天人を斬りながら進むと、視線の先には次元の違う化け物が目に入った。
心理だけでなく、近くにいた美琴、上条、風斬も同じくゾクリと恐怖を感じた。
その後ろからインデックスもやって来たが、ピタっと体が止まって目を大きく開けて固まった。
「な、によ……?あれっ!?」
巨大化した体に悍ましい物が巻き付かれている化け物を見て、美琴が漸く口を開いた。
心理は周りを見る。
資料で見た事がある少女が四人と見知らぬ女性が一人。
しかし、心理が捜している人物がいない。
化け物と戦っているのかと目を向けると
「!!!」
いた。その化け物の中に。
「心理さん!?って……なっ!?」
心理は勢いよく走っていく。美琴は驚くが、それに気付くと彼女に続いた。
気づけば、2人であの化け物になった浜面に刃を突き刺していた。
「グアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
「チッ!!」
「くっ!!」
暴れる度に発生する暴風に心理と美琴は振り落とされまいと必死にしがみ付く。
「ふぎぎぎぎっっっっ!!!」
美琴は女子らしからぬ声で歯を食いしばって耐えている。
だが、心理の方は背中の痛みが酷くなっていたのか
「きゃあっ!!」
振り落とされてしまった。
地面に叩きつけられて転がる彼女はすぐには立てなかった。
「心理さん!!」
美琴はそれに動揺してしまい、ついに反対方向に吹き飛ばされてしまう。
浜面は今殺せそうなターゲットを心理に合わせて紅桜を振り落とそうとしていた。
「あっ……」
ズキっと痛む背中のおかげで上手く立てない。
ただ、それを見上げるだけしか心理には出来なかった。
「チッ!!おらっ!!!!」
麦野は粒子を集めてそれを放った。その隙に絹旗が心理を救出しようとするが、暴風によってかき消されてしまう。
「なっ!!」
「うわっ!!」
その反動で絹旗は麦野の方向へ吹き飛ばされて激突する。
「心理さん!!今、行きますっ!!」
「間に合えェ!!!」
遅れてきた風斬の背中に右手で触れぬように乗ってきた上条が向かう。
しかし、まだ距離はあった。
浜面はもう、心理に紅桜を振り落としている。
「やめろぉおおおおおおおっっっ!!!!!!!」
立ち上がった美琴は叫んだ。
「いやぁあああああああああっ!!!!ここりぃイイイイイイイ!!!お願いっ!!動いてぇええええええっ!!!!」
上条達の後ろからインデックスは泣き叫んだ。
暗部に潜み、散々、人を殺してきた自分にはこれがお似合いな死に方だと思った。
これが、自分への裁きの刻。
目の前に裁きが近づくと後ろを向いた。
「ありがとう。銀兄をよろしくね」
そしてニコッと笑って涙を流した。
その直後、ズゥウウウウウンと地響きが街を襲った。
砂嵐の様に吹き荒れて前方が見えない。
「あ、ぁああああああああ……うわぁああああっ!!!!」
聞こえてくるのは、ペタン、と膝から力なく崩れるインデックスの泣き叫ぶ声。
風斬も能力を使う事が出来ずにその場に生気の無い目で呆然と立っていた。
「クソ、クソクソっ!!クソッタレがぁああああああああ!!!!!!」
何度も地面に右手を叩きつけて己の無力さに嘆く上条。
「嘘よね……心理さん?冗談にも程があるわよっ!!!!」
信じたくないと現実から目を背ける美琴。
また子は意識を取り戻し、腹を抑えて歩いてくる。
アイテムのメンバーも誰一人、声を出すことはなかった。
「な、何なんスかっ……何が起きたんスか!?」
また子は麦野に声をかけた。
「坂田銀時の妹が……死んだ」
坂田心理が死んだという事実だけが響いた。
また子にとっては坂田心理を見た事がない。ただ、言えるのは銀時の家族が死んだと言うのが深く、心を抉った。
それだけで力が抜けてしまった。
視界が漸く晴れてくる。そこには全員が目を向ける。
そこには無残な姿になった坂田心理の死体がある筈だった。
「え……?」
しかし、心理は生きていた。尻餅をついて驚いたような表情をしている。
それを前からおい被せ、守る様に抱き締めていた白衣の男性がいた。
背中からバッサリと斬られて血を流しながらも、彼女を包み込んでいた。
「はぁっ……最後の最期でテメェらを見捨るなんて出来なかったなぁ……オレァ」
「き、は、ら……さん?」
腕の中から彼女を離し、昔の様に優しい笑みを浮かべた木原数多がいた。
自分から支えを無くした所為で、うつ伏せに倒れる。
心理は血だらけになった木原を仰向けにして頭を膝に乗せる。
「あぁ……他の紅桜の事は気にすんな。手なら打ってあんだ。俺が動かしていた妹達がな」
その事については最も重要だが、今聞きたいのはそうじゃない。
「どうして……助けたの?銀兄さんと私を、引き離して敵になった貴方がどうして……」
それ以上、言葉が続かなかった。木原が心理の髪へと手を伸ばしてゆっくりと撫でた。
「あぁ。そうだ。俺は悪党の道を進んだ。テメェらがあんなクソッタレな奴らに殺されないように……だから俺がいつかテメェらを殺せるように、そんな道を選んだんだ」
「お前とアイツが一緒にいたら奴らにとって都合が悪かったんだよ。能力向上よりも剣術なんか磨いてたからなお前らは」
ククッと昔を思い出すように懐かしむ表情になってポツリ、ポツリと話す。
木原は研究者でありながら、その二人の姿が微笑ましいとさえ感じていたのだ。
それを思わしくないと感じている連中がいるのも事実だった。
「俺は、お前らがあんな奴らの手に渡るなら……俺だけじゃ護り切れねぇなら、俺が終わらせてやろうと思ったんだ」
「お前らを殺す。そう決めていた筈だったんだけどよ……お前らの顔が浮かぶ度に、殺したくねェ。お前らとあん時みたいに一緒にいてぇ。なんてそんな余計な事ばかり考えちまう」
木原は渇いた笑みを浮かべた。
「ぉおおおおオオオオおおおおオオオオおおおお!!!」
その合間にも浜面が再び、咆哮と共に心理と木原に向けて振り落とし始める。
それに反応した全員がそれを防ごうと動く。
その時、浜面の身体の中からキラッと光るものが見えた。
「!?」
コードが斬り裂かれ、中身から何かが飛び出して彼女と彼の前に立ちはだかる。
「余計なもんなんかじゃねぇよ」
そう言って肩を息をして立ち、浜面を見据えているのは全身ボロボロになっている銀時だった。
「ふざけんじゃねぇぞ。何、勝手にテメェだけ終わろうとしてんだ。一緒にいてぇなら、そうすればいい。そんくれぇ、簡単だろうが」
木原は銀時の背中を見つめる。
「それでも余計なもんだってんなら」
浜面に刀の切先を向けて睨みつける。
「そいつがどれだけの力を持ってるか、しかと、その目ん玉に焼き付けな!」
その言葉と同時に銀時と浜面が動きだす。
「銀兄ぃイイイイイイイ!!!」
心理が叫ぶ。そして二人はぶつかり、すれ違った。
銀時の刀が折れて空を舞い、地面へと突き刺さる。
その直後に浜面に纏っていたものがサラサラと砂のように消えていき、元に戻っていく。
あんなに煩しい光が、こんなにも綺麗だったとは。浜面はそう考えながら
「あぁ……あんたの光、眩しくて目ェ開けらんねぇや」
フッと笑って気を失って倒れた。
「全く、立派になりやがって」
木原の声が響く。先程より弱々しくなっているのが良くわかる。
「……俺の頼み、聞いてくれっか」
「…………」
銀時は背を向けたまま何も答えない。心理からは涙が溢れている。
紅桜によって斬られた木原は何をしたって助からないと二人も、木原自身も分かっている。
「俺が生み出しちまった……妹達、ミサカワーストって言うんだけどよ。仲良くしてくんねぇかな?」
心理は口を抑えて頭を何度も縦に振った。
銀時は拳をグッと握り締めるだけでまだ言葉を発することはしなかったが、木原は嬉しそうにしていた。
「悪かったな……。もし、マトモに家族なんてやってたら、こんな事にならなかったんだよな」
目頭が熱くなるのを感じた木原は、そこに手を当てる。
「銀時、心理……。もっと顔を見せろや」
心理は手で顔を覆っていたが、木原によって露わになる。
「うっ……き、はら……さ……ん……」
グシャグシャで目と顔が真っ赤で酷い事になっていた。
「ハッ。ブッサイクな顔すんなよ。ほらっ、笑えよ」
「う、るさいっ…………」
グスッグスッととても笑うなんて事は出来はしなかった。
それでも木原はそれすら、愛おしいとさえ思えた。
「銀時」
反応はない。
「銀時。こっちに来て、くれねぇか」
昔のように優しい声で呼ぶ。
ピクっと反応して振り向く。
下を向きながら木原の方へと向かう。
近づく度に、彼からは銀時の表情がわかる。
「お前が泣くなんて、初めて見たわ」
銀時は彼の元までやってきてしゃがむと、ポタポタと頬に雫が落ちてきた。
「なぁ。俺はお前らを引き取って幸せだったよ。またこうやって最期を看取られてんだからよ」
もう何も思い遺す事はない。そして此れだけは言いたかった。
「銀時。心理。…………お前らは俺の最高の家族だ……よ……」
そして木原数多の目は二度と開く事は無かった。
「木原さん……?いや、嫌よ……嫌だよっ。お父さん……っ」
膝に乗っかる木原の亡骸を抱き締めて初めて《お父さん》と呼んで嗚呼を零す心理に、銀時は抱き締めた。
何も言わずに涙を流しながら。
「いやはや、素晴らしい家族愛ですね」
ゾワリっ!!と一瞬で空気が凍りつく。
「ん〜、木原数多はこうなってしまいましたか。優秀な人材でしたが……仕方ありませんね」
仮面を付け、武装した男が立っていた。上から下までが黒に染まっていた。
「とても面白い物が見れました。紅桜は殆ど使え物になりませんからね。また整えてから来るとしましょう」
仮面からでもわかる柔らかな声。
誰も動けないない中、一人立ち向かう者がいた。
近くに落ちていた刀を拾って。
「やはり、牙を剥くのは貴方ですか」
「銀時」
ギィイイイイイン!!!と響くと男は銀時ごと弾く。
銀時の今の顔は夜叉(おに)そのものだった。
「相変わらずに我流を貫いているのですね。銀時」
男は仮面を外す。
それを見た銀時は刀を落としてしまった。
「お久しぶりですね。貴方に逢いたくて舞い戻ってきましたよ」
淡い栗色の長髪に優しく笑う姿は。
「しょう、よう……?」
吉田松陽そのものだった。
犠牲者は木原でした。
そして、このタイミングでの銀時と虚でした!