「あのー。なんかごめんなさい……」
眼鏡の少女は困ったような表情で謝る。
そんなことよりも今、この少女がハッキリと見える事に驚いた。
先程までは透けて見えていたのに。銀時は首を傾げた。
(コイツぁ……一体、何者なんだ)
「いや。別に謝る事はないんだけど」
「そうですか」
目の前の少女はどう見ても人間には見えるが、先程の事もあって違和感を感じている。
「あっ。私は風斬氷華(かざきりひょうか)って言います」
「御丁寧にどうも。俺は坂田銀時だ。同い年ぐらいか?好きなように呼んでいいよ」
謎の少女、風斬氷華は自身の名前を告げたので銀時も名乗った。
すると、風斬は何かを考えてから口を開いた。
「えっと……ぎ、銀ちゃん、て言うのはどうでしょうか」
「」
銀時はフリーズした。坂田さんとか銀さん、もしくは銀時呼びで来るかなと思っていたが、まさか、ちゃん付けしてくるとは。
「あ、あの?気に入らないなら違う呼び方にしますけど……」
反応が無かったためにションボリしながら声を掛けているのにハッとして、意識を戻す。
「い、嫌とかじゃないんだよ。そんな風に呼ばれた事ねーから、慣れてねーだけだから」
そう言ってやると、彼女はホッとして笑顔を見せた。
(なんだこの子。キュンとすんだけど。オマエ何者?なんて聞けないんだけど)
こんなタイプの人間?は初めてだから少し戸惑う。この世界での銀時の周りの女性は気が強い方だからだ。
それに、風斬氷華を今は何故か放ってはいけない気がした。だから
「なぁ。オマエ……嫌、風斬だっけ?どっか行きてぇとことか、あんの?」
少しだけ付き合うつもりでそう尋ねた。今は人目に付かない場所にはいるが、彼女は誰にでも見えるほどに実体化している。だから街並みを歩いていても何も問題ないだろうと思っていた。
「私は……」
「漸く見つけたぜぇ?一方通行!!」
風斬の声を遮ったのは、仲間を引き連れて武装しているスキルアウト達だった。
(あー。面倒くせぇのがきちまったよ。オイ)
頭に手を当てて呆れた顔をしている。
「あ、あの。人違いじゃないんですか?」
風斬はオドオドしながら、リーダーっぽい男に聞いた。
「あ?知らねぇのか?コイツは学園都市の第1位なんだよ。それに仲間がやられてんだ」
驚いて銀時の方を見ると、彼は何でもないかのように苦笑した。
「それに対策もして来たんだ。邪魔すんなよ女ぁ」
ドン、と風斬の体を押しのける。彼女はバランスを崩して頭を壁にぶつけて倒れる。
「オイっ!大丈夫……っ!?」
銀時は駆け寄って彼女の顔を見た瞬間に、言葉を失った。
「ううっ。大丈夫です。……ぎ、銀ちゃん?」
彼は自分の顔を見て驚愕している。風斬は何か付いてるのかと触ろうとするが
「触るな!!」
銀時に止められてビクッと体が震えた。しかし、それを見ていたのは彼だけではない。
「なんだよソイツ……顔が欠けてやがる。化け物じゃねーか」
「……えっ?」
男は化け物と言って笑っている。
「お前は人間じゃねーんだよ。ソイツと同じ化け物だ」
その仲間も笑いだす。風斬は銀時を見るが、俯いていて表情は見えなかった。
「あ、ああああああああ……」
自分の顔を見なくても雰囲気で分かってしまった。自分は人間ではない存在であると。精神が乱れ始めた。
「風斬。ちっとあいつら黙らせる。それまで待ってろ。逃げるなよ?俺はしつけぇぞ」
そんな風斬に銀時は顔を上げて近付いて頭を撫でる。
「オイ」
と言った時には男の後ろにいた仲間が全員、叩き潰されていた。
まさに一瞬で何が起きたのか理解できなかった。
そんな事を考える暇もなく、男は顔面を鷲掴みされて壁に激突させられていた。
「がはぁっ!?!?」
「テメェ、見とけや。本物のバケモンてのはなぁ」
ドゴォオオオオン!!!
木刀が顔面スレスレの脇に突き刺さる。ヒビが入って今にも壁が崩れそうになる。
「こういうのを言うんだよ」
顔から手を離すと、男がズルズルと倒れた。どうやら気絶したようだ。
そして風斬の方へと視線を移す。
彼女は哀しそうにこちらを見ていた。
「ぎん、……貴方は私が人間じゃないって分かっていたんですか……?」
「……」
何も言わない。銀時は風斬が話していくのをジッと待っている。
「おかしいとは思っていたんです……。誰も私に気付いてもくれない。貴方が反応を見せた時は嬉しかったんです。でも普通の反応じゃなかった……」
風斬はゴミ箱に突っ込んだ時の事を言って無理矢理、笑っている。銀時はそれを笑わずに表情を変えずに見ている。
「何で……何も言わないんですか?……何で、こんな私に近づけるんですかっ!?」
彼女はもう、如何したらいいかわからないほどになっていた。けれども、それに対しても、銀時は彼女に向かって足を踏み入れる。
そして、その少女を抱き寄せた。
「!?」
「オマエは人間だよ。……外も中身も、こんなにあったけぇじゃねーか」
漸く、彼が口を開いた言葉はとても信じられないものだった。
「この世界でバケモンて呼ばれようが、俺だけは他と変わらねぇ人間だって言い続けてやる。オマエを誰一人、信じなくても……俺だけは信じてやる。だから」
「1人で抱えるな。俺にもオマエが抱えてるもん、背負わせてくれや」
ポンポン、と二回背中を優しく叩いた。風斬はこんな穏やかな感情を持ったのは初めてだった。
この男は嘘をつかない。何故か信じ切れてしまうものが、彼の中にあるのだろうと想定できた。
「私が抱えてものは、こんなものじゃないかもしれないですよ?」
「上等だ」
抱きしめられている為、表情は見えない。でも、フッと笑っているよう声が聞こえてきた。
「それに、俺達はもうダチ公、だろ?」
「友達……ですか?」
「あぁ」
友達。そういってくれた彼に彼女は顔を紅くなるのを感じた。
もう大丈夫だなと思って、銀時は風斬を解放してやるとその顔を見て驚いたが、口元を緩ませた。
彼女の表情は紅くなりつつも、笑顔で溢れていた。
「そうやって笑ってろよ。そっちの方が似合うぜ」
少し恥ずかしそうにしてる彼女にそう伝えた。
けども、彼女の幸せに限界が来たようで、体が段々と透けていってるのがわかる。
銀時は焦ったが、風斬は自分の存在が分かったので納得していた。
「どうやら、今日はもう保てないみたいです」
「……消滅って訳じゃねーんだな?」
コクリ、と頷く。
「じゃあ、また会った時にでもどっか行くか?」
消えかけている少女に次の約束を設ける。
「約束、ですよ?」
「あぁ。約束だ」
風斬は、更に嬉しそうになって
「あのっ!……またね。銀ちゃん」
銀時に付けた呼び名を再び、声に出した。銀時は頭をポリポリと掻いて
「またな」
と言った。
そして風斬氷華は完全に、その場から消えた。
銀時は風斬がいた場所を暫く見つめた後
「約束……か」
空を見上げてそう呟いた。
次は実験内容がガラリと変わります。