FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫   作:ふゆー

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④ウエポン

「痛い!」

ティーダは草原の上に尻もちをついた。

「って!」

ライナーは仰向けに突っ伏す。

しばらく横たわっている二人。

ティーダたちはよろけながら立ち上がった。

互いの生存を確認し合い、それから辺りを見渡す。

そこは膝くらいの高さの草が均一に生えるなだらかな斜面の草原であった。

風のなびく様が草が揺れる様子で見て取れる。

自然がとても豊かに育っていて、静かで穏やかな風景が広がっていた。

ひっそりとした雰囲気が包んでいる。

ティーダは自分の体をくまなくみる。

服に破れはなく、怪我等もしていない。

「生きてる・・よな!?」

自分が今ここにいることにたいして猜疑心をもつティーダ。

ライナーはぐるりと辺りを見渡した。

「〝トゥルース”・・な訳ねぇか」

ぼんやりとその風景を眺めるライナー。

事の成り行きを整理しようとするも、前後関係に脈絡がなく戸惑う。

「トゥルースって?」

そのとき、ティーダたちを通り抜けるように暖かみのあるすがすがしい風が吹き抜けた。

風はティーダたちの髪の毛と肌をふわりと撫ぜていく。

ティーダは大きく手を伸ばし背筋を伸ばした。

「ふんーーっ!はぁ」

空を眺めるティーダ。

「風が気持ちいい」

空は淡い緑に近い色合いで雲ひとつない。

スピラの空とは違う色の様相を見せていた。

ティーダの横にライナーが並ぶ。

「トゥルースはスピラの東にある〝ハイペル族″の本拠地だ。俺も上空からしか見た事ねぇけどこんな感じで、自然が緑が広がってた」

もう一度景色を見渡すライナーは首を傾げる。

「ビサイドから短時間では行ける距離じゃねぇし方角的落ちたとすれば‥」

言いながらライナーとティーダは顔を見合わす。

「今頃俺らは海の藻屑」

冷静に分析をしながぞっとするライナー。

ティーダも鳥肌が立っている。

「えっとすると俺達やっぱり・・」

しょんぼりしながら下を向き、そして何かに気づくティーダ。

「ぅあ!」

驚きながら悲鳴に近い声をあげる。

ティーダは自身の足元をみている。

足が宙に浮いて居た。

「!?」

ライナーはティーダを見て驚きながら自分の足を見る。そして例に漏れずに浮いていた。

「・・本当に藻屑になったのかも」

ティーダはがっくりと肩をおとす。口もとがひきつり目には力がなく虚ろであった。

ライナーは肩をすくめるのみで、それ以上は何も言わない。

憶測でこれ以上追求してもキリがないし、それよりも新しい情報が欲しかった。

ライナーは改めて辺りを見渡すが、平原が続くのみだった。

丘の上から見渡すと、南の方角に森に囲まれた街が見えた。

薄っすらとした靄がこの辺り一帯を覆っていて、それ以上先は霞んでいて見渡すことはできない。

すぐに二人は街へと歩いていくことを決める。

なだらかな草原をしばらく歩くと徐々に森が近く大きくなってくる。

そして森の入り口にさしかかった。

森の入り口には、ぽっかりと穴があいたようなトンネルがあった。

入り口を見上げる二人はそのまま入っていく。

森の中にはアーチ状の回廊があり、ずっと先まで続いている。

古びた石畳の間からは木の根が無数に這っていて、森に侵食されたようであった。

行き交う人々の数は少なく、どれもが細い体躯で静かな雰囲気を醸し出していた。

皆、長衣や外套をきており肌の露出はほとんどなかった。

興味津々で先行するティーダ。

しばらく歩いていると天を覆う木々が切れる場所、大きな広場のようなところに出る。

そこは、空からの光が届き、草花たちが楽しそうに揺れていた。

広場中央には正方に区切られた噴水がある。

石像から噴水の水が流れると思われるのだが、今は水が流れることがない。

噴水の水を貯めるであろう貯水槽には苔がむしている。

そこから伸びるいくつもの水路が芝生の絨毯を横切って、しかしながら今は水路としての活用は全くなく、干からびた根が張り巡らされていた。

噴水の石垣となるレンガにも苔がむしており、その間から目の覚めるような緑と花々が顔を出し嬉しそうに揺れている。

足元には柔らかい草が敷き詰められていて、歩くと弾力で弾む。

ティーダは裸足で歩いたら気持ち良さそうだとか、寝転がったら気持ち良さそうだとか、そんなことを考えて歩いていると、ふと目につくものがあった。

自然と目がそこに引き寄せられる。

木々の切れ目からひときわ高い塔のような建物がみえる。

ティーダは背伸びをしてその建物を眺めようとした。

遠くから見てもその建物はかなりの大きさなのがわかる。

「城!?」

ティーダはその建物に興味を示し、足を向けた。

そのあとをついていくライナー。

広場を抜けると、再び木々に覆われた街中の景色が広がっていた。

木のざわめきが頭上で囁く中、ライナーの耳にひとつの声が届いた。

「魔法は考えて使いなさい!使い方次第で誰かを傷付けてしまうの」

ハッとするライナー。

その声をする方を見ると、母親が厳しい表情をして子供を叱っていた。

ライナーは足が止まり、その光景に魅入ってしまう。

閉ざされた過去の記憶が蘇る。

(「・・よく考えろ」)」

思い出される過去の情景。

ライナーの脳裏に響く言葉。

何かに囚われたかのように呆然とそれを眺めるライナー。

「ライナー!」

ティーダの呼びかけにライナーは、我にかえった。

「!?あ、なんだった」

ライナーは先を進むティーダの横に追いつく。

ティーダは正面をむいた状態でライナーに小声で語りかけた。

「後ろ‥」

ティーダは目配せでライナーに何かを伝えようとしている。

その視線の先を追うライナーはティーダの言いたいことに気づいた。

ティーダ達の背後、家や木に隠れ潜む兵士たちがいる。

身を隠しているものの、街中で鎧を着ているのでかなり目立つ。

「歓迎してくれてんスかね」

ティーダの軽口に対し

「よく言うぜ」

ライナーはため息混じりに返す。

二人は街外れへと続く裏道へと出た。

 

 

先頭をゆく兵士がティーダたちの向かった先を指をさし、他の兵士たちに追いかけるよう指示を出す。

ティーダたちが曲がったのを見計らうと、見失わないよう急いで走り出した。

兵士たちが曲がったその先、眼前にティーダたちが迎えた。

兵士たちはどよめき思わず後ろに下がる。

「なんの用っスか」

怪訝そうに話しかけながらティーダは兵士に詰め寄る。

「・・〝ザンゼス様″の命だ」

兵士の明らかな攻撃的な意志をもつ口調。

ティーダの正面にいる兵士の手が光った。

火の玉がティーダに放たれる。

噴煙をまき散らしながら、火の玉はティーダへと迫った。

ティーダはとっさに剣を前にかざす。

火の玉は剣に当たりながら豪快に破裂し、火の粉を撒き散らした。

「あっぶね!?問答無用ってか」

兵士たちのいきなりの攻撃にティーダは怒り、兵士らを睨む。

「とんだ歓迎だ!・・黒魔道士?」

ライナーは、長頃の上に甲冑をつけている兵士らを観察する。

皆、それぞれに手にする武器は杖系のものが多い。

「しかも物理専門の俺らには不利だな」

銃をホルダーから取り出し、兵士らへと向けた。

兵士たちは杖を構え、二人へ向けて魔法の詠唱を行う。

「なら、早いとこ片付けるまで!」

ティーダが剣を抜き、速攻で兵士たちに走り込んだ。

ライナーの銃撃は相手の急所をさけ、兵士たちの手足に集中させる。

銃弾は甲冑により弾かれるも兵士たちは動揺し、隊列を乱し始める。

ティーダはすでにトップスピードとなり颶風の勢いで兵士たちへと疾走していた。

兵士たちの詠唱と魔力がたまる前に斬撃が届く射程距離まで踏み入る。

あまりの速さに焦る兵士たち。

何人かの兵士がたまりきってない魔力で、ティーダに魔法を打ち込もうとする。

兵士たちの間を突っ切っていくティーダ。

兵士たちの視界を青の軌跡が疾走し、次々と兵士たちの意識が途絶えていった。

剣の背の部分で全ての兵士を峰打ちするティーダ。

兵士たちは一様に崩れ倒れた。

鎧が擦れ合う音が小気味に響く。

倒れる兵士を見下ろすティーダとライナー。

何やら考え事をしていたティーダは、にやりと悪い笑みをこぼす。

ライナーはティーダが良からぬことを企んでいるなと察した。

 

 

「まずは情報収集的なさ?!」

ティーダの提案にたいし

「かなりのスリルとリスクだな」 

ライナーは肩をすくめ応じる。

2人は気絶する兵士らの長衣と甲冑を拝借し、それを装着した。

幸いにも兜もあるので、顔は覆われ誰か分からなくなっている。

お互いに変装を見比べながら不審な点はないか確認をした。

見た目の違和感は全くない。

あとは潜入する際にどう演技で乗り切るかにかかっている。

ティーダたちはさっそく先に見える立派な建物へと向かった。

道中、ライナーがこう言われたらこう切り返して喋るようにティーダに指導した。

ティーダはこの変装が気に入ったらしくウキウキしていて、ライナーの話があまり入ってこない。

ライナーはそれをため息まじりに見ながら、ぶっつけ本番だなと思う。

森を抜けた先に、煉瓦造りの背の高い壁を越え、さらにその先。

先ほど遠くに見えたはずの巨大な建物が眼前に迫ってきた。

建物の手前には広大な庭が広がっており、色鮮やかな草花たちが、ティーダたちを歓迎した。

二人は錆と変色で長年の時を経たと感じる背の高い門を潜り抜ける。

そしてティーダとライナーは、建物の入り口にあたる門番のところへと来た。

門番たちはティーダたちに敬礼をし、二人を疑う気配はなかった。

「例の件にて救援の要請を」

最初にライナーが門番に話しかけた。

「同時に現状報告を」

続いてティーダ。

門番の出方を警戒する二人。

「ご苦労、すぐに手配する伝達を終え次第任務に戻ってくれ」

二人は安堵の息を吐く。

ティーダたちは門番に敬礼。

拳大ほどもある厳重な鍵を解錠し、門が重々しく音を立てながら開いた。

門を潜るティーダとライナー。

その先は建物の内部となっている。

二人は平然を装いながら建物内部へと入っていった。

 

 

長い廊下が続く。

豪奢な赤い絨毯がひとつの線となり、二人の行く先を導いているかのようだ。

壁際に並ぶ蝋燭の揺らめく火が廊下を照らしていた。

「侵入成功」

兜の下、自信ありげな表情をするティーダ。

「まさかだ・・」

ライナーはこの状況に、全く気を許していない。

「バレるのは時間の問題だぞ。いやもうバレてんのか?」

ライナーは常に警戒心をもって歩いている。

その横でティーダは特に意味もなくライナーに敬礼。

ライナーはそれを横目で見ながら先に進んでいく。

ライナーの後を追いかけるティーダ。

2人はさらに廊下を進んでいった。

「静かだなー」

ティーダはどこまで行っても変わらぬ景色の廊下を見渡す。

窓から差し込む陽の光が穏やかな日常を連想させた。

「人っ気がねぇ・・」

ライナーはあまりの静けさに徐々に不審感を増していく。

廊下にはいくつか扉があり、その全てが閉まっている。

二人はそれには目もくれず、先へと急ぐ。

しばらく進んで廊下が終わった先に、円形の大広間があった。

そこは、遥か彼方に天井があり、塔の内部にいるかのような気にさせる。

ティーダは上の階層に登る螺旋階段を見つけたが、その階段は目を引くものがあった。

その階段には植物が巻きつき、まるで植物で構成された階段のように見受けられる。

「おい!こっち」

大広間にある巨大な扉を開けたライナー。

ライナーはその目に映る景色に唖然としていた。

「・・!?」

ティーダも大広間の奥の部屋へと歩み入る。

それは過去に何度も目にした光景。

息を飲んだティーダはやっとのことで口から言葉が紡がれる。

そこはまるで

「・・寺院?」

「似たような場所だよ」

ティーダたちの後方で声が響き、足音が聞こえてきた。

構えるティーダたち。

暗がりの中から黒髪の青年が静かに歩いて来た。

大広間からの陽の光で彼の姿が公となる。

目鼻、顔出ちは育ちの良い気品のあふれた印象を与える。

街の人たちと同じような服装、青の高貴な長衣を着ていた。

長衣の上からでも、彼の肉体のたくましさは見て取れる。

青年は静かな眼差しで二人を見ながら口を開いた。

「外を騒がしているお客人だね」

「・・かってに騒いでんだろ」

ティーダが迷惑そうに返す。

「間違いねぇ」

同意するライナー。

「野放しには出来んのだよ」

青年の後方からさらにもう一人の男性が現れた。

青年と同じ長衣、さらにその上から様々な色を集めた刺繍を施した外套を羽織っている。

陽の光を浴びたその人物は白髪、そして皺が刻まれた初老の男性であった。

険しい顔をしてティーダたちを睨む。

「・・誰の差し金より〝ウエポン″へ来た?」

その声は唸るように吐き出される。

「何を企む」

「企むも何も俺達だって何が何だかで!」

ティーダは戸惑いつつも、自身の経緯を説明する。

初老の男性はティーダたちを一瞥した。

「・・私はザンゼス。そうだな魔族の族長とでも言っておこう」

「魔族?!」

ティーダはザンゼスの魔族という単語に驚く。

黒髪の青年がザンゼスに続けて喋る。

「時共に物体界を構成する基礎概念であり無数の広がりを持つ空間には〝異空間″が存在する。君達はここウエポンと言う名の異空間に位置する」

ザンゼスの表情が苦渋に満ちた。

「先代の魔族がこの異空間に移り住みとても長き平和な時を経た。あのような失態を起こすまでは」

「・・」

黒髪の青年は視線を下に落とし、その表情に陰が出来た。

「・・スピラへは帰れぬぞ。生きてはな」

 

 

ザンゼスの瞳に憎悪の色が浮かび上がる。

「!?俺達が何したって言うんだよ」

ティーダはザンゼスになんとか事情を説得して納得してもらおうと試みる。

しかしザンゼスはティーダの言葉に一切耳をかさない。

両手に込められた魔力が一気に膨れ上がる。

戦うしかないと悟るティーダたちはすぐさま鎧を脱ぎ捨てた。

乾いた音を立てて、鎧と兜が転がっていく。

ザンゼスは詠唱を終え、右手を振りかざした。

「回避だ!」

ライナーが叫びながら走る。

「遅いわ」

ティーダとライナーの目の前に無数の火花が飛び散る。

それは急速に拡がり巨大な業火へと膨れ上がる。

城下町での兵士が繰り出した炎の玉と比にならない大きさでティーダたちを飲み込もうとした。

飲まれたら一瞬で丸焦げになるであろう炎の塊をティーダとライナーは別々の方向へ飛んだ。

ライナーは、ザンゼスに銃口を向ける。

ザンゼスはすでに詠唱を終え、手をかざした。

手にはチカチカと瞬く光が集まる。

それをライナーに向けて勢いよく振りかざした。

ライナーの頭上から、いくつもの雷の柱が飛来し、躱そうとするも、そのうちのひとつをくらい全身が麻痺して動けなくなる。

ティーダは青い光を放ちながらザンゼスに迫り、肉薄しようとしていた。

ザンゼスの口の端が邪に歪み、笑う。

ティーダの走る前方、左右から同時に氷の柱が突出する。

それを咄嗟に飛びながら躱すティーダ。

さらなる氷の巨大な牙がティーダをえぐろうと、下から突き出してくる。

ティーダは身体をひねりながら牙をかわし、その氷の表面を蹴りつけて大きく飛翔した。

空中からザンゼスを仕留めようと剣を構える。

ライナーはまずいと思うが、まだ体が痺れ思うように動かない。

ザンゼスはティーダを仕留める準備が完了していた。

その足元から先ほどとは比べものにならないほどの鋭い巨大な氷の柱が次々と穿たれる。

それらはティーダを貫こうと一直線にめがけて突き走っていった。

ティーダは空中で身動きがとれず、剣と盾でガードをしようとするが、全ての氷の牙を到底防ぐことは無理であった。

ザンゼスは余裕の表情でティーダが串刺しになるのを待つ。

ティーダは落下しながら、自ら氷の牙の群れに突っ込んでいった。

氷がティーダに触れ、鈍い音が響きわたった。

一瞬、目を背けたライナーは、しかしすぐにティーダを見る。

ライナーは目を疑った。

氷の刃は軽やかな音を立てて割れて地面に崩れていく。

地面に当たった氷の屑は次々と跳ね返り飛び散っていった。

地面に降り立つティーダ。

辺りに転がる氷の塊をみて、何が起こったのか分からないティーダは辺りをきょろきょろ見渡す。

ザンゼスの足元が青白く光り出し急速に冷えていく。

その表情が次第に厳しくなった。次の瞬間、いくつもの鋭い氷が濁流の如く地面から突き出し、ザンゼスを飲み込んだ。

カーシュがティーダを守るために攻撃魔法を反射させ、それにより跳ね返った魔法をザンゼス自身がくらうこととなった。

唖然とするティーダとライナー。

一連の流れで何が起きたのか理解できない。

ザンゼスは完全に氷に飲み込まれた。

しばらくし、氷にひびが生え始め一気に崩れ落ちる。

その中から出てくるザンゼスは怒りの形相に満ちていた。

吐く息が白くなる。

ザンゼスには衣服ひとつ傷を負っていない。

今のでダメージを全く負っていないザンゼスに驚くティーダたち。

「・・なんのつもりだ、カーシュ」

カーシュを睨むザンゼスの双眸。

「・・」

カーシュと呼ばれた黒髪の青年は、前方でティーダたちと戦うザンゼスを静かに見ているだけで、何も返さない。

ザンゼスはカーシュから視線を逸らす。

全身から再び魔力が立ち込め出した。

先ほどよりもさらに強い闘気が投げられ、それを肌を刺すような感覚で実感するティーダたち。

ライナーは体の痺れがとれ指が動くのを確認し、走り出す。

ティーダとライナーが一瞬だけ視線でコンタクトをとった。

地を蹴り飛ばし、ザンゼスに先行するはティーダ。

ティーダは青い光を身に纏い、氷上に立つザンゼスに向かい走った。

ライナーは赤き光を放ちながらザンゼスに狙いを定める。

そして、銃弾を一発だけ放った。

赤き閃光がザンゼスへ突き走る。

ザンゼスがすぐさま火炎による壁を作り出し、銃弾を飲み込もうとした。

しかし銃弾は軌道が変化をして、火の壁をすり抜けながらザンゼスへと一目散にひた走る。

ザンゼスは目を細め、次なる魔法を行使しようと詠唱を始めていた。

魔法が放たれようとした瞬間、銃弾が破裂。

ザンゼスの周囲に煙幕が広がり、濛々と立ち込めた。

視界を奪われるザンゼスは、こんな撹乱目的の子供騙しが通用するかと苛立ちを覚える。

煙幕の中で、青い光がちらりと見え隠れする。

ザンゼスはどこから襲撃されてもすぐに対応できるよう周囲全体に視線を走らせた。

手に持っている杖を反転させるザンゼス。

柄の先になるにつれ、どんどんと細く尖っていて、その先端で人を突けば、致命傷を与えることはできる。

ザンゼスは、〝ブリザド″を杖に放ち、杖に鋭い氷を纏わせる。

これにより、殺傷力が格段にあがった。

触れるだけでも切れそうな氷の刃は、ザンゼスの意志を体現しているかのようであった。

よもやこんな下劣な罠で本当に勝てると思っているのかと侮辱の意を込めるザンゼス。

所詮は小僧二人。浅はかなる知恵だ、と一蹴した。

ザンゼスの目の前の青い光が大きくなり、それにめがけザンゼスは水平に杖を振る。

しかし、杖は空を切るのみで、煙がほのかに揺れるのみであった。

ザンゼスは軽く息を吐き、視界が全く見えない中で俯瞰する。

ティーダの動きを先読みするザンゼス。

青い光は、ザンゼスを欺くための罠だということに考えが至る。

光に注意を払うことによって、逆に光がないところには注意を払わない。

それが相手の狙いだということをザンゼスは理解していた。

あの青い光は本人の意思で自由に出したし、やめたりすることができる。

おそらく次は青い発光をやめ、ザンゼスが油断をしたところを狙って攻撃してくるに違いない。

ザンゼスはそう踏んでいた。

そして、その予想通りとなる。

ザンゼスの頭上後方から気配が近づいてきた。

それに気づいたザンゼスはその機を逸せず、避けることなく、そして躊躇なく杖を突き出した。

尖った切っ先が、煙の中を疾走する。

煙の向こうにある影を鈍く何かを貫く感触がある。

確実に仕止めたと思い、しかしザンゼスは煙の中から出てきたそれに驚く。

それは先ほどティーダたちが脱ぎ捨てた甲冑であった。

思考の動揺が一瞬の隙を生んだ。

次の瞬間、ザンゼスの鳩尾に衝撃が走った。

ザンゼスの動きがとまり、自らの下腹部をみると剣の柄がめりこんでいるのが見えた。

あまり激痛でうずくまる。

「・・小癪な」

ザンゼスは絞り出すようにそれだけ喋るとその場で意識を失い倒れこんだ。

煙幕が晴れ、ライナーはザンゼスを見下ろすティーダを見つけ、ほっとしながら駆け寄った。

カーシュは一連の流れを何も言わずに静かに見守ってきたが、静かに動き出した。

ティーダは警戒心を増す。

ライナーはカーシュに銃口と敵意をむけた。

カーシュは二人を真摯な眼差しでみる。

「話がある。取引をしたい・・」

カーシュはティーダたちの目の前まで来た。

二人の攻撃を受ける距離まで来て、それでいて敵意もなく無防備なカーシュ。

ティーダとライナーは目を合わせる。

時間のない中で、初見の相手と取引を行うというのはリスクは高いが、現状では最善の選択に思えた。

うなづくティーダにたいし、ライナーは肩をすくめる。

三人は大広間を後にした。

 

 

騒ぎを聞きつけた兵士たちが、続々と見張り台に集まってくる。

カーシュを先頭に、ティーダとライナーは大勢の兵たちを前にしていた。

兵士たちは血相を変えて口々にカーシュに向けて訴えるように叫んでいる。

カーシュは特に表情をかえることなくそれをじっと聞き続けていた。

兵士の一人が周りの制止を聞かずに、魔法をティーダにむけて放つ。

火の塊がティーダにめがけて飛んでいくが、それをカーシュの放つ火の塊がぶつかり相殺した。

ぶつかった衝撃で、轟音とともに見張り台に盛大に火の粉が飛び散る。

その様子をみて、大多数の兵士たちは息をのんだ。

ティーダは手をかざしながら火の粉を振り払う。

カーシュの行為に驚きとともに、決意の固さを感じた。

しばらくして、カーシュは目を閉じ、その場から微動だにせずに何かに思いを馳せる。

再び瞼をあけたその瞳には、何かを決別した強い意志が宿っていた。

カーシュの持つひび割れた透明なクリスタルが虹色に光り始める。

「〝ブラン″・・?」

ライナーはカーシュのもつクリスタルをみつめた。

そこへさらに大勢の兵士達が集まりだしてきた。

見張り台へ続く階段は兵士たちで埋めつくされようとしている。

そのとき、カーシュたちの後方の空間が歪みはじめた。

兵士たちが、わっと声を大にする。

「カーシュ様!?何を」

カーシュはそれまでずっと真摯に兵士たちを見ていた瞳を逸らした。

そして兵士たちに背を向け歪みに向かって歩き出す。

兵士たちの叫びは強くなる一方だが、カーシュは振り返らない。

ライナーがその後に続く。

ティーダは兵士たちの方を振り返り、その悲痛な姿をみて少しだけ躊躇する。

だが、ティーダも前を向き歩き出す。

そしてティーダたちは歪みに姿を消した。

 

 

歪みの中からティーダたちは現れる。

揺らめきとともにティーダたちは地上へ降り立った。

すぐに周りを見渡すティーダ。

そこは海が一望できる港であった。

活気溢れる歓声が遠くから聞こえる。

見覚えのある景色でそこがどこかすぐに分かった。

「ルカ・・!?」

そこはルカの港。3番ポートであった。

昔とほとんど変わらぬ景色。

ティーダはなぜここにいるのか自分の目を疑う。

横にいるライナーはぽかんとしていた。

「・・理屈じゃねぇ」

「そうか!魔道士はテレポートが使えるんだ。ルールーも使ってた」

ティーダは自分の記憶を頼りに結論を導き出そうとする。

「・・そうなのか?」

ライナーがカーシュへ問いかける。

カーシュが口を開く。

「この力はあくまで異空間への行き来のみ。魔道士が使うテレポートとは少し異なるよ」

カーシュは手元にあるクリスタルを見つめる。

「‥この魔石が必要不可欠だしね」

ライナーが興味深そうにクリスタルを覗き込む。

「それ、ブランか?」

「ブラン?」

聞いたことのない言葉に疑問を抱くティーダ。

ライナーはティーダに視線を流し、説明をした。

「属性の一種だ。ブランは白魔法特有の白いクリスタルなんだが」

ティーダもライナーの横からクリスタルを覗き見る。

「白・・と言うより透明だよな?」

率直な感想を述べるティーダ。

カーシュはクリスタルを大事そうに見つめながら

「名のないクリスタルさ。無属性のね」

その時、ひときわ大きな歓声があがった。

三人は歓声の方角をみる。

「盛り上がってんな!?」

嬉しそうなティーダ。背伸びしながら、なにがやっているのか見てみようとする。

ライナーは歓声の方角を眺めながら

「そうか、ブリッツの〝開幕戦″だ」

と、ルカでの一大イベントを思い出した。

「シーズン始めは1番盛り上がる」

ライナーは遠くに見えるスタジアムを眺める。

「開幕戦かー。良いなぁ、俺も出たいっス」

言いながらティーダは落ち着きなく動き出す。

心の脈動が体へと素直に伝わり、じっとしていられない。

カーシュはきょとんとした顔をしていた。二人の会話の内容についていけない。

「・・あ!やっべ」

ライナーは何かを思い出す。顔色が優れない。

「なんだよ!?!」

ティーダはライナーのほうを振り返り、怪訝な顔をする。

「飛機だよ!」

ライナーはうなだれつつ片手でこめかみのあたりを抑える。

どう言い訳をするかを考えるがいい案が全く浮かばない。

「あ・・」

ティーダもそのことを思い出し、唖然とする。

ライナーの続きの言葉を待ったが、しかし何も言わず首を横にふるばかりだ。

カーシュは静かに二人のやり取りを聞きながら、辺りを見渡す。

そこには初めて見る広大な海、そしてどこまでも青い空があった。スピラという世界に初めて足を踏み入れ、広がる景色に新鮮な気持ちを抱いていた。

ティーダたちの悩みは露知らずに。

 

 

 

 

第二章『見え始めた歴史』へ続く…。

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