役人転生〜文部科学省学園艦教育局長に転生した私はどうしたらいいのだろうか〜 作:トマホーク
しほside
思えばここに来るのも久し振りね。
「家元襲名、おめでとうございます」
「ありがとうございます。既にお聞きかとは思いますが、ここは是非大学強化チームの責任者である島田流家元に直接ご了承を頂きたいと思いまして、お邪魔させて頂いた次第です」
「ご丁寧にどうも。しかし、事情が事情とは言え、試合を行う以上こちらも手加減は致しません。宜しいですね?」
「構いません」
見方よっては西住流と島田流の流派間の戦いのようになってしまったけれど、致し方無いわね。
これで何か問題が起きたら諸悪の根源に責任を取ってもらいましょう。
「では、私はこれで」
「あら、もう帰るの?もう少しゆっくりして行けばいいのに。お茶でも飲みながら昔の様にお話しない?」
貴女は建前を捨てるのが早すぎるわよ。
「……まだ色々とやることがあるのよ」
「そうなの?なら手短に1つだけ聞いてもいいかしら?……辻さんを西住流の師範代から下ろしたという噂は本当なの?」
貴女はまた口にしずらい話題を選んだわね。
というか、まだまほやみほにも言ってない……公に公表していない話なのにどこから聞き付けたのかしら。
「……えぇ、本当よ」
「またどうして?辻さんは貴女と貴女の娘達――まほちゃんとみほちゃんの恩人のはずでしょ?まほちゃんが2年連続で優勝を逃した時や“あの大会”でのみほちゃんの行動を分家筋や門人達が責め立てようとした時に、立場上動けない貴女に変わって彼が2人の事を守ったのだし。そんな彼を何故」
「まほの事はともかく。あの時のみほの行動は西住流として咎められて然るべきものよ」
「あらあら、まぁまぁ」
貴女のその全部分かっているという顔は甚だ不本意なのだけど。
「ゴホン、話を元に戻すけど……確かにあの人がまほとみほを守ったのは事実よ。けど、そのせいであの人は西住流の中での立場を完全に失ったのよ。まぁ、元々男の身であるが故に保守的な者達からは嫌われてはいたけど」
あの大会でのみほの行動を蔑む発言を繰り返していた者達相手に大激怒して口論を引き起こし、会議を滅茶苦茶にしてくれたのよね。
まほの時も同様に。
そして、その結果どちらの件もうやむやに……全く2人に向けられるはずだった悪意を意図的に自身へ向けることで、事態の沈静化を図るなんて悪手は止めて欲しいわね。
やるならもっと上手くやってもらわないと。
「そう……やはりどこもお家問題となると大変なのね」
貴女がそんな顔するなんて珍しいわね。何かあったのかしら。
「そして、今回私が家元を襲名するにあたってあの人の排斥の声が上がったのよ」
「それで分家筋や門人達の圧力に負けて師範代の地位を剥奪したの?」
「バカを言わないで。私はそこまで愚かじゃないわ。剥奪しろと言ってきたのは本人よ」
「?」
「私が分家筋や門人達の対応に頭を悩ませているのを見抜いて、更にはお母様の代の門人達が私を認めていない問題を解消するために自分から師範代の地位を返上してきたのよ。表向きには私が剥奪したという事にすれば諸事の問題が片付くと余計な言葉を付け加えてね」
いらぬ気ばかりを回すのだから。
まぁ、お陰で家元襲名がトントン拍子に進んだのも事実。
でも、あの男の手のひらで事が進んでいるような気がして不愉快ね。
「フフフ、辻さんらしいわね」
「フン、こちらとしては困ったものよ」
「あら……持て余しているようなら是非ともウチに欲しいのだけど」
「残念だったわね。色々としでかしてくれる問題児でも他所にくれてやる訳にはいかないのよ。それに師範代の地位が無くなったと言っても西住流の門下である事に代わりはないのだから」
あれでも若い門下生を中心に人気があるし。
と言うか、そもそもお母様のお気に入りなのだから他の流派に渡すなんて無理よ。
それに何より……あの男を他所に渡したりしたら、まほが何をしでかすか……。
「あらあら」
だから、その顔は止めなさい。
「それにしても今回の件、辻さんはどう片を付けるのかしらね」
「さぁ?何か企んでいる様子だったから、上手くやるでしょう」
「でも、廃校はもう覆らないのに」
「……それはウチの娘が貴女の娘に負けると言っているのかしら」
「あら、そう聞こえなかった?」
「……」
売られた喧嘩は買うわよ。
「フフッ、そんな恐い顔しないで。冗談よ。でも、万が一、億が一私の娘が負け廃校が撤回された場合……文科省内での辻さんの立場が不味い事になるわよね。下手をすれば責任を取らされてクビよ?」
「……自分の逃げ道ぐらい用意してるはずよ」
いくらなんでもそこまでのバカではないでしょう。
……嫌な予感がするのはきっと気のせいね。
役人(いくらなんでもそこまでのバカ)