-ラボラトリ-
ユウキがヨハネスと敵対する決心を固めてから数時間後、ペイラーとソーマはシオの経過観察をしていた。この1週間、全身に青く光る模様が浮かび上がったり、起きたら起きたで妙にボーッとしたり、ユウキとソーマが持ってきた素材を食べては眠ると言うのを繰り返していた。
そんなシオの様子を見ていると、シオが突然座ったままムクリと起き上がった。
「ん…」
未だ眠いのか、シオの目は半開きでボーッっとしている。
「おや。目が覚めたようだね。」
「んん?」
ペイラーの声に反応して唸ってはいるが、まるで何処から聞こえてくるのかが分かっていない様に辺りをキョロキョロと見回している。
「今の君は…シオかい?それとも、この星を喰らう…『神』なのかな?」
「星は…美味しいのかな?」
ペイラーがシオの前まで移動すると、シオの顔を覗きこむ様に前屈みになる。そんなペイラーが視界に入ったのか、シオは顔を上げてペイラーを見る。その表情はいつも程ではないが元気を取り戻していた。
「さあな…こんな腐りきった星なんか、喰う奴の気が知れないぜ…」
「そっか。でもなんか…たまに急に、食べたいって…!」
突如シオの全身に青色に輝く模様が浮かび上がり呻き声を上げる。
「わあぁぁあ!!ご飯ならそこにあるからね!!」
シオの変化を見て、ソーマとペイラーは慌ててアラガミ素材が入った胴体程の巨大なカップをシオに渡す。
「おぉ?博士、いい奴だな!」
そう言うと、シオはカップの中に手を伸ばして、素材を食べ始めた。いつの間にか青い模様は消えていた。
無邪気にムシャムシャと食事をするシオを男2人が見ていたが、しばらくするとソーマが苛立ちを見せる表情でペイラーの方を向いて話しかける。
「おい。いつまでこの状態が続くんだ?」
「うん…せっかく人らしさが出てきたと思ったのに、あれ以来一気に不安定になってしまったね。彼女の中で、2つの心が対立しているのかもし れない。1つは人間としての心、もう1つは…」
「特異点…だろ?」
それを聞くとペイラーは若干バツの悪そうな顔をしながらソーマから目を反らす。
「やはり気付いていたんだね。」
「むしろ気付くなという方が無理がある…」
シオの特異性を目の当たりにすれば、 彼女が特異点であることはすぐに見当がつく。さらにはシオが第一部隊のメンバーと出会ってからは少なくとも人としての生活を学び、実行してきた。それをいつの間にかシオ自身も気に入って無意識に人として生きていくうちに、人としての心を手に入れたようだ。
しかし、シオがアラガミであると言う事実は変えられない。全てを喰らい尽くすアラガミとしての本能も持ち合わせている。そのアラガミとしての本能と人としての理性がせめぎ合い、シオが不安定になっていると言うのがペイラーの見解だった。
「特務をこなしていた君ならなおさらか。シオのコア…特異点は終末捕食発動の要となるものだ。私はこれをヨハンに渡すつもりはない。私は私でシオに隠された別の可能性を試してみたいと思っているんだ。」
「おい博士。俺はアンタの側に着いたなんて思っちゃいない。アンタやクソ親父がそれぞれ何を考えているかなんざ知ったこっちゃねえが、俺やシオをオモチャにするようならどっちも同じだ!」
それを聞くとペイラーは小さく笑った。ペイラーの言う可能性が何なのかは分からない。しかし、シオを苦しめるのならば容赦しないというソーマの怒りを感じて、ペイラーは嬉しく思った。
他者を拒み、拒まれ、いつも不機嫌そうにして、感情を表に出さないソーマが、誰かのために微かに笑ったり怒ったりしているのだ。ユウキ達第一部隊のメンバーと交流し、シオと出会って世話をしていくうちに、ソーマもまた本来の姿を取り戻していく様子を見てペイラーは内心喜んでいた。
「そうか…だが、『私は』シオに何もする気はないよ。これまでも、これからもね。ただ、君たちとこうして一緒に居てくれるだけでいい。それがいつか…」
そこまで言うと、突然支部全体が揺れだして明かりが落ちた。
「なんだ?」
「分からない。でも大丈夫。すぐに中央管理の補助電源が入るはず…ああ!!!!」
突如ペイラーが限界まで目を見開いて大声を上げる。
『やはりそこか…博士!!』
スピーカー越しにヨハネスの声が部屋に響く。それと同時に赤い非常灯が点灯し、部屋を真っ赤に染める。
「あぁぁぁぁああ…しまったあぁぁあ!!!!」
ペイラーが頭を抱えて大きく仰け反る。そのオーバー過ぎるリアクションを見たソーマが引きながらも驚いている。
それと同時に室内の非常灯が消えて普通の明かりに戻った。
「なっ!!ど、どうしたんだ?!」
「やられたよ…言ったろ?この非常時の補助電源は中央管理だって…この部屋の情報セキュリティもごっそり持っていかれてしまう。」
極東支部には通常使用している発電機から電力が供給できなくなったとき、あるいは襲撃等で電源が暴走しないように発電機を止める場合がある。こう言う非常時に使用する補助電源があるのだが、その補助電源は場所や資源を食うこともあり、普段使用している発電機よりも大きさも容量も小さいものになっている。
補助電源は支部の機能を最低限維持するための容量しかないが、ペイラーのラボラトリでは、重要な実験を行っている事も多いので、一応は部屋の機能を損なうことないように電力を供給している。
しかし、普段通りに通信インフラを始めとしたその他諸々を隔離するためにわざわざ専用の補助電源を設置できるスペースもなければ資源もない。そのため、補助電源は支部全体とラボラトリで共有し、極東支部側で管理している。
さらには電力の節約のため、通信インフラや情報セキュリティも共用のものに一時的に変更している。
「じゃあ親父の野郎に!」
「ああ…完全にバレたね。」
そこまで察したソーマが焦りを見せる。それを肯定するように、ペイラーもヨハネスにバレたとはっきり明言する。
しかし、こんな状況でもシオは相変わらず食事に夢中なようだ。
「さて、時間がない…ソーマ!例の通路からシオと脱出して…」
『ガアァン!!』
ヨハネスがラボラトリに強制捜索に来るのも時間の問題だ。ペイラー急いでシオとソーマを秘密の裏口から逃がすよう指示したが、それを言いきる前にラボラトリの扉が無理矢理こじ開けられた。
「動くな!!」
黒い服とヘルメットを被り、いかにも特殊部隊の人間と言わんばかりの人間が部屋に押し入り 、ソーマを取り囲んでライフルを突き付ける。
(くっ!!親父の差し金か!!)
辺りを銃で取り囲まれながらもソーマは状況を分析する。ペイラーは戦力外として扱われているのか、取り囲まれてはいないが、包囲網の外に追いやられてオロオロしている。
シオもソーマと同様、銃を突きつけられて取り囲まれているが、相変わらず食事に夢中で周囲の異変に気がついていない。そんな中、特殊部隊の1人が注射器をもってシオに近づいてきている。
おそらくシオの動きを止める、あるいは意識を奪う薬品だと察知する。その瞬間 、ソーマが動き出す。
「クソが!!」
一気に姿勢を落として目の前の隊員の腹に底掌を入れる。目の前の隊員は衝撃で体勢を崩すと、すぐにそこから包囲網を突破しようと前に飛び出す。
『バン!!』
銃声が聞こえてくると咄嗟に倒した隊員の肩を掴み、そこを軸にして足が上になるように回転する。
『ギン!!』
さっきまでソーマがいたところに弾丸が着弾する。どうやら向こうも本気でシオを捕獲しに来ているようだ。ならばもうこっちも容赦しない。
ソーマが構えてシオの元に飛び出そうとする。
「待て!!」
その瞬間、ソーマを制止する声がかかる。チラリと声のする方を見る。
「コイツを殺されたくなければ動くな!!」
「あわわわ…た、助けてくれソーマ…」
ソーマの視界には隊員の腕で首をロックされ、頭に拳銃を突きつけられているペイラーが映る。
「チッ!!余計な手間を!!」
ソーマが悪態を着くと、無意識に動きを止める。
『ガッ!!』
「ッ?!」
ソーマの後頭部に鈍い衝撃が走る。どうやら銃床で殴られたようだ。意識を失う直前、ペイラーもまた殴られたのが見えた。こうしてシオを守る砦が2人とも意識を手放した。
「目標、確保しました。」
特殊部隊の隊長らしき男が薬でシオの意識を奪うと、通信機でどこかにいる ヨハネスにシオを捕獲したと報告する。
『ご苦労…』
「反逆者はどうましょう?始末しますか?」
隊長がチラリと倒れているソーマとペイラーを見る。
『…必要ない。放っておけ…いや、博士も一緒に連れてきたまえ。』
「了解。」
短い返事をした後、特殊部隊はシオとペイラーを抱えてラボラトリから出ていった。
-E26、藤木家-
極東支部で 非常電源が入った頃、外部居住区でも変化があった。突然部屋の電源が消えてしまったのだ。
「あれ?停電?」
「お、お兄ちゃん…」
突然家の電気が消えてコウタが不振に思うと 、それがノゾミにも伝わったのか、ノゾミが不安そうな声を出す。
「あ、戻った…何だったんだ?」
時間にして数秒後、再び電気が着いた。極短い停電だったので、何だったのかと不振に思っていると、テレビの番組が突然切り替わり、ニュースキャスターが写し出された。
『番組の途中ですが、アラガミ襲撃の速報です。つい先程、極東支部が識別不明のアラガミに襲撃を受けたとの情報が入りました。』
「なっ!!」
極東支部が襲撃されたという情報が入ってきて、コウタは驚きを隠せないまま思わず立ち上がった。
『被害状況、死傷者等、被害の規模について一切不明で、フェンリルからの発表が待たれています。』
その後もニュースキャスターが何かを言っているが、コウタの耳には届いていなかった。それと同時に自室で充電してあった通信端末で極東支部に電話する。アリサとサクヤは恐らく既に充電が切れていると考えて、ユウキとソーマに電話をいれるが、2人とも電話にでることはなかった。
「出てくれ…誰でも…誰でもいいから…!」
知り合いに片っ端から電話をいれていくと、ペイラーに電話したときに、一瞬のノイズが入る。
『も、もしもし…?』
「あ、博士!!良かった…!繋がった!今速報見たんだ!アナグラは?皆は無事なの?!」
ノイズ混じりにペイラーの声が 聞こえて来た。連絡が着いたことに安堵したが、全員の安否が気になり、余裕の無い声色でペイラーに全員の安否を確認する。
『シオが…シオが拐わ…ま…た…』
「え…?」
ノイズで聞こえない部分があったが、シオが拐われた事は聞き取る事ができた。しかし、この事を聞いた途端、コウタは全身に寒気が走った。以前の様に『居なくなった』のではなく、『拐われた』のだ。つまりは極東支部側の人間にバレて、誰かの手引きがあったと言うことだ。
『余裕がない…は…え、正直こ……で手荒…手…を………くる…は思って…………………。』
「何だよそれ?ユウは?!ソーマは?!他の皆は?!!」
ノイズでほとんど聞こえなかったが、第一部隊のメンバーがどうなったのかは言ってないように思える。ユウキとソーマの安否を確かめようと、コウタがほぼ怒鳴り声の様にペイラーを問い詰める。
『…の知…限……は皆…事で…。』
「博士!!クソッ!!よく聞こえねえ!!」
少しずつノイズが酷くなってきた。結局無事なのかが分からず、コウタは苛立ちを隠すことなく悪態を着く。
『と………一…合…し…………。急…でアナ……に戻って…てくだ……。』
「ちょ!!博士?!博士!!…お、俺は…俺は…!!」
通信区画がダメージを受けたのか、終始ノイズのせいで聞き取りにくく、通話も勝手に切れてしまった。
仲間の事は気掛かりではある。しかし、自分がいない間に方舟を出すと言われて、家族が方舟に乗れないなんて事があっても困る。
どうするべきか悩んでいると、不意に後ろから声がかかる。
「行ってやりな。」
「え?」
いつの間にかカエデがコウタの部屋の前に立っていた。突然の事にコウタが固まっていると、カエデはコウタの心の内に渦巻いているものを言い当てる。
「友達の事が気になって仕方ないんだろ?」
「で、でも…俺は…」
『家族を守らないと…』と言いかけたが、カエデがエプロンのポケットから見覚えのある2枚のカードを取り出した。
「これ私たちにも届いてたんだ。」
真実を聞いたコウタに衝撃が走る。ヨハネスから直接手渡される以外に手に入れる方法が無いと思っていたからなおさらだ。
この状況は言い換えればカエデとノゾミは自らの意思で何時でも助かる事が出来るのだ。さすがにコウタも、カードを見せられてその事に気が付くまでに時間が掛からなかった。
しかし、何故助かるのにその事を話さなかったのかが理解できない。助かる事を話さなかった理由を考えていると、カエデが話を続ける。
「あんたの気持ち…すっごく嬉しかったわ…でもね…」
カエデが含みを持たせて一旦話を区切る。
「どんな楽園に行ってもあんたが笑っててくれないとね…嬉しくないんだよ。あんたの笑顔が見られるなら、楽園とは程遠い…この世界にあるこの家であんたを待ち続けるよ。」
どんな楽園に行くよりも、息子が笑顔で生きていける方が良いと言うのだ。それを聞いたコウタは驚いた。
そしていつの間にかカエデの後ろから顔を覗かせているノゾミもコウタに話しかける。
「ノゾミもね…お兄ちゃんが悲しい顔するのは見たくない。お兄ちゃんや皆と笑いながら一緒に居られる方が良いな!」
『家族を守る』それは脅威であるアラガミから遠ざけ、自分達だけが安全な所に行く事が家族の幸せではない。カエデとノゾミにとっての幸せはコウタが元気な笑顔を見せに来てくれる事だと、ようやくコウタ自身も気が付いた。
「親子して…同じこと言うなよ…」
自分がここまで家族に想われている気が付いたコウタが、ノゾミの頭を撫でる。コウタの目には嬉しさのあまりうっすらと涙を浮かべていた。
方舟に乗ることが家族の幸せではない。コウタが笑顔を見せてくれることこそが家族の幸せだと気が付いたのなら、選ぶ道は1つだ
「うん。俺…皆のところに行ってくる!」
「早く帰ってきてね!お兄ちゃん!」
ノゾミのちょっとしたおねだりを聞くと、コウタは元気よく返事を返す。
「おう!すぐ帰ってくるらな!!」
以前のような明るい笑顔を見せて、右手の拳を軽く上げてガッツポーズをする。最後にもう一度カエデとノゾミの顔を見てコウタは極東支部に向かって走り出した。
-極東支部-
「クソッ!!博士の姿が見当たらねえ!何処に行ったんだ?!」
ソーマが目を覚ました時、既にシオとペイラーは連れ去られた後だった。可能性は低いがまだ2人が支部内に居る可能性も捨てきれない。1度支部内を周って探し、最後にラボラトリの前まで戻ってみたが、シオとペイラーを見つける事は出来なかった。
そうなると、後はエイジス島に居る可能性が高いが、エイジスへ物資を送る定期便は、アーク計画発動を前にして、全てストップしていると広報連絡があった。
他にエイジス島に行く方法は無いかとペイラーに聞きたかったのだが、結局見つけられない事に焦りを感じて悪態を着く。
「シオが拐われたのね。」
突然後ろから聞きなれているが、この1週間程全く聴いていなかった女性の声が聞こえたきた。
「お前ら!勝手に縁を切ったんじゃなかったのかよ?」
後ろを振り返ると極東支部から姿を眩ませたはずのサクヤとアリサがいた。緊張と焦燥がソーマの心を支配する状況で、顔馴染みの顔を見たことで少し落ち着いたようだ。
それを示すように、口は悪いがソーマの表情は少し穏やかになっていた。
「どうせ貴方だけじゃ心細いと思って、戻ってきたんですよ。」
「ふっ…口の減らねえ女だ…」
再会の挨拶代わりにお互いに軽口を言い合う。それを見届けると、サクヤが本題には居る 。
「実はエイジスへの再侵入の方法を探っていたんだけど、アーク計画の発動を前に、外周は完全に封鎖されていて…正直打つ手なしって状態なの。」
「で、何か情報は無いかと戻ってきたってところか?」
サクヤが無言で頷いて肯定する。しかし、ソーマは渋い顔をしながら両腕を組む。
「残念だがこっちも手詰まりだ。博士が何か知らないか聞きたかったんたが、何処にも居ない。恐らくシオと一緒に連れて行かれた可能性が高い。」
「くっ!どうすれば…!」
八方塞がりの状況に、その場に居る全員が苦虫を潰したような表情になる。
「多分、エイジスへの入り口は、アナグラの地下にあるよ。」
3人の後ろから、ここに来ないはずの人間の声が聞こえてくる。
「「「コウタ!!」」」
サクヤ、ソーマ、アリサの後ろ…つまりエレベーターの前にはアーク計画乗ると明言したはずのコウタがいた。
「貴方、アーク計画に乗ったんじゃなかったんですか?!」
「…俺も色々思うところがあったんだ。方舟に乗ることが、家族の幸せじゃないって気付いたから。」
アーク計画に乗ると言った手前、若干の気まずさがあったのか、頭を掻きながら少し小さめの声でアーク計画から離反する理由を話した 。
「そうですか…戻ってきてくれて…ありがとう。」
「そう言えば…ユウは?」
その場に居るメンバーを1通り見回したが、ユウキの姿が見えないため聞いてみたが、あまり良い答えは返ってこなかった。
「分からん。博士を探しながら色々回ったが、何処にも居なかった。」
「今回の件ばっかりは、強制出来ないもの…仕方ないと言えば仕方ないわ。」
自分の生き死にが関わる決断である以上 、こちらの都合を強要することは出来ない。元よりここに居る人間はそんなことをするつもりもなかったが。
「…じゃあ、ユウが居なくても良いんだね?」
「ああ…」
「ユウが居れば心強いんですけど…仕方ありません。このまま行きましょう!」
ユウキが居なくても行く。その意思を聞き届けたコウタが、エイジス島への道があると思われる場所に案内する決意をする。
「分かった。着いて来て!!」
そう言ってコウタは全員をエレベーターに乗るように指示すると、極東支部の地下深くまで降りていった。
-極東支部 地下-
地下の生産プラント区画に着いた一行は、そのまま生産プラントを抜けてさらに奥の物資搬送用の大型エレベーターに乗り込んだ。そこからさらに地下に進むと、エレベーターを降りてのすぐのところに、巨大なゲートが現れた。
恐らくこれがエイジス島への入り口になるのだろう。
「ダメだ…解除キーが無いと…最後のロックが解除出来ない…」
しかし、ゲートにはロックが掛かっていた。全員が知恵を出し合い、ロックを解除していったが、最後のロックを解除するには物理的な解除キーが必要になるようだ。
どうしたものかと考えていると、後ろからヒールが地面を叩く音が聞こえてきた。
「…結局、『全員』集合したようだな。」
「ツバキさん…!」
ヒールの音が止まると、そこにはツバキがいた。自分達を捕らえに来たのかと、全員が警戒する。
((全員?))
しかし、そんな状況でもソーマとアリサは全員と言うワードが気になった。ツバキの言葉は恐らく第一部隊全員と言うことだろうが、ここにはリーダーであるユウキが足りない。
そんな2人の疑問に気がつくこともなく、ツバキは第一部隊の警戒を解こうと、穏やかな口調で話始める。
「安心しろ。お前達を捕らえる気などない。知っての通り、方舟騒動でアナグラはめちゃくちゃだ。方舟に乗る者はとっくに行ってしまったよ。後はアーク計画反対派と外部から方舟に乗る者が支部に流れ着いたりしている程度だ。」
「じゃあ、ツバキさんは…?」
「フッ…弟の不始末は、姉である私が着けねばな。それにしてもコウタ…よくここがエイジスの入り口だと気が付いたな。」
ツバキなりに考えがあっての行動だろう。やや憂いを帯びた表情で残る理由を語った。
それよりもここがエイジス島への入り口になると気付いた者がコウタだった事に驚きを隠せないようだった。
「…確証があった訳じゃないんです。前に博士が、アナグラの生産プラントのリソースがエイジス建設に使われているって講義で言ってたんです。それでその物資の搬送路も、地下にあるはずだって思って…」
「フフッ…講義は寝てばかりいると聞いていたが、案外そうでもなかったようだな。」
コウタが講義の内容を覚えていたことを誉めてはいたが、寝てばかりいる事は事実なので、苦笑いしながら照れると言うなんとも器用なことをしていた。
「あの…ツバキさん。さっき全員集合したって言いましたよね?あれは一体どういう事ですか?」
アリサが最初に聞いたときから感じていた疑問をツバキに投げ掛ける。するとツバキはフッと笑いながら答える。
「ああ、あれか。もうじきあと1人…いや2人来るはずだ。」
思い当たる人物は居るが『2人』と言うのが気になる。一体誰なんだと思っていると大型エレベーターが止まる音が聞こえてきて、ワンテンポ遅れてエレベーターの扉が開いた 。
「…やっと見つけた。」
そこには銀髪でタンクトップを着た技術者の少女と、黒いスーツタイプの制服を纏った、茶髪の少女にしか見えない少年が立っていた。
「「「「ユウ(キ)?!リッカ(さん)?!」」」」
そう、楠リッカと神裂ユウキだった。ただ2人の距離はやや近いことがアリサは気になっていた。
「ユ、ユウ!お前、方舟に乗ったんじゃ?」
コウタが今まで見かけなかったことで、ユウキはとっくに方舟に乗ったものだと思ていたため、とても動揺しながらユウキに話しかける。
「そ、それより何でリッカさんと一緒に降りてきたんですか?!」
ユウキが戻ってきた事は素直に嬉しいが、なぜリッカが一緒で、しかも距離が近いのかも気になる。
周囲とは若干ずれた疑問を持ったアリサがその疑問を投げ掛ける。
「アーク計画に乗ったら後悔する…そう思ったから乗らなかった。それだけだよ。」
「私が一緒に来たのは、神機の新しい制御装置が完成してね。ついさっきまでユウと一緒に最終テストをしていたから。きっとこの戦いで皆の役に立つはずだよ。」
全ての神機に使える新装備のテストをしていたようだ。開発者と思われるリッカが試運転に立ち会うのは当然で、実際に運用したユウキがい今まで一緒に 居る事は何ら不自然ではない。
「な、なるほど…そうですか…」
ユウキがリッカと降りてきた理由は何となく分かった。しかし、リッカがユウキの事を下の名前で呼んだ事がどうにも気になる。
(な、なんで…?!リッカさんがユウって呼んでるんですか?!今まで上の名前で呼んでいたのに?!まさか何かしら進展があったんじゃ?!!?)
冷や汗を流しながら顎に手を当てて考え込んでいるような仕草をしているが、任務と関係ないことを考えている事は一部のニブチン以外には明らかに分かっていた。
「やれやれ…解除キーなら私が持っている。準備が終わり次第、この扉を開けてやる。」
やや緊張感のない様子を見て若干呆れたツバキだったが、準備をしてこいと言われた事が聞こえると、トリップしていたアリサも含めて全員が表情を引き締める。
「頼んだぞ…お前達…」
全員がツバキの声に頷くと、ユウキが一番最初にエレベーターに向かって歩き出す 。
「じゃあ、一旦戻ろう。この先に進むのは…」
ユウキがエレベーターの前まで歩くと、1度立ち止まる。
「準備が終わってからだ…」
振り返った際に見えたユウキの顔は、目を細めて妖しく笑う妖艶な笑顔だった。
To be continued
後書き
第一部隊集合です!リッカの言う新装備とは何なのか…次回でその辺りも書いていきますよ。分かる人には分かるかも知れませんが。
緊迫した状況のはずなのに女子2人が何か色ボケしているような気がが…ま、まあアリサからしたらしばらく会えなかった想い人と再会したら別の女と仲良くなってたから焦ったってことでご容赦ください…今後は気を付けねば…
何となくユウキを描いてみようと思って描いてみたら崩れたエイリアンが出来ました…自分の画力の無さに泣いたorz