-コウタの家-
「あはは…その、ごめんなさいね、うちの子が変な勘違いしちゃって…」
ユウキを家に上げたは良いが、あからさまに落ち込んでいるユウをコウタの母親が宥めている。
「い、いえ…まあ、慣れてますから…」
「ほらノゾミ、お兄さんに謝りなさい。」
コウタの母親がノゾミと呼ばれた少女に謝るように促す。しかし、少女は警戒心剥き出しでユウキを見る。
「…本当に女の子じゃないの?」
「うん。男だよ。」
未だにユウキがコウタの彼女だと思っているのか警戒している。
「…ごめんなさい。」
「いいよ、もう気にしてないから。」
兄であるコウタを取られたと思って敵意を見せたのだろう。ユウキが男だと分かると、母に叱られた事と申し訳なさから少女は落ち込んだ。
それを見て雰囲気を変えようと、コウタが『ゴホン』と大きく咳払いし、互いの紹介を始める。
「じゃあ改めて…母さん、ノゾミ。こいつは俺と同期の神裂ユウキってんだ!」
「初めまして神裂ユウキです。コウタ君にはいつもお世話になっております。」
コウタに紹介を促され、ユウキは軽く頭を下げてコウタの家族に挨拶する。
「ふふふ、でもそこまで畏まらなくても良いのよ?私はコウタの母のカエデです。」
「ノゾミだよ!」
母親はカエデと言う名で、少女は案の定コウタの妹ノゾミだった。そんな中ふと藤木家3人が同時に視界に入る。
カエデは柔和な笑みを浮かべ、ノゾミは元気にニコニコ笑っている。何となくシオを連想した。そしてコウタは自慢の家族を紹介できて嬉しいのか、ニッと笑っている。
(やっぱり親子3人並ぶと皆何処と無く似ているな…)
3人の外見や造形、それからわずかな時間で感じた内面の印象が3人とも何となく似ているように感じた。
「ねえねえユウちゃん!極東支部ってどんな所?ユウちゃんとお兄ちゃんが一緒にお仕事した時の話聞かせて!」
「ふふ…俺の美談…たっぷりと聞かせてやってくれ…!」
考え事をしている間にノゾミがユウキに駆け寄り、極東支部での生活の事やコウタの仕事の話が聞きたいようだ。目を輝かせてユウキの話を今か今かと待っている。
そんなノゾミに良いところを見せようとコウタはイラッとするドヤ顔で自分のカッコよかった所を語って欲しいと言った意味を含ませている。
「え?ああ…うーん、そうだなぁ…」
気が付いたらノゾミがすぐ近くに居てユウキは驚いたが、コウタが活躍した所を思い出しながら話始めた。
-2時間後-
「へぇ~お兄ちゃんやっぱり凄いんだ!ユウちゃんも凄く強いんだね。」
「そうだよ。ノゾミちゃんのお兄ちゃんには何度も助けて貰ったからね。」
ユウキはノゾミにコンゴウ戦でコウタに後隙のカバーをしてもらった事や一芝居売ってクアドリガ堕天種に攻撃するきっかけを作った事など、これまでにコウタと一緒に任務に出て活躍した事を話した。それを聞くたびにノゾミの目は輝きコウタの活躍ぶりを聞けて満足しているようだ。
「ユウキ君、夕飯食べてく?」
「いや!そこまで迷惑をかける訳には…」
カエデと提案にユウキは迷惑になると思い、両手をブンブン振りながら遠慮する。そもそもユウキはそこまでコウタの家に居るつもりはなかったので手土産も持ってきていなかった。それが尚更厚かましく思えて完全に今回の件は断るつもりでいた。
「大丈夫だって!俺がゴッドイーターになってからは実家に食い物入れてるし、その辺は心配しなくていいよ!」
「じゃあ…お世話になります。」
このご時世、人一人分の食事を用意するのがどれだけ大変な事かは誰もが分かっている。その為、ユウキが余計な食材を使わせる事になるのが申し訳ないと思っているとコウタは考えて、食材絡みの心配はしなくていいと言ってやや強引にユウキを引き留める。
ユウキも藤木家3人がニコニコ笑いながら歓迎ムードを出しているのを感じると、どうにも断りづらくなり結局藤木家の世話になることにした。
「わーい!ユウちゃんとお泊まり会だー!」
「そうね。さて、夕飯の支度しなくちゃね。」
「あ、手伝います。」
ユウキは立ち上がり、カエデの手伝いに台所に向かい、夕飯を作り始める。
-夕飯後-
藤木家と談笑しながら夕飯を摂り、その後全員でトランプで遊んだ後、風呂と夕飯の片付けをして、コウタの部屋でユウキはベッド、コウタは床に布団を敷いて寝ようとしていた。
「なぁ…」
「…うん?」
電気が消えた部屋で、不意にコウタの声が聞こえてきた。
「今日…楽しかったか?」
「…うん。」
「そっか…」
ユウキが楽しかったと素直に答えると、コウタは静かに返事を返す。
「…」
「…」
2人の間に沈黙が流れる。今回コウタがユウキを誘ったのも、コウタの家族を守りたいと思う気持ちを理解してもらい、考えをまとめさせると言う目的があった。
せめて親友であるユウキだけでもアーク計画に乗せて助けようと言う打算的な考えもなかった訳ではないので、どこか申し訳なくなり、コウタは黙ってしまった。
「家族…か…コウタが守りたいって思えるのも分かる気がする。」
「じゃあ!!」
しかし、ユウキの答えはコウタの期待を裏切るものだった。
「でも…やっぱり選べない…」
ユウキからは暗さと高低差で見えないが、コウタは沈んだ表情をしていた。
「たくさんの人を死なせるのが正しい事だとは思えない。けど、それに逆らったら…今度は俺が確実に死ぬ…」
「いや、ユウにとっても大事な事だしゆっくり考えればいいさ…本当に選ばなきゃいけなくなった時に判断の材料にしてくれればいいさ。」
アーク計画での選択は大事な選択になることは分かっている。無理に選ばせても後で後悔するだけだ。コウタもそこは分かっているつもりなので、今は答えを聞かないでおくことにした。
「なあ…」
「…うん?」
コウタがユウキの事でずっと気になっていた事を聞いてみる。
「ユウの家族ってどんな人?」
コウタからしたら大した意味のない、ただ相手を知ろうとするだけの質問のはずだった。しかし、ユウキは悲しげな表情になった。
「分からない…」
「え?」
正確には語ることができなかった。ユウキには両親の顔が分からなかった。さらに言えば生きているのかさえ分からなかった。
「親が今も生きているのか…兄弟がいるのか…なんで俺1人で生きていたのか…家族の事は…何も分からないんだ…」
「そっか…ごめん。変なこと聞いた…」
「いや、別にいいさ。」
この世界では物心着いた頃にはには両親も兄弟も死んでいたなんて事は別に珍しくない。親がいない、金もない、仕事もできない、さらには頼れる人もいない。そう言った子供が生き抜くには盗みを働くしかない。だからユウキもかつて盗みを働いて生活していた。
だが、ユウキに文字や言葉を教えてくれた人はいた。しかし、ユウキにとってその人の元に居た生活は知られたくなかったので、コウタには嘘をついて何も覚えていないと伝えた。
コウタもその事を察したのか、納得して会話を終える。
「じゃあ、おやすみ。」
「うん。おやすみ。」
就寝の挨拶をして、ユウキとコウタは眠りに着いた。
-夜明け前-
空が白み始めた頃、ベッドで寝ていたユウキがゆっくりと起き上がる。
(…もうすぐ夜明けか…)
外を見て夜が明け始めた事を確認すると、不意に喉の乾き覚えた。
(…水…)
水を貰おうと、寝ぼけた頭でコウタを踏まないように気を付けながら台所まで歩く。すると、そこには既に誰かがいた。
「カエデさん…?」
「?…ああ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
「いえ、ちょっと水を貰いたくて…」
台所にはカエデが居た。ユウキが水を飲みたいと言うと、カエデは台所を半分空けてくれて、水を汲めるようにしてくれた。
水を飲み終わるとユウキは気になっていた事をカエデに聞いてみた。
「あの、いつもこんなに早いんですか?」
「今日はちょっと朝ご飯の仕込み。あの子が持ってきたお肉をタレに漬け込んでるのよ。」
そう言ったカエデの手には真空パックの中で焦げ茶色の液体に浸けられた肉が入っていた。
「タレに…漬け込む…?」
「そうよ。お肉にタレの味が染み込んで美味しくなるのよ。」
そう言ってタレ入りの真空パックを冷蔵庫に入れる。ちなみに果汁がい入っているタレだと、肉が柔らかくなるそうだ。
冷蔵庫に肉を入れた後、今度はカエデがユウキに質問する。
「何か悩んでるのかい?」
「な、なんで…そう思ったんですか…?」
カエデの質問にユウキは動揺する。まるで心の中を見透かされたように思えた。
「時々恐い顔になってたよ。今起きてきた時もね。」
「…」
思わずユウキは黙ってしまった。そんなに分かりやすかっただろうかと考えていると、カエデが話を続ける。
「人に言えない悩みなら聞かないけど、話しても大丈夫なら話してしまった方が楽になるし、解決の糸口を掴めるかも知れないよ。」
カエデの提案に乗ろうかとも思ったが、アーク計画の機密性を考えると、周囲に無用な混乱を招く恐れもあり、むやみに話すわけにはいかなかった。
「すいません…ちょっと…話せない理由が…」
「そうかい。なら何に悩んでるのか分からないからアドバイスになるか分からないけど、1つだけ…」
話せないなら聞かないと言った通り、カエデは踏み込んだことは聞いてこなかった。代わりに、あるアドバイスをくれると言って一旦間を置く。
「自分が何がしたいか、どうなりたいか、自分にとって大切なモノっ言うのは何なのか…それが見えてきたら、答えは見えてくるんじゃないのかい?」
「そう…ですね…」
「悩み…解決できる事を願ってるよ。」
カエデが大体の状況で通ると思っているアドバイスを送ると、再び寝るために自室に戻っていった。
それに続いてユウキはコウタの部屋に戻ると、ユウキの端末に着信が来た。
『クソ親父がシオの反応をキャッチしたそうだ…すぐに支部長室に来い。』
「分かった。」
短い通話の後、ユウキは隊長服に着替えて極東支部に戻ろうとする。
「あれ…ユウ?」
「ごめん…起こしちゃったね…」
ユウキの通話と着替えでコウタが起きたようだ。眠そうな目でユウキを見ている。
「任務か…?」
「うん。シオの反応があったって。」
「…そう…」
シオが見つかったと聞くと、コウタは俯いて何か考えているようだった。
「ユウ…俺も…」
「いや、家族の元に居てやりなよ。」
「うん…」
ここで仲間の元に戻ると、家族を守ると言うコウタの意思が揺らぎそうだと思い、家族の元に残るように指示する。
「カエデさんとノゾミちゃんに…ありがとうって言っといて。」
「分かった。気を付けて…」
行きはコウタにカエデとノゾミに言伝てを頼むと、藤木家に気づかれることなく極東支部に戻っていった。
-支部長室-
早朝、ユウキが支部長室に着くと、既にヨハネスはデスクに座り仕事をしていた。
「やあ、待っていたよ。」
「…おはようございます。支部長…」
ヨハネスがユウキの入室に気が付くと、何事も無かったかのようにいつもと変わらぬ様子で挨拶をする。ユウキはヨハネスに違和感を覚えながらも挨拶を返す。
「…サクヤ君とアリサ君がエイジス潜入の疑いで指名手配された。こんな状況下で頼むのは少々忍びないが、緊急の特務に出て貰いたい。」
「っ!!…自分で指名手配していながら…よくもぬけぬけと…!!」
「ふっ…大方、サクヤ君から全てを聞いたのだろう?今この瞬間も、私がこのアナグラで何もなかったかのようにのうのうと生きている…君には理解し難いだろう。」
どうやら違和感の正体はヨハネスの態度にあったようだ。サクヤ達に秘密裏に進めいたアーク計画が漏洩させられたにも関わらず、ヨハネスは余裕を見せつけるような態度を崩さなかったからだ。
そんな状態でサクヤ達が心配だと言われても、心にもない事を言っているとしか思えず、ユウキは怒りに任せてヨハネスを睨むが、所謂暖簾に腕押し…ヨハネスは全く気にしていなかった。
「言い訳するつもりはない。君が今ここで、私と刃を交えたいと言うのなら…それにも応じよう。」
「…俺は人殺しがしたい訳じゃない。」
今度はヨハネスは立ち上がりユウキを睨む。その目からは誰かから何かを奪っても自身の使命を果たす強い決意を垣間見る事ができた。
「そうか…だが、アーク計画だけが終末捕食による地球と人類の再生…これが両立できる唯一のだと言うことを理解してほしい。」
「計画が動けば大勢の人間が死ぬ!!それでもやるのか?!」
「納得がいかないかね?なら何か他の手段があるのか?」
「それは…」
ユウキはヨハネスの意見に言い負かされた。サクヤの報告とヨハネスの話では、終末捕食は1度地球ごと全ての命を滅ぼし、その後命の再分配が行われるようだ。しかし、地上に残った全ての人間が、終末捕食の後に再生するかは分からない。最悪全員喰われて終わり…と言う可能性もある。
それを思うと、アーク計画が正しいとは言えず、ユウキは素直に賛同出来ないと考えてはいるが、アーク計画以外にアラガミを滅ぼし、再生した地球で人類が再び生活が可能になる方法が思い付かず、ヨハネスに意見する事が出来なかった。
「ふむ…ならば、1つ質問をしてみよう…『カルネアデスの板』と言う命題を知っているかな?」
「…」
「自分が助かる為に他者を犠牲にすることは罪に問われるか…と言う命題だ。」
「…何を…言っている…?」
口では分からないと言っているが、理屈では理解してしまった。大勢の命を犠牲にしてでも自らが助かる道を選ぶか…まさしくアーク計画その物と言える内容だった。
「具体例を挙げよう…嵐の海に、君を含めた乗員乗客の全員が投げ出されたとする…目の前には2人が掴まれば沈む板が浮かんでいる…さあ、君ならどうする?他者を押し退けてでも生き残るか、それとも他者の為に自ら命を絶つかね?」
「そんなの…選べるかよ…」
アーク計画の内容を想像しやすいスケールで例えられ、嫌でも状況を理解する。言わば自分は嵐の海に投げ出された乗員…このまま滅びを待つか、他者を押し退けてでも生き延びるか…想像しやすいが故に尚更どちらが正しいか分からなくなり、さらに悩む事になった。
「迷っている間にも大勢の人が死んでいく。君はこのカルネアデスの板に掴まるべき人間だと…私は思うがね。」
「…」
自分が生き残るべき人間かは分からないが、ヨハネスの言う事はもっともではあるとユウキは感じた。ユウキが迷っている間にもアラガミによって大勢の人が死んでいく。決断が遅れればそれだけ犠牲者が増えていく。
しかし自分を犠牲に他者を救うか、大勢の人を殺して自分が生き残るか、やはり選べないまま黙ってしまった。
「何にしても、今この場で決める必要はない。残念な事に今すぐに計画を発動することは出来ないのでね。」
「え…?」
今すぐに計画の発動は出来ないと言われて、ユウキは驚いたような声を上げた。サクヤ達からの報告でまだ準備が出来ないと聞いていた。だが、ユウキはそれをハッタリだと思っていたため、どうやら深読みし過ぎていたようだ。
「終末捕食のカギとなる特殊なコア…『特異点』が手に入っていない。だが、それも時間の問題だろう。」
(そう言う事か…)
アーク計画、シオの失踪、ソーマからの連絡内容、そして特務のターゲットである特異点…これだけの判断材料があれば、ヨハネスが何を言いたいのか分かる。
「もう分かっただろう?今回の特務は空母付近に出現した特異点を必ず無傷で回収してもらいたい…この特務は最優先の任務となる。君にも全力を尽くして欲しい。」
「今の話を聞いて…はい分かりましたと素直に答えると思いますか?」
アーク計画は結果的に極一部の人間以外の大衆を皆殺しにする。自分が死ぬのは嫌、大勢の人が死ぬのも嫌、ユウキはとうしてもどちらかを選ぶ事ができない。さらにはこの計画ではシオを売る事になる。素直に従う訳にはいかなかった。
「成る程…付近には大型禁忌種の存在も確認されているが…仕方ない。この任務はソーマ1人でこなして貰うことになる。」
「なっ!!ま、待て!!」
ソーマ強さは知っていが、1人で大型の禁忌種の相手は危険だ。それを聞いて、ユウキが慌ててヨハネスの話を遮る。
「なんだね?」
「…分かりました…特務を受けます。」
満足そうな口調でにヨハネスが話す。結果的にソーマを盾にしたような説得の方法だったが、ヨハネスの方ももう形振り構って要られないのも事実だ。ユウキは特務を了承し、ヨハネスが話の締めに入る。
「そうか。何度も言うが特異点は計画の要だ。今回の特務…全力でこなしてくれたまえ。」
「…了解…」
静かに返事をするとユウキはそのままヨハネスに背を向けて部屋の出口まで歩いていく。
「昨日…コウタ君が方舟のチケットを受け取って行ったよ。」
「…」
ヨハネスがコウタの事を話すと、ユウキは足を止めた。やはりコウタはアーク計画に乗るらしく、一足先にアーク計画のチケットを受け取ったようだ。恐らくヨハネスがサクヤ達から報告があったと確信したのもコウタとのやり取りがあったからなのだろう。
「守るモノを持つことで生まれる強さを、私は誇りに思う。願わくば、君も正規のチケットで方舟に乗り、新天地で再開の喜びを分かち合いたいものだ。」
「…失礼しました…」
それだけ言うとユウキは支部長室を出ていった。
-愚者の空母-
神機の修理が終わったのを確認し、雷刀を装備したユウキがソーマと一緒に座礁した空母に来ていた。
ターゲットのクアドリガ神属第二種接触禁忌種『テスカトリポカ』だ。その見た目は名付け元になった『黒曜石の鏡』には到底見えない。だが、テスカトリポカが登場するアステカ神話を連想させるような民族紋様等が全身に施されている。
ユウキがテスカトリポカを観察していると、珍しくソーマから話しかけてきた。
「もう気付いていると思うが、支部長が探している特殊なコアを持ったアラガミってのは…シオで間違いない。」
「まあ、気付くなって言う方が無理矢理だよね…」
シオが特殊なアラガミだと言うことはもう既に分かりきっている。ならば、ヨハネスが回収命令を出した特異点である可能性は限りなく100%に近い。
ユウキ達自身もシオの特異性を何度も目の当たりにしているので、その事は疑いようがなかった。
「俺はあのクソ親父の命令でずっとそいつを探して来た。だが、俺はシオをクソ親父に引き渡すつもりはない。」
すると、ソーマは神機をユウキに突き付けた。
「勘違いするな。俺やシオをオモチャにして好き勝手されるのが気に入らないだけだ。」
(…ツンデレ?)
口にしていたら確実にボコボコにされそうな事を考えながらユウキは落ち着いた様子でソーマの神機を見ていた。
すると、ソーマが小さく笑いながら突き付けた神機を下げる。
「そう言えば、お前と初めて会った時も…神機を突き付けたな。」
そう言えばそうだったなと思いながら当時の事を思い出す。確かあのときは『どんな覚悟を持ってここに来た?』と聞かれたはずだ。
(覚悟…か…)
ユウキは俯いてかつてソーマに言われたことを思い出して考え込む。
(俺は…未だにソーマの言う覚悟が何なのか…分からない。)
コウタは家族を守るために戦場に出る覚悟を決めた。アリサは過去の過ちを精算し、多くの人を助けるため命懸けで戦う覚悟を決め、サクヤはリンドウの助けとなるために戦場に出た。しかし、それは叶わなくなったため、リンドウの遺志を継ぎ、アーク計画に巻き込まれる人々の助けとなるために戦う覚悟を決めた。そしてソーマは自身の運命に抗い、託された希望を守るために戦っている。
第一部隊が戦う覚悟を決めた理由を独自の解釈や願望も入っているが、ユウキはこのように考えていた。そしてふと自分が戦う理由を考えた。しかし…
(なんで…俺は戦ってるんだろう…?)
何も思い付かなかった。いや、正確には戦う理由は『あった』。新型神機に適合し、流されてゴッドイーターになり、リンドウを失い、死への恐怖を覚えて、自分と仲間の命のを失いたくないがために戦う決意を固めた。
しかし、アーク計画により、ユウキがそんな決意をするまでもなく仲間を失わずに生きていけるようになるのだ。そこまで考えるとある結論に至る。
(俺はもう…必要ない?)
自らが生きるため、仲間を守るために戦ってきたユウキだが、アーク計画によって、戦うこと自体がなくなるのだ。そうなったとき、戦うことしか出来ないユウキに何が残るかと考えたら何も残らなかった。
(俺は…空っぽ…なのか?)
そんな自身への問いかけに虚しさを覚えていると、ソーマがユウキの異変を感じて話しかけてくる。
「まだ悩んでいるのか?」
「…うん。」
ソーマの問いに素直に返す。実際答えは出ていないのだから分からないとしか返しようがない。
「体裁や立場なんざ関係ない。自分が選びたい方を選ぶ…それだけだろうが。」
「まあ…そうなんだけど…」
ソーマの言うことはもっともであるが、未だユウキは残る事も逃げる事も選べないままだった。
「そう言う意味では、自分の立場が悪くなったとしても、自分の都合を誤魔化さない『コウタ』の決断は好感が持てる。」
ソーマのある変化に気づいて、ユウキは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「…今下の名前で呼んだ?」
「ふん。実力はまだまだだが、少なくとも信用できる奴だと認めただけだ。」
照れ隠しなのか、ソーマはユウキから顔が見えないようにテスカトリポカを見て視線を切る。標的を見据えてソーマが作戦開始時刻を告げる。
「時間だ…行くぞ、リーダー。」
「…了解!」
そう言ってソーマが待機ポイントから飛び降り、ユウキもそれに続く。
(そうだ…今は任務に集中しろ。その間は…アーク計画の事は考えないで済む…)
思考に蓋をし、自身の迷いから目を逸らすように標的に意識を向ける。大勢の人を皆殺しにして少数の人間が生き残り、その中で誰にも必要とされずに虚しく生きていく事が正しいのか、大衆を救い自らは命の危機に怯え続けて戦いの中で生きていく事が正しいのか、相変わらず答えは出せないまま、強敵に向かって走り出す。
To be continued
後書き
ヨハネスの精神攻の内容を考えていたら遅くなってしまいました。最初は「どっちにしてもみんな死んじゃうけどどうするの?どうするの?」って煽るつもりでしたがやっぱりヨハネスらしくないと思い止めました。結局原作に近い感じになりました。大丈夫かなこれ…?
この小説ではイメージでカエデって名前にしましたけど、藤木ママの名前って確か出てないですよね?藤木ママのアドバイスがアドバイスになっているか微妙かもです…