FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫ 作:ふゆー
屋敷のエントランス中央付近にノネは立っていた。そこから見上げる螺旋階段には、歴代の族長の顔写真が豪奢な枠に飾られている。
その中で、特徴的としてあげられるのはシーモアが他の族長たちと顔が似ていないということであった。
ノネは機嫌が悪そうに腰に手を当てている。
「なんのつもり?」
怪訝な顔をして向き合うはライナーであった。
「お付きの官兵?」
と、おどけた調子で肩をすくめてみせる。
ノネは今度は、眉間を手で抑えた。
「はぁ。・・この際だから聞くけど、あなた」
あらかじめノネの言わんであろうことを予測していたライナーは
「いい加減決着付けねぇとな」
と、突然に真剣な表情をノネに向けた。そこにはどこか陰の兆しがあった。
ノネは心配そうにライナーをみつめる。
ライナーの脳裏には一人の幼い女性の顔が思い浮かんでいた。
「・・俺の為にもあいつの為にも」
ノネは、ライナーの言葉の真意に迫る質問を投げかけた。
「・・行くの?破滅の離島〝ジルクバ″へ」
「・・ぁあ」
ライナーは、ノネから視線を外さずまっすぐに見つめながらうなづく。
瞼の裏にあの日の記憶が蘇ってくる。閉ざされた過去が紐解かれてきた。
(岩壁に囲まれた大地に一隻の船が岸によりかかっている。船の甲板には機械のパーツらしき部品がいくつも集められていた。
船より少し離れた海岸線ぞい、ベリーショートヘアの女の子は岩の上から広大な海と空を気持ちよさそうに眺めていた。ゆっくりと流れていく雲を目で追いかけている。幼きライナーがその女の子の後ろから声をかけた。
「ローサ、行くぞ。日が暮れ始めた」
ローサと呼ばれた女の子は急いで振り返る。その顔には、満面の笑みが張り付いていた。
ライナーは、右腕にこぶし大ほどの大きさの機械のパーツをいくつも器用にかかえていた。軽々と岩を飛び越えながら岸につけてある船に向かって歩き出す。
ローサはライナーのあとを追いかけ、横に並んで一緒に歩き出した。
「次はいつ来られるかな」
ライナーは、ポケットからひとつの機械を取り出し、手元にある機械を見ながら渋い顔をする。
「気候計に乱れが見える。当分は来れねぇ」
「えー」
残念そうな声をだすローサ。
「ケヤックも土台の完成は近いって張り切ってたのに」
口を尖らせながら、文句を言う。
「霧がかったら最後だ」
ライナーは、空を見上げた。その表情は厳しい。雲行きは徐々にだが、確実に悪くなってきた。
ローサは今来た道を振り返り、荒れ果てた大地を見渡す。そしてライナーをみつめながら
「見返してやろうね」
と、拳に力をこめていった。
「!?・・」
ライナーが見上げる顔をおろしてローサをみつめると、はにかんだ笑顔をみせていた。
「・・〝教え″なんて」
と、ローサがさらに続けようとしたときに別の声がライナーの耳に割って入った。
「ミヤミヤ!ヨルニッムプムニエレオ (居たいた!もう出発しねぇと)」
幼きケヤックが、海岸を走ってきた。
ライナーはアルベド語でケヤックに話しかける。
「キコルボトルナラニケヤオモホガ (丁度そう話してた所だ)」
ローサがケヤックをみて、何かが足りないことに気づいた。
「カメ、ミムニコギマラワムヤロ!?(あれ、一緒じゃなかったの!?)」
「レ!?(え!?)」
ケヤックは、目を見開く。そして辺りをキョロキョロ見渡した。
「ったく」
舌打ちをするライナー。
「どうせ岬の方だ」
岬の方角をみて、ライナーは岩から飛び降り走り出した。抱えていた荷物をケヤックに無造作に放り投げる。
ケヤックはそれを慌ててキャッチした。ライナーは、足場の悪い岩場を軽々と飛び越えていく。
「あー、行っちゃった」
その後ろ姿を見送りながら頬を膨らませるローサ。
そんなローサを横目でみながら
「ヤキモチヤキ」
と、ケヤックはニヤつきながらぼやく。
「変な標準語ばかり覚えるな!」
と、口を尖らせてケヤックの頭を思い切りはたいた。
たたかれながらもケヤックはにやにやと笑っている。
‥ピタッ。
不意に当たった冷たさに顔をあげるローサ。不思議そうに空を見上げた。
頬を伝うは一滴の水。
「・・雨?」
大きな瞳には、曇天の空が写し出された。
ぽつりぽつりと、地面に丸い斑点が作り上げていく。それは次第に数を増やしていった。心細そうにローサとケヤックは顔を見合わせる。
雨の足音が次第に距離を縮めていった。
ライナーは岬への足を止めふいに空を見上げる。
みるみるうちに、灰色の空が気味の悪い黒雲に覆われてきていた。雲の動きは予想以上に早くなってきている。
「・・雨か、急がねぇと」
ライナーは少しだけ焦燥を覚えながら、軽快に走り出した。)
蘇ってきた記憶の断片を抱えながらライナーの表情には鬱とした陰があった。
「・・何年経っても〝あの雨音″が耳に残る」
その事実にライナーの心は蝕まれつつも、真正面からその事実を受け止めている。
「・・」
ノネは事情を察して何も言わないが同情の色を見せた。
「勝手で悪いが、あの土地の件は俺が決着を付ける」
ノネはライナーを睨む。
「その件に関してはもう議会の議決によって制定されたの。」
ノネとライナーの視線が交錯する。互いに一歩も譲らない。
「ので、それまでは〝単独での勝手は″許さないから」
ノネはライナーに一歩詰め寄りながら声のトーンがさがり、凄みをきかせた。
「・・!?」
ライナーはノネの言葉に目をみはり、出かかった言葉を喉の奥に押し込めた。
「わかった?」
再度の忠告をして、念を押すノネ。ライナーに有無を言わせようとしない。
「・・ったく、上手い事言うぜ」
心を見透かされ、しかしそのノネの言葉にライナーは、軽く笑うしかなかった。
ノネはさらに厳しい口調で続ける。
「いい、よく聞いて。死して尚留まる者は強く成し遂げようとする意志を持つ。それがどれほどの力か計り知れない」
ノネはライナーの身を案じ、心配そうにみつめた。
「〝彼女″を思うのなら・・」
ガガッ。
ノネがその先を言おうとした時、屋敷奥の扉が開いた。二人の視線が扉へと注がれる。
奥から現れたのはトワメルであった。いそいそとノネに近づいてくる。
「申し訳ありませぬな、お待たせ致した」
深々とお辞儀をしながら慇懃な態度をとるトワメル。
「・・いえ、突然押し掛けたのはこちらです」
ノネはトワメルにたいし、お辞儀を返しながら敬意を示した。
頭を下げるノネに再び扉が開く音が聞こえる。
ノネがいぶかしげに振り返るとライナーはエントランスを出て行く姿が見えた。その程良く筋肉のついた大きな背中にはどこか払拭しきれない影がある。
ノネはそれを目で追いながら、やはり心配そうなまなざしを向けていた。
その心配を遮断するようにトワメル声が間に割り入ってくる。
「さぁさぁ、立ち話もなんですどうぞ我が屋敷へ」
異界への参拝路の入り口に立つティーダとカーシュはその先にある異界門を眺めている。
「生者が願えばその死者は幻影となって姿を現す。だよね」
カーシュは異界についての知識をおさらいしながら、ティーダに確認をした。
「・・そっ」
異界門を見ているうちに、この世界から旅立っていった者たちのことを思い出す。
“そうだ。・・親父やアーロンも出て来んのかな”
黄昏ながらもぼんやりと門を眺めていたその時。
キーン・・。
突然、ティーダの頭を割れるような悲鳴が突き抜ける。
「っ・・!」
平衡感覚を失い、苦痛のあまり表情を歪めるティーダ。その場に立っていることが出来ずに、よたついてしまう。
「!?」
カーシュはティーダの異変に驚きながら、近くに駆け寄った。
その二人に静かに近づく人影がひとつあった。
「ここは思いが強過ぎる。またその者を連れて行こうともする」
聞き覚えのある声が語りかけてくる。
カーシュが顔を上げると、そこにはティーダを見下ろすヴァンマがいた。
ヴァンマは冷静に観察するようにティーダを見つめている。
「生命力や活力の根源となる気を重くし悲しみに呑まれる者はその後を追ってしまう」
視線はティーダを通り過ぎ、その先の異界門へと注がれた。
「・・そうさせるのか、させられるのか」
そこまで言うとヴァンマは周囲を見渡す。軽く息を吐きながら
「私も敏感でね、あまり気が進まない所だよ」
と、異界の風景を恨めしそうに眺めた。
「怖い話だね」
カーシュはヴァンマの話を聞きながら相槌程度にかえす。
「・・悲しむ為だけの場所じゃないっスよ」
頭を押さえながら、ティーダは前を向く。
「大丈夫・・?」
「おう」
元気そうなそぶりを見せようとするが、ティーダの顔色は悪くまだ足がふらつきそうになっていた。
ティーダの言葉にうなづくヴァンマは
「そうだね、再生し生まれ変わるともされる」
と、その壮大な世界観に想いを馳せる。
「原点でもあるのかな」
柔らかな口調で、異界と繋がる門を特別な感情を込めて見ていた。
ティーダは、ヴァンマの顔をじっと見つめる。出会ったときから、ずっと引っかかる違和感が募ってきていて、この話題を話さずにはいられなかった。
「・・。あのさ俺あんたと」
不敵に微笑むヴァンマは佇まいを正す。
「改めて、私はエボン卿守軍上官のヴァンマと申します」
両手で円環をつくり、お辞儀をした。
「卿守軍?」
聞いたことのない用語に、ティーダは眉間にしわをよせる。
ヴァンマは、卿守軍について分かりやすく噛み砕いてティーダに話した。
「聖ベベル宮を拠点に。そうですね、僧兵や警備兵の責任者って所です」
そして先刻の出来事の補足を兼ねて、言葉を加味する。
「ルカへはブリッツ開幕戦の観覧にお伺いになった総卿師の警護に。」
ヴァンマはティーダへと向きなおり、親しみを込めた視線を向けながら上品に微笑んだ。
「私も決勝戦、拝見させて頂きました。ブリッツ競技会への良き刺激になったと総卿師が仰っていましたよ」
その時、地の奥からうめく地鳴り声のような小さな響きが聞こえてきた。
ピクリと反応をみせるティーダを筆頭に三人は辺りを警戒する。
その音は次第に近づき大きな波紋を呼びよせた。
ティーダたちは何事かとすぐに身構える。
突如、激しい揺れが襲いかかってきて地盤が乱れ始めた、地面が波打つようにいくつも迫ってくる。
天井から剥がれ落ちた石くずがいくつもティーダたちにふりかかってきた。
「!?・・なんだ」
ティーダは、ふらつきながらもこの突如とした異変に臨戦態勢になっていた。その横いるヴァンマは冷静に状況を分析する。
「〝層″が欠けた今、異界もバランスを保てないでいる・・」
荒れ狂う地脈を感じながら
「今日は酷く荒い」
と、揺れる地面の上でバランスをとりながら立っていた。揺れは未だ止まることを知らない。
ティーダが勢いよくヴァンマをみて
「今、層って!?」
と、疑問を問いかけようとしたその時、バタバタと異界門から訪問者達が掛け出てきた。
怯えの表情を顔に貼り付けている人々は、我先へと町の方へと下っていく。
異界門を警備していたグアド族の門番が大声をあげた。
「皆様!大至急、異界門を封鎖します」
言い終わるかどうか、彷徨う幻光虫たちが異界へ入ろうとし、ものすごい加速をつけながら異界門にぶつかってきた。
その衝撃で、門の周辺にいた兵の何人かが転がっていった。
幻光虫たちが荒れ狂う姿におぞましさを感じるティーダたち。
ヴァンマはその光景を眺めながら
「地盤の乱れは境界線となる異界門を弱め、何処からともなく集まった幻光虫は異界へ入り実体化しようとする」
と、ひとつひとつの事柄を冷静に観測していた。
門番は血相を変えて叫ぶ。
「悪質な幻光虫に実体化されては、もう我々の手には終えませぬ!」
そう言うと門番の長は封鎖術を唱え始めた。
「!待てよ、まだ中にユウナが・・」
門番兵を止めようとしたティーダが再びぐらつく。
心臓が妙な高鳴りを覚え、頭がふらつき倒れそうになった。なんとか立って踏ん張ろうとするも、かたひざをつかされる。
「っ・・!」
ぐにゃりと曲がる視界。気持ち悪さとともに、意識が飛びそうになった。嗚咽がこみ上げてくる。
カーシュは現状ユウナの救出を最優先しなくてはならないと察した。
ティーダに付き添うよりも先に今、早急に求められることすべきことは別にあると判断する。
ユウナが危険に晒されていることを危惧するカーシュは
「・・俺が先に」
と、異界門に向かって歩き出した。
その腕を掴むティーダ。気力で立ち上がるが、血の気がかなり引いている。
「大丈夫・・。俺も行く‥時間もなさそうだしな」
よたつきながら立ち上がるティーダをカーシュは心配そうに見守った。
「・・わかった」
と、しぶしぶ了承をしてうなづく。
ティーダの瞳の奥には、てこでも動かぬ頑とした意志が現れていた。止めたところで、絶対についてくるだろうとおもうカーシュはそれ以上何も言わない。
半端にあいた門の隙間を、ティーダたちは走り抜けてゆく。
二人はグアドの門番兵の制止を聞かず、扉を越えて不安定な異界へと突入していった。
生暖かい風が幻光虫を攫って、ここではないどこかへと運んでいく。
これといって騒々しさをかき立てるものは何もなく、幻光虫が優雅に舞う姿だけが風景の変化をともなっていた。
どことなく薄暗い夜のように闇が深遠する世界に、不穏な空気が蔓延している。生と死の感性を浮き彫りにするかのような、曖昧さを全て引き剥がされた感覚を得た。
大地を覆うように色鮮やかな色彩の花畑が一面に咲き誇っている。
その敷き詰められた鮮やかさは、まるで生命あるものの儚さの謳歌を表しているかのようであった。
そして、その奥に延延と広がる湖面はどこまでも澄み切っている。湖より上に浮かぶ半月が赤黒く染まっており、湖面にはその姿がより鮮やかに映し出されていた。
その風景に混じりながら一人さまようユウナ。その足どりはとても心細い。
その世界はとても静かで、穏やかすぎるほどの静寂で逆に不安にさせるほどであった。死後の世界とは、こんなに穏やかなものかと安心させるほどに。
その考えを遮るかのように後ろから草花を割りながら、突っ走る足音が思考を割ってはいるようにつんざいてきた。
「ユウナ無事か!?」
ティーダの声が飛んできた。その後ろにいるカーシュも駆け寄る。
突然何かを感じユウナが振り返った瞬間、黒い靄のような塊から疾風が巻き起こり、目の前を乱雑に通り過ぎていった。
三人はそれに巻き込まれ、成すすべもなく吹き飛ばされた。それぞれが花畑の中を転がっていく。
不吉な黒い靄は花畑に降り立ち、生き物のように蠢きながら次々と形を変えていき、そしその中から一人の女性の形が浮き出てきた。
特徴的なのは、その髪型。奇抜とも呼べるギザギザに切り刻まれたざっくばらんの髪がかすかに揺れる。生気ないその瞳には深い闇が渦巻き、何ひとつ映すことはなかった。
その身にまとうのは、痛みで破れたのかボロボロでよれたドレス。闇夜が漆黒をまとったかのような、暗黒がそこにはあった。
その女性は自身の姿を確認する。
『素晴らしい・・。細胞共に神経を感じる』
その声からは人とは思えぬ、芯から冷めきった音階を奏で出していた。口の端がぐにゃりと曲がる笑みには、残酷な歪みがたっぷりと含まれている。
ユウナはその身をぎゅっと縮めた。
女性はゆったりと振り返り、虚の笑顔を向ける。
目が合った瞬間、ユウナの全身に顫動が走る。のどもとに冷酷な刃を突きつけられたかのような感覚を得て、ひやりとした汗が滴り伝った。
目が三日月の形となり、笑っているかのようであるが、愉快な気配をまるで見せない。
『私を恐れるか』
「・・いえ」
ユウナは意志をしっかりと保ちながら、しっかりと女性をみつめた。
女性は諭すようにはるか先に浮いている月をうっとりとしながら眺め、そして語り出す。
『この世は変わり廻る。終わりなければ始まりは来ない』
そして、もう一度ユウナに視線を戻し
『理解し難いか?』
と、穏やかに問いかけた。
「!?・・」
それは、以前ユウナが聞いたフレーズによく似た内容の言葉であった。かつてグレート=ブリッジでシーモアが放った言葉が記憶に蘇り、彼女の発言と重なる。
(「スピラを滅ぼし、そして救う」)
女性は自身の手を見る。虚ろな目をしながら、何度か握っては開いてを繰り返した。
『やはり生体にはほど遠い・・。未熟なものだな』
そこには落胆の声がにじみ出ている。
その女性の行為をずっと警戒するように、睨む視線があった。
「あんた何者だ・・?」
すごむように、ティーダはその女性に問いかけた。
ティーダとカーシュはユウナを守るようにして、前衛につく。それぞれが身構え、戦闘態勢をとった。
女性はさして興味なさそうにティーダをみながら、唇がゆっくりと開いて動く。
『塗り変えられた歴史に生きた者』
黄昏の感情とともに、言葉を吐いた。
「?・・」
女性の回答に理解が及ばないティーダ。
意味が通じていないことを女性は理解しながら、次なる言葉をティーダへと吐露する。
『良いのだ、私はもう自由なのだから・・』
女性が急に真顔になった。視線を横に流しながら、人差し指をゆらりとユウナへとむけた。
バチッ。
ユウナの手から弾かれた杖は、宙を軽やかに何度か回転して、花畑の中にがさりと音を立てておちた。女性の表情が揺らぎ、気が張りつめていく。
ティーダとカーシュには、女性が何をやったのかわからなかったが、その瞳に敵意を宿していることは確かであった。
途端、膨大な怒気が彼女から膨れ上がり、異界全土の大気が震え始める。
女性が怒りと侮蔑に満ちた顔をみせた。
『馬鹿げた儀式だ』
声色が一気に変わり、責めるような口調に切り替わる。
『そのような束縛を誰が許した?』
一歩、そしてまた一歩と足もとにある花を無造作に蹂躙しながらユウナに近づいていく。
ユウナは怖気づくことなく、しっかりと前を見据えた。
「生者も死者も辿る道は同じ」
そして、目の前にいる女性を捉え、視線を外さない。
「・・これがあなたの言葉通り、変わり廻る世の掟だと私は思います」
ユウナは、はっきりと言った。
「あなたを異界へ送ります!」
それを聞いて女性は心の底から冷えきった笑いがこみ上げてきた。
『その程度でこの私を異界へ連れては行けぬ。娘よ、侮るでない』
さらに膨れ上がっていく魔力はとどまることを知らず、女性の中に暴力的なエネルギーが構築されていく。
ユウナ達は緊張とともに構えた。
女性は、ゆらりとしながら片手を振りかざす。辺りの幻光虫が一気に感化され、実体化を開始した。骸骨の魔物が花畑の中、地面をかきむしるように次々と這い出てきた。
顎の骨がぶつかる音が不吉な軽やかさを奏でながら響く。
「な・・!?」
突然の骨の魔物の来訪に、ティーダたちは警戒を増していく。
カーシュは一体何が起きたのか理解が追いつかない。
ティーダたちの目の前には無数の骸骨の群れが覆うように取り囲んできた。骸骨たちは、ティーダたちへ向けて無気力に走り始める。
考える間もなく、すぐさまティーダたちは応戦を求められた。
さらに女性は息つく間もなく、魔力を練り上げていた。両手を大きく広げ、魔力の拡張と収縮を繰り返し、膨大な魔力を一点に練り上げていく。
ユウナは、彼女が何をしようとしているのか気づく。咄嗟に反応し対応するが、焦りの色が如実に見えていた。間に合うかどうかギリギリだが、やるしかないと夢中で白魔法を詠唱する。
互いに魔法錬成を終え、白魔法《ホーリー》を発動させたのはほぼ同時だった。
まばゆい光が高速で拡大していく。
聖属性攻撃魔法がユウナと女性との互いの中間地点で収束を始める。広大な光を放ちながらぶつかり合い、荒れ狂う巨大な魔力の瀑布が生じた。
そこを起点に激しい衝撃がおこり、兇刃な風が吹き荒れる。衝撃で花が舞い散り、多数の骸骨がその身を保つことができなくバラバラに吹き飛ばされていった。
「なんて魔力‥」
と、ユウナは目の前にいる女性の力の底が見えずに体の芯がぞくりと畏怖で満たされた。
たいする女性は、ユウナの力を推し量るかのように観察をする。
ティーダらは襲いかかる骸骨らに攻撃を仕掛けた。
カーシュは敵に向けて広範囲にブリザラを放つ。地面から穿たれる氷の刃に飲み込まれる骸骨たちは、しかしそれらは見えない壁に弾かれるように、砕かれた。
骸骨たちは、口をカタカタと鳴らし笑っているかのように首をかしげる。そして躊躇することなくティーダたちにさらに接近、襲い掛かってきた。
「全然効いてない!?」
言いながらティーダは骸骨たちの進撃を剣で防御する。そして敵から発する発光が黒きノワールの光を纏っていることに気がついた。
「そうか、カーシュと属性が同じ」
魔法を錬成するのをやめ、左手を前に突き出す形で構える。呼吸を整え腰を低く落とし、迫る骸骨の動きに合わせ、流水の如く滑らかな動きで攻撃をつなぎ合わせていく。
カーシュは骸骨の懐にはいり、その胸に強烈な組手で数度の正拳突きを突き打った。
それを食らった骸骨の肋骨が何本も割れ、体を構成維持することができずに崩れ落ちていく。
「やんじゃん」
ティーダも剣で骸骨をなぎ倒しながら、カーシュの体術に感心した。
「防衛技だよ」
と、カーシュは軽く答え、深く息を吐きながら呼吸を整える。
ティーダとカーシュは背中合わせになり、一瞬だけ互いの姿を確認する。そして二人はすぐに敵に向かって走り始めた。
第四章『受け継がれし者』へ続く…。