やはり俺の魔王退治の旅は間違っている。   作:璃隠

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第2話 そして彼と彼女達は巡り会う。

「まだ着かないのか…。」

 

地図とにらめっこをしているコマチに面倒臭そうに声をかける。

 

「お兄ちゃん、もう疲れたの?さっき休んだばっかりじゃん。」

 

コマチが半ば見下すような視線を向けながら呆れたような声を出す。

 

「いや、お前らは馬車に乗ってるから楽だろうけどな、自分の足で歩いている俺とサイカはもう限界だ。」

「あははは、僕はまだ大丈夫だよ。

アルスタームの城下町まであと少しなんだから頑張ろうよ、ね、ハチマン?」

 

サイカはなんとも無さそうに笑顔をこちらに向けてくる。

なにその可愛い顔、結婚してください。

あ、ダメだ。サイカは男だった。

 

「センパイ…サイカさんが言うと我慢できるんですね。」

「そんなことはない。コマチが言っても我慢できるぞ。」

「お兄ちゃん、それ、私的にはポイント高いけど、女の子としてはポイント超低いよ…。」

 

イロハとコマチが口を揃えて呆れた声色を続ける。

なにそれ、俺が悪いの?しょうがないだろ。コマチもサイカも可愛いんだから。

イロハ、お前はあざといだけだ。

 

「それに、この辺のモンスターは弱い奴ばかりですから、センパイだって言うほど疲れていないんじゃないですか?」

「バカ、弱いからって舐めてるとスライムさんにボコボコにされるぞ。

ソースはオレ。あいつら、1匹だと確かに大したことないが、集団になるとヤバいぞ。

次から次へと仲間を呼んで、合体したあとはめちゃくちゃ強かった。

何アレ、友達の少ない俺への当て付けなの?スライムですらちょっと呼んだだけで集まる仲間がいるのに、友達の少ない俺への当て付けですかね。

やはりリア充は俺の敵だな。」

 

そう、スライムだって意外とバカにできない。

あれはモンスターという名のリア充、違うな。

リア充という名のモンスターだ。

しかも似たような奴が大勢いるからさらに腹立たしい。

唯一分かり合えるのははぐれメタルスライムくらいだろう。

何あの親近感、マジで俺はあいつらと戦うのは無理だな。

名前からして俺と同族なのは間違いない。

 

「スライムより友達の少ないお兄ちゃんって…。

はあ、相変わらずごみぃちゃんなんだから。」

「ばか、俺だってサイカっていう友達がいる。あとサイカだろ、それにサイカにサイカ…そう、サイカもいる。」

「いや、センパイ、それ全部同じ人ですから…。」

 

そんな俺たちを尻目に、肝心のサイカはというと、『あははは』と、笑っている。

守りたい。この笑顔。

 

「というより、さっきから戦っているの俺とサイカだけですが。」

 

そう、モンスターが弱いと言っているが、実質戦っているのは俺とサイカだけだ。

別にいいですけど、レベルの低い2人が積極的に戦わないで馬車の中にいるとか、レベルを上げる気はあるのだろうか?

 

「僕は平気だよ。確かにこの辺りのモンスターは大して強くないし、それに…ハチマンが、頼りになるから…。」

「よし、急いでアルスタームまで抜けよう。大丈夫だ。俺がついている。」

 

サイカはやはり俺の心のオアシスだ。

サイカがいれば24時間戦える。いや、そんなに戦いたくないけど。

 

「ところでコマチ、そろそろアルスタームに行く理由を教えてくれないか?

俺は結局何も聞かないままここまで来たんだが…。」

 

アルスタームは何度か行った事がある。

キメラの翼で行けば手っ取り早いんだろうが、最近はキメラの翼も結構高い。

もっともモンスター退治で経験値も増えるから、俺たちみたいにトレジャーハントを生業にしている冒険者はよほどの事がない限りキメラの翼なんか使わないが。

アルスタームは東の大陸にある一国の首都とはいえ、比較的田舎だ。

何か目新しいものがあるとも思えないのだから、コマチの用事がなんなのか未だ教えてもらっていない。

 

「あれ?言ってなかったっけ?ハルノさんと先生に呼ばれたんだよ。」

「よし、帰ろう!」

 

コマチの一言に踵を返してアルスタームから離れようと来た道を戻ろうとする。

 

「ごみぃちゃん、先生とハルノさんにはお世話になったんだから、呼ばれたら行かないと。

何より、ここから戻る分の食糧は用意していません。」

 

今何気に貶しましたよね?

というかそんな要件は聞いていないし、聞いていたら絶対に来なかった。

 

「コマチ、お前わざと黙っていただろ?」

「てへっ☆」

 

自分の頭を軽く拳をぶつけて笑う小悪魔に苛立ちを覚えた。

いや、可愛いけど。

 

「可愛くごまかしても話はやめないぞ。」

「ぶぅー、だって、先生とハルノさんが呼んでるからアルスタームに行こうって言ったら、お兄ちゃん来なかったでしょ?」

「当たり前だ。あの2人、俺をこき使うだけ使うのが得意なんだぞ。

絶対面倒なことを頼むつもりで呼んだに決まっている。」

 

そう、1人だけでも面倒ごと満載のくせに、2人揃っているとか嫌な予感しかしない。

 

「お兄ちゃん、コマチは先生達の依頼を面倒くさいって言いながら素直に聞くお兄ちゃんの姿がとても格好いいと思っているんですよー?

あ、今のコマチ的に超ポイント高い!」

 

いや、それハチマン的にはポイント超低いから…。

 

「話には聞いたことありましたけど、どんな人なんです?」

 

イロハは俺たちのやり取りを横目にしながらサイカへと問いかける。

 

「うーん、僕も先生と会った事は1回しかないから。

ハチマンとそのハルノさんって人の剣とか魔法の師匠だって聞いているよ。

ハルノさんって人には会ったことないけど、先生はすごく綺麗な人だよ。」

「結婚できないアラサーだけどな。」

「お兄ちゃん、それ先生に聞かれたらまた正拳突きを受けることになるよ…。」

 

あぁ、そう言えばあの人武道家じゃない癖に見事な正拳突き撃てるんだよな。

しかも、戦士だけあって攻撃力が高いから、ダメージはわりと深刻になる。

 

「まあ、冗談はさておき、すごい人ではある。

かつて魔王を倒した英雄の1人だからな。」

「え!?センパイ、そんなすごい人に教わっていたんですか?」

「2年くらいだけどな。」

 

俺の答えに『へぇ…』っと驚きを隠せない表情を見せて止まるイロハ。

 

「まあ、着いたら紹介くらいはしてやるよ。

はぁ…行きたくねぇ…。」

 

心の底から帰りたいが、もう覚悟を決める必要がありそうだ。

俺の意見よりコマチの意見の方が強いからな。このパーティー。

つか、リーダーは俺なんじゃないの?やりたくないから別にいいけど。

 

「あ、ハチマン、大きなお城!あれがそうじゃない?」

 

サイカの声に顔を上げると、なんとも忌々しい城が見えた。

 

「そうだな。もう一踏ん張りだしさっさと行って飯でも食おう。」

 

はぁ、あの2人の用事とか、嫌な予感しかしないんだが…。

 

 

 ――アルスターム城下町――

 

ようやくたどり着いたアルスタームの城下町。

城が見えてから出てきたモンスターはスライムやドラキー、一角うさぎ程度だった。

俺もそうだが、サイカも大分戦い慣れしているせいか、傷1つつかなかったのは幸運だったな。

 

「ま、サイカの顔に傷付けるようなモンスターがいたら、ただじゃ済まさないが…。」

「え?ハチマン呼んだ?」

「いや、何でもないよ。それより、ようやく着いたな。」

 

ここに来るのは久々な気がする。

やはりかつての勇者が生まれ育った町というだけあって、人々の顔には生気がある。

まあ新しい勇者も決まったらしいし、それだけでも活気が上がるのは間違いではないか。

 

「そうですねー。お腹空いちゃいましたし、あそこの酒場で食事でもしますか?」

 

イロハが指差す酒場を見て目が一層腐った気がした。

いや、もともと腐ってるし、これ以上腐ったら腐った死体になっちゃうよ。

なにそれ、俺モンスターの素質があるのかよ。

 

「いや、あそこの酒場はダメだ。別のところで食おう。

いや、むしろ食料買って帰るか?」

「なんでそこでナチュラルに帰宅思想が出るんですか!?」

 

いや、だってあの酒場経営しているの…。

 

「まあお兄ちゃんの言葉は無視して、あの酒場に行きますよ。

あそこが今回の目的地ですから。」

「そうなんだぁ。僕もお腹空いちゃったから何か食べたいな。」

 

サイカがそう言うのなら仕方がない。

店主の性格は置いとくとして、料理の味だけはお墨付きだ。

はぁ、という溜息をつきながら、先頭を歩く3人の後ろをついていく。

死刑台に上る死刑囚の気持ちってこんなんですかね?

こんなんだよな、きっと…。

そんな風にぼんやり歩いていたせいか、横から飛び出てきた女の子のタックルに俺は思わずよろめいた。

 

「あ!ごめんなさい!急いでて…。」

 

俺は無事だったが彼女の方は無事では済まずにすっ転んでしまったようだ。

 

「いや、俺も前を見ていなかったらか気にするな。

悪かったな。」

 

そう言って彼女がばら撒いた荷物を見回して手を差し出した。

彼女は俺の顔を見てから手に視線を移して、その手を握る。

 

「よっ…と…。あ、悪いな、自分で立てたよな。

急いでるなら荷物拾うの手伝わせて欲しいんだが…。

それでぶつかったことはチャラってことにしてくれないか?」

 

発作的に手を伸ばしたが、こういう時素直に手を差し出してもらって喜ばれるのは、イケメンだけだ。

そして、その荷物を勝手に拾って「どうぞ」なんて渡して許されるのもイケメンだけだ。

ソースは俺。

 

昔、気になっていた女の子が派手に転んだのを見て、差し出した手はシカトされ、道に広がった荷物を纏めた時に嫌な顔されたのは今でも俺の黒歴史だ。

そのくせ、相手がイケメンだと、そんな場面でも顔を真っ赤にして嬉しそうに『あ、ありがとうございます。』とか言い出す。

なにその嫌われっぷり。俺はモンスターなの?

腐った死体の仲間だったのか?

じゃあ俺は人間やめて腐った死体になって魔王様に忠誠誓うまである。

そして忠誠を誓った魔王に、『あ、お前はいいや。』とか言われるまで見える。

魔族にすらないのかよ、俺の居場所。

 

「えっと、じゃあすみません、手伝ってもらっていいですか?」

「あぁ、じゃあそれでチャラってことで。」

 

少し戸惑いながらも笑みを浮かべた彼女は結構可愛かった。

その顔に見惚れると、確実に黒歴史が追加されるので、すぐさま荷物を集めてそれを渡した。

 

「俺が言えることじゃないけど、急ぎ過ぎて転んだりしないように気を付けてな。」

「あ、はい。すみません。私の不注意だったのに手伝ってもらっちゃって。」

 

うん、これが俺のように訓練されたぼっちでなかったら、こんな笑顔に惚れて、告白して振られるまである。って、振られちゃうのかよ。

そして、彼女の言葉に視線を逸らしてコマチ達の後を追うことにした。

いや、あれ以上会話とか無理だし、吃る前に退却するのが最善策だろう。

そんなわけで俺は酒場へと少しばかり早足で向かった。

 

「お、来たねハチマンくん!やっはろー。」

「なんすか、その頭の悪そうな挨拶。」

 

いきなり訳のわからん挨拶を受けて、面倒臭そうに奥のテーブル席に移動する。

 

「お、来たかハチマン。久しぶりだな。」

「うす、先生も相変わらずお元気そうで。」

 

社交辞令のような挨拶を交わして、席に着く。

既に3人が注文を頼んでいたようで、飲み物を飲んでいた。

 

「で、ハルノさんと先生が揃って依頼とか、どんな面倒な依頼なんですか?」

 

嫌な事はさっさと終わらせるに限る。

無理なものは無理と、いや、無理じゃなくても無理というべきだろうが。

 

「ハチマン、久しぶりに会ったというのに、いきなり用件というのも寂しいじゃないか。

少し近況報告くらいしてもバチは当たらんだろう。

そっちの女の子は私も初めて見る顔だしな。」

「そうそう、ハチマンくんってば、私の知らないうちに可愛い子2人も連れちゃって。

妬けちゃうなぁ。で、どっちがかの…」

「どっちも彼女ではありません。」

 

俺の手元にグラスを置きながら問いかけるハルノさんにやや食い気味に返答する。

この人はいつもこうだ。

 

「あれれぇ、私まだなにも言っていないのになぁ。」

「ハルノさん、コマチの時にも同じくだりをしたじゃないですか。

どうせ違うとわかってても同じ事言うと思ってましたから。」

「シズカちゃんー、ハチマンが虐めるー。」

 

ハルノさんが先生に抱き付いている姿を見ながら出されたグラスに口を付ける。

 

「あぁ、サイカと妹さんは私も知っているが、こちらの子は初めてだな。

ハチマン、紹介してくれるか?」

先生の問いかけにサイカとイロハに視線を向ける。

「はぁ、こっちはサイカ、俺の数少ない友人の1人です。」

 

まずはハルノさんにサイカを紹介する。

 

「はじめまして、サイカと申します。えっと、昔は僧侶をしていたんですが、色々とあって今は魔物使いをやっています。」

「サイカちゃんね。シスター服似合いそうなのに僧侶やめちゃったの?」

「えっと、すみません。僕男なんですけど…。」

 

サイカの一言にハルノさんがやや固まり目を丸くする。

この人のこんな表情はかなりレアだ。今のうちに心に刻んで後で笑う事にしよう。

 

「ははははは、ハルノ、気にするな。私も初めて会った時は女だと思っていた。」

「え?先生まで!?」

「まあ間違えても許してほしいわね。

でも、ハチマンくん、男の子相手に過ちを起こしそうになったら我慢してお姉さんのところに来てね。」

 

相変わらず面の皮は厚いようだ。

 

「お断りします。何されるかわかったもんじゃない…。」

「ちょっとセンパイ、私の紹介がまだなんですけど!?」

 

やや拗ね気味のイロハに視線を向けて面倒臭そうな表情を浮かべながらも、渋々と彼女も紹介する。

 

「こっちのあざとい方がイロハだ。」

「説明の仕方がひどいですよ!?」

 

だって本当の事だからな。俺は悪くない。

 

「ハチマンが女の子をパーティーに加えると言うのは少し意外だな。」

「別に加えてるわけじゃないですよ。

元々は仕事の依頼人だったんです。」

「元々は?」

「イロハさん、旅をしながら想い人を探してたんですよ。一人旅は危険だから冒険者を雇いながら、まあボディーガードですね。」

「俺たちにその依頼をして資金が底をついたらしいんですよ。

俺は近くの町まで送って、街でお金稼ぐしかないって言ったんですけど、コマチが…。」

 

ただの依頼人で約束を果たして貰うものは貰ったのだから俺達の仕事は終わりのつもりだった。

しかし、コマチは旅の終わりが見えないのに、またお金を稼いで旅に出るといつまで経っても終わりが見えないからかわいそうだと、余計な提案をした結果がこれだ。

 

「コマチちゃんが、行き先は優先できないけれど、仲間になってくれるなら安全は保証できるからってパーティーに入れてくれたんですよ。

センパイ、腕は確かみたいですし、それなりにべん……頼もしいですから。」

 

おい、今便利とか言いかけただろ。

もう本当にここに置いていくぞ。

 

「なるほど、そういう理由ならばハチマンは確かに心強いかもしれんな。」

「で、ハチマンくんは一緒についてくる条件とかでセンパイ、なんて呼ばせて喜んでるの?」

「そうなんですよぅ。」

「おい、誤解を生むような答えを言うんじゃねぇ。

冒険者としては俺達の方が長いからって、お前が勝手に呼んでるんじゃねーか。」

 

もっとも、コマチに関しては自分の方が年下だからそんな呼び方しないでいい。の一言で変わったのにな。

俺とサイカは相変わらずセンパイ扱いだ。

 

「ところで、先生はセンパイの師匠として、ハルノさんとはどういう関係なんです?」

 

イロハは不思議そうに首を傾げているが、その目は『こんな美人さんと関係があるなんて、なんか脅迫してるんですか?』と言うような視線で俺を見るな。

確かに俺は人付き合い悪いけど。

 

「ハチマンくんは、私の兄弟子なんだよね?」

「まあ、そうっすね。って言っても俺よりハルノさんの方が先生に教えてもらってる期間長いっすけどね。」

「ふむふむ、そういう関係なんですか。」

 

イロハは納得したように頷いて再び俺を見る。

なんかまた余計な事を話して話が長引くのは正直面倒だ。

どうせどんな依頼だとしても俺に拒否権が無い以上、さっさと依頼を聞いてしまうのが面倒は無さそうだ。

 

「それで、先生、ハルノさん、仕事の話に移ってもいいっすか?」

「ん?まあ、そうだな。そろそろ来るとは思うのだが…。」

 

そう言って先生は入口に視線を移す。

同様に俺もそっちに視線を移した時、入口を開けて2人の少女が入ってきた。

あれ、片方はさっきの女の子か?

 

「お、来たな。ハチマン少し待っていてくれ。」

 

そう言って先生とハルノさんは立ち上がり、今入ってきた2人の方へ歩いていく。

 

「お兄ちゃん、すごく綺麗な人と可愛い人が来たよ?

先生が話に行ったってことは、あの人達が依頼人かな?」

「さあな。どうでもいいが、面倒な依頼じゃ無い事を心から望んでおくよ。」

 

依頼人が誰かなど、本当にどうでもいい事だ。

彼女達が可愛かろうと、綺麗だろうと、俺には全く縁もなければ、意味も無い。

依頼内容が面倒で無い事を祈るだけだ。

ハルノさん達が話している間に椅子に深く坐り直す。

 

「あ、ハルノさん、先生、やっはろー。」

「ユイちゃん、やっはろー。」

 

なにあの挨拶、この町ではあんな挨拶が流行ってるの?

こういう時、聞き耳を立てると気持ち悪いとか言われるので、耳に入らないようにと思っていたが、思いのほか、酒場が静かなせいで所々会話が聞こえてくる。

 

「王様が支度金を用意していると聞いたのだけれども。」

「うんうん、ちゃんと預かってるよ。

それで、旅の付添人は決めたの?」

「とりあえず、ユイさんは一緒に行ってくれるわ。あとは特に決めていないけど、ギルドの本店があるチルバディの街で旅支度と仲間集めをする予定ね。」

 

チルバディ、俺とコマチの住んでいた町だ。

まだ家は残っているが最近は帰ってなかったな。

近いうちに掃除も兼ねて顔を出すか。

 

「なるほど。本店であれば確かに腕利きの冒険者もいるからな。

悪い選択では無いだろう。

だが、あそこはこの辺りと比べるとモンスターのレベルが段違いだ。

まさか2人であそこまで行くわけではあるまい?」

「はい、流石にユイさんと2人では危険な事もよく分かってます。

だから、ここに来たのですが。

姉さん、チルバディの街まで一緒について来てくれる冒険者はいないかしら?」

そりゃそうだわな。先生は先代魔王との戦い「そういう事ね。分かったわ。

じゃあユイちゃん、ユキノちゃんの事、お願いね。

ユキノちゃん、これ私が使ってたお古で悪いけど、破邪の剣、この辺りではこれよりいい武器はまずないはずよ。

これより強い武器を手に入れても、売ればそれなりのお金になるはずだから。」

「姉さん…ありがとう。大切に使わせてもらうわ。」

「あと、腕の立つ冒険者、って言ってたわよね?

ユキノちゃんラッキーだよ。本店に登録している腕利きの冒険者がちょうどいるのよ。」

「えっ!?本当ですか!?やったね、ゆきのん!

本店まで行かなくてもなんとかなっちゃうかも。」

「…ずいぶん根回しがいいわね。むしろ呼んでおいた。が正しいんじゃないかしら?」

 

へぇ、俺達以外にも本店の冒険者が来ているのか。

気が付かなかったな。

コマチ達以外とパーティー組まないから知らなくて当然だけど。

 

「まあ、その辺は置いとくとして、私のお墨付きでもある。実力の面では心配はいらない。

ただ…性格に多少の難が…。」

「あはははは、多少じゃないと思うけどな。

あ、でも私は好きよ。」

「姉さんが気に入るなんて、ロクな人間じゃなそうだけど…。」

 

俺もそう思う。横から聞いてる限りじゃ絶対にそいつを仲間にしない方がいいぞ。

絶対2人の方が気楽な旅に間違いないから。

 

「まあまあ、じゃあ紹介するから、こっちおいで"ハチマンくん"」

 

ほら呼ばれてるぞ、ハチマンくんとやら。

本店に所属して腕利きの冒険者らしいハチマンくんとやら。

 

「お兄ちゃん、呼ばれてるよ。」

「コマチ、世の中には似たような人間が3人はいると聞く。

名前が同じ奴なんかもっといっぱいいるぞ。」

「世の中にはいるかもしれませんが、今この場限りで言えば恐らくセンパイのことですよ。」

 

コマチとイロハにじっと見つめられて、気不味くなったので視線を逸らし、サイカに目で助けを求める。

しかし、サイカまでも半ば苦笑しながらあはははと、小さく笑っているだけだ。

やばい、その笑顔もかわいい。

 

「ハチマン、呼ばれたらすぐ来ないと…。」

 

そう声を上げて先生が指を鳴らす。

やばい、正拳突きが来る!

 

「あ、すみません。俺の事だったんですね。

いや、誰が呼ばれているのかと…。」

 

仕方ない背に腹は代えられない。

チルバディまでの旅の護衛ならすぐ終わる。

……あの先生とハルノさんがそんな簡単な依頼を回してくるとは思えないが…。

とりあえず立ち上がってノロノロとその話の輪の中に入る俺。

ていうか、なんでコマチ達は来ないの?

生贄は俺1人だけなの?

 

「紹介するね、ハチマンくん。

こっちは私の妹のユキノちゃんとその親友のユイちゃん。」

「…うす。」

 

初対面の女の子と、俺がまともに話せる訳がないだろうが。

そんな振り方はやめろ。

 

「ハチマン…さん?姉さんの友達かしら?」

「俺の友達はサイカだけだ。

師匠が同じというだけのただの知人だ。」

「ハチマンくん酷いなぁ。とりあえず、この子達の旅に付き合って欲しいの。」

「チルバディまで送ればいいんすか?

コマチ達もいるし、馬車に乗せればそんな危険は無いとは思いますけど…。」

 

俺の言葉にハルノさんも先生も黒い笑みを浮かべる。

聞きたく無い、それ以上言葉を続けないで。ハチマンのHPはもう0よ!

 

「違うよハチマンくん。この2人の旅、魔王退治の旅に付き合って欲しいの。」

 

やばい、想像以上に面倒な依頼だ。

予感はあったが、俺の気のせいであってほしかった…。

 

「……でも、パーティーは俺だけじゃ無いので、コマチ達に相談しな…」

「あ、こんなごみぃちゃんでよかったらどうぞ連れて行ってください。

盾の代わりにはなりますよ。」

 

おい、コマチ、人を勝手に防具にするな。

 

「待てコマチ、魔王退治の旅なんで危険この上無いものにコマチ達を付き合わせるわけには…。」

「何言ってるのごみぃちゃん?」

 

その一言に俺も首をかしげる。

 

「妹さん達には私の依頼を受けてもらう予定だ。

もちろん、事前に承諾はもらっているよ。」

 

……は?

 

「ごめんなさい、センパイ。でもー、私の目的は魔王じゃないんですよねぇ。」

「ごめんね、ハチマン。コマチちゃんに内緒にするように言われてて…。」

「え、みんな今回の依頼知ってたの…?」

 

ああ、知らされてなかったのは俺だけなんだな。

仲間ハズレにされるのは慣れてますけど。

 

「だって言ったらお兄ちゃん絶対来ないじゃん。」

「わかってて引き受けるな。」

「という事でハチマン、君に拒否権はない。」

 

なにこの強引さ…。

先生、多分その強引さが男に逃げられる要因なんですよ。

俺より強い冒険者なんか別に珍しくもない。

どうやって断ろうかと思考を続けていたが、そのきっかけは思わぬ所からやってきた。

 

「姉さん、その彼に拒否権はなくても、私達には選択権があると思うのだけれど…?」

「まあユキノちゃんの言う通りだけどね。

ここで彼よりレベルの高い冒険者はいないよー?」

 

まあ、正直この街を拠点にして旅をしていてもレベルには限界があるだろう。

せいぜい高いやつでも18〜20程度だ。

まあこの人は除くけど…。

 

「それに、私としては多少レベルが低くても、回復を専門とする僧侶が好ましいわ。」

「だよね、ゆきのんは攻撃魔法も回復魔法も使えるけど、私魔法は全然ダメだし…。

攻撃に偏り気味だもんね。」

「それで、あなたの職業はなにかしら?」

 

そこで振ってくるというのはありがたいな。

彼女達が求めているのは僧侶らしい。

それなら……。

 

「盗賊だ。」

「姉さん、仮にも私は勇者なのだから、犯罪者とは一緒にいれないわ。

この目はなにか犯罪を犯した目よ。」

「うわぁ、即答かよ。しかも目の事にまで触れるなよ…。

まあこれで妹さんも合わないって言ってるんだから無理っすね。

いやぁ残念残念。」

 

なんとか勇者の仲間入りは回避出来そうだ。

よし、これで帰れる!

 

「まあ待てユキノ、そいつは盗賊とは言っても人様の物を盗むようなものではなく、洞窟内の調査を生業としているトレジャーハンターだ。

魔王退治と言えば洞窟を抜ける事も多々ある。こういう奴が1人くらいいた方が逆に安全だ。

それにこの男のリスクリターンと自己保身の計算についてはなかなかのものだ。

安心していい。」

「ハチマンは理性の化物だからね。

まず、変な気を起こす事はないよー。」

 

なにこの人達、どんだけ俺の事好きなの?

なんでそんな可愛い妹に俺なんかを押し付けたがるんだか全くわからん。

これだけ貶されて仲間になれるわけがないだろう…。

 

「ちょっと、シズカ先生、ハルノさん!」

 

おぉ、流石はコマチだ。

流石に兄が貶されまくってる姿は耐えられなかったんだな。

うん、それはポイント高いぞー、言ってやれ。

 

「お兄ちゃんは単にそんな度胸が無いだけですよ。

そういった意味では安全ですね。」

 

俺の味方はここにはいないのか…。

 

「えっと、ハチマンはいい人だよ。

それに強いし、僧侶って言ってたけど、ハチマンはホイミも使えるし、頼りになるんじゃないかなぁ。」

 

サイカマジ天使、この荒みきった酒場に一輪の花が…!

俺の味方はサイカだけだよ。

 

「ふう…。ユイさん、あなたはどう思うの?」

「え!?私!?えっと…私は賛成…かな。

ハルノさんとシズカさんのお墨付きだし、旅慣れもしてそうだから、頼りになるかな…って。

それに…さっきも優しくしてもらってるから。」

「あなた、私の友人に何をしてくれたのかしら?

事と次第によっては切り捨てるわよ。」

「おい待て、俺はぶつかってしまった時に落とした荷物を拾っただけだ。

切り捨てられるような事は何もしてないぞ。」

 

百合っ子なのか?

そんな事で殺されていたら命がいくつあっても足りないんだが。

まあ確かに嫌がられる事はあるが…やばい、俺泣きそう…。

 

「まあまあ、勇者様。

兄は本当にごみぃちゃんですけど、腕が立つのは間違いないですよ。

レベルについては私達の中で1番高いですし、私達が一緒に戦うと邪魔になるくらいです。

性格に難があるのは確かですから、出来ればその性格を旅の中で直してくれたら妹的には嬉しいかなぁって。」

 

褒めてるのか貶してるのか分からないセリフを言いつつ、コマチが押し売りを続ける。

いや、お前本当に商人に向いてるよ。

でも、そのスキルはここで発動して欲しくないんだが…。

 

「……あなた、レベルは…?」

「……だいたい20くらい、だな。」

 

俺の返答に目を丸くして、そうして小さく頷いた。

 

「本当に強いのね。

それならあなたの妹さん、コマチさんと言ったわね。

その依頼受けます。

あなた、私達は稽古は受けていたけど、実戦経験はほとんどないわ。

だからあなたが色々教えてくれれば多少の役には立つと思うの。

だからお願いできるかしら?

その代わり私達があなたの性格を矯正してあげるわ。」

 

おかしい、俺は今依頼を頼まれているんだよな?

なのになぜこうまで上から目線で話が出来るんだよ。

 

「ハチマンくん、ユキノちゃんは照れ屋さんで素直じゃない所もあるけど、とても良い子なのよ?

上から目線なのは許してあげてね。」

 

で、なんでこの人は当たり前のような人の心をさらっと読むんだよ…。

とはいえ、もう本当に逃げ道もなければ拒否権を奪われてるみたいだ。

 

「分かったよ。やる気は無いが、その依頼は受ける。

ただ、俺は俺の事が1番大切だし、今の自分が好きだからな。

変わる気はないし、変えて欲しいとは思わない。

見捨てることで自分が生き残れるなら、躊躇わず俺は逃げるからな。」

「じゃあ決まりだね。

ユキノちゃん、ユイちゃん…無事に帰ってきてね。

ハチマンくん、2人をよろしくね。」

「出来ることしかしませんけどね。」

 

ハルノさんの言葉にため息混じりで返答する。

……本当に知らない女の子達と3人で旅に出るのか?

とは言え、コマチ達を無理やり連れて行くわけにもいかない旅だ。

 

ならば、やはり俺が1人でついて行くのがいいのだ。

しかし、それでも、この旅の行く末にどこか不安を感じてならないのだった。




長くなりました\(^o^)/
もう少し短くするつもりだったのですが、初めて動かすハチマンに色々考えながら作ったので結構長めに…。
キリのいい所が見つからなかったのです。

知ってるか?ハチマン達の戦闘シーンはまだ無い。
次回は初めての戦闘シーンです。

書き方を前回と少し変えてみました。
読み返したらこっちの方がよみやすいかなぁって。
もっとこうしてくれた方が読みやすい!ってのがあったらお気軽に教えてくれると嬉しいです♪

地道にお気に入りにしてくれる人がいると、それだけでやる気が出ます!
あ、今回出てきたメンバーのステータスについては、後ほど。
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