GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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フェンリルにはクリーンなイメージがないです


mission107 謀叛

 -愚者の空母-

 

 リンドウ達と別れた後、ユウキはジープを走らせて荒野の真ん中を駆け抜けていた。その途中、ジープを隠すためにも座礁した空母の近くを通っていると、突然アラガミの群れに襲われた。車から飛び下り、迎撃のために戦い慣れた空母の甲板に出ると、ボルグ・カムラン、サリエル、ヴァジュラが各2体、計6体に囲まれる事になった。

 

「…」

 

 ユウキが素早く神機を引き抜き戦闘体勢に入ると、アラガミ達も突っ込んできた。左右、斜め前からボルグ・カムラン2体が飛びかかって来る。それを前に出て避けながら右手の神機を横凪ぎに振って、右側のボルグ・カムランの足を斬り落とす。すると左のボルグ・カムランは綺麗に着地できたが、右は派手にひっくり返った。

 遅れて正面のヴァジュラが口を開け飛びかかる。それを上にジャンプして避けると、両手の柄を神機を連結して下から掬い上げる様な軌道でヴァジュラの顔面から斬り裂いて倒す。

 すると今度は後ろにいたサリエルの片割れが誘導レーザーを撃ってきた。ユウキは神機の連結を解除し、左側の装甲を展開して防ぐ。しかし、空中での防御のせいで、ユウキは後ろに飛ばされる。

 続いてもう1体のサリエルがレーザーを撃つ。再度ユウキは左の装甲を展開し、弾く様な動作で振り払いながらレーザーを防ぐ。しかしその直後、2体のサリエルが誘導レーザー、最後のヴァジュラが雷球を撃ってきた。

 

  『ガァンッ!!』

 

 だがユウキの後ろから黒い影が割り込み、アラガミの攻撃を防いだ。 

 

「やっほー主君。苦戦してる?」 

 

 アラガミの攻撃を防いだのはライラだった。相変わらず元気ではあるが能天気さを感じる口調でユウキに話しかける。すると今度はライラとは違う黒い影が空中に居る2体のサリエルの間を通りすぎる。次の瞬間には2体のサリエルはバラバラに斬り刻まれて倒されていた。

 そして黒い影はライラの隣に来ると、金糸の様な髪を靡かせてユウキを守る様に立ちはだかる。

 

「加勢します!!」

 

「…」

 

 もう1つの影の正体はシェリーだった。しかしユウキは2人の加勢には特に反応は見せずに神機を構える。

 2人は左右に別れ、ユウキは真っ直ぐ前方のアラガミに向かっていく。ライラは足を失い動けないボルグ・カムランへと向かい、チャージクラッシュの体勢になる。しかし動けなくても黙って殺られる訳にはいかない。足を失ったボルグ・カムランはライラを串刺しにしようと尾先の針を振り下ろすが、ライラは横に軽く跳んでそれを避ける。標的を失った尾先の針は地面に突き刺さった。そして着地よりも先に神機を振り下ろす。

 

「ドーンッ!!」

 

 元気の良い掛け声と共にカウンターを決める。すると振り下ろした神機によってボルグ・カムランはぐちゃぐちゃのミンチになった。

 そしてシェリーの方も別のボルグ・カムランへと向かっていく。対してボルグ・カムランが頭から針を飛ばしてきたが、シェリーは右へ左へと動き、時には身体を捻り、回転して攻撃を踊る様に避けながらボルグ・カムランに近づいていく。

 そしてシェリーが近づくと、ボルグ・カムランは尻尾の針を突き刺す。シェリーは右へ避ける。だがボルグ・カムランは即座に追撃する。再度針で刺そうと尻尾を振り下ろす。今度は左へ跳んで避けるとボルグ・カムラン3度目の攻撃を仕掛ける。シェリーは迫ってくる針を上にジャンプして避ける。そして身体を捻り、回転を加えてボルグ・カムランの尻尾に神機の斬撃を与えると、ボルグ・カムランの尻尾は綺麗に切り落とされた。

 その後目の前に着地したシェリーは円を描く様に神機を勢いよく振り上げる。

 

  『ズパン!!』

 

 次の瞬間にはボルグ・カムランは真っ二つに斬り裂かれていた。ショートブレードから繰り出されたとは思えない、広範囲な一撃で残りのボルグ・カムランを倒した。

 最後の相手であるヴァジュラは、ユウキを狙い地面から電撃を撃ってきた。

しかし、ユウキは両足に力を入れて踏み込むと、それよりも先にヴァジュラの元にたどり着く。そしてユウキは両手の神機を向ける。

 

  『『ダンッ!!』』

 

 ユウキがインパルス・エッジを撃つと、ヴァジュラの頭が爆破されてバラバラに砕け散り、そのタイミングで地面から電撃が放たれた。その後、爆破の衝撃で後ろに下がったが、すぐに地に足を着けて両足をバネにして一気に前に出ると、ユウキは左右の神機を外から内に振る。

 

  『ズシャッ!!』

 

 まるで魚の3枚おろしの様に、ヴァジュラは3つに斬り裂かれ、コアも完全に破壊された事で、ヴァジュラはその他のアラガミ共々霧散していった。

 

「ふいー…終わったねー」

 

「お疲れ様、怪我はしてない?」

 

「…」

 

 ライラとシェリーは労いの言葉をかけたが、ユウキは返事をする事なく明後日の方を見ていた。

 

「まだ向かってくるか…」

 

 ユウキが小さく呟くと、シェリーとライラもその意味を理解した。

 

「これは…」

 

「うーん…普通のやつじゃないね」

 

 そう言って異質な気配を感じた3人は崩れた壁の方を見る。すると大きな影が裏側から飛び出し、ユウキ達の目の前に現れた。

 

  『ゴァァアッ!!!!』

 

 雄叫びと共にプリティヴィ・マータが現れた。次の瞬間にはユウキ、シェリー、ライラが飛び出すが、プリティヴィ・マータはユウキ達を飛び越えて後ろを取った。

 その後、プリティヴィ・マータが頭上に氷の槍を作り出し、塊っていたユウキ達に投げつける。何時もと同じように複数発投げつけできた。ユウキ、シェリー、ライラは散り散りに避け、反撃の体勢を取ったが今度は左右斜め前にも飛ばしてきた。

 

「わわっ?!」

 

「クッ?!」

 

 逃げた先に氷塊を投げ付けられ、シェリーとライラは装甲の展開を余儀なくされた。辛うじてユウキが動けたので一気に前に出てプリティヴィ・マータに接近する。しかしプリティヴィ・マータはまたしても横に避け、そのままライラに飛びかかる。

 氷塊を防ぎ切ったところでの追撃に対して、ライラは装甲を仕舞いつつ後ろに下がる。飛びかかり攻撃を避けて、反撃のために再度飛び出すライラと攻を避けられ追撃に出るユウキ。プリティヴィ・マータの着地隙を狙っての攻撃だった。しかし、突然プリティヴィ・マータの全身とその周囲から強烈な冷気が吹き出した。 

 

「あれれっ?!」

 

「っ?!」

 

 ライラは神機を振り下ろしながらも、かなり無理をして冷気の届かない場所まで下がるが間に合わず、神機とそれを掴んでいた両腕が凍り付けになってしまった。

 ユウキも咄嗟に上に飛びつつ両腕の神機を下に向ける。インパルス・エッジでジャンプの勢いに加えてインパルス・エッジの衝撃で急加速する。しかしそれでも広範囲な冷却攻撃で左足が凍ってしまった。

 

「ユウキっ?!キサマァ!!」

 

 ユウキが攻撃を受けた事でシェリーは怒りを露にした。真っ直ぐにプリティヴィ・マータに向かっていく。神機の軽さを生かした神速の剣で斬りかかる。しかしプリティヴィ・マータがシェリーに向かって行った事で間合いが変わり、半端な攻撃となった。

 大したダメージも与えられず、プリティヴィ・マータは3人から一端距離を取った。

 

(…そう言えば、最近同じ姿でも原種とはだいぶ違うアラガミが現れ始めたと報告が上がっていたな…マータと同じ姿のやつは確か…『バルファ・マータ』だったか?)

 

 ユウキは着地しながらも今回の相手が何時もと違う理由を考えていたが、その理由は思いの外すぐに分かった。報告書の中には原種と同じ姿でも大きく強化された個体が現れ出したと書いてあった事を思い出していた。

 これもノヴァの残粕の影響かと考えていると、いつの間にか地面の近くまで落下していた。ユウキは着地すると、左足で勢い良く地面を踏み抜いて、足の氷を粉々に砕いて自由にする。

 

(俺のやることは変わらない…隙を見つけたら…一撃で斬り捨てる)

 

 ユウキは自由になった両足で地面を蹴り、プリティヴィ・マータ…否、バルファ・マータに一気に近づく。

 しかし、バルファ・マータは氷の槍を前面に展開し、ユウキ含め、シェリーやライラにも攻撃する。しかし何時もとは違い、1度だけではなく3連続で発射してきた。まるでショットガンの様な面攻撃だったが、ユウキはその隙間を縫って確実に前に接近する。

 

  『バンッ!!』

 

 攻撃後の隙に何処からともなく狙撃弾が飛んできた。発射したのはジャンプで上に逃げたシェリーだった。狙撃弾はバルファ・マータの肩の装飾を撃ち抜き、バルファ・マータを仰け反らせた。

 

「行きなさい!!ユウキ!!」

 

 さらにその隙をついて腕と神機が凍り付いたままのライラが接近し、上から神機を全力で振り下ろす。ライラの豪腕から繰り出された一撃でバルファ・マータは頭ごと地面に叩きつけられた。さらにその衝撃で神機と腕の氷が砕け散って自由になった。

 

「やっちゃえ主君!!」

 

 最後にユウキが左の神機を順手に持ち変えて神機を振り下ろすと、バルファ・マータは両手足と胴体に分けられ身動きが取れなくなった。

 

「…」

 

 ユウキはそんなバルファ・マータを何も感じない目で見下し、頭を踏みつけて確実に動きを止める。その後、ユウキは右の神機で捕食口を展開し、胴体に喰らい着く。

 

  『グヂュッ!!』

 

 バルファ・マータの胴体を喰い、コアを取り除く。するとすぐにバルファ・マータは霧散して消えていった。

 

「おっ疲れー。ちょこっとだけ強敵だったね」

 

「終わったわね。ユウキ、足は大丈夫?」

 

 バルファ・マータとの戦闘を労うライラだったが、シェリーは左足を凍らされたユウキの心配しかしていなかった。それを見たライラは『両腕凍らされた私の心配は?』と小さな声でひとりごちる。

 

「…次の仕事だ。お前たちは俺とは別ルートでアナグラへ向かえ。勿論、姿を消してな。決して悟られるな」

 

「あの…向かう先は同じなら、一緒に行っても…」

 

「命令だ…」

 

 ユウキは次の任務先に極東支部を指定する。そしてユウキの行き先も極東支部だ。行き先が同じならば一緒に行く方が安全だとして同行を提案する。だが、ユウキはあくまでも別ルートで行く命令を変えるつもりはないようだ。

 

「…分かりました」

 

 シェリーは命令ならば仕方ないと自分に言い聞かせる。ユウキはそのまま独りで極東支部に向かって歩き出す。シェリーとライラはその後ろ姿を眺めるしか出来なかった。

 

「今は諦めなよシェリー。私らもこうして心と実体を持った以上、『警戒すべき対象』って思われてるのは主君と繋がった時に分かってた事でしょ?」

 

「…そう、ね…」

 

 シェリーとライラはユウキの神機、そしてユウキとの適合率は100%を超えている。さらには神機とユウキの感応現象の事もあり、ユウキが神機と繋がっている時だけだが、ユウキの心を読む事など造作もない事となっていた。

 その事もあり、ユウキが実体を持ったシェリーとライラの事も警戒しているのは2人には既に分かりきっている事だった。

 

「前向きに考えようよ。警戒されてるって事は私らを『人間と同じように』見てるって事でしょ?だったらシェリーの事もいつかは…」

 

「分かってる。私たちは彼で、彼は私たち…少なくとも、私たちには彼の心の内が手に取るように分かるもの…」

 

「…そうだね」

 

 ライラはユウキが自分達を普通の人間と変わらぬ扱いをしていると言う事に希望を持とうとポジティブに考える様に促すが、シェリーもその事は分かっているようだった。

 

「行きましょう。次の仕事よ」

 

「りょーかーい!!」

 

 シェリーとライラは気持ちを切り替え、ユウキからの命令を果たすべく極東支部に向かう。2人は光の粒子になってその場から消えていった。

 

 -極東支部、神機保管庫-

 

 神機保管庫では、いつもの様に技術班が神機の整備をしていると、突然出撃用のゲートが開いた。何事かと思い、ゲートの方を見ると、行方が分からなくなったとなっていた聞いていたユウキが立っていた。

 行方不明となっていた突然ユウキが帰ってきた事にリッカを始め、技術班のスタッフは驚きを隠せないでいた。

 

「お、お帰り。無事…だったんだね」

 

「当然だ」

 

「そっか…」

 

 驚きながらもリッカはユウキの帰還には安堵した。しかし、以前と比べて変わり果て、狂暴になったユウキにビビりながらもリッカは話しかける。たが相変わらず冷めた返事しかしないユウキに、もうこれ以上話しかけても無駄だと感じて話を終わらせる。

 

「いつも通りだ。俺の神機の整備はしなくていい。後から自分でやる」

 

「…そう、分かった…」

 

 いつも通りと言えばいつも通り、自分の情報が漏れる事を警戒して神機には触るなと伝えると、ユウキはそのまま保管庫を後にする。

 相変わらず仲間のはずの自分の事も信用してないと感じて、リッカは自分の作業をしながら諦めた様に返事をした。

 

 -エントランス-

 

 多くの人が集まるエントランス…その役割上、いつも話し声が聞こえてくる場所だ。そんな喧騒の中、突然出撃ゲートが開くと、行方不明となっていた人物が現れた。当然その場に居た者達にもユウキがようやく帰ってきたところが目に入り、第一部隊の面々の目にも映る事となった。

 

「ユウ?!」

 

「帰って…来たのか…?」

 

「心配させやがって」

 

 突然の帰還に驚くアリサ、何処か複雑な表情のコウタ、ユウキの顔を見て安心したソーマ…3人が各々ユウキの帰還に反応を見せて駆け寄ってきた。

 

「無事だったなら連絡くらいしてください!!どれだけ心配したか…」

 

「邪魔だ」

 

「え…?」

 

 帰ってきたは言いが、生きていたのなら何かしら連絡が欲しかったと怒りを見せるアリサだったが、ユウキに冷たくあしらわれてショックを受けた。

 

「前を塞ぐな…ガーランド支部長に帰ってきた事を報告しに行けないだろう」

 

「あ、えぇ…そ、そう…ですね…」

 

 ガーランド支部長への報告しに行きたいのに第一部隊が前を塞いでいる。ユウキはそれを邪魔と一蹴し、道を開けさせるとそのままエレベーターに向かっていった。

 いつも通りと言えばいつも通りだが、冷たい態度のユウキに相変わらずどう対応していいか分からない3人だったが、アリサは突然何かを思い出した様にハッとした表情になった後に駆け出した。

 

「待って!!」

 

 アリサはユウキに伝える事があったと思い出して、ユウキと一緒にエレベーターに飛び乗った。しかしユウキは特に気にすることもなくガーランドが居ると思われる役員区画へのスイッチを押した。

 

「…何だ?」

 

「あの、今アナグラに新しく配属されたアーサソール…彼らには注意してください」

 

「どういう事だ?」

 

 エレベーターで役員区画に向かう間に、アリサはアーサソールとの感応現象を起こした時の違和感を報告する。しかし、肝心な事をまだ言っていなかった為、ユウキは何に気を付けろと言っているのかよく分からなかった。

 

「何と言うか…普通じゃないんです。彼らの隊長と感応現象を起こしたのですが…何も感じなかったんです」

 

「…」

 

 アリサは感応現象の時に感じた不気味な虚無感…それを聞いたユウキもどういう事かすぐに検討が付かず、考え込む様に顎に手を当てる。

 

「博士もルミコ先生も…それはおかしい、普通じゃないと言ってました。だから…気をつけて」

 

「覚えておく」

 

 アリサから聞いた話はペイラーやルミコも普通じゃないと言っていた。この状況を聞き、ユウキはアーサソールとガーランドへの警戒を強める事にしたところで、エレベーターが役員区画に到着した。扉が開くと、アリサをその場に残して、ユウキだけが降りて支部長室へと向かっていった。

 

 -支部長室-

 

 目的のガーランドの元に着くまでに何度か話しかけられる等、時間がかかってしまったが、ようやく支部長室にたどり着いた。ユウキは支部長室に入る前に呼び鈴を鳴らし、ガーランドに帰ってきた事を伝えると扉が開き、ユウキは支部長室に入っていった。

 

「よく戻って来てくれたね。神裂君」

 

 これまたユウキの突然の帰還にガーランドも驚いていたようだったが、部屋に入る時に名乗った事で多少他の面々よりは落ち着いた様子だった。

 

「いえ、本来であればすぐにでも支部と連絡を取るべきだったのですが…落ちた衝撃で通信機が壊れてしまいました。申し訳ありません」

 

「いや、君がこうして無事に戻ってきたのなら、それで構いませんよ。それで、ヨルムンガンドとの戦闘の後何があったのですか?」

 

 ヨルムンガンドとの戦いの後、ユウキに何があったのか…気になっている事を率直に聞いてみた。

 

「降りた後アラガミに追い回されていました。全滅させた頃には支部からかなり離されていたため、戻るのにはだいぶ時間がかかってしまいました」

 

「そうですか。何にしても、帰ってきたばかりで疲れてるでしょう?今日のところはゆっくり休みなさい」

 

 ペイラーからの特務でガーランドの思惑を探っていた事を知られる訳にもいかない。取り敢えずアラガミに追いかけられていたと言うことにして、話を終わらせる。その後も2言、3言程話して、今後もよろしく頼むと言うことで話が終わり、『失礼しました』と言って支部長室を出ていった。

 そしてユウキが出ていった後、ガーランドは机に肘を突いて、下を向く。そして声を殺しながら必死に笑いを堪えていた。

 

「何と言うタイミングの良さ…どうやら、勝利の女神が選んだのは私のようですね…」

 

 ガーランドの計画も後は機を見て発動させるだけと言うところまで来ていた。強いて言えば、計画をより確実なものにするため、神裂ユウキの存在が必要だったがそれもたった今帰還し、必要なものが全て揃った。

 ガーランドとしては笑いが止まらない状況だった。意気揚々としつつも冷静に、ガーランドはデスク上のスイッチを入れ、レオンに向けて通信を入れる。

 

「レオン君、すぐに準備を…強引な手でも構いません。彼をエイジスへ」

 

『はっ!!』

 

 レオンに計画の発動を指示すると、すぐに通信を切る。そして立ち上がったガーランドは義足の音を響かせながら支部長室を出る。

 

「さあ、もうじきに成就する…これ程までに強力な『兵器』…使わずに滅ぼす等愚の骨頂…『世界統一計画』の完成はもう目の前だ」

 

 ガーランドは笑いを噛み殺しながらもエレベーターに乗り、エイジスへと向かう。ようやくここまで来た…遂にガーランドの思い描く世界統一が始まろうとしていた。

 

 -ラボラトリ-

 

 リッカ、第一部隊、ガーランドと手短にとは言え、色々な人と話した事で時間を取られてしまったと考えながら、ユウキはようやく本来の目的地であるペイラーのラボにたどり着いた。

 

「…戻りました」

 

「やぁ、お疲れ様。どうだった?いつもとは違う任務形式で多少は気分を変えられたんじゃないのかい?」

 

「…そんな事より、ガーランド支部長の目論見に検討がついたので報告します」

 

 ラボに入るなり、ユウキは気だるそうに帰還の報告をする。対してペイラーは気分転換になったかと、冗談混じりに聞きながら労うが、ユウキは無駄に時間を消費したくないが為に早々に本題に入る。

 

「集めた情報からガーランド支部長の目的を推察すると…恐らく強制進化を使って究極のアラガミを作ろうとしているのではないかと…さらには感応現象を使ってそれを操り、自らの手で世界を牛耳るつもりなのでしょう」

 

「究極のアラガミを操る…か」

 

 その後、『関係していると思われる論文です』と言ってUSBメモリを渡す。ペイラーはUSBを受け取ると早速中のデータを見ていく。

 

「それから、計画については元本部長代理と連絡を取っていたようです。この計画、元々は元本部長代理の為のものだったんでしょう…でも元本部長代理はアーク計画の一件で失脚、自身をトップにすり替えて続行したってところでしょうか…」

 

 ペイラーがデータを閲覧する中、ユウキがガーランドの端末から元本部長代理との通信履歴の事を話し、憶測も交えながらガーランドが企てた計画の背景を話していく。

 

「成る程…」 

 

「それから…ガーランド支部長の計画とアーク計画に繋がりがあった可能性もあります」

 

「…と言うと?」

 

 ユウキが予想外な繋がりを示唆した事にペイラーは興味を示した。

 

「恐らく、今回の計画はアーク計画が失敗した時のサブプランだったのかと…ヨハネス前支部長がアナグラに新型を集め、エイジスに資材を持ち込んでいたのは、アーク計画が失敗した時にこの計画に引き渡す為でもあったんでしょう」

 

 かつてリンドウが新型を極東支部に集めている様に感じると言った情報、ヨハネスがエイジス建設の為に特務で集めていた資材を更に横流ししていた事を思い出し、その時の過剰な人員や資材はガーランドの計画の為だったのではないのかと考えた。

 しかし、ヨハネスがそんな計画に乗るとは考えにくかったため、『元本部長代理の指示かも知れませんが』と最後に付け足した。

 

「根本的な解決に拘っていたヨハネス前支部長としても、アラガミを兵器として利用する事では何ら解決しないとこの計画は良しとはしないはず…結果的に後に引ける理由も失くなり、アーク計画完遂に向けて突き進むしかなくなったんだと思います」

 

 最後に『憶測の域を出ませんが…』と言うと、ペイラーは納得した様に静かに頷いた。

 

「確かに…ヨハンならこの計画に賛同しないだろうね。そう言う意味でも、アーク計画を完遂させるしかなかった訳か…」

 

 かつてヨハネスが強行したアーク計画…数多の犠牲を強いた事で後戻り出来なくなり、計画完遂に向けて突き進んだ。しかし、その裏にユウキの予測通りの背景があったとしたら、計画の失敗はガーランドの企む独裁計画の発動を意味する。そう言う意味でもヨハネスは引き下がる訳にはいかなかったのだろう。

 

「ふむ…これは…」

 

「何か?」

 

 ユウキと話しながら幾つかの論文をざっくりと読んでいたペイラーは意味深に小さな声を漏らすと、ユウキも何か分かったのかと思い声をかける。

 

「これらの論文、研究者である私でも知らないものがいくつもあるね」

 

「?…博士でも読めない論文があるんですか?」

 

 ペイラーは論文データを読んでいくうちに、今までに見たこともない実験の論文やレポートが数多く目についた。それを聞いたユウキはフェンリル創設に関わったペイラーでも閲覧規制を受けている論文があることに驚いていた。

 

「私はフェンリルにとって扱いに困る存在だからね。あまり大きな権限は与えられていないんだよ」

 

 『支部長代理を勤めた時もね』と続けたが、何故フェンリルの技術者でもトップクラスの頭脳と実績のあるペイラーがフェンリルから腫れ物扱いされているのか…そのまま理由が分からず、ユウキは怪訝そうな顔をしていた。

 

「時にユウキ君…君は何故新型神機使いが感応現象を起こせるのか、考えた事はあるかい?」

 

 しかしキーボードを叩き続けるペイラーが話題を変えたため、この事についてはこれ以上の事は聞かなかった。

 

「…さぁ…」

 

「新型の感応現象は新型用P53偏食因子の副産物と言われているんだ。でもその技術は事実上フェンリル本部が独占管理していて、適合者の条件を含め多くの謎に包まれている…そのメカニズムが詳細に書かれたデータがこのレポートや論文…要は本部の機密事項さ」

 

「…何が言いたいんです?」

 

 はぐらかす様な言い方をするペイラーだったが、『多分シオの時と同じパターンだろうな』とユウキの心の内では何が言いたいのか予想はついていた。

 

「ここから先の仕事は、フェンリルの闇に触れる事になるだろう。これからも協力してくれるなら、『共犯』となる覚悟を決めてほしい」

 

「別に構いませんよ…誰が相手でも関係ない、フェンリルも敵になるなら滅ぼすだけだ」

 

 案の定、シオを匿った時と同じ様にフェンリルの意に背く意味で『共犯』と言う言葉を使ってきた。ただあの時とは違い、半ば騙される形ではなく、自らの意思でペイラーに協力する事が前提となっている。ペイラーもキーボードを叩くのを止めて、ユウキと向き合う辺り、1度真剣に考えて欲しいのだろう。

 しかし手を出してくるならばフェンリルも敵だと、ユウキは迷いも無しにフェンリルに肩入れする事はないと断言する。

 

「それよりも、博士でも閲覧規制のかかる論文があることに驚きましたね。貴方程の科学者なら、あらゆる論文へのアクセスは当然できるものだと思っていたんですがね」

 

「…さっきも言ったけど、私はフェンリルにとって目の上のたんこぶだ。偏食因子を実用化した技術が組織ではなく、一個人から作り出されたなんて知れたらフェンリルのメンツは丸潰れだ。だから私を囲い込み、全てフェンリルの実績にしようと考えたのだよ」

 

 アラガミからの防衛手段、対抗手段を未だ模索していた中、フェンリル主導のマーナガルム計画で起きた事故によって大惨事となった。そしてその事故からたった1人、無傷とはいかなかったが生還したヨハネス…そのきっかけとなったのがフェンリルに属さない1人の科学者の発明だと世間に知れたら、人類をアラガミの驚異から救うと謳った大企業よりも個人の技術力の方が信用出来ると思われる。そんな事になれば他の企業を出し抜き、巨万の富を築く事も出来ないどころか文字通りフェンリルの信用は地に落ちて再起不能になってしまう。

 上層部としてはそれだけは避けたかったため、あらゆる手を使ってペイラーを再びフェンリルに引き入れたのだった。

 

「結果、フェンリルはこんな時代にも関わらず大きく成長し、一大企業として不動の地位を築き上げた。当然、上層部はそれに相応しい、安全で裕福な生活を手に入れる事となった訳だ」

 

 ペイラーを引き入れた目論見は見事成功、偏食因子の技術を独占し、唯一アラガミに対抗手段を持つ企業となった。すると、旧時代で名を馳せた財閥や世界レベルの大企業等の重鎮達はフェンリルから安全を金で買う様になり、最終的に合併、吸収を繰り返し、他の企業、果てには国家権力さえも問題にならない程の権力を世界規模で持つようになった。

 しかし、その一方で自身を守る手段を持てない大多数の一般人はアラガミに滅ぼされる現状を利用し、安全を保証する代わりに多大な税金を徴収する…特に自分達が戦う訳でも、研究する訳でもなく、ましてやフェンリルを経営をする訳でもないのに安全な場所でふんぞり返って私腹を肥やすと言う、金の力を持つ者が生き残る時代となっていた。

 ペイラーが語ったフェンリルが巨大化した経緯を聞くと、ユウキ本人は心がざわつくような感覚を覚えた。だがすぐにどうでも良くなったのか、その感情の正体については知ろうともしなかった。

 

「…高みの見物か…良い御身分だな…」

 

「最前線の支部や外部居住区の生活を鼻で嗤う様な連中だからね…既得権益の中毒になった者はその歪んだ権利を守る為に保身に走る…世間体を気にするのもその1つだ。不正、汚職、倫理観の欠場…そんな小さな綻びが露呈した事で自分達の足場が崩れていく事を良く知っている。だからこそそれらを隠す為に必死に隠蔽しているのさ」

 

 ペイラー自身もそう言った場面を何度か見てきたのだろう、愁いを帯びた表情でため息をつく。

 今でこそフェンリル側にも偏食因子の研究、改良する上でのノウハウはあるが、実用化当初はアラガミの進化に対抗するため、人体投与や神機の制御等、ペイラー独自の技術を解析しながら急ピッチで改良していた。そのため実験の失敗も多くあり、その中には人類救済の大義を掲げた非倫理的な実験も数多く含まれていた。

 そんなものが外に知られればフェンリルへの不満や鬱憤を爆発させて暴動を起こさせかねない。ただでさえ高い税金を払い、生活が逼迫していると言うのに、それでも安全は保証されないどころか、ここ最近では頻繁に外部居住区が襲われている。そんな状態でこれらの実験が明るみに出れば、最悪数の暴力によって民間人から私刑に処されるだろう。この現状フェンリルの重鎮達をより一層保身に走らせていた。

 

「これらの論文もその1つ…恐らくは非人道的な実験の果てに出来上がったものなのだろうね。要するに、フェンリルが表に出したくない『闇』って訳さ…そう、RV計画の様なね…」

 

 ペイラーの様な超が付く程の有能な研究者がアクセス出来ない論文…ペイラーの権限が制限されているのはペイラー側にも問題はあるのだが、一番の理由は外に知られる訳にはいかないからだろう。

 今のオラクル関係の技術も、多大な犠牲を強いた事で得られたものだ。そんな研究の内容を想像するのは然程難しい事でもないだろう。暗にペイラーはフェンリルの非倫理的な実験が数多く行われていた事を伝える。

 その後、かつてP16偏食因子の事を調べた際、ユウキが関わっていたであろう研究も同様のものだと仄めかしつつ、ペイラーは再び画面と向き合い、キーボードを叩き始めた。しかしその研究の名を聞くと、ユウキの目付きが鋭く変わった。

 

「…何処まで知っている?」

 

「名前とP16偏食因子を使った計画と言うことしか分からなかったよ。何にしてもろくなものではないだろうね」

 

「…」

 

 ユウキは低い声で威圧しながら探りを入れるが、ペイラーも名前しか知らないとの事だった。

 その後威嚇を止め、報告を終えたユウキは『何か分かったら教えてください』と言って、ユウキはペイラーのラボを去っていた。

 

 -自室-

 

 ユウキは色々と用事を済ませた後、自室に戻って来るとソファーに座って始末書を書き始める。内容は何て事のない、すぐに生存報告をしなかった事への謝罪と反省点を書いていくだけだ。ただそれを仰々しく、かつ堅苦しい言葉で書き連ねていく。

 正直面倒なだけで中身のない始末書を書きながら、ユウキの頭は別の事を考えていた。

 

(ガーランドの計画…仮に推理通りだとしたら…足りないものがあるはずだが…)

 

 ここまでガーランドの計画に関わっていそうな情報を一頻り揃えたはずだった。究極のアラガミ、それを操るアーサソール、その為の感応現象の解析…しかし、得られた情報を繋ぎ合わせるとそもそもの前提として、1つ足りてない情報がある。ユウキ自身、それについてはペイラーと話していくうちに気が付いたものだが、その問題の解決方法については未だ情報が出ていない。

 

(アーサソールが感応現象で究極のアラガミが操れるとして…アーサソールが素直にそれに従うか…?)

 

 アラガミを操る方法は分かった。だが、それらをどうやって実行させるのか…そこが分からない。計画を完遂させるには裏切り者を出す訳にはいかない。

 ガーランドとてここまで手をかけた計画を棒に振るなんて事はしないだろう。何かしらの対策を取っているのは間違いないはず。感応現象で新型神機使いを操れる可能性を示唆している事から、恐らく洗脳の類いで対策しているのだろう。しかし、ガーランド自身には感応能力はない。そうなるとどんな方法で感応現象を利用しているのか検討が付かない。

 

(アリサが言っていたアーサソールとの感応現象…ここにその足りないものがある気がするんだが…)

 

 どうやってアーサソールを確実に支配しているのか…その糸口がアリサの言っていた虚無感しか感じない感応現象にあると考えるが、ユウキはアーサソールとはまだ接触すらしていない。まずは彼らと接触する事から始めようかと考え、ユウキは立ち上がる。

 

  『ドガアァァアンッ!!!!』

 

 突然外から爆音が鳴り響き、部屋の電気が消え、非常電源に切り替わる。しかし、ユウキは特に気にした様子もなく、扉に向かって歩いていく。そして扉の前まで来ると、独りでに扉が開いた。

 

  『ドゴォッ!!』

 

 扉が開いた瞬間、ユウキは扉の向こうに蹴りを入れる。その先には黒いバイザーを着けた神機使い…アーサソールの隊員が5人居て、その内の1人を蹴り飛ばした。

 人の体が弾丸の飛んでいき、突き当たりのエレベーターまで飛んでいく間に、今度は別の隊員2人がユウキを拘束しようと左右から飛びかかる。ユウキは左に一歩前に出て掴みかかるタイミングをずらし、下から上に半弧を描く起動で左肘を出して人中目掛けて撃ち込む。そして右から接近してくるアーサソールにはすぐさま右のジャブを鼻頭に叩き込み、間髪入れずに右からの回し蹴りを入れて薙ぎ倒す。

 攻撃を受けたアーサソールは怯んだが追撃は収まることはなかった。今度は2人が一列になってユウキに飛びかかる。対してユウキは回し蹴りの時の勢いを殺さずに相手に背を向けた瞬間、自室に向かって地を蹴った。

 一瞬で部屋に戻ってテーブルに手を突くと、そこを軸にしながら勢いよく倒立する。その時、ユウキを捕らえようとしていたアーサソールの顎に勢いの付いた踵落としならぬ踵蹴り上げで隊員の顎を蹴り抜いた。

 すると今度は後ろにいた隊員が左に逸れて蹴られた隊員を躱すと、一気にユウキに接近して捕らえようとしてくる。対してユウキは捻りを加えながら腕をバネにして上に跳び空中で体を回転させて、隊員の拘束を回避しつつ向きを変える。そして足を思いっきり下へと振り、体勢を戻しながら最後の隊員の背中に抉り込む様な蹴りを入れる。

 これで攻め込んできた全ての敵に隙を作った。ここから一気にとどめを刺そうと右手で拳を作る。

 

「動くな!!」

 

 しかし、何者かの声でとどめは阻まれる事となった。

 

「動くとこの男の命はないぞ?」

 

「あわわわ…ご、ごめんよユウキ君…」

 

 そこにはアーサソール隊長のレオンに拘束され、首元にナイフを突き立てられたペイラーが居た。それを見たユウキはゆっくりとアーサソールから離れる。するとさっきまで痛みで悶えていたアーサソール達が何事もなかった様に立ち上がり、ユウキに手錠を掛けて拘束する。

 ただし、ユウキに付けられたものは一般的な手錠とは違うものだった。まるで極悪な囚人を捕らえる時に使う様な太い鎖で繋がれ、分厚い鉄板で作られていて、手錠と言うよりは手枷だった。ご丁寧に工具まで持ち出して手枷をボルトでしっかりと留め、ユウキが抵抗出来ない様にした。

 

「随分とゴツい枷だな…」

 

「相手が相手なのでね…相応の物を用意させてもらった」

 

 『連れていけ』とレオンが指示を出すと、アーサソールはペイラーとユウキを連れてエイジスに向かった。

 

To be continued

 




あとがき
 相変わらず態度がクソ悪いうちの子です。それはそうと、ようやっとフェンリルの闇の一端に触れつつも、ガーランド様の計画が動き出します。そしてその計画に利用するため、うちの子を捕まえるガーランド様…こいついっつも捕まってんな。
 それから次回はリアルの都合で更新が大きく遅れそうです。
 あとバルファ・マータ、お前は許さん
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