役人転生〜文部科学省学園艦教育局長に転生した私はどうしたらいいのだろうか〜   作:トマホーク

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これまでの行いは今に

えーと……しほさん達が帰ってから慌てふためく高島君を宥めつつ、上への事情説明や試合の手配、各方面への根回しをした後、大学選抜チーム――愛里寿君達に試合の説明をしに来たのですが。

 

「……フフッ」

 

「――という訳で、大学選抜チームの君達には大洗女子学園の戦車道チームと試合をして頂く事になりました。詳細はこちらの資料に書いてあるので、各自で目を通しておいて下さい」

 

どうにも……愛里寿君の様子がおかしいです。

 

今も幸悦とした表情を浮かべて1人で嬉しそうに笑っていますし。

 

何かあったんでしょうか?

 

「隊長……お母様からの電話があった後から、ずっとあんな感じなんです」

 

「コーチが来たら直ると思ったんですけど」

 

「見ての通り直らないんです。何か知りませんか?」

 

そう言われましてもね……アズミ君、メグミ君、ルミ君。

 

私には思い当たる節が……あ。もしかして、あれですか?

 

試合に勝ったら千代さんがボコミュージアムのスポンサーになるという約束。

 

うん、これですね。

 

愛里寿君はみほちゃんに負けず劣らずボコが好きですから、試合に勝てばボコを助ける事が出来ると喜んでいるんでしょう。

 

「残念ながら、心当たりは無いですね」

 

「「「そうですか……」」」

 

理由は分かりましたが愛里寿君と千代さんしか知らないはずの電話(会話)の内容を私が口にするのは不味いので、ここは知らないフリ知らないフリ。

 

しかし、千代さんと言えば。

 

つい数時間前に試合の話を通した時、愛里寿君が試合に勝ったら私が島田流に移籍?するという約束をさせられてしまって困りましたよ。

 

まぁ、約束しないと試合は受けないと突っぱねられたので仕方なく約束の事を誰にも口外しないという条件を付けてOKしましたけど。

 

……この話が西住流に漏れたら本当に不味いです。

 

「あのー……コーチ。ちょっといいですか?さっき配られたこの資料だと試合の中身が8対30の数の差に加えてT28重戦車を投入、更についさっき認可されたばかりのカール自走臼砲を使用しての殲滅戦ルールになってるんですけど、これは酷くないですか」

 

「そうですよー。これじゃあまるで私達が弱い者イジメしているみたいですー」

 

「この状況ならハンデをあげるぐらいなのに、逆にこっちがハンデをもらうなんて納得出来ません!!」

 

「相手は高校生なんですよ?」

 

うっ。選抜チームの子達から不満や抗議が……。

 

まぁ、やっぱりそこにはツッコミを入れますよね。

 

「……少々込み入った事情がありまして、残念ながらこの条件は変更する事が出来ないのです」

 

上からは絶対勝つように、そして勝つためならば手段を選ぶなと言われているので情けを掛けたと取られるような事が出来ないんですよ。

 

しかし……高島君が作成した――この原作通りの条件を通す点においては好都合でした。

 

「「「「えぇー」」」」

 

「大人の都合に君達を巻き込んでしまって申し訳ない」

 

「別にコーチが謝らなくても」

 

「……ま、しょうがないか。他ならぬコーチの頼みだし」

 

「やってあげますよー」

 

「しょうがないな〜」

 

「ありがとうございます」

 

大人の都合に巻き込んでしまった彼女達には試合が終わったらお詫びをしないといけませんね。

 

「で、コーチ♪今回は一体何を企んでいるんですか?」

 

ギクッ。

 

「アズミ君……企むとは一体何の話ですか?」

 

「またまた〜私達の時だって散々必死に動いてくれたのに、今回だけ何もしないなんて嘘は通用しませんよ?」

 

ギクギクッ。

 

「君達の場合と今回の場合は状況が違いますよ。何せ今回は他ならぬ私が大洗を廃校に――」

 

「今回だって表向きは廃校を推進していても、裏では色々と動いているんですよね?」

 

何故に断定なんです!?そして不味です。

 

ここで下手に誤魔化すとボロがでてしまう可能性が。

 

……とぼけましょうか。

 

「な、何の事だか私にはさっぱり」

 

「もう、コーチはまたそうやって1人で全部やるつもりなんですか?一言言ってくれれば私達は何だって協力しますよ?他ならぬコーチの為なんですしぃ〜」

 

アズミ君。私にしなだれかかるようにピッタリとくっついて、上目遣いをしながら胸の辺りを人差し指でグリグリするのは止めなさい。

 

「さて、何の事やら。私はただ自分の仕事を全うしているだけです」

 

「ふーん。ならそう言う事にしといてあげます」

 

良かった、離れてくれました。しかし……何故でしょう。

 

何故、皆の私を見る目が生温かいモノになっているでしょうか。

 

「……でも、このままやったら本当に私達が勝っちゃいますよ?いいんですか?(大洗の子達は可哀想だけど)」

 

「私達も流石にわざと負けてあげる訳には……(負けたらコーチの立場が無くなってしまうし)」

 

確かに“このまま”ならね。

 

でも、そうはならないので大丈夫です――とは口が裂けても言えない。

 

「構いませんよ、ルミ君、メグミ君。君達は何も気にする事なく試合に打ち込んで下さい。ま、強いて言うなら……」

 

「言うなら?」

 

「彼女“達”は強いですから気をつけてくださいね」

 

「「「……」」」

 

ふぅ。下手な事を言って必要以上のやる気を出されるのも困りますし。

 

かと言って、みほちゃん達に同情してわざと負けられるのも困りますから……。

 

言葉のさじ加減がすごく難しいんですけど、これくらいなら大丈夫でしょう。

 

「さて、それでは私はこれで失礼しますね」

 

この足でちょっと暗躍してきますかね。

 

「「「「お疲れ様でしたー」」」」

 

「……ねぇ。ルミ、メグミ」

 

「うん?」

 

「なに?アズミ」

 

「今までコーチが“強い”っていうストレートな表現を使った事ってあった?」

 

「……無いな」

 

「……無いわね」

 

「そうよね。……これは私達も本腰入れないとダメかもしれないわよ」




役人のやる事やる事が裏目に(爆)

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