GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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テスカ戦です。もう少し強くても良かった…かな?


mission44 揺れる心

 -愚者の空母-

 

  『ウォオオォオオン!!』

 

  『『グオオォオォオ!!』』

 

 座礁した空母の甲板でユウキとソーマがターゲットのテスカトリポカと交戦するが、そのテスカトリポカを護衛するように黄色いヴァジュラテイル2体が立ちはだかる。

 ヴァジュラテイルがユウキとソーマに向かって飛びかかる。それを避けて反撃に出る。

 

「…チッ」

 

「クソッ!」

 

 クアドリガと似通った姿と言うこともあり、テスカトリポカがミサイルをばら蒔いてヴァジュラテイルの後隙をカバーする。

 結果、ユウキ達は回避に徹し、ヴァジュラテイルは追撃の機会を得た。その隙を突いてヴァジュラテイルがユウキとソーマに襲いかかる。

 

「邪魔だ!!」

 

 ソーマがヴァジュラテイルを装甲で受け止めると、壁に激突した様にヴァジュラテイルが動きを止める。その隙にソーマが反撃に出る 。すると、ヴァジュラテイルは大きな裂傷を作り、ユウキ方に飛ばされる。

 その頃、ユウキもヴァジュラテイルの落雷を、神機を肩に担ぐようにして後ろに跳んで回避したところだった。

 

「…」

 

 飛ばされたヴァジュラテイルはなす術もなくユウキの神機に突き刺さった。その瞬間 、ユウキは無言のまま残ったヴァジュラテイルに突撃する。しかし、それを阻止するかのようにテスカトリポカがユウキに向かってミサイルを発射する。ユウキは目線だけミサイルの方に一瞬動かすが、構わずヴァジュラテイルに向かい走り続ける。

 そしてユウキはヴァジュラテイルに飛び蹴りを入れるが、その間にミサイルがユウキに迫ってきた。

 

「させん!!」

 

 ソーマがユウキとミサイルの間に割って入ると 、装甲を展開して攻撃を防いだ。その間にユウキは蹴りを入れて吹き飛ばしたヴァジュラテイルに突き刺したヴァジュラテイルえを投げつけつつ、銃形態に変形する。そのままユウキとソーマはテスカトリポカに向かって走る。

 しかし、ユウキの顔、即ち目線はテスカトリポカに向いるが、神機の銃口は未だ空中に投げ出されたヴァジュラテイルに向いてる。

 

『バン!』

 

 短い炸裂音をと共に狙撃弾がヴァジュラテイル2体を貫いて、コアを破壊した。

 その間にテスカトリポカはトマホークを発射して、ユウキとソーマを迎撃するが、ソーマはスライディングでトマホークの下を潜り、ユウキは剣形態に変形しながらジャンプしてトマホークを踏み台にして、2人共テスカトリポカに接近する。

 

「くらえ!!」

 

「…」

 

 ソーマが剥き出しになった弱点に神機を振りかぶり、ユウキは空中から頭に被った兜に向かって神機を振りかぶる。

 その瞬間 、ソーマの一撃がテスカトリポカのミサイルが埋まった内部に直接決まる。そしてユウキは神機の刀身がアタックする直前に兜をインパルスエッジで爆破する。

 するとテスカトリポカの兜にヒビが入る。しかも爆発の勢いで神機を振る威力が増し、刀身での攻撃の威力が上がる。

 刀身がヒットすると、兜に鈍器で殴られた様な衝撃が走り砕け散る。

 

(なんだ…?妙に思考がクリアだ…)

 

 ユウキ自身、自分の感覚に少し違和感を覚えた。頭が妙に切れるような気がしたが、それだけじゃない。様々な感覚に変化があるように感じた。

 

(周りがやけに遅く感じる…気配がよく分かる…余計な音が聞こえない…でも必要な音は聞こえてくるし思考の邪魔にならない…心なしか心情も異様に落ち着いている…それに…)

 

 感覚の変化について考えていると、別の 変化にも気がついた。

 

(体も…妙に軽い…いつも以上に力が入る…っ!!)

 

 そこまで考えると、ユウキは何かに気がついてハッとする。

 

(いや違う!!力を押さえろ!!感覚はそのままに、神機を壊さないように!!)

 

  そう考ながら着地し、肩を始めとした全身の力をできる限り抜いていく 。しかし、ユウキが着地した瞬間、テスカトリポカが紫の煙を周囲に放つ。

 

「ソーマ!!」

 

「わかっている!!」

 

 ユウキがソーマに合図をすると、2人はテスカトリポカから離れる。するとテスカトリポカから勢い良く周囲に煙が吹き出す。

 

「うわ!!」

 

「なに!!」

 

 クアドリガ神属と言うこともあり、この攻撃は予測できたが、さらに周囲に光の柱をばら蒔いて攻撃してくるとは思っていたなかった 。2人は足元が発光すると、即移動して回避する。

 

「行くぞ!!反撃だ!!」

 

「了解!!」

 

 ソーマが回避が終わるとテスカトリポカに向かって走る 。そしてソーマの一言でユウキも反撃に転じる。

 2人を迎撃するため、テスカトリポカはミサイルをばら蒔き、トマホークを撃ってきた。

 

「ソーマ!!」

 

「問題ない!!」

 

 そう言ってソーマはあちこちに跳びながらミサイルを躱し、確実にテスカトリポカに近づいている。

 ソーマの無事を確認すると、ユウキも迫ってくるトマホークに意識を向けてつつ、テスカトリポカに接近する。

 

「へ??!!」

 

 トマホークを避けようと躱す準備をしていたが、突然トマホークが目の前から霧散して消えた。何がどうなっているのか分からないでいると、突然ソーマの大きな声が聞こえてきた。

 

「ユウキ!!上だ!!」

 

 その瞬間 、ユウキの頭上に消えたはずの トマホークが現れて迫ってきた。

 

「うおぉおぉぉおお?!」

 

 前に跳んで辛うじて直撃は避けられたが、爆風で体勢を崩す。しかし、トマホークが爆発すると、さらに四方に爆弾をばらまいた。爆弾がユウキのすぐ真後ろで爆発した事でユウキがテスカトリポカの方に飛ばされる。

 

「ユウキ!!そのまま行け!!」

 

 ソーマの声を聞いて、ユウキは左手を着いてテスカトリポカの方に跳ねる。その間にソーマは未だ開いている前面装甲の付け根を攻撃して装甲の半面を切り落とす。これで弱点部分が露になった 。

 

「ナイス!」

 

 ユウキは跳ねた影響で縦回転しつつ神機を両手で握りしめる。

 

(力を押さえて…それでも弱点を確実に…!)

 

 力を出しすぎないように自身の力を抑えつつ大きなダメージを入れる方法を考えていると、不意に自分の腕のリーチが長くなるような感覚を覚え、さらにはテスカトリポカに1本の線が見えたような気がした 。

 

「そこだ!!」

 

 ユウキは何の迷いもなくその線に沿って神機を振り下ろす 。『フッ!!』と言う 空気を切る音と共に、手応えもなく神機を振り抜く。その瞬間 、テスカトリポカが血を吹き出して真っ二つに切り分けられた。

 

「え?」

 

 切ることに特化した刀では硬い装甲を持つテスカトリポカはこんな簡単には切れないはずだった。しかし、あまりに何の手応えもなく切り裂いたので、ユウキは呆気にとられていたが、ソーマはこの状況を見て驚いていた。

 

(まさか…この短期間で神機の扱いをここまで昇華させたのか…?)

 

 ソーマは驚きつつも難しい顔でユウキを見てる 。

 

(いや、あいつの様子を見る限り偶然だろうが…だが、アイツの適合率なら…)

 

 ソーマはこの状況で、ある仮説を立てる。が、ユウキの様子を見て、本人の意思で起こした現象ではないと判断した。

 

「今のが神機の能力を引き出した感覚だ。お前の適合率なら、一度感覚を掴めば案外簡単に手にする事もできるかもな 。」

 

「今のが…神機と一体になる感覚…」

 

 ユウキが神機を見ながら呟く。色々と感じる所は有るだろうが、本来はシオの捜索に来ていたはずだ。ユウキにシオを探すように言って捜索に意識を向けさせる。

 ちなみにソーマも簡単に神機の性能を引き出せるが、自身の中のアラガミに意識を喰われる様な感覚を覚えるので、基本的にソーマは神機の性能を引き出そうとはしないのだ。

 

「さあ、シオがこの辺りにいるのは間違いない。探すぞ。」

 

「あ、ああ!」

 

 ユウキは空返事を返して捜索に意識を向けるが、その前にテスカトリポカからコアを回収して、シオの捜索に戻る。

 見える位置にはシオは居ないようだ。空母の裏手に回って捜索すると、案外あっさりとシオを発見した。シオは崖の上で座り込んでいた。

 

「あれ?なんだろ…嫌だな…これ…」

 

 そう言うシオは何度も目元を拭っている。『アラガミでも泣くのだろうか?』とユウキは思わず考えてしまう。こうなると、もう本当に人間と変わらないなと思っていると、ソーマがシオに話しかける。

 

「別れの歌…だからじゃないか?」

 

「別れの…歌?」

 

 ソーマがシオが泣いている理由は歌のテーマにあると考えて伝えると、シオは泣いたままソーマに聞き返す。

 

「大切な人に会えなくなる…そんな事を歌っているんだ…」

 

「そっか…でも、また会えたな!」

 

 涙を流しながらもニッとシオは笑う。だか、実際に会えたのはユウキとソーマが探したからだ。その事を思うとシオの言葉は不適切な部分もあり、思わずソーマはため息が出る。

 しかし、その表情はどこか穏やかで、特に怒っている訳でもないようだ。

 

「はぁ…俺たちが探してやってんだろうが…」

 

「シオ。帰ろう?」

 

 ユウキがシオに帰るように言うと、シオは悩む様に俯いた。

 

「…なあ…ソーマ、ユウ…」

 

「ん?」

 

「…なんだ?」

 

 シオが考え込んだ後に話しかけると、ユウキとソーマは話の続きが切り出されるのを待っている。

 

「…シオが居なくなったら…また探してくれるか?」

 

 何を言い出すのかと思えば、居なくなったら探して欲しいとの事だった。ユウキもソーマも、考えるまでもなくそのつもりではあるが、出来ればそんな話は聞きたくなかった。

 

「…縁起でもない事を言うんじゃねぇ…ほら、さっさと降りて…っ!!」

 

 ソーマがシオに帰るよう促すが、最後まで言い切る前にシオの様子が急変する。

 

「グッ!!…ウゥゥァア!!」

 

「「シオ!!」」

 

 突然全身に青い模様が発光しながら浮かび上がり、頭を抱えて苦しみ出す。

 

「イ、イカ…ナキャ…」

 

「おい!!何処に行く気だ!!戻ってこい!!シオ!!」

 

 そのまま立ち上がり、シオはエイジスに向かってゆっくりと歩き始める。それを見たソーマがシオを止めようと呼び掛けると、シオは怠慢な動きでソーマの方に視線を移す。

 

「…ソー…マ?」

 

 シオはソーマを確認するようにじっと見つめると、突然発光していた模様が綺麗に消えて、シオは糸が切れたように勢いよく倒れた。

 

「おい!!どうしたシオ!!」

 

「シオ!!」

 

 突然の事態にユウキとソーマはシオに呼び掛けるが、反応はない。

 

「クソ!!兎に角アナグラに戻るぞ!!手伝え!!」

 

「あ、ああ!!」

 

 兎に角、極東支部に戻ってペイラーに調べてもらわないと何も分からない。2人はどうにかシオの居るところまでたどり着くと、急いで極東支部に帰還した。

 

 -ラボラトリ-

 

 例によって例のごとく、極東支部に戻ると、抜け道を通って意識の無いシオをラボラトリに連れていき、ペイラーに預ける。

 ユウキとソーマはラボラトリ内でペイラーとシオが現れるのを待っている。

 

「シオ…大丈夫かな?」

 

「待つしかねえだろ…大人しくしてろ。」

 

「…」

 

 ユウキが落ち着かない様子でソーマに話しかけるが、ソーマのもっともな意見に大人しくペイラーが出てくるのを待つことにした。

 そんな状態でしばらく待っていると、研究室からペイラーが出てきた。

 

「博士!」

 

「おい!シオはどうなった?!」

 

 ユウキとソーマは問い詰める様な勢いでペイラーに質問する。それに対してペイラーは困ったような感じで頭を掻きながら返事を返す。

 

「どうやら何かがきっかけで昏睡状態になったみたいでね。ここから先は少し時間をかけて調べないとなんとも…」

 

「…そうか…」

 

 『何か進展があれば連絡してくれ』と言い残し、ソーマはラボラトリを出ていく。

 2人には分からないと言ったが、ペイラーにはどうしてシオがおかしくなったのか、予測はついていた。それをどうやって解決するかを考えていると、ユウキが話しかけてきた。

 

「博士…アーク計画って…知ってますか?」

 

「…ああ、知っているよ。」

 

 ヨハネスはアーク計画の起動には特異点が必要だと言っていた。そしてその特異点である可能性が高いのは現状シオ以外には思い付かない。ならばシオの変化がアーク計画の要である特異点と関わっていると考えるのが普通だろう。ユウキはそこから探りを入れ、アーク計画の詳細を聞き出そうとしている。

 

「その計画は、元々は私とヨハン…それからアイーシャの3人で考案した人類救済の計画だ。」

 

 ユウキの狙い通り、ペイラーはアーク計画の詳細やバックを話し始めた。

 

「アーク計画とは、現状の根本的治療法とも言える計画だ。終末捕食と言う名の洪水を人工的に引き起こし、アラガミごと地球を捕食させ、再生した地球に再び人類が降り立つ計画だ。」

 

 大筋はサクヤやヨハネスから聞いた話と大差無いようだ。ここからさらに踏み込んだ話が聞ける事を期待してユウキは話を聞いていく。

 

「そもそも終末捕食とは何か…それは地球上の全生命を根絶やし、その後捕食した命を再分配して再生する、究極のクリーンシステムであると考えられている。謂わば、星のリセットとも言えるね。そしてその起動キーとなるのが、シオの持つ特異点だ。」

 

 どうやら予想通り、アーク計画にはシオが必要なようだ。だが、アーク計画に乗ると言うのはシオを売る事と同義だ。やはり簡単には計画に乗ることは出来ない。

 それにユウキは今までの説明を聞いて、気になっている事があった。

 

「本当にそうでしょうか…?全ての命を再分配するのなら、現状で終末捕食を発動させても、アラガミが復活するんじゃ…」

 

 恐らく終末捕食の説明を聞くと、ユウキと同じ疑問を持つ者も少なからず現れるだろう。地球上の全生命体の復活を行うのならば、そこにアラガミが含まれていてもおかしくはない。

 しかし、ペイラーはそれを首を横に振って否定した。

 

「オラクル細胞の特徴は何だったかな?地上に残ったオラクル細胞を捕食しつつ取り込みさらに巨大化し、星を捕食したアラガミは最後に星の構造や本来の在り方を学習し地球を完全に再現する。結果、地球と瓜二つの星が出来上がる…と言う仮説がある。」

 

「随分と曖昧ですね…」

 

「そりゃあ実験するわけにもいかないからね。データを見て整理して、予測するしかない。だが、実際に星を喰らう程のアラガミが現れると言うのは十分に考えられる。これはあらゆるデータからも確信を持って言えるね。」

 

 ペイラー曰く、全てのオラクル細胞か1つになって最終的には地球を再現するというものだった。しかし、命の再分配については未だにきちんと解明されていないが、実際に試す訳にもいかず、データから推測するしかないとの事だった。

 

「先も言ったが、終末捕食で命の再分配が確実に行われる保証はない。だから確実に人類を残すため、限られた人数の人間を1度宇宙船と言う名の方舟に乗せ、滅び行く地球から逃がしてから終末捕食を発動させるのさ。この計画をヨハンは強く推奨していたが、私とアイーシャは非人道的として、真っ先に廃案になったんだ。ここまで人口が減る前の話だったからね。」

 

「…」

 

 やはり非人道的として廃案になったようだが、このアーク計画を実行するには情に流されない強い信念と徹底した合理主義的な思考が必要になる。ほぼ全人類の命を犠牲にしようとするこの計画を進めるヨハネスの覚悟はユウキごときでは計り知れず、それを考えた瞬間思考の海に身を沈めてしまった。

 

「結果、マーナガルム計画やエイジス計画が採用されたんだが、ヨハンはエイジス計画を隠れ蓑にアーク計画を進めていたようだね。秘密主義なヨハンらしいと言えばらしいね…」

 

 そこまで言うとペイラーは体勢を変え、キーボードの端に肘を突いてユウキを見る。

 

「もし、君がシオを支部長に渡すと言うのなら…私はどんな手を使ってでも阻止するよ?例え君と刺し違える事になってもね…」

 

 ペイラーの極限まで細い糸目が僅かに開いてユウキを睨む。いつもの掴み所の無い雰囲気は消え、威圧感だけしか感じない。

 そんなペイラーの豹変ぶりに驚きはしたが、ユウキは冷静に返事を返す。

 

「シオを売るつもりはありませんよ…少なくとも…今は…」

 

「迷ってる…と、捉えていいのかな?」

 

「…はい…」

 

 アーク計画に乗るか反るか、選ぶためのヒントを何か得られると思い、ペイラーの問いにユウキは素直に返す。

 

「恐らくだが、神裂君は今どう言う立場で、何をしたいのか…どうなりたいか…それが見えてないから迷ってるんだろうね…」

 

「…」

 

 カエデにも似たような事を言われたような気がするとユウキは思ったが、結局ユウキ自身が何を求めて戦うのかが明確でないため、どちらかを選ぶ決定的な理由が見つからないのだ。

 

「少なくとも、シオがここにいる間はアーク計画は発動しない。考えをまとめる時間くらいはあるだろう。」

 

 死を避けたい本能と良心の呵責…ユウキの意志がこの間で揺れていると、いつの間にかペイラーの威圧感は消え、いつも通り掴み所の無い状態に戻っていた。

 

「まあ何にしても、今は取り合えず戻った方がいい。ソーマが戻ったのに神裂君が戻らなければ色々と怪しまれるだろうからね。」

 

「はい…失礼します。」

 

 ユウキは踵を返し、ラボラトリから出ようとするが、ペイラーがその直前で呼び止める。

 

「あ!そうそう!シオが目を覚ました時のために食事の用意をしたいんだ。その内に任務をお願いすると思うから、よろしく頼むよ。」

 

「分かりました。」

 

 いつ発注されるか分からない任務のを了承し、今度こそユウキはラボラトリを出ていった。

 

 -エントランス-

 

 抜け道を通り、今帰ってきた風を装い、ユウキはエントランスに入った。すると、エントランス中がザワザワとざわめいており、何やら落ち着きが無いように感じた。

 

「おい聞いたか?サクヤさんと新型の女…なんか指名手配されたらしいぜ?」

 

「マジかよ…!なにやったんだあの2人…?なんか今の第一部隊、リンドウさんが死んでからロクなことしないな…隊長の人形はなにやってんだか…」

 

「ホントそれな!部下の手綱も握れないなんて、あれでよく隊長だなんて名乗れるよな!」

 

「それより、突然待機命令で順次呼び出しもあるって…何があったんだ?」

 

「さあ…あ!もしかして俺らもついに昇進か!?」

 

 どうやらサクヤとアリサが指名手配された事は支部内に知れ渡ったようだ。指名手配と言うシステムから、いつかはこうなると思っていたが、他の神機使いに見つかったりしないか心配だ。たが、あの2人の実力なら大丈夫だと信じる事にした。

 ついでに極東支部内のこの異様な空気は何なのか探るため、ユウキは近くにいたゲンに話を聞いてみた。

 

「あの、ゲンさん…なんだかアナグラの様子がおかしくないですか?」

 

 ユウキが話しかけると、ゲンは険しい顔で辺りを見回してから返事をする。

 

「なんだかよく分からんが、アナグラ全体が浮き足立ってるっつーか…妙にソワソワしてんな…」

 

「たぶん支部長が内容不明のまま呼び出したからだな。」

 

 『そう言えばサクヤと嬢ちゃんの事だが…』と指名手配の事を聞こうとしたが、ゲンの言葉を遮る様に低い声が会話に入ってきた。

 

「ブレンダンさん!呼び出しって…まさか全員?」

 

「ああ。なんだか分からんが支部長の話が終わるまで待機命令が出ている。このクソ忙しい時に…」

 

 声の主はブレンダンだった。が、いつもの冷静さは無く苛立っているようだった。ユウキの質問にも悪態をつきながら答える辺り、相当苛立っているようだ。

 と言うのもここ最近強力な個体や禁忌種が急増したため、ブレンダンはその対策として1度討伐して、戦術を練ろうと思っていた。しかし、それを中断してまで待て言われては防衛班の仕事に差し障るとして、ブレンダンは焦りを見せていた。

 そんな中、青い顔をしたカノンが会話に入ってきた。

 

「あ、あの…ま、まさか私…今度こそクビになるんでしょうか…?」

 

「いや、それは無いだろう。ゴッドイーターである以上、カノンも貴重な戦力だ。クビになるなんて事は普通はない。」

 

 確かにカノンの誤射は酷いものだ。普通の企業、組織であれば確かにクビになってもおかしくはない。

 しかし、神機使いは誰でもなれる訳ではない。神機と偏食因子に適合していなければならないと言う特性上、万年人手不足だ。ならば、その貴重な戦力を無駄に捨てる事はないはずだ。そう考えてブレンダンはカノンにクビは無いと伝える。

 

「そ、そうですか…じゃあ何の話でしょうか?」

 

「さあな、何にしてもタツミが今呼び出されている。後で聞いてみればいい。そう言えば神裂は戻り次第支部長室に行くように言われていたぞ。」

 

「…分かりました。ちょっと行ってきます。」

 

 このタイミングでの呼び出しなどアーク計画関係しか無いだろうが、ブレンダン達にはそんな事分からないだろう。

 しかし、ユウキへの呼び出しについては見当がつかなかった。アーク計画については知っているので、もう話すことなど無いと思っていたからだ。

 そんな疑問を抱きながらも役員区画に行くと、呼び出しの順番待ちらしきリッカがいた。

 

「やあ。」

 

「リッカ?」

 

 リッカはユウキがエレベーターから降りるとすぐに話しかけてきた。ユウキはリッカが居るとは思っておらず、少し驚いた様な声になる。

 

「もう聞いたかな?なんかアナグラのスタッフに支部長から呼び出しがかかったみたいなんだ。私もなんだけど…なんかバレたのかな?」

 

「たぶん大丈夫だと思う。博士の部屋は通信インフラとか、その他諸々がアナグラから隔離されてるらしいから、バレると言うことはないと思う。」

 

 『何か優先して来るように言われてるから、先行くよ。』と言って支部長室に向かうと、丁度タツミが支部長室から出てきた。こちらの様子を伺うこと無く苛ついた様子でエレベーターに乗り込むのを見届けると、今度はユウキが支部長室に入った。

 -支部長室-

 

「やあ、帰ってきたようだね。」

 

 支部長室に入ると、ヨハネスはデスクに座っていた。ユウキが入ってきた事に気が付くと、作業を止めてユウキを見る。

 

「どうやら特務目標の確保とはならなかったようだね。」

 

「…申し訳ありません。」

 

 歯切れ悪く返事をする。単純に任務が失敗したように見せかけた事よりも、このまま従っていて良いのかと言う疑問が頭を過ったせいだ。

 

「いや、構わないさ。今後は、最優先目標が捕捉出来ない時は、近頃現れるようになった禁忌種から、オラクル資源を回収して貰いたい。」

 

「…なぜ…今さらオラクル資源が必要なんですか?アーク計画を明るみに出した以上、最優先はアーク計画のはず…エイジス計画のためのオラクル資源なんて必要ないんじゃ…?」

 

 ユウキの疑問もある意味当然とも言える。アーク計画に必要なものは特異点と宇宙船のはず。アーク計画が発動間近になったこの状況では、もはやオラクル資源など必要ないはず。

 しかし、それを聞いた途端ヨハネスは急に目付きを鋭くしてユウキを睨む。

 

「…君が気にする必要は無い…君は君の役目を果たせばいい。」

 

「…そうですか…」

 

 ヨハネスが珍しく刺のある話し方でユウキを突き放す。その言葉を最後に、

ユウキは支部長室を出ていった。

 

 -E26、藤木家-

 

 時は少し遡り、ユウキが藤木家を出た後の昼過ぎ、コウタは家族との一時を過ごしていた。

 

「そこでガーッて襲い掛かってくるわけよ!」

 

「それで?!それで?!」

 

 任務の時のコウタの活躍を話しているらしい。コウタは神機を構える様な体勢になり、戦闘シーンを再現する。

 それをノゾミは目を輝かせて聞き入っていた。

 

「ソイツをひらりと躱してズドンッ!!決まった…!」

 

「凄い!お兄ちゃんバガラリーのイサムみたい!」

 

 コウタの活躍を一通り危機終わったノゾミはアニメの主人公の様だと言って喜んでいた。

 

「おう!俺は強いんだから何も心配しなくていいさ。」

 

「なに言ってんだい…自分の子が戦場に出るなんて、心配するに決まってるだろう!」

 

「大丈夫だって!ユウ達第一部隊の…皆も居るし!」

 

 しかし、我が子が命の危険がある戦場に向かうとなると、心配になるのか親心と言うものだろう。自信過剰になりつつあるコウタを見てカエデは心配している。

 コウタは仲間もいるから大丈夫だと言うが、その瞬間、第一部隊のメンバーの事が頭を過り、言葉が一瞬詰まった。

 

「あんまりユウキ君達のお世話になりっぱなしにならないようにね?特にユウキ君…あの子、人一倍繊細で色々と抱え込みがちな子だと思うから、あんたも気にかけてやりなよ?」

 

「あっ!!ユウちゃんの事で忘れてた!お兄ちゃん、お土産は?」

 

 カエデが早朝にユウキと話した時の印象を伝えつつ、仲間の助けになってやるように言う。

 しかし、ユウキの話が出ると、ノゾミが思い出した様にお土産を催促する。

 

「おぉっと!そうだった!実はまだ発表されてない話なんだけど…凄い計画があるんだ!」

 

 そう言いながら、コウタはズボンのポケットを漁りだす。

 

「ほら!この魔法のチケットがあれば、皆でいつまでも一緒に居られるんだ!」

 

 コウタはポケットから、フェンリルのエンブレムが描かれた1枚のカードを取り出した。

 

「本当?お兄ちゃんとお母さんも一緒?」

 

「ああ!」

 

 ノゾミの質問にコウタは自信満々に答える。

 

「じゃあ、ユキちゃんとナオちゃんとヒロちゃんも?」

 

 しかし、ノゾミから次の質問を聞いた途端、コウタの中で何かが崩れる様な感覚を覚えた。

 

「え…あ、ああ…たぶん…」

 

「本当に?!お母さん!皆一緒に居られるんだって!」

 

「そうね。そうなれば母さんも嬉しいわ。」

 

 ノゾミの『友達とも一緒にいられるか』と言う問いに、今度は自信が無さそうに答える。しかし、そんなコウタの変化に気が付かず、カエデとノゾミはずっと『皆』と一緒にいられると喜んでいる。

 

(いいのか…これで…)

 

『私は知っている。君が何のために、自らの命を差し出したのか…あとは…君が選びさえすればその道が開ける。』

 

 ノゾミの一言を聞いてから、コウタの決心が揺らぎ始める。しかし、チケットを貰う時にヨハネスと話した事を思い出す。自分が何故戦場に出たのか?何故ゴッドイーターになったのか?母と妹を命の危険から守るためのはずだと、自身の決意は間違ってないと言い聞かせて、コウタは揺らいだ決意を再び固める。

 

(そうだ…だから俺は…選んだんだ…!母さんとノゾミを…守る道を…!)

 

『おめでとう…これで『君の家族は』…救われる。』

 

 しかし、ヨハネスとの会話の続きを思い出すと再び決意が揺らいだ。先のチケットで救えるのはコウタの2等親族まで…つまりは母であるカエデと妹のノゾミまでとなっている。ノゾミが言うような、友達全員も一緒に救う事は出来ない。

 

(…仲間を…皆を…犠牲にして…?)

 

 結局助かるのはカエデとノゾミだけ。カエデやノゾミが安全な世界で生きるには、2人と関わりのある人たちを犠牲にしなくてはならない。

 

(そんな世界が…母さんとノゾミの…幸せなのか?)

 

 ノゾミの放った『皆と一緒』と言うたった一言がコウタの決意を揺さぶっていた。

 

To be continued




後書き
 コウタの決意が揺らぎはじめて、ようやくアーク計画編も終わりそうです。おかしいな…30話位で終わると思ったのに…気が付いたら50話近くをアーク計画編で使ってしまいました…
 それはそうと火事場のバカ力って医学用語的なもので何て言うんですかね?何かで聞いた様な気はするのですが…ちなみにその時の感覚は車に頭を潰されかけた時の事を参考にしてます。
 死の直前って妙に冷静になるみたいで、「あ、俺死ぬんだ…」見たいな感じになった後ものすごい速さで立ち直ったんですが、これが火事場のバカ力って事なんですかね?
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