待っている人いるよね?いない?
後者だったら泣きそう。自業自得ですけど!
主人公SIDE
「ああ、そうだ。言い忘れていたが、右手を見てみろ。剣の様な模様が浮かび上がってる筈だ 」
目を覚ました直後に律儀に待っていたのかティルフィングに話しかけられる。
金と黒混じりのドレスを着ている。ますます、何処ぞの英雄王ぽくなったなぁ。
「えっと、これの事か 」
手の甲をティルフィングに向ける。
「そうだ。それは、私との契約の証でもあり貴様の命そのものでもある 」
この令呪擬きと命名しよう。
これが無くなると俺の命が無くなるって事か。
「その模様が完全に消えた時、貴様は悪しき願いを三度私を使って叶えたとみなし、私は貴様を殺す」
「まぁ、そんな事だろうとは思ってた。契約した時に、曖昧な基準だなぁとは思ってたし 」
そう言って、笑いそうになる。
ティルフィングがことごとく、某アニメを連想させるからだ。
「何を笑いそうになっているかは知らぬが、この後暇か道化?」
そう言われても、俺は今しがた起きたばかりで暇かどうか分からないよ?
フェンリルが今どんな様子なのかも気になるし。
なんて考えていたら、扉の方から視線を感じる。そこに目をやるとー
「……」
扉をほんの少し開けて、俺の方を涙目で見てるフェンリルがいた。
声をかけようとした瞬間にフェンリルと目が合い、涙を流しながら走っていった。
「…え?フェンリル!?」
「やはり道化よな。その鈍さ」
くつくつと喉を鳴らして、笑うティルフィング。
この様子を見た限り、こいつ気が付いてたな?
「あの狼娘の機嫌を直すのは面倒だぞ?古来より女というのは、そういう生き物だ 」
お前も女だろ!とかは突っ込まない方が良いんだろう。
さて、どうしよう?ヨルムンガンドに聞いて、フェンリルの好物でも用意するか。
でもそれだと、子供扱いとか思われるだろうか?
「クックックッ、その顔だと何も対策はないようだな?」
「ぐっ…その通りです…」
「では付き合え道化。狼娘の喜びそうな物を用意してやろう 」
言うだけ言って、部屋を出て行こうとするティルフィング。
「ちょっと待て!どこに行くんだ?」
めんどくさそうな顔をしながら此方に振り返るティルフィング。
その表情から一々説明しないと理解せんのか?とヒシヒシと感じる。
「人の街というものに行くに決まっておろう。
幸いな事に、私は人の姿と同じだ。ヨルムンガンドに事前に色々と用意させたしな 」
「あ、もう確定していた事だった…」
「当たり前だ。私の誘いを断るなど、死ぬ事と同義だからな 」
そのまま、部屋を出て行くティルフィングを慌てて追いかけようとして、今の自分の格好に気付く。
完全に寝巻きだ。取り敢えず、近くに用意されていたと思われる服に着替える。
何処と無くスーツぽいものを着て、ティルフィングを追いかける。
「全く、妾に馬車を用意させるなど随分と我が儘な剣を選んだものじゃ 」
入り口まで行ったら、妙に疲れた様子のヨルムンガンドと会った。
どうやらかなり無理して、外出の用意を進めていた様だ。
「蓮。主らが行く街のトップと話はついておる。昔からの付き合いゆえな。
だが、面倒ごとは起こしてくれるな?妾とて人の決めた法に介入するほどの力は持ち合わせておらぬ 」
「わかった。気をつけるよ。それと、色々とありがとうな 」
感謝を伝え、馬車の近くでイライラした様子のティルフィングのもとへ急ぐ。
ヤバい。待たせすぎた様だ。
「遅いぞ道化!いつ迄、この私を待たせる気だ!」
「悪い悪い。寝巻きのままだったから着替えてた 」
ティルフィングに謝りながら、馬車に乗る。
取り敢えず、前の方に座るとティルフィングを乗り込み、後ろの席に足を組みながら偉そうに座る。
「行け」
ティルフィングのその一言で、馬車が走り出す。
なんと言うか疲れそうだなぁ〜。
馬車で走る事、一時間ぐらい。
この世界では正確な時間が分からない。太陽の傾き具合でしか時間を知ることが出来ないのだ。
起きたのが朝なら、俺の世界で言う昼頃に街についた。
「はぁ、なんと言うか異世界モノの定番、中世な街並みだな 」
街は、煉瓦造り。
活気に溢れている。思っていた通り、人間しかいない。
ヨルムンガンドの城の近くには、魔族はいたがここにはいない。
「行くぞ。腹が減った 」
ティルフィングはまた、此方を無視して歩き出す。
この街中でもティルフィングの姿は浮いているらしく、通った所から驚きの声が聞こえてくる。
綺麗だとか、何処かのお姫様とか、色々。
「なぁ、一人か?一人なら俺たちとちょっと付き合ってくれよ?」
「そうそう。あの人気のない道とかさぁ〜」
明らかに目的が見え透いている男どもが群がってくる。
ティルフィングはそいつらを絶対零度の目で見ながら、こう言った。
「はっ、貴様らの様な見てくれで私に声をかけるな汚らわしい。
男としての命、散らしたくなければ失せよ 」
周りの気温が下がる。
だが、それを理解しなかった男の一人が突っかかる。
「この調子に乗るなよ!」
「ふん 」
つまらなそうに足を男の股間目掛けて、振り上げる。
何かが潰れた様な音と、泡を吹きながら倒れる男の音しか周囲から聞こえるものはなかった。
「行くぞ道化。つまらん時間をかけた 」
俺の方に戻って来て、俺の手を掴むティルフィング。
ほとんど引きづられる形でこの場を後にした。
「中々、美味であった」
「俺の金じゃ無いけど、財布がだいぶ薄くなったな 」
ティルフィングが見つけた豪勢な食事屋で飯を食べて街中を散策している。
財布は、例のティルフィングにナニを潰された男の物だ。ティルフィングが通り過ぎる時にスったらしい。
本人は、「何、迷惑料として貰っただけだ 」と言っていたが、やってることは犯罪だよなぁ。
「狼娘の喜びそうな物に察しはついているのか道化?」
「取り敢えず、フェンリルに喜んで貰った料理をする為にその食材と、花束を用意するつもりだけど 」
「ふむ。花束ではなく、何か形に残るものにしておけ。
花はいずれ枯れる。そうではなく、身に付けるものや服でも良い。そういった形に残るものにしておけ」
「へ?」
「私は好きに動く。日が落ちたら、馬車に戻るとしよう」
言うだけ言って、また立ち去るティルフィング。
アドバイスだよな?ティルフィングに言われた事をしっかりと覚えて、市場に向かった。
「食材はこれで十分だな。後は、何か形に残るものか 」
両手に購入した食材を抱えながら、市場の商品を見て行く。
フェンリルが気に入りそうなものはと………あ、これ良いかも。
アクセサリーを取り扱っている店で、俺は足を止める。
目に入ったもの。それは、狼の形をした銀色の首飾り。
「物凄く、フェンリルを連想する 」
「へい!いらっしゃい。それにしますか?」
「あ、はい。いくらですか?」
「金貨2枚になります」
金貨2枚。俺の世界で言うところの二万円か。
ヨルムンガンドにこっそり渡された小遣いで払える。
「へい。金貨2枚お受け取りします。お買い上げありがとうございます 」
袋に入れて貰った首飾りを受け取る。
そろそろ良い時間だ。馬車に戻ろう。
「…おい。騎士団に連絡しろ。あいつは最近噂の離反者だ」
フェンリルの土産が買えて舞い上がっていた俺は、その言葉を聞き取れなかった。
馬車に到着して、荷物を積み込む。
まだ、ティルフィングは来ていない様だ。馬車の淵に腰掛ける。
その直後だった。顔の真横に弓矢が刺さった。
「うわ!」
「報告通りだな。奴を取り押さえろ!離反者として聞きたいことがある!」
ゴツい鎧を着た連中が、馬車を取り囲む様に近づいて来る。
「クックック、流石は道化よ 」
馬車のてっぺんに立つティルフィング。
こいついつの間にこんなところに?
「思いもよらぬ初戦よ。まぁ、肩慣らしにはちょうど良いか」
馬車から飛び降りると剣としてのティルフィングに戻り、俺の目の前に突き刺さる。
それを引っこ抜きながら周りを見る。
「三十人ってところか…」
『案ずるな。私が手助けをしてやろう』
ティルフィングから魔力が流れ込んで来る。
それと同時に、全身に力が入る。
騎士達の動きがよく見える。後方にいる弓兵のまつ毛までしっかりと見える。
『単純な魔力譲渡による強化だ。多少の力量差ならこれで覆せる』
ティルフィングがそう言ったと同時に包囲していた騎士達が雄叫びをあげながら、突撃して来る。
近くに来た騎士の剣に勢いよくティルフィングを当てたら、バキャッ!という音と同時に相手の剣が砕け散る。
「「はぁ!?」」
俺と同時に驚く騎士。
取り敢えず、相手より早く意識が戻ったので蹴りで弓兵のところまで飛ばしておく。
これに関しては、フェンリルの一件で慣れた。
「陣形を組め!相手は、離反者の中でも異能を持っている」
『陣形を組まれては面倒よな。右舷を狙え、あそこが一番鈍い』
ティルフィングに言われた通り、右舷に急襲する。
何人かが剣を構えたが、砕きながら叩っ斬った。
『敵の練度は高くない様だな。そのまま行け』
ティルフィングに言われた通り、敵のいる方向に向かって行く。
弓兵が矢を飛ばしてくるが、よく見えているので全て避ける。
残りを斬り伏せて行く。
「ふー、残りは弓兵だけか」
俺が弓兵のいる方向を見ると同時に全員逃げて行く。
「旦那。無茶して良かったかい?確か、面倒ごとは起こすなとヨルムンガンドの姉さんに言われたんじゃなかったか?」
馬車を運転していたリザードマンが声をかけてきた。
「あ」
「まぁ、俺の知ったことじゃないし、早く乗れよ?面倒な連中が来る前にな」
気が付いたら、ティルフィングが人に戻っており、馬車に乗る。
俺も急いで乗る。馬車が走り出したと同時に、街から百人くらいの騎士達が出て来ようとしていた。
フェンリルの家に着く。
ティルフィングを俺が使わせて貰っている部屋に押し込み、フェンリルのもとへ向かう。
「ふー、フェンリル。ちょっと良いか?」
部屋をノックして声をかける。
少し、経ってから扉が開く。
「…なんでしょうか?」
「色々と心配かけただろ。食事はこれから作るけど、その前に渡しておこうと思って 」
背中で隠していた袋をフェンリルに渡す。
「これは?」
開けても良い?っと目で訴えてくるフェンリル。
それに頷く。
「わぁ、これは首飾り?それも、銀色の狼 」
「着けてあげるよ 」
首飾りをフェンリルの首に着ける。
その時に、距離が近くなって良い香りにドキドキしたのは内緒としておこう。
「良し。着け終わったよ」
「どうですか?」
俺の方を向くフェンリル。
銀色の髪と、銀色の首飾り。そして、彼女の綺麗な肌にとっても似合っていた。
「すごく綺麗だ。フェンリル」
「あ、ありがとう」
顔を真っ赤にして俯くフェンリル。
さっきノックをした時も時間がかかったし、もしかしたら調子が悪いのかもしれない。
「大丈夫?調子悪いのか」
「…むぅ。やっぱり鈍いですね」
「うわ!?びっくりした。急に抱きついてくるなよ」
フェンリルが急に腕に抱きついてくる。
柔らかいものが………
「私も手伝います。さぁ、行きましょう♪」
気のせいじゃなければ語尾に音符でもついてそう。
まぁ、でも喜んでくれてる様で良かった。
フェンリルの満面の笑みを見て、俺はそう思った。
満月の夜。
ヨルムンガンドは城のベランダで一人、ワインを飲んでいた。
「蓮。全ての準備は整えた。お主の力を確かめさて貰うぞ?」
ヨルムンガンドの蛇の様に鋭くなった金色の瞳が常闇に輝いた。
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