しかし赤馬零児はハゲだった。 作:志島北斗
史上最年少でプロデュエリストの資格を取得し、齢16歳にして舞網市に構える大企業”レオ・コーポレーション”の社長を務める。
当代きっての敏腕社長であり、その手腕を振るい、様々な召喚法を広めてデュエルモンスターズ界に新風を起こした──。
しかし彼はハゲだった。
「うーむ……」
頭の上で最終戦争でも発動されたのだろうか、朝方起きてみれば自慢の髪が焼け野原となっていた。艶やかに光る豆電球、否、頭部。
なにを何処で間違えたのか、赤馬零児はこの若さにして頭髪をリリースしてしまったのだ。うら若きハゲである。
「……やはり父の遺伝だろうか」
こんな事態にも関わらず、赤馬零児は冷静に分析してみた。
自室の鏡と向かい合いながら、自分に父の面影をかぶせる。
会社と家族を捨てた父、赤馬零王も零児が物心ついた時からやっぱりキラキラしていた、頭が。
「零児さん……えっ!? どうしたのですかその……えっと……頭は……」
「……」
母、
これはちょっと只事ではない、早々に対策を講じるべきだ。
まあそんなこんなで朝の光景を経て、赤馬零児は只今
丁度LDS融合コース所属の
遊勝塾とは。
稀代のエンターテインメントデュエリスト、榊遊勝の弟子である
「うおぉぉぉ、熱血だ柚子ぅぅ!」
「ちょっとやめてよお父さん!」
それにしても柊修造は暑苦しすぎる気がする、エンタメというよりスポ根といった感じだ。
その娘である柊
見物早々に遊勝塾の残念な部分を見た気がする、そんな事を思いながら零児はかけている眼鏡を中指で押し上げる。
──かくして光津真澄は柊柚子との決闘に打ち勝ち、
「超重武者ビッグベン―Kで攻撃!」
そして次はLDSシンクロコース所属の
権現坂昇のデュエルスタイルは独特だ。
このアクションデュエルが普及したご時世に反するように不動の構えを取り、アクションカードに頼ろうとしない。
もちろん、それには確固たる理由がある。
「あいつ……”フルモン”かよ」
遠くで見物するナルシストボーイ、
フルモン。正式にはフルモンスター。
つまりモンスターカードのみで構成されたデッキの事を指し、基本的に魔法罠で援護しながら戦うデュエルモンスターズにおいて異例の戦術。
権現坂昇の扱う超重武者と呼ばれるデッキは墓地に魔法罠カードが存在しない事を条件に効果を発揮するモンスターが多いため、使用後墓地に埋葬されてしまうアクションカードを拾えば逆に不利を招く事となるわけである。
──そんなこんなで、起死回生の一撃を決めた権現坂昇の手によって決闘は引き分けという形で幕を引いた。
「……えーっと、これで勝敗はお互い一勝一敗一分。ということで”あの話”は無しということで……」
「ご冗談でしょう?」
実はこの決闘、遊勝塾をLDSの傘下に治める為のもの。つまり彼らは塾の権利を賭けての戦いを行っていた。
だが結果は各成績を合わせても引き分け。これでは結果の是非を問えず、話がもつれ込むこととなる。
その折で遊勝塾側の塾長である柊修造は取引を白紙に戻そうとしていたのだが、対するLDS理事長の日美香は異を唱えた。
「栄誉あるLDSがちっぽけな決闘塾に遅れを取り、引き分けという形とはいえ手ぶらで帰る……それでは我がレオ・コーポレーションの名に傷がつきます」
「では、どうしろと……」
「延長戦を取り行いましょう、その勝敗を持って幕引きとする。よろしいですね?」
「はあ……」
こういう話に弱いのか、柊修造は先程見せたような熱血ぶりとは打って変わり、へりくだるような態度で日美香の要求を承諾する。
「さあ、遊勝塾は延長戦に誰を選ぶのですか?」
「オレが行く!」
そして今、舞網市で台風の目となっている少年──榊遊矢が覚悟を示して前へと出た。
榊遊矢。
柊修造の師、榊遊勝の息子。
失踪した父への憧れを抱いているのか、そのデュエルスタイルは綺羅びやかな演出を施して勝利するもの──所謂エンタメデュエルを主流としている。
が、彼がこの舞網市で話題を呼んでいる理由はそこではない。
(ペンデュラム召喚の発現者……!)
榊遊矢が以前、エキシビジョンマッチで見せた前代未聞の召喚法──ペンデュラム召喚。
スケールと呼ばれる数値を双方に揃え、その数値間のレベル帯のモンスターを一斉に特殊召喚できる召喚法に皆が目を奪われた。
皆が彼に存在価値を見出しているのはエンタメデュエルではない、ペンデュラムなのだ。
(ここは……私の出番だな)
ここで出なければ誰がやる。
赤馬零児は満を持して皆の前へと姿を現した。
「決着は私がつけよう」
「社長!」
「零児さん!」
LDS関係者が皆その姿に驚く。当然だ、LDS門下生からすれば突然憧れの人物、羨望の的である赤馬零児が現れたのだから。
しかし、同じように驚く日美香の真意をちょっと違っていた。
(れ……零児さん)
おさらいしておくが、日美香は零児がハゲである事を知っている。
今の彼はフードを被り、頭を隠しているが──。
(あのフードをとったらどうなるの……!?)
もし今の状況で零児がフードを脱げば哀れな豆電球が顕となり、威厳ある雰囲気はかき消え爆笑の渦が起こるだろう。
それだけではない。史上最年少プロデュエリスト兼カリスマ敏腕社長が頭ジェリービーンズマンだと世間にしれたら、レオ・コーポレーション及びLDSの沽券に関わる。
ああ、悲しきかな父親の血。ハゲと結婚したばかりに。
「……なにを考えているのです」
「あ、いえ」
「大丈夫です」
(ああ……!)
零児がフードに手をかける──日美香は思わず目を覆う。
「……あら?」
しかし彼はフサフサ零児だった。
「なぜ……?」
咄嗟に零児が日美香に耳打ちする。
「大丈夫です……中島に急遽特注のカツラを作らせましたから……」
「……ほっ」
緊張をなでおろして安堵の一息。
どうやらLDSの威厳は保たれたようである。
「これが本当の決勝戦……必ず勝って、父さんの塾を……」
「さて、榊遊矢。案内してもらおうか、決闘の舞台へ」
「あっ、はいどうぞ」
かくして、二人は遊勝塾自慢の決闘場に足を踏み入れ、両者決闘盤を構えて対峙する。
「アクションフィールドはどうする?」
「ご自由に」
ご自由に──淡々とした零児のその言葉通り、遊矢も修造に目配せして意志表示を見せた。
「遊矢は今度も俺に任せると言っている……だがあれが本当に赤馬零児だとしたら……」
修造なりの配慮、例え卑怯と罵られても少しでも遊矢の力となりたい。
「最高の舞台で、最高のエンタメを見せてくれ、遊矢! アクションフィールド、オン!」
光と共に色あせてゆく景色、特殊プロジェクターの手によって決闘場は榊遊矢の得意フィールド、サーカスの舞台へと変貌した。
「フィールド魔法、アスレチック・サーカスを発動!」
「うわぁ……! サーカスだぁ!」
ギャラリーの少年少女がその光景に一様に湧く。
「ありがとう……塾長! 期待に応えるのがエンターテイナー……みんなに最高のデュエルを見せてやる!」
──戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが、モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!
「見よ! これぞデュエルの最終進化形!」
「アクショーン!」
──デュエル! 二人の決闘が火蓋を切って開始された。
「フィールドを選ばせてもらったお礼だ、先攻は譲るよ」
「お礼……? 譲る……? ……なるほど、君はそういう思考をするのか」
「えっ?」
まるで皮肉めいた言い様に対する遊矢は困惑を見せる。
「まあいい、申し出は受け取っておこう。では私のターン」
手始めに、
「永続魔法、地獄門の契約書を発動。このカードが場に存在する限り、私はスタンバイフェイズ時に1000ポイントのダメージを受ける」
「えっ……!?」
ライフ4000を持ち点として開始するデュエルモンスターズにおいて、1000ポイントのダメージは馬鹿にならない。
「さらに、一ターンに一度、デッキから”DD”と名のつくモンスター一体を手札に加える事が出来る。私が加えるのは」
山札より排出されたカードを遊矢へと差し向ける。
「DDケルベロスを手札に加える。そしてもう一枚、私は永続魔法、魔神王の契約書を発動……地獄門の契約書同様、このカードも場に存在する限り私はスタンバイフェイズ毎に1000ポイントのダメージを受ける」
「そんな……! 自分からダメージを受けに行くなんて、何を考えてるんだ!」
榊遊矢からすれば理解できない戦法。
既に二枚の契約書が場に存在するということは、遊矢が手を下さずとも相手は残り二ターンで自滅することとなる。
勝つ気がないのか、それともあるいは何か裏が──。
「魔神王の契約書の効果。このカードが場に存在する場合、私は一ターンに一度、融合魔法無しで融合召喚を行う事ができる」
「なんだって!」
「私は手札のDDケルベロスとDDリリスを融合!」
牙剥く三つ首の狼と花咲く妖婦が渦を成す。
「牙剥く地獄の番犬よ、闇夜に誘う妖婦よ! 冥府に渦巻く光の中で、今ひとつとなりて新たな王を生み出さん!」
冥府の炎に運ばれた魂が今、烈火の王となりて顕現する。
「融合召喚! 生誕せよ、DDD烈火王テムジン!」
しかし渦が巻いたということはだ。
(むっ……!?)
融合召喚によって発生した、押し寄せる風圧。
その圧が無情にも空を引き裂き零児の髪、もといカツラをなで上げる。
「危ない!」
「えっ!?」
咄嗟にかばうように自分の頭を抑えた零児の様子を見て榊遊矢は何事かと驚いた。
「な……なんですか?」
「いや……なんでもない」
(この人、ちょっと変な人なのかな……)
DDD烈火王テムジン 攻撃力2000。
出会って数分の相手に初対面ながらも失礼な心境を胸に思う遊矢。
それに対して必死にカツラを死守する零児は、今頃になってこの決闘に挑んだ事を後悔していた。
「……ターンエンドだ」
カードなんて捌いてられない、今はカツラを守る事が大事。
伏せカードなんて一切伏せずの、気持ちいっぱいいっぱいのターンエンドだった。
「よし……俺のターンだ!」
遊矢も気を取り直してのドロー。
引いたカードを手札に加えた彼は軽快な笑顔を浮かべ、
「レディースエーンド、ジェントルメーン!」
榊遊矢の恒例の合図──その父の模倣であるエンタメデュエルが始まった。
「紳士淑女の皆様! これからわたくしが見せますのは──っと、まずは彼らにご登場いただきましょう! 来い、時読み、星読み!」
彼の掛け声と共にデュエルディスクの双方にペンデュラムスケールがセットされる。
セットされたスケールは1と8。
「これでわたくしはレベル2から7までのモンスターを同時に召喚可能!」
二柱の光が天を穿つ、間に出現した巨大振り子が弧を描く。
「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク! ──ペンデュラム召喚!」
振り子走る傷跡から大口が開き、虹彩の中より七色の雨が降り注いだ。
「来い、俺のモンスター達!」
七色の雨より這い出たモンスターは、双色の眼を持つ赤き竜。
「雄々しくも美しく輝く
そしてその隣で四肢を立たせるは赤く燃ゆるたてがみを揺らめかせた炎の獅子。
「サーカスの舞台をその炎で彩り照らす、ファイア・マフライオ!」
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500。
ファイア・マフライオ 攻撃力800。
「バトルだ、オッドアイズ! その双色の眼でとらえたすべてを焼き払え!」
主の声と共に飛び立つ赤龍、双色の眼を輝かせて顎門に赫炎の息吹を収束させる。
「──螺旋のストライク・バースト!!」
赤龍が一身に身体をしならせて顎門の火炎を放射した。
渦巻く火炎が一直線にテムジンを目掛けて迫りゆく。
テムジンも盾を構え、息吹の衝撃に備えて防御の構えを取る。
「フッ……」
みすみす破壊させるわけにはいかない、零児も従者を守るため動き出す。
慣れないフィールドの中、見回した先にある気球の上に光るアクションカードを見つけた。
あれを取れば恐らく攻撃をかわせる──だが、
(いや……待て)
ちょっと待って欲しい、あの気球に辿り着くにはどうしたら良いのだろう。
いや、いつもならば自慢の跳躍力であそこまで飛べるのだが、
(私は今、カツラをかぶっている……!)
恐らくあそこに向かえばこうなるだろう。
気球の上まで飛ぶ、風圧が巻き起こる、カツラが取れる、零児オワタ。
「ダメだぁぁぁ!!」
「えぇ!?」
突然の零児の咆哮に寧ろ遊矢の方が気圧されてしまった。
とはいえ、攻撃は依然としてテムジンまで問題なく届き、
「グワァァァ!!」
呆気無くテムジンは破壊されて消滅してしまった。
破壊の際に巻き起こった煙幕が辺りを包む。
「……えっと、リアクション、フォース……オッドアイズが与える戦闘ダメージは二倍になる……」
あれだけ堂々と出してきたモンスターがあんまりに呆気無く倒せてしまったので、当の遊矢の方が変な戸惑いを起こしていた。
ともかくテムジンの攻撃力からオッドアイズの攻撃力を差し引いてダメージは500、更にリアクション・フォースによって1000ダメージとなり零児の残りライフは3000となった。
「……いや、ぼうっとしてる場合じゃない、チャンスだ! ファイア・マフライオの効果発動!」
煙幕が漂って視界が悪い中、ファイア・マフライオが首を振るってたてがみの炎を飛ばし、
「ファイア・マフライオが場に存在する時にモンスターが戦闘破壊に成功した場合、そのモンスターの攻撃力を200アップさせてもう一度攻撃ができる!」
なんと飛ばされた炎が円を形成した。火の輪というやつである。
赤龍が火の輪を華麗にくぐり、次なる攻撃を繰り出した。
「もう一度だオッドアイズ! 螺旋のストライク・バースト!」
再び放たれた螺旋の息吹が一閃を描いて煙幕を突き進む。
苛烈な爆裂音が鳴り響き、またまた零児のライフがすんなりと700まですり減らされた。
「あ、あれ? 普通に攻撃が通るんだ……よし!」
もう勢いに乗ってしまえ、遊矢は指を差し向け指示を下した。
「トドメだ! いけ、ファイア・マフライオ!」
「にゃー」
ネコ科の猛獣が煙を突き進む。遊矢からは煙が立ち込めて見えないがどうやら零児の下へと向かったらしい。
「……」
数分後。
「遅いな……」
一応、モンスターは攻撃を済ませればこちらの下に帰ってくるはず。
けれどもいつまで経っても戻ってくる気配が全くなく、仕方なく遊矢もマフライオが進んだ道を辿ってモンスター達の下へと向かった。
「けほ、けほ。おーい、なにして……」
昇りゆく煙に咳き込みながらも、その先でファイア・マフライオの姿を見つけた。
が、なんとマフライオは足でぺちぺちと何かの豆電球が叩いており、
「……」
唖然呆然。なんとそれはカツラの取れた赤馬零児であった。
「……誰も見てないな」
辺りを見回す遊矢。
そして誰も見ていない事を確かめた遊矢はそっと零児の頭に取れたカツラをかぶせ、小さなエンタメ魂を見せてあげた。
かくして、ファイア・マフライオの攻撃の下に散った零児。
対する遊矢はあの敏腕社長兼天才デュエリスト、赤馬零児からワンターンキルで勝利をもぎ取った事で遊勝塾の平和と、そして赤馬零児の秘密を隠蔽した事でレオ・コーポレーションの威厳と威信を守り通したのであった。
「えっと……これがあなたが倒れるまでの経緯です」
「なん……だと」
あれから、遊勝塾の休憩室で意識を取り戻した零児。
その視界には真っ先に榊遊矢の姿が映り、介抱してくれた彼から事の経緯を聞いたのであった。
まあつまり、
(カツラがバレた……だと!?)
「あ、いや大丈夫ですよ! オレ誰にも言いませんから! えっと……頭がエンターテインメントっだっていうことは」
「君の存在ごとエンターテインメントにしてやろうか」
「うわわっ!」
(抹殺もやむ無しか……いや)
社長のよく分からない脅しにおののく遊矢。
それに対して社長はある閃きの下、彼にこう述べる。
「まあいい、こうなってしまったら仕方がない」
「あはは……」
「ならば君のペンデュラムの力で協力してもらおうか。私のハゲを治すため、各次元をまたにかけた植毛計画に……」
「……えっ?」
こうして、奇妙な縁で榊遊矢は赤馬零児に協力させられる事となるのであった。