GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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ユウキが両親の仇だと思い込み復讐に走るユリ…その結末は…?


mission115 仇討

 -エントランス-

 

 ポセイドンを討伐した後、報告書を書いてから夜まで訓練をして、ユリはユウキの部屋に戻り、ユウキはエントランスのソファで寝ていた。

 そしてそのまま皆が寝静まる位に夜が更けた頃、エントランスのエレベーターが動き出す。1度ベテラン区画で止まり、続いてエントランスまで動く。エレベーターが止まると扉が開き、中からユリが降りてきた。

 

「…」

 

 出撃ゲート前のソファで眠っているユウキを見つけると、息を殺し、足音を忍ばせ、気配を消してゆっくりとユウキのそばまで歩を進めるが、その手には包丁が握られていた。

 

「お父さんと…お母さんと…皆の仇…!!」

 

「…」

 

 ゆっくりと両手で包丁を握って振り上げる。そして寝息を起てるユウキの心臓を突き刺す為に包丁を振り下ろした。

 

  『ギンッ!!』

 

「グッ?!」

 

 しかし、突然包丁の刃が根本から飛んだと思ったら、左肩に強い衝撃が走ってユリは吹っ飛ばされた。ユリはそのまま出撃ゲートに叩きつけられ、何事かとすぐに立ち上がると、何時の間にか立ち上がってユリを見下し睨むユウキがいた。

 

「…」

 

「お前…お父さんとお母さん、皆の仇…!!」

 

 既に刃の部分を失っているにも関わらず、その事に気づいていないのか、ユリは憎悪で顔を歪ませたまま包丁の柄を構えて今にもユウキを殺しに飛びかかりそうな様子だった。

 

「許さない…お前だけは…絶対ッ?!」

 

  『バンッ!!』

 

 ユウキに襲いかかろうとした途端、何処からともなく狙撃弾がユリの足元に撃たれ、ユリは動きを止める。するとライラと神機を持ち出したシェリーが下階から飛び出してきてユウキの前に立ちはだかった。

 

「この女…絶対殺してやるわ…」

 

「ユッキー君、コイツ殺っちゃうよ?イイよねぇ?」

 

 シェリーとライラが怒りで表情を歪ませ、ユリを殺すべく持ち出した神機の銃口を向け、対峙するユリも負けじと2人を睨みつける。しかしそんな彼女達を意に介さず、ユウキは前に出て右手を軽く上げて2人を静止する。

 

「あぇ?」

 

「なっ?!」

 

 ユウキが手を出すなと指示を出すのは2人からしてみれば予想外も良いところだった。指示どうりに神機を下げると、ユリは再び憎悪で顔を歪ませてユウキに向かっていく。

 

「お前だけはぁぁぁぁあ!!!!」

 

 ユリは無策のままユウキに突っ込む。刃を失った柄を突き出すが、ユウキはその手を払いのけると軽く前に出て距離を詰めて底掌をユリの喉元に当てる。

 するとその手を押し込んでユリを吹っ飛ばすと、また出撃ゲートに叩きつけられて倒れた。

 

「ぐっ?!」

 

「…」

 

 痛みに耐えながら、ユリがゆっくりと上体を起こす。しかし既にユウキがすぐ近くまで来てユリを見下ろしていた。

 そしてユウキはまるでアラガミを相手にしている時の様に、無表情で感情を感じられない顔のまま拳を固く握る。

 

「ま、待って!!!!」

 

 素手でも人を殺せるユウキが頭蓋を破壊すべく拳を上げた瞬間、幼い声がユウキを止めた。声のした方を見るとトウカが慌てて2人の間に割って入る。

 

「お願いします!!!!お姉ちゃんを殺さないでください!!!!」

 

 2人の間に入るとトウカは地に手を付けて頭を下げ、所謂土下座でユウキに手を引くよう懇願する。それを見たユリ、それからシェリーとライラはギョッとした顔になったが、ユウキは相変わらず無表情だった。

 

「わ、私の家族はもうお姉ちゃんだけなんです!!だから…だから…殺さないでください…」

 

 『お願いします、お願いします』と何度も何度も泣きながら懇願する。今までに多くの親しい人の死を見てきた事はまだ幼いトウカにはトラウマになる様な光景だった。

 そして今、目の前で姉も同じ様になろうとしていた。最後の家族を失いたくないが為に必死でユウキに頭を下げて頼み込む。ユウキはしばらくその様子を眺めていたが、やがて踵を返してその場を去って行った。

 

「え?あれ、お義兄…ちゃん?」

 

 ユウキを止めた事で怒りの矛先が自分に向くかも知れないと考えたが、それで家族の命を救えるなら安いものだ。殴る蹴る位は覚悟していたが、実際には何もされなかったので、トウカは拍子抜けした様な顔と声で下階へ降りるユウキと、それを追いかけるシェリーとライラの背中を見ていた。

 

「…あの、あのままで良いのかしら?あの女は貴方を…」

 

「そ、そうだよ…本当にこのままにしとくの?この場で殺っちゃった方が…」

 

 今までならば間違いなく返り討ちにしていた。今回も同様にすると思っていた2人だったが、あまりに予想外な対応に困惑した表情で聞き返していた。

 

「構わん…」

 

「…そう、ですか…」

 

 結局、ユウキの考えが変わる事はなかった。どこか釈然としない様子で、2人はエントランスから出ていくユウキの後を追いかけていった。

 

「…何やってるんだよお姉ちゃん?!何だって急にお義兄ちゃんを殺そうとしたの?!」

 

 結局何もしてこなかったユウキ達の背中を呆然と見つめたまま彼らが去っていくのを見つめていた。そして我に返ると、トウカは突然暴挙に出たユリを問いただす。

 トウカ自身も、任務から帰ってきたユリの様子がおかしい事には気づいていた。そして様子が変わったその日に、いつもはしない何かを持ち出して夜中の外出…何かと思い様子を見に来て正解だった。

 まさかユウキを刺そうとしていたとは考えておらず、その光景を見た時は驚きのあまり固まってしまったが、ここで止めに入っていなければユリが殺されていてもおかしくない。

 

「アイツがッ!!アイツがお父さんとお母さんを殺した黒い羽のアラガミだった!!殺さなきゃ…お父さんもお母さんも…皆の仇を討たなきゃいけないの!!」

 

「何言ってるのお姉ちゃん?お義兄ちゃんがアラガミって…気は確かなの?!」

 

 しかしユリは怒りを隠す事なく、怒鳴り散らす様にユウキが黒い翼を持ったアラガミになれる事を伝える。しかし人がアラガミになれるなど、トウカには信じられる話ではなかった。

 

「実際に見たのよっ!!アイツは人の皮を被ったアラガミだった!!私の目の前で黒い羽のアラガミになるとこを見たの!!アイツが皆を殺して私達を地獄に叩き落とした張本人だったのよ?!」

 

 対してユリは実際に見たと言って、ユウキが仇のアラガミだと素直に信じないトウカに対して苛立ちを覚えて語気が荒くなっていく。

 

「…ねぇ、お姉ちゃんが言ってるパパとママと研究所の皆の仇って、本当に黒い羽だったの?私あの時逃げるのに精一杯だったからちゃんと覚えてないけど、羽に紫の模様が入ってた気がする…お姉ちゃんの言ってた羽だけでもお互いの認識に差があるんだし…ねぇお姉ちゃん、見た目とか大きさとか、他の特徴ももう1度よく思い出してみてよ」

 

「そんなはずない!!皆の仇のアラガミは背中に黒い羽が付いてた!!間違いないわよ!!」

 

 トウカは記憶が曖昧ではあるが、仇のアラガミは単純に黒いだけではなく、模様が入った羽だったと言い、仇のアラガミをよく思い出す様に諭すが、ユリの頭の中ではユウキ=黒い羽のアラガミで固定されてしまっていた為に、仇は間違いなく黒い羽のアラガミだったと余計に語気を強めてトウカに怒鳴り散らす。

 

「絶対…殺してやる…っ!!」

 

 憎悪を剥き出しにした目をユウキが去って行った方に向け、ユリは殺意を込めた呪詛の様な口調でユウキを殺すと決意を新たにした。

 

 -訓練室-

 

「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"っ!!!!」

 

「…」

 

 翌日、ユウキとユリはいつもの様に訓練を始めたが、ユリは殺意を剥き出しにして吠えながらユウキに襲いかかる。

 ただし、いつもとは違うのは廃工場を再現したホログラム上での訓練だった事だった。さらに神機をポイズンピック、ファルコン、オーバル甲に強化していた。そしてユリ自身の戦闘スタイルも、初撃は気配を殺して背後から毒を帯びた強力な一撃を与える、暗殺者の様なスタイルに変えていた。

 しかし初撃は軽く往なされ、その後ももう気配を絶とうが不意打ちは不可能なため、ただひたすら接近して神機を振り回し続けるだけとなっていた。

 

「殺す!!殺す!!殺す!!」

 

 何度も神機を振り回すと同時にユリはひたすらユウキへの殺意も振り撒いていくが、当のユウキは神機も殺意も軽く捌いて躱していく。

 

「殺してやるぅぅぅうっ!!!!」

 

 ユリが鬼のような形相でユウキに神機を振り下ろす。しかしユウキは振り下ろされる神機の柄を右足で蹴り上げて弾くと同時に左足で地を軽く蹴る。そのまま振り上げた右足を大きく内側に回して身体を捻り、浮いた左足を身体の外側から後ろに回し、身体の回転と足を振り回す勢いを乗せて踵による回し蹴りをユリの脇腹に叩き込む。

 

「ガッ?!」

 

 蹴りによってユリは横に吹っ飛ばされたが然程痛みは無い。受け身に失敗して何度か転がった後すぐに立ち上がると、何時の間にか端末を取り出して時間を確認しているユウキが目に入った。

 

「…時間か。今日はここま…」

 

「ふざけるなァァァァあっ!!!!」

 

 ユウキは訓練時間が終了した事を確認するが、ユリは逃がす訳ないだろうと言わんばかりの怒号と共にユウキに襲いかかる。

 

「…」

 

 ユリは神機を振り下ろすが、それよりも先にユウキは姿勢を落としながら前に出て間合いを潰す。するとユリの顎を底掌で下から撃ち抜く。そのまま右手でユリの喉元を押さえて背中から押し倒す。するとユリは背中を強打し、その衝撃で後頭部も床に強打してしまい、そのままユリの意識は途絶えた。

 

 -神機保管庫-

 

 ユリを自室に放り込んだ後、ユウキは神機のメンテナンスをしていた。マニピュレータを操作しながら神機の状態をチェックしていると、不意に保管庫の扉が開くと、『よう』と気安い声でコウタが話しかけ、ユウキの隣にやってきた。

 

「ユウ…何でユリとトウカに本当の事言わないんだよ?2人の両親が死んだのって確か2、3年前だって聞いたぜ?だったら…」

 

 コウタはお互いの事を聞いた時に、トウカから件の事件について少し聞いていた。その時の話によると、2人の両親が殺されたのは数年前の事だった。そしてユウキが外部居住区で盗人をしていたのはおよそ7年前だ。これが事実なら、事件が起きた頃のユウキは毎日盗みで生計を立てながら外部居住区で生活していた事になり、そもそも両親の殺害に関与すること自体が不可能だった。コウタは何故その事をユリに伝えないのか不思議に思っていたが、マニピュレータを操作したままユウキが答える。

 

「伝える必要性がないと判断しただけだ。伝えた所で聞く耳を持たないだろうからな」

 

「けど、今日みたいな事か続いたらいつかは…」

 

 復讐の先には悲劇が訪れる。かつて仲間が復讐に走った結果、極東支部を大きく揺るがす事件が起きた事を思い出して、今回もそんな事が起きた結果、ユウキの死が待っているのではないかと思ったが、ユウキが途中で話を遮る。

 

「感情1つで天地程に開いている実力差が埋められるなら、誰だって苦労せずに強くなれる…もしそう見えるのなら、単に本来の実力が拮抗していただけだ」

 

 どんな人間でも常に能力を100%引き出せる訳ではない。体調によっても大きく変動するし、特に何もなくても調子が出ない事もある。そして気持ちだのやる気だのと言ったメンタル要素は単なる補正でしかないと言って、大きく開いている差を埋められるものではないとかんユウキは切って捨てる。

 

「感情で人は強くはなれない。だが原動力にはなる。アイツが俺を怨んでいるうちは俺を殺そうと我武者羅になって強くなろうとするだろうさ」

 

「それでも最後には…ユリを殺すのか?」

 

「教官としての任務がある内は殺しはしない。だが、その後も俺の命を狙い続けるならその時は殺す」

 

 感情は強さを底上げするものではなく、行動への原動力だと言い、今はそれを利用しているだけだと機器を操作しながら淡々とユウキが言う。

 しかし、強くするだけしてから殺す等と、戦闘狂の類な考えなのではないかとコウタは勘ぐったが、あくまでも教官としての職務を優先しているだけだと冷めた雰囲気でユウキは吐き捨てた。

 

「けどまだ支部内の人間は誰一人殺してないけどね」

 

「…」

 

 訓練が終わり、一人前になった後も命を狙うならば殺すと宣言するが、何やかんや言ってこれまでに極東支部の面々は誰一人殺していない事を指摘すると、ユウキは黙ってしまった。

 

「まぁ、何となくだけどユウのやろうとしている事は分かったよ。けど、一線を超えそうだと思ったら、俺は止めに入るよ」

 

「…好きにしろ」

 

 取り敢えずは今すぐユリを殺すと言うことはしないと分かった。しかし、ユリを殺しに動くのならば止めると宣言して、コウタはその場から踵を返して帰っていった。

 

 -訓練室-

 

 初めての襲撃からしばらく経ち、コウタやトウカが両親の仇はユウキではないと説得するも聞き入れず、ユリは何度も気配を殺してユウキの寝込みを襲っていた。しかしことごとく返り討ちにあっていたが、数を重ねるうちに少しずつ気配遮断が上手くなっていき、ユウキの初撃への対応も遅れ初めていた。

 

「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"っ!!!!」

 

 しかし、その後は特に考えなしに神機を振り回すだけなので、対処することは然程難しい事でも無かった。中々攻撃が当たらない事に苛立ちも覚え始め、ユリは獰猛な獣の様な咆哮と共にユウキに斬りかかる。

 だがユウキは何時も通り単調な突撃戦法に呆れつつも、毎回やっている様にアタックの瞬間に前へ出て間合いを潰す。ユリは内から外に神機を振ろうとしたが、先にその手を掴まれて動きを止めさせられてしまった。

 

「っ!?!?」

 

 ユウキがユリの手を掴んだ瞬間、感応現象を起こしてユウキとユリは2人して意識が遠退いていった。ユウキの脳裏には黒い人形に背中に黒い羽が生え、頭部には丸く大きな冠を被っているように見える黒いシルエット…更には長く太く、関節が多数あるのか滑らかに動く両腕をしたアラガミが燃え盛る研究室で佇んでいる姿が映った。

 そしてユリにはユウキが外部居住区で盗みを働いて生き抜いているところが脳裏で再生されていた。

 

「うっ!?!?」

 

 感応現象が終わり、ユリが呆けているうちに、ユウキがスッと横を抜けて首元に手刀を入れてユリを気絶させた。

 

(…なるほど、中々レアなケースもあるものだな…)

 

 ユウキはユリとの感応現象で事の真相に察しがついた。思いの外単純な事実ではあったが、そもそも件の様な状況になる事の方が稀だ。意外な事実をユリの記憶から読み取ったユウキは気を失ったユリを抱え、訓練室を出ていった。

 

 -鉄塔の森-

 

 ユリが目を覚ました後、ユウキはユリを連れて新たに舞い込んできた任務に来ていた。

 

「今回のターゲットはヴァジュラ…単独でコイツを倒せれば取り敢えずは及第点だ。その為、今回俺は手を出すつもりはない。単独でヴァジュラを撃破しろ」

 

「…」

 

 ユウキから簡単に任務内容を聞いたが、ユリは返事をしないでユウキを睨みつけるだけだった。

 

「時間だ。ミッション開始…」

 

 ユウキの任務開始の宣言を聞いて、ユリは取り敢えずは任務を終わらせてユウキを屠る為に待機ポイントから飛び降りる。

 まっすぐに中心の塔に入っていくと、資材を捕食していて隙だらけヴァジュラがいた。ユリは気配を殺してゆっくりと近づいて、捕食形態に形態変化させて構える。

 

  『グヂュッ!!』

 

 汚い水音と共に神機がヴァジュラを喰い千切る。ヴァジュラが突然の攻撃に振り向くと、既にバーストしたユリがそれよりも先に追撃する。ヴァジュラの振り向きざまにすれ違い、前足を切り裂きつつ離れる。

 

  『ガァァァアッ!!』

 

 ヴァジュラが吠えると同時に切られた右の前足を外側に振り払う。ユリはそれを後ろに下がって躱すついでに神機を横に振って追撃を加える。ヴァジュラが攻撃の後にできた隙にユリはまっすぐ突っ込み、ヴァジュラの顎を狙ってポイズンピックを振り上げて切りつける。そのまま飛び上がり、急降下しながらヴァジュラの尻尾を破壊しながら後を取る。

 

  『ガァァァアッ!!』

 

 ヴァジュラが活性化と同時に全面に電撃を放つが、ユリは後ろに下がって電撃を避けつつ銃形態に変形して狙撃弾を撃つ。狙撃弾は何度も攻撃された右の前足を貫くと結合崩壊を起こし、ヴァジュラが怯む。

 その隙にユリは剣形態に変形してヴァジュラに近づいて神機を右、左と振って右の後ろ足を切る。するとヴァジュラはぐったりとしてヘタリ込み弱ってしまった。その間にユリは飛び上がってヴァジュラの眼前に着地しながら頭を上から切り裂いた。続けざまに捕食口を展開してヴァジュラの頭を喰い千切ると、コアが露出した。ユリはそれを見ると即座に剣形態に戻してコアを破壊する。しばらく動じずに眺めていると、次第にヴァジュラは霧散していった。

 

「終わった。早くアイツを…」

 

 『殺さなきゃ』そう思い、中央の塔から出ると付近で空気が焼け焦げる様な匂いが近づいてきている事に気がついた。何処から匂ってくるのかを匂いを嗅いでいると、匂いの元は上にいると分かった。ユリは上を見ると、何者かが上から降ってきた。

 

  『ズガァァァンッ!!』

 

 ユリは前に転がって上からの襲撃を回避して振り返ると、黒い翼手に関節が禍々しい紫色に光るシユウ神属のアラガミが悠然と立っていた。

 

「シユウ神属の禁忌種?!コイツがセクメト?!」

 

 乱入者の正体を記憶の中の情報から考察していると、今まで傍観していユウキが上からアラガミを斬りつけるが、アラガミは後ろに下がってユウキの襲撃を避けた。

 

「アンタ…!!」

 

「コイツはヘラ。シユウ神属の第二種接触禁忌種だ…」

 

 ユウキがフォローに入った事に驚いていたユリだったが、ユウキは至って冷静に敵の特徴と過去に読んだ資料から正体を割り出してユリに伝える。

 

  『キュラァァァアッ!!』

 

 しかし、続いてユウキ達の後ろから別のアラガミの声が響き渡る。そして突然上からレーザーが撃たれて、地面に焼き跡を残しながらユウキ達に向かっていく。ユウキはヘラに近付く方へ、ユリは離れる方へと飛んだ事で2人はそれを避ける事には成功したが分断され、元々2人が居た所には黒い羽に怪しく紫色に光る店を持った見たことのないサリエル神属のアラガミが上空から降りてきた。

 

「また新手?!」

 

「ゼウス…サリエル神属の第二種接触禁忌種か…」

 

 ユウキは追加の乱入者の正体もヘラの時と同様に見破った。しかし、ユリはこの2体のアラガミの特徴である黒い羽(翼手)を見た途端に混乱し始める。

 

「え…あれ?黒い…羽?」

 

 アラガミの中でも黒い羽を持ったアラガミは然程多くない。両親の仇と同じ特徴を持っている黒い羽のアラガミがこの場に3体も現れたのだから無理もない。

 

「え…?え?!だって、黒い…羽、仇はアイツじゃ…」

 

 今まではその珍しい特徴から、間違いなくユウキが仇だと思っていたが、ここに来て仇候補が3体に増えた事で、ユリ自身も誰が仇か分からなくなってきていた。

 そんな中、ヘラとゼウスはまっすぐに突進してくる。ユウキはジャンプしてユリの近くまで下がりながら2体の攻撃を避け、ヘラとゼウスは位置入れ替えた。ヘラはすぐに直立し、ゼウスは1度上昇した後ヘラと背中合わせになる位置で止まって羽を広げる。

 

「っ?!」

 

 ヘラの長い腕前にゼウスの丸い王冠、そしてゼウスが広げた黒い羽、その姿を見たユリの脳裏には両親を殺したアラガミのシルエットが鮮明に思い出され、今まさに目の前にいる2体が重なった姿と思い出したシルエットはまったく同じ姿をしていた。

 

「う、うそ…皆の仇と…同じ…?敵はコイツら…?じゃぁ…私、一体…」

 

 両親の仇は他にいる。コウタとトウカが散々言ってきた事がユリの脳裏に走り、ユウキが皆の仇ではなかったのだとようやく理解した。その事実を認識した瞬間、ユリは自身の勘違いで今までユウキにやってきた事を思い出して顔面蒼白になってへたり込んでしまった。

 

「…下がってろ」

 

 戦える様な精神状態じゃなくなったユリに下がる様に指示を出しながら両手の神機を引き抜くがユリは動かない。そんな中、ゼウスが上空にレーザーを5本放つと、急に曲線を描いて向きを変えてユウキの頭上から降ってくる。

 ユウキは前に出てゼウスの攻撃を避ける。着弾したレーザーは地面を赤熱化させ、正面からはヘラが構えて火球を放ってきた。しかし、後ろにはユリがいる。避ける訳にはいかない。ユウキは前に出ながら左の神機で装甲を展開して火球を受け止める。

 

  『バァンッ!!』

 

 爆炎が両者の視界を塞いで互いを一瞬見失ったが、次の瞬間には爆炎をかき分けてユウキがヘラの元へと突っ込んできた。だがヘラの炎を受け止めた事で装甲から神機、そして柄に熱が伝わり、ユウキの手が『ジュッ!!』と言う音と共に軽く火傷した。それでもユウキら止まらずに右の神機を振り下ろすと、ヘラはユウキから見て左、ゼウスは右へと別れて攻撃を避けた。しかしユウキは着地と同時に地を蹴り左へ跳んでヘラを追撃する。左の神機を横薙ぎに外から振るが、ヘラは羽虫を振り払う様な動作で神機の軌道を逸らす。その間にゼウスがレーザーを撃ち、ユウキのすぐ後ろまで来ていた。

 

  『ガァンッ!!』

 

 身体を右に捻り、右の神機で装甲を展開してレーザーを防ぐ。しかし高密度に収束されたレーザーを受け、ヘラの時と同様に反対側の手も軽く火傷した。

 しかしユウキは止まる事なく、右の神機で防御したついでにインパルス・エッジを撃ってヘラとの距離を詰めると、身体を捻った反動を利用して左足でヘラの側頭部に回し蹴りを入れてヘラを蹴っ飛ばした。すかさずゼウスが体当たりを仕掛けてきたが、ヘラを蹴り飛ばした勢いを再度利用し、体を寝かせながら回転して、左の神機を振り下ろす。すると刃先がゼウスの王冠を捉え、そこを軸しにしてユウキはゼウスの上を飛び越えた。だが捉えたのが切っ先だったせいか、あまりゼウスにダメージは入らなかったようだった。

 ユウキは着地と同時に蹴っ飛ばしたヘラの元へと飛びかかる。対して体制を立て直したヘラが連続で掌から火球を投げつける。ユウキは右へ左と避けながら一気にヘラの元への近づく。しかしユウキが眼前に近づいたところでヘラが炎を纏った手刀を繰り出してきた。それをジャンプで躱し、右の神機を振り上げる。

 

  『キュラァッ!!』

 

 しかし後ろからゼウスのレーザーが飛んできた。ユウキは攻撃を中断して、右足でヘラの顔面を蹴って離れる。そして身体を捻ってレーザーを躱し、両手の神機を銃形態に変形して2体のアラガミに銃口を向ける。

 

  『『バンッ!!』』

 

 両手の神機から狙撃弾が発射され、ゼウスとヘラの頭部を撃ち抜いて結合崩壊させる。

 

  『キュラァァァアッ!!』『グォォォオッ!!』

 

 2体のアラガミは怒りで活性化する。ユウキの着地の瞬間を狙ってヘラは炎を纏って突進し、ゼウスは上空からレーザーを撃ってきた。ユウキは何時もは逆手に持っている左の神機を順手に持ち替えながら、右の神機を振り下ろす。すると神機の刀身が後頭部と背中を捉え、ユウキの人並み外れた腕力でヘラを地面に叩きつけた。するとその勢いのまま回転し、今度は左の神機をヘラの背中に神機を突き刺した。

 さらに左の神機で地を削りながら振り上げてヘラを大きく上空へと投げ飛ばす。するとゼウスのレーザーがヘラを身体や翼手に直撃した。レーザーに毒が含まれていたのか、空中で弱っていく。

 その間にゼウスが全速力でユウキに突っ込んできた。ユウキはそれを横に逸れて躱すと、ゼウスが座り込む。その瞬間、広範囲に毒々しい色の煙を撒き散らす。それに気づいたユウキは即座に跳び上がり、回避と同時に未だ空中で弱っているヘラに向かっていく。

 ユウキは左の神機を逆手持ち替え、両腕を外から大きく横に振ってヘラに斬りかかると、ヘラはコアごと3つに斬り分けられた。

 

  『キュラァアッ!!』

 

「…」

 

 空中で逃げらずに隙だらけのユウキに向かってレーザーが放たれる。対してユウキは左の神機を高速で回転させつつなげつけると、レーザーを弾きながらが軌道を変え、ゼウスのスカートに突き刺さる。

 

  『キュラァッ?!』

 

 予想外の反撃を受けたゼウスは動きを止める。その間にユウキは穿顎を展開して一気にゼウスに接近する。

 

  『グジャッ!!』

 

 ゼウスの右腕を捕食してバーストする。着地の瞬間、右足を後ろに振り上げてゼウスの背中を蹴り上げる。ゼウスが空中に跳ね上げられると、ユウキも続いて跳び上がってゼウスを追う。

 ユウキはゼウスに突き刺さった神機を左手で掴んで振り抜き、スカートを破壊する。そのまま右の神機を振り下ろしてゼウスの胴体を斬り裂いて、叩き落とした。そして後方にインパルス・エッジを発射し、急降下するとゼウスの背中に向かって膝蹴りを叩き込む。

 

  『キュラァッ?!』

 

 ゼウスは強烈な痛みで悲鳴のような声を上げて動きを止める。その間にユウキはゆっくりと立ち上がり、ゼウスの背中踏み付けて逃さないようにする。

 

「…どうする?」

 

「…え?」

 

 ゼウスの背中を踏み付けたまま、ユウキが戦意を失っていたユリに何かを問いかけるが、何のことを言っているのか意味が分からずに聞き返す。

 

「お前が殺らないなら、俺が殺る…」

 

 因縁があるのだからどうしたいかは自分で決めろと言い、ユウキはゼウスを拘束したままユリの返事を待っている。しばらく放心してへたり込んでいたが、ユリはゆっくりと側に落としていた神機を掴んで立ち上がり、フラフラとゼウスの元まで歩いていく。踏み付けられてこちらを睨むゼウスを見下しながらユリは膝たちになって両手に神機を握って神機を振り上げる。

 

「う"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"っ!!!!」

 

 絶叫と共に神機を振り下ろすと、ポイズンピックがゼウスの後頭部から額の目を切り裂いた。そのまま頭部に格納されたコアにダメージが届きゼウスは程なく霧散していった。

 

「ふっ…うっ…うぅぅぅ…」

 

 ようやく仇を討ったのに、ユリの胸中が晴れる事も達成感も無かった。その代わりに自身の早とちりでとんでもない事をしでかした後悔と、仇を討ったのに誰一人と大切な人が帰ってこない寂しさだった。虚しさと罪悪感に耐えられず、ユリはその場に座り込み、顔を手で隠しながら静かに泣いていた。

 

「…気が済んだら帰るぞ」

 

 ユリは人前にも関わらず、静かに泣き続ける。そんな様子を見て、ユウキはユリが泣き止むのを何も言わずに待ち続けていた。

 

To be continued




あとがき
 と言うわけでユリの仇は救世主の帰還とのコラボアラガミ、ゼウスとヘラでした。ポセイドンも研究室の外で逃げる人達を爆殺したりとやりたい放題でしたが、今回ユウキとユリに討ち取られました。
 ユリがユウキを殺させる展開にする際、黒い翼を背中に生やして人型のアラガミがいないのでどうしようかと考えた時に『別に1体でなくても良いんじゃね?』と思った結果、ヘラの後ろでゼウスが羽を広げた所を見たと、強引な展開にしました。次で新人教育編も終わりになります。
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