第一部隊の野郎共は無事シオを見つけ、全員で極東支部に戻ってきた。帰る途中のバギーで、ユウキが飲んだ薬の効果が切れ、ハイになった時の自分を思い出した恥ずかしさから、赤面して悶えていたと言ったハプニングはあったが全員無事に帰還した。
神機を預けてシオの迎えに行こうと思ったが、リッカから何処か恨めしげな声で話しかけられた。
「…ねえ。」
「なに?」
返事をしつつもソーマとコウタに『先に行って』とアイコンタクトを送り、2人はユウキを残してシオの迎えに行った。
リッカの方に意識を戻すと、ジト目でこっちを睨んでいた。
「なーんか最近第一部隊の皆と榊博士でさ、何か楽しそうな事してない?」
「い、いや!そんな事ないけど?」
ユウキは目を逸らしてダラダラと冷や汗を流して答える。その様はもう答えを言っている様なものだったが、当の本人は上手く誤魔化しているつもりでいた。
「ふーん…ならいいんだけど。たださっき博士から近々頼みたい事があるって言われてるんだけど、頼み事されてるのに私は仲間に入れてくれないんだなぁって思ってさ。」
「そ…それは…」
そう言われると教えたくなるが、シオの事を話すのはかなり危険だ。リッカも反逆へ加担したとして処罰されかねない。
だが、仲間外れにされたとむくれるリッカを見ていると何だか申し訳なく思ってしまうのも事実だ。
割と本気でどうしようか困っていると、リッカが突然笑顔+ウインクで雰囲気がガラリと変わる。
「…なーんてね!そんな本気で困った顔しないでよ!博士のワガママに振り回されてるなら言ってね?力になれると思うから。」
「う、うん…ありがとう…?」
リッカの変化にユウキは困惑して、咄嗟に出てきた言葉で返事をしたため、変な会話になってしまった。
リッカの方もユウキがヘタクソな嘘をついてまで誤魔化そうとしているのを見て、余程知られると不味い事なのだろうとリッカも察して、これ以上は踏み込んで来なかった。
その後、2、3言葉を交わしてその場を去った。
-ラボラトリ-
「あれ?コウタにソーマ…もう帰るの?」
ユウキがラボラトリに向かうためエレベーターから降りると、コウタとソーマが居た。
「うん。シオの部屋で何かするみたいだけど、俺とソーマは入るなって言って追い出されてさ。でも何故かユウはオッケーなんだって。いいなぁ!羨ましいなぁ!女の子ばっかりの所に行けてさぁ!」
「え、えっと…」
コウタが恨めしげな視線を送る。ユウキはどうやってやり過ごすか考えつかず、苦笑いするだけだった。
(た、助けて…!)
ユウキは無意識に目線でソーマに助けを求める。
「どうやら意地でもシオに服を着せるらしい。嫌がってるなら無理に着せるもんでもないと思うがな…おい、行くぞ。」
「あ!ちょ!待ってソーマ!まだユウとの話は終わってないんだぞおぉ…」
ソーマがコウタの首根っこを掴んでズルズルと引きずってエレベーターに乗り込む。無情にもコウタの叫び声がえの扉で遮られた。
「やあ、来たね。早速なんだけど、シオの服は特別製にしようと思うんだ。普通の服はチクチクして嫌みたいだからね。」
ラボラトリに入ると、シオの服について今後の方針を聞かされた。それを聞いた後、チラリと横目でサクヤとアリサが話しているのが見えた。2人の影で見えにくいが、シオも帰って来ている事も確認できた。
何気なしに2人の会話を聞いていると『シオ、やんちゃだし…動きやすさ重視の方が良いかしら?』や『シオちゃんに似合う服…どんなデザインにしようか迷いますね!ふふっ!自分の服を考えるよりも楽しいです!』と言っているように聞こえた。
ユウキはペイラーの方に意識を戻すと、話の続きをする。
「まあ、それは分かりましたけど…俺必要ですか?」
「いやいや。君にもできる事はあるよ?服の材料にアラガミ素材を使えば問題を解決出来るんだ。それはそうとシオの服はやっぱり可愛いのがいいよね?」
「…そうですね?」
「うんうん。そうだよね!」
何の突然話題が切り替えられて、不自然な感じがしたため、ユウキは釈然としない様子で返事をする。
そして、ペイラーは相変わらず糸目のままだが、間違いなくにこやかに笑っている。確かさっきペイラーは『アラガミ素材』を使うと言っていたが…
「…まさか…」
「材料、よろしく頼むよ?」
ペイラーがニッコリと微笑みながら素材を要求してくる。もう何を言ってもムダだと思い、ユウキはため息をつきながら要求を飲む。
「はあ…分かりました。何が必要なんですか?」
「『女神羽衣』…サリエルから採取できる素材だね。もしかしてもう持ってたりするかな?」
『持っているのか?』と聞かれても、どんな素材を保管したかなど覚えてはいない。1度確認する必要がある。
「ちょっと確認してみないとなんとも…あればそのまま持ってきます。」
「じゃ、よろしく頼むよ。」
そう言うと、ユウキは一旦ラボラトリを出ていった。
-神機保管庫-
ペイラーの依頼でユウキは女神羽衣なる素材を持っているか、自室のターミナルで調べた。すると、いくつか回収していたようで、保管されていたようだった。
素材受け取りのために神機保管庫に行くと、リッカが缶ジュース片手に何かの資料を読んでいた。
「リッカ。今いいかな?」
「ん?やあ!さっきぶりだね。」
リッカは缶と資料をデスクに置いてユウキの方を向くが、ユウキはあるものに目が行っていた。
(冷やしカレードリンク…?)
初めて見た缶ジュース(?)に興味を持ってしばらく眺めていると、リッカから話しかけてきた。
「これ、気になる?」
「え?あ!いや!何でもないよ。」
物欲しそうに見ていたと思われたと考え、ユウキは慌てて否定した。
「飲んでみなよ!結構美味しいよ。」
「そう…なの?じゃあいただきます。」
ユウキはリッカから缶を受け取り、冷やしカレードリンクなるものを飲んでみる。
(あれ?これって…間接キスさせちゃった?)
リッカの頬に赤みが差したが、ユウキはそのまま冷やしカレードリンクを飲んでいた。その味は…
「カレーだね。」
「そ、そうだね!カレーだね!」
「?」
ユウキは特に気にした様子もなく、飲んだ感想を言う。リッカは『気にしすぎかな?』と考えて、残りもユウキに渡した。
「あ!それで、何か用事でもあった?」
思い出したように、リッカがユウキに用件を聞く。
「あ!そうだ!博士の研究に使うから女神羽衣を引き出したいんだ。あと神機の強化もしたいな。」
「オッケー!全部そのまま強化で良いのかな?」
「うん。それから、火刀の制作もお願いしたいんだけど…大丈夫?」
「了解!任せてよ!その代わり今日1日神機は使えなくなると思うよ?」
「分かった。」
ユウキは神機の強化と新しい武装の制作をリッカに頼む。さっきの任務で倒したボルグ・カムラン堕天種の素材で新しく火属性の刀『火刀』が作れるようになったが、制作と強化を同時に頼むと、それなりの時間が必要になる。
そのため、リッカは念のために神機が使えなくなる可能性がある事をユウキに伝えつつ、女神羽衣を引き出すため、ターミナルを操作する。
「…あのさ。」
「ん?」
「さっき、何の資料読んでたの?」
特に理由はないが、ユウキは神機保管庫に来たときに読んでいた資料が何なのか気になったので聞いてみた。
「神機の新しい制御装置の設計図!ここまで漕ぎ着けるのに苦労したよ!」
どうやら神機関係の資料らしい。機械図面や回路図を簡単に見せてくれた。それよりも、リッカは『ここまで漕ぎ着けた』と言っていた事にユウキは驚いていた。
「え?!まさかリッカが開発してるの?!」
「もちろん!どんなものかは出来てからのお楽しみ!…さて!」
ユウキが神機の新しい制御システムの開発者がリッカだと言う事に驚いていると、素材保管庫の扉が開き、中から白いカーゴが出てきた。
「はい!女神羽衣だよ!分かってると思うけど、オラクル細胞の塊だから気を付けて運んでね?」
「ありがとう。新しい制御装置、楽しみにしているから。」
「期待して待ってて!近い内に試作品も作り始めるからさ!」
そうしてカーゴを受け取って、ユウキはラボラトリに戻っていった。
-ラボラトリ-
リッカから女神羽衣を受け取ったユウキがラボラトリに戻ってきた。
「博士。『女神羽衣』持ってきましたよ。」
「いやあご苦労様!隣の部屋に置いといてくれるかな?」
そう言われてユウキはカーゴを実験室に運ぶと、もう自分に出来る事は無いだろうと思い、ラボラトリを出ようとする。
「それじゃあ、俺はこれで…」
「おや?何を言ってるんだい?男子からの意見と言うのも必要だろう?しばらくはここに居て欲しいんだがね。」
「あ、はい。」
案の定止められた。取り合えずソファ座って服のデザインについて、あーでもないこーでもないと議論しているサクヤとアリサを眺めていると、ふと思い出した事があった。
(まあ、今日は神機使えないって言ってたし…別にいいか…)
そんな事を考えながらソファに座ってボーッとしていた。
(そう言えば…こんな風にゆっくりしたのは随分と久しぶりな気がする…)
今まで何かと訓練か任務に行ってばかりだったので、こんな風に何もやることが無い(本当はあるが)と言った状況自体がフェンリル入隊以来だったような気がする。
そのまましばらくは何をする訳でもなく、何もしない時間を過ごしていた。
「…ウ!ユ…!か………ます…!お…てく……い」
聞き慣れたような声が聞こえる。だが、何を言ってるのかよく聞き取れない…いや理解できないと言った方が良いだろう。
そんな中、自分の視界が真っ暗になっている事に気が付くと、ゆっくりと目を開くとそこにはアリサが居た。
腰に手を当て、微妙に怒ってますと言った雰囲気を出していた。
「ユウ!起きてください!」
「…アリサ?」
「もう!こんな所で寝たら風邪引きますよ?」
自分の状況とアリサの言葉で漸く眠っていたと理解した。徹夜で慣れない作業をしてその後は薬でハイになり、効果が切れて一気に疲れが出てきたのだろう。
ユウキは寝ている間に横になった体を起こして状況の整理をする。
「…寝てたのか…今、何時?」
「夜の10時を少し過ぎた位です。」
シオを連れ帰ったときには昼過ぎを回っていたはず。そこから1、2時間程雑用をしていたので、恐らく3時間は寝ていたのだろうと考えていると、サクヤがこちらの様子に気が付いて話しかけてきた。
「あ!起きたのね。ちゃんとベッドで寝ないと疲れも取れないわよ?もう部屋に戻って寝ちゃいなさい。」
サクヤがまるで母親の様な口調でユウキを叱る。この状況を見ると本当にただの躾にしか見えないから困るとユウキは思っていた。
『そうですね。』と答えたユウキがラボラトリを出ようと準備をしているとアリサが思い出した様に話しかけてきた。
「そうだ!リッカさんから聞いたんですけど…シオちゃんの服、明日には出来るみたいですよ。」
「…え?早くない?てかそれじゃあリッカは徹夜になるんじゃ…」
確か昼過ぎに神機の整備を頼んだはず。それで今日1日使えないかもと言っていたのに、追加注文のシオの服も明日には仕上がると言っていたらしい。
神機の整備と装備の制作は他の技術班のメンバーに任せれば、多少手は空くだろうが今までにないアラガミ用の服がそんなに簡単に出来るとは思えない。
しかし、ユウキの疑問を余所に、ペイラーは笑いながらそんな心配は必要無いと言ってきた。
「それは心配ないよ。リッカ君は相当な技術バカだからね。この変な注文も意気揚々とこなしてくれるさ。」
「いや、女の子に徹夜で作業させる事が問題だと思うんですけど…」
ペイラー曰く、リッカは技術的な事が好きなので、遅くまで仕事をすることになっても大丈夫だと言うが、ユウキは遅くまで仕事をさせる事自体が問題だと言っている。
「たぶんそれも大丈夫じゃないかしら?少し前に様子を見に行ったんだけど、目を輝かせながら新しい事が出来るって喜んでたわ。」
『無理はしないでと釘は刺しといたけどね。』とサクヤが苦笑いしながら近況を伝えた。
「まあ、本人が良いなら良いのかな?」
結局、本人が喜んでたやっているのなら良いのだろうと結論付けて、多少腑に落ちないが取り合えずは納得した。
「じゃあ…俺もう寝ます。おやすみなさい。」
「「「おやすみなさい。」」」
3人の声が重なったのを聞きながら、ユウキは自室に向かった。
-翌日-
いつもよりも遅い時間に起きたユウキが神機の様子を確認するために神機保管庫に向かう。そこにはユウキの神機の前で最終チェックをしているリッカの姿があった。
その傍らには女神羽衣を運んだときの白いカーゴがあった。
「おはようリッカ。神機…どうかな?」
「あ、おはよ!神機は調整も込みでバッチリだよ!」
そう言うと、2人はユウキの神機に目を向ける。そこには何時もの様に青白い刀身がついた神機ではなく、赤い刀身の神機がついた神機が鎮座していた。強化を頼んでいた他のパーツも傷や痛みが無くなり、綺麗になっていた。
「ありがとう。手間かけさせちゃったね。」
「どういたしまして。それから…博士から服の制作を頼まれたんだけど…誰が着るの?」
リッカが言っているのは恐らくシオの服の事だろう。ペイラーからの直々の依頼のはずだが、シオの事を聞いているのかは分からない。ならば下手な事を言って巻き込まないほうが良いと思い、ユウキはシオの事を誤魔化すことにした。
「えっと…お、俺が着るんだ!博士の研究でアラガミ素材でできた服を人間が来たらどうなるか実験なんだよ!」
「ふーん…」
リッカが疑いの目でユウキを見る。咄嗟についた嘘があまりにも下手くそ過ぎて、何かを隠しているというのが完全にばれてしまった。
するとリッカがユウキの目の前に手を持って来てデコピンをした。
「あだ!」
「…嘘つき。」
「え?!な、何の事かな?」
図星を突かれ、ユウキはあからさまに動揺した。だが、リッカはそれを気にすることなく衝撃的な事実を告げる。
「この服を着るのはアラガミなんでしょ?博士から大体の事情は聞いたよ。これで私も共犯だからさ。もう隠し事は無しだよ?」
『じゃあ俺の心配は必要なかったのか…』と思いながら、結果的に騙そうとしたことを申し訳なく思い、謝る事にした。
「うん…ごめん。嘘ついて。」
「気にしてないよ。私も逆の立場なら嘘ついたかもしれなし。さ、それ持って皆のところに行きなよ。待ってるだろうからね。」
「ありがとう。」
礼を言ってユウキはカーゴを押しながらラボラトリに向かった。
-ラボラトリ-
ユウキがシオの服を受け取って第一部隊をラボラトリに召集かけた。が、どうやら発案者のペイラーは部屋にはいないようだったが、構わずにシオに服を着せることにした。
サクヤがシオを連れてシオの部屋に入っていった。しばらく待っていると、シオとサクヤが出てきた。
「お待たせ。」
部屋から出てきたシオは以前の様なボロ切れを巻いた格好ではなく、白を基調にしつつ緑のフリルをあしらった袖の無いツーピースのドレス、同じ素材のホットパンツを着用している。
「わあ!かわいいじゃないですか!」
「うん!もうどこから見ても普通の女の子だよ。」
その姿は愛らしいどこかの令嬢の様にも見えた。アリサとユウキが各々感想を言う。それに続いてサクヤとコウタが感想を言う。
「そうね。この子の正体がアラガミだなんて言っても誰も信じないんじゃないかしら?」
「おお!いいじゃんいいじゃん!かわいいじゃん!なあソーマ?」
コウタが興奮したような様子でソーマに話を振ると、予想外な答えが帰ってきた。
「…ああ。」
「おお…予想外の反応!」
気恥ずかしさから目を背ける様に目線を移す。
「へへへ…なんか…気分いい…」
すると、ここまで褒められたシオが気分が良さそうに歌を歌い始める。その声はアラガミのものとは思えないほどに澄んだ綺麗な声だった。
「綺麗な声…」
「すごいじゃないシオ!」
ついこの間言葉を覚えたと思ったら、すぐに歌を覚えて披露した事に、全員驚きを隠せないでいる。さらにはその歌声が恐ろしく綺麗な歌声だった事にも全員が驚いた。
「お!おお!これ、偉かったか?」
「あ、ああ!すごいことだよシオ!」
ユウキはシオの急成長ぶりに驚きつつもシオを誉める。
「シオ…あなた何時の間に歌を覚えたの?」
「ん?ソーマと聞いたんだよ。」
「なにぃ!?」
「あらぁ?あらあらあらぁ~?」
「ふぅん…そうなんですかぁ?やっぱりあの噂は本当だったんですねぇ?」
その場に居た全員がニヤニヤさせながらソーマを見た。
「何の事だ?」
「シオちゃんとソーマがいい感じになってるって噂ですよ。」
それを聞いた瞬間、ソーマが険しい表情になる。
「…おい。その噂の出所は誰だ?」
「そこの逃げようとしている男2人よ。」
「…ほう。」
そう言いながらソーマはラボラトリから出ていこうとしている2人の首根っこをつかんで部屋に引き込む。
「…あ、あのソーマさん?」
「いやちょっとした出来心だって。だからその固く握った拳は下げてくれると嬉しいかなぁって…」
「…問答無用だ。」
無慈悲にもソーマの鉄拳が男2人の意識を刈り取って行った。
To be continued
後書き
今回は主人公の宿命とも言えるパシリ回でした。
原作ではこの辺りからソーマも丸くなり、シオを含め、周囲との関係が改善されていきます。
ただ、この小説ではそれと同時に弄られキャラになっていく様な気がするのは気のせいでしょうか?
それから、このシリーズのUAが5000を越えました!素人丸出しであまり文章力も成長してないような小説ですが、引き続き暇潰し程度に呼んで頂けると幸いです!