役人転生〜文部科学省学園艦教育局長に転生した私はどうしたらいいのだろうか〜 作:トマホーク
うーむ。これは本格的に不味い状況ですね。
このままでは物語が原作通りに進まなくなります。
いえ、原作崩壊と言った方が正しいでしょうか。
……何とかせねば。
「失礼します」
「どうぞ、入ってください」
さて、私と高島君の元にやって来たのは角谷杏ちゃんと秋山優花里ちゃんの2人。
ちなみに現在の場所はサンダース大学付属高校の戦車道チームが設置していた天幕をお借りしています。
「さて、お二人は角谷杏さんと秋山優花里さんでお間違いないですね?」
「はい」
「は、はい……」
何故呼び出されたのかが分かっていない2人に対し、高島君が悪人のような顔で確認を取っています。
っていうか、何だか愉しそうですね。高島君。
私は胃が痛いというのに。
「早速ですが、秋山さん。貴女……本大会前にサンダース大学付属高校の校舎に忍び込んだそうですね?」
「はうっ!?」
「あちゃ〜……これは不味いねぇ……」
「どうなんですか!!ハッキリ言いなさい!!」
「えっと!?あの……その……ッ!?」
高島君が……後ろ暗い行為を指摘されて困っている優花里ちゃんを嬉々として問い詰めています。
「誤魔化そうとしたって無駄ですよ!!貴女がサンダースの校舎に忍び込んだという事実は妹のアリサから聞いて証拠を取ってあるんですから!!」
今回の件を引き起こした元凶は君ですか、アリサ君。
「うっ……し、しかしながら!!試合前の偵察行為は承認されているはずです!!」
「それは法律に違反しない範囲での事でしょう!!貴女が行った行為は明らに不法侵入!!正確には刑法13章第130条に規定されている住居等侵入罪に該当します!!」
「あうぅ」
優花里ちゃんの精一杯の反論にバカめと言わんばかりの表情で正論を叩き付ける高島君。
……鬼ですね。
「これがどういう事か……お分かりですね?」
この違法行為が表沙汰になれば大洗女子学園戦車道チームは失格。
代わりにサンダースが一回戦突破という事になるでしょう。
けれど私の予想が正しければサンダースへの不法侵入の一件で大洗を失格にするのは無理でしょうね。
「ちょっと待ったー!!その子は不法侵入なんかしていません!!」
ほら。サンダースの戦車道チームの隊長であるケイ君がアリサ君を連れて乱入して来てくれました。
ま、彼女達の乱入を期待してわざわざここを借りたんですけどね。
「私が彼女を我が校に招いたんです!!決して不法侵入なんかじゃない!!」
「ケイ殿ッ!!」
優花里ちゃんがキラキラした目で救世主のケイ君を見詰めていますが……安心するのはまだ早いですよ。
「……アリサ?どういう事?」
「ね、姉さん……ごめんなさい。全部私の勘違いだったのよ」
高島君の問い詰めるような鋭い視線にたじろぐ盗聴少女。もといアリサ君。
「……勘違いだった?なら今一度確認致しますが、ケイさんは秋山さんをサンダースに招いた。という事で宜しいのですね?わざわざ対戦相手に手の内を見せるために」
「えぇ、そうよ。大洗とウチでだと投入可能な車両数の差で戦力差が開きすぎているからね。だから少しでもフェアな戦いをするために彼女を招いたの」
「……そうですか」
ふぅ……これで校舎に対する不法侵入の件で大洗を失格にする事は出来なくなりました。
明らかに後付けとは言え、ケイ君が招いたと言えば不法侵入は無かった事になるのですから。
だから、これにてこの話はお仕舞い――となれば良かったんですけどね。
うちの高島君は何せ有能なんです。
世界の修正力と親の威光を借りて棚ぼた的にこのポストに座った私とは違ってね。
彼女は己の力だけで数多の苦難を乗り越え、若くして学園艦教育局の副局長まで登り詰めて来た真のエリート。
そんな彼女が簡単に揉み消せる程度の事で“違法行為の決定的な証拠を掴んだ”なんて言うはずが無いんですよね。
「勘違いだったら仕方ないですね」
「「「「へ?」」」」
杏ちゃんや優花里ちゃん、ケイ君、アリサ君が高島君の予想外の反応に戸惑っています。
悔しがるとでも思っていたんでしょうか。
「でしたら、秋山さん。貴女が犯したもう1つの違法行為についてお話しましょうか」
「へ?な、何でありますか?」
「貴女……サ◯クルKサ◯クスの輸送船に不法侵入してますよね?」
「「「「ッ!?」」」」
これでもかと口角を吊り上げてニンマリと勝ち誇った笑みを浮かべる高島君……怖ッ!!
さて、ここからが私の力の見せ所です。
覚悟を決めましょう。