役人転生〜文部科学省学園艦教育局長に転生した私はどうしたらいいのだろうか〜 作:トマホーク
うぅ……相変わらず沈黙が続いています。胃が痛い。
本当にこれから一体何が始まるんでしょうか。
「まほ。黙っていては話が進まないわよ」
「……はい」
おや?痺れを切らしたしほさんに促されたまほちゃんが何やら紙を取り出し――って、へ?
「単刀直入に言わせてもらいます。廉太さん、私と結婚して下さい」
「……」
けっこん?ケッコン?KEKKON?結婚!?
くぁwせdrftgyふじこlp!?
「け、け、けけ、結婚!?何を言っているんだまほ!!お父さんは許さ――」
「あなたは黙っていて」
「はい!!」
じょ、状況が飲み込めないんですが……いや、結婚?まほちゃんが私に?
何で?どうして?
「……」
「あぁ、もう。焦れったいわね。いつまでも間抜けな顔でポカンと口を開けていないで返事をしたらどうなの」
「いや、その……えー……えぇ?」
か、かほさん?ちょっと、ちょっと待ってもらえませんかね。まだ頭の中の整理がつかないんですよ。
うーん。まほちゃんが私に結婚の申し込みを……はぁ、うん。うん?……うん。
よし。大体の整理がつきました。……とりあえずタチの悪いドッキリという事では無い様です。
「はぁ……しょうがないわね。このままじゃ話が進まないから勝手に話を先に進めるけど、私と栄治さんはこの件に関して賛成よ。しほは――」
えぇ……かほさんと栄治さんが賛成って……8割方決定事項じゃないですか。
「私はまほが成人して落ち着いてからの結婚であれば賛成よ。理由としては今のまほはまだ若すぎるし、これから戦車道の選手としてますます伸びて行く時期だから今は戦車道に集中して経験を積んで欲しいの。それに大学への進学や海外での活躍も視野に入れて欲しいわね」
いや、まぁ……しほさんのおっしゃる事はごもっともですけど。
何か……私とまほちゃんが結婚するのは既に決定しているという体で話していません?
「反対!!反対!!大反対!!反対!!反対!!大反――」
「菊代」
「グフッ!?」
……1人で手を叩きながら反対コールをしていたバカ(常夫)が、かほさんの一言で襖をピシャッと開いて部屋に入って来た菊代さんのボディーブローを喰らって沈黙しました。
ドスッという重い音がしていましたけど、菊代さんの手は大丈夫ですかね?
あ、口から泡を吹いて気絶している常夫が菊代さんに引き摺られていきました。
……実の父親なのにまるで親の仇を見るような凄く冷たい目でまほちゃんが常夫の事を見送ってます。
しほさんも眉間を押さえていますね。
これは後で折檻コースですよ。ハハハッ。
「さて、話を元に戻すわよ。まほに返事をしてあげて頂戴」
人の事を笑っている余裕なんて無かったです。
うっ!?まほちゃん、そんな期待の眼差しを向けられると……決心が鈍ってしまうんですが。
はぁ……“役人”でなければオッサンでなければ……返すも返すも残念です。
「申し出自体は大変嬉しいのですが……その……今回のお話は辞退させて頂きたく……」
ヒィ!?断ると言った瞬間にかほさんとしほさんが、あぁン?みたいな恐ろしいガンを飛ばして来たんですけど!?
孫バカと親バカが怖い!!
「……理由を聞いても良いですか?」
あぁ、まほちゃん。そんな風にシュンとされると罪悪感が――あれ?まほちゃん?手元で何をガチャガチャしているんで……え?
何かまほちゃんの隣にMG34機関銃が置いてあるんですけど。
何故そんなモノがここにあるんです?
というか、まほちゃんは何故MG34の給弾カバーを開いたんですか?
「分かりました。……正直に言って、まほちゃんの申し出は本当に嬉しいです」
「だったら……!!」
「しかし、まず年齢差という問題があります」
「年齢差なんて私は気にしません!!」
いやいやいや、まほちゃん。何でMG34の給弾口にベルトリンクで繋がった一連射分ぐらいの弾を嵌めて給弾カバーを閉めるんですか?
何で弾を装填するんですか?
「まほちゃんが気にしなくても世間の人間は気にするんです。何しろ面白可笑しく叩ける格好のゴシップネタになりますから。それにまほちゃんは既に将来有望な選手として名も顔も売れています。にも関わらず私のような中年との婚約もしくは結婚が世間にバレれば君の選手生命が危うくなってしまいます」
「世間なんて関係ありません!!」
ヒィー!!まほちゃんがMG34のコッキングレバーを引いたんですけど!!
何で撃てる状態にしたんですか!?
「最後に……私はまだ学園艦教育局長という今の立場を失う訳にはいかないんです」
現時点で私が局長でなくなったら今後の流れ(原作)が崩壊していまいますからね。
「立場を……失う?」
「仮にも教育の職に就く者が未成年者、それも16歳の少女と結婚や婚約となれば……」
「「「……」」」
うん。私が言わんとする事を皆理解してくれたみたいですね。
「アハハハッ!!そうね、そこまでは考えていなかったわ。アハハハッ!!すぐに結婚なんてしたらロリコン局長って呼ばれちゃうわね、アハハハッ!!今でも口さがない人達はロリコンって呼んでるのにね!!アハハハッ!!」
かほさん、笑いすぎです。
「なら、婚約を!!」
「私も人間です。婚約をしてしまったら私は絶対にまほちゃんを特別扱いしてしまいます。それは教育者としてあってはならない事なんです」
「そんな……」
「はぁ……相変わらず頭と考え方が固いわね。もう黒森峰じゃ散々噂になっているんだから手遅れなのに。ま、いいわ。まほ、これだけ言っても折れないのだから貴女の負けよ。諦めなさい」
え、ちょっ、黒森峰での噂って何ですか!?
「しかし、お祖母様!!私は……わた……し……は……」
「「「……」」」
止めてー!!揃いも揃って、あーあ……泣かしちゃった。みたいな責める目で私を見ないで下さいよ!!
「ヒック……うぅ……」
「あぁ、もう!!分かりました!!分かりましたよ!!」
「良かったわね、まほ。婚約はしてくれるそうよ」
「本当ですか、廉太さん!!」
「ちょ、え!?」
「何よ、その顔。撤回しようたってそうはいかないわよ。言質は取ったんだし。ちなみに録音もしてあるから」
違います!!そうじゃないんですよ!!というか、何で着物の袖からボイスレコーダーなんか出てくるんですか!?何で録音してるんですか!?
それにまほちゃん!?今君の手から目薬が零れ落ちたんですけど!?
「そうじゃないです、そうじゃないです!!まほちゃんが二十歳になっても意志が変わっていなければ改めてお話を伺わせて頂きますという事を言いたくてですね!!その意味での分かりましたです!!」
「この後に及んで……臆病というか慎重というか。ま、とりあえずこれが落とし所かしらね」
「……MG34の脅しに屈しなかった所はスルーですか、先生」
「あら、何を言っているの。これはれっきとした西住流交渉術よ」
「……」
いやいや、さっきのはただの脅迫ですよ。
「フフッ。二十歳までは待ちます。でも二十歳になったら容赦はしません」
というか、いつの間にかまほちゃんが私の腕に抱き付いて恐ろしげな事を言っているのですが。
……大変な事になりましたよ、これは。