シオによるセクハラもあるので注意です。
-ラボラトリ-
シオが極東支部に来てから3日が過ぎた。第一部隊が言葉以外にも色々な事を教えていると言うこともあり、シオはあっという間に日常会話に支障が出ない程度の知識と言葉を覚えた。
そんな中、ユウキ、コウタ、アリサの3人がペイラーに呼ばれてラボラトリに来ていた。
本来なら、第一部隊全員に召集がかかったが、サクヤとソーマは任務が入ったため、この場にはいない。ユウキがペイラーと話をしている後ろで、アリサとコウタがシオに言葉を教えているが、シオはどこか上の空と言った感じだった。
だが、シオがアリサの前まで移動すると、突然胸を鷲掴みアリサから官能的な声が漏れる。
「ひゃあ!?ちょっ!?シオちゃ…!ん…ぁあ!」
「プニプニ…」
顔を真っ赤にして悶えるその姿は、男子であれば体の一部が元気になりそうな光景だった。コウタは間近でその光景をガン見していた。
触りたいだけ触って気が済んだのか、シオはアリサから手を離し、アリサは自分の胸を隠すように腕を組んでコウタを睨んだ。そして、シオは次にコウタの所に来た。
「な、何だ?」
コウタはアリサの気迫に押されて、シオが目の前に来ていることに気がつかなかった。
そのままシオはコウタの胸に手を伸ばすが、当然を掴む所など無く、ただ強い力でつねられているだけとなった。
「あだだだだだ!!」
「カチカチ…うーん…」
痛みから悲鳴を挙げるコウタを、アリサは缶コーヒーを飲んで気分を落ち着かせながら見ていた。そしてシオも好きなだけ触った後、また難しい声で唸った。
その後は新しいターゲットを見つけてユウキの背後に迫る。だがユウキはその事に気がつかずに、ペイラーと話をしていた。
「実はシオの食料となるコアが、そろそろ半分を切りそうなんだ。どうにかしてコアの確保数を上げたいんだが…何か良い手は無いかと思ってね。」
「うーん…任務の数を増やすのが手っ取り早いですけど…皆への負担が大きなりすぎるんですよねぇぇえ?!」
シオが突然ユウキに抱き付いてきた事に驚き、ユウキはすっとんきょうな声を挙げる。
「うーん…」
だが、抱き付いた本人は難しい声を出して、考え込んでいるようだった。
『メギョ!!!』
突然後ろから何かを潰すような音が聞こえてきた。恐る恐る後ろを見ると、缶コーヒーの入れ物であるスチール缶を握り潰し、目を大きく開けつつも無表情でユウキを見ているアリサがいた。
「おお?アリサ、力持ちだな。」
「え?あ、あのアリサ…さん?」
「な、何でそんなに怒ってるの?」
ユウキとコウタはその光景に恐れをなして顔が引きつり、シオは何故か喜びながらアリサに話しかける。
「へ?!あ!!い、いや何でもないです!!ええ、何でもないんです。」
話しかけられた事で、アリサは慌てて我に返り何でもないと誤魔化すが、明らかに動揺していて、誤魔化しきれていなかった。
だが、ユウキもコウタも誤魔化すのなら、あまり触れない方が良いと思い、敢えて追求はしなかった。
そして、ユウキはシオに手を離すように頼むと、シオはユウキから離れて再び唸りだす。
「で、シオはどうしたの?」
「うーん。おっかしいなぁ…皆の中で、ユウは特に変…どっちでもあって、どっちでもない。」
「へ、変って…」
ユウキはがっくりと肩を落として落ち込む。そんな様子を見て、ペイラーはある仮説を立て、それがほぼ事実に近いものだと自分なりに確信を得た。
「ふむ。どうやら人の個体差が気になりだしたようだね。」
「個体差…ですか?」
「そう。人種、性格、性別、体格や造形と言った、個人による違いに興味を持ち始めたようだね。実に興味深い。」
今までは『人間』と言う括りでユウキ達を見ていたが、同じ人間でもそれぞれ違うところがあると気がついて、それを不思議に思っているようだ。
「シオちゃんも、見た目は女の子なんですけどね。」
「アラガミは通常、無性生殖に近い繁殖形態を取っているけど、新種のヴァシュラのような例もある。性別と言う概念の理解も時間の問題だろうね。」
「って事はあれか?ユウの顔立ちは女の子なのに体は男だからおかしいって事?」
男女による違いに気がついたからこそ、女顔で男の体をしているユウキが変だと言っているのだとコウタは解釈した。
「そ、そんなに…女っぽい?」
「うん。普通に美少女に見えるよ。」
「あ…うん…そっか…」
コウタのストレートな感想を聞いて、ユウキはどんよりとした空気を出して、あからさまに落ち込んでいた。
「え?!え?!!?そんなに落ち込む?!」
「…他人が気にしている事を平然と言うなんて、最低ですね。」
ここまで気にしているとは思っておらず、コウタは慌ててフォローしようと思ったが、先にアリサがコウタに止めを刺し、一瞬のうちに野郎2人が再起不能になった。
「うーん。1度に2人沈んだか。」
シオがユウキとコウタの頭をペシペシと叩く。そんな様子をペイラーは遠目に眺めながらポツリと呟いた。
-数日後-
シオが来てから1週間が経った。この間に、シオの食料用のコア集めのため、第一部隊は大型種が複数いる状態での討伐任務に向かう事が多くなった。さらには、第一部隊を2つの部隊に分けて、コアの捕獲数を上げようと試みた。
そのため、ここ最近はユウキ、アリサ、コウタの3人とサクヤ、ソーマの2人で任務に行くことが多かった。
そんなある日、ユウキはヴァシュラとサリエルを倒した後、ペイラーに呼ばれて、即座にラボラトリに来た。
そこには、何時ものようにシオが居た。先に来ていたソーマはソファに座っていて、ペイラーは何やら端末の画面とにらめっこしていた。
ユウキはどのような用件で呼ばれたのか分からなかったので、ソーマなら何か知っているのではないかとソーマを見る。自分を見た意図を察すると、ソーマは不機嫌そうに話した。
「俺も今来たところだ。用件なら呼び出した本人に直接聞け。」
そう言われて、ユウキは画面を見ているペイラーに話しかける。
「あの、博士?」
「うん?ああ、来たね!いやあご苦労様!君たちのお掛けで、シオの知識、知能は成人のそれとほぼ同等にまで成長したよ。」
「したよー。ありがとね。ありがとう!」
そう言うと、シオはユウキとソーマに向かってダランと頭を下げた。
「口調は相変わらずだけどね。さて、今回呼び出したのは、かなり深刻な問題が発生したからなんだ。」
「深刻な問題って…もしかして…」
ペイラーの言う深刻な問題…つい最近話した事もあって、今思い付くものと言えば1つしかない。
「そう…シオの食料の確保だ。今までは君たちに集めてもらっていたコアを与えていたんだけど、つい先日それも尽きてしまってね。君たちにはシオをデートに連れていって欲しいんだ。フルコースのディナーを頼むよ?」
「頼むよ。」
ペイラーに続いて、シオも頼むと言ってくる。
「ふざけるな。何で俺がそんな」
「わかりました。」
「おい!」
ソーマが断るよりも先にユウキが任務を了承すると、ソーマが少し怒りながら反論する。
「リーダー命令です…ソーマさんも来てください。」
ユウキとしてはそろそろ無理矢理にでも仲間との接点を作って、ソーマと仲を深めた方が良いのではないかと考えていた。シオと言う大きな秘密を第一部隊全員が共有する上で、不信感と言うものは第一部隊を崩壊させるのに十分過ぎるものだからだ。
現状、ソーマだけが皆と仲を深めていないので、万が一秘密が漏れたとしたら、真っ先にソーマが疑われるだろう。それを避けるために、ユウキは少々強引ではあるが仲間と行動を共にし、仲を深めるきっかけを作ろうと考えていたのだ。
「リーダー権限を使われちゃあ逆らえないね?ソーマ?」
「チッ!バカ野郎が…」
そんなユウキの心情を知ってか知らずか、その心配を鬱陶しく思いながらソーマは小さく悪態を吐いた。
「それじゃあ決まりだね。任務は私の方で発注しておこう。それじゃあ2人とも、よろしく頼むよ。」
「ありがとう!あ!ねえ博士…」
「ん?」
「デートってなに?」
ペイラーとシオの会話を聞いて、ユウキは『まずそこからか…』と内心ツッコミを入れた。確かに第一部隊にはその単語を教えられる人間など恐らく居ないだろう。
コウタは教えそうだが、テキトーな事を言ってもすぐにボロが出ると分かっていて、敢えて教えなかったのかもしれない。
「楽しいことだよ。」
「楽しいこと…いただきますだな!」
シオにとっては楽しいこと=食事なのだろう。あまりに純真無垢であるためよく忘れがちだが、こう言うふとした言動でやはり彼女はアラガミなのだと実感する事がある。
ともかく、リーダー権限でソーマを強制的に任務に出し、シオと共に任務に向かう事にした。
-愚者の空母-
ユウキとソーマ、それから任務の予定が無かったコウタを連れて任務を受けた。シオはペイラーが用意していた『秘密の抜け道』を使って後から合流し、計4人で帯電能力を持ったシユウの堕天種討伐に向かう。
作戦領域に着くと、シユウ堕天種の他にも黄色を基調としたザイゴート堕天種、それからオウガテイルもそれぞれ5体程確認出来た。
シオはデートと言う食事会の会場に来てからソワソワして落ち着きが無くなった。
「ゴ・ハ・ン!ゴ・ハ・ン!」
「わぁかったから!ちょっと落ち着けって!見つかっちまうだろ!ユウとソーマからも何か言ってくれよ!」
「知らん…好きにしろ。」
コウタがシオに落ち着くように言うが、シオにはまだ自制心と言うものが無いのか、一向に落ち着く様子はない。
「おお!ご馳走発見!いただきまーす!」
「あ!シオ!!一人じゃ危ない!全く…急ぎましょう!ソーマさん!コウタ!」
獲物を見つけると目を輝かせて一目散に走り出す。ユウキが危ないと警告するも、耳に入っていないようだった。
しかし、シオが高い知能を持ち、喰うか喰われるかの世界を生き延びてきたと言うのが何を意味するのか、彼女がただ守られるだけの存在でない事に、少なくともユウキは気付いていなかった。
「よーし!!沢山食べるぞぉ!!」
その声を聞き付けて、ザイゴート堕天種とオウガテイルがシオに向かって動き出す。
だが、シオはそれを無視してシユウ堕天種に向かって走る。ザイゴート堕天種のガス攻撃やオウガテイルの針を飛ばす攻撃も難なく躱し、シユウ堕天種にたどり着く。
すると、シユウ堕天種は腰を落として両手を合わせ、掌で大きめの雷球を作り、シオに向かって投げつけた。
「おお?!」
それを避けようと、シオは今まで走ってきた道のりをバックステップで戻る。その隙を突いてオウガテイルが喰い付こうと口を開ける。
『バァン!!』
突然、オウガテイルが爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。
「シオ!!大丈夫?!」
「うん!ありがとな~!」
ユウキの方を見て礼を言うと、シオは何かを思い付いたような表情になる。
「あ!そうだ!」
そう言うと、突然シオの右手がウネウネと動きだし、形を変えていく。一瞬の間を置くと、シオの右手がナイフの様な形に変形した。よく見ると、峰の部分には細い砲身の様なものがついている。
「うそ!!」
「マジかよ!」
ユウキとコウタが驚きの声を上げる。さらには流石のソーマも声には出さなかったが、驚いた様子だった。
人と同じ姿をしているため、よく忘れてしまうが、シオはオラクル細胞の群体であるアラガミなのだ。
恐らく右手の細胞結合を1度絶ち切る、あるいは弱める事で固定化した形を変えられる状態にして、形が決まってから再び結合の強度を上げて固定化しているのだとソーマは考えた。だが、ユウキとコウタはそんな事を考えている余裕は無かった。
「いっくぞ~!」
シオが掛け声と同時にアラガミの群れに突撃する。標的はもちろんシユウ堕天種。その間に他のアラガミが居ようともお構い無しだ。
右から喰い付いてくるオウガテイルを体を回転させながら切り捨て、右手が反対に来たところでザイゴートを撃ち抜き、体が後ろに向くと下から別のザイゴートを切りながらもシユウ堕天種に近づく。
まだ後ろから小型アラガミの気配がするので、体を逆回転させて真後ろのオウガテイルを切ってその勢いで右にいる別のオウガテイルを切り倒す。
そして、ついに標的にたどり着くと目にも止まらぬ早さでシユウ堕天種を切り刻んでいく。その結果、片腕を失い、体には無数の深い切り傷、足の付け根も辛うじて繋がっていると言った具合にボロボロにされていた。
だが、シユウ堕天種も反撃に手刀を突き出すが、シオが後ろに下がってあっさりと躱された。だが、その回避先を読んでいたかのようにザイゴート堕天種が口を開けて迫ってきたが、コウタの放った弾丸の雨で体の脆い部分に攻撃されてあっけなく倒された。
周囲の状況が見えていないのか、それでもシオはシユウ堕天種に飛びかかる。その途中、ザイゴート堕天種がガスを噴出しようと膨らんでいたが、ソーマが後ろ神機を振り下ろし、バラバラにしてしまった。
「全員小型種を掃討!そのあとシオに合流!」
ユウキの指示で全員が残った小型種の殲滅に移る。自由奔放に戦うシオを無理矢理指示通りに動かすよりも、シオには自分の標的に集中させるため、自分達がサポートに回った方が動きやすいと判断したためだ。
ユウキ達が小型種と戦闘している間、シオは再びシユウ堕天種に突っ込む。シユウも反撃しようとするが、先のシオの猛攻ですでに虫の息となっていて、まともに動くことも難しくなっていた。なんとか手刀を突き出すが、辛うじて繋がっていた足が砕けて、体勢を大きく崩す事になった。
「いただきます!」
シオの声と同時にシオの右手から、天使の羽で出来たような捕食口が生える。そして神機使いと同様に体内のオラクル細胞を活性化してバースト状態になる。
「つよいぞぉ!!」
そう言うと、今まで十分速かった攻撃がさらに速くなり、シオはその言葉通り強くなったのだ。片腕、片足を失っているシユウ堕天種にこの攻撃を避ける手段はなく、ただされるがままに切り刻まれていく。残っていた腕と足も切り落とされ、常に組まれている人間と同じような腕も失い、頭は半分切り落とされてしまった。
「おーわり!」
その言葉通り、シユウ堕天種は周辺に体のパーツをばら蒔いて、胴体だけになって倒された。そのあと、ユウキ達も合流したが、その光景を見ると、愛らしい少女に見えてもやはりアラガミなのだなと実感した。
ユウキ達が唖然としていると、突然シオが両手を合わせて声を発する。それで3人は現実に引き戻された。
「それじゃあ…いただきます!!」
そう言ってシオは獲物であるシユウ堕天種にかぶり付こうと手を伸ばすが、その直前に何かを思い出した様に小さく声を出した。
「あ、そうだ!ソーマ!一緒に食べよ!」
「おいおい!俺たち人間はアラガミは食べないよ。」
コウタが当たり前の答えを返す。そのやり取りを聞いていたソーマが、バツが悪そうに目を逸らす。
「えー?でもソーマのアラガミは食べたいって言っているよ?」
「え?」
しかし、シオが放った言葉はそんな当たり前を否定するものだった。もしかしたらソーマの神機の事を言ったのかも知れなかったが、コウタはそんなところまで気を回す事が出来なかった。
「ふざけるな!!テメェのような…バケモノと一緒にすんじゃねぇ!!」
「え?!ソーマ?!」
今まで以上に怒りを露にして、自分とシオは違うと怒鳴る。するとソーマは踵を返した。
「もう2度と、俺には関わるな…!」
ポツリと小さいが、全員に聞こえる様に呟いた後、待機ポイントに向かって1人で帰って行ったが、シオが少し離れて後を追う。
「シオ…ずっと一人だったよ…だから、ソーマを見つけたとき嬉しかった。皆と仲良くなれて、嬉しかった。えーっと、だから、だから…」
シオに話しかけられて、ソーマは一旦足を止める。その間にシオが必死に覚えたばかりの言葉を使って自分の想いを伝えようとするが、ソーマはそれを無視して再び待機ポイントに向かって歩き出した。
「お、おいソーマ!!話くらい最後まで聞いてやれよ…!」
「いや…今は、1人にした方が良いと思うよ…」
「…何か知ってるって顔だな?」
コウタがユウキを見ながら問い詰める。その目は『話せ』と言っていた。
「分かった…俺の知る限りの事を話すよ。ただ…あまり気分の良いものじゃないよ…それでも聞く?」
「…うん。」
そう言うとユウキは一旦シオを見る。
「分かった…シオ!ご飯食べて待ってて。」
シオに食事をさせて、ユウキはソーマの出生について話し始めた。ソーマがゴッドイーターのモデルとなる実験を施されて生まれた事、それでよりアラガミに近い存在となってしまった事、その結果生まれた際に母親であるアイーシャが死んだ事、知ってる事を洗いざらい話した。
「なるほど。難しい事は分かんないけど、要するにソーマがゴッドイーターや神機の技術のオリジナルって事だよね。」
「うん。その上アラガミから直接採取された偏食因子を持っているから、自分をよりアラガミに近い存在だと思っているんだと思う。」
「それをコンプレックスに思って他人と距離を置いていたのか…しかも、自分が産まれた事で母親を死なせてしまったって気に病んで…ったく、一人でそんなもん背負って…カッコつけてんじゃねえよ…」
そう言いながらコウタは待機ポイントの方を見る。その表情には悲しそうで、悔しいそうな表情をしていた。そして、ユウキもコウタと同じ表情で待機ポイントを見ていた。
結局シオが食事を終えるまで、この気まずい空気が収まる事は無かった。
To be continued
後書き
今回は無印編の目玉(だと思う)のシオによるセクハラとソーマの葛藤の話でした。
何だかんだと言ってシオとソーマの境遇って似ていると思うんですよね。どちらも回りに理解者が居なくて孤独であったり、アラガミ人間と人間アラガミだったり。
それを思うと出会うべくして出会ったのかないとも思います。
次回はGEvsGEを書く予定です。上手く書けるかな?
あ、シオが小型種を切り刻んでいく様子はアニメ東京喰種の什造がアオギリの樹アジトに突撃するシーンを参考にしました。