-ヘリ内部-
極東支部を出てからかなりの時間が経った。その間、ユウキは出発前に仕立て直したフェンリルのエンブレムが入ったスーツ風の戦闘服に着替えてヘリのベンチに座って足を組んでいた。
(見えてきたか…)
ヘリの窓から外を見ると、そこには城を思わせる建物を中心に防壁に囲まれた巨大な都市が見えてきた。
「おぉ〜お!!凄い大っきい!!お城みたい!!」
「落ち着きなさいライラ。みっともないわよ」
小さな子どもの様に窓にへばりつき、本部の巨大さに興奮するライラを見たシェリーは静かにするように言った。だがライラは『でもでもホントに大っきいよ?!シェリーも見てみなよ!!』と返して余計にはしゃぐ。
しばらくするとヘリは地上に降り立った。ペイラーがまずヘリから降りる。その後ユウキとユリが続いて降りると、そこにはスーツを着た小太りな男が案内役として立っていた。
「ようこそ、お待ちしておりました榊支部長。遠路はるばる、御足労いただきありがとうございます。神機使いの『お2人』もよくおいでくださりました」
「いえ…こちらこそ、本部の大きな任務に参加させていただき光栄です。短い間ですが、部下共々よろしくお願いいたします」
男は極東支部の面々を笑顔で出迎え、ペイラーに向かって右手を差し出した。ペイラーも自らの手を差し出し、挨拶をしながら握手をする。続いて今度はユウキと握手を交わし、最後にユリとも握手する。
しかしシェリーとライラの事は見えていないせいで、2人とは目も合わせる事なくスルーした。それを良い事に、ライラは案内人の目の前を横切ってから、侵入経路を探すべく本部に向かって走っていった。
「さて、長旅でさぞお疲れのところ申し訳無いのですが、本日中に作戦の説明をさせていただく手はずになっております。神機使いのお2人方には会議室でお待ちいただく事になります。榊支部長は1度別室にご案内いたしますので、私の後に着いてきてください」
「承知しました」
『では、こちらへ』と案内人は3人の先を歩き、ペイラー達はその後に続く。門の前まで誘導されると、数秒後にゆっくりと大きな門が開いてフェンリル本部への入口が開いた。
「それでは参りましょう」
大きな門を潜り、本部への扉がひとりでに開くと、遂にフェンリル本部の中に入った。
-フェンリル本部-
外見は変わった城のような見た目だったが、内装は正反対に近代的な様相をしていた。
しかも外から見ても巨大だったが、案の定内部もかなり広い。今の所はまっすぐ廊下を進んでいるだけだが、その間にも数え切れない数の扉と横道を目にしていた。
(シェリー…適当な所で分かれろ)
(分かりました)
(ライラと合流するかは任せるが…何かあったらアイツの面倒は頼む)
(…!!ッええ)
テキトーなタイミングでユウキは感応波を使ってシェリーに本部の意向を探らせる為に指示を送り、さらにライラの事も任せる。普段ユウキから何かを頼まれる事がないせいか、頼りにされていると分かったシェリーははりきってユウキ達と別れた。
そしてそのまま案内人についていくと、男は突き当りにある大部屋の前で立ち止まった。
「お2人の待機室はこちらです。既に何人かは到着しておりますゆえ、雑談でもしながら時間になるまでお待ちください」
「ええ、ありがとうございます」
ユウキとユリは待機部屋代わりの会議室に連れてこられた。ユウキが礼を言うと、案内人は会釈をする。そして今度は『では榊支部長はこちらへ』と言ってペイラーを別室に案内していった。
それを見送った後、ユウキはスイッチを押して会議室の扉を開け、ユリと一緒に部屋に入る。するとそこには既に6人の神機使いが集まっていた。
その中の1人、褐色肌の大男が『おぉ?噂の英雄様の登場…か?』と、興奮した様子でユウキ達を見たが、その途中で気の抜けた様な声色に変わっていった。
「ケッ!!『極東最強の男』が来ると聞いてどんな奴かと期待したが…なんでぇ…弱っちそうな女男じゃねぇか…」
「ッ?!」
どうやら大男は極東最強と言う肩書から、筋骨隆々でさぞ逞しい男が来ると思っていた様だ。だがその期待に反して、やってきたのは細身で女にしか見えない優男と、細っこい小娘だった。
期待はずれも良い所だと、ユウキを小バカにするような目で睨みつけて挑発すると、ユリの目つきが険しくなる。
「こんなひ弱なオカマ野郎が最強なはずねぇ。どうせ逃げ回って仲間を囮にとかにして戦果を稼いできたんだろ?ええ?違うか?お嬢ちゃん?」
「貴方っ!!ユウキさんを侮じょッ?!」
大男は見た目だけで能力を判断し、さらには女顔である事を理由にオカマと呼び、女扱いをしてユウキを下に見て侮辱する。
そのやり取りを隣で見ていたユリは怒りを顕にするが、ユウキは右手をユリの目の前に軽く上げ、ユリの発言を遮って黙らせる。
「相手にしなくて良い。この手の奴には何を言っても無駄だ…」
見た目だけで力量を判断し、相手を下に見るのは自身の能力に絶対の自信があるが故に相手を下に見るからか、あるいは本当に力量差を測れないバカかの2択だ。
合同任務に参加する実力者ならば前者なのだろうと判断し、明確に、かつ穏便に実力を今すぐに示す手もない為、この場で騒ぎを起こすのは時間の無駄だと考えてユウキはユリに手を引く様に伝えた。
どうせ合同任務で互いの実力を知る事になる。そうなれば多少なりとも互いの印象は変わり態度に出るだろうと考え、今は放っておけと言ったのだが、言葉足らずなユウキの言い方は大男の事を後者の様なバカだ言っている様にも聞こえたため、大男の額に青筋が浮かび上がる。
「スカした面しやがって…こんな細い腕で、テメェに何がッ?!」
小バカにされたと思った大男が遂にキレた。圧の籠もった声色と目付きでユウキを正面から睨む。しかし威圧しているにも関わらず、何とも思ってないかのように涼しい顔のユウキの様子に苛立ってきているのか、大男はユリを止める為に上げた右手首を強引に掴む。
このまま引き込んで倒して床に叩きつけてやろうとユウキの腕を引くが、その腕はピクリとも動かなかった。
(う、動かねぇ…?!)
それなりに力を入れているはずなのに、目の前の細い腕がまったく動かない現実を目の当たりにして、男は目を見開いて、冷や汗をかいて驚いていた。
「もう良いか?」
そう言うとフリーな左手で男の手首を掴むと軽い動作でユウキを掴んでいた手を外す。そのまま反撃してくる様子もなかったので、ユリを連れてその場を離れ、ユウキと共に空いているところで待機しようとすると、2人の男女が近づいてきた。
「災難だったな。来て早々、喧嘩を売られるなんて」
金髪の青年がユウキに話しかけてきたが、話しかけられた当の本人は少し驚き、返事をせずに2人を見ていた。
「おっと、まだ名乗ってなかったな。俺はドイツ支部から来たケビン・ケーニッヒだ」
金髪の男は自らを『ケビン・ケーニッヒ』と名乗ると、その名前にユウキの眉がピクリと反応する。
「ケーニッヒ…それにドイツ支部からの派遣と言う事は、もしやアネットさんのご家族?」
「そ。極東支部に赴任してるアネット・ケーニッヒは俺の妹なんだ」
どうやらケビン・ケーニッヒはアネットと兄妹らしい。ユウキは少し驚きながらケビンを見てみる。顔は男女で差があるのは当然だが、ストレートな金髪や赤い目等、身体的特徴はアネットと同じだった。そんな事を考えている間に、ケビンは右手を差し出してきた。所謂握手と言うやつだ。ユウキは自らも右手を差し出して素直に握手に応じだ。
その後、『そんでこっちは…』とケビンは隣に立っていた女性を見て、挨拶するように促した。
「私はイタリア支部から派遣されました、フロリア・カルーゾと言います。どうぞよろしくお願いします。ユウキさんの事は弟からよく聞かされていましたので、会えるのが楽しみでしたの」
そう言って右手を差し出すのは癖のある長い黒髪に朱色の瞳、大人しそうな女性が挨拶と同時に会釈をする。ユウキはまた握手に応じる。その際、また聞き覚えのあるファミリーネームにユウキは1人の後輩の事を思い出した。
「カルーゾ…弟…?そうか、フェデリコ君のお姉さんでしたか。お初にお目にかかります。私は神裂ユウキと言います。フェデリコ君にはいつも助けてもらっています」
「まあ、本当ですか?あの子、ちょっと優柔不断な所があるので、戦場で迅速な判断が出来るか心配していたのですが、その口振りから察するにうまくやっているようですね」
「ええ。最初の頃は仰るとおり、判断に時間をかけていましたが、今では小隊長を任される事もあって、随分立派に成長していますよ」
握手を終えると、フェデリコが極東支部で活躍できているのか心配しているようで、弟の仕事ぶりを尋ねてきたが、ユウキからフェデリコの近況を聞いた事で安心したのか、フロリアは頬に手を当てて嫋やかに微笑む。
「なぁ、アネットはどうしてるんだ?怪我とかしてないよな?」
フロリアの弟、フェデリコの話が出ると、今度はケビンがアネットの近況を聞きたがる。
「はい、前線に立ってアラガミをなぎ倒していますよ。始めは小さな怪我をいくつも作って帰って来てましたが、今では無傷で帰ってこられるので前線を任せられる程の活躍を見せていますよ」
「そうか、元気そうで良かった。それはそうとアンタ、俺の可愛いアネットに手を出してないだろうな?」
「出してませんよ…私はあくまでも戦術指南をしているだけです。指導を受ける側とする側、と言う関係なだけです」
アネットの活躍を話すと、怪我をしたと聞いて青くなったり、現場で活躍して成果を挙げていると聞いて喜んだりとケビンの表情はコロコロと変わる。しかし、ユウキがアネットに必要以上に近づいていないか聞いてくる時は目をかっ開いて威嚇するような顔でユウキに凄んでみせた。
妹を持つ兄とは皆こんな感じなのだろうか?妹絡みになるとコウタと同じ様な思考になる辺り、ケビンもコウタ同様シスコンらしい。自分には親兄弟が居ない為分からないが、妹を持つ者が皆こんな感じでは兄とはシスコンであることが当たり前なのかと疑問に思いながらユウキはアネットとはなにも無いと弁明する。
「じ、じゃあ他の男は?!あんなに可愛いんだから世の男どもが放っておく訳ないじゃないか!!」
「確かに愛らしい娘だとは思いますが…今の所はそのような話は耳に入ってきていませんね」
ならばほかに悪い虫が寄ってきていないかとユウキの肩を掴んでガクガクと揺さぶる。対してユウキは無理矢理頭をシェイクされているにも関わらず、特に普段と変わりない様子でアネットに男の影が無い事を話していく。そんな中、思い出した様に『ああ、そうだ』と言うと、ケビンの両腕を掴んで肩から離させると、ユウキは1度ユリに視線を向け、挨拶するぞと合図を送ると再び2人の方を見る。
「紹介が遅れました。彼女は天草ユリ。今回の作戦に参加する私の部下です」
「は、はじめまして。天草ユリといいます」
ユウキに紹介されてユリがいつかの様に上体が90°になるまで勢いよくお辞儀をする。未だに初対面の人と話すのは緊張するのか、上擦った声で挨拶する。頭を上げたあと、フロリアが自己紹介してから握手をして、その後ケビンも同じように動いて、ユウキ達にまた話しかけてきた。
「見ての通り、既に何人かは到着している。一通り挨拶してきたらどうだい?」
「ええ、そうします。それではまた後ほど」
ユウキとユリがお辞儀をしてその場を離れる。その時、『おう、またな』と『はい、また後ほど』と、ケビンとフロリアが声をかける。
そして、一番近くに居た左が金、右が黒目のオッドアイで、黒髪なのに襟足の毛先が白い青年、その傍らに居る長い茶髪をまとめた女性の元に挨拶に行く。
「はじめまして、極東支部から派遣された神裂ユウキといいます。本作戦の間、よろしくお願いいたします」
「お、同じく天草ユリです。よろしくお願いします」
ユウキから名乗ると、続いてユリが自己紹介する。対してオッドアイの青年はどこか怪訝そうな顔になった。
「ああ…俺はシルバだ。よろしく頼む」
「もぅ、シルバったら…ごめんね、無愛想な
『ええ、お互いに力を尽くしましょう』と言って、ユウキはまずシルバと握手をして、続いて瑞希とも握手をする。その後ユリが続けて2人と握手すると、瑞希は歳の近い同性との触れ合いに歓喜したのか、握手した手を両手で握ってブンブン振って喜んでいた。
2人に挨拶した後、他の人にも挨拶する旨を伝えて、ユウキとユリはその場を離れる。その2人…正確にはユウキの後ろ姿を瑞希は哀れむ様な目で見ていた。
「…あの子、少し前のシルバ似てる…気がする」
「あ…?そうか?」
「なんて言うか…全部自分の内側で抱え込んで無理してるような…何の光も宿していない、死んでいるみたいな…そんな感じの目だった…」
「…」
さっきまでの険しい顔は何処へやら…瑞希から話しかけられると、少し気の抜けた表情でシルバは返事をした。
しかし、その話の内容は思いの外に重く、シルバにとっても経験した苦い過去を掘り起こす内容だったため、思わず黙り込んでしまった。
「アイツ、周りを異様な程警戒してんのに、そんな素振りもなく普通に接して来やがった。何かしら、他人に言えないもんを抱えてんのかもな」
かつてフェンリルの闇を背負わされ、自身の親友を苦しめた過去に悩むも、誰にも心の内を吐き出す事も出来なかった為に、瑞希が言っていた様な、生きながらに死んでいる目をしていた。
辛かろうが吐き出す事が許されない状況にある者の目をしていたのは、同じ経験をした事があるシルバにはすぐに察しはついた。しかし、シルバや瑞希にはどうしょうもない。ユウキが抱えるものを理解してくれる者が近くに現れる事をシルバと瑞希は願いながら2人の背中を見送る中、ユウキとユリは普通とは違い、黒い腕輪を付けて整った顔立ちをした金髪の青年に話しかけていた。
「はじめまして。私はフェンリル極致化技術開発局、ブラッド隊所属のジュリウス・ヴィスコンティです。お噂はかねがね伺っております」
「極東支部、保守局第一部隊所属神裂ユウキです。以後、よろしくお願いいたします」
「天草ユリです。よろしくお願いします」
話しかけると、先にジュリウスと名乗る青年の方から挨拶してくれた。遅れてユウキが自己紹介がてら握手をして、その後ユリも先と同じように自己紹介を進める。ユリも少し慣れてきたのか、今回は少し力が抜けている様な印象だった。
「それで…私の噂とは?」
「禁忌種を相手に多数の討伐実績、未知の新種への安定した対応力、それからガーランド氏の計画阻止…どれも大きな成果ばかりです。そんな貴方の活躍を耳にし、大衆は『極東の英雄』に憧れ、フェンリル職員に志願する者も増えてきていると聞いています。戦力や補助員の補填もままならない現状を打開出来る可能性があるありがたい話です」
「それは私1人の力ではありませんよ。私はただ目の前の敵を討っただけです。的確にバックアップしてくれる仲間が居たから、そこまでの大きな成果になったのです。仮に、極東の英雄なんて存在が居るのなら、それは極東支部のメンバー全員の事であり、私1人の事を指すものではありません」
自身が極東の英雄などと呼ばれている事実に少し驚きつつも『プロパガンダに利用されているようで癪ですが…』とユウキはかわいた笑みを浮かべながら最後に付け足す。
ジュリウスは『謙虚な人だ』と言ったが、先に言った事はユウキの本心だった。確かにガーランドの計画の要を潰したのはユウキ自身だが、その間居住区を守ったのは防衛班であり、支部を守ったのはその他の神機使い達だ。第一部隊の面々も感応波発生機を破壊したり、その後の復興はサポートスタッフが尽力あっての事だ。なにもかも自分独りで全てこなしてきた訳ではない。ましてや戦闘力の高さで英雄と呼ばれるならば極東支部の神機使いほぼ全員が英雄扱いされてもおかしくないと考えていた。
「私の所属するブラッド隊も、貴方のように、神機使い達を導き、新たな希望となるべく創設された部隊です。もっとも…部隊と言っても隊員は私しかいませんが…」
「部隊…として創設されたのでしょう?それなのに…1人?」
部隊として設立されたのに所属は1人だけ…その理由として考えられそうなものはいくつかある。ジュリウスがワンマンアーミーである事、極東で言うところの第零部隊のように、ジュリウス以外が秘匿されている部隊か、あるいはジュリウス以外全滅したか…この3択がユウキの頭の中を過り、正解を考えながらも部隊に1人しか居ない理由を聞いてみる。
「ブラッドに所属する神機使いは少々特殊な偏食因子の適合者によって構成さています。P66偏食因子…通称、偏食因子ブラッドに適合する神機使いがなかなか見つからないのが主な原因ですね」
「なるほど…適合者自体が見つからないのならば、部隊員が少ないのも納得ですね。それにしても、まったく新しい神機使いか…その実力、この作戦で見せてもらいましょう。では、まだ挨拶して周りますので、後ほど」
「ええ、また後ほど」
ジュリウスに投与された偏食因子『ブラッド』…それを聞いた時、ガーランドが集めていた論文の中にジュリウスの名があった事を思い出す。現状では正規適合者はジュリウスしか居ない為、部隊に1人しか居ないのも納得だった。
話を鵜呑みにもするならば特に怪しげな理由でもなさそうだ。それよりも感応波を戦闘利用した神機使い、その戦い方にユウキ自身をさらに強くするヒントがありそうだ。実戦でその力を見れると期待してユウキはジュリウスと別れると、最後に先程喧嘩を吹っかけてきた大男の元にやってきた。
「先程以来ですね。私は神裂ユウキです。極東支部から派遣されました。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「…」
ユウキが挨拶と同時に右手を差し出すが、大男は無視を決め込む。そして先の事もあり、ユリも口を利くことなく大男を睨みつける。握手は無理だと感じて、ユウキは手を引っ込めるが、それに続いてまた話しかける。
「せめてお名前だけでも…」
「女男になんぞ名乗る名前はねぇよ」
ユウキは微笑みながら名前を尋ねるが、男はそんな気は無いようだ。そっぽ向きながら右手でシッシとユウキ達を払い除ける動作をして離れるように伝える。
「お名前を」
しかし、ユウキの圧を感じる笑みを大男に向け続ける。最後まで名乗らずに済ませるつもりだったが、その不快な笑みを向けられ続けて嫌気がさしたのか、大男が折れて舌打ちの後に自身の名前を言う。
「チッ…ジャック・ダルストン。オセアニアから来た。ほれ、これでいいか?」
大男が自らをジャックと名乗った直後、待機室の扉が突然開いた。
「おっ?皆様方お揃いなようだな」
そこには手に鎖を持った男性フェンリル職員と、その鎖に繋がれた首輪をしながらも不敵な笑みを浮かべた癖のある黒髪と青い目をした神機使いが立っていた。
「なんだ…アイツは?腕輪を手錠に改造されてやがる」
しかし、ジャックが気付いたようにその神機使いの左腕にも腕輪に似たような物が付けられ、溶接で追加部品が取り付けられた従来の腕輪と繋がれ拘束されていた。
件の男は不敵な笑みのままサッと辺りを見回すと、小さくため息をついて傍らに居たフェンリル職員…監視者に話しかける。
「なぁ、やっぱ身なりは綺麗にしてくるべきだったンじゃねぇか?連中、それなりに良いモン着てるぜ?ソレに対して俺はボロ…こう言う所で支部の品格っつーか意識の差?ってのが出てンじゃねぇの?」
「うるさい。貴様のようなやつにジャケットを新調してやっただけでもありがたいと思え」
監視者と男の言うとおり、よく見るとボトムやインナーは所々解れて擦り切りれたりしていたが、ジャケットは真新しい物を着ていた。アンバランスな身なりのせいで見すぼらしさを覚える外見と異様な出で立ちにその場に居た全員が男に注目する。
(へぇ…)
そんな中、男とユウキと目が合った。その瞬間、何かしら感じ取った男は首輪に繋がれた鎖が引っ張られないように掴んでからユウキの元に歩き始める。
「おい!!勝手に行動するな!!」
監視者の警告に聞く耳も持たずに、そのままユウキの目の前に来る。そして男から見て5cm程高低いユウキの目線を合わせるためにほんの少しかがむ。
「よぉ、ニイちゃん。名前、聞かせてくンねぇか?」
「…神裂ユウキです。よろしく」
数多く居る神機使い達、さらには自分の周りには数人居るにも関わらず、真っ先に自分のところに来て他の神機使いには目もくれず、話しかける時も不敵な笑みを崩さない。その雰囲気以外にも何処か危険な空気を感じ取り、ユウキは警戒を強めつつ名を名乗る。
「そうかい、アンタが…俺はグラム。グラム・エスパーダだ。見ての通り、フェンリルっつー組織に囚われた身だ。こんな俺を哀れに思うなら仲良くしてくれや…」
そう言ってグラムは繋がれた両手を上げて手錠と化した腕輪を見せつける。困った様な声色に表情、そして自身を哀れと言う辺り、不当に捕らえられたフェンリルの被害者であると言いたいようだが、側に居た監視者が声を荒らげて止めに入る。
「黙れ犯罪者め!!大罪を犯した当然の報いだ!!」
「へぇーい…」
「…」
監視者によってグラムが大罪人である事が暴露されたが、その場に居た者はグラムの雰囲気から危険な人物だと直感で感じ取っていたため、妙に納得していた。対して当の本人は気にした様子もなく、気の抜ける様な返事をして、監視者に連れられてその場から離れた。
そんな中、再び扉が開くと、ペイラーを含めた8人とそこそこな人数の姿があった。青みがかった長い銀髪に長身の男性、白衣を羽織り眼鏡かけた金髪の男性、腕輪を付けて薄紫の長い髪をしたクールな女性、腕輪を付けて眼鏡をかけた短い金髪の男性、数多くの勲章を付けた軍服を着た太った男、白コートにミニスカートの長い赤髪の女性、その女性に押されている車椅子に座り、喪服の様な黒い服を着た長い金髪の細身の女性、それからペイラー…本部と支部のトップ達が一堂に会する状況を目の当たりにして、遂に作戦が始まるのだと、神機使いの表情が引き締まる。
だが、ユウキは相変わらず無表情、シルバは面倒くさそうな表情、グラムは不敵な笑みを浮かべたままだった。3人は大きな作戦にも関わらず、余裕さえ感じる雰囲気で入ってきた重鎮達を眺めていた。
「さて皆さん、よく来てくださいました。私は本部長、『アルベルト・
「本部より本作戦に参加する『リゼ・スローネ・フェイン』です。よろしくおねがいします」
銀髪の男性、アルベルトが挨拶とクールな女性神機使いリゼの紹介をすると、彼女は前に出てから敬礼と同時に自己紹介をする。
「リゼさんは席に…皆さんも、お近くの席にお座りください」
アルベルトの一声でその場にいた者は各々近くの椅子に座り始めたので、ユウキとユリも近くの席に座る。しかしユウキの隣の席が1つだけ空いている。何故かと思っていると、アルベルトが話を進め始めた。
「それでは、今回の任務概要を簡潔ではありますが説明させていただきます」
「待ってくれよ本部長。確か…ロシア支部からだったか?そこからもう1人来るはずだろ?」
アルベルトが作戦の概要を説明しようとするが、ジャックがそれを遮る。聞いた話だとあと1人、ロシア支部から派遣された神機使いがまだ来ていないが、本当に作戦を始める気か問いかける。するとアルベルトは小さく笑い、扉の方を見る。
「心配ありません。『彼女』も既に到着し、こちらに向かっています。そろそろ…」
ロシア支部からの派遣で女性の神機使い…それを聞いたユウキは『まさか…』そう思っているとまた扉が開く。そこには見知った顔の女性が立っていた。そのまま彼女は部屋に入ると皆の前に立ち敬礼する。
「ロシア支部から派遣されました、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします」
見知った女性、アリサは面識の無い者に向けて名を名乗る。その後、アルベルトに促されてアリサはヒールの音を響かせて空席になっていたユウキの隣へと歩きだす。
そしてユウキの横まで来ると2人の目があった。その目には、この間まで失っていたとは思えない程に強い自信が宿っていた。その為か、何処か余裕さえ感じる表情で、ユウキへと穏やかに微笑みかける。
「お久しぶりです。ユウ」
To be continued
あとがき
クソ忙しい仕事がようやく落ち着いたぜ…
そんなこんなで久々の更新、各支部の最強戦力であるフェデリコの姉とアネットの兄が登場し、危ない神機使いが現れて、ピクニック隊長ことジュリウスに救世主の帰還からシルバと瑞希、支部長となったエドガーにその他オリジナルのキャラクター、そしてアリサとの再開等々、色々と出てきてお祭り状態となる予定ですが、何とか纏められるように頑張らなくては…
以外本小説でのシルバと瑞希の設定です
シルバ
使用神機
刀身:レーヴァテイン・ツヴァイB
銃身:レーヴァテイン・ツヴァイA
装甲:レーヴァテイン・ツヴァイS
漫画版GODEATER-救世主の帰還-に登場したアメリカ支部チームαに所属する青年。プロジェクトメサイアの被検体であり、胸に十字傷を刻まれた13人の神機使い、クルセイダーズの一員だった。その恩恵として、通常のゴッドイーターを遥かに凌ぐポテンシャルを秘める。
元々は究極の神機使い、
神機は遠近対応の新型に見えるが、変形は正規の神機とは違い、現行神機のプロトタイプから派生したアメリカ支部独自の神機を使用している。
瑞月
使用神機
刀身:プロトタイプ派生型・ブーメラン
銃身:プロトタイプ派生型・ブーメラン
装甲:無し
漫画版GODEATER-救世主の帰還-に登場したアメリカ支部チームαに所属する少女。困っている人を見過ごせないお人好し。シルバが無茶ばかりするので心配していたせいで周囲にはシルバに気があると思われている。シルバがチームαのリーダーになってからは互いに最も信頼する
周囲にむさ苦しい男共ばかりなせいか、歳が近いユリと握手した時は非常に喜んでいて、この任務中に絶対仲良くなると密かに心に決めている。
神機は遠近対応の新型に見えるが、変形機構は無く、銃付きのブーメランの形をしている。現行神機のプロトタイプから派生したアメリカ支部独自の神機を使用している。