FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫ 作:ふゆー
皆が寝静まる夜。灯りを失ったはずの部屋の外から雷の眩い光が入ってきた。窓から叩きつける雨音も単調なリズムとして淡々として聞こえてくる。
ティーダたちは一人ひとつのベッドをあてがわれ、それぞれが寝息を立てながら寝ていた。
「ん・・」
雨の音がしたたる中で、ティーダの声が聞こえる。まどろんだ意識の中で夢へと誘われるティーダにはザナルカンドの夜景が広がっていった。
(スフィアプールを囲うブリッツのスタジアムには、幾重もの人工のライトが照りつけ、その巨大建造物は闇夜にくっきりとその姿を誇示している。
観客席はほぼ満席であったが、試合時間はとうの昔に過ぎている。ついに選手たちがスフィアプールに現れることはなかった。
電光掲示板には、延期をする内容の文字が音も告げずに延々と同じ文字を繰り返し流れている。
ブリッツ選手控え室に、レギュラーメンバーが全員揃っていた。ティーダは不機嫌な様子を募らせて、どこを行くでもなく控え室の中を歩いている。
「予定じゃこのまま勝ち進めば来週は俺達ザナルカンド=エイブスの閉幕カップだっつうのに!・・また延期かよ」
むしゃくしゃした気持ちから自然と荒げる口調になってしまう。
「国同士の争いが何になるってんだ」
ティーダは、そのまま頭をロッカーに打ちつけて、まっすぐに正面を睨んだ。
他のチームメイトもティーダと同じ気持ちを抱き、話に乗っかるようにして唸るように喋り出す。
「他国の進化が妬ましいんだよ。いよいよザナルカンドとベベル、二大都市国家の戦争も本格的に始まった・・。ブリッツどころじゃなくなるな」
そこには、憎々しげとした歯ぎしりも混じっていた。
チームメイトたちの中には、この試合のために日々研鑽を重ねてきたために、この理不尽な現状にベンチで座りうなだれている者もいる。
時間だけが無為に過ぎて行き、そのうちにマネージャーがやってきて、今日の試合はないことと解散を告げて去っていく。
控え室にこのままずっといても仕方ないのでティーダたちは着替えを済まし、ブリッツ会場を後にした。
会場の裏口から出てきた選手たちを待っていたのは熱狂的なファンであった。
出待ちをしていた沢山のファンが一斉に甲高い声をあげる。
「キャー!!」
皆が各々に手を思い切り振ったり、カラフルな電光を灯す棒を振ったりしてアピールをしている。
ファンたちの大歓声が集う中、大勢の警備兵が横並びとなり道を作る。ファンたちは興奮しているために、警備兵を押しのけようとして、我先にと選手へ手を差し向けていた。
「押さないで!」
警備員たちの必死の制止の声も、ファンたちの耳には全く届かない。
ファンたちの視線を一身に受ける中、ティーダは
「延期は残念だったけど次の試合はその分も大暴れする予定だから宜しくっス」
と、颯爽と手をあげて軽快に駆け出した。そこからさらにファンたちの間で悲鳴に近い声があがる。
黄色い声援を送るファンたちは一斉に押しなだれ、荒れ狂う波となる。それを警備兵の防波堤がかろうじて食い止めていた。その奔流のなかで、場違いに一人静かにたたずむ女性がいた。ティーダからかなり近い距離で熱心に彼をみつめる双眼がある。
「〝そこの子″も、どいてどいて!」
押しのけられるように、警備兵の圧力によって後ずさりする女性。
「・・」
しかし、その女性は周りにもみくちゃにされながらもティーダから視線を外すことはなかった。
ザナルカンド郊外。
街の明かりを背にしてティーダは自宅への帰り道を一人歩く。この辺りまで来ると人気(ひとけ)はほとんどなく、夜の闇が確実に近くまで忍び寄っていた。
桟橋を通りかかりながら、そこで立ち止まるティーダ。
静かすぎるほどの海は誰を待つわけでもなく、ただそこに存在した。どこまでも透き通る闇色の空に薄い灰色の雲がゆったりと動いている。
そこからの景色を眺めながら、何を思うわけでもなく黄昏ていた。
「はぁー・・」
見つめていても何一つ変化のない暗褐色の海に漠然とした気持ちを抱く。何もないことは分かっているのに、目を離せずにいる。
『孤独を感じる?』
ふいに若い少年の声が語りかけてきた。
「え・・?」
突然の声に拍子抜けしたような顔をして振り返ると、そこにはフードを深く被った少年が静かに立っていた。顔は見えないが、その口は笑んでいるようにも見える。
少年と喋ることなく見つめ合う。波の音だけが二人を攫うように一定のリズムで押しては引くを繰り返していった。)
ティーダは深いまどろみから浮き上がるように目を覚ます。
目の前には見慣れぬ光景が映るが、それがすぐに旅行公司の天井だという認識にいたる。親しみが全く湧かない天井を眺めていると、雷光によって一瞬だけ明るく照らされ、より一層の陰影が浮き彫りとなった。
妙に生々しくはっきりとした夢で、起きた今でも現実と夢を区別が出来ないでいた。夢から覚めた後も頭の中で繰り返しながら多少の混乱をきたしている。
横のベッドを見るとライナーやカーシュは眠っていた。
ティーダは片手で額のあたりを押さえた。起きた今でもはっきりと先ほどの映像を覚えている。消えかけていた過去の記憶が夢を通して、鮮明に浮かび上がってきた。
激しい雨の音が、なぜだか無性に胸をかき乱すように逆撫でしてゆく。どうにも気持ちを処理しきれないティーダはやけに喉が渇いていることに気づいた。
ベッドから起き上がり、飲み物を求めてふらりと部屋を出て行く。
別室にてユウナたちが就寝する部屋にも、屋根に当たる雨の音が充満していた。時折響く唸るような雷鳴が耳もとにまで届いてくる。
横になりながらもユウナの思考は色んなところを駆け巡っていた。様々なことがありすぎて整理が追いつかないのが現状であった。そのせいでなかなか寝付くことが出来ずにいて小さく息を吐きながら、寝返りをうち眠気が来るのを待っている。
「眠れない・・?」
ノネが気づいたのかそっと声をかける。ユウナは閉じていた瞼を開けて、静かにノネの方へと向き直った。
「ごめん、起こした?」
暗闇の中で、ユウナとノネの目がひっそりと合う。
「私もなんだか眠れなくて・・」
ノネは深く息を吸い込み、深い森へと誘うように語り出した。
「・・亜人融和政策はね、もともとヨー爺が試みた条例だった」
降りやまぬ雨を背景の音楽にしながらユウナは、その言葉を静かに聞き入っている。
「集落を築くほどの人数に達しないハイペロ族やペルペル族といった亜人種達を合併させる事で、他種族との偏った差別感を減らしたかったの」
その政策の奥にある意味をユウナは、なんとなく理解できた。
ノネは布団から手を出して真上に上げる。その瞳に写るものは、生まれたときから切り離せない宿命の光であった。
「ハイペル族の特殊能力は緑魔法。・・幼い頃ね、ベベルで暮らしていたの。この力を気味悪く思う人が多くて」
ユウナはノネの力に対しての偏見や、薄気味悪さを覚えることはない。しかし自分たちとは違う異質な力や都合の悪いことへの拒否や否定は、前回の旅の中で何度も経験をしてきているので、ノネの言わんとすることを察することはできた。
ノネは先を続けていく。
「と、いうのも人化との交流を嫌う亜人種はあまりベベルのような大都市へは来る事が少なくて、本拠地であるトゥルースから商売で出稼ぎに出る者はあまりいなかった」
そこで話が少しとぎれた。ユウナはノネをみていたが、ノネの視線は枕の底に埋没するように落ちている。
しばらくの逡巡を繰り返したのあとに、再びユウナに目を合わせる。その目には幼き頃からの覚悟の光が鈍く帯びていた。
「・・私はヨー=マイカを叔父とし、また政治家として尊敬しているの」
ユウナの脳裏にヨー=マイカの顔が浮かぶ。エボン先代の総老師。ユウナを始めとして、このスピラでは知らない者はいない程の偉大な人物。
ここからノネは身のうちに潜む決意を吐露していく。
「総老師が築き上げた政治を受け継ぐと決めた私は日々学問を学び、剣術を極めた。比較されたくなかったの、この力だけで・・」
ユウナはこの会話を聞きながら、ノネがどれほどの努力と研鑽を重ねていたかが垣間見えた。誰にも知られることなく黙々と鍛練を積み上げていく日々が容易に想像できる。
ユウナはノネと接してみて、他人に自らの努力を簡単に話すような性格ではないことは充分に知っている。
そして、そのノネがこの話題を口にするということは、その続きの伏線であるということだとユウナは悟っていた。
ノネの会話は終盤にさしかかる。
「この職位である以上は誰に何を言われようと、指揮者とし個人的な感情に靡く事なく、あらゆる壁にぶち当たって行かなければならない」
それは個人的な意志を排除し、全てを投げ打ってでも目的を遂行する決心をもっていた。
「・・式典での予想は、ある程度出来ているの」
その手探りで何かを探すような口調からはためらいと怯えなのか、ノネの緊張が伝わってくる。
ノネは目を閉じ続いて大きく息を吐いた。ユウナにもその感情が伝染したのか、若干の緊張を感じ得ていた。
「覚悟はして来たはずなのに・・」
ユウナは正面にいるノネを見ながら、まるで鏡の向こうにいるかつての過去の自分を見ているような気分になった。
「・・私もそう」
ユウナも過去へと繋がる話を切り出した。
「『シン』を倒すまでの旅路で、不安や迷いが生まれた。多くの犠牲があった」
一瞬だけ喉に言葉に詰まり、ためらった。
「一生忘れられないと思った。悲しくて壊れそうになった」
ノネは、そこで初めてユウナの旅路が自分が思い描いている以上に過酷だったことを知ることとなる。召喚士のシンを倒す旅というものが表面をなぞることでしか感じ取れなかったものが、ユウナの言葉を通して生の体験を通すように旅の軌跡のようなものを感じ取ることができた。
まだ召喚士だった頃のユウナがどれだけのものを背負ってきたのか予測することしか出来ないが、それでも凄まじいプレッシャーを感じていたことは想像に難くない。
「覚悟していたはずなのに、実際はその現状を受け入れる事に戸惑って・・」
今でもあの時のことを思い出すユウナの目じりに光るものが滲んだ。
「でも誰もが望んだあの日、無限に広がる空に色々な思いを残して来たけれど・・」
ユウナの声の音色が変わった。取り返しのきかない羨望のような響きが混じり合っていた。
「決してあの覚悟は無駄じゃなかったんだってはっきりと私は今思う」
それはノネの心奥底にたしかに届く響きがあった。
ズッー・・。
衣擦れの音とともにティーダは、肩を壁に預けて浅い呼吸を繰り返していた。
最初はただの立ちくらみだったものが、次第に悪化していく。今では立っていることもままならずに、壁に寄りかかりながら意識を保つのがやっとの状態であった。
「・・っ、なんか目が霞む」
その異変がどこからやってくるのかわからないまま、無為に時間だけが過ぎていく。無情に降る雨の音がやたらと耳に残るような残響をもつ。
なんとか平常を保とうと深い呼吸を繰り返そうとするも、時間の経過とともに症状は悪化の一途をたどり、ついに視界が濁ってくる。
さらに平衡感覚を失いかけて、バランスをとることができずに崩れてゆく。頭から地面に倒れ伏せようとしたその時。
ふいに飛び出してきた何者かによって支えられる。ティーダは自然とその者に体の体重を預けることとなった。
顔が近いのか柔らかな吐息がティーダの頬にかかる。
「異界に触れ過ぎたんだね」
それは心配を発する声であった。
ビサイド寺院で仮面の者と一緒にいたフードを深く被る女の子、サイシスの大きな瞳がティーダの視界をよぎる。
突然現れた敵を目の前にしてティーダは警戒心を露わにしながら神経を張り巡らせた。
「・・お前、面の男の!?」
しかし、ティーダの体は糸が切れたかのように全く動かせない。
サイシスの顔には敵意はなく、むしろ憂心が募っているように見えた。
「無理しない方が良いよ。あなた幻光体も同然なんだから消えちゃうよ」
それは気遣いから出た言葉であったが、ティーダにとって受け入れ難い現実に貫かれた気分であった。触れられたくない核心ををつかれ、血の気が昇りついカッとなってしまう。
「黙れよ!?」
サイシスは努めて冷静に、いきり立つティーダにゆっくりと語りかけた。威嚇してくるその目をじっと見つめ返す。
「大声出さないで。・・今、ここで死にたいの?」
そこには、真剣に危惧している様子が見て取れた。
「っ・・」
ティーダは、体のしんどさとともに言い返す言葉が見つからず、顔をこわばらせるばかりである。
サイシスは顔を近づけながらみつめた。そして早口ですぐに本題に入る。
「・・時間がないの〝私もあなたも″。すぐにザナルカンドへ行ってあの人が待ってる」
消え入りそうな声のサイシスに、ティーダは眉間にしわを寄せる。
「あの人・・?」
ティーダには、彼女が何を言わんとしているのかまるで理解が及ばない。さらに何かを伝えようと口を開いた時、後ろから気配が動く物陰があった。
微かに揺れるその細い線は女性であった。
「どうしたの!?」
聞こえてきたのはユウナの心配を賭する声。ユウナからだとティーダが黒の長衣の者に支えられていることだけが分かる。
サイシスの表情が豹変し目つきが鋭くなった。冷酷さを顔に張り付かせ、余裕なくティーダを無造作に壁に寄りかからせる。そして踵を踏みながら反転し、前のめりでユウナに突進していった。
「!?」
薄暗い闇の中で突進してくる長衣の者にたいし、ユウナは事の状況が理解できずに構えることもできないまま立ち尽くしている。
ティーダはそれを食い止めようとするも、錘(おもり)のような身体はまるで言うことを聞かずに寄り添う壁から離れることができない。声すらうまく出すことが出来ずにいた。
サイシスはユウナの両肩を掴み、そのまま強引に押し倒してゆく。二人はバランスを崩しながらガラスに突っ込み豪快な音をわめき散らしながら表に飛び出した。
「ユウナ!?・・くっ」
ティーダは、無理に動こうとしてバランスを崩し床に突っ伏した。指先ひとつだけなんとか動かせるこの状況に、やたらと雨の降る音だけが耳障りにはいってくる。
ガラスが割れたことにより、一際甲高く雨の音が舞い込んできて、あっという間に廊下がずぶ濡れになっていった。
静けさを破るガラスが裂く音は、離れた場所にいるライナーたちの寝室に届くのにも充分なけたましさをもち合わせていた。
パッと目を見開くライナーは跳ね起きるようにして、上半身を起こす。すぐさま周囲を確認して、ひとつの変異に気付いた。
「ライナー!」
カーシュも同じく目を覚ましており、すでにベッドの脇に立ち上がっている。横で寝ていたはずのティーダがいない事変と不可解なガラスの悲鳴がひとつの意図を繋ぎ合わせていく。布団だけがくしゃくしゃとなり無人のベッドが、がらんどうになっていた。
ライナーは嫌な兆候をひしひしと感じ取り、服を着替えぬままサイドテーブルに置いてあった銃だけを握りしめ扉を勢いよく開けて部屋から飛び出していった。
降り頻る雨の中で二人は泥塗れになりながら転がって行く。
最終的にはユウナの上にサイシスが伸し掛かる状態となり、そのまま目一杯両手を押しつけてきた。
馬乗りにされながら、ユウナは濡れた地面へと突っ伏し、泥が顔にかかる。
のたうち回る雨が、容赦なく顔を叩いてきた。貪る(むさぼる)ような雨の音が容赦なく耳もとにざわついてくる。
ユウナの視界には正面から見下ろす情のない眼差しのサイシスと、その背景に轟鳴り響く稲妻が雨雲の中を走っていく姿が鮮明に映り込んだ。
雷音とともに、切り裂く声が響く。
「あんたは邪魔なの!」
雷の鈍い光がサイシスの瞳に映り込み、その目に悪鬼の衝動すら宿っている。
「何も知りもしないで暢気で良いね」
歪んだ口から紡がれる言の葉が突き刺さってくる。
ユウナの頬からガラスを突き破った際に斬り裂かれた傷口が刺すような痛みを伴う。
それを見下すサイシスは
「ごめんね、綺麗な白い肌が台無し」
と、悪びた様子を全く見せずに感慨なく喋っていた。
ユウナは左頬の鈍痛を感じながら、そしてサイシスに上に乗られたまま疑問を投げかける。
「あなたは誰?彼に何を?」
それを聞いたサイシスは刃のように細く鋭い目を向けたが、次第に笑いがこみ上げてきた。
「何様?大召喚士様?」
そこにははっきりとした軽蔑を含む恫喝さがあった。
「それ、そんなに偉い?」
不快そうに吐き捨てるサイシス。
「・・何が言いたいの」
「口先ばかりでものを言って、祈り子の力なしじゃ何も出来ない」
サイシスは、剥き出しの感情の高ぶりに任せるまま荒げる声音で激しく罵る。
怒りの感情は、高ぶりから次第に落ち着きへと変わり、そして凍り果てた気持ちに成り変わっていった。
「・・今のあんたは誰も救えない」
残酷さに歪んでいく屈託のない笑みが彼女の心を掠め取っていく。
「〝彼も救えない″」
「・・!?」
心から湧き出る痛みが全身に駆け抜けるような悲鳴となり行き渡る。そして蘇る記憶は、ルカでの仮面を被った者が放った一言であった。
(「召喚の力を失ったお前に何が残る」)
「私は・・」
ユウナの口から言葉は流れるものの、それ以上の意思をこめることはできない。心が進むべき方向を見失い、サイシスに為すがままにされていた。
無防備なユウナを踏みにじるように、さらにサイシスが憤懣をぶつけようとする。しかし、そこで自分自身に迫る気配を感じて、明後日の方角に目をやる。ほとんど咄嗟に両手を顔の全面でクロスさせ、身構えた。
サイシスが振り返ると同時に、叫び声が聞こえてくる。
自由落下をする雨粒が、ふわりと角度を変える。勾配を付けカーブを曲がるように急転回した。
サイシスの体に突如、突風がつき当たり突き飛ばされる衝撃がある。荒れ狂う強風とともに無数の木の葉が視界を遮った。
サイシスは無造作に木の葉をむしり取り、舌打ちをしながら後方に跳躍をする。
ノネは緑魔法を行使して風を巻き上げ、サイシスをユウナから離すために、攻撃を仕掛けていた。
サイシスは軽やかに地面を蹴り上げながら着地をして正面を向いた。雨音の中に複数の走り寄ってくる足音をサイシスは聞き取った。
サイシスは視野を広く保ちながら神経を張り巡らし、研ぎ澄ましていく。
暗闇の向こうからノネに続き、ライナーやカーシュ、そして遅れてティーダがユウナを囲むようにやって来た。
「面の男の!?」
ライナーはすぐにサイシスのことを認識する。銃を構え撃鉄を起こしトリガーを絞った。
ノネはユウナの頬を見て、目を見開く。
「血が・・」
ティーダもノネの言葉に反応して、急いで駆け寄った。
「ユウナ、怪我して・・」
「こんなの大丈夫だよ!それよりキミは?」
ユウナはティーダが先ほど倒れそうになっていたことに憂色をみせる。
ティーダは一瞬、戸惑いを見せながら
「あぁ、俺は大丈夫っス!」
と、やけに力強く言い放った。
ティーダたちの会話が進む中、一人釈然としながら立ち尽くすサイシスは興ざめした態度を見せていた。
「あーぁ、すっかり私悪者じゃん」
苛立たしさをを全面に出しながら肩を大げさにすくめる。この人数を前にしても、サイシスは動じることが全くない。
「じゃあ、納得出来る話を聞かせて貰おうか」
威嚇するように凄みながらライナーは、サイシスに敵意を込める。
サイシスは、ユウナに視線を流しながら
「私、その女も嫌いだけど、あんたも嫌いなの」
と胸糞悪そうに言い放つと、目の前のライナーを頑として睨む。
「・・面倒な事になっちゃった」
長い吐息を吐きながらそう言うとサイシスは雨に溶けるようにしていなくなった。あっという間にその場から消えてしまう。
「・・!?」
カーシュは、どのようにしてサイシスが退散したのか全く見当がつかなかった。
ノネも、不可解なその力に猜疑深い表情をする。
「あいつら、何を企んでる・・」
ライナーは、すでに銃を下ろしており疑問を呈していた。
「・・」
ティーダは、先ほどのサイシスの言葉が頭の中で何度も交錯をし自然と首が垂れていた。横に並ぶカーシュが声をかける。
「彼女も面の男の仲間・・?」
カーシュの問いに答えるはライナーであった。
「面の男を含めて三人・・。一人は男で、もう一人は今のサイシスって女だ」
ティーダは、サイシスとのやり取りを思い返していた。
「・・。(「時間がないの私もあなたも」)
それが一体何を意味しているのかは分からない。が、時間がないという表現に心当たりはあった。
ユウナもサイシスの言葉が胸に突き刺さっている。
「・・。(「今のあんたは誰も救えない。彼も救えない」)
的を得たその言葉に消えない雨の音が、染み込んでいく。
雨は無情に降り続けていたが、うっすらと東の空がにわかに明るみを帯び始めていた。