ユウキ「遅くなってすいません。」
エレベーターから降りてきたユウキを見て全員が驚いた。なぜならユウキはいつものおとなしそうな少女にしか見えない表情ではなく、女々しさを感じられない鋭い目付きで相手を威圧するような表情だった。
そんなユウキの変化に驚きつつも第一部隊は第四部隊、第五部隊、第六部隊と共に任務に向かう。場所はリンドウが行方不明となった贖罪の街だ。
出撃前に保管庫でリッカに呼び止められる。
リッカ「あ、神裂くん!プレデタースタイルの解放間に合った…よ…?」
ユウキの様子を見てリッカは人違いかと思った。それほどまでに今のユウキの表情は別人に見えるのだ。
ユウキ「急な頼みだったのに…ありがとうございます。」
実は訓練での急速なレベルアップもあり、ツバキが直々にプレデタースタイルの解放を上層部に進言したのだ。その許可が出たのが昨日だったので、リッカに急ピッチで作業をしてもらったのだ。
しかし、感謝の言葉を述べている筈のユウキの口調はどこか淡々としていて感情をあまり感じられなかった。
リッカ「ホントに…神裂くん…だよね?」
だが、リッカとしてはそんな事よりも、目の前に居るのは本当に神裂ユウキなのかが気になった。
ユウキ「当たり前ですよ。どうしたの?」
リッカ「いや、凄く恐い顔してたから…」
今のユウキは今まで見たことのないような表情をしている。それほどにまでの豹変ぶりなのだ。
ユウキ「これが最後のチャンスなんだ…こんな顔になるに決まってる。」
リッカ「そう…だね。リンドウさん、見つかるといいね。」
ユウキ「うん。」
今回の任務がリンドウ捜索のラストチャンスとなる。焦りが顔に出るのは仕方のない事だ。もっとも表情が変化した理由は焦りだけではないが。この焦りからやる気が空回りしないことを祈り、リッカに返事をした。
リッカ「よ、よし!じゃあ今回解放したプレデタースタイルの説明しとくよ!」
ユウキ「お願いします。」
時間が無いので無理矢理話題を変え、解放したプレデタースタイルの説明を始める。
リッカ「今回解放したのは『ゼクスホルン』と『穿顎』の2種類だよ。ゼクスホルンはシュトルムと逆に捕食してから後ろに跳ぶんだ。穿顎は空中からオラクルを噴射することで急速に滑空して捕食するよ。」
ユウキ「分かった。ありがとう。」
ざっくりとした説明を聞いて礼を言う。あとは実戦で試してみるしかない。
リッカ「いきなり実践で使うことになるからあまり過信しないでね。」
どんな風に使うのかを体験していないため、実戦で思わぬ事故にならないよう気を付けて使わなければならない。さらに、まだ展開すらしていないので、最悪動作不良を起こすことをリッカは心配していた。
リッカがそんな心配をしているとは気が付かずに『いってきます』と返してユウキは贖罪の街に向かった。
-贖罪の街-
リンドウ捜索の下準備とも言える、広域殲滅作戦か開始された。第一部隊は贖罪の街、第四部隊は街周辺の北から南西側、第五部隊はその反対側、第六部隊は待機ポイントを含む南側となっている。
現在確認できるはのはシユウ2体とコンゴウ1体の計3体だ。ソーマは独断で最西の廃墟ビル内部でシユウ1体を相手にする。
ユウキとサクヤとコウタは教会の入り口がある東側でシユウを相手にする。現在コンゴウは確認できない。こちらに気付いて乱戦になる前にけりをつけたい。
待機ポイントから降り、サクヤが教会の角からシユウの頭部を狙い、着弾すると同時に結合崩壊を起こしてよろめいた。その隙にユウキが一気に接近してシュトルムを展開し、さらに加速する。一瞬の間に距離を詰めて捕食、バーストする。
続いてコウタが神機を乱射しながらある程度近づき、サクヤとは反対側の角まで移動する。弾丸を受けながらもシユウは姿勢を低くして構える。それに対してユウキは一瞬で別の捕食口を展開する。今度は砲身が後ろから包み込む様に生えた捕食口、新しく解放されたプレデタースタイル『ゼクスホルン』を早速使用する。
シユウの胴体に食い付き、砲身からオラクルを噴出してユウキを後ろに下がらせる。食い付いてから下がることで、喰うと言うより喰い千切ると言った感じだった。
ユウキが下がると同時にシユウが回転して周囲を凪ぎ払う。その間もサクヤとコウタの追撃は終わらない。シユウの胴体が砕け、翼手に穴が空く。頭に来たのか怒りで活性化して、至るところにオラクル弾をバラ蒔いてる。
それを掻い潜りながらサクヤとコウタは反撃して、ユウキはシユウに近づいていく。神機が届く間合いまで近づく。銃撃で脆くなったシユウの胴体を切り捨てようと構える。しかし、オラクル弾を射ちわるとユウキに向かって手刀を放つ。それを避けるが、壁を後ろにしてしまった。
コウタ「ユウキ!やべぇぞ!!」
コウタが叫ぶも、ユウキは動かない。そんなユウキの首を狙い、反対の翼手で手刀を突き出す。
それを体半分ずらして回避し、手刀が壁に突き刺さる。シユウは動けなくなり、格好の的となる。
ユウキ「!!」
止めのために神機を振る直前で短い間隔で足音が聞こえる。未だ姿を見せないコンゴウが戦闘音を聞いて近づいているのがわかる。
ユウキ「コウタ!!後ろからコンゴウが来る!下がって!」
それだけ言うとシユウの胴体を斬り、真っ二つにした。その後、スタングレネードを準備して教会の影から飛び出す。コンゴウを目視すると同時にスタングレネードを投げつける。目が眩んで動きが止まる。その隙に全員が飛び出して総攻撃を仕掛ける。視力が回復するまでにコンゴウの全身が切り傷と弾痕がついてボロボロになる。
動けるようになったコンゴウがコマのように回転してユウキを攻撃する。それを後ろに跳び、回避する。最後に回転の勢いをつけた右フックを放つ。それをジャンプして躱して、捕食口を展開する。するとあらゆる角が尖って、空気抵抗が小さそうな捕食口が展開される。その捕食口の後ろの刺からオラクルを噴出し、勢いよく滑空しコンゴウを捕食する。着地後、振り向きながらバーストした一撃でコンゴウを斬り倒す。これで街中のアラガミは一掃された。
ヒバリ『そ、そんなどこから!?』
ユウキ「何かあったんですか?」
ヒバリ『す、すいません!!突如作戦領域内に5体の大型アラガミが現れました!!この反応は...ボルグ・カムランとクアドリガが各2体、それからヴァジュラです!!ボルグ・カムランとクアドリガ各1体がそちらに向かい、残りはソーマさんの方に向かっています!間もなく街に侵入します!気をつけてください!!』
そう言うとすぐに建物の隙間から、盾を持ち、鎧を着たサソリの様な大型アラガミが現れる。
『キシェァアアア!!!』
不気味な雄叫びをあげてユウキ達に迫る。まずは挨拶と言わんばかりに飛びかかってくる。体が大きい分、何時もよりも長い距離を跳べるように力一杯に横に跳ぶ。
サクヤが盾の間に見える顔面を撃ち抜き、コウタが胴体に連射するが、あまり効いている様子はない。そんな中、ユウキが跳んだ先を盾で殴る。咄嗟に装甲を展開して防ぐが、勢いを殺しきれずに吹っ飛び、土煙が舞う。
コウタ「ユウキ!!」
サクヤ「大丈夫!?しっかり!」
コウタとサクヤが心配して声をかけるが返事がない。だが、ボルグ・カムランはそのままユウキがいた方向を向き、尻尾についている針を構えて、突き刺す。
それと同時に土煙が晴れるとユウキが針を避けているのが確認できた。ユウキの無事を確認してからコウタがポーチを漁り、サクヤは再びボルグ・カムランを撃ち抜く。
先程突き刺した針を即座に抜いて再び刺し、それを避ける。これを続けるうちにコウタがユウキを呼ぶ声が聞こえてきた。
コウタ「ユウキ!!こっちだ!!」
横目でコウタの方を向くと教会の入り口前にホールドトラップが設置してあった。ユウキはその方向に走る。ボルグ・カムランが追走してくるとトラップに引っ掛かる。
コウタ「チャーンスターイム!!」
コウタがひたすら連射し、サクヤが盾の隙間のさらに奥にある口を撃ち抜いて、ユウキがインパルスエッジで盾を破壊する。全員が『このまま行ける』と思ったが、インパルスエッジを射っているユウキが異変に気付く。後ろから『ゴォォォ』となにかが勢い良く燃える様な音が聞こえる。
後ろを向くとミサイルが飛んできていた。
ユウキ「!!」
咄嗟に横に跳んで回避する。ミサイルが飛んできた方向を見るとキャタピラでできた足を持ち、赤い重厚な装甲を持った戦車の様なアラガミ『クアドリガ』だった。
この間にボルグ・カムランが動けるようになり、乱戦になるのは避けられない。クアドリガがミサイルポッドからミサイルが周囲にバラ蒔かれる。ミサイルがサクヤ、ユウキ、コウタをそれぞれ追尾する。サクヤとコウタは当たる直前に横に飛んで回避して、コウタはクアドリガ、サクヤはボルグ・カムランに反撃する。
だが、ユウキはクアドリガの一番近くにいたせいか、ユウキには大量のミサイルが向かってきていた。しかし、ユウキは冷静にクアドリガから離れることでミサイルを誘導する。向かう先は盾を構えて突撃してくるボルグ・カムランだ。胴体の下の空間をスライディングで潜り抜ける。その結果、ミサイルはボルグ・カムランに当たって爆発する。
爆発の勢いでボルグ・カムランは仰け反りながらもユウキの方を向こうとする。その間に大きくジャンプする。盾を踏み台にしてクアドリガの方に跳び、顔の横についている排熱機関を切り落とす。そのまま穿顎で捕食してバーストする。すると、着地してすぐにクアドリガの胸部装甲が開いて巨大なトマホークが発射される。
ユウキ(装甲が開いた!もしかして!)
装甲の内部は肉の固まりの中にミサイルが埋まっているようになっている。頑丈な装甲の中に直接攻撃できるチャンスだ。接近して勝負をかける事を即決し、発射されたトマホークを潜り抜けて回避しつつ装甲内部を斬る。予想通り攻撃がかなり簡単に通る。しかし、すぐに装甲が閉じて連続での攻撃は防がれた。
装甲を閉じると、追撃から逃れるためか、巨体であるにも関わらず飛び上がり、ミサイルをバラ蒔きながら落下して周囲に大きな衝撃を与える。
それを吹っ飛ばされながらも避けたはいいが、今度は眼前にボルグ・カムランがいる。
コウタ「ユウキ!!」
サクヤ「くっ!まずいわ!」
ボルグ・カムランの尾についた針がユウキを捉え、針が眼前に迫る。その瞬間死を悟る。
ユウキ(死ぬ…?嫌だ…!こんなところで…死ニタくなイ!!)
その瞬間、目にも止まらぬ速さで横に跳ぶ。標的を失った針が地面に突き刺さる。手が捕食されるのも気にせず、その突き刺さった針を掴み、クアドリガに投げ飛ばす。
サクヤ「なっ!!!」
コウタ「うっそぉ!!!」
人間よりも何倍もの大きさと重量のアラガミを片手で投げ飛ばしたのだから、当然驚く。しかし、そんなことでアラガミは待ってくれない。立ち上がったボルグ・カムランとクアドリガがユウキに突撃してくる。
対して、ユウキは捕食形態を展開し、バーストして倒すつもりだ。丁度2体の間には少し隙間があるため、そこで捕食すれば一気に2体とも倒せる。そう考えてチャージ捕食を展開する。
だが、展開されたのはいつもの捕食口ではなく、巨大で左右と上に3つに割れた捕食口が生えてきた。ボルグ・カムランとクアドリガが共に突進してくる。それを捕食口で受け止め、左右から食い付き、上にから押さえ付ける。だが2体同時に捕食するには、動きだしから勢いがつくまでの時間が短すぎる。威力不足のまま2体を拘束する程度となった。
ユウキ「ア"ア"ア"あ"あ"ア"ア"あ"あ"ァァ!!!!」
吼えながら拘束した状態でボルグ・カムランとクアドリガを持ち上げて壁際まで押し込む。完全に息の根を止めるために捕食口に力を籠める。
ユウキ「シネええエェぇェぇぇエ!!!!!!」
さらに捕食口に力が入り、『ベキッ!』『バキッ!』と固いものを砕くような音が聞こえてくる。そのままミシミシと言う音をたてて、まるで万力で潰される様に2体のアラガミが形を変え始める。
『グチャァッ!!』
2体のアラガミが上下に別れたと同時にコアの捕食、回収に成功する。上半分を失ったアラガミの血が噴水の様に勢いよく飛び出す。そのすぐ近くに居たユウキは血を浴びて真っ赤に染まった。
ずっと崩さなかった威圧的な表情で血を浴びたせいか、コウタ達にはユウキが悪魔や悪鬼のように見えた。
ユウキは目元だけ血を拭い、まだ近くで戦闘が行われているであろう南側を睨む。
コウタ「お…おい?」
ユウキ「まだ終わってない…まずは南側へ加勢しに行きます。」
コウタ「お、おう!そうだな!!行こう、サクヤさん!」
サクヤ「え、ええ。早く終わらせてリンドウを探しましょう。」
その後、合流したソーマと一緒に南側に向かい、アラガミを殲滅した。その後、各部隊に加勢して捜索範囲内のアラガミは一掃された。
-エントランス-
掃討戦が終わり、捜索任務に切り替わる。そのタイミングで第一部隊は一度撤退して、補給を受ける。ついでに4時間ほどの休憩が与えられ、各部隊がローテーションを組んで捜索をする。
エントランスに着き次第、ソーマとサクヤは部屋に戻った。エントランスにいるツバキはイラつきが感じ取れるような口調でオペレートしている。この空気に耐えきれなくなってコウタが愚痴る。
コウタ「ツバキさんは怒ってるし、こんな時にソーマはいないしアリサは寝込んでて、サクヤさんは出てこない…なんなんだよ!俺だって泣きたいよ!でも…そんな事したら…認めちゃうことになるじゃんか!そんなの絶対ヤだからな!」
ユウキ「そうだよね。リンドウさんがこんな事でやられるはずがない。絶対に…生きてる!」
リンドウの帰還を信じている2人の会話を聞いてタツミがユウキたちに話しかける。
タツミ「後は俺たちに任せて今はゆっくり体を休めな!リンドウさんは俺たちが見つけるからよ!」
だが若干顔がひきつっていたのが気になる。が、ユウキにはすぐに理由がわかった。
ユウキ「ごめんコウタ。ちょっと先に行くね。」
そう言ってユウキはエレベーターに乗り込んだ。忘れてたが今のユウキは血塗れなのだ。先にシャワーを浴びてから病室に向かう。どうにかして大車がアリサを洗脳し、リンドウを死に追いやった証拠を掴みたい。
大車を犯人と考えるきっかけになった感応現象では、証拠としてはあまりにも不十分だ。『手を繋いでアリサと記憶を共有した』と言っても誰も信じないだろうし、いくらでも言い逃れ出来る。仮にアリサが証言しても口裏を合わせているだけだと思われるだろう。
なので、まずは大車と接点を作り、身近なところに何か証拠となるものはないかを探す事にした。
証拠探しの段取りを考えているといつの間にか病室に着いた。兎に角、大車に接触してからの事は後で考える事にして、端末のボイスレコーダ機能を起動させて病室に入る。
病室には眠っているアリサが居るだけだった。起こすのは気が引けたので、部屋を一通り見回して大車がいない事を確認すると病室を出ていった。
その後も大車が居そうな場所を探してみたが、全て空振りだった。
ユウキ(大車…何処に居ったんだ?)
結局見つけられなかったので、入れ違いになった可能性も考えてもう一度病室に戻ってきた。ここで見つからなければ今日は出直して訓練に行くことにした。
ルミコ「やぁ。アリサのお見舞いかい?」
病室に居たのはルミコだった。こんな状況でも何やら機嫌が良さそうだ。だが、探している大車はまだ居ないらしい。
ユウキ「何だか機嫌が良さそうですね。」
ルミコ「こんな状況じゃあ不謹慎だけどね。でも、あのセクハラ野郎が所用でロシアに一時帰国することになったからね。多少は機嫌もよくなるさ!」
ユウキ「え、そうなんですか。」
この時、ユウキは内心焦り、この先どうやって証拠探しをするか悩んだ。接触を図ろうとしたとたんに大車はロシアに逃げた。あまりにもタイミングが良すぎるが、本人が居ないのであればどうしようもない。
まだアリサは眠っているのでそっとしておいた方が良いだろうと思い、再出撃の時間まで訓練を行う事にした。
-同時刻、役員区画-
サクヤが部屋で少し気持ちを落ち着けてから、支部長への報告を終えてエレベーターに向かうと、そこにはオペレートを終えたツバキが居た。
サクヤはツバキの横に立つとずっと考えていた事を話始める。
サクヤ「私…やっぱり捜索の打ち切りだなんて…納得できません。」
ツバキ「またその話か…上層部の決定だ。覆る事はない。」
出撃前にコウタが止めた時もサクヤとこの話をしていた。実は他の神機使いともこの事について話していたため、ツバキとしてはもう聞きたくない話題だった。
サクヤ「腕輪どころか、神機だって見つかってないのに…神機使いが任務中に行方不明になった場合、神機が回収されるまで捜索されるのが通例じゃないてすか!」
一方的に捲し立てるサクヤに対して、ツバキはどこか冷静だった。
ツバキ「…もうあいつが姿を消してから1週間以上経つんだな。生存の確率は限りなく0に近い。ましてや深手を負っていては…」
補給も無いまま外で戦い続ける事は事実上不可能と言えるため、1週間以上戻ってこない事から、生存の確率はグッと下がる。さらに現場からはリンドウのものと思われる血痕。生きていても手負いなのは間違いない。そんな状況で助けを呼ばないと言うのが何を意味するのかは多くの人は察しがついていた。
サクヤ「でも…ツバキさん…」
ツバキ「…」
未だに食い下がるサクヤに無言でツバキは返す。ここでエレベーターが来たのでツバキが乗り込む。
サクヤがツバキを止めようとするが、この時ツバキの目が赤く充血しているのに気がついた。ようやくサクヤもツバキが必死に辛いのを圧し殺していると理解した。
ツバキ「う…うぅ…リンドウゥ…」
リンドウの死を受け入れた結果、周りより冷静に見えていただけだった。実際には今すぐにでも探しに行きたいのを押さえ、エレベーターの隅で座り込み一人静かに涙を流していた。
結局、リンドウが見つかる事はなく、後に正式にK.I .A認定された。
-数日後-
リンドウの捜索の打ち切りが決まり、いつものアラガミを倒す日常が戻ってきた。今は中型種の討伐任務に行く為のブリーフィングをしている。
ツバキ「よし。以上でブリーフィングを終わる。準備が出来次第始めてくれ。それとサクヤ、お前は少し残れ。」
ツバキはいつも通りの調子で任務内容を伝える。最後にサクヤだけ残るように伝え、ユウキを下がらせる。今この場にはツバキとサクヤしか居ない。
サクヤ「あの…まだなにか?」
ツバキ「サクヤお前は暫く休暇を取れ。これは上官命令だ。」
サクヤ「そんな…私は!」
『大丈夫です!』と続けるつもりが、ツバキに遮られた。
ツバキ「サクヤ…最近鏡を見たか?」
サクヤ「は?」
『何が言いたいんだ?』とでも言いたげなポカンと表情でサクヤは返事をするが、ツバキは気にした様子もなく話を続ける。
ツバキ「…ほとんど寝てないんだろう?」
ツバキの言う通り、サクヤの目の下にはうっすらとだが隈が出来ていた。
ツバキ「お前がアイツを想う気持ちは、姉として嬉しく想う。だが、上官としては別だ。コンディションの整えられない者は死を呼び込む…分かるな?」
サクヤ「…はい…軽率でした。」
本調子を出せない者は戦場で周りの人間の足を引っ張る。仲間を見捨てられるような精神の持ち主ならばそのような人がいても問題無いが、ツバキとサクヤの知る限り、少なくとも今出撃できる第一部隊のメンバーにそんな人間は居ない。尚更調子の悪い人間を出撃させる訳にはいかなかった。
ツバキ「最後に忠告だ。お前はもう少し割りを頼ることを覚えろ…いいな?」
サクヤ「…善処します…」
その返事は必ずやるという意味ではないが、とりあえずツバキはサクヤを返した。
その後、ユウキと第三部隊で中型種討伐に向かった。
-サクヤの部屋-
ユウキたちが任務に向かっているのと同時刻、サクヤは自室のベッドに座り込んでいた。正直休めと言われても、体を動かしでもしてないと余計な事ばかり考えて余計気が滅入ってしまう。
そうしているとリンドウがひょっこりと帰ってくるのではないかと思え、リンドウの事を思い出す。
リンドウ『おーいサクヤ。いるか?』
突然扉が開いてリンドウが部屋に入ってくる。
サクヤ『もうさんざん言ってるけど…せめてノックぐらいしてから入ってきてよ!』
どうやら合図無しに入ってくる事は日常茶飯事なようだ。リンドウはその事に対して軽い謝罪をする。
リンドウ『あーわりぃわりぃ。』
そう言うとリンドウはドカッと言う音が聞こえる程勢い良くソファに座り、その間にサクヤは冷蔵庫に向かって歩いて行った。
サクヤ『どうせ私の分の配給ビール目当てなんでしょ?いっつもすぐ飲んじゃうから…』
サクヤは愚痴りながら冷蔵庫を開けてビールを取り出す。対してリンドウはケラケラと笑いながら返事をする。
リンドウ『いいじゃんか、お前飲まないんだし。何なら新種のジャイアントトウモロコシと交換するか?』
サクヤ『いーやーよー!』
サクヤ曰く、相当食べにくいのでハッキリ言って貰っても嬉しく無い。そんなものと交換するくらいならそのままビールを渡すか違う物と交換するように要求する。
そんな過去のリンドウとのやり取りを思い出し、もうこんな日常は返ってこないと思うと酷く憂鬱になる。
そんな現実を忘れたくて、リンドウが飲んでいたように冷蔵庫のビールを手に取る。すると、ビールの底から何が落ちた。
サクヤ「何…これ?」
どうやらデータディスクのようだ。が、当然部屋の主であるサクヤはこんなことをした覚えがない。
となると、あとはこの部屋に入った事のある人間の仕業となるが、思い当たる節がない。そう考えながらディスクを拾う。
サクヤ(何で配給ビールの底にこんなものが?)
サクヤの知る限り、部屋に来てビールに興味を示す人間はリンドウしか居ない。ならこれはリンドウの仕業だろうかと考えた瞬間、リンドウの『配給ビールをとっておいてくれよ』という言葉を思い出す。
これはリンドウからのメッセージではないかと思い、直ぐにターミナルで閲覧する。
サクヤ(リンドウの腕輪認証がかかってる…?)
しかし、ロックがかかっているため、閲覧出来なかった。直接の手掛かりが封じられたとなると、その鍵であるリンドウの腕輪が必要になる。
今となってはその腕輪を探す事さえ難しくなっている。こうなると自分で調べていくしかない。
サクヤ(そうよ…あの日は不自然なまでにイレギュラーが続いてた…指令情報の食い違い…アリサの様子もおかしくって…)
リンドウの事件の時、おかしな事が何度も続いた。同一区画に複数のチームが配備されていた上、アリサが何故か錯乱し、結果リンドウが孤立した。そんな時に大量の新種と遭遇。いくらなんでも出来すぎていて、違和感が残る。
当時の事を調べようと、サクヤはミッションの履歴を調べる。
サクヤ「あ!」
しかし、調べていくうちに思いがけない事実にたどり着く。
サクヤ(あの日のミッション履歴が消されている?)
都合良く履歴が残っていない。こうなるとコウタが言っていたリンドウが『フェンリル側に消された』と言う可能性が高まった。
サクヤ(どう言うことなの?リンドウ…)
少なくともこの事にアリサが関わっている事は明白だ。そう考えると、サクヤは真相を聞くためにアリサが居る病室に向かった。
-病室-
ユウキは任務が終わると、アリサの様子お見舞いに行った。面会謝絶と言い続けた大車が居ないため、今回はすんなりと病室に入れた。
アリサ「あ、神裂さん。」
どうやらアリサは起きていたようだ。見たところ顔色は良く見える。
ルミコ「おや?今日も来たんだね。感心感心!」
病室にはアリサの世話のため、ルミコもいた。
ユウキ「こんにちは。ルミコ先生。アリサの様子は変わりありませんか?」
ルミコ「そう言うのは本人に聞くものだよ。さて、後は若いお2人さんで仲良くするといいさ。」
そう言うとルミコは病室から出ていった。そんな冷やかしに対して、ユウキはキョトンとして、アリサの顔は少し赤くなっていた。
ユウキ「えっと…具合はどうですか?特に変わった事はないみたいですが?」
アリサ「はい。今日は朝から調子がいいんです。」
ユウキ「よかった。」
ここ最近の快方具合に一安心する。その後はアリサとファッションについての話をした。初めて世間話をしたとき、トラウマを刺激しないように、アラガミについての話や過去の話を避けようと思い、何か当たり障りの無い話題が無いか考えた結果、趣味の話になったのだ。
実際、『服など着られればいい』と言う程度の認識のユウキには新しい発見が沢山あって、なかなか面白かった。
そうやって話をしているとは不意に病室の扉が開いた。ルミコが戻ってきたのかと思い、そちらを向くと意外にもサクヤが入ってきた。
サクヤが入って来たのをみると、ユウキの表情が険しくなる。
アリサ「サ、サクヤさん…」
サクヤにとってリンドウがどんな存在かはアリサも理解しているつもりだ。大切な人を奪った張本人に会いに来るなど、報復意外に思い付かなかった。それ故に、アリサの表情が一気に怯えたものになる
アリサ「な、何k」
ユウキ「何の用ですか?」
アリサの言葉を遮り、彼女を隠す様に前に出てサクヤを見据える。
サクヤ「大丈夫。アリサを責めに来た訳じゃないわ。」
サクヤは穏やかな口調で答えた。確かに攻撃的な雰囲気は感じない。サクヤが手を上げないと信じてユウキはアリサと話せるように少し下がった。
『ありがとう』と言うと、サクヤはアリサと向き合い話を始める。
サクヤ「リンドウは貴女の事を『根は真面目で素直な子』だって言ってたわ。だから、尚更貴女のやった事に納得出来ないの。」
アリサの根底にある人柄をリンドウから聞いていたため、今回のような騒動を起こすとは思えなかった。だからこそ、アリサのやった事に違和感があり、それこそが真相への手掛かりになると考えていた。
サクヤ「あの時の貴女は様子がおかしかったって事も気になるの。お願い。貴女に何があったのか…教えて欲しいの。」
真剣な目でサクヤがまっすぐアリサを見る。対してアリサは『助けて』と言いたげな目線をユウキに送る。
ユウキ「アリサ。ここで逃げちゃいけませんよ?大丈夫、俺が傍にいるから。」
そう言われて、怯えながらもサクヤを見る。
アリサ「私が…定期的にメンタルケアを受けている事は…ご存知ですか?」
サクヤ「ええ、ツバキさんとリンドウから聞いてるわ。」
『詳しい事は聞いてないけどね』とサクヤは最後に付け足した。
アリサ「私が両親をアラガミに殺された後、私は精神的に不安定になってしまい、入院生活をしていました。」
意を決してアリサはメンタルケアを受けている原因となった両親の死を語り始める。サクヤ、ユウキは話を遮ることなく、聞きに徹している。
アリサ「そんな生活が何年か続いて、私が新型神機の適合候補者だと分かったんです。その後、フェンリル所属の病院に移送されました。そこで神機使いになるまでに、アラガミの事や戦い方の勉強をしました。」
サクヤ「そうだったの…ごめんなさい、嫌なことを思い出させてしまったかしら。」
アリサが粗方語り終えると、サクヤも何があったのか察しがついた。だが、両親の死がトラウマを与えたとしても、それがリンドウを死に至らしめる事にどう繋がるのか分からない。
兎に角続きを聞いて手掛かりを掴みたい。
アリサ「いえ、フェンリルの病院で主治医をしてくれた先生もいい人だったので、あまり苦痛だとは思いませんでした。極東支部にも、一緒に赴任してきてくれました。」
ここでユウキがサクヤにアイコンタクトを送る。サクヤもそれを察してこの主治医が何かしたと気が付いた。
サクヤ「主治医?どんな人かしら?」
どうにかして主治医に何をされたのか知りたい。少し踏み込んでその主治医の事を質問をしてみた。
アリサ「医療班の大車先生です。ご存知ないですか?」
サクヤ「ええ、会ったことはないわ。ごめんなさい。続けてもらえるかしら?」
名前は分かった。ここから調べあげることができれば手掛かりが得られそうだ。そう思っているとアリサが話を続ける。
アリサ「神機の適合候補者だと分かった時、大車先生に戦わせて欲しいって頼み込んで、薬でどうにか症状を抑ることで戦場に出られるようにしてくれたんです。」
そうまでしないとて戦えない状態だったようだ。それでも戦場に出たのは余程アラガミが憎かったのだろう。目の前で両親を殺されればそうなるのも不思議ではない。
アリサ「なのに!あの時『何故か』リンドウさんが仇だと思い込んでしまって!」
そこまで話すとアリサは頭を抱えて震えだした。
サクヤ「混乱させてごめんなさい。後…頼んでもいいかしら?」
ユウキ「わかりました。」
そう言うとサクヤは部屋を出ていった。
アリサ「こ、これで…よかった…ですよね?」
ユウキ「うん。よく頑張りました。」
トラウマを語るには当時の事を鮮明に思い出す必要がある。アリサにとってそれは何より辛い事であり、二度と思い出したくない事だった。それを人殺しに利用され、真相を知りたいと言う者が現れた。真実に繋がるトラウマを語ると言う形で、アリサは責任を果たしたのだ。
だが、一つサクヤに伝えてないことがある。正確にはアリサ自身も分かってない事だ。それを伝えにサクヤを探しに向かう。
ユウキ「ごめんなさい、アリサ。サクヤさんに少しだけ話があります。すぐに戻るから待っててください。」
そう言い残してユウキはサクヤの部屋に向かった。
-サクヤの部屋-
ユウキ「サクヤさん、居ますか?」
サクヤ「ユウキ?入って。」
サクヤから入室の許可を貰い、部屋に入った。かなり綺麗に整理された部屋でゴミひとつ落ちていない。リンドウの部屋もそれなりに整理されていたが、ビールの空き缶が机に放置されていたりした事を思い出した。
サクヤ「何かしら?」
そこでユウキは自分が『体験した』アリサの過去を話した。一緒に遊んでた両親が喰われたこと、強い恨みと憎しみを胸に神機使いになったこと、そして大車に洗脳された事、感応現象で知った事を洗いざらい話した。
サクヤ「そう…不思議ね…触れあうだけで気持ちが通じ合うなんて。その能力で大車って人がアリサを洗脳したって分かったのね。」
ユウキ「はい。」
サクヤ「教えてくれてありがとう。それにしても、このタイミングで帰国だなんて、あまりにも都合が良すぎるわね。」
ユウキ「ええ、逃走のタイミングも偶然にしては出来すぎてます。」
恐らく始めからアリサが目覚めなければ一緒にロシアに逃げ、そこで始末する予定だったのだろう。
しかし、ユウキがアリサを目覚めさせ、急遽探りを入れられる前に逃げた。といった所だろうか。
2人が同じ事を考えていると、不意にサクヤがなったこと話しかけてきた。
サクヤ「ねぇ、アリサの事頼んでもいいかしら?貴方の事は信頼してるみたいだし…今はあの子の傍に居てあげて。」
ユウキ「そのつもりです。」
最初から『放っておく』気はない。迷うことなく返事をする。
サクヤ「大車の事はこっちで調べてみるわ。何か分かったら、ちゃんと連絡するから。」
ユウキ「お願いします。」
ユウキとしても大車の事を調べる宛がないため、この申し出はとてもありがたいと思った。
会話が終わり、ユウキはサクヤの部屋を出ようとすると、サクヤに呼び止められた。
サクヤ「その、ユウキには辛く当たっちゃったわね…ごめんなさい。」
ユウキ「いえ。気にしてませんよ。」
本心からの言葉を返してユウキは今度こそ部屋を出ていった。
To be continued
今回でアリサの口からトラウマを語り、それがきっかけでサクヤが真実に一歩近づきました。
自分なりの解釈ですが、トラウマと言うのは語ることさえ出来ないようなものだと思ってます。そんなトラウマを語ると言うのはとてつもなく辛い事だと思いますが、どうにか乗り越えられる様な話を今後展開していきたいです。
最近戦闘面でご都合主義がひどくなってる気がする。かといって一撃でも食らえばあの世行きだし...どうしよう(´・ω・`)