GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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フェンリルの非情な決定と、ついに明らかになるアリサの過去。様々な人間の思惑が動き出す。


mission18 悪夢

 ユウキが特訓を開始してから8日が経った。今日は第一部隊でリンドウの捜索を行う。そのブリーフィングのため、アリサ以外の第一部隊のメンバーは出撃ゲート前に集まっていた。

 しばらく待っているとツバキが来た。いつも持っているボードには厚めの紙束が挟まれている。第一部隊が集まっているのを確認すると今回の任務のブリーフィングが始まる。

 

ツバキ「本日の任務を当該地域のアラガミ一掃に変更する。」

 

 突然任務内容の変更を言い渡された。これはフェンリル、強いて言うなら極東支部側に何かイレギュラーがあったという事なのだろう。

 その後もいつもと変わらぬ調子でツバキが話を続ける。

 

ツバキ「なお検査中だったアリサだが、戦闘に参加できる状態ではないため、入院することになった。しばらくは前線を離れる事になるだろう。」

 

 アリサは錯乱してから約1週間、ほとんど面会謝絶だったのだ。そうなっても不思議はない。

 

ツバキ「最後に…本日をもって神機、及びその適合者であるリンドウは消息不明、除隊として扱われる事となった。以上だ。」

 

 本日をもって除隊扱い。それは今日中にリンドウを見つけなければ今後、基本的に組織側は探す意思を見せないと言うことだ。恐らくこの任務がラストチャンスとなる。そのため、周囲のアラガミを一掃して一気に捜索範囲を拡大し、最後の大捜索を行うのだ。

 が、その決定に異を唱える者がいた。

 

サクヤ「ど、どう言うことですか?!腕輪も神機も…まだ見つかってないのに!」

 

 サクヤだった。リンドウが行方不明になり、真っ先に取り乱した事からも、サクヤにとって大切な人だという事が容易に想像できる。だからこそ、早すぎる捜索の打ち切りの決定について納得ができないのだ。

 しかし、ツバキが返した言葉は無慈悲なものだった。

 

ツバキ「上層部の決定だ。それに、腕輪のビーコン、生体信号共に消失した事が確認された。未確認アラガミの活動が活発化している状況で生きているかも分からない人間を探す余裕は無い!」

 

 『信じられない』と言った表情でサクヤはツバキを見る。しかし、それを無視してヒールの音を響かせてエントランスを出た。ソーマもその事を了承したと言った雰囲気を出し、無言のままエレベーターに乗り込んだ。

 ユウキとコウタは、この決定を受け入れられないでいる一方で、これが最後の捜索になると焦りを感じていた。

 するとサクヤが取り乱した様子でユウキとコウタに迫る。

 

サクヤ「こんなに早く捜索が打ち切られるなんてこんなのどう考えてもおかしいわ!!襲われた敵も場所も明らかなのに!なんで捜索されないの!!!」

 

 いつもの冷静で頼れるお姉さんと言った雰囲気は欠片も感じられなく、ヒステリックに叫んでいる。

 だが、極東支部で1、2を争う戦力であるリンドウが行方不明になった事に対してこの早すぎる捜索の打ち切り、何か怪しさを感じるが正直ユウキやコウタにその事を言われてもどうしようもない。

 言いたいことを言って少し落ち着いたのかハッとした表情になる。

 

サクヤ「あ…ごめん…2人に当たっても仕方ないよね…少し頭を冷やしてくる…任務までには戻ってくるから…!」

 

 口元を手で押さえて目尻に涙を浮かべ、涙声になってエレベーターに向かって小走りで去って行った。

 

コウタ「サクヤさん…相当参ってるみたいだね…」

 

ユウキ「…うん…」

 

 あの様子を見れば一目瞭然と言ったところか。明らかに精神的な動揺は他の極東支部の面々よりも大きいことは明白だ。

 

コウタ「ユウキを含めて、皆よくやったと思うよ。」

 

ユウキ「どうだろう…俺がやったことは…正しかったのかな…?」

 

コウタ「分からない。でもあそこで撤退したから、俺たちこうして生きているんだし、リンドウさんの捜索隊も早い段階で結成できたんだと思う。」

 

 コウタの言っていることは事実であるが、それが正しい選択だったのかは誰にも分からない。あのままソーマとユウキの役目を入れ換えて、ソーマに瓦礫を破壊してもらうなど、リンドウを助ける方法が何かあったのではないか?どうしてもそう考えてしまう。

 しかし、実際にはユウキコウタは新種に対しては無力とも言えるので、リンドウはソーマに退路を開くように指示したのだ。

 

コウタ「あの時のアリサ…急にどうしたんだよ…」

 

ユウキ「急に様子がおかしくなったし…分からないことだらけだ…」

 

 その事を聞いて、アリサが錯乱した原因とも言えるものを見たような気がした事を思い出した。恐らくアリサの過去に繋がるものだと感じたので、今は黙っておく事にした。

 

コウタ「そっか…あ、アリサの事なんだけど…同じ新型ってこともあるし、ユウキが傍に居た方がいいと思う。」

 

ユウキ「…そんなものかな?」

 

コウタ「今までアリサがユウキ以外とちゃんと話してるところ見たこと無いし…多少心を開いてると思うんだ。」

 

 極東支部の面々と言い合いや口喧嘩、反発はしていたがきちんと会話をしていたのはユウキに対してだけだった。無意識に新型という親近感があったのかユウキとは会話になっていた。

 

コウタ「俺、サクヤさんの様子見てくるよ!」

 

ユウキ「うん、お願い。」

 

 そう言ってコウタはエレベーターに向かって走って行ったので、その後にユウキは病室に向かうことにした。

 -ベテラン区画-

 

 任務内容の変更があったため、出撃までの準備時間が与えられた。が、第一部隊はいつも任務内容が変更される可能性も含めて準備していたので、特にやる事もない。そのため、各々好きなように過ごしている。

 ソーマはベテラン区画のエレベーターホールで缶ジュースを飲んでいた。するとどこからか話し声が聞こえてきた。

 

神機使い1「おい...聞いたか?リンドウさんのこと…」

 

神機使い2「ああ…またソーマのチームから殉職者か…今度はリンドウさんとか…洒落になんねえぞ…」

 

神機使い1「おいバカ…!聞こえるぞ…!」

 

 どうやらソーマがいる事に気づいて言っているようだ。

 

神機使い2「知らねーよ。それにあの自称死神の人形野郎もいたしな…リンドウさんが不憫だよ…」

 

ソーマ「…クソッ…!」

 

  『ミシッ』

 

 気がつかないうちに缶を握る手に力が入る。『自分といると皆死ぬ』、『また守れなかった』と自責や後悔といった感情が渦巻いている。

 するとエレベーターが開いて中からコウタが出てきた。

 

コウタ「あ、ソーマ。サクヤさん部屋にいる?」

 

ソーマ「…知らん。」

 

コウタ「そっか…任務までには戻れよ。」

 

ソーマ「…余計なお世話だ。さっさと行け。」

 

 短い会話をしてソーマとコウタは別れた。

 

コウタ(可能性があるとしたら…ツバキさんのところか支部長のところかな?)

 

 サクヤが自室に居ないとすると、ツバキのところに今回の事で異議を唱えに行ったか、支部長のところに直談判しに行った可能性が高いだろう。そう考えて再びエレベーターに乗って役員区画に向かう。

 役員区画に着いたらサクヤとツバキの話し声が聞こえた。

 

サクヤ「こんなのおかしいですよ!」

 

ツバキ「何度も言わせるな。上層部の決定である以上、私にそんなことを言ってもどうしようもない!それが分からない訳でもないだろう?」

 

 話すというより、サクヤが一方的に捲し立てているように見える。

 

サクヤ「ツバキさんはこのままでいいんですか!?リンドウがこんな訳の分からない対応のせいで居なくなるなんて!!」

 

 一瞬ツバキの眉がピクリと動いた。どうやら今の発言で怒りに触れたのか、『いいわけがない』という押さえていた感情が暴走しだしたのかは分からないが、少なくともツバキの地雷には触れたようだ。

 しかし、今のサクヤにそんなことに気づく余裕もなく、このままでは無自覚に煽るような事を言いかねない。エレベーターから降りたコウタが慌てて2人の仲裁に入る。

 

コウタ「サクヤさん!上層部の決定ならツバキさんに言ってもしょうがないよ!少し落ち着いて!」

 

サクヤ「邪魔しないで!!コウタ!」

 

ツバキ「藤木、すまないが後を頼む。」

 

コウタ「は、はい!」

 

 そう言ってツバキは支部長室に入っていった。

 

サクヤ「何で…邪魔したの…!?」

 

 サクヤが恨めしげにコウタを睨む。それに気圧されながらもコウタが反論する。

 

コウタ「確かにこのフェンリルの対応はおかしいですけど…でもそれって、最悪の可能性ですけど、リンドウさんはフェンリル側に不利益な存在だから消されたって可能性もある訳じゃないですか!?」

 

 そう言われてようやく我に返る。思えばリンドウはいつも危険なことをするときは誰にも言わなかった。周囲を危険から守るため、本当に危険な時は1人で動いていた。リンドウの性格を考えると、不意にフェンリルに不利益な情報を知ったとしても、周りに被害が出ないようそれを隠すだろう。そんな中『偶然』ミッションで行方がわからなくなれば、それをいいことに捜索を早期打ち切り何て事もやりかねない。

 最悪、フェンリルという組織を相手にしなければならなくなる。その事実がサクヤを現実に引き戻した。

 

サクヤ「…ごめん…少し…1人にして…」

 

 そう言うとサクヤは自室に戻っていった。

 

 -病室-

 

 ユウキはアリサの様子を見に病室に来ていた。面会謝絶のはずだが、ルミコが病室に入れてくれたのだ。ルミコ曰く、あの大車という男は相当怪しいらしい。薬学に関しての知識や技術は確かにすごいのだが、その好評価を様々な要因がぶち壊しているのだ。

 まず、見た目が医者ではないとのことだ。ルミコも医療班らしからぬ格好をしているが、それでも清潔感には気を使っている。だが大車は髭を剃らず、ボサボサの長髪をそのまま束ねて汚いバンダナを巻いている。纏っている白衣も、ヨレヨレで少し汚れたままとなっている。『これで清潔感があるだなんて言うやつがいたらどんなやつか見てみたい』とルミコは言っていた。

 次に病室内でたばこを吸うということだ。医者として、非喫煙者の健康を害するような事は御法度であるはず。しかし、あの男はそんな事お構い無しと言った様子だったとのことだ。

 最後に、女性社員をいやらしい目で見ているとのことだ。ルミコとしてはこのセクハラが一番反発する理由らしい。そんなことを聞きながらユウキはアリサのお見舞いをする。ルミコは気を利かせて別室に移動してくれた。ちなみに大車が来たときには事前に教えてくれるそうだ。

 そんなやり取りがあり、今病室にはユウキとアリサの2人だけとなっている。ルミコのサポートの代償とまでは言わないが、愚痴を聞いた事で少し忘れていた不思議な感覚の事を思い出す。

 

ユウキ(そう言えば…アリサの手を握ったらあの現象が起こったんだよな…)

 

 先日アリサの手に触れたときボンヤリとだが、自分の知らない景色や感情が流れてきた。恐らくアリサの過去に直結するものか、或いは過去そのものだろうとユウキは結論付けた。これを利用すれば何故アリサが暴走したのか分かるかも知れない。

 しかし、アリサが過去を知られたくない人間だった場合、彼女を傷つける事になる。だが、過去を知る事で彼女の助けになれる可能性が大きく高まる事も事実だ。

 

ユウキ(アリサ…ごめん!!)

 

 結局過去を知る事を選んだ。過去を知られたくないタイプだったら後から殴られでも蹴られでもしようと覚悟を決める。なにより、『ほっといて』と言う言葉を聞いた瞬間から、アリサの事を無視できなくなっていた。

 意を決してアリサの手を握る。すると狙い通り、何かの映像が脳内で再生される。どうやら誰かの一人称視点のようだ。狭い場所の中にいて、隙間から前を覗いている。するとどこからか女性の声が聞こえてきた。

 

女性の声「もういいかい?」

 

少女の声「まあだだよ!」

 

 女性の声が聞こえたと思ったら、今度は自分から幼い少女特有の高い声が出た様な感覚になる。それと同時に『早く来ないかな?』と少し楽しみながら隠れている事が手に取るように分かる。

 

男性の声「もういいかい?」

 

少女の声「まあだだよ!」

 

 今度は男性の声が聞こえてきた。恐らく父親だろう。『パパの声だ!』と心の中で思っている事が分かるからだ。

 

女性の声「もういいかい?」

 

少女の声「もういいよ!」

 

 暫く隙間から様子を見ていると、一組の男女が見えてきた。綺麗に身なりを整えた男性と、アリサをそのまま大人にしたような女性だった。

 『パパとママだ!』と両親を見つけた事を嬉しく思いつつも息を殺して気配を消す。2人がこちらに気付いたのか真っ直向かってくる。『見つかったかな?』と思い、飛び出す準備をする。

 すると、突然両親は明後日の方向を向き、何故か慌てている様子だった。『何だろう?』と思っていると、突如視界が黒い獣に覆われた。

 

  『グチャ!!ベキッ!!ガリ!!』

 

 形容しがたい音が聞こえ、少女は何が起こったのか察しがついた。それと同時に絶望し、思考が止まる。

 

少女の声(パパ…!?ママ…!?やめて…食べないで…)

 

 恐怖で体が固まる。呼吸さえ忘れた様な感覚になる。嫌な音が響く中、両親に手を出さないでと願うが黒い獣は追い打ちをかけるように再び嫌な音をたててもう1人を喰らう。

 

  『ゴキ!!ブチッ!!ズリュッ!!』

 

 まだ満足しないのか、更なる獲物を求める様に黒い獣は辺りを見回す。すると、隙間から黒い顔と目があった。

 

少女の声(いやあぁぁぁ!!やめてぇぇぇ!!)

 

 衝撃的な光景を目にして思わず叫びそうになったが、恐怖や両親を目の前で喰われたショックから言葉を発する事も、その場から動く事も出来ずにただ心の中で叫ぶ事しか出来なかった。

 その後、景色が白く染まり、暫くすると別の風景が見えてきた。極東支部の訓練室と同じ風景のようだったが、間取や傷の着き方が違った。恐らく別の支部だろう。

 そして目の前には見たことのある紅い神機が横たわっていた。アリサが使っている『アヴェンジャー』だ。ここまで来れば今まで見てきたのがアリサの過去だと確信できる。

 そんな事を考えていると、とこかで聞いた事がある声が響く。

 

紳士の声「幼い君は、さぞかし己の無力さを呪っただろう。」

 

 両親を殺された時の事を思い出した。強い恨みと憎しみを胸に宿して神機を握る。

 

アリサ「ぐっ!!!あぐ…くぅ…!」

 

 適合試験で受けた形容しがたい痛みを受け、アリサ呻く。

 

紳士の声「その苦しみに打ち勝てば、親の仇を討つための力を得る事が出来るのだ!」

 

アリサ「う…!!!!ぎっ!!!!あぅ…!」

 

紳士の声「そうだ!戦え!打ち勝て!」

 

アリサ「ああああああああぁぁぁ…」

 

 絶叫と共に再び景色が白くなる。今度は白いカーテンや壁紙が張られているのが見える。恐らく病室だろう。そこでモニターを見てあらゆるアラガミのデータを閲覧している。時折モニターを鏡にしてアリサが映り込む。今とそう大差の無い容姿をしている。割と最近の記憶だろう。

 すると、今度は最近聞いたような男の声が聞こえる。

 

男の声「コイツらが…君たちの敵…アラガミだよ。」

 

アリサ「あら…がみ…?」

 

 酷く眠たい。そんな状態でアラガミの事を教えてもロクに覚えられるとは思えない。男はゆっくりと諭すような口調だったことからも、何をしているか大体察しがつくが、今は何もできないので眠気を堪えて先を見る。

 

男の声「そうだよ…こわぁいこわぁい、アラガミだ。そして最後にコイツが君のパパとママを食べちゃった…アラガミだ…」

 

 モニターにリンドウの姿が映り、アリサの視線が揺れる。この男はリンドウをアラガミとしてアリサに教えていたのだ。いや、これでは教えていると言うより刷り込みや洗脳の類いだ。恐らくこの男がリンドウを殺すように仕向けたのだろう。

 

アリサ「パパ…ママ…」

 

 嘘の情報を刷り込まれ、両親を殺したアラガミを完全にリンドウだと思い込む。すると男は語りかけながらアリサの肩を叩く。

 

男の声「でも…もう君は戦えるだろう?なに、簡単な事さ…コイツに向かって引き金を引けばいいんだ。」

 

アリサ「ひきがねを…ひく…」

 

 この『アラガミ』に向かって引き金を引く。そして殺す。アリサの心が決まる。

 

男の声「そうだよ…こう唱えて引き金を引くんだ…один(アジン)два(ドゥヴァ)три(トゥリー)…」

 

アリサ「…один(アジン)два(ドゥヴァ)три(トゥリー)…」

 

男の声「そうだよ…そう唱えるだけで、君は強い子になれるんだ。」

 

アリサ「…один(アジン)два(ドゥヴァ)три(トゥリー)…」

 

 視界が白く染まる。次に見えたのは病衣を纏ったアリサとその手を握る自分の手だった。どうやら先の現象が終わり、現実に戻ってきたようだ。

 するとアリサが目を覚まして起き上がった。

 

アリサ「何…今の?今、頭の中にあなたの気持ちや過去が流れ込んできて…まさか、あなたにも?」

 

ユウキ「うん。勝手に見て…ごめんなさい。」

 

 ユウキが頭を下げて謝る。真摯な態度で謝罪しているのは、先の現象で感情を共有していたので分かっている。

 

ユウキ「えっと…俺の過去を見たって言ってたけど、どんなのだった?」

 

アリサ「神機使いになる少し前の記憶でした。神裂さんは?」

 

ユウキ「…アリサが神機使いになるきっかけ…ですかね…」

 

 アリサの目が少し大きく見開く、その後に悲しいような、寂しいような、陰りのある表情になり、その時の事を語り始めた。

 

アリサ「あの日のこと、ずっと忘れてた筈だった。パパとママとかくれんぼで遊んでもらうために、近くの建物の中に隠れてたんです。もういいかい?まあだだよ…って…そしたら突然、悲鳴や叫び声が聞こえてきて…」

 

 ユウキは口を挟まずにひたすら聞きに徹していた。

 

アリサ「早く出ていけば良かったのに…私、怖くて動けなくて…パパとママが私を探しに来たけど…唸り声が聞こえて、目の前で…パパとママが!」

 

 目の前で両親をアラガミに喰われれば、幼子は恐怖で動けなくなるのは当然だろう。この状況で出ていけば今度はアリサ自身が喰われかねない。

 

アリサ「私がもっと早く気がついて逃げていれば…2人も…私のせいで…!」

 

ユウキ「それは…アリサのせいじゃないと思う。」

 

 戦場に出る訓練を受け、感覚が鋭くなったゴッドイーターなら察知できなくは無いのだろうが、遊びに来た幼子が視覚以外でアラガミを予め察知しろだなんて無理だとユウキは思った。

 

アリサ「だから、私が新型神機使いの候補者だって聞かされた時は、これでパパとママの仇を討てる、て思ったんです。そう…2人を殺した『あの』アラガミを…!」

 

 そこまで言うと、アリサの脳内でリンドウと黒い顔のアラガミが交錯する。相当強力な暗示なのか、未だにリンドウを仇のアラガミだと思ってしまっているようだ。錯乱し始め、泣きながら頭を抱えてガタガタと震え始めた。

 

ユウキ「アリサ!」

 

 思わず立ち上がったが、どうしたらいいか分からずオロオロと狼狽える。ふと小さい頃に泣いていたとき、抱きしめて落ち着かせてくれた人がいた事を思い出した。

 それと同じようにアリサの手を握りながら抱きしめた。

 

アリサ「…ごめんなさい…自分でも分からないの…」

 

 結局何が真実で、どいつが仇なのかアリサ自身にも分からなくなってしまい、どうしたから言いか分からなくなった。

 

ユウキ(そう言えば…昔泣いているときこうやって抱きしめてくれてたな…)

 

 ユウキはもう二度と会うことの無いであろう人を思い浮かべ、まだ幼い頃の事を思い出していた。

 泣いているアリサをそのまま抱きしめ、落ち着くまで暫く待った。10分もした頃に落ち着いたのかアリサの方から離れていった。

 

アリサ「ありがとう。この前もこうして手を握ってくれてたのって、あなただったんですね。温かい気持ちが流れ込んで来るの、分かったから。」

 

ユウキ「どういたしまして。少しは落ちました?」

 

アリサ「はい。」

 

 顔色も良くなり、受け答えもハッキリするようになっていた。すると、ユウキは真剣な表情でアリサと向き合う。

 

ユウキ「えっと…アリサ、今の君にはキツい事を言いますけど…大事な話だから、最後まで聞いてください。」

 

アリサ「…はい。」

 

 安心した表情から一変し、不安や怯えを見せる表情になった。それでも逃げないと言う意思を感じる目線でユウキを見る。

 

ユウキ「アリサは、リンドウさんにやってはいけない事をしたんだと思います。だからその事に対して責任を取るなり、きちんと謝罪するなりして、誠意を見せないといけないと思うんです。」

 

 そこまで話すと何か分かりやすく伝えられないかと考える。すると、今の自分がまさにそれだと思い、ユウキは自分の事を例にして話を続ける。

 

ユウキ「俺の過去は見たんですよね?」

 

アリサ「はい…その…本人の前で言うのはどうかと思うのですが…人の生活とは思えませんでした…」

 

ユウキ「あ、いや、そっちじゃなくて、生きるために盗みを働いていた事なんですが…」

 

アリサ「え?あ!ごめんなさい!」

 

 ユウキ自身も人間の生活ではないと分かってはいたが、こうして直接言われると凹む。しかし、今は落ち込んでいる暇はなく、どうにか話しを続ける。

 

ユウキ「その…俺は今、リンドウさんの提案で盗んだ物の代金を返しているんですけど…受動的に動いたせいか、なかなか信用してくれないんですよね。」

 

 『あはは』と溜め息混じりにユウキは笑った。

 

ユウキ「だから、アリサが責任を取るときは誰かに言われたからじゃなくて、自分で考えて、自分で動かないとアリサの誠意は伝わらないし、信頼を取り戻す事はできないと思います。」

 

アリサ「そう…ですね…」

 

 自分で決めて行動しなければそこに本人の意思は無い。ただやらされているだけの謝罪には誠意など感じられるはずもない。と言うのがユウキの考えだった。

 アリサも納得してくれたのか、同意する。

 

ユウキ「誰かに相談してもいいし、助けが必要なら手を借りてもいい。でも、最後はアリサ自身で決断して動かないとといけないと思うんです。」

 

 今度はアリサが黙って話を聞く。

 

ユウキ「助けが必要なら手を貸します。辛くて泣きたくなったら泣けるようにするから…だから大丈夫、アリサは1人じゃない。少なくとも俺がいる。」

 

 アリサの目に涙が浮かぶ。『こんな自分にも傍に居てくれる人がいる』そう思うと嬉しくなって思わず泣いてしまった。もうそんな人は居ないと思っていたので、尚更だった。

 

ヒバリ『第一部隊所属の神裂ユウキさん。至急、出撃ゲートまでお越しください。繰り返します。第一部隊の神裂ユウキさん。至急、出撃ゲートまでお越しください。』

 

ユウキ「それじゃあ、もう行きますね。今はゆっくり休んでください。」

 

 ちょうど話が終わったところでユウキに対して呼び出しがかかったので、アリサから手を離して病室から出る。

 『あ…』と名残惜しそうな声をあげてアリサがユウキを呼び止める。

 

アリサ「帰って…来ますよね?」

 

ユウキ「もちろん。何かあれば助けるって、約束しましたからね!」

 

 そう言ってユウキは病室を出て、エレベーターに乗り込んだ。

 -エレベーター内-

 

 ユウキは出撃ゲートに向かうため、エレベーターに1人で乗っている。

 

ユウキ(間違いない。あの声は…大車の声だ…)

 

 アリサは暗示をかけられている最中、ずっとモニターを見ていたため、直接大車の顔は見ていない。が、記憶の中の声はこの1週間、アリサに会いに行く度に面会謝絶だといい続けた大車の声と一致していたため、大車が暗示をかけた張本人だと断定した。

 

ユウキ(待ってろ…必ず…貴様を追い詰める!)

 

 エレベーターの扉が開く。そこにいたのは怒りを宿した獣の眼をしたユウキだった。

 

To be continued




 今回はアリサの過去回です。原作だと問答無用にアリサは悪くないみたいな雰囲気になっていたように感じましたが、『それは如何なものかと』と言うのが自分の考えです。
 時と場合によりますが、『自分の意思で起こしたものではない事には責任が無い』なんて事は無いと思います。自分が何かやらかした時に自分から謝るなり、責任を取るなりできるような人になりたいです。
 そう言う事が出来るようになって人は子供から大人になっていくのではないかと思います。(それだけできれば大人と言うわけでもありませんが...)
 アリサもここでキツい現実を受け止め、謝罪や責任を取り、前に進むような話を今後書いていきたいです。
 話は変わりますが、本小説での感応現象は相手の五感や思考等を本人として追体験する事になります。そのため、視覚は常に一人称視点になり、その時受けた痛みや感覚、思考も体験できます。なので下手をすると大車の洗脳にかかる可能性もあります。(まあこれは両親を黒いアラガミに殺された事が前提になるため、主人公にはききませんが)
 あとはリアルタイムでの感覚、思考の共有も可能です。
 コウタって時々とんでもなく頭が回るイメージがあるんですがどうでしょう?
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