GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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戦闘無しの説明回、オラクル細胞の正体をユウキが語ります。


mission97 荒神

 -訓練室-

 

「アラガミの…正体…?」

 

 その場に居た誰もが耳を疑った。今まで戦ってきた発生原因不明の全てを喰らう謎の細胞の正体をこれから話すと言うのだから、皆が驚き、戸惑うのも当然だろう。ヒバリが思わず声に出して聞き直す。

 

「ああ、だがその前に…」

 

 するとユウキは突然何処からか取り出したナイフを投げた。

 

「んんっ?!」

 

 『バスッ』と言う音と共にハルオミの下をナイフが通り、ハルオミのレザーパンツと下着の股下を切り裂いた。

 

「真壁ハルオミ、次に俺を女装をさせてみろ。ピンクな思考が出来ないように貴様の○○○を切り落としてやる」

 

「え…あ、はい…」

 

 何が何やら分からぬウチに『男子の象徴』を切り落とすと脅され、ハルオミは背筋がゾッとしながらも、2度とユウキに女装させない事を誓った。

 

「話が逸れたな。アラガミの正体だが…」

 

「ま、待てよ!!」

 

 ユウキがアラガミの正体を話そうとすると、それを遮る神機使いが居た。ユウキはウンザリした様に小さくため息をついた。

 

「…なんだ?」

 

「アラガミの正体なんて博士たち研究者が20年かけても分からなかった事だぞ!!なのに何でお前にそんな事が分かんだよ!!ただお前の妄想を垂れ流すだけなら俺達は付き合わないぞ!!」

 

「…」

 

 神機使いの1人が妄想には付き合わないと突っぱねる。それを聞いたユウキは『それも当然か』と1人納得する。元々アラガミの正体、それを知るきっかけも端から聞けば常識では考えられない事の連続だった。

 それを結果だけを話して終わりでは理解も納得もないだろう。何故知ったのか、どうやって知ったのかを先に話した方が多少は話を理解出来るだろうと考え、ユウキは先にアラガミの正体を知り得た経緯から話す事にした。

 

「そうだな…なら、何故俺がアラガミの正体を知るに至った経緯から話そう」

 

 そう言ってユウキは両腕を組んで、アラガミの正体を知った経緯を話し始める。

 

「俺がアラガミの正体…言及すればオラクル細胞の正体を知ったのは…1年前、ここから離れたあの日だ」

 

 ユウキが消えた日…それを聞いた何人かは、ユウキから顔を逸らした。当時は半ば恐慌状態だった事もあり、本能のままユウキを排除しようとした。だが、今では多少なりとも冷静になり、自分達が追い出したと理解した者達が、気まずそうにユウキから目を逸らす事となった。

 

「あの日、俺はエイジスから消えた後、この地球(ほし)

の意思とも言える存在と会った。そしてそれは世界を破壊し、再生が可能な終末捕食を完遂できる唯一の存在…俺達が『ノヴァ』と呼ぶ存在だ。」

 

「は?」

 

 ユウキが語ったのは人が消えるだの地球の意思だの、それこそまさにファンタジーかオカルトの世界の話だった。当然、周りは常識はずれも甚だしいぶっ飛んだ事を突然語り出したユウキを奇怪な目で見る。しかし、ユウキ自身は決して嘘を言っている訳ではないので、そのままノヴァについて話を続ける。結果、無表情のまま妄想にも近いぶっ飛んだ事実を語り続けるという異様な光景を作り出す事となった。

 

「俺が会ったノヴァはコアの状態だった。ヤツは世界を作り替える時に特異点を自らの元に呼び寄せ、喰らい、身体を得てこの世に現れる」

 

「な、何を言ってるんだよ…エイジスから消えたって何?!地球の意思って何さ?!あり得ないだろ?!?!さっきも言ってたろ!!ただの妄言なんだったら俺は付き合う気はない!!」

 

 ユウキの話す事はあまりにも現実味がなく、空想の話にも近いものだったが、それを聞いていた者達がようやく話の内容を理解し始めると、神機使いの1人が思わずあり得ない事だと遮った。

 

「別に信じるも信じないも好きにすればいい。だが、俺がこれから話す事は真実であり、事実だ。それをどう受け止めるかはお前たちの自由だ」

 

 自分は事実を話すだけ。どう判断するかはそれを聞いた者に委ねると言うのがユウキのスタンスだった。事実、ユウキは周りの反応を気にする様子もなく、時折遮られてはいるが、淡々と話を進めていた。

 

「だが…アリサ達第一部隊はあの日俺が消えたところを見ていただろう?」

 

「は、はい。確かにあの日、ユウは光の柱の中に消えていきました」

 

 そんな中、ユウキは一番最初に眼に映ったアリサに当時の事について真偽を尋ねる。

 

「光の柱はかなり目立ったはずだ。夜中に外に出ていたのなら、目にしていたかもな」

 

「そう言えば、あの日だったかエイジスで光が立ち上ったのを見たけど…」

 

「なら…やっぱり、神裂の言っている事は本当なのか…?」

 

 第一部隊の他にも、数人がそれを目撃していたようだ。その場に居た第一部隊と違い、詳細は分からずとも遠目で見ていたらしいブレンダンと他の第三者の言い分が一致していたため、ユウキの話にも多少は信憑性が出てきた。

 

「…話を戻すぞ。ノヴァのコアは地球の核だ。その核と感応現象を引き起こした事で、俺はこの世界の成り立ちから今に至るまで…何があったのか、誰が、何をしたのか…全てを見た。そう、全てをだ」

 

「えっと…じゃあユウは星の成り立ちから今までにあった事、全部知ってるってこと?」

 

 ユウキがノヴァ=地球ととんでもない事をサラッと言う中、ようやく話に着いていける様になったコウタが戸惑った様子で要点を聞いてきた。

 

「全てを見たと言う事実は覚えている。だが、その内容全てを俺の記憶として留めておく事は出来なかった。俺が記憶を失ったのもそれが原因の1つなのだが…まあ、その話は後にしよう」

 

 ユウキはノヴァのコアと感応現象を起こした事はあくまでも記憶をなくした一因でしかないと言い、一旦記憶の事から離れて話を本筋に戻す。

 

「俺はこの世界で起こった事を全て知った。当然、その中にはオラクル細胞が何故、どうやってオラクル細胞が誕生したのかも知る事が出来た」

 

 ユウキは話を戻すと、ようやく今回本当に話したかった事の1つ、アラガミの正体について話始める。

 

「結論から言おう。アラガミ…いや、オラクル細胞は…」

 

 遂にアラガミ…強いてはオラクル細胞の正体について語られる。ユウキが一呼吸置いた事で周囲に少し緊張が走る。

 

ノヴァ(地球)が作り出した防衛機能、地球(ほし)に害をなすものを滅ぼす際に現れる…謂わば星の守護者の様なものだ」

 

 『或いは星の進化を促すものでもある。』と最後に付け足したが、その場に居た者達は予想もしなかった事実を聞き言葉を失った。

 

「なん…だと…?」

 

「アラガミが…星の守護者…?」

 

 人とアラガミではアラガミこそが必要とされて、世界が人を滅ぼそうと動いている。ユウキが話す事実にソーマとサクヤどうにか反応を示す。

 

「人間の構造に例えると、オラクル細胞は白血球の様なものだ。地球と言う人体に害を与えるウィルスが人間、それを排除する為の対抗機能がオラクル細胞…要するに人間はこの星からは不要、それどころか『排除すべき敵』と認識されている訳だ」

 

「ふざけんなよっ!!!!」

 

「俺達人間様がバイ菌と同義だと?!」

 

 カレルとシュンがユウキの話を聞いたとたんに怒り出す。他の神機使い達もそれに同調しているのを見て、ユウキが何度目かのため息をついた。自分はただ事実を述べているだけなのに逐一話を遮られては怒鳴ってくる。いい加減面倒に思えた来たので、もう話が終わるまで無視してしまおうかと考えながら続きを話していく。

 

「…地球では過去に何度か恐竜の時の様な種の大量絶滅があった。その中にはオラクル細胞とノヴァによる終末捕食によるものもある」

 

 ユウキ曰く、遥か昔に起きた大量絶滅にそれにもノヴァとオラクル細胞が関わっていたらしい。しかしそれは自然淘汰に近い性質のもので、現代の様にオラクル細胞が全力で人間を滅ぼしにくる様なものではなかった。

 

「その際は進化を急ぎ、促すものだったが…今回は違う。星を喰い尽くす化け物共を…人間を排除すると言う明確な目的の為に現れている」

 

「な、何で…地球の意思がそんな事を…?」

 

「当然だ」

 

 何故地球が人を滅ぼすのか、誰もが気になっていた疑問をカノンが呟くと、それに対してユウキは当然だと即答する。

 

「ノヴァは地球の行く末を監視、管理するものだ。いくら生物が滅ぼうが、それが星と種の進化と発展の過程である以上、本来ならば手を出す事はないはずだった」

 

「それじゃあ…何で今回手を出す事になったんですか?」

 

 アネットが何故ノヴァが人を滅ぼす決断をしたのかを聞くと、ユウキはまた淡々と続きを話す。

 

「人間が現れて以降、森を切り開き、山を崩し、海を汚し、埋め立てて発展してきた。そうやって幾多の環境を破壊し、そこに生きる命を追い出し、滅ぼした。挙げ句数が減れば希少価値がと言って乱獲し、そこに居たからと理由で殺していく…更には自然淘汰による破滅と進化も、可哀想だからと言って環境に適応出来ない種を守り、自然のサイクルによって変わる環境を自身の都合でコントロールしようとする。そうやって人は星と…他の種族や自然と共生する道を選ばなかった。地球(ほし)を我が物顔で蹂躙した事への報復…それがこの状況と言うわけだ」

 

「…俺達人間が歩んできた歴史は…間違っていたって事ですか?」

 

 ユウキがここまで人間が積み上げてきた発展の歴史を完膚なきまでに否定したのを聞いて、フェデリコは自分達の存在さえ否定された気になって悲しそうな声で人間は滅ぼされるべきなのかを尋ねる。

 

「人間が発展した歴史そのものを否定する気はない。人の歴史が正しかったとか間違ってたとか、そんな事を決める事なんぞ誰にも出来きん。だが、『全能の神』とも言えるノヴァはそれを認めず、他の命や自然との共生しない人間を見限った。だから人を滅ぼす決断した。それだけの事だ」

 

「なあ、ユウ」

 

 ユウキが切りのいいところまで話したタイミングで、今まで喋らなかったリンドウが口を開く。

 

「ノヴァとオラクル細胞の正体は分かったけどよ、ノヴァが何故オラクル細胞使って終末捕食を引き起こすんだ?話を聞いた限りでは、そんな面倒な手順を踏む理由が思い付かない。真っ先に自分が出てきて、俺達を滅ぼせば済む話じゃないのか?」

 

「それは私も気なっていた。人を滅ぼすにしても色々と遠回りしすぎている。それに対して何か分かる事はあるのか?」

 

 リンドウとツバキの言う通り、ノヴァが全てを見て人を敵だと判断したのなら、オラクル細胞を使って人を襲う工程を挟むよりも、人を滅ぼす判断をした時にノヴァが直接手を下す方が圧倒的に効率がいい。

 にも関わらず、わざわざ手間をかけてまで人を襲う理由は何なのか?雨宮姉弟だけでなく、何人かはその点が気になっていた。

 

「…何度も言うが、ノヴァと地球は同義と言える。ヤツはこの星の誕生から今までに起きた出来事全てを第三者的な視点で記憶している」

 

「第三者的な視点…ってどう言うことだよ?」

 

「誰が、どうやって、何をしたか…ヤツは地球規模でそう言った状況や事象の流れは把握している。それを元に、ノヴァは今の世界を滅ぼし、新たな世界を造り出す必要があるかを判断する」

 

 ユウキの説明を聞いてもいまいち理解できない。タツミが詳しい説明を求めると、ユウキはノヴァの立ち位置の観点から説明をしていく。

 

「そして滅ぼす必要があると判断した場合、ヤツはオラクル細胞を使って世界を創り替える」

 

 そしてユウキはオラクル細胞の持つ役割、その一端を話し始める。

 

「そしてオラクル細胞の特徴は何だった?」

 

「捕食による学習…」

 

(そうか…そう言う事か…)

 

 ユウキがオラクル細胞の特徴を尋ね、アリサがそれに答える。これを聞いた時、ペイラーを始め数人はアラガミ…オラクル細胞の捕食学習の真の意味を理解し、ユウキが何を言いたいのか察しがついた。

 

「 そうだ。ノヴァは全体の流れを記憶できるものの、個人が『何故』、『どう言った考えで』その事象や行動を起こしたのかまでは知り得ない。だからオラクル細胞を使って地球上の生物を喰らい、学習する事で個人の感性、果てには種の構造や在り方を記憶させる。これである程度の統計をとり、種の『主観的』な情報を補完する事になる」

 

 ユウキ曰く、ノヴァが全体の歴史から地球を支配する種が存続し続ける事で害があるのか判断する。地球に害があると考えると地球上の種のデータをとり、本当に滅ぼしていいのか、足りない情報を補完する為にオラクル細胞を使うとの事だった。

 

「そうやって喰らい続け、学習し続けた結果、あらゆる種の膨大なデータを取り込んだアラガミは、何時かは終末捕食のカギとなる特異点へと進化する」

 

 『特異点への進化の副産物として、高い知能や戦闘能力を発現させる事もある。』とユウキが付け足すが、今はその情報はあまり重要に思われていないのか、ペイラー以外は補足説明を聞き逃していた。

 

「じゃあ、アラガミの捕食は…自己進化の為の学習の他に、地球上の種のデータ収集の為でもあるって事?」

 

「その通りだ。そして最後はその特異点を喰ったノヴァが特異点の情報を受け取り、終末捕食でどの種を生かすか殺すかを判断する」

 

 ここまでのユウキの説明を聞いて、リッカがざっくりとした内容を聞き返すと、ユウキから肯定的な答えが返ってきた。

 

「もう1度言うが、ノヴァのコアは地球の核だ。この先、奴が直接俺達に手を下す様な事があっても、絶対にコアを破壊するな。ノヴァのコアを破壊すると言うのは地球の核を破壊する事だ。核を失った地球が、近い将来どうなるか、想像するのは難しくないだろう?」

 

 地球のコアを破壊する。それはすなわち、地球の崩壊を示す事となる。それは容易に想像でき、戦いとなると圧倒的に不利となるのは目に見えていて、神機使い達は青ざめる。

 

「だが、ノヴァと戦う事があっても、どうにかコアを抜き出して元の場所に返せばいい。もっとも、その方法はまだ分からんがな」

 

 倒すのはいいが、コアを破壊してはいけない。高度な要求にその場に居た者達は本当にどうにか出来るのか不安しかなかった。

 

「それでも、この状況を無闇に悲観する必要はないし、むざむざ殺される必要もない。解決策はある。しかしそれは『今の人類』には到底出来ないような難しい事ではある。だから、人が生き残る事が最大の抵抗となるのだが、それもまた後で話そう」

 

 ユウキの話を鵜呑みにするならば、解決策はあると言うが、地球(ほし)が人と生きることを拒み、滅ぼそうとしているなど言う想像以上に絶望的な状況となっている事に周りは言葉を失っている。

 

「ここまでの話をまとめよう。ノヴァは地球(ほし)そのもので、地球が誕生してから今日に至るまでの地球上の出来事を全て、さらには少し先の未来の可能性も見る万能の神…その神が地球上に巨大な害悪を感知すると、地球(ほし)を守る為に現れ、膨大な種を喰い、後の世に遺すか裁定材料となるデータをとるのがオラクル細胞だ」

 

 ノヴァは地球、オラクル細胞は星の守護者兼裁定者である事を話すと、ユウキはずっと組んでいた腕を解いた。

 

「さて、次の話だ。」

 

 ユウキの話はまだ終わらない。

 

To be continued




あとがき
 アラガミ(オラクル細胞)の正体は地球の防衛機能でした。ノヴァは所謂天然のノヴァと言うやつです。この話の設定上はノヴァは地球の意志で、終末捕食の生命の再分配までを完遂できるのはノヴァだけと言いましたが、それじゃぁシオが月で起こした終末捕食は?と思うかもしれませんが、それは次話で語ります…語れるかなぁ?
 まあ、人の発展は否定されるものではないですが、その発展の裏で地球を好き勝手に食い荒らした人間への報復の為にオラクル細胞が現れた訳です。
 取り敢えず次話はユウキの正体と特異点の説明になります。それでは(・ω・)ノシ

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