-エントランス-
アリサを除いた第一部隊が任務を終えて極東支部に帰ってきた。だが、ソーマとコウタ帰ってくると即自室に戻ってしまった。
その原因は、任務終了後にソーマの棘しかない物言いにコウタがキレたというやり取りがあったためだ。そのせいもあって帰投中のヘリの中は最悪な雰囲気となっていた。
「はぁ…」
そんな状況を悲観して、ユウキは思わずため息を着いた。
「どうかしたの?」
そんな様子に気づいたサクヤがユウキを気にかけて話しかける。サクヤはソーマの態度に慣れているからだろうか、先程の空気をあまり気にした様子はなかった。
「…あ、いや何でもないですよ。ちょっと気疲れしただけです。」
サクヤが心配してくれたが、何でもないと言ったように振る舞ってごまかした。その後、『任務終了の報告してきます。』と言って、逃げるようにその場から逃げるように離れて、ヒバリに口頭で報告をした後に報告書を受け取って自室に向かった。
(リーダー…か…こんな状況でやっていけるのか…?)
自室で報告書を書きながらそんな事を考えていた。リーダーになったは良いが、肝心のリーダーとしての職分は中途半端どころか全くと言っていいほどこなせていなかった。
ユウキ自身、自分の現状を客観的に見てもリーダーとしては役不足であることは明白だと感じていた。
さらには先の任務中でのソーマの度重なる命令無視の理由も、少し時間が経って冷静に考えることができた。リンドウがリーダーだった頃は、態度こそ今と変わらなかったが、任務中に命令違反をすることはなかった。リンドウを恐れていたのか、或いは実力を認めていたためだと考えられる。ユウキはこの場合は後者だろうと考えて自分が周囲にリーダーとして認められていないと考える方が自然だと感じたためだ。
(仲間を使い、自分を使う…か…)
リーダー就任直後にツバキから送られた言葉を思い出す。その言葉は、自分に出来る事は精一杯やって、それ以上の事は仲間と共に事に当たるという意味なのだろう。そうしていくうちに仲間との間に信頼が生まれ、何時か強固な絆になる。ユウキはそう考えたが…
(今の俺はそれ以前だ…仲間を使うにも使い方を分かってない。)
ユウキ自身の実力と第一部隊の現状を考えると、チームとしての纏まりや評価は最悪とも言える。なぜなら、ソーマと他の隊員との間の不仲、ユウキがリーダーの座を奪ったとされる疑惑、そこから来るユウキをリーダーと認められない者達からの不信感等、問題は山積みだった。
不信感とリーダーとしての認知は、時間がかかるだろうが、今後実力を示すことで解決できるだろう。そうなると、部隊としての当面の問題は、ソーマと部隊員の間の仲を改善することになると考えた。
だが、こうなると自分はどう動いたらいいのか分からない、というのがユウキの本音だった。今までは相手側から話しかけてもらったり、輪にいれてもらっていたため、能動的に誰かと仲良くした経験はほとんどなかったのだ。
(リンドウさんと同じようにやった方がうまく皆をまとめられるのかな…?)
少なくともリンドウがリーダーだった頃は、ソーマが問題を起こしつつも、周囲も協力してくれていた事もあり部隊としてうまく回っていた。何もやり方が分からないのなら、前リーダーのリンドウと同じように部隊としてを運用すると良いのかと考えた。
(いや、あの部隊運用はリンドウさんだからこそうまくいっていたんだ。俺がやっても反感を買うだけだろう…それに、リンドウさんと同じじゃ…アイツは殺せない…俺がリンドウさんを越えて、その視点でチームの運用をしなければ…みんな殺される…!)
そう、リンドウのやり方は、周囲が彼の実力や人柄を認めていたからこそ上手くいっていたのだ。大多数から、実力も人柄も認められていないユウキが同じ運用をしても周囲からは受け入れてもらうことなどできないだろう。
しかも、仮にユウキがリンドウと同等の実力をつけ、周囲にそれが認められたとしても、リンドウと同じ運用ではあの一件のように、自分を含め、皆の命を危険に晒すことになる。皆と生き残る、周囲にリーダーとして認めさせる、どちらを最終目標とするにしても、リンドウを越えるということは最低ラインであるように感じた。
(なら…やることは決まってる…!)
丁度報告書を書き終えて、ヒバリに提出しに行く。その目は力強いが、どこか冷たさを感じる目だった。
-神機保管庫-
神機を受け取りに行くために、保管庫に入る。保管庫に入ると、ユウキの神
機を調整しているリッカがいた。神機の調整に集中しているためか、ユウキが来ていることに気がついていない。
「リッカ?」
「あ、神裂くん。もう神機使うの?」
調整を続けながらリッカが聞く。
「うん。あ、ひょっとしてまだ調整が終わらない?」
現在進行形で調整中であるため、まだ時間がかかるのは明白だ。
「あとちょっとだね。なんなら調整の間にプレデタースタイルの説明しちゃおうか?」
「お願い。」
調整も大詰めとなり、最終調整をしながら解放されたプレデタースタイルの説明をする。
「おっけ!なら『太刀牙』からね。太刀牙はチャージ捕食のように展開に時間がかかるから注意してね。その分、威力や手に入るアラガミバレットの数、捕食した際のバースト時間は大きくなっているよ。あと他のプレデタースタイルと違って広範囲を捕食することを目的にしているから、大きさもそれなりに大きいね。」
「なるほど…ほぼチャージ捕食と同じって事か。」
どうやら太刀牙は展開に時間がそれに恥じない威力と攻撃範囲を持っているようだ。
リッカはそのまま調整を続けて説明する。
「まあ、若干違うけどそう思ってもらって良いかな?じゃあ『鮫牙』の説明に入るね。鮫牙はシュトルムに似て前方に突撃して捕食するよ。形は平べったくて喰い千切る事に特化してるよ。相手の下を潜って捕食すると良いかもね。」
「分かった。」
鮫牙はシュトルムと同じように突撃しながら捕食するようだ。相手の下を潜るかどうかで使い分けると良いようだ。結果的にアラガミを喰い千切り、突き抜ける事が出来るようだ。
「…よし。調整完了!起動試験の後に訓練室に持っていくから、先に行ってていいよ。」
「ああ。お願い。」
そう言うとユウキは保管庫を出て訓練室に向かった。その途中にある訓練室に通じる廊下に2人の人物がいる。シュンとカレルだ。
ユウキには気がついているようだが、動く様子はない。その間を抜けて通りすぎようとする。
『ガン!!』
ユウキが横切ろうとした瞬間、その行く手を阻むようにシュンが足で壁を蹴る。
「よう!人形…いや、卑怯者って言った方が良いか?」
「…何の事ですか?」
人形とはさんざん言われてきたので認知しているが、卑怯者と言われるようなことをした覚えはない。ユウキは何の事か疑問に思いつつも、いつもより低い声で返事をする。
「今回の件はお前の実力が認められた訳じゃない。偶然リーダーの席が空いただけだ。よく覚えておくんだな。」
「そうだぜ!でなきゃお前みたいな素人がリーダーに選ばれるわけねぇんだからよ!」
「…」
シュンとカレルの会話に対してユウキは無言で返した。わざわざ嫌味を言うために、こうやって空いている時間を消費してまでユウキを待ち伏せしているのかと思うと、呆れて何かを言う気にもならない。と言うのがユウキの心情だった。
さらには、早く訓練に行きたいにも関わらず、こうやって足止めをされていることもあり、この瞬間もユウキはものすごくイラついていた。
「とにかく、リーダーになったからって全員が着いてくると思うなって事だ。」
そんなユウキの様子を察することも無く、カレルは話を続ける
「まあ、俺には関係ないがな。報酬が良さそうな任務があったら呼べよ。何時もより稼がせてやるよ。」
要するに、『お前の都合はいいから、金回りの良い任務には呼べ。』という事だろう。ユウキにとって、そっちの都合こそどうでも良いものだったので、ここでもさらにイラついていた。
「そーゆー事だ!ま、新型の女みたいなろくでもない女を利用してリンドウさんを殺した様な奴だ。誰からも信用なんてされねえだろうがな!」
シュンは誰にも信用されずに苦労するところを想像したのか、ゲラゲラとユウキを小バカにするように笑い出す。すると…
『バゴンッ!!』
突如ユウキの左腕が鋼鉄の壁を突き破った。
「…うるせぇんだよ…黙ってろゴミ共…」
まるで地獄の底から響いてきたような低い声を出し、普段の女顔からは想像できないようなおぞましい表情を2人に向ける。その瞬間、カレルは心臓を掴まれたような感覚を覚え、本能的に危険を察知した。だが、シュンはそうは思っていないらしく、ユウキの物言いに腹をたてて噛みついてきた。
「あぁ?!生意気なんだよ!後輩の癖に!」
「…あ"?テメェの耳は飾りか?黙ってろってのが聞こえなかったか…?」
ユウキの口調がいつものような丁寧なものではなく、乱暴で、非常に攻撃的な口調に変わった事にシュンもようやく気づいた。さらに、視線だけで人を殺せそうな程の濃い殺気を宿した目を見たことで、シュンも押し黙る。
「俺が気に入らないなら好きに言えばいいさ…実力もこれから示して認めさせる…だが…」
ここでユウキは一旦言葉を区切る。そして、さっきよりも濃くなった殺気を放ち次の言葉を紡ぐ。
「過去の過ちを認め、必死に変わろうとしているアリサを罵るのなら…貴様達から潰すぞ…!」
それはまるで死刑宣告とも言える様な迫力だった。どうやらユウキ自身を罵った事よりも、自分を出汁にアリサを罵った事に対して怒りを覚えたようだ。そのあまりの迫力にシュンもカレルも黙ってしまった。
2人からの反応が無くなったところで、ユウキが大きくため息をついて話を続ける。
「もういいか?いい加減邪魔だ…その汚い足を退けろ…」
そう言うと、ユウキはシュンの足を掴んで後ろに投げ飛ばした。
「がっ!!」
シュンは勢いよく投げ飛ばされて背中から叩きつけられた。だが、カレルはその場から動くことができず、ユウキが訓練室に入っていく事を止めることができなかった。
-アリサの部屋-
ユウキ達の1時間後に任務が終了し、自室で報告書を書き終えたアリサがふと任務の内容と自分の帰還を報告していなかった事を思い出した。
(あ、そう言えば、ユウキに任務の事を伝えていませんでしたね…)
特に何かあった訳ではないが、上官が参加した任務の後に行われた警戒任務だったので、報告した方が良いと考えたためだ。
(訓練室に居るんでしょうか?)
先日、ユウキが訓練漬けの生活を送っていると知ったので、訓練室にいると思い、報告書の提出ついでにヒバリに聞いてみることにした。
エントランスにつくと、アリサの予想通り、ヒバリがカウンターにいた。早速報告書の提出ついでにユウキの居場所を聞いてみた。
「ヒバリさん。ユウキは訓練ですか?」
「はい。今は…第2訓練室ですね。訓練中なので管制室に向かってください。」
「分かりました。ありがとうございます。」
そう言ってアリサはエントランスから出ていった。向かう先は第2訓練室の管制室だ。
-管制室-
アリサが管制室に入ると、すでにツバキがいた。何時ものように堂々と仁王立ち(?)しているのかと思いきや、右手を訓練ホログラムの制御パネルに置いていた。
「…ツバキさん?」
「アリサか、神裂に何か用か?」
「はい。ユウキに伝えたい事…が…」
そのとき、アリサの視界の端にユウキが訓練している様子がチラリと目に映った。しかし、そのチラリと映った光景だけでも訓練としては異常だった事はすぐに理解できた。
「な、何ですかこれ!!こんなのただのリンチじゃないですか!!今すぐ止めてください!!」
ユウキは現在、大型種はもちろんの事、中型、小型種に囲まれている。軽く見ても10体はいる。そんな状況下で、常に攻撃され続けて、それをいなし、反撃する。そしてアラガミが倒されれば即座に補充される。これを規定の数のアラガミを倒すまでやり続けいるのだ。
「…あいつが自分から望んだことだ。自分がリンドウを越えねば皆を失うと言ってな…」
「そんな…」
かく言うツバキも本来はこんなことをさせるつもりはなかったのだが、ユウキが最短最速で実力をつけるため、どうしてもこのやり方以外ではダメだと言って聞かなかったため、最後にはツバキが折れたのだ。
その証拠に、ツバキの手は緊急停止ボタンの上に置かれている。万が一の事態になった場合、即座に行動に移せるように待機しているのだ。
アリサが心配しつつもユウキの訓練を見守る。
(チッ!!展開が遅い!使いどころを見極める必要がある!)
アラガミの真ん中で太刀牙を展開するが、聞いていた通り展開に時間がかかる。ここだと思った瞬間にはもう遅く、敵は次の行動に移してしまう。そのため、敵の動きを先読みして使うか、完全に動きを止めてから使う必要があるようだ。
今回は敵の攻撃を避けつつ、どうにか展開する事に成功する。すると、顎が大きく外れた様な捕食口が展開された。さらに体ごと回転することで、自身の周囲のアラガミを一斉に喰い尽くしてバーストする。
その瞬間、次のアラガミが出現する。今度は一番近くに現れたヴァジュラに対して鮫牙を展開する。
すると、神機が勝手に下に下がり、咄嗟に股下をスライディングの要領で潜り抜けて捕食した。
(勝手に地面スレスレのところを行くのか…図体のデカイヤツにしか使えない!)
今回解放されたプレデタースタイルは使いどころを間違えなければ強力な武器となるが、それ故に、使う場面を選ぶのだ。どちらかと言うと汎用性を重視しているユウキでは少し扱いづらいものとなっている。
そんなことを考えながら、切り上げ変形でザイゴートを両断する。そのまま空中でシユウの頭を撃ち抜き、着地の間に剣形態に変形する。だが、変形の隙を狙ったかのように、先程捕食したヴァジュラが突進してくる。剣形態に変形しきる前に攻撃されたため、横に跳んで回避するしかなかった。
そして変形が終わると、ユウキの方に振り向いたヴァジュラを下から真っ二つに切り裂いた。
「神裂!!変型が遅いぞ!!いつまで同じ所で躓いている!!」
(クソッ!変型に時間をかけすぎだ!未だに1秒も切れないようじゃ…!)
特訓を始めた当初から課題とされていたが、未だ変形には2秒足らずの時間がかかっていた。以前からの課題である変形時間を1秒切るという目標を達成するには程遠いものとなっている。ちなみに初めの頃は変形に3秒程度の時間がかかっていた。
「これで何度目だ!!いい加減学習しろ!!神機はお前の手足だ!変型の時間などいくらでも短縮できると言っているだろう!」
(神機は己の手足…分かっているけど!)
どうやってこの壁を越えるか、敵の攻撃をいなして反撃しつつも考える。そんな中、ユウキは神機は手足と同じという言葉が頭に引っ掛かっていた。
(手足…なら…もしかして変型の手順も変えられる…?)
手足とは本人の自由に動かせるものだ。動かす距離や力の入れ具合、そして動かす手順も本人の意思で好きなように変えることができる。神機が手足に等しいと言うのなら、変形方法さえも自由に変えることができるのではないだろうかとユウキは考えた。
(よく見ろ…デフォルトの変型手順の無駄を探せ…そこを1つずつ潰していけば…!)
そう考えながら、敵の攻撃を避けつつも神機の変形の様子を観察する。
(まず装甲が開く…そして銃身と刀身が開く…そして両方延びた後に回転…刀身と銃身が入れ替わったったら収納、最後に装甲が回転してもとに戻る…)
攻撃を避ける事よりも神機の変形を理解するする方に集中する。その甲斐あってか、神機の変形にある特徴があることが分かった。
(そうか…全ての動作が完了した事を確認してから次の動作に移っている。しかも、1度の動作で1つの動きしか出来ない…これじゃあ無駄だらけだ!)
デフォルトの変形では、安全かつ確実に変形させるため、1つの動作の完了を待ってから次の動作に移っていた。
(装甲の開きは最小限に…その後刀身と銃身を最小限に開きながら回転…同時に装甲も回転、そして装甲を戻す…)
ユウキは攻撃を避けながら、思い付いた方法全てを1度の変形で試し、変形時間が短縮できるような変形方法を模索していく。それこそ手足の指を動かすように、考えられるだけの方法で変形手順を変更していく。
(これで…どうだ!)
飛び上がりながらザイゴートを切り裂いて、刀を納刀する要領で銃身に変形しつつ構え、そのまま後ろにいるシユウの頭を撃ち抜いた。
この動きを可能にしたのも変型スピードが1秒にまで縮まった事が大きい。これによって、さっきよりもより鮮やかに敵を倒せるようになった。
「動きが…変わった?」
「変型スピードが速くなった…ようやく掴んだようだな。」
そのまま着地して一気にシユウに近づく。その後、頭部を失ったシユウの真上に跳ぶ。そして破壊した頭部の上から銃身で攻撃して、内部を直接攻撃してコアを破壊する。
(そうだ…こんなところで立ち止まれない!)
神機を振りながら変型してコンゴウを上下に切り捨てる。
(生きる…生きてやる…絶対に…生き延びてやる!!)
そのままコンゴウを踏み台にして前に跳び、ヴァジュラを切り捨てる。
「ああああああ!!!!」
ユウキは雄叫びをあげながら辺りのアラガミを切り捨て続けた。
-5日後-
あの後、いつもなら訓練は深夜の0時までだったが、この日は誰も監督者が居ないにも関わらず0時を過ぎても訓練を続けていた。
リーダーに就任してからは0時を過ぎて訓練する事が当たり前になってきていた。だが、その甲斐あってか、リーダーに就任後も相変わらず戦闘能力は伸び続けている。
最近では仲間の特徴を掴むため、任務中でも部隊員の動きを意識して、理解しようとしている。その結果、なんとか部隊と言えるような運用が出来るようになってきていた。
そんなユウキの活躍を認める者も、1人2人程度だが増えてきたため、上からの評価も少しずつ上がってきていた。
そんなある日、ユウキはヴァジュラとコンゴウの討伐任務を終えると、支部長から呼び出しがかかった。何の話か分からないが、任務が終わるとすぐに支部長室に向かい、ヨハネスと話をする。
「最近の君の活躍は、目を見張るものがある。この短い期間にチームを束ねるほどの存在になるとは…新型の面目躍如と言ったところか。」
「…いえ、今の私では部隊を纏める事さえままならない状態ですよ。」
ヨハネスはここ最近のユウキを含む、第一部隊の急激な成長ぶりを見てご満悦なようだ。だが、実際には部隊員個人の能力が上がっただけで、未だにチームとして機能させるのが精一杯と言った状態だった。
「ふっ…謙遜する必要はない。私の見立てでは、リンドウ君にもう二歩及ばないと言ったところだと思っている。」
ヨハネスは詳しい現場事情は分からないが、ここ最近の第一部隊の仕事の成果を見て、素直な感想を述べた。
「さて…知っているかもしれないが、もうすぐエイジス計画の第一段階が最終段階に入ろうとしている。」
ヨハネスが目を細め、いつも以上に真剣な雰囲気で話を続ける。
「エイジス計画の第一段階…この段階で先行して極東に住む人々をエイジスに収納し、最終的には全人類を収納する。」
「まずは極東の人たちを収納しつつ労働力とし、その後全人類を収容する規模に拡大する…と言ったところでしょうか。」
「概ねその通りだ。こうして人類をアラガミから守るための方舟…その基礎となる部分が、もうじき完成するのだ。実に喜ばしいことだ。」
真剣だが、その声にはどこか弾んでいる様に感じた。人類をアラガミの脅威から守る理想郷『エイジス』を作り上げる。その使命に心血を注ぎ続けた結果がもうすぐ花開くのだと思うと、喜びから口調が弾むのも仕方ない事だろう。
「もう少し…もう少しだけ君たちの力を貸してくれ。」
『ビー!!』
ユウキの返事を待つよりも早く、部屋のコール音が鳴る。ヨハネスはデスクの端末を操作して、誰からの呼び出しか確認する。
「すまない、来客のようだ。何にしても、今後の君たちの活躍に期待しているよ。話は以上だ。下がりたまえ。」
そう言われると『失礼しました。』と言って支部長室を出ていった。すると部屋を出た先にはペイラーが支部長室に向かって歩いてた。どうやら来客と言うのは彼の事らしい。
ユウキが支部長室から出てきた事に気が付いてペイラーが話しかけてきた。
「やあ、邪魔しちゃったかな?」
「いえ、別にそんなことないですよ。」
ユウキは声をかけられたので軽く世間話をする。
「君は好奇心旺盛な子かな?」
「え?」
すれ違い様にペイラーが何の脈絡もない言葉を投げてきたため、ユウキは困惑したが、当の本人は既に支部長室に入ってしまったのでそのまま訓練室に向かおうと踵を返す。
『ガリッ』
さっきのは何だったのかと思いながら歩き出すと、何か踏んだようだ。足元を見るとデータディスクが落ちていた。手に取って踏んだ事による損傷が無いことを確認すると、ふとペイラーの言葉を思い出す。
(まさか…見ろってこと?)
さっきの言葉の後に落としたデータディスク、偶然にしては出来すぎているように思え、まるで好奇心に負けて中身を見るのを期待しているようだった。
ただし、見るのならあくまで自らの意思で見ろと言うことだろう。見た後の事は責任を取れないと言った意味に聞こえた。
そんなことを考えながらユウキは拾ったディスクを眺めながら一旦自室に戻っていった。
「やあ、君だったのか…ペイラー。」
「ヨハン。あの子も飼い犬にする気かい?」
「なんのことかな?」
ペイラーが支部長室に入って口を開いた瞬間から剣呑な空気が流れた。親友同士の会話とは思えない、腹の探り合いが始まった。
「それより、お願いしていた例の件だが、その後報告を受けていないが?」
「ああ、『特異点』のことかい?残念ながらまだ手掛かりはない。」
「そうか。あれは計画の要だ。引き続き頼む。」
どうやらヨハネスは『特異点』と呼ばれるものを探しているようだが、捜索は難航しているらしい。それを表すように、声には僅かに苛立ちが込められていた。
「君は君で探させているようじゃないか…そっちはどうなんだい?」
「やはり、ソーマ1人ではままならないと言ったところだ。」
ペイラーの捜索だけでは足りないと判断したのか、あるいは最短最速で手に入れる必要があるのか、自分でも探しているらしい。
「それであの子も、手駒に引き込もうと考えたわけかい?」
「少しは言い方を考えて欲しいな、博士。君はいつも通り、『観察』に徹してくれればいい。」
どうやらソーマだけでは人手不足らしく、ユウキを引き込むことで人手を補うつもりだったようだ。
だが、その事に対するペイラーのコメントが刺のある口調だったため、ヨハネスの口調も刺のあるものに変わっていた。
「ああ…私にとって森羅万象は観察の対象さ。だからこそ、興味深い観察対象を無駄にして欲しくないだけさ。」
「ご忠告ありがとう。『スターゲイザー』…これからも『我々』の成す事を見守ってくれたまえ。」
親友のはずが、最後のヨハネスの一言はどこか他人行儀で仲が良いようには見えないものだった。
ペイラーも最後の言葉には返事をすることなく、踵を返して部屋を出ていった。
「さて、君はどちらについてくれるかな?…『新米リーダー君』…」
ペイラーは支部長室を出た後に、意味深な独り言を呟いた。
To be continued
前回はリーダー就任に関して肯定的な部分を書きましたが、今回は否定的な部分を書いてみました。素人がいきなりリーダーになるなんて普通は批判の対象になると思いますが、これでもまだ軽い方です。
原作でも支部長と博士の腹の探り合いのシーンは結構印象に残ってました。GEシリーズももうこんな腹の探り合いは無いんだろうな…
そして、主人公のおっかない一面をちょっとだけ見せてみました。あれですよ、大人しい人ほど怒らせるとヤバイってやつです。シュン、カレル、すまん…
良くも悪くも彼らは人間らしい人間だと思っているので、思っている事は素直に言わせるつもりです。
あ、本編中には書いてないですが、壁に穴を開けた事で主人公はツバキさんにメチャクチャ怒られてます。