-ラボラトリ-
任務が終わり、ユウキとコウタは極東支部に帰還した。その後、ヒバリからペイラーが第一部隊を呼んでいると知らせを受け、ラボラトリに向かう。
ラボラトリに着くとサクヤとアリサが既に来ており、少女の相手をしていたが、ペイラーは部屋に居なかった。
「あ、アリサ、サクヤさん。もう来てたんですね。」
「ユウキ!おかえりなさい。あとついでにコウタも。」
「あれ?何か俺の扱い悪くね?」
ユウキがサクヤとアリサに声をかけると、アリサが返事をして、コウタが自分の扱いに疑問を持つ。
そうしていると、ペイラーが部屋に戻って来た。
「おや、ソーマ以外はもう集まっていたようだね。」
「「「「博士!」」」」
部屋に入ると、ペイラーは少女の傍に行き、第一部隊を集めた用件を話始める。
「今日集まってもらったのは他でも無い。この子の名前を考えて欲しくてね。」
「名前…ですか?」
「そう。名前が無いと色々不便だろう?だが、私はどうにもこの手の名付けは苦手でね。代わりに素敵な名前を頼むよ。」
「たのむよ。」
それを聞いた瞬間にコウタは得意気な顔になり『ふっ…』と小さく笑った。
「俺…ネーミングセンスには自信があるんだよね。」
「…嫌な予感しかしないんですけど…」
アリサの不安を余所に、相変わらず得意気な態度のまま、立った状態で『考える人』のようなポーズを取る。
「ん~そうだなぁ…例えば…」
コウタが一瞬溜め、その後自信満々にドヤ顔で考えた名前を発表する。
「ノラミとか。」
辺りが静まり返る。だが、その静寂をアリサが破る。
「…ドン引きです…」
「なんだよ!!じゃあ何かいい名前言ってみろよ!!」
「な、なんで私がそんなことを…」
自信満々で言った名前を否定されたのが余程腹が立ったのか、アリサを捲し立てる。その剣幕に押されたのだろうか、アリサも少し焦っているようだ。
「とか言っちゃって、本当は自分のセンスを晒すのが怖いんだろ!」
「そんなわけないでしょ!そ、そうだユウキはどんな名前が良いと思いますか?」
「あ!こら逃げんな!」
コウタの挑発を受けて、アリサはユウキに話題を振る。どうやらコウタの剣幕に押されたと言うより、いい名前が思い付かない、または本当に自分のセンスに自信が無いのだろう。
そんなアリサの心情など知る由もなくユウキは少女の名前を考える。
「ん~白いから…『シロ』とか『ハク』とかは?」
「え~安直過ぎない?絶対ノラミが良いって!」
「いや、それは無いです。」
あーでもないこーでもないとユウキとコウタが話し合い、アリサがツッコミを入れる。
(なんかユウキもコウタも動物に名前を付ける感覚ね…)
ユウキとコウタが付ける名前はどれも人(彼女はアラガミだが)に付ける名前としてはあまり相応しくないような名前だった。強いて言うなら『ポチ』や『タマ』と言ったニュアンスだった。
このままではまともな名前が出ないのではないかと思い、サクヤもいい名前がないか思案する。
「ならアリサはどんな名前が良いと思うわけ?」
「う"っ!!え、えぇ~っと…そ、そうですねぇ~」
アリサが目を泳がせて誤魔化すように話して時間を稼ぐ。
「シオ!!」
突然少女が声をあげる。
「そ、それ!丁度同じ名前を考えていました!」
「嘘つけ!!え~やっぱりノラミでしょ!」
少女の名前と判断したアリサは慌てて食い付き、難を逃れようとする。しかし、コウタは納得いかない様子で追求する。
だがすぐに興味がなくなったのか、相変わらずの『ノラミ』推しである。
「それ、貴女の名前?」
「そうだよ~。」
サクヤの問いに対して自らを『シオ』と名乗った少女は肯定の意思を示す。
「どうやら、ここに居ない『彼』が先に名付け親になったようだね。」
「ここに居ない『彼』って…な、なあ、やっぱノラミの方が良くない?」
ペイラーの言う彼は今ここに居ない男性の事だろう。それが誰なのか全員すぐに察しがついて、コウタが慌てたようにノラミに改名する事を勧める。
「ヤダ。」
しかし、少女は無慈悲な言葉でバッサリと切り捨てた。
「…んだよチキショー!!」
元々コウタは件の彼とは折り合いが悪く、負けたくないと言う気持ちもあって、最後は対抗心からノラミを勧めたが、結果は惨敗であった。
コウタが泣きながら壁を叩き、ユウキがそれを慰めると言う異様な光景が出来上がった。
「なら、この子の名前は『シオ』で決まりね。」
「そうですね。よろしくね、シオちゃん。」
「よろしく、なー!」
そんな野郎2人を尻目に女子3人が親睦を深める。そんな中、シオがある疑問を投げ掛ける。
「みんなの、なまえは…なんだー?」
その問いに全員が一瞬キョトンとしたが、まだシオに対して自己紹介をしていなかった事を思い出し、サクヤから自己紹介を始める。
「そう言えばまだ名前を教えてなかったわね。私は橘サクヤよ。よろしくね。」
「さくやー!」
名前を覚え、シオが元気に復唱する。
「私の名前はアリサって言います。」
「あーりさ!」
次はアリサを見て、名前を覚える。
「俺はコウタ!よろしくな!」
「こうた!」
両手をバンザイの要領で挙げながらコウタの名前を呼ぶ。
「俺は神裂ユウキ。よろしく。」
「ん~…ゆ、ゆ…き…ゆう!」
最後にユウキを難しい顔で見て唸り、ユウキの名前を半分縮めて『ユウ』と呼んだ。
「あれ…ユウキだよ。」
「ゆう!!」
にっこりと笑いながらユウキの事を『ユウ』と呼ぶ。どうやらシオにとってユウキをユウと呼ぶのは確定した事のようだ。
その様子を見ていたサクヤが『フフッ』と小さく笑いユウキに話しかける。
「シオには言いにくいのかも知れないわね。」
「いいじゃん!渾名みたいなもんだろ。」
「なら、シオちゃんに合わせて今度からユウって呼びましょうか?」
そんな会話をしながらシオを中心にワイワイと雑談している。自分だけ名前を覚えられなかったとユウキは内心落ち込みながらその光景を眺めていた。
(まあ、いっか…)
皆の名前を呼びながら愛らしく笑うシオを見ていると、そんな些細な事がどうでもよくなり、結局名前の件は訂正しなかった。
-鎮魂の廃寺-
翌朝、ユウキ、コウタ、アリサは、ヒバリからの出動要請でヘリを使って旧寺院エリア上空に来ていた。話によると、コンゴウ4体が群れを作って外部居住区に向かって進軍していると言うのだ。
しかも他の個体よりも知能が高いのか、連携して大型種さえ倒しているらしい。このままでは、大型種が襲って来た時よりも大きな被害が出る可能性がある。その為、早急にコンゴウの群れを無力化しなければならない。
そんな中、ヘリの中で任務の最終確認が行われている。
「最終確認です。今回はコンゴウ4体の討伐…これらの個体は他の個体よりも知能が高い可能性があるので、連携攻撃に気を付けてください。現在、餌場を探しているのか散り散りになっています。この隙に各個撃破を狙うため、ヘリは着地せずに、俺たちが上空から飛び降ります。何かあったら乱戦覚悟で信号弾を使うように。」
ユウキが今回の任務での動きを簡潔に説明し、1度コウタを見る。
「それからコウタ…装甲が無い以上、自身の身の安全を第一に考えて。アイテムは出し惜しみしないように。」
「オッケー!」
今回の任務では一時的にではあるが、旧型銃身神機使いであるコウタがあらゆる支援を受けられなくなるのだ。その事を認識させ、無理の無い範囲で戦闘を行うように念押しする。
「何か質問は?」
「大丈夫!任せてよ!」
「はい。問題ありません。」
2人とも問題無いと言い、任務の準備が完了する。
「よし、行くぞ!!」
「「了解!」」
ユウキの掛け声と同時に3人がヘリから飛び降りる。ユウキは中庭、コウタとアリサは本殿付近に着地して作戦が開始される。
ユウキは空中で銃形態に変形し、中庭で食事をしているコンゴウの頭に狙撃弾を放つ。狙撃弾はコンゴウの頭を撃ち抜いて結合崩壊を起こす。そのまま追撃するため、剣形態に変形して神機を下に向けて降下する。しかし、コンゴウもユウキを視認してそれを避ける。この一撃で仕留めるつもりだったが、コンゴウの右腕を切り落とすにとどまった。
それでも、腕を切り落とした時のダメージで隙ができる。着地後、ユウキはすぐにコンゴウの前に踏み込んで、神機で切り捨てる構えを取る。
「ちっ!!」
だが、神機がそのまま振られることはなく、ユウキはコンゴウから距離を取る。その瞬間、ユウキの後ろから別のコンゴウが現れ、そのコンゴウによる攻撃でユウキの足元で空気が爆発した。さらには上階から足音が近づいてくる。
すると、このタイミングでインカムを使ってコウタから通信が入る。
『わりいユウ!コンゴウがそっちに行った。こっちのことなんて見向きもしなかった!』
『ごめんなさい!私もです!ユウ、すぐにそっちに向かいます!気を付けてください!』
アリサからも通信が入り、現状の報告を受ける。どうやら全てのコンゴウがユウキに向かっているようだ。
(いや、好都合だな…4体まとめて一気に倒す!)
知らせを受けて戦闘体勢を取る。右腕を失ったコンゴウが殴りかかってきたので、ユウキは後ろに跳んでそれを躱す。だが、それを追撃するかのように後ろのコンゴウが車輪のように体を丸めて転がって来た。
いつもより速い突進攻撃に驚きながらもユウキは何とか躱す。標的を失い、勢い余ったコンゴウがユウキに殴りかかったコンゴウに激突する。
だがこれでもまだ反撃することはなく、ユウキは後ろに跳ぶ。その瞬間、ユウキが居たところで空気が爆発したら、ユウキは即座に横に跳ぶ。その瞬間、ユウキの居たところに空気砲が直撃した。
『『グオオオ!!』』
2体のコンゴウが雄叫びを挙げながら上階から飛び降りてきた。元々ユウキが戦っていた2体も体勢を立て直してユウキを取り囲む。
「「ユウ!!」」
コウタとアリサも少し遅れて上階から降りてきた。だが、その声を聞いた瞬間に、まるで見せしめに殺してやろうと言わんばかりに、全てのコンゴウがユウキに殴りかかる。
しかし、それをジャンプで躱し、飛び上がりながら体を回転させ、右足で正面のコンゴウの頭を蹴り飛ばし、左から向かって来るコンゴウは左手で殴り倒し、後ろのコンゴウは神機で突き刺し、コアを破壊する。
その後、後ろから飛びかかってくるコンゴウは体をさらに回転させて足を回して踵で蹴る。
着地した瞬間に左手で殴ったコンゴウに向かって神機を振ると、コンゴウを真っ二つにして活動を停止した。これで残ったのはコンゴウは蹴り飛ばした2体となった。
残ったコンゴウが右と後ろから殴りかかる。ユウキは神機を上から後ろに回したまま後ろに跳んで距離を詰める。コンゴウとの距離を限界まで詰めると、インパルスエッジで顔面を破壊して、その勢いを利用して加速した一撃で、コアごとコンゴウを下から真っ二つに切り裂いた。
最後に勢いのついた一撃を腕の力だけで右にずらし、コンゴウを左肩から右下がりに切り捨てた事で、最後のコンゴウも活動を停止した。
結局、ユウキ1人で4体のコンゴウを同時に相手をして倒してしまった。
「す、すげぇ…」
「はい…訓練で見たときよりも凄く見えます…」
鬼気迫る様子で戦うところを見た2人が各々の感想を漏らす。特にアリサは
訓練でユウキが10体、20体を同時に相手をしているところを見ているので、恐らくは大丈夫だと思っていたが、こうもあっさりと群れてきたアラガミを倒したことに驚きを隠せなかった。
最終的に4体中2体のコアを回収して、今回の任務は終了した。
-ラボラトリ-
極東支部に戻ると、報告の類は全てユウキが引き受け、コウタとアリサはラボラトリでシオの相手をしていた。
「おっす!」
「オッス!」
シオが片手を元気よく挙げながらコウタに挨拶する。コウタもそれに応えるように同じ挨拶をする。
だが、そんなのは挨拶とは認めないと言わんばかりにアリサが冷ややかな目でコウタを見る。
「何ですか、その下品な挨拶…そんなのシオちゃんに教えないでください。」
「ええ~良いじゃんよ~。」
「じゃんよ~。」
コウタの後にシオが続いて話す。恐らく、このような合間でも言葉を発する事で、早く言葉を覚えようとしているのだろう。
「シオちゃん、コウタの真似しちゃダメだよ?バカになっちゃうよ?」
「ひ、ひでぇ…」
コウタがあからさまに落ち込みながらもアリサに物申すが、それを無視してアリサはシオに話しかける。
「シオちゃん。こんにちは。」
「ん~…こんにちは!!」
シオがアリサに続き復唱する。
「そうですよ。朝の挨拶はおはようございます。お昼に会ったらこんにちは。夜はこんばんはって挨拶をするんですよ。」
アリサがシオに挨拶の仕方を教える。時間帯によって言うべき言葉が変わる事もきちんと伝える。
「今は…お昼だから、こんにちは、だな!」
「うん。よくできました。偉い偉い。」
「えへへ~」
アリサに頭を撫でられてシオは嬉しそうに目を細めて笑う。暫くアリサがシオを撫でていると扉が開き、ユウキがラボラトリに入ってきた。
「あ、ユウ!報告はもう終わったの?」
「うん。報告書も提出してきた。」
「すいません。結局ユウ1人に報告を押し付けるような事になってしまいましたね。」
「別に良いさ、そんなこと。どちらにしてもリーダーって立場もあるし、俺から報告した方が色々と都合が良いんだ。」
真っ先に気が付いたコウタが話しかけ、その後アリサが話しかける。今回の任務終了の報告はリーダーと言う立場もあり、全てユウキが引き受けていた。コウタが報告の終了を確認したため、この後は心置き無くシオの相手が出来るようになった。
そんなユウキとコウタの会話を聞き付けて、シオがユウキの前まで歩いてきて話しかける。
「ゆう!こんにちは!」
「こんにちは。また新しい言葉を覚えたの?」
少なくとも今までは『こんにちは』などと挨拶はしてこなかった。しかも時間帯で挨拶が変わることも分かっているようなので、誰かが教えたのだろうとユウキは考えた。
「うん!あのな、ありさがな、えらいって!えらいっていいことだよな!」
「もちろん良いことさ。にしてもシオは本当に覚えるのが早いなあ。」
「えへへ~。シオ、おぼえるの、たのし~!」
アリサの時のように、ユウキが頭を撫でるとシオは嬉しそうに笑う。やはり何かを覚えて誉められるのが嬉しいのだろう。その場に居る全員が、シオは誉められると伸びるタイプだと思った。
「結構色んな言葉覚えてきましたね。」
「そうだね。君たちがこうして話し相手になってくれていると言うのも大きいけど、やはり彼女の飲み込みの早さは凄まじいね。」
シオを見たコウタがペイラーに何気なく感想を言う。それを聞いたペイラーが、シオの学習能力について自分なりの考察を話していく。
「高い知能をもちながら、喰うか喰われるかの世界で生き抜いてきたんだ。飢えているだと思うよ、コミュニケーションと言うやつにね。」
確かにシオは異様にコミュニケーションを取ろうとしている。単純に楽しいからと言うのもあるだろうが、今まではコミュニケーションを取れる程の知能を持ちながらも、話す事が出来る相手が現れず、ひたすら喰われぬように生き抜いてきたのだ。さらには人間と同様、感情も持っているためずっと他者と関わりたいと言う欲求が満たされなかったためだろう。
そんな事を考えているとユウキの視界にシオがアップで映る。
「ゆう!おえかきしよ!」
そう言うとシオはユウキの手を取り、ラボラトリの奥にある小部屋に向かった。それに続き、アリサとコウタも小部屋に入っていった。ちなみにその光景を見ていたアリサの目は若干鋭くなっていた。
ペイラーが好きに使っていいと言ってシオに譲った部屋だが、中には凄まじい光景が広がっていた。壁一面の落書きや散乱した備品はまだ部屋が汚いで済む程度だ。
だが、シオの部屋に備え付けられていたベッドの角や冷蔵庫の一部が、まるでケーキにでもかぶりついたように無くなっていた。恐らく空腹に耐えかねたか、あるいは興味の一貫からか捕食したようだ。
そんな光景に驚いていると、シオがユウキにクレヨンを渡してきた。
「ゆう、どのいろにする?」
そう言われてユウキは何気なく黒を取る。
「さて、何を描こうかな?」
「そうだな~じゃあ…はかせ!!」
2人で壁一面に落書きをしていく。シオの絵は幼子がただ楽しさだけを追求した無邪気な絵だった。ユウキもそのレベルに合わせたのか、幼子が書いたような絵を描いていた。
(あ、結構楽しい…)
思っていたよりも楽しくなってきたのか、ユウキはシオと一緒になって鼻唄を歌いながらも夢中になって落書きしていく。
そんな中、何かに気がついて突然落書きを中断する。
「シオ…スゴいことに気が付いた…」
「んん~?なんだぁ?」
ユウキにつられてシオも落書きを一時中断する。
「大体のものは…丸で描ける!絵の基本は丸だ!」
「おお!?すごいぞぉ!きほんはまるだな!」
その後は『きほんはまる~♪』と歌いながらユウキとシオは落書きを繰り返した。
そんなユウキの様子を見て、コウタも落書きに加わろうとクレヨンを探す。3人を少し呆れながらもアリサは優しく見守っていた。
To be continued
後書き
今回は本編にキャラエピ(任務終了後にあるやつ)を捩じ込んでみました。シオのエピソードはほっこりするようなものばかりで、見たときは癒されましたね。