-極東支部-
結局、任務終了後、ソーマは独断で帰投してユウキ達が帰った頃にはもうエントランスには居なかった。ユウキは秘密の抜け道を使ってシオが帰って来られるように、しばらく出入り口を警戒しているとシオが帰って来た。
そのままペイラーの元に帰して、この日はシオの相手を少しした後、ソーマの様子を見に部屋に行ったが、居留守を使われて部屋から出てくる事はなかった。仕方ないので、その後は寝るまで訓練をした。
翌朝、特に緊急の任務も無いので、ユウキは1日訓練に使おうと思っているのだが、ソーマの一件がどうにも気になっていた。何となくだが、このまま放置するのは不味い気がしていた。
そのため、先にソーマと話だけでも出来ないかと考えながらエントランスに降りると、都合よくソーマがソファに座っていた。近くにはアリサとコウタを始めとした神機使いもいるが、ソーマがいかにもイラついてますと言った空気を出していたので、近寄れないでいた。
「おはようございます。ソーマさん。」
だが、ユウキはそんなことを気にする様子もなく話しかける。端から見れば無神経な奴だと思われかねないが、今のソーマをほっとくのは一番不味いような気がしていたため、そこまできを回す余裕はなかった。
「…何の用だ…?」
ユウキの挨拶に対して、ソーマはドスの効いた低い声で威圧する。さすがにユウキも怯んだが、めげずにソーマに話しかける。
「いや…昨日の事…大丈夫かなって思って…」
このときユウキは、ストレート過ぎる聞き方だったと内心後悔してた。案の定、ソーマはさらにイラついた様子でユウキの問いに答える。
「テメェに関係ねえだろ…他人の事情も知らないで首を突っ込むな…!」
「…何も知らないってことは無いですよ…昔あった計画の事は博士から教えてもらいました。だから、相談とか愚痴?聞くだけでも出来ないかと思ったんですけど…」
ユウキなりにソーマを元気付けようと出来ることはいかと考えた結果、相談に乗って相手を理解することから始めるのが一番良いのではないかと考えた。だが、ソーマの返事は別の方向からユウキを悪い意味で刺激した。
「なら知ってるだろ…俺は人とアラガミの忌み子だ。俺は…産まれてきてはいけなかったんだ。」
実際、ソーマは後天的にアラガミを埋め込まれた事を気にしており、その事で自身が産まれたときも、その後も多くの人の命を奪う原因となった事を気に病んでいた。そして、それが自分が生きている限り続くのかと思うと自分が産まれてきたのは間違いなんじゃないかと考えていた。
普通ならそのように考えるだろうが、ユウキは違った。『産まれてきてはいけなかった。』その言葉を聞いた瞬間、様々な思いが同時に頭の中を巡っていた。
(何だよそれ…沢山の人から…支部長やアイーシャさんから産まれて来る事を望まれて…辛くても、希望として産まれておいて…産まれてこなければ良かったって…アイーシャさん達の想いはどうなる…?…ナンカ…)
『ムカツク』
「はぁ…アホくさ…」
突然、ユウキの雰囲気が変わり、口調も荒っぽいものに変わった。
「何?そうやって自分一人だけが不幸みたいな事言ってさ…聞いててウザいんだけど?」
「うるせえ…何も知らないくせに…!」
ユウキが無表情でソーマに暴言を吐くと、ソーマが苛立ちを含んだ声でポツリと言い返す。
「ああ、知らねえよ。お前が話さないんだから分かる分けねぇだろ。だがな、これだけは言っとく…」
ユウキは一旦言葉を区切り、完全に戦闘体勢になった獣の目でソーマを睨み直す。
「何かを背負ってんのはお前だけじゃねえ…サクヤさんもアリサもコウタも…そいつらだけじゃない。この世界で生きてる人間は皆何かしら背負ってんだよ。そんな中お前は自分の不幸に甘えてよ…悲劇の主人公でも気取ってるわけ?」
それを聞いた瞬間、ソーマの中で何かがキレた。『何なんだよ。こっちの気も知らないで、他人の事情に土足で入ってくるんじゃねぇ…!』そう思うと同時にもう体が動いていた。
敵を前にしたような鋭い目付きでユウキを睨みながら拳を振り下ろす。
『バキィ!!』
拳が頬に当たる音と同時にユウキが殴られて吹き飛び、後ろにあったターミナルの根本に頭から激突する。その衝撃ボルト固定されていたターミナルが倒れて、辺りの配線が引き千切られた。さらに、それに引きずられて上から配線用のパーツや鉄筋が落ちてきて、辺りに埃が舞う。
「ソ、ソーマ!?やり過ぎです!!」
アリサの叫びもどうやらソーマには聞こえていないようだ。視線を一切逸らす事なく、ユウキが吹き飛んだ方を見ていた。
周りの神機使い達も『ソーマが暴れ出したぞ!』と叫びながら避難している。
「うるせえんだよ!!テメェに…俺の何が分かるってんだよ!!」
ユウキを殴ったソーマが肩で荒い息をしながら怒鳴る。構えを解こうとした瞬間、舞い上がった埃の中からユウキが飛び出した。
「分かるかよ!!俺はお前じゃないし読心術が出来る訳でもエスパーでもねぇ!!話してくんなきゃ分からねぇんだよ!!」
今度はユウキが怒鳴りながら殴りかかる。その拳はソーマの顔面を捉え、ソーマは後ろに飛んで行き、背中からエレベーターに叩きつけられた。その衝撃でエレベーターの扉が吹き飛び破壊された。
「ユウも落ち着け!!辺り一帯ぶっ壊す気かよ!?」
これまたコウタの声など聞こえていない様子だった。任務でキレた時の様な獣の目でソーマを睨む。
ソーマも意地になって再びユウキに急接近する。そしてユウキの頬に右フックを決め、ユウキは腰を少し落とすような形で体勢を崩した。
「ガッ!!」
「分からないならもう俺に関わるな!!いい加減鬱陶しいんだよ!!!」
ソーマが殴りながら叫ぶ。だが、ユウキの目はそれでもソーマを睨む。ソーマが右フックを放った事でがら空きになった右腕と胴体の間を狙い、ユウキは右下に体勢を崩しながらソーマの顔面に左でストレートを放つ。
だが、ソーマは反射的に右フックの勢いを殺さずに、右に体を流したが、ユウキの左ストレートがソーマの顎を捉えた。
「そうやって話しかければうるせえの一点張り!近寄れば関わるなって突っぱねる!そんな奴の何を分かれってってんだよ!」
「ゲハッ!!」
殴られた衝撃でソーマが上に浮き上がる。だがソーマは浮き上がりながら即座に反撃に出る。
ソーマは自分の腰の高さにユウキの頭が来ると、回し蹴りを放つ。それをユウキは左腕で防御し、右手を足に添える。
「おらぁ!!」
「チィ!」
ユウキがソーマの攻撃を防御した後、右手で足を掴んで右側にあるテーブルとソファーに向かって投げ飛ばす。
「ガハッ!」
ソーマとテーブルセットが激突してセットを破壊した。しかし、飛ばされながらも体勢を整えて、ユウキに向かって飛び出す。
「俺の過去は知ってんだろ!あんなの誰かに話しても理解されるわけねぇだろ!!」
そう叫びながらソーマがユウキの腹に蹴りを入れる。
「ッ!!」
激痛に声にならない叫びを挙げて出撃ゲートに直撃する。さすがに外に直結するゲートと言うだけあって頑丈だったらしく、とてつもない速さで激突したにも関わらず、ゲートはひしゃげただけで済んだ。
が、この一撃でユウキは完全にキレたのか、おぞましい顔をソーマに向けながら立ち上がると、すぐ横に設置されているターミナルのフェンスを素手で引きちぎり、それをソーマに向かって投げた。
「キャア!!」
「アリサ!俺たちも降りよう!ここにいると巻き添え食らうぞ!」
ソーマが右手で投げたフェンスを弾くと、下階に降りる階段付近に突き刺さった。その場に居ると自分達にも被害が出ると察したコウタがアリサと共に下階に避難した。
その一方で、フェンスを投げた直後、ユウキはソーマに向かって走り出す。
「知って欲しいなら話せよ!理解されたいなら関われよ!それもしない癖に『俺の何を知っている』だと?!ふざけんな!!話そうとも関わろうともしねぇで理解してもらおうなんて虫の良いこと言ってんじゃねぇ!!」
叫ぶと同時に飛び上がりながら右足を一度限界まで左に伸ばして、右に向かって裏回し蹴りを叩き込む。フェンスを弾くために右手を外に振った状態では対処しきれず、ソーマは左手を自身の顔とユウキの足の間になんとか滑り込ませてガードする。
しかし、勢いまでは殺しきれずに別のターミナルに飛ばされる。それを空中で無理矢理体を捻り、体がターミナルに対して垂直になるようにして、着地の要領で体勢を整える。
だが、衝撃まで吸収できずに、再びターミナルを破壊した。それでもソーマは気にせずにユウキに向かって殴りかかる。
「なら理解なんてしなくて良いんだよ!ほっとけば良いだろ!!」
ソーマが猛スピードでユウキに突っ込み、腹目掛けて殴る。ユウキはそれを左手で受け止めつつ、右足でソーマの腹を蹴り上げる。
「仲間だからほっとけねえんだよ!!ほっとけと言われてほっとけたら端っからテメェに関わろうとしねえよ!!」
蹴り上げられて宙を舞ったソーマが天井を蹴って、真下に居るユウキに向かって心の内を叫びながら急降下する。
「それが鬱陶しいってんだよ!!死神の俺と関わった奴は死ぬ!!なら俺なんて居ない方が良いだろうが!!」
ユウキは急降下と同時に殴りかかるソーマの拳を後ろに跳んで躱す。標的を失った拳がエントランスの鉄板床を捲れ上がらせて破壊する。
「テメェが死神?!ハッ!!笑わせんな!!」
ソーマの拳を躱したユウキが反撃に出る。全体重を乗せた拳を叩き込むため、軽く飛び上がりながら拳を握りソーマに向かう。
「テメェなんざそこいらに居る中二病を卒業出来ねぇガキと変わらねぇだろ!!」
その瞬間、ソーマの動きが一瞬止まった。しかし、ユウキは止まる事無くソーマに殴りかかる。
だが、ソーマも即座に反応して、拳を握り迎撃体勢を取る。
「いい加減他人の話を聞けや分からず屋があぁぁああ!!」
「ウザってえんだよお節介野郎おぉぉぉお!!」
2人の拳が互いを殴る体勢になる。拳が交錯して同時に顔面を捉える
「止めんかあぁぁぁあ!!」
…事はなかった。先にツバキの鉄拳がユウキとソーマの後頭部を捉えて、2人は盛大に床に叩きつけられた。
その後、ソーマは頭を押さえて痛みに耐えながら踞り、ユウキは後頭部を押さえて悶絶しながらのたうち回っていた。
「貴様ら…アナグラの設備を破壊してまで喧嘩して…どう言うつもりだ…?」
2人が大人しくなった事を確認すると、ソーマがどうにか動けるようになって、ツバキを睨みながら噛みついた。
「ツ、ツバキ…テメェ…!」
「…直れ。」
「…え?」
「そこに直れと言った…何度も同じ事を言わせるな…」
死刑宣告されたような迫力に、ユウキとソーマは鉄板の上であるにも関わらず大人しくその場に正座した。
「さて、お前達…何故正座させられているか分かっているんだろうな…?」
「だってソーマが…!」
『バゴン!!』
「誰が言い訳しろと言った?」
ユウキがソーマを指さして反論した瞬間、ツバキから拳骨が飛んできた。その拳骨がユウキの頭部を捉えて、大きなタンコブを作る。そして、頭を殴られたショックでユウキは正座したまま上半身だけ前に倒れ、なんとも情けない格好で気絶した。
「起こせ…」
「…え?」
「起こせ。」
「は、はい…」
ハッキリ言ってアラガミよりも遥かに怖い。そんなツバキの気迫に押されてソーマでさえも思わず敬語になって、ユウキを起こす。
揺すっても叩いても目を覚まさなかったユウキをどうにか叩き起こして、ツバキからの地獄の説教タイムが始まった。
-3時間後-
「さて、これからお前達への罰を言い渡す。」
説教の最後に罰の内容が言い渡される。懲罰房に入れられるか報告書ならばまだ良い方だ。だが、これだけ設備を破壊しておいて、そんな軽い処分で済むとは思えない。ユウキはどんな恐ろしい罰が待っているのかと顔を真っ青にしながら考えるていと、意外な罰が下された。
「ここを片付けろ。完璧に元に戻すまで作業を止める事は許さん。いいな?」
それだけ言うと、喧嘩のせいで扉が吹き飛んだエレベーターに乗り込んで上階に向かった。
本来なら、ツバキも彼らを懲罰房に1週間はぶちこみたいところだ。だが、新種、未確認種のアラガミの活動が頻繁に報告されている現状を考えると、極東支部の最強戦力である2人が両方とも任務に出られなと言うのは非常に不味い。そのため、ツバキは2人に施設の復旧を命じたのだ。
ツバキが居なくなった事を確認すると、ユウキとソーマはそれぞれ片づけを始めた。だが、これが下手に懲罰房に入るよりも辛い罰だとはこのときの2人は思いもしなかった。
「あの…手伝いましょうか?」
「あ…うん、助かるよ。」
「じゃあ…俺、こっちやるな。」
下階に避難していたアリサとコウタも片づけに加わり、本格的に作業が開始された。
アリサとコウタは破棄される部品の片づけ、ユウキとソーマはリッカに教わった方法で新しいターミナルの設置工事をしている。
「ん…」
「なんだ?」
ユウキの手には片面に沢山のピンが立っていて、反対側には小さな穴が沢山空いているコネクタのような部品握られていた。
「そっちの部品。」
「…」
短い会話を交わして、無言で作業に戻る。そんな中、ユウキが再びソーマに話しかける。
「さっき言いそびれたから…今言っとく。」
ソーマは何も返事を返さないため、ユウキは1人で話を続ける。
「確かにあんたが産まれた事で…失われた未来も、亡くなった命もあった事は事実だ。」
「…」
相変わらずソーマから返事は無い。だが、その表情少し険しくなっていた。
「けど同時に…産まれた事で救われた命ってのも…数えきれない程に沢山ある。その事にも目を向けて欲しい。」
「それでも…死んだ奴は居る。」
「うん。でも、もしその事に負い目を感じてるなら…やっぱり、生き続けるべきだと思う。あんたは、あの事故で亡くなった人達にとって希望その物だ。その想いを…アイーシャさんの願いを忘れちゃいけないんだって俺は思うんだ。」
ユウキはマーナガルム計画の一部始終の動画で、アイーシャを始めとした研究者達の人類を救いたいと言う一心で、計画を進めた事も知っている。
確かにやり方には問題があったのかもしれないが、その想いは決して間違ったものでは無いはずだ。ならその想いを託されて産まれたソーマには、嫌でもいつかその想いに向き合わなければならないとユウキは言っている。
「それから、母親の事とか自分の体の事とか…色々気にしているようだけど、アイーシャさんは、支部長と一緒に自分の子供が産まれてくるの凄く楽しみにしてて…とても幸せそうだった。そんなアイーシャさんの想いを…切り捨てないで欲しい。」
「…」
そう言いながらユウキはソーマが産まれる前日の映像を思い出していた。支部長とアイーシャのソーマに幸せを願いながらソーマが産まれるのを楽しみしていた。
今の支部長は分からないが、アイーシャから親心を向けられていたのは間違いない。大切に想われて産まれたのにそれを想いを知らずに切り捨てるのは悲しいことだとユウキは思った。
「少なくともあんたは…望まれてこの世界に産まれて来たって事は…確信を持って言える。」
「…」
再びソーマが無言になり、ユウキは話ながら作業を続ける。
「俺はあんたが産まれて来て、生きていて、嬉しいって思ってる。」
「…それで?」
「え?あー…だから…上手く言えないけど、この先、何があっても…絶対死なずにここに帰ってきて欲しい。」
ここで『それで?』と返されるとは思っていなかったので、しどろもどろになりながらも話を続ける。
「ソーマが居なくなると…悲しいからさ。」
それを聞いたソーマは動きが止まる。しばらくするとまた作業を再開すると今度はソーマから話を振る。
「…1つ聞かせろ。」
「うん?」
「あれだけ何度も俺には関わるなと言ったのに…何でそこまでして俺に関わろうとする。」
ソーマにとってそれは純粋な疑問だった。あれだけ自分には関わるなと言って上に喧嘩腰で接したにも関わらず、ユウキは自分を含めて周囲と仲良くさせようとしてきた(全て空回りしていたが)事が不思議でならなかった。
「…俺はソーマの事、友達で、仲間だと思ってる。だからほっとく事なんて出来なかったし、するつもりもなかった。それにさ…」
一瞬の間を開けて、再び話始める。
「…ほっとかれるのって…結構…辛いから…」
そう語るユウキの表情には陰りが差し、何処か泣き出しそうな表情をしていた。それを見たソーマ、アリサ、コウタはユウキが過去に何かあったのだろうと察した。
「…そうか…」
それだけ言うとソーマは作業に戻る。それに釣られてユウキもまた作業に集中する。すると、徐にソーマが口を開いた。
「…俺に関わるんなら、せめて背中を預けられる位には強くなってからにしろよ。」
「言ったな?すぐにソーマを追い抜くくらいに強くなって見せるから!」
「まあ、精々頑張りな…ユウキ…」
そう言ったソーマの口角は少しだけ上がっていた。
To be continued
後書き
今回の話はGEvsGEと銘打ったただの喧嘩でした。まあ…男の子だし、殴り合えば良いと思うの。
これでソーマには溜め込んでる物を色々吐き出してスッキリしてもらえる筈。ただアナグラの設備破壊しまくったのはやり過ぎだったでしょうか?
それにしてもシリアスな事を書いているとシリアルにしたくなるのは何故だろうか?
主人公の理解云々についてはブーメランな気がするのは気のせいでしょうかね…?