次の日の放課後もとりあえず公園に向かうとアリスが笑顔で待ち構えていた。黒おじさんと赤おじさんがいなかったことに安堵した俺は臆病者かもしれない。とりあえず針千本の可能性はなくなった。
「お待たせ」
「あっ、おにいちゃん!」
今更だがおにいちゃんはきついな。響希のやつに聞かれたらほぼ間違いなくおにいちゃんと呼んでくるだろう。そうなった日には俺のあだ名は確実におにいちゃんだ。そして俺の変質者度数もうなぎ上り。ここは先手を打って対処しておいた方がいいかもしれない。
「アリス、おにいちゃんは止めよう」
「なんで?」
アリスは不思議そうに首を傾げた。子供らしく可愛らしい。
「いやな。今の世の中だとおにいちゃんと呼ばれるのは色々とまずいんだよ」
何が不味いかっていうと主に体面が。
「じゃあなんて呼べばいいの?」
「うーん。俺はアリスと呼んでるし、子規って呼んでくれれば」
「じゃあシキ遊ぼう!」
「はいはい」
そう答えて走り出したアリスの後を追う。
そういえばこれも今更だがこの公園に来る人も大分いなくなったな。前はよく子供たちとここで遊んだものだが、もしかして俺がいたせいでここには近寄るなみたいに言われているのだろうか? そうだとしたらちょっとへこむ。
俺が今、アリスと遊んでいる光景は微笑ましいものに見えるのかそれとも犯罪臭漂う光景に見えているのか。今時、後者なんだろうな。トキ爺さんとアリスなら微笑ましく見えそうなものだが、生憎今日はトキ爺さんに会わなかったからな。なぜ昨日は急にいなくなったのだろうか?
とはいえそんな風にアリスと放課後遊ぶのが毎日続き、六日目のこと。
いつも通り黒おじさんことネビさん、赤おじさんことベリさんが迎えに来るまでアリスと遊んでから家路につく。明日は土曜日で学校が休みと言ったら彼女とおでかけすることになった。それ自体は構わないんだが、変な噂とか立たないよな? もう立ってるかもしれんが。
そして、帰り道で知り合いの女性に出会った。
「あっ、リリ姐さん、こんばんわ。にはちょっと早いか」
会うのは夜が多いためつい癖で言ってしまった。
「あら? 子規君」
リリスというのがこの女性の名前で俺はリリ姐さんと呼んでいる。なぜかといえば夜の女王という称号がついていそうなくらい男を侍らせているからだ。おそらく漫画でもそうそうお目にかかれない光景だと思う。
今日もリリ姐さんは六人ほどの男に囲まれていたが、俺に気付くと囲みを抜け出して近づいてきた。男の方々の視線が痛い。貢ぎ過ぎて生活に余裕がないのか皆やつれているので逃げるぐらいは出来そうだが。
ただまあ気持ちは分からなくもない。それぐらいリリ姐さんは美しい。それも男性だけでなく、女性すら魅了するほどに。そしてなにより色気がもの凄く、一緒にいると頭がクラクラしてくる。あれこそ誘惑の名にふさわしい。
自分でも自覚はあるようで露出の多い服装が多く、いつしか見た時は身体に巻きついた蛇だけだった。あれは本気でやばいと思う。その時は直視することが出来ず、顔を背けたまま上着を着てもらった。勿論俺の上着だ。なんかむちゃくちゃからかわれたっけな。
「こんな時間に合うなんて珍しいですね」
「ちょっとこの街から移動しようと思ってたのよ」
「相変わらず自由人ですね。まあリリ姐さんならどこでもやっていけると思いますけど」
リリ姐さんなら天使や悪魔でさえ魅了出来そうだし、これは本心だ。たぶん貢物だけで生活できる、ってどこの黄金律スキルだ。
「ふふっ、せっかく会えたのだから一緒に来る?」
リリ姐さんは蠱惑的な微笑を浮かべて言った。
「後二年遅かったら喜んでその話を受けますけど。俺はまだリリ姐さんと一緒に歩くにはガキ過ぎです。というか他の男性に後ろから刺されそうなんで」
それにアリスとの約束もある。反故にしたら黒おじさんに何されるかわかったもんじゃない。いいとこのお嬢様だとすると社会的に抹殺とかもありえるかもしれん。もしそうなったらトキ爺さんに相談してみようか?
「……そうね。なら私の隣を歩けるくらい強くなるのを待っているわ」
そう言われるとなんかモチベーションが上がるから男は便利である。身体は暇なこともあって最低限鍛えているが、もっと頑張ってみよう。
「はい。いつかリリ姐さんを守れるぐらい強くなります」
正直、リリ姐さんの隣にふさわしい男になるよりは強くなるほうがよっぽど楽そうだ。
「ふふっ、期待してる」
なんとも魅力的な微笑を浮かべてリリ姐さんは去って行った。
どうしよう本気で頑張ってみようか?
からかわれていると分かっていてもどうしようもないのが悲しき男の性というもの。
それにしてもしばらく会うこともなくなるわけか。リリ姐さんの言葉が冗談にしろ、本気にしろ、次に会う時には今よりましな男になっていたいものだ。
Focus onリリス
とても面白い子。
未だに私が人間でないことに気付かないなんて。良い眼と魔への強い耐性がそうさせるのだろう。
『深淵を除くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ』なんて言ったのはどの人間だったかしら。
魔を見ることでき、魔に魅入られる子。いつのことか周りの人間に避けられるという相談をされたが、それも当前のこと。彼がこちら側へ来る日もそう遠くないかもしれない。
原初の妻、それが私。その私を前にして、私の魅了が効かないわけではないにしろ耐えてみせるのだ。勿論、本気で魅了をかければ周りにいる男達のように彼も私に傅くことだろう。
ただ珍しく私とまともに話すことができ、また話そうとしてくる人間。ただの木偶にするのは惜しいかもしれない。
次に会う時、彼が私の期待を裏切るようなら木偶にしてしまおう。ただもしも彼が私の期待に応えられたなら……。
「ふふっ、期待してる」
あとがき
アリスにしろリリスにしろ二択のどちらを選んでも死にそうなのはなぜだろう。