やはり俺の魔王退治の旅は間違っている。   作:璃隠

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第1章 旅立ちの始まり
第1話 かくして彼女は立ち上がる。


『勇者とは偽善であり、人々の偶像である。

勇者という肩書きの前では、人々は常に自己と周囲を欺き、時には勇者でさえも欺き、勇者を取り巻く環境を正義と信じて疑わない。

勇者はそれを成して当たり前だと押し付けられるのだ。

例を挙げよう。人々は自ら魔物の住処まで土地を開拓し、その魔物達が、自らの生活範囲を歩いていただけだとしても、彼らはそれを悪として、勇者に討伐を依頼する。

勇者が街に泊まっただけで、病気になった子どもの薬を探しに行かせる。

そのくせ、早く魔王を倒してくれと急かしてくるのだ。

人間は勇者という肩書きの前ならば、どんな難問であっても押し付けてみせる。

彼らにかかれば勇者は人ではなく、ていの良い便利屋でしかないのだ。

仮に勇者が魔王討伐の旅の中、彼らの依頼を断ったとしても、それが魔王討伐の近道であれば、拒絶も必要なのではないか。

しかし、人々はそれを認めないだろう。

全ては彼らの理想であり、押し付けであり、偶像でしかないのだ。

そして、仲間である者達にも同様に厄介ごとを押し付けるのだ。

結論を言おう。

勇者だけでなく、その仲間にも理想を押し付ける者どもよ、砕け散れ。』

 

 

 

 ――3年前・アルスタームの城下町――

 

「ん?なんだあの坊主、ふらふらと……ってお、おい!」

 

1人の少年がふらふらと倒れこむ様子に、男が駆け寄る。

 

「お、おい、あんた大丈夫か?

酷い怪我、ぼろぼろじゃないか。それに背負ってるお嬢ちゃんは……!?

ま、まさかゆ、勇者様!?」

 

少年は倒れたまま顔を上げて男を見て、再び勇者と呼ばれた背中の娘に視線を移す。

 

「そう…だ。勇者様だ…。もうほとんど息をしていない…。早く、早く神父様を…。」

「わ、わかった!おい坊主、そこを動くなよ!!」

 

男が大慌てで町の教会へと走り出す。

その後ろ姿を見てようやく重荷を降ろせたように呟いた。

 

「……もう…大丈夫だ…あとは…神父様に任せて…。」

 

少年はそう呟くとふらふらと立ち上がって……―――。

 

 

 

「神父様、こっちだ!早く勇者様を…!!」

 

神父を呼んできた男は大慌てで引っ張りながら先ほどの勇者と呼ばれた娘の元に駆け寄った。

同じく、大慌てで来た神父もその姿を見て顔が青くなる。

 

「お、おお、ルビス様、まさか勇者様にこのような試練を与えようとは…。

今すぐお助けします。そこの貴方達も彼女を教会に連れて行くのを手伝ってください!」

 

神父は近くにいた数人の男性に声をかけて、彼女を運ばせる。

 

「そっとですよ!一体何があったからこんな事に…。」

 

 

外の騒ぎに2人の少女が改めて顔を出す。

 

「一体こんな夜中になんの騒ぎですか?」

「ゆきのん、眠いよー。」

 

近くにいた男性が、”ゆきのん”と呼ばれた少女の顔を見る。

その顔は真っ青に血の気が引いていた。

 

「ゆ、ユキノ様、ゆ、勇者様が…。」

「姉さん?帰ってきたの?この騒ぎは一体…。」

 

ユキノはそう言って今まさに運ばれようとする勇者の姿に視線を送る。

 

「あ、あれ!ハルノさんだよ!ゆきのん!!」

「姉さん!?一体何があったというの!?」

 

2人の少女は大慌てでハルノの元に駆け寄る。

息も絶え絶えで、声をかけても目をさます様子もない。

ユキノの顔もまた、姉と同じように血の気が引いている。

 

「ユキノ様、今はお下がりください。ことは一刻を争います。教会に連れて、治療を行いますので…!」

 

神父が半ば強引にユキノを下がらせて教会に入っていく。

心配そうに教会の中に運ばれていく彼女を見送りつつも、ユキノの顔からは血の気が引いていた。

そんなユキノの表情に視線を向けながら、1人の男性が恐る恐る声をかけた。

 

「ユキノ様、勇者様は先ほど少年に連れられて帰ってきたのです。

そういえば、先ほどの少年の姿が…?彼も酷い怪我だったのですが。」

 

そう言いながら男性は思い出したように辺りを見回す。

あの状態の姉を連れてきた少年がいるということなら、姉の事情についてもよくわかっているはずだ。

そして、姉と一緒に旅に出た少年といえば、自分もよく知った彼のこと。

 

「ハルノさんを連れてきたってことは、一緒に旅に出てるはずのハヤトくん?」

 

ユイの言葉に彼女は小さく頷きを入れて、男性やユイと同様に辺りを見回した。

 

「おそらくそうでしょうね。もう1人はどこにいるのかしら?」

まともに姿が見えない以上、少年を見たという男性に問いかけ直す。

「はい、まともに歩けるような状態とは思えなかったのですが、一体どこに…。」

 

それはつまり、既にこの辺りにはいないということなのだろうか?

姉があんな状態になったことに責任を感じて自分の怪我を押して身を隠したのだろうか?

どうも彼らしくないこうどうではあるが…。

 

「ゆきのん、とりあえず教会に行こうよ。もしかしたら治療してもらうためにもう教会に行ってるのかも…。」

「そ、そうね。ユイさんも一緒に来てくれる?」

「当たり前だよ!こんな時にゆきのんを1人になんかしないよ!」

 

そう言って2人は教会へと足を運び、治療が終わるのを外で待つ。

夜が明ける頃には神父様が出てきて、一命を取り留めた。と教えてくれたが、一緒にいるはずのハヤトと呼んでいた少年の姿は最後まで見えなかった…。

 

 

 

 

 ――現在・アルスターム城・謁見の間――

 

「勇者ユキノよ、顔を上げよ。」

「はい。」

 

私はゆっくりと顔を上げて、陛下の顔を見つめ返す。

優しそうな瞳の奥にはどこか申し訳なさそうな光を放つように感じる。

 

「お主達の父、先々代の勇者が前魔王を倒してもう10年か…。」

「はい、そして姉さんが…先代勇者が魔王討伐に失敗してから3年となります。」

 

陛下は少しばかり複雑そうな表情を浮かべながら小さく頷いた。

 

「ハルノは父君よりも才能に溢れていた。それだけに二度と戦えなくなってしまったのは残念でならん。

5年前、新たに現れた現魔王を討伐するとたった2年間の修行であれだけの実力を積んだのじゃからな。」

「それは、私達の師の為すところも大きかと存じます。

私も姉と同じ師から剣と魔法を教わった身、今度は私が姉に代わり、再び世界に平和を取り戻してみせます。」

「ふむ、期待しておる。必要なものがあればなんでも言ってくれ。

じゃが、1つだけ約束をしくれ。

お主達の父君のように無茶は決してするな。

ワシは、自分で取り戻した平和を心から味わってほしいのじゃからな。

父君は1年も味わえなかった分、余計にの…。」

 

陛下はとても申し訳なさそうに呟いていた。

陛下は口には出さずとも、誰よりも勇者であった父の死を嘆いてくださっていた。

そして、その娘である姉さんがあんな事になったことも、そして再び、今度は私を旅に出すことを心中穏やかではないのだろう。

 

「ご安心ください。私は必ず無事で帰ってまいります。

平和を早く取り戻して、先生に平和な世界の中で結婚して幸せになってほしいですから。」

 

だから陛下が少しでも安心して送り出せるように、こんな言葉を続けるのも大切だろう。

もっとも、先生の結婚の事に関しては、私達の責任ではない。彼女自身に難があると私は思っているのだから。

 

「うむ…シズカ殿は英雄となってしまった手前、他の男どもからすると高嶺の花なのかもしれんの。」

 

だからそう告げた陛下の顔を私は直視できなかった。

思わず下を向き、少しだけくすくすと笑ってしまったからだ。

先生は確かに一般的には美人で、英雄となった後も後進育成に力を注ぐ素晴らしい方だと思う。

反面、男に対してはなんというか……がっつきすぎで、若干重いのだ。

結婚できない理由はおそらくそこにあるので、陛下の予測は残念ながらずれている。

 

「ん?ユキノよ、どうかしたか?」

「いえ、なんでもありません。それでは私は旅の支度を整えて魔王討伐の旅に向かいます。」

「うむ。そうじゃ。ユキノよ支度金はハルノに渡しておる。

ハルノの店はギルドの支店も兼ねておるゆえ、そこには冒険に慣れた冒険者もいるだろう。

お主1人では大変な旅であっても、きっと心強い仲間もいるはずじゃ。

ともに魔王を討伐する仲間を集め、必ずこの世界に平和をもたらしてくれ。」

「はい。」

 

最後に再び返事をして立ち上がり会釈をして謁見の間から出る。

 

……姉さんの店か…。

正直知らない人と旅に出るなど考えてもいなかった。

姉さんもハヤトくんと一緒に旅に出ていたことを考えると、やはり誰かと旅に出るべきなのだろう。

しかし、姉さんは既にもう長時間の戦闘や旅は出来ないし、先生も既に現役を退いている。

なにより、先生がギルドのマスターをしているから、旅先のフォローや助力もしてもらえる事を考えると、先生に手伝わせるわけにもいかない。

ユイさんは……こんな危険な旅についてきて欲しくない。

やはり誰か一緒に来てくれる人を探すべきなのだろうか?

 

「ゆきのん!!」

 

不意に背後からかけられた大声に思わず振り返る。

城の外で待っていたらしいユイさんの表情は、少しだけ、いや、かなり不服そうだ。

 

「ユイさん?どうかしたの?」

「どうかしたの?じゃないよ、ゆきのん!

今日旅立ちの日だっていうのになんで何も言ってくれなかったの!?

私、ゆきのんが旅に出る時は一緒に行くって言ってたじゃない!」

 

その言葉に、少し嬉しくて笑みを浮かべそうになったけれど、小さく首を横に振って、否定の意を示す。

 

「……ユイさん、気持ちは嬉しいけど、それはダメよ。

これはいわば死出の旅よ。そんな危険な旅に貴女を巻き込むなんて…。」

 

父も父のかつての仲間達も犠牲が出ていたし、実際姉さんに至っては、生きていたことが奇跡と言えるほどの怪我を負って帰ってきたことを考えれば、それは死出の旅に他ならない。

そんな旅に彼女を付き合わせるなんて選択肢は、私にはなかった。

 

「し…での…?って、そんな難しい言葉で誤魔化してもダメなんだから!

危険な旅って分かっているのになんで親友の私に何も言ってくれないの!?

私、自分の身は自分で守れるし、ゆきのんのことだってちゃんと守りたい!

ゆきのんがダメって言っても付いていくんだから!」

 

ユイさんの涙を見ながら、彼女はそう言ってくれるだろうという気がした自分の判断に誤りがない事を改めて認識した。

 

「そう言うと思ったから言わなかったの。

貴女が親友である事を理由について来るというのなら、今日限りでお友達はおしまいにして。」

 

冷たい言い方なのは分かっている。

だけど、私は彼女を巻き込みたくない。だから冷たくして突き放すしかない。

そう言って再び彼女に背を向けたが、視界が少しだけ潤んだのは気のせいじゃないはずだ。

 

「ゆきのん、そんな簡単に私と友達でいることをやめちゃうの?

じゃあゆきのんと私が逆の立場で、友達やめてって言ったら友達やめ…「やめるわけないでしょう。」」

 

思わず彼女の言葉に言葉を重ねる。

そう言ってユイさんに近寄って手を握る。

 

「ユイさんは私の大切な幼馴染で友達だもの…。だから…。」

「一緒だよ。私にとってもゆきのんは一番大切で大好きな親友なんだよ?

危険なのは知ってるよ。でも、ううん、だから一緒に行きたいの!」

 

こうなってしまうと彼女は頑固だ。

テコでも動かなくなってしまうのは私がきっと一番よく知っている。

自分と彼女の立場が逆であったら、きっと私も同じことを言うと理解すれば、小さく溜息をついてもう一度顔を上げた。

 

「危険な旅になるわ。いつ帰って、いえ無事に帰ってこれるとも限らないわ。」

 

そう言って彼女の目を見つめる。

その眼差しに迷いはない。

 

「それでも…その……貴女が一緒なら、心強い…わ。」

「やった!ゆきのん!大好き!!」

 

彼女に抱きしめられると、顔が見えなくなったせいか、思わず笑みが溢れてしまう。

口元が緩んでいるのを改めて結び直さないといけない。

そう思って自分の体に感じる柔らかさに集中した。

 

それにしても……私と同じ年のはずなのに、なんで彼女はこんなに胸が大きいんだろう?

まあ、まだ私もこれからの成長に期待できるのだからなんの問題もないわね。

えぇ、まだ成長期だもの。

 

「さあユイさん、一緒に姉さんの酒場に行きましょう。

私達と旅に出てくれる奇特な人を探さなければいけないわ。」

「大丈夫だよー。

ゆきのんはこんなに可愛い勇者様なんだから一緒に行きたいっていう男の人がいっぱいいるよ。」

「ユイさん、私達の旅はお遊びじゃないのよ。

そんないい加減でふわついた理由でついてくる人はお断りよ。」

 

とは言うものの、姉さんの店に出入りしている人はそういう浮ついた考えの人の方が多いのば確かね。

それもきっと姉さんの魅力が原因なんだろうけど…。

横でユイさんがそっかーと納得している様子も耳や視界からは消え始めている。

いろいろな事情を考えると、ここよりもギルドの本拠地で仲間を集う方がいいのかしら?

魔王討伐の旅という果てしなく遠い旅に、浮ついた理由で着いてこられたら、逆に心配事が増えるだけだもの。

だから、仲間選びは慎重にしなければならない。

だからといって、ユイさんと2人旅では心細いのも確か、それなら、本拠地まででも一緒に行ってくれる人を探すべきなのかしら?

 

仲間にする条件は厳しくしないといけない。

その結果、ユイさんと2人になったとしても、この旅は甘くないと思うから。

 




というわけで第1話でした。
八幡目線は次回からです。
一番最初の1人語りが結構難産でした…。やっぱりこれから始めたかったので!
いきなり2人が親友となっておりますが、人間関係は初期設定から変えておりますので、改めてご了承を…。

ドラクエの世界観を旅する奉仕部メンバーを優しく見守っていただければ幸いです。
ということで、ゆきのんとがはまさんの初期設定です。

・ユキノ(Lv:3、職業:勇者)
勇者★×1
本作の主人公の1人。現在の勇者。
先々代の勇者を父に持ち、先代の勇者を姉に持つ生粋の純血な勇者。
強い正義感を持ち、自分の努力を決して怠らず驕らない。
世界には悪意がある事をよく理解しているが、自らが常に正しくあることで世界を変えたいと考えている。
血筋、容姿、知能と全て揃っているものの、人付き合いは不器用で、友人の多い姉と異なり、友人はほとんどいない。
父亡き後に出現した新たな魔王に、勇者となった姉の旅に着いていこうとしていたが、姉に諭されて渋々従ったという経緯がある。
しかし、再起不能となって帰ってきた姉の姿を見て、その選択を酷く後悔していた。
使える魔法・特技
ホイミ、ギラ、ルカニ

・ユイ(Lv:3、職業:武道家)
武道家★×1
本作の主人公の1人。ユキノの幼馴染で唯一の親友。
幼い頃からユキノとハルノと付き合いがあり、同じ年のユキノとはとても仲が良い。
ただ、常に笑顔のハルノにはなぜか苦手意識を持っている。
友人の少ないユキノと違い、人付き合いが上手いため、友人も多い。
優しい女の子ではあるが、周りを意識し過ぎて八方美人的な自分に嫌気がさすこともある。
危険な旅になるが故に、ユキノが1人で旅に出ようとする事を先読みし、
釘を刺すつもりでユキノが城から戻るのを待っていた。
優しくて、心の強い女の子だが、頭は少し残念なせいか魔法の特性はほとんどない。
使える魔法・特技
なし
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