-エントランス-
アリサが泣くだけ泣いてスッキリした後、第一部隊は極東支部に帰還した。なお、アリサは泣き顔を見られたと言って終始落ち込んでいた。
神機を預けて、エントランスに戻ると、ようやく安心したのかアリサは大きく息を吐く。
「アリサ?」
「あ、いえ…帰って来たんだなって実感したら…ちょっと気が抜けて…」
ちょっとしたことで戦場から帰ってこなくなる。つい最近支部の全員が実感したことだ。こうして帰ってこられることがとても貴重な事のように感じた。
「そうだね…まあ、何にしてもアリサのお陰で助かったよ。ありがとう。」
「本当ですよ!最後はどうなることかと思いましたよ!最後の最後で油断するなんて…しっかりしてください!」
「あ、ああ…ごめん…」
最後のヴァジュラに気づかなかった時の事だろう。何故か逆らえない威圧感を放ちながらアリサが怒る。ユウキはその剣幕に思わずたじろぐ。一頻り怒った後、落ち着いたのか今度は柔和な表情になる。
「でも、貴方にはとても感謝してます。本当にありがとうございます。」
「どういたしまして。あとサクヤさんやコウタにもお礼しないとね。」
「そうですね。任務ではサクヤさんとコウタにもフォローしてもらいましたからね…」
何故か少しずつアリサの声が小さくなる。
「どうしたの?」
「大した事じゃないんですけど…コウタにもフォローされたのがなんかちょっと悔しくて…」
気になって聞いてみたが、ただ負けた気がして悔しいだけだった。
「くっ!!フフフ…」
「なっ!わ、笑わないでください!」
ユウキが突然声を殺して笑いだして、アリサが羞恥をごまかすように怒りだす。
「ああ…ごめんごめん…ただ、アリサが笑ったり泣いたり怒ったりしてるのを見たら、やっぱり普通の女の子なんだなって思っただけだよ。」
「…今まで私の事を何だと思ってたんですか?」
ジト目でアリサがユウキを睨む。するとユウキはしばらく考え込んでから答えた。
「うーん…アラガミ絶対殺すマン?」
「…ドン引きです…」
恐らく本気で引いたのだろう。アリサの声が低くなり、怒ったことは容易に想像ができる。
「ははっ!悪い悪い。」
ユウキとアリサが談笑していると不意にコウタが話しかけてくる。
「ユウキ!アリサの復帰祝いに皆で飯食おうぜ!」
「今行く!」
そう言うと、ユウキはアリサの方を向く。
「行こう。アリサ。」
「はい。」
アリサから返事が返ってきて、2人は並んで食堂に入っていった。
-翌日-
翌朝、緊急性の高い任務は発注されていないので、ユウキは訓練室に籠る事にした。
変形時間をどうやって短縮するか、ツバキが以前言っていた神機と一体になる感覚とは何なのか、今日の訓練でそれらをものにするにはどんな訓練が良いのか等を考える。
エントランスでエレベーターを降りて、神機を受け取る為に出撃ゲートに向かう。すると、カノンがゲートと向き合う形で佇んでいるのが目についた。時々開閉スイッチに手を伸ばしては引っ込めているあたり、出撃を躊躇しているようだった。
「おはようございます。何かあったんですか?」
「あ…お、おはようございます…えっと…」
ユウキが声をかけたが、カノンは何やら言いにくそうにしている。少し待っていると、内容が纏まったのか話を始める。
「最近のアリサさん…凄く頑張ってるじゃないですか。それで、私も頑張らなきゃって思ってたんですけど…その…勢いで『クアドリガ』の討伐任務を単独で受けてしまって…」
「それは無謀だと思うんですが…」
カノンは旧型銃身神機使いだ。銃型神機では装甲を展開出来ない、弾丸となるオラクル細胞の自給が出来ないなど、単身で出撃するには大きな問題がいくつかある。特にオラクル細胞の補給手段が無いと言うのは致命的で、細胞を撃ち尽くすと攻撃手段が無くなり、ひたすら逃げ回るしかなくなる。そのため、旧型銃身神機使いの単独での出撃は、とてもリスクが高い。
だが、本来ならヒバリがこんな無茶を許可するとは思えない。一体なぜこんな無茶が通ったのか考えていると、カノンが話を続けたので、そちらに意識を戻す。
「はい…ヒバリさんにも勢いで大丈夫って言ってしまったので、なんだかキャンセルしにくくて…しかも、誤射が酷いせいで誰もついてきてくれなくて…」
どうやら任務の許可は勢いで押し通して得たようだ。だが出撃直前に近接型神機使いがいないことの危険性に気付いて尻すぼみしたといったところか。さらに普段も誤射の事もあって、一緒に行ってくれる人が居ないことも出撃を躊躇させた原因だろうとユウキは考えた。
(まぁ…そうだろうな…あれ痛いし…)
が、それも致し方ない所があることも事実だ。ユウキも以前、誤射で吹き飛ばされたがやっぱり痛い。アラガミに意識を割いている状況で、味方が背中を撃ち抜こうとしているのだ。実質敵が増えるだけとも言える。
そんなことを任務に行く度にされたのでは、肉体的にも精神的にもよろしくないので、皆がカノンと任務に行く事を渋るのも無理はない。
(でも放っておくのも寝覚めが悪いし…まぁ、どうにか避ければいいか。)
だが、1人で行くのが危険だと分かっていて行かせるのは、なんだかかわいそうにも思える。さらに、それがきっかけで『死んだ』となったら止めなかった事を後から後悔するだろう。そう思い、カノンの任務についていくことにした。
「俺で良ければ同行しましょうか?」
「い、良いんですか!?」
さっきまで沈んでいたカノンがバッと勢い良く顔をあげる。その表情には驚きと期待が込められていた。
「俺から言い出したんですから、気にしないでください。」
「あ、ありがとうございます!」
今度は逆に勢い良く頭を下げて礼を言う。
「ヒバリさんには俺から伝えておきます。先に行ってください。」
そう言うと、ユウキはヒバリに参加メンバーの追加を伝え、カノンは出撃ゲートを潜り、準備を始めた。
-鎮魂の廃寺-
クアドリガを討伐するためにユウキとカノンは廃寺にやって来た。ユウキはターミナルでクアドリガの情報を事前に仕入れていた。どうやら聴覚に優れており、破砕攻撃が通るようだ。今回はカノンの攻撃と、インパルスエッジが通るので、この2つを中心に戦うことになるだろう。
「あの、足を引っ張らないように頑張りますので…よろしくお願いします。」
「ええ。油断しないようにいきましょう。」
そんな会話をしながらクアドリガを探して本殿に向かう。すると本殿前で聴覚を使いこちらを探しているのか、その場に佇んでいるクアドリガがいた。
「カノンさん。俺の合図で来てください。」
「わ、わかりました!」
カノンに前線に出るタイミングをユウキに譲渡するように念押しして物陰から飛び出す。前回の任務では排熱機関に攻撃が通ったので、そこを狙って一気に近づく。
だが、ユウキが真横まで来たと言うのに、クアドリガは動かない。最終的にはジャンプして穿顎を展開したところで、ようやく気がついた。
『ウオオオォォォン!!』
ユウキに気が付いて、クアドリガが叫び声をあげる。しかし、その頃には既に遅く穿顎で一気に近づいて排熱機関を捕食する。それを追ってクアドリガがユウキの方を見て、カノンには後ろを向ける。
「カノンさん!」
ユウキが合図を出し、カノンが飛び出す。
「そらぁ!!」
カノンの恐ろしい掛け声と共に神機が火を吹いて、クアドリガの後ろ足が爆発する。
(よし!この配置なら当たらないはず!)
ユウキとカノンはクアドリガを挟むような配置になっている。これなら誤射される心配は無いと考え、この配置を維持しながら戦うようにする。
まずはクアドリガの真上に跳んでインパルスエッジでミサイルポッドを破壊する。爆破の衝撃で回転しながら、反対側のミサイルポッドもインパルスエッジを使って破壊し、さらにはその衝撃で上に飛ぶ。
そのまま空中で銃形態に変形して、クアドリガの背中に爆破レーザーを打ち込む。その衝撃でクアドリガが怯む。
『ドゴン!』
突然、目の前に銃弾が落ちてきたと思ったら、爆発してユウキを吹き飛ばした。
「ぐえぇ!」
着地に失敗して、腹から地面に落ちて、潰れたカエルのような声を出す。
「射線上に立つなって…言わなかったっけ?」
いつの間にかカノンが魔王モードになって威圧する。その後、わざわざクアドリガの前に移動して、前面装甲を爆破し始めた。
(まずい!)
本来ならユウキが最前衛に出るのは、クアドリガの前で陽動を続けて、カノンから注意を反らす目的があった。しかし、カノンが最前衛に出た今となってはそれも出来なくなった。
だが、それでもカノンを陽動も無しに前衛に出し続けるのは危険なため、ユウキがカノンの前に出て、前足の関節を狙って斬る。
(くそっ!!こいつも硬い!!)
ボルグ・カムランの時のように斬りつけても金属音がするだけで効いている様子はない。仕方ないので、そのままクアドリガの前に出てインパルスエッジを前面装甲に撃ち込む。するとクアドリガの装甲にヒビが入る。
『ドカン!!』
『行ける』と思った瞬間、爆破音と共に再びユウキが吹き飛ぶ。上手いことクアドリガの足の間を抜けて飛んでいった。
「邪魔ぁ!!」
罵声を言いながらもクアドリガを撃ち続ける。すると前面装甲に結合崩壊が起こる。
「あはは!!無様だねぇ!!」
カノンが楽しそうに嗤っている。なんだかアラガミより怖い気がしてきた。だが、それに腹を立てたように、クアドリガが活性化する。突然、クアドリガが黒煙を吹きはじめて、周囲の温度が上がったような気がした。
すると、クアドリガが放熱をはじめて、周囲を燃やし始める。
「きゃあああ!」
ユウキはカノンに吹き飛ばされた衝撃で偶然にも回避したが、クアドリガの前で攻撃し続けていたカノンはもろに攻撃を受けた。
攻撃を受けつつもカノンは体勢を立て直し、ユウキも迎撃体勢をとる。だが…
『ガゴン』
カノンの神機から弾が出る代わりに鈍い音がする。
「こんなときに弾切れ何て…クソッ!」
そんな事を言っている間に、クアドリガからカノンを狙ってトマホークが発射される。トマホークがカノンに当たって爆発する。
「きゃあああ!」
カノンが頭を抱えてうずくまる。だが、トマホークに当たったのであればそんなことをしている余裕はないはず。カノン本人も痛みがないことに疑問を持ち、トマホークが飛んできた方を見るとその理由がわかった。
ユウキが装甲を展開して、トマホークを防いでいたのだ。衝撃を吸収しきれずに、後ろに少し下がりつつも、即座にシュトルムを展開して装甲が開いている間に突撃する。
「うおおおおお!!」
ユウキが吠えながら、最大速度でクアドリガに突っ込む。前面装甲が閉じ始めているが、それを無視して突っ込んで捕食する。なんとか装甲が閉じきる前に喰い付き、再びシュトルムを展開してクアドリガを貫通する勢いでジェットを吹かす。
すると、クアドリガの弱い部分から体を貫通して、コアを捕食してクアドリガは活動を停止した。
任務が終了し、カノンが話しかけてきた。
「あ、あの、誤射の件は本当にごめんなさい。…強い相手と戦えば何かが掴めると思ったんですけど…難しいですね…」
「そ、そうですね…闇雲に戦うじゃなくて、何が悪いのか考えて動かないといけませんね。」
何度も誤射を受けて疲れた表情をしたユウキに対して、カノンは任務での誤射の謝罪と反省をしているようだ。…カノンは意外とタフなようだ。
「私も早く何か掴まないと…今日は本当にありがとうございました。」
「いいえ。気にしないでください。」
そう言いながら帰投すると、『そうだ!!』とカノンが大きな声を出した。
「今度お礼にたくさんお菓子を作ってきますね!」
「それは楽しみですね!その時はありがたく受けとります。」
こうして2人は帰投していった。
-神機保管庫-
任務を終えて2人は極東支部に帰還した。神機を預けて2人で昼食にするつもりだったが、リッカがユウキを呼び止めた。
「えっと…俺の神機に何かあった?」
何か神機に不具合でもあったのかと恐る恐るリッカに訪ねてみる。
「ああ、そんなんじゃないよ。プレデタースタイル『昇瀑』の解放が許可されたからその報告。あとは神機の使い勝手とか調子の確認だね。」
使用状態の確認だったようだ。技術者から見て不具合が出たという話ではないみたいなので、一安心しながら今まで使ってきた感覚を思い出して、言葉にする。
「うーん…特に違和感とかは無いかな。でも、最近は硬いアラガミとも交戦するようになってきたから、威力不足って感じかな?」
「なら、やっぱり神機を強化するのが一番良んじゃないかと思います。」
カノンが火力の底上げを提案する。実際、ここ最近神機の火力不足だと感じたが、それはあくまでも普段の状態での話だ。バーストするとその火力不足が嘘のようにアラガミを薙ぎ倒していく事が出来る。この状態を常に引き出せるように神機の使い方も一度見直した方が良いかもしれない。
火力を上げると、それが扱い方が向上した結果なのか、装備の強化のお陰なのかが判別しにくい。そのため、今までは強化をあまりやらなかった。
だが、それでいざ強敵と対峙したとき、火力不足で手も足も出ないようでは話にならない。そう考えて神機の強化をすることにした。
「だね。それとも新しい装備を作る?今気になってる装備とかあるなら簡単に説明するけど?」
「刀身は氷刀に強化で。あとは…銃身はガストラフェテスってのが気になってるかな?カタログ上は貫通系の威力が高くなっていて、他はからっきしみたいだったけど…」
予め刀身の強化先は決めていたので、そのまま強化してもらう。だが、今作れる銃身はどれもあまり差異が感じられなかった。どうしようか悩んでいたところ、針が鎧を纏ったような銃身を見つけ、スペックを確認すると貫通の攻撃力がずば抜けて高いものだった。それにするか迷っていたので、リッカに聞いてみる事にしたのだ。
「ガストラフェテスはかなりピーキーな銃身パーツだね。カタログ通り爆破や属性攻撃の補正は皆無だから、貫通属性に特化した銃身だね。一応爆破モジュールも使えるけど…威力は0に等しいよ。」
「破砕バレットが使えないのか…」
そう言うとユウキは険しい表情になる。今まで爆破レーザーを何度か使ってきていたのでここで破砕系の攻撃手段が失われるのは厳しいものがある。
「それでも爆風だとかで吹き飛ばす事は出来るからね。アラガミにミサイルを撃ち込むような感覚かな?」
リッカの例えを聞いて納得する。威力は無いが、吹き飛ばす事は出来るらしい。これならダメージは与えられないが、怯ませる事は出来そうだ。
「でも、神裂さんの神機構成なら破砕はインパルスエッジがあるので問題無いと思いますけど。」
カノンの発言を聞いて、リッカは何か思い出したような表情になり、ユウキは『何を言ってるんだ?』と言いたげな表情になる。
「確かに…インパルスエッジは刀身の機能で、銃身は発射口として使ってるだけだしね。」
リッカの説明を聞いて、ユウキもどういうことか察しがついた。いつだったかツバキから、インパルスエッジは剣形態のまま銃身を使うことが出来ると言っていた。
だが、その説明には多少の語弊がある。正確には刀身に搭載されたインパルスエッジ用のモジュールを『刀身』の機能で発射する。それを銃身を使って放出しているだけなのだ。これが結果的に剣形態のまま銃を使っているように見えるのだ。
カノンがそれを理解した上で話をしたのかは定かではないが…
「銃身の機能を使ってないから破砕攻撃は可能…と言うことか。これなら神機構成のコンセプトは崩れてない。」
ユウキは少し考える素振りを見せて、リッカの方を向く。
「リッカ。ガストラフェテスの制作、頼んでいいかな?」
「オッケー!任せてよ!じゃあ早速…」
リッカが作業台に向かうと…
『キュゥゥ~…』
可愛らしい音の腹の虫が鳴る。ユウキがカノンの方を見るが、カノンは首を横に振る。ユウキ本人も腹の虫が鳴ったような感覚はなかった。
ユウキとカノンがリッカの方を見ると、後ろからでも分かる程に耳まで真っ赤になっていた。
「リッカさん!良ければお昼ご一緒しませんか?」
「…うん。」
どうやら作業に集中しすぎて、ずっと食事を摂っていなかったようだ。リッカは真っ赤にしたまま振り向いて、一緒に食事にする事にした。
「あ、昇瀑の説明をしてなかったね。お昼食べながら説明しちゃうね。」
当初の予定にリッカを加えて、3人で食堂に向かった。
-食堂-
昼時を少し過ぎたせいか、食堂の中にはあまり人がいない。リッカはカレー、カノンはきつねうどん、ユウキは大豆肉の肉丼大盛り3杯、ジャイアント焼きとうもろこし5本、プリンを注文して席につく。
「前も思いましたけど、たくさん食べますね。やっぱり男の子なんですね!」
「うん…すごい量だね。その細い体のどこに入るんだろ…」
「どこって…そりゃあ腹のなかでしょ?」
ユウキの食事量を見て、カノンとリッカがそれぞれ感想を言う。だがそれに対するユウキの答えは少しずれたものだった。
「まあお陰で配給の食料は1週間位で無くなっちゃうけどね…」
食堂では、配給の食料を予め渡しておくことで、その食料を使って料理を作ってくれるのだ。多少料金はかかるが、料理ができない、する時間が無い人にとってありがたいシステムではある。
「さて、食べながらで悪いけど、解放の許可が出た昇瀑の説明をするね。」
話が一区切りついた所で、リッカがプレデタースタイル『昇瀑』の説明を始める。
「昇瀑は鎌のような形をしてるよ。下から切り上げるように捕食することを想定して設計されているから、普通に展開すると上向きに鎌が延びるように展開されるから、向きに注意してね。」
「うん。わかった。」
どちらにしてもこの後は訓練室に籠る予定だ。そのときに確認すればいいだろうと、ユウキは考えた。
すると今度はカノンが話を振ってきた。
「前のミッションでも見ましたけど、プレデタースタイルってたくさんあるんですね。可愛い捕食形態があるといいなぁ…」
カノンは可愛いプレデタースタイルを想像して、少しニヤケ顔になる。自分は捕食形態を展開できないので、想像して楽しんでいるのだろう。
-エントランス-
昼食を済ませて訓練室の使用状況の確認のため、ヒバリの元に向かう。階段を降りたところで、カウンターから離れた所でタツミとコウタが話ているのが見え、カウンターにはアリサとヒバリが一緒にいるのが見える。
「やっぱりアナグラで一番彼女にしたい娘って言えばヒバリちゃんだろ!」
『あ!でも付き合おうとか思うなよ!ヒバリちゃんは俺のだからな!』とコウタを牽制する。それに対してコウタは難しい顔をして、タツミに反論する。
「でも、サクヤさんのお姉さん的な感じも良いし、アリサのちょっと生意気な感じも悪くない…ツバキさんの大人の魅力も捨てがたいんだよなぁ…」
「いいや!ヒバリちゃんが一番だね!誰がなんと言おうとヒバリちゃんが一番可愛い!!」
コウタの意見に対してタツミが猛反発した。そんな2人をアリサとヒバリは冷ややかな目で見ている
「タツミさん!お願いですからそんな話をここでしないでください!!」
「…ドン引きです…」
ヒバリが羞恥で顔を真っ赤にして怒り、アリサはいつだったかコウタに向けた時と同じような目で2人を見ている。
「何してるの?」
ユウキがアリサに話しかけると、アリサとヒバリが振り向いた。
「アナグラで一番彼女にしたい娘は誰かって話みたいですけど…正直、こんな人の集まる場所でするような話じゃないと思うんですけど…」
すると、タツミがユウキに気が付く。ユウキがアリサに返事を間もなく、ユウキをタツミとコウタの話に引き込む。
「なあ!神裂もヒバリちゃんが一番だと思うだろ!?」
「ファッ?!?!!」
ユウキはその話題に引き込まれるとは思っていなかったので、素っ頓狂な
声をあげる。
「じゃあ、質問を変えようか。ユウキはどんな娘がタイプ?アナグラ内で彼女作るとしたら誰がいいとかでもいいけど?」
コウタの質問を聞いた途端、ユウキは漫画のように目をぐるぐる回して、顔が真っ赤になった。この手の話には免疫が無いようだ。
ユウキに話題を振った瞬間、アリサがピクリと反応した。
「えっと…そんな事言われても、今まで考えた事が無かったから…よく分かんないかな?」
どうにかして逃げようと、無難な答えを言ってその場を乗り切る。…筈だったのだが…
「そんな曖昧な答えで逃げようったってそうはいかないよ!」
そう言うとコウタはユウキに詰め寄り、逃げられないような雰囲気を作り出す。
(ユウキの好きなタイプ…どんな人なんでしょうか…)
アリサはそんな事を考えながらユウキをガン見していた。
「う…えっと…り、料理が出来る人…かな?」
「なるほど、家庭的な人がタイプか…ヒバリちゃんも候補に入ってるじゃねえか!神裂!ヒバリちゃんに手を出すなよ!!」
ユウキの好みを聞いたタツミが騒ぎだし、コウタは『家庭的な人か…いいよな!』等1人で色々と語っており、ヒバリは何やら同情の目線をユウキに送り、アリサは何やら考え込んでいる。ちなみにユウキは真っ赤になって俯いている。
「も、もういいでしょう!ヒバリさん!訓練室の使用許可お願いします!!」
ユウキが大きな声で用件を伝えると、逃げるように訓練室に向かった。
(料理ですか…やったことないけど…レシピ通りにやれば大丈夫でしょう…)
ここまで考えると、何でこんな事を考えるのか疑問に思い始める。
(いや、ユウキがどんな娘がタイプでもそれは本人の自由であって、私が気にする事ではないはず…)
そう考えていると、タツミとコウタが今度は家庭的な人の候補をあげ始めている。
それを見てアリサとヒバリは再び冷ややかな目線を送り始めていた。
-サクヤの部屋-
現在、時計は夜の8時を指している。サクヤはこの日、ずっとターミナルを操作していた。その傍らにはリンドウのものと思われるデータディスクが置かれている。
「はぁ…」
結局、一日使って様々な方法を試したが、ロックを開けることはできなかった。これからどうするか考えていると…
『ビー!』
突然、呼び鈴がなる。誰が来たのか確認のため、サクヤは返事をする。
「はい。誰ですか?」
『夜分にすいません。私です。アリサです。』
スピーカー越しにアリサの声が聞こえる。
「アリサか…そんなとこじゃなんだし、入って。」
『失礼します。』
そう言うと、サクヤの部屋の扉が開いて、アリサが入ってくる。サクヤがコーヒーを入れて、ソファーに座る。
「調子はどう?」
「お陰さまで、もう大丈夫です。」
「そっか…よかった。」
しばらく沈黙が続き、再びサクヤが話始める。
「やっぱり、貴女は強いわね。」
「そんなこと…ユウキや皆さんのお陰です。」
「ユウキやコウタたちの前でもそれくらい素直ならいいんだけど。」
「それは…なんだか恥ずかしいです…」
そう言うとアリサは少し赤面する。照れや、変なプライドから素直に礼を言うのが照れ臭く思うのだろう。特にコウタはライバル的な存在であるため、特に言いにくい。
「それにしても、『ユウキ』と皆のお陰なのね?」
「私の復帰できたのは、ユウキの存在が大きいですから…」
「そっか…本当なら私が一番しっかりしないといけなかったのに、最近あんなだったから…ユウキが貴女の事、色々面倒見てくれたから本当に助けられたわ…」
サクヤの煽りに対して、特に表情を変えることなく受け答えする。これを見て『たぶん無自覚に気になってるんだろうな』とサクヤは考えた。
ついでなので明日アリサに話そうと思っていた事を話すことにした。
「それはそうと、貴女に伝えておくことがあるわ。貴女と一緒に赴任してきた主治医、大車なんだけど…その…何をされたか聞いたかしら?」
「はい…両親の死を利用して…洗脳されたと聞いています…自覚は、ありませんでしたけど…」
アリサは復帰の少し前に、ユウキから感応現象で何でリンドウを撃ったのかを聞いていた。自身にはそんな自覚がなかったので、ショックを受けていたが、それは自身の心の弱さのせいだと自分を攻めた。それと同時に、現実を受け止めて、変わらなければならないと思って行動に移したのだ。
その結果、まだ多くはないが、アリサの変化を認めて、味方してくれる者も増えてきたのだ。
「その大車の足取りを追っていくと、所用でロシア支部に一時的に移動した後、極東支部に戻る途中にアラガミに襲われて戦死したって記録しか残ってなかったの。」
「そんな!!」
アリサが声を大きくして反応する。ようやく手がかりを掴めると思ったのに、その手がかりを持つ人物が都合良く死んだのでは釈然としないのは当然だ。
「残念だけど…やっぱり腑に落ちないわよね…」
サクヤの言葉を最後に、沈黙が流れる。
「サクヤさん…私にも手伝わせてくれませんか?」
だが、まだ手がかりを掴める可能性は0ではない。思わぬところから手がかりが出てくるかもしれないので、その手伝いをしたいとアリサが言ってきた。
「リンドウさんの一件は、私のせいで引き起こされたものです。何か償いがしたいんです。」
「ううん…これ以上貴女に償ってもらうことは無いわ…今回の一件にはきっと何か裏がある。たぶん、この事を追っていくのは危険だと思うの。」
サクヤの本心としては危険なことなので、あまり関わらせたくなかった。だが、当事者なのになにも分からないまま事態が収束したのでは、納得しないだろう。
「でも、貴女自身に関わることだものね。」
そう言うと、サクヤはディスクを取り出す。危険な事には関わらせたくないが、リンドウの遺したディスクを開く手伝いをしてもらうことにした。これならば危険な事に関わる直前で引き返させる事が出来るし、最悪何かの容疑をかけられる事もないはずだ。
「実はね、リンドウの置き手紙があるんだけど、開けられなくて困ってるの。これが最後の手がかり…そして、これを開くにはリンドウの腕輪が必要なの。協力してくれる?」
「はい!」
今後の方針が決まり、一息入れるためにコーヒーを飲む。
「それにしても、死んだ後もこんなに振り回されるなんてね…」
「|оре не море, выпьешь до дна.《ゴーレ・ニェ・モーレ、ブイピエシ・ダ・ドゥナー》」
突如アリサがロシア語で何かを言ったが、サクヤにはわからないので、何を言っているのか理解できなかった。
「それは?」
「悲しみは海にあらず、すっかり飲み干せる…ロシアの古くからある諺です。」
「ありがとね…アリサ。」
「いえ、気にしないでください。」
そのあと、何故か2人して笑いだしてしまった。確証は無いが、真実に近づける。そんな気がしたため、どこか緊張の糸が切れてホッとしたのだろう。
「あ、そうだ。ユウキにも大車の事を伝えてくれるかしら?私に大車の事を教えてくれたのはあの子なの。」
「わかりました。」
そうして、2人はしばらくの間談笑した。
-同時刻、支部長室-
アリサがサクヤの部屋を訪れた頃、支部長室で大きめのモニターを見ているヨハネスがいた。画面には小さく区切られた窓のなかに人の顔が写っている。しかも、その顔が動いている事から、所謂ビデオチャットだと考えられる。
「さて、今回召集をかけたのは他でもありません。極東支部、保守局第一部隊の前部隊長…雨宮リンドウ君の戦死により、空白となったリーダーの席…そこに座るべき者が決まったので、その報告をさせていただきます。」
各部隊の部隊長は、ごく稀にではあるが、支部長会議への参加や本部や他支部に遠征に行くこともある。そのため、部隊長が決まると、本部と他支部の長に報告をする義務がある。
現在はその報告会が行われている。
『と言っても、リンドウ君に代わる人物がいるとすればサクヤ君かソーマ君ぐらいではないのかね?』
小太りの男、ドイツ支部の支部長はこの2人が次期リーダーになると踏んでいたので、2人の名前を出した。
だが、その予想は大きく裏切られる事になる。
「いいえ…私が次期リーダーとして推すのは…彼です。」
そう言うと画面に少女にしか見えない少年の顔と名前が写し出される。
『正気ですか?ヨハネス支部長…彼はまだ入隊して数ヵ月程度のはず。こんな素人にリーダーが勤まるとは思えませんが…』
金髪の厳しそうな雰囲気の女性、フランス支部の支部長が疑問を口にする。その発言を聞いた途端、各支部の支部長がざわめきだす。『何を考えているんだ』、『馬鹿げている』という批判の声が上がる。
だが、本部長『代理』は興味無さげに反応を示さない。
「その経緯についても説明しましょう。まず、先の2人がリーダーから候補から除外された理由ですが、ソーマは単純に協調性が皆無であること。そして、サクヤ君はリンドウ君を失ったことで、指揮官としてあるまじき判断を下したから…と言ったところでしょうか。」
『ではこの少年にはそれが出来ると?』
ガタイの良い黒髪の男、ロシア支部の支部長は皆が気になっている質問をする。
「ええ。彼は部隊が全滅しかけた状況で、冷静な判断を下し、部隊員を生還させた実績があります。さらには、戦線に出られなくなったアリサ君を介抱、復帰させることで、第一部隊を再起させました。」
『しかし…実力が伴っていないのではついてくる者もいないのでは?』
北京支部の支部長がもっともな意見を言う。これには他の支部長も同意見だった。
「なるほど…では、これを見ていただきましょう。」
そう言うと、とある映像が再生される。そこには大型アラガミを投げ飛ばしたり、2体のアラガミを捕食形態で持ち上げた後、万力で潰すように圧殺している等戦闘中の映像が流れている。
『こ、これは!!』
『本当に人間なのかこいつは!?』
再び各支部の支部長たちがざわめきだす。
「どうですか?まだ彼にはリーダーの素養が無いと思いますか?」
『『『…』』』
支部長たちの反論がなくなる。それを合意と見たヨハネスが話を続ける。
「では、明日正式に辞令を出しましょう。彼が…『神裂ユウキ』が新しいリーダーです。」
To be continued
長い…書き始めた時はここまで長くなる予定ではなかったのに…
今回は戦闘はあくまでおまけで、支部内の人たちの絡みがメインのほのぼの回(?)です。
この頃のアリサは主人公が気になるけどその感情が何なのかを理解していない娘ってイメージで書いてます。
そして原作でも若干の謎な采配の主人公がリーダーになった経緯も書いてみました。ちょっと支部長が主人公マンセーし過ぎているかも…
アリサの言ってた諺って結構有名なものらしいですね。調べてみると、他にも色々な諺があって驚きました。
台本形式から小説形式に変えましたが、見にくい、誰の台詞かわからないなど、台本形式に戻した方が良いという場合は教えていただけると幸いです。