少女との出逢いが物語を加速させる…!
-ラボラトリ-
「「「えええええええ?!」」」
ペイラーのラボ内でサクヤ、コウタ、アリサが部屋の隅まで後退りしながら絶叫する。
「は、博士!い、今なんて?!」
サクヤは動揺を隠しきる事が出来ずに、慌てた様子でどうにか話す。そんなサクヤとは対照的に、ペイラーはあっけからんとした様子で、ある事実を第一部隊に告げる。
「ああ、何度でも言うよ。この娘はアラガミだよ。」
「ちょ!あ、あぶっ!」
「は?!ええ?!?」
肌こそは色素を失ったように白いが、パッと見ただけでは人間に見える少女が、実はアラガミだったと言うのだ。しかもそのアラガミと同じ部屋の中にいるので、非常に危険な状態であることには変わらない。
アラガミを喰っていたところを見ていたので、全員がアラガミを喰える特異体質な少女だと思っていたが、よりにもよってアラガミそのものだとは思いもよらず、彼らは混乱してしまったのだ。
しかし、ソーマとユウキはあまり動揺を見せず、大きな反応は無かった。ユウキに至ってはアラガミの少女を興味深そうに眺めた挙げ句、にらめっこまで始めている。
「まあ落ち着きたまえ。この子が君たちを捕食することはないよ。」
「そうなんですか?」
ユウキはにらめっこを一旦止めてペイラーの方を見る。すると少女もそれに釣られてペイラーを見た。
「前にも話したけど、全てのアラガミには『偏食』と言われる特性があるのは知ってるよね。」
「アラガミが個体独自に持っている捕食の傾向…神機の制御にも関わってくる性質の事ですね。」
「そうだね。君たち神機使いにとっては常識だろうね。」
良く勘違いされやすいが、神機もまたアラガミなのだ。ゴッドイーターが神機を扱う事ができるのも、この偏食と言う性質のお陰と言える。
万が一普通の人間が神機に触れた場合、非捕食対象だと認識させなければ神機に触れた瞬間喰い殺されてしまう。
確かにゴッドイーターとして、基礎中の基礎と言える性質なので、常識と言われれば常識だろう。
だが、この説明をした瞬間、コウタが何やら冷や汗をダラダラと流し始めた。
「…知ってた?」
「当たり前だ。」
コウタがソーマに聞いてみたが、常識だと即答された。そもそもベテランであるソーマがこの事を知らないなんて事はありえないのだ。コウタは聞く相手を間違えていたようだ。
そんなやり取りを尻目に、ペイラーは何故少女が人を喰わないのかを説明し始める。
「このアラガミの偏食は、より高次のアラガミに対して向けられているようなんだ。つまり、我々は既に食物の範疇に入っていないのだよ。」
簡単に言えば強いアラガミや特殊なアラガミを好んで捕食すると言うのだ。仮にアラガミの捕食が純粋に学習の為だと言うのなら、彼女は人間の特徴である高い知能は既に手にしている。そのため、今更人間ごときを捕食しても得られるものが何も無いのだ。
「よく誤解されるんだけど、アラガミは他の生物の特徴を持って発生するのではない。あれは捕食を通じて凄まじいスピードで学習し、様々な情報を取り入れて適応する…それが驚くべき早さで進化しているように見えるだけなんだ。結果として、ごく短期間に多種多様の可能性が凝縮される…それがアラガミと呼ばれる存在だ。」
「つまり、この子は…」
「うむ。これは我々と同じ…『取り合えずの進化の袋小路』に迷い込んだ者…人に近しい進化をたどったアラガミだよ。」
「人間に近い…アラガミだと…!?」
「そう、先程少し調べてみたのだが…頭部神経節に相当する部分が、まるで人間の脳のように働いているみたいでね。学習能力もすこぶる高いとみえる…実に興味深いね。」
流石にソーマも驚きを隠せないようだ。珍しく僅に目を見開いて、驚いた表情になる。
「せんせー!」
「はい、コウタくん。」
まるで授業の時の様に、コウタが手を挙げてペイラーに質問をする。と言うより完全に教師と生徒である。
「大体の事は分かった…て言うかよく分かんなかったけど…こいつのゴハンー!とかイタダキマス!って何なんですかね?」
「ゴハーン!」
「こいつが言うとシャレになんねぇよ…」
コウタが質問すると、恐らく『ゴハン』と言う言葉に反応したのだろう。少女は楽しそうに笑いながら復唱する。
が、コウタは自分が喰われると思ったのか、一気に部屋の隅まで後退した。
「うーん…きっとお腹が空いたと言う意思表示なんだろうね。さっきも言ったけど、アラガミの偏食の偏食と言う性質を持っている。その基本傾向として、自身と近い形質のものは食べないんだ。」
ペイラーがここで一旦話を区切ると、突然黒い笑みを浮かべて話を続ける。
「ただ、さっきみたいに本当にお腹が空いたら、不味かろうと何だろうとガブリッ!…だろうね。」
これを聞いた瞬間、サクヤ、コウタ、アリサは後退りした。流石にユウキもビビって若干体と表情が固くなった。
「まあそれは例外さ。アラガミと言う名は彼らの俗称だけど、実際にいくつもの個体が我々人間がイメージする『神々』の意匠を取り込んでいる事例が各地で報告されているんだ。何故、どのようにして彼らは『神』を語るに至ったのか…実に興味深いじゃないか。そんな中、完全に『人』の形をしたその子は、さらに貴重なケースのひとつなのさ。」
ペイラーが嬉々としてアラガミについて語る。その話を聞く限りでは、アラガミは神を模倣したような存在だと言えるだろう。だが、そんな中で『完全な人型』のアラガミが現れたと言う事はまるで人間も神になり得る存在だと暗示しているようにも思える。
「おっと話が逸れちゃったね。勉強会はこのくらいにしておこうか。…最後にこれは私と君たち第一部隊だけの秘密にしておいて欲しい…いいね?」
「しかし…教官と支部長には報告しなければ…」
ペイラーの頼みに対してサクヤは上に報告すべきだと反論する。しかし、それを聞いた瞬間、ペイラーが冷めたような雰囲気でサクヤを威圧する。
「サクヤ君…君は天下に名だたる人類の守護者…ゴッドイーターが、その全線基地内に秘密裏にアラガミをつれこんだと…そう報告するつもりかい?」
「そ、それは…しかし、一体何のためにこんな事を?」
サクヤは誰もが思うであろう質問をする。何故ペイラーは支部内にアラガミを連れ込むと言う、危険極まりない行為に出たのか。下手をすれば支部そのものが内部から崩され、外部居住区にも被害が出るだろう。
そうなれば自身の進退はおろか、命の危険さえあるのだ。正気の沙汰とは思えない。
だが、ペイラーはそんな事は知らんと言わんばかりに、興奮した様子でアラガミを連れ込んだ目的を話す。その時の体勢は以前ユウキしたように、ペイラーが前屈みになり、相手が体を反らせて避けると言った体勢だった。
「言っただろう?これは貴重なケースのサンプルなんだ!あくまで観察者としての、私の研究対象さ!それに、この部屋は他の区画と通信インフラやセキュリティは独立させてある。外に漏れる心配はないさ。」
そこまで言うと、ペイラーの糸目が若干開いて、サクヤに耳打ちする。
「君だって今個人的にやっている活動に、余計な詮索は入れられたくないだろう?」
その瞬間、サクヤの目が大きく見開かれる。ペイラーは姿勢を元に元に戻して話を続けるが、サクヤは驚いて話の内容を聞き逃していた。
「仮にこの事を報告した場合、私はもちろん、君たちの身の安全も保証されなくなる。下手をすればその場で反逆者として処刑されるだろうね。」
先程のサクヤの行動は組織に所属する人間としては正しいのだろう。だが、自身や周囲の人間を守ると言う意味では正しい行為とは言えないだろう。
基地内に敵を招き入れる事と同じであると言えるため、スパイとして捕らえられ、反逆者として処分されるのは明らかである。その事を改めて再確認させた上で話を続ける。
「そう!我々は既に共犯なんだ。覚えておいて欲しいね。まあ、そう言うわけで、彼女とも仲良くしてやって欲しい。ソーマ…君も頼むよ?」
「イタダキマス!」
ここまでの会話を思い返すと『イタダキマス』と『ゴハン』しか発言していない。恐らくこの言葉しか知らないのだろう。知っている言葉だけでどうにかコミュニケーションを取ろうとしているのだろう。
(何で博士があの事を…?気付いてる…?いやそんなはずは…)
そんな会話の中、サクヤは先程ペイラーに耳打ちされた言葉を思い出していた。しかし、実際には手がかりが何も見つからないので動こうにも動けないでいる。この状況では何もしていないのと同じことなので、ペイラーが気付くはずがないと思っていたのだ。
カマをかけただと言う可能性もあるが、何にしても自身の行動を言い当てた事は事実だ。その事に驚いていたが、突然の叫びに現実に引き戻された。
「ふざけるな!!どんなに上手く人間の真似事をしようが…化け物は化け物だ…」
ソーマが怒鳴ると辺りが静まり返った。その表情は怒りに染まり嫌悪を隠すことなく表してる。
そのままソーマは苛立ちを隠すことなくペイラーの部屋を出ていった。
-翌日-
ソーマが部屋を出ていった後、一度状況の整理が必要だろうと言うことで、ペイラーは集会を解散し、各自自由行動となった。
その時間を利用して、ユウキも自分なりに状況を整理した。恐らく、昨日ペイラーが言ったようにゴッドイーターが支部内にアラガミを連れ込んだなどと知られれば、首謀者であるペイラーはもちろんの事、それを手伝ってしまった第一部隊にもそれ相応の処分が下るだろう。
仮にヨハネスやツバキに報告しようとしても、ペイラーがこちらの弱味を握ってあの手この手で報告を阻止するだろう。
他にも懸念するべき重要な要素がある事と、ヨハネスが居ないこともあり、今回の件はペイラーに従った方が懸命だとユウキは考えた。
そんな中、コウタから任務の誘いがあったのでエントランスに向かう。既にコウタは手続きを済ませようで、出撃ゲート前のソファで考え込んでいた。
「あ!ユウキ!」
「おはよう。コウタ。」
2人は朝の挨拶をするが、コウタはどこか暗い表情をしていた。
「なあ、手続きしたらさ、少し話があるんだ。」
「?…分かった。ちょっと待ってて。」
そう言うとユウキはカウンターで受付を済ませてコウタの元に戻ってきた。
「お待たせ。話って?」
ユウキが戻ってきたのを確認すると、コウタは辺りを見渡して人が居ないことを確認した後、小声で話しかけてきた。
「いやさ、俺たちがアラガミを連れ込んだのってやっぱり不味いんじゃないかって思ってさ…博士も言ってたけど、俺ら反逆者になっちゃう訳じゃん?」
コウタの心配ももっともだった。反逆者として捕まれば、相応の処分が下されるのは間違いないだろう。処分の内容がゴッドイーターとしての身分を剥奪されればまだマシな方だろう。最悪殺されるか、人としての尊厳を奪われるような生活を強いられる可能性がある。
だが、コウタは自分のやっている事が反逆行為だと理解しているからこそ、良心に従うべきかを悩んでいるのだ。
そんなコウタの悩みの答えとして、ユウキは自分なりの考えを話すが、その表情からは何も感じられなかった。
「これはあくまで俺の考えって事で聞いて欲しいんだけど…この事をバカ正直に報告するのは不味いと思う…守るべき家族がいるコウタは特にね。」
「どういう事だよ?」
「知らなかったとはいえ、俺たちがアラガミを連れ込んだ事は事実だ。コウタも言ったように、その事を報告したら反逆者として処分される。」
それは当然の事だろう。敵対する存在…知性のある人間と本能で生きるアラガミの違いはあれど、敵対勢力を招き入れ、どうぞ好きなだけ視察してくださいと言っているようなものだ。最悪フェンリルを内部から破壊しかねない。
「そうなったら、コウタの家族も反逆者の一族として迫害を受ける…その結果、人としての最低限の生活も送ることができなくなる…誰もが毎日を生きることが難しいこの世界じゃ、身体的、立場的に弱い人間は同じ人間から非道な扱いを受ける…そうなる可能性が高い。」
人一人が生きていくのが難しい世界では同じ人間同士でも奪い合わなければ生き抜いていけない。食料を始めとしたあらゆる物資が足りない状況ではそれも必然と言える。
自らが生きる事に必死なあまり、奪う事が出来る弱者を探すのだ。その弱者を見つけると非情なまでに搾取をしてでも欲求を満たそうとする。その欲求には物的欲求はもちろん生理的欲求も含まれる。
もし、今回の件を報告した事でコウタの家族が迫害を受け、その弱味を生理的欲求を満たす事に利用されたら、コウタの家族は人としての尊厳さえ失うだろう。直接は言わなかったがユウキはそう言っているのだ。
これを聞いた瞬間、コウタも察しがついたようで表情を強張らせる。
「でも…そうなる事は多分無いと思う。研究の事はよく分からないけど、多分博士の研究にあのアラガミが必要だったってだけだと思うんだ。」
今までに発見されることのなかった高度な知性を持つアラガミが現れたとなれば、生粋の研究者であるペイラーがそれを見逃すとは思えない。研究対象として傍に置いておけば、昼夜問わずに研究出来るメリットがある。
さらにはその研究が今後必要不可欠なものだとしたら、寧ろ積極的に捕獲するだろう。
「それに…あの人は、アラガミの恐ろしさをよく知ってる。だから、その事に対する対策を何もしていないとは思えないんだ。」
ペイラー自身、過去にマーナガルム計画によって友人を失っている。アラガミの危険性は十二分に理解しているはずだ。だからこそ、万が一連れてきたアラガミが暴走した場合の事を考えていないと言うことはないとユウキは考えている。
会話の最後に『でもこれじゃあ博士頼みだし…リーダーとしては無責任かな?』とコウタに聞いてみたが、俯いていたため、その表情から何かを察する事は出来なかった。
「いや…報告すれば、母さんやノゾミが危険な目に合う可能性があるのは分かった。報告しないことで家族を守れるなら…それで構わないさ。」
コウタが俯いたまま自らの決意を語る。家族を守るためならどんなことでもやってみせる彼の覚悟の現れだろう。
「確かにユウキの言う通り、博士が研究対象としてアラガミを必要としているだけかも知れないし、アラガミに襲われるってなったとしても、その対策をしてないなんて考えられないしね!」
そう語るコウタの表情は何処か吹っ切れたような表情をしていた。
「うっし!うだうだ考えるなんて俺らしくねえ!なるようになれだ!」
コウタは元気よく立ち上がり、出撃ゲートに向かって歩き出す。
「そろそろ出撃の時間だ!行こうぜ!」
「うん!」
いつものコウタに戻った事に安心して、ユウキも出撃ゲートに向かった。
-神機保管庫-
「あ、神裂くん。『疾風』と『獄爪』の解放終わったよ。」
いつものように神機の受け取りに行くと、リッカからプレデタースタイルが解放されたと言う知らせを受けた。
「ありがとう。早速実践で使ってみるよ。」
「あ、なら簡単に説明するね。疾風はとにかく展開から収納までが速いんだ。ただ、捕食形態の成熟しきる前に捕食するから、バーストできる時間も短いしアラガミバレットも得られないから気をつけてね。」
リッカの説明によると、展開と収納は速いが、その分得られる能力には期待出来ないとの事だった。
「それだけ聞くとメリットが無い気がするんだけど?」
「うーん…こいつの特徴は隙の少なさだからね。通常、捕食口は展開したら収納するまで神機の装備は使えないんだけど、疾風は展開した後は捕食口を霧散させて収納動作自体をなくすことも出来るんだ。」
「なるほど。後隙をなくすような感じか…ならとりあえずの繋ぎか、手数で稼がないと。」
目的はあくまで隙の無い捕食と言う事らしい。確かに隙が無くてリターンが大きいのならば他のプレデタースタイルなど必要無いだろう。
「だね。じゃあ次。獄爪はかなりトリッキーだよ。捕食口と先端に付いている爪で相手を捕らえた後、棒高跳びみたいな要領で飛び上がるよ。その後はそのまま相手の上空を跳んで、最上端を少し越えたら展開を解除して反対側に着地するよ。」
「なるほど。その棒高跳びみたいな動作は勝手にやってくれるの?」
「うん。捕食口が捕食したって感知したらあとは勝手に飛び上がるよ。振り落とされ無いように注意して。それじゃあ…気をつけてね?」
獄爪は捕食の際に、敵を飛び越えて反対側に着地するように神機が動くものらしい。使い方を聞いている限りでは捕食しながらの回避にも使えそうだ。
「分かった。ありがとう。行ってきます。」
プレデタースタイルの説明を聞いてユウキは保管庫を出た。
-煉獄の地下街-
作戦地域に着くと、各自出撃前の最終チェックをしていたが、それももうすぐ終わりと言うところでコウタをチラリと見ると、まるで何かに祈るように両手を組んでいた。
「コウタ?何してるの?」
ユウキが話しかけるとコウタは祈りを止めた。
「ん?ああ、願掛け…になるのかな?こいつに『今日も無事に帰ってこられますように』ってね。」
そう言いながら手に握っていた物をユウキに見せた。どうやらコウタをモデルにした手作りの人形のようだ。
「これ、コウタの人形?よく特徴を捉えてるね。」
赤いストライプの入った黄色のニット帽や特徴的な外に跳ねた赤みがかった茶髪を上手く再現しており、目の部分は茶色いボタンを縫い付けてあった。
一目でコウタがモデルと言うのが分かる位にコウタの特徴と言える物を再現していた。
「だろ?!これ妹が作った御守りなんだよ!可愛い奴だろ?」
そのままコウタは一人で妹のノゾミについて語りだした。やれノゾミは可愛いやら良い嫁になるやらやっぱり嫁にはやらんなどと一人で騒いでいて、ユウキは完全に話について行けなくなっていた。
すると、急にコウタは神妙な顔つきになった。
「…昔は皆こんな感じでバカな話して笑ったり、ちょっとした事で喧嘩したり…嫌なことや悲しい事があったら泣いたりさ…皆…命のやり取りなんてしないで生きていたのに…こんな悲惨な世界になるなんて…誰も想像してなかっただろうな…」
「コウタ…?」
何故急にそんな話をするのか疑問に思い、思わずコウタに聞き返した。
「あ!いやさ、出撃前にユウキが言ってた事をふと思い出してさ。誰もが毎日を生きる事が難しい世界だなんて…そう思うと…今ってヒデェ世の中だよな…」
「…うん。」
『何でこんな事に』きっと誰もがそう思うだろう。平和なはずの日常がアラガミが現れただけで人類滅亡の危機に追いやられるなどと誰が想像しただろうか。きっと誰も考えられなかっただろう。
しかし、そんな誰もが予想できなかった悲惨な世界になってしまった。だからこそ、早くこんな誰もが命がけの世界を終わらせたいと改めて2人は決意する。
「でも、エイジスが完成すれば…命のやり取りなんて無い…皆が笑って生きていける世界が戻ってくるんだろ…?早く完成させなきゃな。」
「そう…だね…」
エイジスが完成すれば平和な世界が帰ってくる。そう信じてコウタはエイジス完成に力を尽くしているが、ユウキは未だにエイジス計画を信じきれないでいた。
だが、他に具体的な解決策も無い以上、今はエイジス計画に頼るしかない。
「よっし!そうとなりゃあ頑張ってアラガミ退治と行きますか!!あんまり時間をかけると教官に怒られちまう!」
「うん。行こう!!」
任務開始時刻になってユウキとコウタは待機ポイントから飛び降りる。
しばらく探索していると、壁の裂け目から呻き声が聞こえてきた。
裂け目を進んでいくと、円形の地形になっている場所に出て、右側の溶岩の吹き溜まりの中を悠然と泳ぐアラガミがいた。ターゲットの『グボロ・グボロ堕天種』だ。通常のグボロ・グボロと違い、赤い体をしており、水球の代わりに火の玉を発射してくるとノルンには書いてあった。
さらには原種と同様に強酸を打ち出してくるようだが、砲塔付近の筋肉が原種よりも発達してるため、広範囲に強酸を降らせてくるなど、中々厄介な相手のようだ。
「コウタ…俺がアイツを溶岩の無いところまで誘導する。その後は一気に決める。」
「了解!!」
そう言うとコウタはプラットホームに向かう階段に身を潜めた。とにもかくにも戦うなら溶岩から引きずり出さなければ話にならない。
そこで、遠距離からグボロ・グボロを撃ち抜き、気を引いて溶岩の無い場所で戦おうとしているのだ。
ユウキはコウタが居なくなったのを確認すると銃形態に変形して、溶岩の海を泳いでるグボロ・グボロ堕天種を狙う。
『パンッ』
短い発砲音と同時に狙撃弾がグボロ・グボロの背ビレを撃ち抜き、結合崩壊を起こした。突然の奇襲を受け、さらには結合崩壊までさせられたグボロ・グボロは怒り、ユウキを喰い殺そうと猛然とダッシュしてくる。
グボロ・グボロが『餌』に食い付いた事を確認して、ユウキは後退する。壁の裂け目を抜けて左に曲がる。向かう先はかつて地下鉄のショッピングモールだった場所だ。
直線的な場所なので、本来なら射撃を得意とするアラガミを相手にするには不利な地形ではある。だが、それでも溶岩の中に逃げられるよりは良いと判断して比較的溶岩の少ない場所を選んだのだ。
「今だ!!」
「食らえ!!」
グボロ・グボロが釣れた事を確認すると、ユウキの合図と共にコウタが飛び出す。結合崩壊を起こした背ビレを爆破弾で攻撃していく。
その間にユウキは急反転してグボロ・グボロを斬る。氷属性が弱点の堕天種には氷刀での一太刀はかなり効いたようだ。一撃でグボロ・グボロの顎から下を切り落とした。
だが、グボロ・グボロも抵抗の意思を示すようにじたばたと暴れ始めた。その際、コウタは狙いを胴体に変えて神機を吹かし、ユウキは切りながら後ろに跳ぶ。
するとコウタの爆破弾で胴体にヒビが入り、ユウキの斬撃で尾ヒレは切り落とされた。
止めのため、ユウキはバーストしようと疾風を展開する。だが展開の瞬間、火球の発射態勢を取ったグボロ・グボロがユウキの方を向く。
このままだと火だるまにされる。しかし、もう捕食口の展開は始まっており、解除することは出来ない。恐らく回避は間に合わない。ならば、捕食完了後にガードするしかない。
反射的に考えた頃には捕食を終え、グボロ・グボロの砲塔から火が漏れ始めている。もう一か八か装甲を展開する。
『バアァン!!』
その瞬間、暴炎がユウキを包んだ。
「ユウキ!!」
ユウキの安否を気遣い、コウタが叫ぶ。だがその瞬間、暴炎からユウキが横に飛び出す。装甲の展開が間に合ったのか、無傷で現れた。
すると、ユウキは横から鮫牙を展開する。平べったい捕食口のお陰で、展開して移動した瞬間、空気抵抗を受けて下に落ちる。それを利用して砲塔を喰いちぎり、そのままグボロ・グボロを横切る。その時のダメージでグボロ・グボロが怯んでいる隙に片足を軸にして体を回転させ、グボロ・グボロの上半分を斬り飛ばした。
「よ、よかった…どうなったかと思ったぜ…」
「ごめんごめん!正直装甲の展開が間に合うとは俺も思ってなかったよ。」
疾風の特徴である、隙の無い捕食により、捕食した瞬間には捕食口を霧散させて装甲が展開できるようにしていたのだ。
もっともこれはユウキ本人が意図した事ではなく、無意識に行ったことであるが、疾風の特徴を行かした使い方だったと言えるだろう。
「うっし!前みたいに捕食し忘れてお陀仏なんて事の無いように、しっかり捕食して帰ろうぜ!」
コウタがそう言った瞬間、ユウキの顔が険しくなり、コウタに向かって突っ込んできた。
「ぐえっ!!」
思わず首を掴んでしまいコウタが奇声をあげるが、ユウキにはそんな事を気にしている余裕はなかった。
何故ならさっきまでユウキがいた場所に、ヴァジュラが飛びかかって来ており、倒したグボロ・グボロのコアを捕食していたからだ。
『ガアアアァ!!』
ヴァジュラは満足しなかったのか、次はお前たちだと言いたげに吠える。コウタはリロードのために一旦下がり、ユウキはプレデタースタイル獄爪を展開しようとする。
だが、そんな暇は与えないと言わんばかりにヴァジュラは雷球を飛ばしてくる。それをジャンプで躱して獄爪を展開すると、ミズチのように3つに割れ、その先に爪が付いている捕食口がヴァジュラの顔面に喰い付く。
すると喰い付いたところを支点にして、捕食口がヴァジュラの上を弧を描きながらユウキを移動させるながら、最上端でヴァジュラの顔面を喰い千切る。その後、ユウキはヴァジュラの後ろに着地して再びバーストする。
ヴァジュラが顔を半分失ったことで、コウタが視界に入らなかったのか、迷いなくユウキを追撃する。だが、ユウキの方を向いた瞬間にはユウキも迎撃態勢を整えており、全力の一撃をもってヴァジュラを切り裂いた。
その結果、ヴァジュラは足と腹をを失い無様にもそこで倒れているしか出来なくなった。そんなヴァジュラに止めを刺すため、ユウキが捕食口を展開してコアを剥離した。
コアの回収を確認したら、丁神機のリロードを終えたコウタが近付いて話しかけてきた。
「お、お疲れ…俺、最後何かする暇さえ無かったな…」
「そんなに早かったかな?」
「いや、ここ最近ヴァジュラ相手でもあっさりと倒しちゃうじゃん!寧ろヴァジュラが相手だといつもより強くなったように見えるんだけど…」
実際、戦闘はコウタのリロード中に終わってしまった。個人差はあれど、薬莢の排出から再装填まで約5秒かかる。さらに神機のリロードには射撃用のオラクルをタンクに移す時間が一瞬あるので、実質リロードから発射可能になるまで約6秒程ある。この6秒の間にヴァジュラを倒してしまったのだ。
普通は驚くが、ユウキ自身ヴァジュラと同型のアラガミを倒す事を前提として訓練に励んでいたのだ。今更ヴァジュラの動きを捉えられないなんて事は無いのだ。
『俺もユウキみたいな訓練すれば強くなれるか?いや、でもあれは無理だよな…』とコウタは1人でぶつぶつと言いながら帰投準備に入る。
そんなコウタを追いかけながらユウキも帰投準備に入った。
To be continued
後書き
はい。そんなわけで第一部隊は反逆者になってしまいました。アラガミとは知らずに少女を連れ込んだ弱味を握られ、ペイラー無茶なお願いとかもされるようになりました。主人公の胃に穴が空くのも時間の問題…か?
そしてソーマの『どんなに人間の真似をしても化け物は化け物』と言うのは自分にも言い聞かせているように思えましたね。
自分はアラガミを引き寄せるから周りとは違う、故に人の輪に入ることは出来ないと諦める一方で、それを諦めきれないジレンマがあって思わず怒鳴ったのではないかと思っています。
後天的にとは言え、自らの内側にアラガミを植え付けられたソーマとアラガミでありながら人の姿をした少女にシンパシーを感じつつも、自分はアラガミではなく人間でありたいと言う渇望を見透かされたように感じて怒ったのだと考えました。
この渇望が後にある事件(?)を引き起こす予定です。