は、淡い光で満たされていた。
ティーダとユウナは、一段ずつ石段を登っていく。
横の壁からも、蜘蛛の巣のように、水が流れ出ており、幻光虫が光るその様は、さながら光の網のようでもあった。
その先、最上段中央には石碑が立っていた。石碑には、彫刻と紋様が事細かに刻まれている。長い年月をかけての風化が多少あるが、それでも威厳と荘厳さは十分に保たれていた。
ユウナとティーダは、その石碑に近づく。
空気からひしひしと伝わる神聖さに、身がすくわれる思いとなった。
「・・これは」
ユウナは石碑を見上げた。祈り子像と似ている気もするが、雰囲気と形が少し違う。
ティーダもユウナの少し後ろの位置でとまり、同じように石碑を見上げると畏怖を感じずにはいられなかった。
「・・随分古いな」
ティーダの言葉にうなづくユウナ。
そしてユウナは石碑に向かって円環の祈りをおこなった。
ティーダはそれを横で静かに見守っている。
「!?」
足元に高密度の幻光虫が漂い始め、光が集まりだす。
気づくと空間全体が幻光虫で満たされていく。
そして、その幻光虫たちが石碑へと導かれた。
ユウナたちはあまりの眩しさに、思わず目をつむってしまう。神々しい光に場が一気に満たされた。
虹色のまばゆい光に思わず目を閉じてしまう。
『・・目をお開けなさい』
直接、胸の奥底に語りかけてくるかのような透明な声が響いてきた。
そこに何かがいるのを感じ取りながら、徐々に光に慣れてきた二人はゆっくりと目をあけた。
ユウナたちは、驚きのあまり息を飲む。
石碑の前には青白い光を放つ半透明の人魚が二人の前にいた。青く澄み切った肌は陶器で出来たかのようになめらかである。
「なっ・・?」
突然現れた人魚にたいしティーダは、警戒する。
「あなたは・・?」
ユウナは敬意を表しながら話しかけた。敵や得もしえぬ異質な存在ではなく、むしろ神に近い雰囲気を感じ取っている。
人魚は、ユウナを見据えた。
『我が名は〝セイレーン″。水を司る神の作りし層の一部」
ユウナは瞳を通して心の奥底を覗かれているような気持ちになる。セイレーンは目を細めた。
「偉大なる召喚・・あなたはすでに5つの召喚をされたのですね』
「5つの召喚?」
ユウナは、セイレーンが何を示しているのかわからず思考を巡らし、そして導かれるようにひとつの答えにたどり着いた。
「・・召喚獣?」
と、ユウナは問いかける。
セイレーンは下半身のひれを優雅に揺らした。鱗に光があたり、ほのかにきらめく。
『かつて最初に無の空間に誕生した、名を〝カオス″。神カオスは自然という名の8の層、守護獣生み出し世を作り上げました』
研ぎ澄まされた美しい声が部屋の中に響きわたった。
「?・・」
ティーダには、セイレーンが何を説明しているのかよく分からずに怪訝な顔をした。漠然とした昔話か、それともおとぎ話か何かの類かとおもう。
「あの、召喚獣達はもう・・」
ユウナは、切なそうな顔でその事実を認知していた。召喚獣たちはシンとの戦いのときに異界送りしたがために、もう存在していないということを改めて思い返していた。
セイレーンは青く深淵の波紋が広がる瞳でユウナを見つめた。とても優しく、そして慈悲深きその瞳に吸い込まれそうになる。
『・・今一度心得を』
「え・・」
セイレーンは目を閉じ、輝きを増していく。両手をあわせ、祈るような姿勢をとった。
ユウナはただその光景を見守るしかできなかった。身動きひとつせず、魅了されている。やがてセイレーンはユウナに溶けるように、重なるようにその体内へと入っていった。
ユウナは身体の中から熱いものがこみ上げてきて、その場で崩れかけた。
「ユウナ!?」
ティーダは倒れかけるユウナにすぐに駆け寄り、支えた。
ユウナの中に入ったセイレーンからティーダに語りかけてくる声が聞こえてくる。
『良いですか、迷いを生まぬよう進むのです。』
ティーダはユウナの体重を手に感じながら、その言葉が心のどこかに引っかかった。それが何を指し示しているのか、これから起こるであろう何かを予感させた。
水泡が地上へと向かってひた走っていく。
月の光で鈍く青く光る水面はおぼろげにうつろぐように揺らめき煌めいていた。
ティーダとユウナは、幻光河に沈んだ機械文明の遺跡を眼下にみながら水中をかけ上がっていく。
幻想的な光景。揺らめく世界の中で、月の光だけが鮮やかに映り込む。
月明かりが河の中に射しこみ、ゆらめきの光が失われた町並みを静かに照らしていた。
ティーダが先導しながらユウナはその後をついていく。ティーダは何度も振り返りながら、ユウナを気遣う。ユウナもそれを感じ取りながら、二人は一気に水面へとあがっていく。
水面に近づくにつれ、一気に明るさが増していった。
「っと」
ティーダは川面から顔を出す。
新鮮な空気を肺の中にめいっぱい吸い込む。
と、同時にすぐにユウナがどこにいるのかを探す。
すぐ後ろで、ユウナも水面に顔を出し、大きく息を吸い込んだ。
多少息があがりながらも
「こんな・・息止めたの初めて」
と、楽しそうに笑っている。
ティーダは安堵の笑みを浮かべながら
「はは、ユウナもブリッツの選手になれるかもな」
岸の方へと一緒に泳いでいく。ティーダが先に陸にあがり、そしてユウナに手を差し出した。
「立てるか」
その手を掴むユウナ。ティーダはぐいと一気に引っぱりあげた。
ユウナはティーダ越しにみる風景を前にしてあっと驚いた。
「見て」
言われ、ティーダも振り返り、その景色に圧巻する。幻光河には光が溢れていた。いくつも立ち上がる光の渦は、まるで遊んでいるかのように優雅に踊っている。
二人の体に付く水滴からも光が明滅していた。
驚きつつも、最後には互いに目を合わし微笑んだ。
「綺麗・・だね」
「あぁ、凄く・・」
ティーダは夕闇の中、ユウナを探しつつ一人で見た幻光河の光景よりも、今二人で見ているこの光の美しい様ははるかに眩しく綺麗であった。
この、一瞬が永遠にすら感じられる程、とても大切な時間に思えた。
大地に陽の光が射し込み、スピラに色が戻り始めた。
ジョゼ寺院前広場にも、朝の赤い光に包まれていく。
ノネを中心に、ティーダ、ライナー、カーシュがその周囲を取り囲んでいた。それぞれが真面目な顔でノネの話を聞いている。
ノネは、寺院が現在どうなっているのか身振り手振りを交えて、説明をしていた。
「召喚士やそのガードでさえ、祈り子様への出入りは厳しくなっているの」
ティーダは、そのことに腑が落ちずに
「なんで!?」
と、強く抗議に訴え出る。
それについてライナーがなだめながら答えた。
「思い出に甘えるな、って事だ」
ノネも、うなづき同意しながら
「大切な場所だから神聖なる場とし、残される事になったの」
と、ティーダへ視線を傾けた。そしてライナーの言葉を自らの中で咀嚼しながら
「甘えない・・か、そう言う意味合いが正しいのかも」
と、意を得たようにうなづき反芻した。
だが、ティーダは一人納得のいかない顔をしている。
“寂しい気もした、大切だからこそ・・さ”
そして、大事なことに気づき、急に慌てだした。
「って・・それじゃ困るんだって!ベベルの祈り子に会わなきゃならないんだ」
「・・?」
他のメンバーたちは不思議そうな顔をする。
ライナーが誰よりも先に気配を感じ、その方向をみた。
「・・終わったみたいだぞ」
ライナーの視線の先には、こちらに歩いてくるユウナの姿があった。ティーダたちも移動し、広場中央で合流をする。
「どうっスか、何か・・」
ティーダは幾分かの期待をこめてユウナに聞いた。
しかし、ユウナはかぶりを振るばかりで落胆の色がにじんでいた。
「・・ユウ」
ティーダの言葉に合わせるようにユウナが言葉をかぶせた。
「大丈夫。・・私は立ち止まらないよ」
ユウナの目には、不屈の闘志が宿っている。
“ユウナは祈った、けど召喚獣が現れる事はなくて・・。”
ティーダの脳裏に描かれるのは、洞窟で出会った半透明の人魚。そのときの言葉が不意によみがえってくる。
“〝心得″?ってなんだよ。・・期待するなって方が無理だろ”
ユウナに連れられて、ティーダたちは岩壁に建てられた寺院へと歩いていく。
寺院周辺には無造作に散乱する岩の群があった。それを横目にしながら一同は寺院へとはいっていく。
かつてジョゼ寺院大広間には、スパーク電流が放電され、眩しすぎるくらいの光源があったが、それも今は見る影もなく、薄暗い。
代用として松明が使用され、かろうじて院内の明かりが灯っている状態であった。
大広間で僧官が待ってくれていた。
ユウナはすぐに駆け寄って
「ご心配お掛けして申し訳ありません!」
と、深々と頭を下げる。
「いえ、ご無事で何よりですよ!」
僧官は、安堵の笑みを浮かべていた。咎める様子は一切ない。
ユウナは振り返り、ティーダを見た。
「キミにも見て貰いたいの」
ティーダは呆けながらも問うことはなかった。
僧官の先導のもと、ユウナにつれられて三人は寺院試練の間へと進んでいった。
試練の間へと入り、ティーダはあたりを見渡した。
「こんなに暗かったか・・?」
昔の記憶を頼りに、今のこの場所とかつて来たこの場所を繋ぎ合わせていく。
僧官は、歩きながら現状を説明した。
「『シン』が倒されたあの日より各寺院の祈り子様は永眠され・・」
それを口にして事実を確認するのが怖いのか、ワンテンポ遅れてこの言葉が発せられる。
「このジョゼ寺院は完全に力を失ってしまいました・・」
ユウナはこの説明を補足するようにティーダに話しかけた。からっとした声の中に、ほんの少しの寂しさがよぎっていた。
「試練を受ける必要がなくなったから、かな」
ティーダの中にひとつの疑念が浮かび上がる。とても重要な質問であった。
「・・じゃあ、ベベルの寺院は?」
険しい顔つきになるが、前を歩くユウナたちは、それには気付くことはない。
「・・どうだろう」
ユウナは大きく首をかしげる。その答えを持ち合わせてはいないので、考えあぐね推し量ることしかできない。
「私ね、その件も含めて各寺院への参拝に伺ってるの。ビサイド寺院とキーリカ寺院はまだ力を保ってた」
僧官はこの寺院の至った経緯について、静かに語り始める。
「ジョゼ寺院は、雷を司る召喚獣イクシオンの力で保たれていました。力を失った今は寺院入口の雷キノコ岩も開閉は愚か、至る所に散乱してしまい・・」
そこで言葉が途切れ、それ以上先を続けることが出来ない。なんとも言えない悲しげな表情がよぎった。
鬱とした表情を吹き飛ばすように、僧官は顔を上げる。
「ですがこれも痕跡と言いますか、教訓になります」
失った痛みの中、そこからでも何かを学びとり、成長につなげようとしている姿がそこにはあった。
控えの間と続く道は一層暗かった。そこには、祈りの歌もなく、ただ無口な空間のみが続いている。
控えの間も例に漏れず、薄暗く静けさを保っていた。何かが足りていない、そんな様相を思わせる。
かつて来た同じ場所なのに、まるで違うとこにいるかのような錯覚を覚える。
今度はユウナが先頭を切り、ティーダと僧官がその後をついていく形となった。
祈り子の間。ここには祈り子が安置されている神聖な空間。召喚士しか面会を許されない場所。
入り口で円環の祈りをした後に、順に入っていく。
さらに視界が悪くなる中、しかし次第に順応してきた。その全容が明らかになってくる。
「な・・!?」
祈り子像の全貌を見たティーダは言葉を失う。
祈り子の間、中央に安置されているジョゼの祈り子像には激しいひび割れが広がっていた。
場所によっては崩れそうなほど損傷が激しく、それは見るにとても痛々しい光景であった。
「全ての寺院にこの現象が・・」
僧官は悲痛な面持ちで喋る。
ユウナは中央まで歩いて、そこで立ち止まる。しゃがみこんで、そして祈り子像に触れるように、地面に指を立てた。祈り子像との間には透明な板を一枚隔てている。
とても優しい気持ちをこめながら、祈り子像をみつめるユウナ。
「とても長い間、私達スピラの為に力を貸し続けて下さった。」
それは感謝の言葉では言い表せないほどのスピラの長い歴史への貢献であった。その長い年月に幾ばくかの想いを馳せるユウナ。
ティーダはユウナの隣に座る。
「・・この傷はその証だよな」
ティーダも、祈り子にたいして感謝の念がよぎる。
「・・うん」
ユウナはずっと祈り子像を眺めていた。そして立ち上がり祈り子像に円環の挨拶を行う。
ティーダも同じように円環のあいさつをし、その場を後にした。
寺院を出ると、すでに朝日は昇りきり朝が迎えられていた。階段を降りてくるティーダとユウナを、ライナーたちは視線を送りながら待っていた。
ユウナはみんなの顔を一巡し、緊張した面持ちをした。
「あの・・」
なかなか次の言葉を切り出せなかったが、次第に覚悟を決め、頭をさげた。
「私もご一緒させて下さい!」
横にいるティーダは何も言わずにユウナを、そしてライナーたちを順に見る。
ライナーは軽く吐息をこぼし、そして笑みを含んだ。
「・・そんな堅くなくて構わねぇよ、これから一緒に行動してくんだろ?」
と、ユウナに頭をあげるよう促す。
顔を上げるユウナに近づいてくるは、カーシュ。
「宜しく」
初対面となるユウナと軽く会釈をかわした。
この予期せぬ返答にたいしてユウナは固まってしまった。どうして良いかわからずに戸惑うばかりとなる。おもわずティーダを見てしまう。
ティーダはにかりと笑いながら
「そう言う事、宜しくっス!」
と、簡潔にまとめ、締めくくった。
皆は、それぞれにユウナに信頼を込めて見つめていた。
「そんなこちらこそ、・・宜しく。」
ユウナは、もう一度お辞儀をする。
ノネは別の案件で一抹の不安があり、それをユウナにもちかけた。
「ユウナ様、大総卿式の方は?・・」
ユウナは真剣な面持ちでうなづく。
「もちろん、お約束通り出席させて頂きます!」
ティーダは二人のやりとりを聞きながら、ひとつの言葉が引っかかった。
「その大総卿式って何?」
聞かれた二人はティーダをみる。その質問に答えたのはノネであった。
「その名の通り、卿師を中心とし集まるエボンの式典よ」
ティーダは、さらに疑問そうな顔をする。
「卿師?・・老師じゃなくて!?」
今度は、ユウナが答えた。
「マイカ総老師がいなくなって、それにキノック老師やシーモア老師、・・エボンから老師はいなくなってしまった。そうして名を変え新たに組織された代表者達〝エボン四卿師″」
ノネがユウナの話を引き継ぎ、そして謙虚な表情をしながら
「まだ老師には及ばない・・そう言う意味合いもあるの」
と、静かにつぶやいた。
ノネの謙遜な態度をみたユウナはなんとかフォローをしようとする。
「そんな事・・」
それを察するノネは自らの力不足を認めた。
「いえ、まだまだこれからです。」
ティーダは、自分が立っているこの世界が三年後だということをまた改めて痛感する。
“知らない事が多過ぎて俺は付いて行くのがやっとだった”