SAO[ソードアート・オンライン]、ALO[アルムヘイム・オンライン]、GGO[ガンゲイル・オンライン]、AW[アンダーワールド]
これらの作品の名前をどれか一つでも耳にしたことがあるはずだ。あの2012年の最後の半年、絶大な人気で検索ワード数が約18,400,000件という桁外れの数字を叩き出した“あの”人気作品だ。今や小説という枠組みを超えて、ゲームやアニメ、はたまたカードゲームに携帯アプリなどといった多種多様なコンテンツにまで拡大した。
2クール(全体で25話)という短い間でもグングンとFANを獲得していったSAOは、Blue-Ray&DVDの第一巻の総売り上げは3万という数字を叩きだした。これは人気作品でもなかなか取れない売上で、ネットでも少なからず話題となった。
この作品にハマった奴らはこんな言葉を残している。「誰かSAO作らねえかな・・・」と。
毎晩ネット住民とFANたちの間で話が盛り上がり、様々な議論が繰り広げられた。あのVR(バーチャルリアリティ)世界を構成するには何が必要なのか。どれだけの情報(プログラム)と時間があれば完成を迎えるのか。
この議題は最終的にスパコン(通称、スーパーコンピュータ)並みのサーバーがいくつあってもあの仮想世界は作れない、という結論にいたった。それでも諦めまいとするFANたちの間で議論は進んだが、2020年の12月11日――今現在でもあれだけの仮想世界を組み立てる理論とプログラムは完成されていなかった。
だが、世界は広かった。そして――世界は大馬鹿野郎(クレイジー)共で溢れていた。SAOの世界感に魅了された億万長者たちによる莫大な予算の投資と全世界の五本の指に入るほどのプログラマー達によってその不可能とまで言われたVRMMORPG(仮想世界多人数同時参加型オンラインRPG)――自らが仮想世界にダイブしてその中の1プレイヤーとして楽しむMMORPGを完成させた。
それが全世界のネット掲示板で発表されたのは意見が出し尽くされ、VRMMORPGなんて作れない、という諦めの一文が投稿されてから年を明けを挟んでの3週間後の2021年1月1日の話だった。年明け、年末年始真っ盛りの日本のサーバーでは関係無しに荒れに荒れた。「嘘だ」、「ホントだ」のと。
ネット掲示板はどこでも情報の更新を見るがために訪れた人たちによって、負荷がかかり落ちかけたところもあるらしい。そんなことはさて置き、新たに投稿された「α版に参加したくはないか?」という制作者と名乗る男からの一言で一気にその話題は広がり、半信半疑ながらも応募した人たちによってその真実は明らかにされた。
「VRMMORPGは存在した。 ――フルダイブ世代の幕開けだ」
そんなコメントがいくつかのネット掲示板に書かれた。それを目にしたFANたちは発狂し、泣き叫んだという。それほどまで、あのASOはインターネット世代の若者たちの心を震わしたのだった。誰が限定100名のα版、『クラウンズブレイド・オンライン』と呼ばれたVRMMORPGをプレイしたのかは秘密だったが、一部のプレーヤーはその時感じたこと、自分が体験したこと。出来ること出来ないこと。色々なことを自分のブログに書き思いをぶつけた。
それを読んで歓喜に震えた人もいれば、「夢見人じゃないのか?」と誹謗中傷を書くものもいた。しかし、あの無限に広がるフィールドに洞窟や遺跡、湖、そして草原。その中に出現する人工知能AIを搭載したモンスターたちを含んだ世界――『クラウンズブレイド・オンライン』は実在しているのだった。
だが、こんな言葉が掲示板に投稿されるのも時間の問題だった。
「“あの”ゲームは危険だ」
それが社会的問題として上げられたのは、発売日を発表してから1ヵ月後の話だった。何故問題視されたのか、それはもう言うまでもない。ゲームをプレイするにあたってユーザーは誰一人として例外なく小説のSAOに出てくるナーヴギア(NerveGear)に似た物を頭に装着するからだ。その今までと一風変わったハードの内側には電子機器が埋め込まれて、脳に仮想の五感情報を与える事で仮想空間を生成する。というところまでは良かったのだが、無数の信号素子によって発生した多重電界でユーザーの脳と直接接続し、目や耳といった感覚器にではなく、脳に直接というところが問題となった。つまり、それはあの作品と瓜二つだったのだ。
ということは、つまり言い換えてしまえば、たかがゲームするのに“自分の命を懸けている”のと動議である。もしサーバーに何らかの支障が出て脳にダメージがいってしまった場合、想像もつかないほどの障害が出てしまう。
最初人々は驚き慌てふためいた。しかし、その不安も一時のもので「でも、これはゲーム」という安心感と「あれは作られたお話の中の物語」という概念とFANたちの「現代の技術ではそこまで脳に深刻なダメージを与えるほどの電子信号を送れないだろう」という集団心理で、その騒ぎは5日で落ち着いた。
丁度その頃、「第二の人生をはじめてみないか」というこの『クラウンズブレイド・オンライン』のキャッチコピーが決まった。それは若者たちの心を瞬く間に奪って行き、押えきれないほどの興奮を残した。もちろんそれにはコアユーザーたちも同じでα版の後継機のβ版への参加意思を示した。
ここまで来きてしまうと、その被り物のハードは脳から体へ出力される電気信号も回収するので、仮想空間でいくら動き回っても現実世界の体はピクリとも動けない、なんてリスクやログアウト時に何か問題が起きて脳に障害が残るかもしれない、という恐怖なんて誰も考えもしなくなった。
オープン版αでは抽選で選ばれた100人、その後のβ版では先の100人に加え900人の合計1000人がその世界に足を踏み入れた。そこで新しく加わった900人ものMMORPG歴の古株プレイヤーも含めて皆同じことを感じ、考え、口にした。
「これはゲームであって、遊びではない」
これほどしっくりくる言葉はないだろう、と全員口をそろえて言った。これはあのSAOからの抜粋だが誰も馬鹿にしたり笑ったりしなかった。ただ唖然と目の前に広がる広大なフィールドと呑み込まれるような蒼い空に息を呑み、馬鹿みたいに複雑でモンスターのいるダンジョンを散策し己の足とも言えるキャラクターで走り回った。
この言葉は悪い意味ではけしてない、ということだ。踏みしめているのは現実ではない世界。ゲームをしているのにリアルなように感じるこの気持ち。そして、遊びのような現実感。
そんな世界がこのVRMMORPG――クラウンズブレイド・オンラインの魅力そのものだった。
広大で見渡す限り草原のこの第1階層のフィールドに三人のプレイヤーが座っていた。この中の鷺沼朝兎(さぎぬまあさと)もこの素晴らしき世界に魅了された一人だった。
特徴として垂れた髪から眠たそうな瞳が覗くがその風貌は歳相応とは言い難い雰囲気を醸し出している。カスタマイズされたコート徴の服も彼オリジナルのものでどれだけこの世界での生活が長いかを語っている。背中に携えた片手用直剣が邪魔になろうとお構いなしに横になると、手を伸ばして日陰を作った。そして頭の上へと手を伸ばす。
(ん~、これがゲームの世界だなんて信じらんないや・・・)
仮想嗅覚エンジンが作り出した現実世界の匂いを再現しているのか、ひくひくと鼻を動かすと緩やかに吹く風の中に木と草の匂いに交じる微かな土の匂いが感じられた。
「うわー、すげーな・・・流石期待の新作のMMORPGだ」
朝兎――プレイヤー名:ASAGIの隣に腰かけている眞昼(まひる)――プレイヤー名:MASAが感嘆だ、と言わんばかりに口を開けた。
弟に進められてクラウンズブレイド・オンラインを始めた眞昼だが今では幼馴染の胡桃沢真夜(くるみざわまや)と三人で初めてから1日と欠かさずこの世界にダイブしている。だが毎回同じコメントを残してしまうくらいこの世界は完璧だった。まさに「第二の人生をはじめてみないか」という制作者――アンディ・クレスがキャッチコピーとした通り弟の朝兎、その兄の眞昼、そして幼馴染の真夜はこの世界に魅了されていた。
「違いますよ。“VR”MMORPGです。その辺に転がっている数字の羅列程度のゲームと一緒にしないでください」
「おお、怖い怖い。今日も真夜はキレてんな。 いちいち細かいっつうの」
「別に細かくなんてないです。それに眞昼さん、わたしをリアルネームで呼ばないでください。ゲーム内のわたしは細剣(レイピア)使いのMAYAです」
そう言うとマヤは腕を組んだ。腰に吊るされたマサと同じ形の片手用直剣がキラリと光り輝いた。そんな二人の会話を興味なさげに訊いていたアサギはポツリと呟いた。
「まだ派生するまでスキルレベル上がってないけどね。それより、まーちゃん名前そのまんまだし」
ぼそぼそと今にも消えてしまいそうな声でアサギはツッコミを入れた。そこにすかさずマヤがキッと目を細めると隣に寝転ぶ幼馴染を睨んだ。
マヤには聞こえまいと思って口にしたアサギだったが、物の見事に彼女の耳へと届けられてしまったらしい。これまたいつもの殴る癖が出そうなのか右手が天高く掲げられた。バシンとい音が高々に草原に鳴り響いた。
「いった!! なんで打つの!?」
「細かいことにいちいち文句をつけるからです。それに聞こえてないと思っているあたりが勘に触ります」
自分で叩いておきながら痛かったのか掌をさするマヤ。でも、この世界には“痛み”という痛覚を刺激するものは存在しない。ここにあるのは切られたり、刺されたりしても感じない代りに、何かが自分の中にずるずると入ってくる感覚だけだ。それをクラウンズブレイド・オンラインではペインアブソーバという。
それをアサギたちは、ほんの少し感じる痛み、として安全パイを取っている。何故このような危険な機能を組み込んだのかは分からないが、やっぱりこれも「第二の人生」というものに乗っ取っているのかもしれない。
ペインアブソーバは人によっては下げてマイナス値にするプレイヤーもいるが、初期設定は何も感じない程度にされている。だが、彼――アサギの理論に則ってマサもマヤもダメージを負うとチクッと感じるぐらいのレベルにしている。
それは敵の攻撃が命中しているのに感覚がないとHPが減少していることに気が付かづ死んでしまう、という初歩的なミスをなくすためであるのだ。
そんな間抜けなことはしない、と口にしているプレイヤーに限って、初歩的なミスで死んでしまっていることは今では皆認知していることだ。
このクラウンズブレイド・オンラインでは死んだらもうこの世界では遊べなくなってしまう、という制限がある。これはキャラメイクの時に説明されるのだが、『このクラウンズブレイド・オンラインはどのMMORPG世界とも現実世界とも違うものであり、よりお客様に楽しんでプレイしてもらうために過酷な条件を設定させて頂いております。その代り、運営側は最大限のサポートをさせて頂きます』という簡易的な話しかせず、強制アンインストールされるなどとの説明はない。
最初そのことでネットやGMを呼んでの話し合いで物議やクレームをよんだが負けなければいい、なんて言葉をBBSに書き込んだ奴がいたせいで話し合いの方向が別の方向に逸れてしまい、今では全く違う情報サイトへと変貌を遂げている。
そんな情報サイトを見ていたのか、ディスプレイをスクロールしていたマサが口を開いた。
「おいおい、いつまでもイチャコラしてないでこれ見てみろって」
「だ、だれがこんなへなちょこさんなんかとイチャイチャしますか!! これは――そう!躾です。いちいち細かいことに文句をつけてくる朝兎を調教していたのです!!」
「はあ!?誰が細かいだよ。真夜の方が細かいだろ。 この前だって――いや、ちょっとまて・・・イチャコラってなんだよ!」
「はいはい、おにーちゃんは全部お見透視ですよー。 まあ、それは置いといてこれを見てくれって」
顔がくっ付きそうな距離で言い争いをしていたアサギとマヤだったが、情報を購入したのかオブジェクト化して目の前に展開される頃には打って変わって静かになった。
支払う料金によって追加される情報パラメーターに目を向けていたマヤが口を開いた。
「森林に出現するウェアウルフの十頭討伐・・・いつもと同じクエストのように見えますが、これは違いますね。隠しアイテムの出現率が異様に高いです」
「またクレイジー運営のアレか?」
「そうかも。絶対攻略不可の難関クエストって可能性は十二分にあると思う。俺も何度かそういうクエストがある、って聞いたことがある」
アサギは目の前に表示された情報誌のアイコンに触れた。指に反応したのか電子的なピッという音が鳴ったあと違う画面が出てくる。それをスクロールの要領で下にずらしていく。
「あ、あったあった。レーティングがめっちゃ高いよこれ」
「それもそうですけど、その他出現モンスターのところに森林区画の主がいますよ。これは完璧なボス級です」
「はっ、笑っちまうなこれ。攻略出来るやついいんのかよ? 瀕死寸前にあいつが発動させるスキルを浴びたら即死らしいぞ?」
「そんなのは避ければいいんですよ。どこかのマサみたいにわたしたちは、猪突猛進ではないですし。 それより恐ろしいのは――」
「獣特有スキルの“雄叫び”だね。主レベルのなんか真面に受けたら完璧、固まっちゃっちゃうね。んで、なぶり殺しルートに移行だよ」
「・・・それも強制のな。 って、おい!!マヤの暴言に誰もツッコまないのかよ!自分は関係ないからって軽くスルーすんなって。アサギ・・・俺ら兄弟だろ?」
「「・・・・・・・」」
マサの言葉を聞いてアサギとマヤは顔を見合わした。そして、それぞれ口を開いた。
「こんなのを兄にされた朝兎が可哀想です」
「場の流れを読んだだけだよ。 ・・・半分めんどくさかったってのもあるけど」
いつものようにドストレートに自分の気持ちを口にするマヤ。そして、「周りがそうだから・・」みたいなことを口にしておきながら最後に本音が漏れるアサギ。二人とも行き着く先は同じく、“眞昼だから”という区切りらしい。
そんな冷たい二人にマサは苦笑いを浮かべるしかなかったが、この雰囲気が懐かしくも感じ微笑ましく感じてしまう。それが顔に出ていたのか、それについてマヤから批判を買うのも時間の問題だったのは言うまでもない。
「まー、そんなことはいいじゃねえか。その難関クエストをいっちょやってみねーか?」
「そんなこととはなんですか。現実世界でそのような愛玩動物でも眺めている変態さんみたいな目つきをしていたら、即通報ものですよ。 ていうか、わたしよりレベルが低いくせにリーダーぶらないでください」
「はあ? たった2レベしか変わらないくせに偉そうな態度とるんじゃねーし。こいつに比べるならまだしも」
そう言ってアサギを指差す。
「・・・アサギはしょうがないです。プレイ時間がわたしより遥に長いんですから。 それに今は5つもレベルの差があります。あなたみたいな口だけと一緒にしないでください」
「なに!? いつの間に!!さてはまた俺が講義の間にやってたな?やるときは俺を呼べって何度も――」
「しようがないじゃないですか。 わたしや朝兎は学年が違うんですからダイブする時間が多少なりとも多くなることのは当たり前のことです」
鷺沼兄弟の兄――眞昼は大学2年生。そして、朝兎と真夜は同じ大学の1年生。授業カリキュラムが違うのも当たり前。そして2年の方が忙しいのも当たり前である。その中でも朝兎は高校時、不登校気味だったのでプレイ時間もレベルも皆とは大分かけ離れていて、その不登校時期がこのクラウンズブレイド・オンラインのα版のテスター期間と被っていることは言うまでもない。
「まあまあ。喧嘩を楽しむのもいいけど、早くクエスト行かない? 強い敵と戦えるのが楽しみで仕方ないんだよね」
「・・・でましたね。経験者プレイヤーのお言葉。 聞きましたか?マヤさん」
「そうですね。行きましょう。 誰かに攻略されてしまっては、わたしたち“先行組”の名折れですから」
「ああ」
強敵と戦えるのが待ちどおしいのかギュッと拳を握るアサギ。それとは反対に「またシカトか・・・」と軽くショックを受けているマサに使命感に満ちているマヤ。
3人はアイテム欄をスクロールして転送クリスタル選択して使うと森林『深き森ガーデン』へと移動した。
そんな彼らを遠くの丘から見つめる隻眼の集団がいたことは、誰として気付いていなかった――
[登場プレイヤー]
主人公:鷺沼 朝兎(さぎぬま あさと)
プレイヤー名:ASAGI
武器:片手用直剣⇒???
主人公の兄:鷺沼 眞昼(さぎぬま まひる)
プレイヤー名:MASA
武器:片手用直剣
ヒロイン:胡桃沢 真夜(くるみざわ まや)
プレイヤー名:MAYA
武器:片手用直剣
隻眼の男たち
プレイヤー名:???
武器:???