-エントランス-
現在、時計は朝の7時半を指している。エントランスには総勢30人程の全ての神機使いが集合している。
これ程までに集まりが良い理由は、召集をかけたのがツバキ本人であることが挙げられる。厳格な教官として、多くの神機使いに恐れられているツバキの召集に応じないのであれば、あとでどんなお仕置きが待っているか想像もしたくない。
既に第一部隊を含めた神機使いの大半が集まっており、未だ来ていないのは数人といったところだ。
珍しくかなり早く集合したコウタが、退屈しのぎに隣に居るアリサに話を振る。
「神機使い全員に召集がかけられるなんて、珍しいよね…何か聞いてる?」
「いえ、何も…サクヤさんはどうですか?」
「1つ思い当たる節はあるけど…こんなに早く決まるとは思えないし…」
アリサの問いにサクヤが意味深な返事をする。その答えから、普通であれば時間のかかるような事らしいが、ユウキ、アリサ、コウタの3人には予想が付かなかった。
そのため、ユウキがその思い当たる節について聞いてみた。
「ちなみにその思い当たる節ってなんですか?」
「それは…」
「静粛に!!」
サクヤが答える前に、ツバキの声が響く。どうやら話に気をとられてツバキがエレベーターから降りてきた事に気付かなかったようだ。
ツバキの声がかかると神機使い達は皆一斉に話を止めて、静かになった。
「本日、全神機使いに集まってもらったのは、重要な通達があるためだ。」
ツバキの一言で辺りがざわめきだす。それほどまでの重要な通達とは何なのかを各々考察して隣の人と話したり、独り言として呟いている。
「静粛にと言った筈だ。」
ツバキの声が少し低くなっていて、その様子に気が付いた神機使い達が静まり返る。ツバキは全員が静かになった事を確認すると、再び話を始める。
「今朝、執行部から正式な辞令が降りた…神裂ユウキ!!」
「は、はい!」
ユウキは呼ばれるとは思っていなかったので、驚いて上擦った声で返事をする。
『問題行動をした覚えは無いのだが、実際には何かやらかしてのかも知れない。』そんなことを考えながら、公開処刑でもされるのかとビクビクしながら続きが話されるのを待つ。
「本日の任務の完了をもって…貴官を、フェンリル極東支部保守局第一部隊の隊長に任命する。」
「…ぇ?」
そんな思いとは裏腹に、ツバキが衝撃の事実を伝える。隊長に任命された本人は何があったのか理解が追い付いていないように、小さく声を漏らすだけだった。
「す、すげぇ…出世じゃん!!大出世じゃん!!」
ユウキの昇進を聞いてコウタが騒ぎだす。他の神機使いもそれぞれ言いたいことがあったが、ツバキの叱責を恐れているのか、今はなにも言わないようにしている。
「藤木コウタ!静粛にと言っただろう…?」
「あ、はい。すいません。」
ツバキの声に威圧感が込められている。その威圧感に圧されてコウタが即座に謝り、おとなしくなる。
「あ、あの…ツバk」
「でも、普通部隊長にはサブリーダーのサクヤさんがなるものでしょう!?こいつはまだ入って数ヶ月程度で…」
ユウキが弱々しいが反論しようとすると、他の神機使いの声に遮られる。大半の神機使いが思っていることをその人が代弁する。
「ほう…ではお前は、我々に人を見る目が無いと?」
今度はツバキが神機使いの言葉を遮る。その声には今までよりも強い怒気が込められており、その場に居る者全員が萎縮した。
「そ、そう言うわけでは…」
「神裂はリンドウの一件でリンドウの命令を遵守し、部隊員を生還さた実績がある。さらにはアリサの復帰に大きく貢献し、第一部隊を立て直した。」
怒気を込めたままツバキはユウキがリーダーに選抜された理由を話始める。
「その後も強くなる事を目的に、私を含め、多くの者に自ら頭を下げて師事を仰いだ。結果、ここ1月で異常とも言えるほどの早さで実力を付けた。お前たちが気落ちしている間に次に繋がる行動を執ったことが評価された。それだけのことだ。」
緊急時にも冷静に現状を分析し、部隊がとるべき行動を指示した事、アリサを支えて、部隊を再建した事、次に繋がるように強くなった事を簡単に説明した。その説明が終わる頃には辺りは静寂に包まれていた。
その静寂を状況を理解したと捉えて、一旦報告会を締める。
「第一部隊はこのあと別件で通達があるので残るように!では、解散!」
第一部隊を残してあとの神機使いはそれぞれの持ち場に戻る。皆去っていく者の大半が口々に『あり得ない』や『何か不正があったに決まってる』とこぼしていた。
そうしているうちにエントランスに残った神機使いは第一部隊のメンバーだけになった。
第一部隊全員が居ることを確認して、ツバキが用件を話す。
「先程も言ったが、神裂…この任務が終了したら、お前がリーダーだ。よろしく頼むぞ。」
「ホントスゲーよな!こう言うの何て言うんだっけ…下克上!?」
コウタは未だ興奮冷めやらぬ様子で、ユウキに話しかける。だが、話しかけられた本人は、表にこそ出していないがその事を気にする余裕さえ無いほどに動揺していた。
「…それ…裏切りですよ?」
「え?」
いつもならコウタの間違えた日本語の使い方にツッコミを入れるのはユウキなのだが、今回はアリサが訂正する。
「改めて、よろしくお願いします。まさに適任だと思います。」
アリサは祝辞を述べ、ふとサクヤの方を見る。すると、何やら難しい顔をして考え込んでいる事に気がついた。
(入隊して数ヶ月の新人がリーダーに…まさか、この子が?)
サクヤはユウキが権力欲しさに、リンドウを死に追いやったのではないかと考え始めた。
実際、サクヤを含め、大勢の神機使いがこの考えにたどり着いていた。リーダーのポスト欲しさにアリサを利用してリンドウを抹殺、その座を奪ったと疑われていた。
ユウキにそんな疑いをかけているとも知らずに、アリサがサクヤに声をかける。
「サクヤさん?どうしたんですか?」
「え?ああ…何でもないわ。リーダーか…ずいぶん頼もしくなっちゃったわね。君になら背中を預けられるよ。これからも、よろしくね。」
(バカね…この子がそんな事をするわけないじゃない…)
一度は疑ったが、今までアリサの復帰やアリサの誤解を解くなど、部隊の立て直しに力を尽くしていたことを思い出し、その疑惑を払拭する。
「早とちりするな。正式に任命されるのは今回の任務完了後だ。」
皆がもう既にリーダーになったとして話を進めるので、ツバキがリーダー就任の条件を再確認させる。
すると、今まで黙ったままだったユウキがボソリと呟く。
「…ツバキさん…辞退って…出来ますか?」
「「ユウキ!?」」
アリサとコウタはユウキの言った事が信じられず大きな声で反応する。すると、ユウキは弱々しく続きを話す。
「正直…自信がないんです…リンドウさんの時のような事がまた起きたら…その時、皆の命を預かる覚悟が持てないんです…」
ユウキの言うように部隊員の命を預かる事に尻込みをするのも仕方ないとも言える。今まで誰かに命を預ける側であった筈にのに、なんの前触れもなく命を預かる側になったのだ。自分の判断のせいで人が死ぬかも知れない…普通に考えると責任の方が大きすぎるのだ。
「残念だが、リーダー就任の件は執行部からの正式な辞令だ。辞退することは出来ないぞ。」
「…ですよね…」
しかし、ユウキの問いに対し、ツバキが返した答えはユウキが望むものとは真逆の答えだった。
だが、ユウキ自身も『正式な辞令』と言うことで、断る事はムリなのだろうと心のどこかで諦めていた。
「…確かにリーダーともなれば相応の権限を与えられるが、同等の重く大きな義務も負う事になる。神機使いとしての職分だけではない…部隊員全員を無事に生還させるという義務だ。それを重圧に感じて逃げ出したくなるのも分からなくもない。」
「…」
ツバキはリーダーとしての権利と責任について語るが、ユウキは相変わらず俯き、黙ったままだった。
そんなユウキを見かね、小さく溜め息を漏らしながらツバキは話を続ける。
「誰にでも任せられる訳ではない。我々がそんないい加減な考えでお前を選んだと思うか?」
「…いいえ」
その答えはユウキの本心から来るものだった。元々ツバキは厳格な人物と言う印象が強い事もあり、テキトーな人選でリーダーを選出したとは思えなかった。
「それに…お前は何のために頭を下げてまで強くなろうとした?」
(!!)
その時、忘れていた大事な事を思い出し、衝撃を受けたような感覚になる。
(そうだ…俺は、仲間を失いたくない…仲間と必ず生きて帰るために…強くなろうとしたんだ…)
頭を下げてまで強くなろうとした理由を思い出し、ゆっくりと顔をあげる。その表情に決意が見られるようになる。
「そうですね…もう…何も…誰も失いたくない…そのために強くなったんだ…」
そう言うユウキの目には強い意思が宿っていた。その様子を見たツバキは少し安心したように小さく溜め息をついて、今回の任務の概要を説明する。
「今回のターゲットは大型種『サリエル』だ。こいつはザイゴートと同様、普段から空中に浮いている。銃型神機使いは前線に出る者のサポートだけではなく、自身も攻撃の要であると自覚するように。それと、剣型神機使いは空中戦になる。敵の動きが怪しく感じたら装甲を展開するか、プレデタースタイルで前線から離脱する事も考えておくように。それから神裂とソーマには支部長から出頭命令が出ている。ソーマはこのあと、神裂は任務終了後に支部長室に向かうように。それと、最後に…」
ツバキはサリエルの特徴と大まかな対策と、ユウキとソーマへの通達を伝える。最後は少し声と表情を柔らかくして話を続ける。
「死ぬなよ。全員生きて帰れ。これは命令だ。」
リンドウと同じ命令を出す。全員もう居なくなったリンドウを思い出し、少し沈んでしまった。
「さあ!何をボサッとしている!持ち場に戻れ!」
こうしてリーダー就任を賭けた任務が始まった。
-鉄塔の森-
第一部隊はターゲットのサリエル討伐のため、鉄塔の森に来た。標的を探して徘徊していると、コウタが話しかけてきた。
「よくよく考えてみれば数ヵ月でリーダーになるって凄い事だよな!!」
「そうですよね。私もユウキになら安心してついていけます。」
「そうね。この短期間に部隊長に昇進だなんて初めてじゃないかしら?」
コウタの後にアリサ、サクヤの順で話しかける。だが、ユウキはそれを聞いている余裕はなく、サリエルを探すことに躍起になっていた。
すると、フィールドの奥にサリエルではないが、ザイゴートが3体が固まっているのを確認した。
「ザイゴートが3体か…俺が全滅させます。皆はオラクルの節約のため、サリエルが現れるまで待機だ。」
「え!?何言ってんだよ!」
そう言うとコウタの制止も聞かずにユウキが飛び出す。銃形態に変形して、ザイゴートを狙う。
『バンバン!』
ザイゴート2体を早撃ちで撃ち抜く。ガストラフェテスの高い貫通力で、1体のコアを貫通して倒した。もう1体も、コアにこそ当たらなかったが、貫通した傷口から、コアが見えるようになった。
『キュルルル!』
残りのザイゴートを倒す前に、ターゲットが現れた。その姿は青みがかった緑の体で、蝶と女性を合わせたような鮮やかな見た目をしたアラガミだった。額には細く縦に割れた瞳孔の黄金の目が特徴的だった。一言で言うなら、『美しい』と言う感想を持つものがほとんどだろう。
「全員サリエルへ!アリサは前衛!コウタ、サクヤさんは後衛でサポート!」
本来なら、傷をつけたザイゴートを接近しながら剣形態に変形して倒した後に、最後の1体を倒し、サリエルの捜索を再開するはずだった。
だが、途中でサリエルが乱入してきたので、当初の予定を変更して、待機していた3人にサリエルをしばらく引き付けてもらう事にした。
「「「了解!」」」
サクヤ、コウタ、アリサの返事を聞いて、ユウキはザイゴートを倒す事に意識を戻す。
指示を出している隙に、傷を負ったザイゴートが左側から喰おうと接近してきた。それを右に移動して、離れながら体を回転させて斬り捨てる。
すると、もう1体感に背を向けるようになった。がら空きになった背中に喰いつこうとザイゴートが口を開ける。それを神機の向きを変え、そのまま回転して最後のザイゴートを突き刺す。
全てのザイゴートを倒して、ユウキもサリエルに標的を移す。そこには少し離れたところで、サリエルに銃弾を撃ち続けるコウタとサクヤ、空中戦をしかけ、サリエルの胴体を斬るアリサがいた。
だが、サリエルの額の目に光が集まり、レーザーを放ってきた。そのレーザーはアリサを目掛けて飛んでいく。
(まずいっ!!)
アリサはそう感じて、咄嗟に装甲を展開する。レーザーを装甲で防御する。だが、衝撃を吸収しきれずに体勢を崩す。それでも綺麗に受け身をとって、着地する。
「「アリサ!!」」
コウタとサクヤがアリサに危険が迫っていることを知らせる。アリサが着地すると同時に、再び額の目に光が集まり、今度は周辺に拡散するレーザーを放ってきた。
着地の隙を狙われていたため、アリサには避けることができない。防御する時間は僅ながらあるが、このときはその事を考える余裕はなかった。
「させるかあああぁぁぁ!」
ユウキがシュトルムを展開してアリサを抱えて離脱する。
「アリサは後衛に!サクヤさんは最後衛、コウタは俺とアリサの間に!」
そう指示するとユウキは即座にサリエルに向かって走る。それを迎撃するように角度をつけながら追尾してくるレーザーを放つ。その間後衛には攻撃が届かなくなったのでサクヤは頭、コウタが胴体、アリサが足を狙う。ユウキがサリエルの足元にまで来ると、プレデタースタイル『昇瀑』を展開し、跳び上がりつつ捕食する。
それを確認して、コウタが射線をずらして射ち続ける。跳び上がったユウキは空中で体の外側に神機を振り、胴体を斬る。強化して作った氷刀が硬いはずの胴体を斬り、血を吹き出しながら傷を作る。
そのまま、左足で若干上から蹴りを入れる。このとき、力を加減してサリエルが怯む程度の力で蹴る。その衝撃で一瞬だけユウキが浮く。さらに怯んだ隙にレイヴンを展開し、捕食する。その時にも蹴りを入れて無理矢理怯ませる。
レイヴンの効果で再び浮く。その後、神機で斬り、蹴りを入れて浮き、レイヴンでもう一度浮く。これを繰り返し、サリエルは延々と怯み続けて空中戦を仕掛ける。結果、サリエルの胴体は傷だらけになり、スカートを破壊する。
『キュラアア!』
サリエルが怒りで活性化し、額の目が発光する。コウタが援護のために爆破弾を撃つが、鈍い音が響くだけだった。
「やべえ!オラクルが完全に切れた!」
オラクルが切れて攻撃手段がなくなったようだ。こうなるともうコウタには攻撃手段がなくなる。
「待ってろ!」
ユウキがそう言うと、サリエルの頭に踵落としを入れ、その衝撃でさらに上に跳び上がる。体を回転させてサリエルの頭を斬りつけ、結合崩壊を起こす。
そのあとサリエルが優雅に回転すると光の柱が現れた。ユウキはその直前にコウタの方に捕食口を展開して穿顎でコウタの方に飛ぶ。
『ガコン!』
ユウキの神機からオラクルが充填された大きな薬莢が排出された。それをコウタに投げて渡す。
「サンキュー!!」
コウタが神機に薬莢を装填する。その隙にサリエルが近づき大きく手を広げるて振り下ろす。
それを見た途端ユウキはコウタを抱えて後ろに下がる。その瞬間、紫の煙がサリエルの周辺に舞い上がる。恐らくザイゴートと同じ、毒煙だろう。
「サクヤさん!頭を!!」
「任せて!」
そう言うとサクヤはサリエルの額の目を撃ち抜き、サリエルが後ろに仰け反る。その間にユウキは近くの壁に向かい走る。
「アリサ!コウタ!足を爆破!」
「はい!!」
「りょーかい!!」
ユウキの指示に従い、アリサとコウタは足の下から爆破弾を撃ち込む。その衝撃でサリエルが飛びながらも仰向けになる。
その間に壁を蹴って高く跳んだユウキが神機を上段に構えて、サリエルと向かい合うようになる。
「くたばれぇぇ!」
ユウキの渾身の一撃がサリエルを両断した。ただ、サリエルも反射的に避けよう落としたので、偶然にもコアの破壊はされることはなかった。
その後コアを回収し、第一部隊は全員帰投した。
-エントランス-
極東支部に戻って来ると、帰ってきた安心感からか、ユウキは小さくため息をつく。
そんなユウキの様子を察したのかはわからないが、コウタが話しかける。
「これで正式にリーダー就任だね!おめでとう!」
「あ、ああ…」
その会話を聞いてアリサとサクヤも会話に参加する。
「本当におめでとうございます!これからも迷惑をかけてしまうかもしれませんが…よろしくお願いします。」
「そうね…どんなリーダーになるか、楽しみだわ!」
「ありがとうございます…」
めでたい話題ではあるはずなのだが、ユウキはどこか緊張しているのか、表情が固くなっている。
すると、コウタが何か思い付いたように『あ!』と声をあげる。
「どうせなら就任祝いにパーティーやろうぜ!」
「いいですね!」
『つってもみんなで遊んだりするだけだけど』とコウタが付け足す。そんな話をしていると、ソーマが下階から現れた。
「ソーマ!ユウキのリーダー就任のパーティーやるんだけど、来るだろ?」
「誰がリーダーでも俺には関係ない…ただ、リーダーの資質があるとすれば、それは死なないことだ。精々死なないように頑張るんだな…」
そう言うとソーマはエレベーターに乗ってしまった。
「なんだよ!あの言い方!来れないなら来れないでそう言えばいいのに!」
コウタが怒っていると、サクヤが申し訳無さそうに話かける。
「あ、ごめんコウタ…私もちょっと用事があって…お詫びと言ってはなんだけど食材とかレシピ本渡すから。準備ができたら渡しに行くね。」
そう言うとサクヤもエレベーターに乗っていった。
「あ!支部長から出頭命令が出てるんだった!ちょっと行って来る!」
「おう!エントランスで待ってるから!」
「待ってますね!」
コウタとアリサの声を聞きながらユウキはエレベーターに乗り込んだ。
-支部長室-
現在、支部長室ではヨハネスがユウキのリーダー就任に関係書類を読んで判を押している。あと数枚の書類に判を押せば、全ての書類の処理が終わると言うタイミングで呼び鈴が鳴り、スピーカー越しに待っている人の声が聞こえてきた。
『支部長。神裂ユウキ、出頭致しました。』
「ああ、入ってくれ。」
その後すぐに、『失礼しましす。』と言ってユウキが入ってきた。ヨハネスも書類の処理を中断してユウキと話が出来るようにする。
「まずは、祝辞を述べさせてもらおう。リーダー就任、おめでとう。それに伴い、階級も曽長に昇進することになった。」
「ありがとうございます。」
ヨハネスが定型文のような祝辞を述べ、ユウキはそれに対して礼を言う。すると、背凭れに寄りかかっていたヨハネスが前屈みになり、机に肘をついて両手を組んで口元を隠して話を続ける。
「もう気付いているかもしれないが、今回の任務は、君のリーダー就任の最終試験とも言えるものだった。だがその任務も、私の予想通り、滞りなく完遂してくれたようだ。」
ヨハネスは嬉々とした表情を見せ、再び話を続ける。
「さて…今回足を運んでもらったのは他でもない。リーダーの権限と、義務について話しておこうと思ってね。」
ヨハネスが本題に入り、リーダーの職務について説明を始める。
「まずは権限の強化だ。君にはリーダー専用の個室が与えられる。前リーダー…リンドウ君が使っていた部屋だ。その際、ターミナルにアクセスして、使用者権限を更新しておくように。今まで閲覧が許可されていなかった資料が確認出来るようになっているはずだ。」
「分かりました。」
今回の任務でリーダーに就任することが確定したため、それ相応の権利が与えられる。権限の強化自体は、任務終了が確認された時点でされているので、ターミナルで申請さえすれば権限が更新されるのだ。
「情報の開示、共有することを我々が決断した。この意味をよく理解しておいてくれ。云わばこれは…我々フェンリルからの信頼の証…願わくば、裏切らないで欲しいものだ。」
「わ、分かりました。」
睨む…と言うほどではないが、ヨハネスは目を細めてユウキを見る。要するに裏切るなと釘を刺している。その雰囲気にユウキは若干圧されていた。
だが、その口ぶりからはまるで過去に裏切られた事があるような言い方だった。
(もしかして…その裏切り者がリンドウさん?)
ユウキは過去に裏切った人物がリンドウではないかと考えた。そうなると、リンドウ抹殺に支部長が関わっている事になるが、確証がない上に、ただの憶測でしかない。
ヨハネスが次の話を始めたので、考えることを止めて意識を戻す。
「次は義務の方の話だが、君には通常の任務の他に、リンドウ君が遂行していた特務を引き継いでもらう。」
そこまで話すと、ヨハネスは顎に手を添えて考える様な仕草を見せる。
「支部長?」
「いや、すまない。今後、細かい指示は追って伝える。今日は君も疲れただろう…今はゆっくり休んでくれ。」
そう言うとヨハネスは姿勢を崩し、背凭れに寄りかかる。
「ご苦労だった。これからもよろしく頼むよ。」
「はい。それでは失礼します。」
そう言ってユウキは支部長室を出ていった。
To be continued
今回はリーダー就任のお話です。突然お前が新しいリーダーだって言われて動揺しない人っていないと思ったので、本小説では一度リーダーになるのを断ろうとする会話を捩じ込んでみました。これで会話の流れとかがおかしくなっていなければいいのですが…
原作をやってる時にこの話題が出てからサクヤさんの様子がおかしくなりだすので主人公がリンドウさん抹殺に加担していると疑われてるんじゃないかとずっと思っていました。正直、入って数ヵ月の新人がそんな待遇を受けるとそんな疑いをかけられてもおかしくはないと思います。
GEの人数に関しては独自の解釈です。第一、第二、第三部隊で11人は確定、あとは第四から第六で各隊4、5人+αと言った感じです。