-極東支部-
居住区の防衛戦があった翌日、第一部隊に急遽召集がかかったので、ユウキはすぐにエントランスに向かう。そこには他の第一部隊のメンバーとツバキが既に居た。どうやら自分が最後だったようで、すぐにブリーフィングに加わった。
「先程、未確認のオラクル反応を調査しに行ったリンドウとサクヤから救難信号が出た。第一部隊には彼らの救援に行ってもらいたい。」
「え?!リンドウさん達が?!」
「だ、大丈夫なんですか?!」
救難信号をキャッチしたので救援に向かうと言う任務の内容だったが、意外にも信号を発信したのは先に調査に向かった2人だった。
他支部でもその名を轟かせている2人が苦戦を強いられる事にコウタとアリサは驚きを隠せないでいた。
「今のところはな。調査中に小型と中型の群れに囲まれた様だが、バイタル情報は届いている。まず生きているとみて良いだろう。」
動揺するコウタとアリサだったが、ツバキは冷静に2人の無事を伝えると落ち着きを取り戻した。
「敵の情報は?」
「囲んでいるのはオウガテイルやザイゴート、シユウやコンゴウだ。いずれも堕天種が確認されている。それから未確認アラガミについては残念ながら何もわからん。昨日の防衛戦の後に反応があり、今回初めての偵察だったんだが…その最中に見つかったようだ。」
「分かった。急ぐぞ。」
一旦落ち着いたところでソーマが状況説明を求める。リンドウ達に襲いかかって来たのは堕天種を含む小型、中型種で大型種はいないらしい。しかしリンドウ達が追っていた本来の標的については調べる前に気付かれたようで何も分からないとの事だった。
しかしリンドウとサクヤを助けるのは変わらない。ソーマが代表して任務を了承すると、ツバキはすかさず指示を出す。
「よし、5分後にはヘリを出す。すぐに準備しろ。」
「「「了解!!」」」
ツバキが出撃の指示を出すと第一部隊は返事をして、急いで支度を済ませてヘリへと乗り込み現場に向かった。
-嘆きの平原-
周りに沸いてきた雑魚アラガミ達のせいで調査対象に見つかり、第一部隊に救難信号を出してからしばらくたった。雑魚アラガミ達を殲滅した後、捜索対象である美しい女性の上半身と体の各所にゼリー体が着いた醜悪な獣のような巨体が合わさり、ウェーブのかかった明るい茶髪に角が生えて仮面を着けた異形のアラガミから逃げ続けた結果、リンドウとサクヤは旧ビル街の崩れたビルの陰に隠れて新種のアラガミを観察していた。
「やれやれ、雑魚は一掃出来たが…あのお嬢さん、まだ俺達の事探してるみたいだなぁ。」
「アラガミにまでモテる色男は辛いわね。でも、だからってこんな美人妻の居る前で鼻の下伸ばしているようなら、2度とスケベな思考が出来ない様にその頭を撃ち抜いてやるんだから。」
「バカ言え。何度フッても向こうがしつこく付きまとってくるんだよ。どう考えても俺は被害者だろう?」
ビルの壁を背にして隠れてリンドウとサクヤはヒソヒソと話して軽口を飛ばし合う。
『ピシッ』
しかし後ろ壁にヒビが入り、2人はその場からすぐに離れると、爆音と共に巨体のアラガミが壁を突き破り埃が舞い上がった。
『ンフフフ…♪』
舞い上がった埃から件のアラガミが妖しい笑い声で笑いながら手招きして2人を挑発する。対してリンドウとサクヤは即座に戦闘体制に入る。
「チッ!!おしゃべりしてたら見つかっちまった!!サクヤ!!」
「了解!!」
リンドウ達は左右に別れて回り込む。敵アラガミはリンドウを標的にしたのか体をそちらに向ける。
『バンッ!!』
その間にサクヤがすれ違い様に左の前足に狙撃弾をアラガミに撃ち込む。あまり効いている様子はないが、敵はサクヤの方に視線を向ける。その隙に今度はリンドウが右手を変形させながら一気に近づいて敵を切り裂いた。
そしてリンドウはすぐにアラガミの後ろへと抜け、サクヤと共に旧ビル街の戦闘領域へと入る。すると敵も、大きく跳躍して戦闘領域に着地するなど、その巨体に見合わない機動性を見せ付けつつ派手なリングインを披露する。
「アナグラに連絡は着いてる。皆が加勢に来るまで持ちこたえましょう!!」
増援の申請は出来ている。時間さえ稼げばこちら側に有利な状況を作る事はできるため、2人で倒すことまで考える必要はない。いざとなれば逃げてもいい。多少は気が楽ではある。
「そうだな!!けど…」
しかし、リンドウは何やら不適な笑みを浮かべて神機に変形した右手をしっかりと握る。その瞬間、敵アラガミは駆け出し2人に向かって突っ込んできた。
「先に倒したって良いよな?!」
リンドウは小さく、サクヤは大きく横へと跳んで突撃を回避する。リンドウは可能な限り回避動作を小さく納めたため、すぐに右足を踏み込み、体重を乗せた一撃で反撃に出る事ができた。そしてサクヤも離れ際に、アラガミの頭に狙撃弾を撃つ。しかしそれを敵アラガミは上体を後ろに反らせて躱した。
「躱された?!」
決して遠く離れている訳でもないし弾速も速い。避けられるとは思っていなかったサクヤは驚きを隠せないでいた。その間にリンドウが追撃しようと右腕を振り上げる。
しかしリンドウの追撃よりも先に敵が動いた。リンドウの方を向くと、両手がバチバチと稲妻を発生させ、右手をリンドウに、左手は可能な限りサクヤの方に向けて地面に叩きつける。するとリンドウには半球状の電撃のドームで応戦し、サクヤの足元からは何やら紫の円が現れる。
「ぐぉぉあ?!」
「リンドウ!!クッ!!何なのこれは?!」
リンドウは電撃ドームの攻撃を避けきれずに電撃を受けてしまう。その間にサクヤもその場から動いて紫の円から離れようとするが、円はサクヤの動きに合わせて着いてくる。そのうちに円はサクヤの追尾を止める。すると地面から雷柱が立ち上った。
「ひゃあ?!」
全力で走り、攻撃の瞬間に前へと飛び込み、悲鳴を挙げながらも何とか避ける事はできた。それでも最後は前方へとうつ伏せになってでも飛び込まないと避ける事は出来なかっただろう。
サクヤが雷柱を避けているあいだ、敵は醜悪な獣を思わせる巨大な下半身でリンドウに左フックで攻撃する。
「クッ!!」
リンドウは寸でのところで後ろに下がって追撃を避ける。振り抜いた後に大きな隙が出来たが、先のダメージで即反撃とはいかず、一瞬の間を作ってしまった。その間に上半身が両手に電撃を纏わせたゼリー状の球体を作り、まずは右手のゼリーをリンドウに投げつけ、続いてその場で急激に回転して、左のゼリーを後ろで体勢を立て直したサクヤに投げつける。
「クソッたれ!!」
「このぉ!!」
2人は難なく躱すが、地面に落ちたゼリーはその場で電撃を放ち続けている。対してリンドウは再び小さく避けて敵との距離を詰め、サクヤは大きく跳びながら狙撃弾を左の前足に数発撃ち込む。
敵アラガミはリンドウを迎撃しようと両手に電撃を纏ったが、その瞬間にサクヤが撃った狙撃弾がアラガミの左手を貫いた。 電撃が止まり、その間にリンドウは下半身の右前足を攻撃する。すると敵アラガミは右の後ろ足のゼリー状の部位から紫の毒々しい粘液を吹き出しつつ、先端に目玉が付いた金色の触手が生えてきた。
「な、何あれ?!」
「あの目玉…クソッ!!サリエルのと同じか?!」
敵アラガミの出した目玉がサリエル種の魔眼だと気付くとリンドウは即座に離れる。敵アラガミはその場で回転すると、紫の霧を撒き散らした。回転による攻撃を避ける事はできたが、毒霧がリンドウを覆い隠してしまった。
「ぐぅっ!!」
「リンドウ!!」
リンドウが深い毒霧の中に消えた。サクヤは霧を払いつつ敵の注意を引き付ける為、霧と敵を交互に撃つ。しかし巨大な下半身の物量が相手では効果は薄いようだ。
「こちとら右手がアラガミな上相棒が護ってくれてんだ…」
リンドウの安否を心配していたが、何時もと変わらぬ調子のリンドウの声が毒霧の中から聞こえてきた。
「今さら毒なんざ効かねぇよ!!」
リンドウが鋭い一撃で右の前足を切り裂く。毒霧の中でも特に辛そうな様子もなく反撃する辺り、本当に何ともないようだ。右前足を切られたアラガミは、巨体に対して大きな傷でもなかったが、予想しなかった反撃に怯んだ。
さらにその場での追撃、サクヤも後ろから左の前足を撃って援護する。すると今まで左足を狙い続けた結果、狙撃弾が左前足を貫通した。
体勢を崩したアラガミに追い討ちをかけるべく、リンドウはまた追撃しようと右腕を振り上げる。しかし、このままではまずいと感じたのか、敵アラガミは背中のゼリー体から四角い人工物を生やし、周囲に円柱状の物体を発射した。
「今度はミサイルかよ?!」
「クッ!!」
2人の頭上からミサイルが降ってきたので後ろに跳んで避ける。しかし、着弾したミサイルは3方向に別れ、地面スレスレを飛ぶ爆弾となった。リンドウはジャンプしつつ敵に近づき、サクヤは横に跳ぶ。
「何ッ?!」
「爆弾が?!」
ミサイル着弾の後に飛んできた爆弾を避けたと思ったらその後方から速度の遅い爆弾が続いて飛んできた。爆弾を飛び越えて追撃しようとしたが、着地を狙う様な追撃にリンドウは焦る。
「こ…のぉ!!」
リンドウは右手を下にして、インパルスエッジを撃って空中で跳ねる。そして敵アラガミの背中のゼリー体を破壊する。
「ッ!!」
そしてサクヤも狙撃弾を連射して自身に直撃する爆弾を撃破する。狙撃弾は爆弾を貫いて敵に直撃させるが、爆弾の迎撃で減衰した狙撃弾ではダメージを与える事は出来なかった。その後、ゼリー体を破壊したリンドウがサクヤの側に下り立った。
「チッ!!」
しかしすぐに敵は再び右足のゼリー体から魔眼を生やす。すると魔眼が光を集めて剣を作り、着地の隙のせいでリンドウは攻撃を避ける事は出来ないリンドウの方へと素早く振り返って攻撃する。
『グチャッ!!』
リンドウに魔眼の攻撃が迫る中、突然魔眼が宙を舞った。そしてリンドウの視界には白い神機にフードを被った青年が映る。
「よう、ちゃんと生きてるみてぇだな。」
「ああ、当たり前だろ。」
追撃が来る直前に助けに来たのはソーマだった。敵を見据えているためリンドウと顔を合わせる事はなかったが、頼れる仲間が側に居るだけで安心して戦える。
次の瞬間、ソーマが『目を閉じろ!!』と叫ぶと後ろからグレネードが飛んで来るのが目に入る。リンドウとサクヤ、それから当然ソーマも目を閉じる。
『バンッ!!』
辺りが閃光に包まれて落ち着いた後、目を開けるとコウタとアリサ、ユウキが加勢に来ていた。
「リンドウさん!!サクヤさん!!大丈夫?!」
「皆、来てくれたのね!!」
コウタがリンドウ達に現状を確認する。これで第一部隊が揃った。この状況にサクヤも戦況を覆す希望が持てた。
「お、おぉぉ…上半身裸じゃん…」
「気を引き締めろ!!強敵だ!!」
アラガミとはいえ艶かしい女性の裸体に興奮していたコウタだったが、視力が回復した敵が改めて戦闘体制になり、第一部隊に狙いを定める。ソーマの一言でコウタも再度戦闘体勢になる。
「来るぞ!!」
リンドウの声と同時に敵アラガミが突撃してきた。対して第一部隊はバラバラに散って突進を回避する。その後、アラガミは若干滑りながらユウキに向かって方向転換する。
「リンドウ!!敵の特徴は?!」
「動きも速いし電撃を使う、さらに言えば身体中の球体から色んなアラガミの攻撃を使ってくる!!」
ソーマがリンドウに敵アラガミの特徴を聞く。全てではないが、これまでの攻撃をまでの攻撃パターンから残り2つのゼリー体からも別のアラガミの攻撃をしてくるだろうと予想して全員に敵アラガミの特徴を伝える。
そしてリンドウが特徴を伝え終わる頃、ユウキは追いかけ全力で走っていた敵アラガミの突撃を横に避けた。敵はその横を通りすぎると、またスライドしつつも方向転換してユウキの用を向く。
「当たれぇ!!」
「これならどうですか?!」
コウタとアリサがユウキを狙う敵アラガミを爆破弾で撃つ。しかしそれでも敵アラガミは止まる様子はない。
また敵アラガミはユウキに突進してくる。ユウキの前まで来ると、敵は上半身を伸ばして掴みかかる。それをユウキはましても横に跳んで避ける。
「アイツ、さっきからユウばかり狙ってんぞ!!」
「後ろへ周る!!ユウはそのまま引き付けろ!!他のやつは攻撃しつつユウの援護だ!!」
コウタが敵アラガミがユウキばかり追いかけていることに気がつく。するとリンドウはユウキを囮にし、周りがサポートと総攻撃するように指示する。しかし、敵の動きを見ていたソーマは1つ気になることがあった。
(アイツ…ユウを捕まえようとしてんのか?)
ユウキを見てから敵アラガミはユウキを追いかけつつ手を伸ばしてユウキに触れようとしていた事から、ソーマは敵アラガミはユウキを捕らえようとしているのではないかと考えていた。しかし余計な事を考えていると戦闘に支障が出るため、思考を打ち切って戦闘に集中する。
敵アラガミは素直に真正面からの突撃では効果がないのが分かったのか右前足を軸にして急反転する。すると背中のゼリー体からミサイルポッドを生やしてミサイルを撃つと、発射したミサイルが上から降ってくる。
「気を付けろ!!着弾したら3方向に速いのと遅いのに別れるぞ!!」
「ミサイルを迎撃して!!その方が早いわ!!」
リンドウがどんな攻撃をしてくるが教えるが、イマイチ想像出来ない説明だった。しかしサクヤの助言で着弾前に破壊してしまえば問題ないと分かり、サクヤ、コウタ、アリサは各々頭上から降ってくるミサイルを数発破壊する。
しかし全てを破壊する事はできずに何発かは地面に着弾し、3つの地を這う爆弾の後に、3つの弾速の遅い爆弾が広範囲に広がった。
「うわっ!!あぶね!!」
「クッ!!そういうことですかっ!!」
実際に見てリンドウの言った事を理解したコウタとアリサは弾幕を張って爆弾を破壊する。
「グッ!!」
ユウキは装甲を展開して2段階の爆弾攻撃を防御する。
「貫け!!」
サクヤは1段目をジャンプで躱し、2段目を狙撃弾で破壊する。
「食らえ!!」
そしてソーマもジャンプで1段目を躱す。そして神機で地面を叩いて跳び跳ねる事で、2段目の爆弾を飛び越える。そして同時に敵へと一気に近づきつつ、着地動作と同時に上から敵アラガミに袈裟斬りを繰り出す。
対して敵は下半身の左手でソーマの攻撃を防御する。しかし、ソーマの攻撃が強力な一撃で左手を下ろしてしまう。さらに、敵の上半身と下半身の間に左から右への横凪ぎに神機を振って追撃する。
「ッ!!」
しかし敵は左手を外へと振ってソーマを弾き飛ばす。
「ソーマ!!」
「クッ!!全員ソーマを援護!!」
「「了解!!」」
敵からの追撃を防ぐため、コウタ、サクヤ、アリサ、そしてユウキは銃形態に変形して四方から敵を撃ちまくる。
対して敵アラガミは電撃を纏って、神機使い達の砲撃を防御しつつ、正面のユウキに向かって突進し、ユウキに当たる直前に飛びかかる。それを横に跳んで躱したが…
「うわあぁあ!!」
敵が倒れ込んだ後、電撃がドーム状に広がり、ユウキに直撃する。しかしその間にリンドウが後から敵アラガミに近づいていた。
(この距離からなら…)
最後に電撃がドーム状に広がったため一旦足止めを食らったが、電撃が収まると同時に、両足に力を入れて一気に敵アラガミに近づく。
(届く!!)
リンドウが後から攻撃しようと近づき、相手の元まで届くと判断し、右腕を振り上げる。しかし突然敵の尻尾が持ち上がり、臀部のゼリー体から水球が広範囲に発射された。
「なにぃ?!」
リンドウは咄嗟に右腕を盾にして防いだが、水球の威力でリンドウは後に下げられる。
「ウッソだろアイツ?!ケツからグボロが生えやがった?!」
「「リンドウ!!」」
「「「リンドウさん!!」」」
攻撃の直前、リンドウが見たのはゼリー体の中からグボロ・グボロが生えてきて、水球をばら蒔いてリンドウを攻撃してきたのだった。反撃から立ち上がったソーマ、サクヤ、他の第一部隊がリンドウを心配して声をあげる。
「ああ、大丈夫だ!!ユウ!!そのまま敵の注意を引き付けろ!!」
「はい!!」
どうやら問題は無いようだ。リンドウはユウキに囮をするように指示して体勢を立て直す。
その間に敵アラガミも体勢を立て直して、第一部隊の方を向いた。すると両手に電撃を纏って地面を叩く。すると敵を囲むように6本の雷柱が出現する。
数秒程どんな動きをするのか観察していると、雷柱が第一部隊に向かっていく。
「クソ!!」
「チィ!!」
「クッ!!」
リンドウ、ソーマ、サクヤは咄嗟に雷柱を躱したが…
「うわぁぁぁ!!」
「きゃぁぁあ!!」
コウタとアリサは思いの外精度の高いホーミングのせいで攻撃を受けてしまう。
「これくらいなら!!」
そしてユウキは神機を剣形態に変型しながら雷柱を避けつつ、敵アラガミへと向かっていく。しかし、ユウキが雷柱を躱して近づいてきているのがわかると、敵の左側は後ろ足からボルグ・カムランの尾剣を生やす。そして向かってくるユウキに対してアラガミは尾剣を振り回すと、ユウキは左側の神機で装甲を展開して防ぐが弾かれる。神機は後ろに飛ばされ、神機は地面に突き刺さった。
「こん…のぉ!!」
ユウキは攻撃された勢いで身体が後ろに反らされるが、右足で踏ん張ってその場に留まる。そしてユウキは前に飛び出して敵の眼前へと出る。そのまま眼前で神機を横凪ぎ振って敵アラガミの顔を斬りつける。するとアラガミの顔に着けられていた仮面が割れ、その素顔が露になった。
「は…?」
「えっ?!」
「な…に?」
「え…?あれ…は…?」
「ユウと…同じ顔…?」
仮面が割れるとそこにはユウキと同じ顔が顕れた。正確には戦闘中の様に目付きを鋭くしたユウキの顔にそっくりだった。誰もが驚いて動きを止める中、敵のアラガミの上半身だけの女性がユウキに向かって飛び付いた。
「ユウ!!」
「クッ!!」
空中では当然動くことも出来ない。アリサがユウキの名を叫び、フォローに入ろうとするが、それよりも先にユウキは両腕で羽交い締めにされて捕まった。
「ッ?!?!」
その瞬間、ユウキの意識は遠退いていった。
「そうは言いますけど…親族が経営者だからって進路が楽に決められるなんて事はありませんよ?」
(とは言え…最終的には家業を継ぐにしても、もっと色んな事をやってみたい気もするんですよね…)
「な、何…この、化け物…」
「い、いや…来ないで…」
「お父さまぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
「私を保護していただいた事、感謝いたします。」
「ええ、ありがとう。『アル』…」
「あ…よ、よろしくお願いいたします。」
(この人が護衛…?何か…表情が変わらなくて怖い人ですね…)
「やってみなさい…私を生け贄に差し出したところで、彼らが止まる事はありません!!」
「そんな風に笑えるんですね。貴方は笑ってる方が素敵ですよ?」
(私が…あの人の…子どもを…?)
「そんな…あの人が…何で…?」
(何で…私の愛する人は…私の元から去っていくの…?)
(あの人は強い…きっと大丈夫。何処かで…きっと生きている…!!)
「必ず…会いに行きます。この子と共に…」
「私達…家族…3人…で…」
「ごめんなさい…『クロウ』…貴方にこの子を…会わせてあげられない…」
「お願い…生きて…『レイヴン』…」
そうだ…『俺』は…
「「ユウ!!」」
「ユウを離せ!!」
ユウキを捕まえた敵アラガミにサクヤとアリサ、コウタが爆破弾を敵アラガミの女性の上半身に撃ち込むと、敵アラガミはユウキを放した。
『ッ?!』
拘束から抜けたユウキはアラガミを蹴り、そのついでに斬りつつ離れる。そして落とした神機の側に着地すると、突き刺さった神機を左手で掴むと逆手に持つ。
「ユウ!!」
「下がれ…」
長い前髪で顔が隠れてどんな表情をしているかは分からない。しかしソーマの問いかけに対して、ユウキは静かに、そして確かな威圧感を持った声で返す。
「…邪魔だ…」
以前のユウキからは考えられない様な冷たい物言いで第一部隊に下がるよう指示する。するとユウキの姿がブレて、一瞬のうちに敵との距離を詰める。しかし、敵アラガミも先から出していたボルグ・カムランの尾剣で咄嗟にユウキを突き刺す。
対してユウキは尾剣と身体が直線になる様に軌道修正する。そして尾剣がユウキの眼前に来ると、身体を右に逸らせつつ身体を回転させる。横に逸れる動きと身体の捻りで敵の尾剣を避けつつ、急激に身体を逆回転させて左側の神機で尾剣を斬り落とす。そして即座に迎撃する手段を失った敵アラガミに、ユウキは一瞬で近づいて右側の神機を振り抜く。
『ブジャッ!!』
振り抜いた神機が血を吹き出しながら敵アラガミの上半身を斬り落とす。うつ伏せに倒れ、醜い下半身はそのまま力なく地面に横たわる事となった。
「レ…ィ…」
斬られたアラガミは倒れたまま呻き、左手をユウキに伸ばす。ユウキは何事もないかの様に歩いて、アラガミの側まで行く。すると右足でアラガミの頭が少し地面に埋まる程度の力で踏みつけて、アラガミの動きを止める。そして左手の神機の切先をアラガミの背中に向け、捕食口を展開する。
「さようなら…」
『グジュッ!!』と、粘着質な水音と共に捕食口が背中を喰い千切り、アラガミのコアを捕食する。
「母さん…」
ユウキは殺したアラガミを母と呼んで見下ろす。しかしその目は温度や感情と言ったものを何も感じない目をしていた。
「ユウ、今の戦い方…もしかして記憶が…」
コアを捕食した後、ユウキが神機を下ろすとアラガミはすぐに霧散していった。それを第一部隊が見届けた後、アリサが声をかける。とどめの時にアラガミに何か言ったようだったが、声が小さくて何を言ったのか誰もがよく聞き取れなかった。それよりもギリギリまで引き付けて無茶苦茶な動きで躱し、一気に近づいて倒す。まるで記憶をなくす前の様な鋭い動きで敵を倒したユウキを見て、直前の冷たい物言いは気になったがユウキが記憶を取り戻したのではないかと誰もが期待する。
しかしそんな期待を込めたアリサの問いかけにも応えず、ユウキは端末を取り出して極東支部に通信を入れる。
「こちら神裂、任務は終了した。第一部隊は帰投させる。それから、支部内の神機使い達全員をすぐに集めて欲しい。大事な話がある。」
『え…あ、あの…?いったい何を…?』
任務終了の連絡が来たと思えば、リンドウ達の帰投させるが自分は帰らない、そして人を集めろと、次から次へと別の話をするユウキにヒバリは混乱する。
「今任務に出ている奴らも必ず全員戻せ。ソイツらが請け負ったターゲットは全てこちらで殺る。出ていった奴らを待つよりその方が早い。」
『ま、待ってください!!そんな勝手な…』
挙げ句勝手に任務内容を変更しろと言うユウキにヒバリは抗議しようしたが、ユウキは一方的に伝える事を伝えて通話を切る。
「お前達は帰れ。『俺』はもう一仕事してくる。」
「お、おいちょっと!!」
「待ちなさい!!」
コウタとサクヤがユウキを止めようとするが、突然ユウキの身体を黒い霧が包み込む。
「「「ッ?!」」」
「なっ?!」
「お前…」
突然黒い翼が霧を振り払う。そして晴れた霧の中からはユウキではなく、ユウキが帰ってきた時と同じ、背中と頭に黒い翼を生やしたアラガミが顕れた。
サクヤとコウタ、アリサは言葉を失い、リンドウとソーマも何とか声を出すのが精一杯な程に驚いていた。そしてその間にユウキは上に大きく飛び上がると、黒い翼を羽ばたかせて何処かへ飛び去っていった。
「仕方ねえ…帰るか。」
次から次へと起こる不可思議な現象に誰もが着いていけなくなった。ユウキが飛びさったのを見たしばらく後に、ようやくリンドウが帰還を指示して、第一部隊は帰投した。
-極東支部-
ユウキが第一部隊と離れて以降しばらく経った。極東支部の神機使いとスタッフが訓練室に集められていた。何よりも召集をかけたのはアラガミ化が進んだはずなのに完治したユウキだと言う事も気がかりだった。
『何の話だ?』『全員集める理由は何だ?』と雑談に興じていた。しかし中には仕事をユウキに盗られたと怒りや不満を漏らす者も多く居た。そんな中、皆を呼び出した張本人であるユウキが『人の姿』で訓練室に入ってた。
「全員いるのか?」
「は、はい。何とか…」
今まででは想像もつかない様な冷たい雰囲気のユウキが訓練室に入ると、先ず最初に皆を集めてくれたヒバリに声をかける。しかし、ユウキの変化や行動が納得いかないのか、ヒバリはユウキの考えを理解出来ずに困惑した声色で答えた。
「おい神裂!!俺達の仕事横取りしやがって!!一体どう…?!」
最前列に集められた神機使いの1人が殴りかかる様な勢いでユウキを非難する声をあげる。引き受けた仕事を横取りされたら当然だろう。しかし、その非難の声は最後まで続けられる事はなかった。それも当然だ。ユウキが右手で神機使いの首を掴んで床に叩き着けたのだから。
「お前の話は聞いてない…」
「ガッ…アッ…!!」
「やめろユウキ!!」
首を掴んだまま腕を持ち上げ、神機使いの体を浮かせる。そしてミシミシと骨の軋む音を発てながら少しずつ絞め上げていく。それを見て誰もが驚いて動けない中、ツバキが止めるがユウキはそれでも神機使いの首を締め上げ続けている。
「俺への文句は後で聞く。報酬も欲しければ貴様らにやる…だから…」
首を絞められている何とか抵抗しようとユウキを蹴るがびくともしない。そのまま酸欠になり始め、徐々に抵抗は弱まり白目を向き涎が垂れ始めた。
しかしユウキはそんな状態の相手を気にした様子もなく、淡々と話していく。
「少し…黙れ…」
言葉通り、ユウキは怒りをぶつけてきた神機使いを黙らせた。死なない程度に弱ったところで、ユウキは首から手を放すと、神機使いはその場に落とされた。首を拘束から解放され、ゲホゲホと咳き込んでいるのを少し見た後、興味を失った様に元居た所に戻って行った。
「…ここに居る全員が、何故アラガミ化が進んだ俺がこうして人の姿を保っているのか気になっているだろう。今回集めたのはその事の他にも伝える事があるからだ。ただ、俺が人の姿に戻った理由、それ話す前にある事を話しておく。それは…」
「アラガミの正体だ。」
To be continued
あとがき
と言う訳で、ユウキが記憶を取り戻すきっかけとなったのは何と美神の名を持つアラガミ『ヴィーナス』でした。ただし、ノーマルなヴィーナスとは少し容姿が違い、ユウキとそっくりとなってますが。顔つき、ユウキをレイヴンと呼んだ事やらで前章ラスボスのクロウ、そしてユウキ共々、正体はすぐに分かりそうですが(´・ω・`)
次回はアラガミの正体がユウキの口から語られます。自分で言うのも何ですが意外とありそうな設定だと思います。
にしてもうちの子顔色ひとつ変えずにかちゃーんと呼んだ相手をぬっころしたり、抵抗の意思を折る為に窒息させたりとヤバい子になっちゃいました。
まあ、こっちが本来描きたい主人公だったんですけどね(ボソッ