GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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ソーマの過去とオラクル細胞の可能性について博士が語ってくれる回です。かなり独自解釈が入っているので注意です。


mission28 神酒

『いよいよ明日ね…早く産まれてきてね、ソーマ。』

 

(…誰だ?)

 

『ソーマ?確かインド神話の…もしかして子供の名前か?』

 

(…分からない…)

 

『ええ。ごめんなさい。勝手に決めちゃったわ。』

 

『いや、人々に生きる活力と長寿を与える神酒の名…この時代に希望を与える者にふさわしい素敵な名前だと思うよ。』

 

『フフッ…ありがとう。明日はよろしくね。』

 

『ああ。』

 

(温かい…)

 

『貴方は…この世界に…福音をもたらすの…お願い…どうか世界を、皆を…守って…あげ…て…』

 

『お前は全てのアラガミを滅ぼすために産まれたのだ…いいか、あれらを殲滅しろ!』

 

(勝手に期待するな…)

 

『基礎代謝が普通の子供と比べて異常なまでに高いですね。』

 

(知らない…)

 

『あの子、8針も縫う様な怪我をしても、次の日には傷が完全に塞がってるのよ…人間じゃないわ…』

 

(聞きたくない…)

 

『聴力も無駄に良いから聞こえるわよ?後でばれたらドクターになに言われるか…』

 

(何で俺なんだ…)

 

『あいつと分隊組んで生き残った奴っているの?』

 

(止めろ…)

 

『今度はリンドウさんとか…洒落になんねえぞ…』

 

(止めろ…!)

 

『ねえねえ!ドクターから聞いたんだけど、あなたのお母さんって、あなたのせいで…』

 

「うるせえ!!」

 

「きゃあ!!」

 

 ずっと動かなかったソーマが突然顔を上げて怒鳴る。一番近くにいたアリサが驚いて身構えた。

 だが、怒鳴ったソーマ本人も何やら驚いているようだった。

 

(ゆ、夢…か…)

 

 現在朝8時、鎮魂の廃寺の待機ポイントでユウキ、ソーマ、コウタ、アリサの4人が任務開始時刻を待っている状態だった。そこでいつの間にかソーマは眠ってしまったようだ。さっき見た嫌なものは夢だったと直ぐに理解して、小さく溜め息をついた。

 

「び、びっくりさせないでください…」

 

「大丈夫ですか?魘されてたみたいですけど…」

 

「…ああ…」

 

 大丈夫だったので、そのように返事をする。実際、このような夢は何度も見ているので、気分は優れないが体調等は問題無かった。

 すると…

 

「お!何かやけに素直だな。」

 

「…うるせえ。」

 

「うん。いつも通りだ。大丈夫でしょ!」

 

 素直に大丈夫と言ったのが余程珍しかったのか、コウタが茶化す。それが不快に思ったのか、いつもと同じようにぶっきらぼうに返事をする。

 その様子を見たコウタが、いつもと同じように見えたので大丈夫だと判断した。

 

「ユウキ、そろそろ任務開始時刻だろ?行こうぜ。」

 

「え…あ、ああ。」

 

 コウタに出撃を促されたが、ユウキは空返事で返す。その後にコウタが待機ポイントから飛び降り、後からアリサが飛び降りた。

 そのあともしばらくソーマは座り込んだままだった。気のせいか表情が険しい気がする。

 

「ソーマさん…本当に大丈夫ですか?顔色が良くないですよ…?」

 

「お節介なら止めろ…鬱陶しい。」

 

 そう言うとソーマはユウキを残して待機ポイントから飛び降りた。ユウキも少し間を置いて飛び降り、任務を開始する。

 今回の任務はボルグ・カムランとコンゴウ堕天種の2体のコアを『必ず』回収する事だ。もうすぐエイジス計画の第一段階が完了すると言うことで、追い込みをかけたいのだろう。

 ちなみに、コンゴウ堕天種については事前にターミナルで情報を仕入れて来ている。

 動きに変化は無いが、空気砲等の攻撃が雪玉になっているようだ。その特徴から、相手は氷属性であり弱点は火属性になる。

 今朝仕入れた情報を整理しながら移動していると、いつの間にか仲間達がユウキの後ろに居て、廃寺の中庭辺りに来ていた。…何故か今日はソーマが大人しい。

 既に廃寺中央にある寺塔の辺りでコンゴウが捕食している。すると、上階の建物の隙間からボルグ・カムランが現れた。

 

  『キシェアアア!!』

 

 ボルグ・カムランが奇声をあげると、コンゴウも戦闘体制に入る。すると、それに釣られて3体の青い色をしたザイゴート堕天種も集まってきた。

 アラガミ同士の戦闘を少し離れたところで見ている。大型種と言うこともあってか、ボルグ・カムランが他のアラガミを蹂躙している。

 

「任務はサイズ問わずにコアを回収する事だけど…どうする?」

 

 今回の任務はコアの回収を確実に行う事だ。このまま同士打ちを待っていたのでは、最悪コアが破壊される可能性が高い。

 

「俺が真ん中でスタングレネードを使い小型を一掃して1度引きます。その後はコンゴウを引き付けるのでアリサとコウタはここで交替、ボルグ・カムランは俺とソーマさんで処理します。」

 

 作戦を伝えると有無を言う暇を与えずにユウキは物陰から飛び出して、アラガミの群れに突っ込む。全てのアラガミがユウキに気が付いて狙いを定める。右前方からザイゴートの雪玉にも見える白い砲撃が飛んで来る。それを左に避けると別のザイゴートが正面から突っ込んでくる。スライディングで突進を避けるが、今度は左からボルグ・カムランが尻尾の針で刺してきた。ユウキは無理矢理両足でブレーキをかけて、バク宙で回避するが、攻撃した辺りに土煙が舞う。そのまま走って土煙を抜けると、正面からコンゴウが殴りかかってきた。それをジャンプして躱し、コンゴウの顔面を蹴って後ろ向きに下がる。どうやら土煙を抜ける間に行き過ぎてしまったようだ。

 全てのアラガミがユウキを囲むように自身を配置する。

 

「ここだ!!」

 

 スタングレネードを叩きつけ、辺りが閃光に包まれる。その瞬間、プレデタースタイル『太刀牙』を展開して周囲のアラガミをまとめて捕食する。この一撃で全てのザイゴートは胴体を真っ二つに喰い千切られて、コアを失い絶命した。

 その後はボルグ・カムランのすぐ傍にホールドトラップを設置してステルスフィールドを展開して上階に逃げる。

 

  『グオオオ!!』

 

 その途中でコンゴウの鳴き声が聞こえ、その後少し遅れてボルグ・カムランの鳴き声が短く聞こえた。恐らく視力が回復し、ボルグ・カムランはホールドトラップに掛かったのだろう。

 すると、ユウキは銃身を上に構える。

 

  『パンッ!!』

 

 コンゴウが自慢の聴覚を生かして、短い炸裂音を聞きつける。ユウキの狙い通り、コンゴウは上階に上がってきた。

 壁をよじ登り、建物の隙間からコンゴウが現れて飛び降りてきた。だが、その顔面は針による攻撃で穴が空いていたので、その穴に狙撃弾を放つ。着地に弱点となった部分を攻撃されそのまま地面に叩きつけられた。

 ここで、銃声を合図にコウタとアリサが『良いタイミング』でユウキの元に来た。

 

「アリサ!!コウタ!!後は任せる!!」

 

「オッケー!!」

 

「任せてください!!」

 

 コウタとアリサがそれぞれ返事をすると、ユウキは一旦下がる。だが、コンゴウはユウキに狙いを絞っているのか、追走してくる。

 

「スタングレネード使うよ!!」

 

 コウタがスタングレネードを使い、コンゴウの視力を奪う。その間にユウキは建物を蹴り上がり、さっきコンゴウが使った獣道から下階に飛び降りる。

 降りる最中にボルグ・カムランとソーマを発見する。さすがはソーマと言ったところか、既にボルグ・カムランは盾や足が結合崩壊を起こしてボロボロになっていた。

 しかし、ボルグ・カムランもただやられているつもりはないらしい。尻尾の針でソーマを刺し殺そうと構えをとる。気のせいか若干ソーマの反応が遅い気がする。

 『不味い!』と感じたユウキは、重力に引かれながらもプレデタースタイル『穿顎』で急降下して横から尻尾を喰い千切る。すると、攻撃を受けた事でボルグ・カムランが体勢を崩して怯む。

 

「ソーマさん!!」

 

 ユウキの合図よりも早くチャージクラッシュの構えをとる。ボルグ・カムランが起き上がる瞬間に合わせて渾身の一撃を叩き込む。

 起き上がったと思ったら再び地面に叩きつけられ、その衝撃でボルグ・カムランの動きが止まる。ソーマがその隙を見逃すはずもなく、ボルグ・カムランの真上に跳ぶ。すると、神機を真下に構えて捕食口を展開する。

 パッと見ではいつも使うような壱式や二式との差異は感じられない。ユウキがそんな事を考えていると、突如ソーマが急降下した。

 

  『ズガアアアアン!!!』

 

 破砕音と共にチャージクラッシュで背中が砕けたボルグ・カムランの上から捕食する。その時、まるで上から重量物が落ちてきたような勢いで捕食したため、ボルグ・カムランの背中から腹にかけて、大穴が空いていた。

 この時、コアも同時に捕食した事でボルグ・カムランは活動を完全に停止した。

 その後、上階から戦闘音が聞こえてくるのでユウキとソーマが加勢に向かう。上階に上がる階段を登りきるとそこにはコウタがいた。

 

「コウタ!状況は!?」

 

「大丈夫!もうちょいで終わるよ!」

 

 返事を聞くと、リロードしているコウタを尻目にユウキも戦況を分析する。現在、アリサが前線、コウタが後衛でボロボロになったコンゴウ堕天種と戦闘中。コウタは神機をリロードのため一旦離脱し、アリサは新雪のせいか若干動きにくそうにしながら攻撃を躱して反撃する。対してコンゴウは足場を選ばない足腰を持っている。攻撃が当たるのは時間の問題だろう。

 一瞬でそこまで分析すると、ユウキは銃形態に変形する。自分の神機では氷属性のコンゴウ堕天種に攻撃しても通りにくい。そしてアリサは攻撃が通る火属性の神機を持っている。ならば現状で最短最速でコンゴウを倒す方法は1つだ。

 

「アリサ!」

 

 呼ばれた方向を横目で見ると、ユウキの神機が銃形態に変形していて銃口がアリサの方を向いている。

 

「お願いします!!」

 

 その光景を見た瞬間、ユウキが何をしたいのか理解した。

 

「やれ!アリサ!」

 

 ユウキが受け渡し弾をアリサに渡し、リンクバーストさせる。その後も続けざまに2発の受け渡し弾を渡して、最終的にリンクバーストLv3にまでひきあげた。アリサ自身にも、バーストした時よりもさらに強い力が溢れてくるような感覚を覚えた。

 

「はあああああ!!!!」

 

 その感覚に任せて力の限り神機を降り下ろす。すると、コンゴウが勢いよく2つに別れて左右に吹き飛んだ。

 何とかコアを破壊せずに両断する事が出来た。動けなくなったコンゴウのコアをアリサに回収してもらい、今回の任務は終了した。

 

 -エントランス-

 

 極東支部に戻り、任務終終了の報告をしようと下階に降りると、見覚えのある人物がヒバリと話している。

 

「あ…こんにちは。エドワードさん。」

 

「やあ、君か。随分と久しぶりに会った気がするよ。」

 

 エリックとエリナの父親、エドワード・デア=フォーゲルヴァイデだった。その表情は穏やかに笑っていたのだが、どこか陰りを感じたような気がした。

 

「そうですね。最後会ったのが多分一月程前だったと思います。そう言えば今日はどんな用件でアナグラに?」

 

 エドワードはエリックの一件以降、極東支部に来なくなった。だが、今日になって突然やって来た。その事が気になって支部に来た理由を聞いてみた。

 

「支部長に会いに来たのだが…出張らしいね。」

 

「え?!そうなんですか?」

 

 ユウキが驚いていると、ヒバリが現在の状況を教えてくれた。

 

「はい。今日の早朝から出てますね。」

 

「そう言えば、リンドウ君の後任を任されたんだったね。おめでとう。彼の事は残念だったが、君の頑張りに期待しているよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 ある程度ここ最近支部内でなにがあったのかはエドワードも把握しているようだ。リンドウの死とユウキのリーダー就任の件について少しだけ触れた。

 

「ああそれと…エリナ、この間の事ちゃんと謝りなさい。」

 

 ふとエドワードが、右下に視線を落とす。そこにはエドワードの足にしがみつき、ユウキから隠れているエリナがいた。

 

「あの…その…この間は…嘘つきって言って…ごめんなさい。」

 

「いいよ。気にしてないから。」

 

 エリナは謝るときは視線を合わせなかったが、それでもしっかりと謝罪の意思を伝えた。最後に会ったときは、喧嘩のような別れ方をしたので、どこか気まずかったのだろう。

 ユウキもエリックの事については何か言われると覚悟していたので、事態は重く受け止めているが、罵声を浴びせられた事についてはあまり気にしていなかった。

 

「…ちょっと来て!」

 

 エリナは突然ユウキの手を掴むと、エドワードから離れた場所に移動する。するとエリナは『チョイチョイ』と手招きをして、ユウキにしゃがむように合図する。

 何事かと思い、とりあえずユウキは指示に従い、エリナと同じくらいの目線になるようにしゃがみこむ。

 

「あのね、何だかエリックがいなくなっちゃってから…お父様もずっと元気ないみたいなの。」

 

「そっか…やっぱり悲しいんだね…」

 

 やはりエドワードの表情に陰りがあったのは見間違いではなかったようだ。エリックの死を受け入れる事は出来ても、未だに吹っ切れてはいないと言う事だろう。

 

「…うん…だからね、私大きくなったらゴッドイーターになるの!お父様みたいに悲しむ人が居ない世界を作るの!」

 

 直接は言わなかったが、要約すると全てのアラガミを殺すと言う事なのだろう。エリックを失い、エドワードの生気を奪ったアラガミを、エリナが憎んでいないとは思えない。

 だが、復讐によってどんな悲劇が起こるのか、極東支部で最近あったばかりだ。復讐に囚われては、それ以外が目に入らなくなる傾向がある。

 アラガミを殺す。その意思の根元が復讐心だけでない事を祈っていると、上目遣いでエリナがユウキを見てきた。

 

「その時はあなたも手伝ってね?…約束よ?」

 

 そう言うとエリナは『極東では約束する時、小指を繋ぐんでしょ?』と聞きながら小指を立ててユウキの方に向けてきた。

 

「あ!お父様には内緒だよ?今度空いてる時にゴッドイーターになるために必要な事を教えて欲しいの!いいよね?」

 

 エリナもエドワードがどのような状況か分かっているようだ。彼にとって、我が子を失う悲しみはもう味わいたくないだろう。そうなると、エドワードはどんな手段を使ってでもエリナを止めにくる事は容易に想像できる。

 どうにも不安は拭えないが、ユウキはエリナとの約束を承諾し、小指を繋いだ。

 

「分かった。今度教材になりそうなもの用意しておくよ。」

 

「ありがとう。…あ、お父様が呼んでる。またね。」

 

 下からエドワードがエリナを呼ぶ声が聞こえる。そのままエリナは振り替える事なく父親の元に向かった。

 ユウキも昨日拾ったディスクを返しに行くためにラボラトリに向かった。

 

 -ラボラトリ-

 

 ようやく本来やってしまいたかった用事を済ませる事ができると思いながら、ユウキはラボラトリに向かっている。

 思えばただディスクを返しに行くだけなのに随分と時間がかかったような気がする。夜に拾ったため、次の日に返しに行こうと思えば朝から任務に出る事になり返すタイミングを何度か逃していた。

 ペイラーの許可を得てラボラトリに入ると、キーボードを操作していた手を止めて、ユウキのところまで来た。

 

「このディスク、博士のですよね?」

 

「ああ、ごめんごめん。君が拾ってくれたのか。中には何て事のない、若き日の思い出が入っているだけさ。もちろん中身は見てないよね?」

 

「…ぶっちゃけ中身を見ないと博士の所に返しに行けないですよね?」

 

 『ペイラー・榊まで届けて下さい。』と言うメッセージを映像の最後に出したのでは最後まで見なければ落とし主が分からない。

 本当に見られたくないなら最初に書いておいて欲しいな…と思いながらペイラーにディスクを返す。

 

「おや、見たのかい?悪い子だね。」

 

「そう仕向けたのは博士じゃないですか…まあ、見ると決めたのは自分の意思ですけどね。」

 

 『悪い子』と言われてユウキは若干むくれる。

 

「なるほど。で?どう思ったかな?」

 

「どう…って言われても…ああ、支部長とソーマさんが親子って事には驚きましたね。」

 

「ほう…で?」

 

 ペイラーが知りたいのはその先…あの映像を見てどう思ったかだった。しかし、まだかまだかと待っていても、ユウキから返事が来ることはなかった。

 

「…?」

 

「…?」

 

「「…??」」

 

 ユウキが『何の事だ?』と言いたげな表情で首を傾げる。それに対してペイラーがなんで何も言わないのか分からず首を傾げる。

 結局2人共この沈黙は何なのか理解出来ずにさらに首を傾げる。

 

「えっと…他に何か感じなかったかい?例えば…ソーマの出生とか。」

 

 ペイラーがあのディスクを見るように仕向けた目的は、ソーマの生い立ちを見せてどう思うかを聞き出すことだった。ちなみに前リーダーのリンドウも、その前のリーダーのツバキもこのディスクを見たことがある。

 

「?いえ、特に何とも…」

 

「そうかい。じゃあ何で何とも思わなかったか分かるかい?」

 

「う~ん…上手く言葉に出来ないんですけど…ソーマは特殊な環境で産まれたみたいですけど…だから何だよ、って感じですかね。俺はソーマさんが人間じゃないなんて思ってないし、死神とも思ってないです。同じ部隊の仲間で憧れる程の強さを持った先輩ですよ。」

 

 それはディスクを見る前から変わらなかった。真っ先に助けに入ったり、命令を無視してでも自ら最前線に立ったりと自分以外に危険が向かないようにしているようにも見える。

 だが、その行動はソーマの一線を画した強さがあっての事だろう。リーダーとして守られてばかりでは情けない。そんなソーマよりも強くなっていつか共に戦えるようになるのが当面の目標だ。

 

(この子なら…話しても大丈夫だろう。)

 

 ペイラーはかつてリンドウにディスクを見せたときも、このような反応だったな…と昔の事を思い出した。そこからソーマの生い立ちの詳細を話しても大丈夫だと感じ、事の詳細を話す事にした。

 ちなみにツバキはディスクを見た後、ペイラーに『分かっていて放置するとは何事だ!』と説教された。それによってヨハネスとペイラーの信用が若干落ちた。

 

「ディスクを見たのなら、マーナガルム計画の事は知っているね。」

 

「はい。ただ、映像を見ただけではアラガミの捕食に強い人間を作り出すって程度しか分からなかったですけど。」

 

「概ねその通りだね。」

 

 そこまで話すと、ペイラーは移動してソファに座る。ユウキにも座るように指示して隣に座らせる。

 すると、ペイラーの雰囲気が変わって重苦しい空気が流れる。

 

「マーナガルム計画…お世辞にもエレガントとは言えない計画だった。」

 

 雰囲気が変わってから一瞬の間をおいてペイラーが『マーナガルム計画』の詳細を語り始める。

 

「オラクル細胞が発見された当時、私とヨハンと、ソーマの母親…アイーシャの3人は、とある研究所で共に働いていたんだ。『無限の可能性を秘めた』細胞…オラクル細胞の研究をね。」

 

 発見当初は無限の可能性を秘めた細胞として研究されていたようだ。今からしたら想像もつかない扱いだな…とユウキは感じた。今では人類に絶望を与える細胞といった印象が合っているだろう。

 

「もう何度も話しているけど、オラクル細胞はあらゆるものを捕食して学習する…するとどうなるかな?」

 

「捕食したものの性質や特性を取り込む…」

 

「その通り。例えばヴァジュラ…奴の体内には発電器官があるのは知ってると思う。発電機そのものを捕食したからか分からないけど、細胞そのものが自身で帯電や放電をすることができるように進化したんだ。」

 

 つまり、電気の正体である電荷でも捕食したのだろうか、オラクル細胞が電気の特性を再現しているのだ。

 

「戦闘に置いても、ヴァジュラの電撃を装甲で防ぐことができるのは、帯電と放電を繰り返す細胞を防御しているからなんだ。」

 

 先も言ったが、ヴァジュラの電気はオラクル細胞が再現している。そのため、ヴァジュラの電撃はオラクル細胞を防御することで防ぐ事ができるのだ。

 しかし、その電気を再現したオラクル細胞も、コアによって制御されている。そのため、一度電撃で放出されたオラクル細胞はコアの制御下から離れ、霧散してしまうのだ。

 ちなみに、神機の属性攻撃もこの方法で行われている。

 

「もちろん、基本的な電気の特性である電位差が大きい方から小さい方に流れるという現象を再現できるし、さらにはそれに逆らう事も可能なんだ。」

 

 既に知られている物理現象に従う事はもちろんの事、それに逆らう事も可能だと言うのなら、今まで不可能だった物理現象を引き起こす事が出来ると言うことだ。

 

「もし、この研究が上手くいけば、旧時代で問題になっていたエネルギーの枯渇問題が解消され、我々人類はそれこそ無限のエネルギーを得ることが可能だったんだ。」

 

「それはまたスケールの大きな話ですね。」

 

 結論から言うと、電気を始めとした、熱や化学、光等のエネルギーを再現して、延々とエネルギーを取り出す事が理論上可能なのだ。この研究が完成すれば、あらゆるエネルギーの代替品、特にいつ枯渇するか分からない化石燃料に代わる燃料となり得る可能性があった。

 ただし、現在でもそれらはコアの制御下で再現できるもので、固定化の方法は未だに確立していない。

 

「そうだね。ただ、研究は順調と呼べるものではなくてね…時間が経つにつれて、オラクル細胞が暴走する頻度が高くなったんだ。」

 

 ペイラーが過去の研究で何があったのか語り始める。恐らく、オラクル細胞の捕食して学習するという特性を見つけ、それを制御する方法や規則性を探して、あらゆる物を捕食させたのだろう。

 しかし、オラクル細胞の学習スピードが予測を遥かに越えていたため、暴走事故が起こりやすくなったと考えられる。

 

「しかしある日、辺り一帯を喰い尽くしたにも関わらず、隣り合う細胞同士は喰い合いをしないことにヨハンが気がついてね。それは何故かと研究した結果、P73偏食因子の発見に繋がったんだ。」

 

 触れた物全てを捕食するのなら、地球を貫通するまで捕食する事になる。最悪、そこまで捕食するのに時間がかかると言う事で無理矢理納得することはできる。しかし、それでも隣り合う細胞同士が一切喰い合いをしないのはおかしいと調べた結果、偏食因子を発見したようだ。

 

「だがそのあとすぐに小型のアラガミが発生し出してね、1日に軽く10万単位の人間が毎日のように捕食された。」

 

「だから、アラガミに捕食されない人間のモデルケースがいち早く必要だったと?」

 

 これでユウキも合点がいった。何故研究が始まったばかりのP73偏食因子を人体に投与するという、倫理的に問題のある実験をヨハネスとアイーシャが即決したのか。

 映像を見た時の印象よりも、遥かに切迫した状態だったようだ。それ故に2人は何よりもアラガミの捕食への対策が必要だと考えたのだろう。

 

「オラクル細胞から直接採取されたP73偏食因子…これを人体に投与出来れば、人々をアラガミの捕食から救う事ができると考えた訳だ。」

 

 『まあ、その実験からインスピレーションを得て、傍らで神機の設計をしてたんだけどね。』と最後に付け足した。

 『…急ぎの研究中に何やってんだよアンタ…』とユウキは心の中でツッコミを入れる。

 

「だが、1つ問題があった。P73偏食因子は、ゴッドイーターに投与されているP53偏食因子のように血中へ直接投与する事は出来ないんだ。人体細胞をオラクル細胞に変異させる働きが強すぎてね…結果、アラガミ化してしまうんだ。」

 

「でも、それで何で胎児段階に投与すれば安全なんですか?」

 

 恐らく誰しも疑問に思うことだろう。P73偏食因子は人体細胞をオラクル細胞に変化させる作用が強すぎると言うならば、投与する事自体が危険だ。それは胎児であっても変わらないはず。

 

「P73偏食因子の最大の問題点は、『アポトーシス』…つまり細胞が自己消滅しにくくなる事なんだ。だが、胎児段階の細胞分裂と自己消滅はとても盛んに行われていてね、その間に偏食因子を投与すれば、アラガミ化する前に自己消滅させられる。後は投与した影響で遺伝子変異した『人間の細胞』が細胞分裂を繰り返す事になる。」

 

「それで、母親に偏食因子を投与したんですか?」

 

「可能な限り、母体に偏食因子を滞留させないようにはしたらしいがね。しかし、問題はそこじゃなかった。」

 

「え?」

 

 そう言うとペイラーは顔を伏せて表情が見えなくなった。そこからはまるで機械のように抑揚のない、感情を感じられない話し方になった。

 一応補足すると、投与したからと言って直ぐにアラガミ化するわけではなく、遺伝子が変異する前に体内から無くなれば何の変化も現れなくなるのだ。

 

「遺伝子が変異してP73偏食因子に適応すると、よりアラガミに近い人体細胞に変異する。つまり、オラクル細胞と同じように、偏食因子を自ら生成するようになるんだ。そうすると、胎内で母親と繋がっているため、今度は胎児から母親に偏食因子が流れてしまう…結果、アイーシャはソーマを産んだ後に亡くなってしまったんだ。」

 

 胎児と母親は臍帯…所謂ヘソの緒で『物理的に』繋がっている。勿論母親から胎児への栄養素や酸素を送ったり、胎児から老廃物を母親に送ったりするので、血も行き来している。恐らく胎児が生成した偏食因子が血流に乗って母親へ流れたのだろう。

 

「それがきっかけでヨハンとソーマの関係が拗れてね…ヨハンはそれからアイーシャの死を無駄にしないために、今の神機が実用化されるまでの間、ヨハンは幼少期からソーマに虐待に近い戦闘訓練をさせてたんだ…」

 

 愛する妻を我が子に殺されたとなれば、その我が子を純粋に愛する事は難しくなるだろう。さらにはクソが付くほどに真面目なヨハネスの事だ、妻の死を無駄にしないようにその遺志を受け継ぐ事は容易に想像できる。それが結果的に過激な戦闘訓練になったのだろう。

 

「ソーマもソーマで、母親が死んだのは自分のせいだと攻め続けている。今ではアイーシャが望んだような…友に囲まれながら下らない事で喧嘩して、辛いことがあったら泣いて、バカな事をして笑うような人生を送らせる事も難しくなってしまった…」

 

 確かに、ソーマの現状を考えれば感情を自由に表に出して生きる…そんな生活とは無縁な、他人との間に壁を作り、孤独で荒んだ生活を送っている。

 

「だが、こうなると分かっていながら私は止めなかった…いかに自分が愚かな事をしたか…こうなってから思い知ったよ。私も…彼に恨まれても仕方がない人間だ…」

 

 そう言うとペイラーは机に両肘を突いて、机と向き合うまでに視線を落とした。その声には後悔や自責の念が込められているように感じる。

 

「だから…と言うのは少し変かも知れないが、ソーマと仲良くしてやってくれないか?」

 

「そのつもりですよ。鬱陶しいくらいに関わりまくって、ソーマさんと仲良くなってみせますよ。」

 

 ペイラーの細すぎる糸目のせいか分からないが、相変わらず表情からは何も読み取れない。しかし、その声には何処か懇願するような雰囲気が込められていた。

 リーダーとしても、1人の人間としても、ソーマと仲良くなる事を拒むつもりはない。アイーシャの遺志を知った事でその想いは強くなった。

 

「そうか…なら君にお願いがあるんだ。」

 

 先の答えに安心したのか、ペイラーはいつもの調子でユウキに『頼み事』をする。

 …さっきまでの雰囲気は演技だったのかと疑いたくなる程の切り替えの早さだ。ユウキが唖然としていると、ペイラーは『頼み事』の内容を話していく。

 

「出張中の支部長に頼まれてる仕事なんだけど、とあるアラガミのコアを入手してほしいんだ。」

 

 支部長がわざわざ探させる程の物と言うことは、何か特殊なコアなのだろうか?とにかく続きを聞いて詳細を聞かなければ状況を把握できない。ユウキは疑問を頭の片隅に追いやって聞きに徹する。

 

「実はソーマには前から同じ任務を手伝ってもらっていてね。彼と協力して欲しいんだ。」

 

 恐らくこのような任務を通じてソーマとの仲を深めろ…と言うことだろう。

 

「ただそのアラガミの外見や特徴は分かってない。該当するコア反応が確認されたら特務と言う形で発注するよ。」

 

「分かりました。」

 

 リーダーに就任したときにも言われた『特務』のおおざっぱな説明を聞き、特務内容を了承する。

 

「特務は通常任務に偽装してある。任務をこなした後に特務を始めてくれ。あ、この事は私からヨハンに伝えておくから、報告とかは気にしなくていいよ。」

 

 通常の任務に偽装してあると言うことは、極東支部、あるいは本部に知られると不味い事なのだろう。何だか悪い事をしているようで、本当に手伝っていいのかと内心疑問に思っていた。

 しかし、ソーマとの仲を深めるチャンスである事には変わりない。ならばその機会を利用させてもらおう。

 そんな事を考えながら、特務を了承して部屋から出ようとするユウキを、ペイラーが呼び止める。

 

「ヨハンの事なんだが、あまり悪く思わないでくれ。当時はソーマを恨んでいたのかも知れない。しかし、時間が経てば気持ちの整理がつけられる人間なんだ。」

 

 一応、ヨハネスに対して誤解しないように彼の事を弁護する。ユウキも足を止めてそれを聞いている。

 

「今までが今までだっただけに、どう接したら良いのか分からず、ズルズルと今の関係を続けているだけだと思うんだ。」

 

 謝りたい、仲良くしたいと思いながらも、ヨハネスはそれをどうやって表に出せば良いのか分からないのだろう。何となくソーマにもそんなところがある気がする。変なところで似ている親子だとユウキは思った。

 

「…親子そろって不器用ですね。」

 

「そうだね。何にしてもよろしく頼むよ?」

 

 それだけ言うと、今度こそユウキはペイラーの部屋から出ていった。

 

To be continued




 今回はソーマの秘密とオラクル細胞の可能性についての話でした。
 支部長とソーマの関係が拗れた原因を自分なりに解釈した結果、アイーシャの死と虐待に近い訓練ではないかと思いした。
 愛する妻を我が子に(結果だけ見れば)殺され訳ですから、恨みやら憎しみを多少持つのは仕方ないかと…ソーマも幼少期は唯一の肉親である父が望むから必死になっていたが、成長するにつれて辛い仕打ちをしてくる父を恨みつつも自我が芽生え、『これっておかしくないか?』と思い反発していると言うイメージで書きました。
 そんな状況になると分かりつつも、あくまで傍観者を決め込んだ博士も、支部長とソーマの現状を見て後悔した事を話つつも、親友である支部長の事を悪く言えないため最後にフォローを入る…博士は自分にも責任があるため、誰か特定の人物を悪く言う事はしない気がします。
 そしてマーナガルム計画とオラクル細胞の設定を考えるのに凄く時間がかかりました。生物は専門ではないのでネットなんかで調べてもさっぱりでしたorz
 オラクル細胞の食べなものの性質を取り込むと言うのを過大解釈して、使い方次第でエネルギーを無限に取り出せると言うものにしました。たぶんトンデモ細胞なオラクル細胞の事だからこのくらい出来るのではないでしょうか?
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