-エントランス-
ユウキは支部長室を出た後、シオの様子を観にラボラトリに向かった。しかし、ペイラーはシオが倒れた原因を探るため、シオと共にずっと実験室に籠っていたので、ユウキは訓練室に籠り『神機と一体になる』感覚をモノにしようと躍起になっていた。
その日は上手くいったりいかなかったりしながらも深夜まで訓練した翌日、ユウキは任務の確認のためエントランスに来ていた。しかし、昨日と同様何か様子がおかしかった。
何がおかしいのか探りながらエントランスを歩いていると、カノンから声をかけられた。
「あ、 あの…神裂さん。アーク計画の事…聞きましたか?」
「カノンさん…うん、まあ…聞きました…」
カノンから話しかけられたが、いつもような朗らかな雰囲気は無く、迷っているような暗い表情だった。
「えっと…こんな話を持ち掛けられるって事は、私…思っていたよりも評価されているん…でしょうか?」
「正直、評価とかは関係ないですよ?多分フェンリル職員全員に通達されいるはずですから…」
カノンのズレた質問にか対して、ユウキも何処かズレた返事を返した。2人共考えが纏まってないまま話を進めている様な感じだった。
「あの、この計画…一般の人は殆どが助からないですよね…?どちらか選べって言われても…ごめんなさい、1人で話して…まだちょっと混乱して…少し整理したら、また相談に乗ってください…」
それだけ言うとカノンはエレベーターに乗り、どこかに行ってしまった。カノンを見送ると、ユウキはえかミッションカウンターに向かう。その途中、ベンチで難しい顔で考え込んでいるブレンダンがいた。
『アーク計画の事で悩んでるんだろうな』と考えながら見ていると、ユウキの視線に気が付いてブレンダンから声がかかる。
「神裂か…アーク計画の事なんだが…どう思う?」
「どう…って聞かれても…ちょっと答えにくいです…」
『む…?そうか…』とブレンダンは顎に手を添えて考え込む。ユウキはブレンダンの質問が抽象的過ぎて何を聞きたいのか分からず聞き返したのだが、それを知ってか知らずか、ブレンダンは聞きたいことを頭の中で整理していく。
「俺はアーク計画が正しいとは思っていない…たが、このままこの星に留まっても未来があるとは思えない…祖国を捨てて生き延びて、今度は星も捨てるか…俺達はどこまで逃げたらいいんだろうな…」
「…」
ブレンダンの問いにユウキは思わず黙り込む。他人もまた自分と同じ様な理由で迷っているのだと直に聞いても、自分自身の答えが出てないため気の利いた返事が出来なかった。
「あ、神裂さん。ちょっといいですか?」
「呼ばれたな…すまん…変な事を聞いた。こればっかりは自分で決めるしかないか…邪魔して悪かったな。」
ユウキがヒバリに呼ばれた事と、アーク計画の事で他人に答えを貰うのは間違いだと感じてブレンダンは会話を切り上げて再び思考する。それを見たユウキはヒバリの元に向かう。
「支部長からの任務です。相手は第一接触禁忌種『スサノオ』です。」
「禁忌種…」
ユウキの顔が強張る。最近禁忌種を相手にすることが多くなり、禁忌種相手でもそれなりに慣れてきたつもりだ。
しかし、そんな時期だからこそ気を引き締めなければならない。『慣れ』心に余裕を作るが、同時に『油断と隙』も作る。その事を頭に入れながら、ち任務中に油断の無いように心掛ける。
「ディアウス・ピターを初めとしたここ最近の禁忌種討伐の実績から、支部長が問題ないと判断した結果だそうです。しかし相手は『ゴッドイーターキラー』の異名を持つ危険な相手です…どうかお気をつけて。」
「はい…」
任務の説明を聞いたものの、ユウキの表情は晴れなかった。カノン、ブレンダンと続いてアーク計画の話をしてきた事が頭から離れず、もうそろそろ答えを出さなければいけないと焦りを感じ始めていたせいだ。
「…あの。」
「はい?」
「ヒバリさんは、支部長からあの計画の事…聞きましたか?」
ユウキはヒバリがいつもと変わらない様子だったのが気になった。支部内には広まったようだが、一応アーク計画の事をぼかしてヒバリに聞いてみた。
「…アーク計画の事ですか?」
「はい。」
どうやらヒバリにも話は来ているようだ。端末の操作を止めてユウキの話をきちんとか聞く体勢を取る。
「私はまだ決めていません。情報が少なすぎるので…」
「なるほど…」
その情報を探して整理してから考えるのがヒバリのスタンスのようだが、その考えを聞くと思わず納得した。
「物事がよく分からないうちは動かない方がいい…父から教わった事です。なのでしばらくは情報収集しながらどう動くか考えようと思います。」
重大な決断を下すときに必要なもののひとつは情報だ。その情報が欠けている以上、下手に動くと思わぬところで足元を掬われるかも知れない。ヒバリは父からの教訓と言うこともあり、ある程度情報を集めてから判断しようとしているのだ。
分からないなら分からないなりに、決断するには何が必要か、その為にどう動くかなど、自分が取るべき行動の指針が見えている辺りから、ユウキはヒバリが大人びていてしっかりした印象を持った。
「凄いですね、俺とそんなに歳も変わらないのに…自分の考えをしっかり持ってる…なのに…俺は…」
ユウキはヒバリが自分の考えをしっかり持っている事に素直に感心したと同時に羨ましく思った。
自分にはヒバリが持っていない情報を持っている。しかし、それでも結論は出ないでいる 。迷う理由 、決断のための覚悟、まだ足りないものや選べない理由があるのか思考していく中、最後の選択が未だにできない自分が情けなく思えた。
「たぶん、迷うのが普通なんだと思いますよ?私も結論は出ていませんし、その為に情報を集めると言うだけですから。まだ時間もあるみたいですから、後悔しないようにしっかり考えてから結論を出した方が良いと思います。」
「そうですね…おっと!あんまりのんびりしてられない。それじゃあ、行ってきます!」
「はい!お帰りをお待ちしてます!」
その言葉を最後に、ユウキは任務を了承してヒバリの元を去った。
「よう!アーク計画の事聞いたか?」
神機保管庫に入る直前、突然声をかけられた。声の主はカレルだった。
「まあ聞いた時はビビったが俺は特異点とやらを探して俺は方舟に乗るぜ。お前はどうするんだ?」
「カレルさんは乗るんですね…」
ユウキは今まで通りの迷っているような表情でカレルに返事をする。その事に気がついたのかそうでないのか、カレルはユウキにどうするか等を聞かず1人で話を進める。
「まあな。お前はどうするか知らないが。もしお前も乗るなら向こうでも仲良くしようや。」
それだけ言ってカレルは下階に降りていく。言い方は悪いかも知れないが、カレルは大衆が生きようが死のうがどうでもいいと思っているのかもしれないとユウキは感じた。
しかし、もしかしたら大衆を犠牲にしてでも生き残りたい理由があるのかもしれない。そればっかりは本人でなければ分からないが、どちらにしても決断を下せる理由があることは間違いないだろう。
こうして考えてみるとユウキ自身、自分が何をしたいのか分からず、ズブズブと思考の海に嵌まっていく。
難しい顔のまま神機保管庫につくと、リッカが神機の整備をしていた。しかし、その手際にはいつものような鮮やかさはなかった。
「リッカ?」
「ん?ああ…神裂くん…」
リッカが作業を中断してユウキの方を向くが、その表情からは活発さを感じなかった。
「神機…いいかな?」
「うん…大丈夫。」
お互い短い会話を済ませるが、互いに『ある事』悩んでいることはすぐに察しがついた。
「もしかして…アーク計画の事?」
「まあね…」
ユウキはリッカがどうするのか気になって思わず無意識にアーク計画について聞いてしまった。リッカもその事を聞かれると、どう答えていいか戸惑い、困った様な顔になる 。
「リッカは…どうするの?」
「私は…もう少し…しっかり考えてから答えを出すよ。」
「そっか…」
「神裂くんは?」
「俺も同じかな…」
お互いにまだ答えは出ていないようだ。それだけ確認すると、『じゃあ、これから任務だから』と言って、ユウキはリッカとの会話を打ちきり、神機を受け取って保管庫を後にした。
-贖罪の街-
アーク計画の事で色々と頭を悩ませていたが、任務地に着いたら少し時間をかけて任務時の頭に切り替えた。
すると、これからという時にユウキの端末に連絡が入る。
『やあ、神裂君!もう現地に到着しちゃったかな?』
声の主はペイラーだった 。
「え?はい…いま旧居住区ですけど…何か?」
『うーんそうか…ちょっと頼みたい事があるんだけど、良いかな?』
「いいですよ。」
どうやらペイラーはユウキに頼み事があるようだ。と言って も今の状況ではペイラー が頼みそうな事など1つしか思い当たらない。頼み事を承諾するつもりでユウキは返事をする。
『今回のターゲットから得られたオラクル資源を一部横流しして欲しいんだ。シオの食料の備蓄を始めようと思ってね。』
「分かりました。」
『出来るだけの量で良いからね。よろしく頼むよ…ああそれと、帰ってから鳥神大爪もあれば持ってきてくれないか?たぶんそれを与えればシオも少しは落ち着くと思うからさ。それじゃあよろしく!』
ペイラーが用件を伝え終わると通信が切れる。端末を仕舞うと一緒に来ていたソーマが話しかけてきた。
「もう良いのか?」
「うん。行こう。」
ユウキの頭もどうにか任務状態に切り替わり、これで準備万端だ。待機ポイント から飛び降りて、ユウキとソーマはターゲットであるスサノオの索敵を開始した。
しかし、ユウキとソーマが手分けして索敵をしたにも関わらず、ターゲットを見つける事は出来なかった。
一旦状況の整理をしようと、教会跡に集合する。
「どうだ?痕跡はあったか?」
「いや…こっちは特に無かった…まだ作戦領域に来てないのかな?」
互いに状況の報告をする。しかし、スサノオが現れたと言う痕跡さえ見つけられなかった。こうなると、スサノオがまだ作戦領域に来ていない可能性が高い。
「どうする。もう1度周るか?」
「そうだね。それで居なければしばらく待機してよう。」
今後の動向を確認し、一旦教会から出ようと歩き出す。だが、その瞬間後ろから何かの気配を感じる。
ソーマもその気配を感じてユウキと同時に前に出る。
「クソッ!!」
「チィ!!」
悪態をつきながら、さっきまで自分達が居たところを見ると、両腕に神機の捕食口を生やし、尻尾には鋭い剣、黒い鎧の纏い、元となったボルグ・カムランの頭に相当する場所には禍々しい人の顔が埋め込まれ、さらには所々が浅色に妖しく輝く巨体があった。
『グルラアオオオ!!』
スサノオが不気味で形容しがたい声をあげると、ユウキとソーマも戦闘体勢になる。
「不意討ちか…舐めた真似してくれる!!ソーマ!!」
「分かってる!!」
ユウキは右、ソーマは左に跳んでからスサノオに迫る。しかし、スサノオもそれに反応して神機の捕食口を模した両腕から左右にに小さなオラクル弾をばら蒔く。
「ツッ!!」
「クソ!!」
まるでショットガンのように濃い密度で発射された小さなオラクル弾をユウキとソーマは装甲を展開して防御する。しかし、その間にスサノオは自身の体を軸に回転して、尻尾の剣で周囲を切り裂きながら追撃する。
ソーマは縄跳びの要領でそれを躱し、ユウキは装甲の展開を続けて尻尾を防御する。しかし、小さな装甲種であるバックラーに分類されるティア・ストーンでは衝撃を受けきれず、後ろに飛ばされる。
(ッ!!)
強烈な衝撃を受けてユウキは思わず顔を歪める。スサノオは追撃に出るためユウキを見るが、追撃をさせないようにソーマが反撃してスサノオの注意を引く。
スサノオは右腕の神機でその攻撃を受けて注意をそらすことには成功する。しかし、それも無駄に終わる。ユウキが飛ばされた先には浅紫の光球が鎮座していた。
(クソ!!)
本能的に危険だと察知した。光球に触れないように、飛ばされる勢いを殺さず地面を蹴ってバックフリップで光球の上を飛ぶ。
『バアン!!』
しかし、ユウキが光球と向き合う位置に来た瞬間、光球が爆発した。多少離れていた事もあり、直撃こそしなかったが、爆発の衝撃でユウキの胴体の肉を抉り血を流す。
「ユウキ!!」
さすがにソーマも心配になり、声をあげる。それでも攻撃の手を緩める事は無く、ソーマを突き刺しに来た剣を神機の刀身で受け流す。そのまま前に出て尻尾に刀身を沿わせて尻尾を削いでいく。最後にはスサノオの真上に来て、神機を上に向かって振り抜く。成功すれば尻尾を切り落とし、攻撃能を大きく下げられる。
しかし、スサノオが勢いよく尻尾を戻した事で、剣の先端を切り落とす程度のダメージにとどまった。
「オォォォオオ!!」
回復錠を飲み、傷を治したユウキが咆哮と共にスサノオに飛び込む。それを見たソーマは神機を握り、降り下ろす 体勢を取る。
真上にはソーマ、横からはユウキ、普通のアラガミでならば防御するか、ここで死ぬしかない。少なくとも避ける言う選択はない。
しかし、スサノオは右の前足を少し前に出したと思ったら、勢いよく反転してユウキから逃れ、ソーマから少し離れて2人を剣の射程圏内に捉える。
(まずい!!)
そう思うと、ユウキは着地体勢を取るソーマの下をスライディングでr潜り、
ソーマの前に出る。
『剣での攻撃が来る』と思い、装甲を展開する準備をする。だが、スサノオは両手の神機を構える。
ユウキは本能的に装甲の展開を止めて、後ろに飛ぶ。途中でソーマを横に突き飛ばしてスサノオの射程から逃がすが、勢いよく突き飛ばしたせいか、ソーマは体勢を崩してゴロゴロと転がった。
その瞬間、スサノオの神機がユウキに噛みつく。しかし、後ろに飛んでいたこともあって当たることは無かった。
反撃しようと神機を構えようとするが、スサノオのもう片方の神機がユウキに噛みつく。
「くぅ!!」
反射的に後ろに跳んで躱すが、反応が若干遅れてギリギリで避ける。追撃、後ろに避ける。再び追撃とユウキは後ろに追い詰められる。
(!!)
『ドン!!』と強い衝撃が背中に走る。壁際まで追い詰められたようだ。スサノオの追撃が迫っている。もう逃げ道はない。
『ガァァァアン!!』
轟音と共にスサノオの神機が壁を喰い破る。しかし、ユウキは前に走って神機を避けると、スサノオの顔面に向かって跳ぶ。今度はスサノオが後ろに跳んで避ける体勢を取る。
『ブシャアァァア!!』
血が吹き出るような音と共に突然スサノオの体勢が『ガクン!!』と崩れる。体勢を整えたソーマがスサノオの右後ろ足を切り落とした のだ。
その隙にユウキが神機を両手で握り、下から掬い上げるように神機を振り上げる。
攻撃が当たり、スサノオの顔面が2つに割れ、スサノオ本体は空中に舞い上げられた。
しかし、スサノオもまだ死ぬつもりはないらしい。空中で体勢を立て直し、右の神機を上に掲げる。赤く細い光が現れたと思ったら、何処からともなくユウキとソーマの真上から極太のレーザーの様な光の柱が何度も降りてきた。
「「なに!!」」
突然の攻撃で驚きこそしたものの、光の柱はユウキ達を狙ってきている事に気がついて、スサノオに近づきながら動き続ければ 当たることは無かった。
「ソーマ!!こいつカムラン程硬くない!!」
「ああ!!決めるぞ!!」
ソーマの合図と同時にスサノオは着地するが、足を一本失った事でバランスがとれず動けないでいる 。
その隙にユウキとソーマがスサノオの懐に入り込む。そして両腕の神機を切り落とすと、ユウキは残りの左の足を切り落とし、ソーマは右の前足と尻尾を切り落とす。
胴体だけとなったスサノオには、もう攻撃も回避も防御もできない 。ユウキとソーマは捕食口を展開して動けないスサノオのコアを回収した。
「任務終了…禁忌種相手でもなんとかなるもんだね。」
「浮かれるなよ?その油断が命取りだ。」
禁忌種相手に勝利し、やや浮かれているユウキにソーマが『調子に乗るな』と釘を刺す。
すると思い出したようにソーマが話を続ける。
「ああ、そうだ…博士の言ってた件…素材選別はお前に任せる。俺はシオの様子を見に行く。どうにも気がかりだ。」
「うん…わかった。」
シオの事を聞いた途端、いつもなら茶化すのだが、今回はそんな気分にはならなかった。シオの話を聞くと、どうしてもアーク計画の事を思いだし、ユウキは覇気のない顔になる。任務が終わり、戦う事を考えなくなると、再びユウキの迷い続ける時間が始まった。
To be continued
後書き
アーク計画の事が極東支部内で明かされました。アーク計画の真相を聞いて極東支部のメンバーもそれぞれ悩みながら考えている所を書きたいのですが中々難しい…
スサノオさんは初めて実機で戦った時はカムランよりも動き回っていたのに驚いてたような気がします。