GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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決戦と言ったな…あれはウソだ…!


mission49 決戦前夜

「う…ん…?」

 

 極東支部が襲撃を受けてしばらくして、ペイラーは小さな呻き声を上げて目を覚ます。どうやら何処かの硬い鉄板の床で寝かされていたようで、体の節々が痛む。

 起き上がる途中で聞き慣れた声が頭上から聞こえてきた。

 

「やあ…気が付いたかい?ペイラー。」

 

「ヨハン!あの襲撃はやはり君だったか。それにここは…エイジスか…」

 

 声の主はヨハネスだった。作業用のゴンドラに乗ってペイラーを見下ろしていた。

 

「ああ…もうこちらにも猶予はなくてね。強引な手段を取らせてもらったよ。」

 

 ヨハネスの言葉を聞くと、ここに連れてこられる直前に起こった事を思い出した。襲われたのは自分だけではない。声を荒げてヨハネスを問い詰める。

 

「ソ、ソーマとシオは?!まさか手をかけたのか?!!?」

 

 ペイラーの問いにヨハネスは悪びれる様子もなく、鼻で笑いつつ答える。

 

「安心したまえ博士。ソーマは無事だ。だが…件のアラガミは…」

 

 そこまで言うとヨハネスは体の向きを横に変え、ペイラーからもヨハネスの後ろを見えるようにした。

 

「この通りだがね。」

 

「シオ!!…っ!!?!?」

 

 ペイラーの目に『黒い何か』に張り付けにされたシオが映る。だが、張り付けに使われた『黒い何か』を理解した途端、ただでさえ見開いていた目が、驚愕で限界以上に見開いた。

 

「こ、これは!!そうか…あの事故で、何故彼女の死について詳しい記録が残っていないのか…何故遺体が見つからなかったのか…ようやく分かったよ…」

 

 ペイラーは何かに気が付いたのかヨハネスを睨み、責める様な目で見る。

 

「ヨハン…君は初めからこうするつもりで1度折れたのかい?」

 

「まさか…そんなはずないだろう?だが、あの事故が切っ掛けである事は事実だがね。」

 

  『ピリリリリ!ピリリリリ!』

 

 突然ペイラーの端末に着信が入る。どうやら発信者はコウタのようだ。

 

「好きに話してくれて構わないさ。何ならここに呼んでも良い。」

 

 まるで相手が誰か分かっているかのような口振りだった。ヨハネスの動向を気にしながらもペイラーは電話に出る。

 

「も、もしもし…?」

 

『あ、博…!!良か………!………た!今速報見た…だ!……グラは?……無事……?!』

 

 ノイズ混じりにコウタの声が聞こえた。全員の安否が気がかりなのか余裕の無い声色だった。

 

「シオが…シオが拐われました…」

 

『え…?』

 

「余裕がないとは言え、正直ここまで手荒な手段を取ってくるとは思っていませんでした。」

 

『……よ……?……は?!ソーマは?!他……は?!!』

 

 他の仲間の安否確認が取れずに苛立った様な雰囲気を感じたが、こちらも余裕はない。早くしなければなシオの持つ特異点を奪われる。安否確認の件を早々に終わらせてエイジスに来る事を伝えなければならない。

 

「私の知る限りでは皆無事です。」

 

『……!!……ッ!!……聞………え!!』

 

 ノイズでほとんど聞こえない。 何時まで通話が続くか分からない。一刻も早く本題に入るべきだろう。

 

「とにかく1度合流しましょう。急いでアナグラに戻って来てください。」

 

 ペイラーの予測では要らぬ邪魔が入らないようにヨハネスの指示でエイジス島の外周は封鎖するはず。

 そうなるとアナグラ地下の搬送路を使う方法がある。その事を伝えたかったが、途中で通話が切れてしまった。

 

「さて、博士が育んできた希望達は…ここまでたどり着けるかな?」

 

 通話が終わるのを確認すると、ヨハネスがペイラーに話しかける。

 

「ああ、来るさ…彼らならきっと…ここまでたどり着ける。」

 

「ふっ…全幅の信頼を置いているようだな。だが、不思議と彼らならたどり着きそうな気がする。」

 

 ここまで来て邪魔をされる訳にはいかない。だが不思議とユウキ達第一部隊はどうにかしてここまで来るような気がする。

 

「ならば、私も迎え撃つ準備をしなければいけないな…」

 

 ここまで来て失敗は許されない。アーク計画を成功させるため、第一部隊を排除しなければならない。それが実の息子を殺す事になっても、多くの犠牲を強いた計画を今更止める訳にはいかない。

 

「それまで退屈だろう?ペイラー…準備の片手間で良ければ話し相手くらいにはなろう…」

 

 ヨハネスが作業用のゴンドラからペイラーを見下ろす。

 

「親友との…最後の語らいになるだろうからね。」

 

 そう言ってヨハネスは作業に取りかかる。今ならヨハネスの注意はシオにもペイラーにも向いていない。だが、エイジスの警備システムに使われているレーザーがペイラーの少し前に向いている。シオを奪還しようと前に出てもレーザーに撃ち抜かれる。どちらにしても50近い老体ではろくに近づく事も難しいだろう。

 どうやらペイラーもヨハネスの提案に従うしかないようだ。

 

 -神機保管庫-

 

 極東支部の地下から戻ると、リッカが新装備の説明のために第一部隊を集めた。しかし、時間が惜しいのも事実だ。取り付け作業をしながら装備の説明を始める。

 

「それじゃあ作業しながらで悪いけど、新しい装備の『制御ユニット』の説明するね。」

 

 そう言ってリッカはソーマの神機に制御ユニットを取り付ける作業に入る。

 

「制御ユニットって言うのはバースト時の回路制御装置で、神機と神機使いの双方に影響を与える装置なんだ。例えばプレデタースタイルのレイヴンはバーストするとしばらく浮いていられるでしょ?あれは、バーストしたときに活性化して神機の能力を強化する段階で、強制的に浮遊する方向に強化を制御してるの。それを応用して意図的に、ある程度自由に制御するのがこの制御ユニットってわけ。」

 

「なるほど。要するにバースト時の能力強化を自分のスタイルに合ったものに変えられるって事か。」

 

 そこまで聞くと、ソーマは大方理解したようで、自分なりに考えをまとめてリッカに確認する。

 

「そう言うこと。で、バーストすると腕輪を介して神機使いの身体能力も強化されるでしょ?その辺りも腕輪を介して体内のオラクル細胞を制御して神機使いの身体能力もイジルれるってわけ。」

 

 『ここはまだ理論上の話だけどね。』とリッカは最後に付け足す。制御ユニットも、現状は最低限の運用が可能な所まで漕ぎ着けた段階だ。まだまだ改善の余地はあると言う事だ。

 ざっくりと制御ユニットの説明を聞き終わると、コウタが『そうか!』と言いながら得意気な顔で両腕を組む。

 

「ナルホドワカラン!」

 

「まあ…でしょうね…」

 

 ドヤ顔で分からない宣言をしたコウタを『ああ、やっぱりな。』と思いながら、アリサはジト目でコウタを見る。

 

「難しく考える必要はないわ。ソーマも言ったように、自分の戦い方にあったバーストスタイルに出来るって思えば良いわ。」

 

 理解が追い付いていないコウタにサクヤがフォローを入れる。コウタはそれを聞いて理解はしたようだが、新しい疑問が浮かび、再び頭を捻り出した。

 

「ウーン…でも旧型銃身神機の俺達には使い道が無いんじゃない?」

 

「そこはリンクバーストがあるから関係ない何てことないよ?」

 

 確かに旧型銃身神機使いは自らバーストすることは出来ない。しかし、リンクバーストでバーストする事は出来るとユウキが指摘する。とは言えバーストする機会が少ないのも事実で、コウタ自身もその事を忘れてしまっていたようだ。

 

「あ、そうか!スッカリ忘れてた…」

 

「さ、後の作業はこっちでやっておくから、作戦会議でもしてきなよ?大体30分位で終わるから、その頃にはエントランスに居てね。」

 

「うん。後は頼むよ。」

 

 残りの作業をリッカに任せて、第一部隊は作戦会議のためエントランスに向かった。

 

 -エントランス-

 

 第一部隊とツバキが集まり、任務の確認をしている。世界中の人々の命を奪う事になるアーク計画を止める重要な任務だ。全員が真剣な表情をしている。

 

「さて、全員居るようだな。今回のアーク計画…本部長に確認を取ったところ支部長の独断専行だと判明した。が、本部の人間にもこの計画に関わっていた者がいたようだ。」

 

「?…その言い方だと本部長は関わっていなかったみたいですけど…?」

 

 ユウキの読みでは、アーク計画の発案と実行はヨハネスの判断で、本部の人間全員がそれに便乗したのだと思っていた。しかし、ツバキの言い方から察するに、ユウキの読みは外れていたようだ。

 

「その事については本部長の事を話しておかねばならん。私も詳しくは知らないのだが、本部長は何かの病気を患っていてな…その病が数年のサイクルで悪化し、治療のため半年から1年程フェンリルの運営に関われない事がある。」

 

「なるほど。丁度今がその時だったと…」

 

 これで半ば合点がいった。普段権力を行使出来ない人間が世界で最高の権力を手に入れて暴走したと言ったところか。ユウキはかつてリンドウに言われた『経験にそぐわない力は危険だ。』と言う言葉を思い出した。

 この本部長代理の件は、状況や力の意味合いはリンドウの話とは違うが、身に余る力は人の心さえ変え、自らを破滅させる典型的な例と言えるだろう。

 

「そうだ。その間は本部長代理がフェンリルの運営をしているのだが、この本部長代理がアーク計画に加担していたようだ。」

 

 ユウキの言葉を聞くと、大方理解したと感じてツバキは話を続けた。

 

「リンドウ捜索の早期打ち切り、任務履歴の改竄黙認、そして外部居住区や他支部への食糧を始めとした物資供給の低減…自身の身の安全や豪華絢爛な生活のため、影でかなり好き放題やっていたようだ。事実、この2人の方針の違いのせいでフェンリルの評価は両極端になっているからな。」

 

「信じられません…周りも周りで、何で止めないですか…!」

 

 アリサが蟠りを隠すことない声色で不満を漏らす。この場に居る者が誰もが抱くであろう疑問だった。それを聞いたツバキがその疑問に答える。ツバキの話によると、本部長はまともらしい。

 

「上手く隠れて悪事を働いていたのだろう。それに、仮に誰かに知られたとしても、事実上フェンリルのナンバー2な上に相当な切れ者だ。状況次第ではフェンリルを乗っ取る事も可能な人物相手に、喧嘩を売る事などそうそう出来んだろう。だが、アーク計画を阻止すれば査問委員会に掛けられるのは間違いない。本部長代理もそれでお役御免と言うわけだ。」

 

 本部長代理の悪事は既に知られている。アーク計画を止めれば立場を利用して好き放題してきた事を隠しきる事は不可能になり、周囲から糾弾されるのは火を見るより明らかだ。

 

「話が逸れたな。本部からの辞令で、この支部の統括権は私に委託された。次の支部長が決まるまで、私が支部長代行となる。異論は無いな!」

 

 全員が頷く。ツバキがそれを見届けると任務内容を告げる。

 

「よし。では支部長代行として命令する!ヨハネス・フォン・シックザールをこのアナグラに連れ戻せ!!だが、アーク計画の完遂を前に我々を妨害してくる事も考えられる。強行手段を取っても構わん!アーク計画を阻止してくれ!!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 元よりアーク計画を止めるつもりでここに残ったのだ。今更迷うような事はない。全員が勢いのある返事をする。

 

「では各自準備を怠ることのないように!」

 

 その言葉を最後に、第一部隊は各々準備を始めた。それを見届けるとツバキは地下に向かい、エイジス島へのゲートを開けに行った。

 

 -5分後、自室-

 

 アーク計画を止めるため、ヨハネスとの決戦に向けて準備をするはずだったが、自室で消耗品の回復錠とホールドトラップを補充するとやることが無くなった。

 取り合えず自室からエレベーターに乗ってエントランスに向かう。エレベーターの扉が開くと、眠っているエリナを背負ったエドワードが立っていた。

 

「エドワードさん?」

 

「やあ…神裂君…か…」

 

 このとき、ユウキは極東支部の地下で『アナグラに残っているのはアーク計画反対派と外部から方舟に乗る者だけだ。』とツバキが言っていた事を思い出す。エドワードかここに来るとしたら、アーク計画に乗るためだろう。

 

「もしかして、アーク計画に?」

 

 特に何かを意図したわけでもなく、自然に出てきた言葉だった。しかし、それを聞くとエドワードはどこか悲しそうな表情になった。

 

「…エリックを失い、ずいぶん前に妻もアラガミに殺された。私にはもうエリナしかいないんだ。エリナだけは…失いたくはないんだ…」

 

 これまで気丈に振る舞っていたエドワードだが、エリックや妻の死を未だに引きずっているようだ。

 アーク計画の目的を知り、自身とエリナへの救いを見出だしたようだ。

 

「…残念ですが、貴方の望んだ世界にはなりません。アーク計画は間違っている。だから俺たちが潰す…恨まないで下さいよ?」

 

 ユウキが少し困った様な顔で笑う。すると、エドワードは小さくため息をつきながら、これまた困った様な顔で笑いながら話を続けた。

 

「恨みはしないさ…それが君の答えなのだろう?ただ、酷く自分勝手とは思わないのかい?これで救われる人がいるのも事実だろう?」

 

「人は本来自分勝手だと思いますよ。大勢を犠牲にしてでも生き延びる道を選ぶ者もいればそれを間違いとして救済の道を閉ざそうとする者もいる。どっちを選ぼうが正義でもなければ悪でもない。なら、後は個人で作り上げてきた価値観に従うだけです。」

 

 自身の答えを導く過程で、多くの意見を聞いたユウキのたどり着いた考え方だった。大衆を殺してでも生き延びる者も、そんな人々を犠牲に出来ないと残る者も、結局の所自身の勝手な価値観に従ったにすぎない。言い換えれば『自分の思う正義』に従ったとも言える。

 それは自分勝手な事だとは自覚している。しかし、それでも犠牲にさせられる人々を見て見ぬふりは出来なかった。だからアーク計画と敵対する道を選んだのだ。それが傲慢だと、偽善だと、自分勝手な奴だと罵られる覚悟は出来ている。自分のエゴを押し通す決意は固まっている。

 

「そうか…だが残念ながら、君の考えではその後が不明瞭だ。そこに全てを失う可能性があるなら、少しでもその可能性が低い方を取るのが普通だと私は思う。」

 

「計画を潰してはい終わり…なんて事にはしないつもりですけど…明確なビジョンが無いと言うのは確かに痛いですね。でも、計画を潰せばそれを考える時間もできるので、その時に考えます。」

 

 ビジョンが無い…とは言ったが、アーク計画を潰した後に目指したいモノはある。問題はその方法が思い付かないと言う事だ。楽観的ではあるが、そこは計画を潰した後にゆっくり考えようと言うのがユウキの考えだった。

 

「そうか…そろそろ行かねば。それじゃあ…さようなら。」

 

「またお会いしましょう。」

 

 互いに違う意味合いの別れを告げて、ユウキはエントランスに降り、エドワードはエレベーターに乗り込んだ。

 

 -エントランス-

 

 エドワードと別れた後、下階に降りると作戦会議の時には見かけなかったヒバリが独りで端末を操作しているのが目についた。

 

「ヒバリさんは行かなかったんですね。」

 

 集中していたのか、ユウキが話しかけると驚きながらユウキの方を見た。

 

「はい。私もアーク計画が正しいとは思えなかったので…それに、私の仕事は神機使いの皆さんをサポートする事です。私が信じるゴッドイーターはいついかなる時でも、人類の守護者です!戦いに行くゴッドイーターが居るのなら、最後まで全力でサポートします。」

 

 彼女も彼女なりに考えた結果の結論なのだろう。何処となくリッカと似た様な理由で残るようだ。

 

「じゃあ、今回の作戦もサポートお願いしますね。」

 

「はい!任せて下さい!」

 

「…っ!」

 

 ヒバリが弾けるような笑顔を返すとユウキの顔が赤くなる。だが、すぐに我に返りヒバリの言った事を思い出す。ヒバリの返事を聞く限りでは、最後までサポートをしてくれるようだ。今回の戦いでもヒバリのオペレートに期待できそうだ。

 そんな話をしていると、上から『よう!』と言う聞きなれた声と共にコウタが降りてきた。

 

「何か…決戦前なのに大して準備することもないな。」

 

 コウタが退屈そうに両腕を頭の後ろで組んでいる。やや緊張感に欠ける雰囲気だなとユウキは思ったが、このくらいの方がガチガチに緊張するよりはいいだろうと思っていると、再び上から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「まったく…緊張感無さすぎですよ。」

 

 今度はアリサが降りてきた。緊張感の無いコウタの様子に呆れた様な表情で苦言を呈する。しかし、そんなアリサの物言いにカチンときたのか、コウタが噛みついてくる。

 

「そう言うアリサだって暇そうじゃんか!」

 

「私はずっと前から準備してただけですぅ!」

 

 アリサが『ベーッ!』と舌を出してコウタを小バカにする。それを見たコウタが煽られて再び噛みつくという2人のやり取りを見ていると、仲が良いのか悪いのか分からない兄妹(姉弟)喧嘩にも見える。ユウキが苦笑いしながら止めるべきか悩んでんでいると、今度はソーマとサクヤの声が聞こえてきた。

 

「決戦前だってのに余裕過ぎだろ…」

 

「フフッ…でもこのくらいの方がリラックス出来ていいんじゃない?」

 

 呆れている様子のソーマと微笑んでいるサクヤが2人が降りてきた。だがサクヤの言う通り、重要な任務を前に緊張しているよりはリラックス出来て良いとユウキも思っていた。

 

「ですね。それにしてもコウタ…よく戻ってきたね。」

 

「うん…スッゲー悩んだけど、あのまま方舟に乗ったら、ノゾミや母さんはきっと2度と笑ってくれないって…そう思ったんだ。」

 

「コウタ…」

 

 カエデやノゾミがコウタの笑顔を見られるのならそれで十分幸せだと言っていたように、コウタも彼女達の笑顔を見られるのならそれで十分幸せだ。

 決して皆を犠牲にしてでも安全な世界に行く事が幸せではないと気付かされたからこそ戻って来たと、コウタは真剣な表情で語っていた。

 

「それにさ、俺はノゾミの兄ちゃんなんだぜ?!やっぱり自慢出来る兄にならないとな!!」

 

 さっきまでは真剣な表情だったのに、突然にやけ面になる。結局最後はノゾミに良いところを見せたいと言う所に行き着くようだ。

 まあ、コウタらしいと言えばらしいだろう。

 

「結局そこなんだね…」

 

「シスコンもここまで拗らせるといっそ清々しいですね。」

 

「あれ?これって俺今ディスられてる?」

 

 コウタが家族を大事にしているのは分かるが、『ちょっと』度が過ぎでいる気がすると、ユウキとアリサが若干引いている。

 それを感じ取ったのか、コウタが微妙にジト目になってユウキとアリサを見た。

 

「決戦前に雑談か?何ともまあ…締まりのない連中だ。」

 

 最後にツバキが降りてきた。大事な任務を前に雑談をしていると言う緊張感の無い光景に、思わず苦言を呈する。しかし本気で呆れているわけではなく、取り合えず注意しておくかと言った 程度のものだった。

 

「それが俺達の強みでもありますからね!」

 

「フッ…まあ、変に気負いするよりはいいか。」

 

 ユウキが微笑みながら軽口を返すと 、ツバキが『仕方ないな』と言った具合に微笑む。ユウキ達も感じているが、緊張して体が堅くなるよりは少し場の雰囲気が和んでいる方が気持ちにも余裕ができ、力が適度に抜けてより動きやすくなる。特に意識したわけでもなく自然とこんな空気になる辺り、第一部隊の雰囲気は大分変わったと言えるだろう。

 そんな中、上の出撃ゲートが開く音が聞こえてきた。その後 、リッカが下階に降りてきた。

 

「お待たせ。調整、終わったよ。」

 

「おお!待ってました!」

 

 コウタが右手を左手に『バシンッ!!』と打ち付けて気合いを入れる。気合い十分なコウタを見て、リッカが最後にもう一度制御ユニットの説明をする。

 

「一応制御ユニットの説明をおさらいするね。説明ユニットバースト時の能力強化を制御して、自分の戦い方に合ったバースト能力が得られるようにした装置だよ。今はユウとソーマには刀身の攻撃性能を上げる『ソルジャー』ってユニットで、サクヤさん、コウタ、アリサがバレットの威力を上げる『ガンナー』を装備してあるよ。試作品として作ったのだから、今はこれしかないけどね。」

 

「いや、十分だよ。ありがとう、リッカ。」

 

「どういたしまして。最高の状態に調整しといたから、思いっきり暴れちゃって!」

 

 これで全ての準備が整った。ここからは戦場に出て戦うゴッドイーターの仕事だ。

 

「…いよいよだな。」

 

「ええ…支部長を止めて、シオを救いましょう!きっとリンドウも…同じ事を言うはずよ。」

 

「シオと博士を助けるには…どうやら俺1人の力では難しいようだ…頼む!力を貸してくれ!」

 

 シオを救い、博士を救い、ヨハネスの狂行を止めてこの世界を生きる人々救う。そうなるとこの戦いは独りでは勝ち目はない。ソーマが軽く頭を下げて頼み込む。

 

「おうよ!」

 

「当然です!」

 

「もちろんよ!」

 

「うん!俺たちの生きてきた世界!その世界で生きる人たち!そして博士とシオ!!全部守り抜く!行くぞ!!」

 

 ユウキの言葉を最後に、ゴッドイーター達は救済のために奪われようとしている未来を守り、勝ち取るために走り出す。

 

「ご武運を…」

 

「必ず…無事に帰ってきてね…」

 

「…世界を…人々の未来を…頼んだぞ、ゴッドイーター…」

 

 走り出したゴッドイーター達を見送る3人はそれぞれ複雑な思いを胸に第一部隊を見送った。

 

 -エイジス-

 

 特に妨害もなく、第一部隊は搬送路をバギーで走り抜けると極東支部の地下にあったものと同じゲートが現れた。これを同じ方法で開けるとエイジス内部に潜入する。

 ここからはバギーを降りて、自らの足でエイジス中央管制塔の頂上まで登ると、以前サクヤとアリサが来た円形のステージにも見える塔の頂点に出た。

 すると、反対側に巨大で逆さまになった人の顔が目に入る。

 

「こ、これは…!」

 

「で、でかい!」

 

 逆さまになった人の顔を中心に、頂点の上空をほとんど覆い隠す巨大な何かに思わずアリサとコウタが驚きの声を上げる。

 確かにその巨大さには驚いたが、ユウキは別の理由で言葉を失った。

 

(アイーシャ…さん?)

 

 逆さまになった顔がアイーシャと同じ顔をしていたからだ。どういう事なのか理解が追い付いていないまま混乱していると、不意にサクヤが声を上げる。

 

「あれ!!」

 

 サクヤがアイーシャの額付近を指を指す。その方向を見るとシオが額に張り付けにされている。さらには視界の端に入り口の高台から降りたことろにペイラーも立っている。

 

「博士!!シオ!!」

 

「みんな!!来てくれたんだね!!」

 

 ソーマの声が届いたのかペイラーがユウキ達の方を向く。何か焦りを見せながら声を荒げる。

 

「頼む!!急いでシオを助けてくれ!!」

 

「けど…一体どうやって?!」

 

 助けたいのは山々だが、人では届かない高所に張り付けにされているため、どうやって助ければ良いか分からず、コウタは声を濁す。

 

「涙のたむけは、我が渇望するすべてなり …か」

 

 作業用の ゴンドラに乗り、シオの隣にいたヨハネスが突然詩的な表現でソーマに語りかける。

 

「ソーマ…このアラガミと 随分仲が良かったようだな。それは愚かな選択と言うものだぞ。息子よ。」

 

「黙れ!!てめえを親父と思ったことなんざ1度もねえ!!シオを解放しろ!!」

 

 その言葉を聞くとヨハネスは満足そうな笑みを浮かべて答える。

 

「よかろう…特異点が手に入った今、器などに用はない。」

 

 その瞬間、シオがピクリと動くと、アイーシャの額を始めとした透明な部分から橙色の光を発する。

 すると、シオが額からずるりと引き抜かれて頭から落ちていく。

 

「シオォォォオ!!」

 

 ソーマが神機を投げ捨ててシオを受け止めようと走る。しかし、それを警備システムが返り討ちにしようとレーザーを放つ。

 

「させるか!!」

 

「やらせねえ!!」

 

 ユウキが即座に銃形態に変形してレーザーにオラクル細胞の太いレーザーを撃ち込んで相殺する。その後コウタが警備システムのレーザー砲を破壊する。

 これでソーマを阻むものは無くなった。ソーマはシオの元に全力で走る。なおもシオは地面に向かって落ちる。もうすぐでシオに手が届く。ソーマは飛び込んでシオを受け止めようとする。

 

  『ゴツッ!!』

 

 しかし、僅かに届かず鈍い音と共にシオは頭を地面に打ち付けた。シオを受け止める事に失敗したソーマが意気消沈したソーマがゆっくりとシオを抱き抱えた。

 

「てめえ…!!」

 

 ユウキの只でさえ低い声が一層低くなり、怒りを宿した目でヨハネスを射抜く。

 

「長い…実に長い道のりだった 。年月をかけた捕食管理によりノヴァの母体を育成しながら…世界中を駆けずり回り、使用に耐えうる宇宙船をかき集め…選ばれし1000人を運ぶ計画が今!この時をもって成就する!!」

 

 声を大きくして語るその姿はまるで政治家の演説のようだった。だが、自身のやっている事が正しい事だと信じているからこそここまで自信に満ちた様子で語ることが出来るのだろう。

 

「今回こそ私の勝ちだよ!そうだろう?ペイラー!」

 

「どうやら…そのようだね……」

 

 遂にペイラーは自らの負けを認めた。しかし、この期に及んでヨハネスが勝ち負けと言う所に拘るのは、未だにペイラーをライバル視していたからかもしれない。

 

「我々はこの一瞬ですら、存亡の危機に立たされ続けているのだ。日々世界中で報告されているアラガミによる被害などまだ緩やかなものだ…星を喰らうアラガミ…ノヴァが出現し破裂すれば、その時点でこの世界は消え去るのだ。」

 

 ペイラーの敗北宣言に気を良くしたのか、再び声を大きく演説のように語り始める。

 

「そのタイミングは いつだ?数百年後か?数時間後か?!やがては朽ちるエイジスに身を隠して終末を待つなど…私はごめんだ!!避けられない運命だからこそ、それを制御し!!選ばれた人類だけを次世代に残すのだ!!」

 

 結局ヨハネスも死ぬことが恐ろしいだけだったのかも知れない。どうせ助かるなら助けられる人は一緒に助けよう…そう思った事がアーク計画の発端なのだろう。

 確かに合理的で現実的だ。助かる側の人間は確実に命のやり取りのない平和な世界で生きられる。だが、助からない側の人間にとっては『お前を助ける気はない。だから死ね。』と突然言われる様なものだ。自分がその立場なら納得出来ないし、認める事など出来はしない。

 だからそんな人達のために戦う。ユウキは自らの決意をもう一度強く意識して戦いに備える。

 しかし、次にヨハネスから発せられた言葉で第一部隊は動揺する。

 

「君が特異点を利用して行おうとしていたことも、結局は終末遅らせることしかない。違うかね?博士…」

 

「どうかな。」

 

「一体…何の事ですか?博士!!」

 

 ペイラーは終末捕食を防ぐ気は無かったのかと疑問に思ったサクヤがペイラーを問い詰める。

 

「私は…限りなく人間に近いアラガミを生み出すことで、『世界を維持』しようと考えたんだ。完全に自律し、捕食本能をもコントロールできる存在として育成していく事で、終末捕食の臨界寸前で留保し続けようと考えた。そしてそのために、シオと君たちを利用してしまった…許してくれ。」

 

「アラガミとの共生か…昔からそうだ。君は科学者としては随分とロマンチスト過ぎる。人間の行いを見れば分かるはずだ。欲望を、本能を押さえ込んだ真に自律的な人間など、これまで一人として存在しなかったことを!!」

 

 ヨハネスの言う通り、人間の意思など脆く弱いものだ。これまで邪な欲を押さえ込み、制御出来た人間など歴史上に誰一人とは居ない。

 それに欲望とは邪で歪んだ物でなくても人が生きていくのに必要なものだ。それを押さえ込み、制御すると言う事は、極端な言い方をすれば『考える事を辞めた廃人』あるいは『感情の無いロボット』とも言えるだろう。

 

「そうかもしれない…でもそう言う君も、人間に対してペシミスト過ぎたんじゃないかな?」

 

「少し違うな博士。確かに私は人間と言う存在自体にはとうに絶望している。だが私は知っているのだ…それでも人は賢しく行き続けようとしてきたことを…アラガミやノヴァと何ら変わらない…その本能、飽くなき欲望の先にこそ、人の未来も拓かれた事を!!」

 

 アイーシャが自らの命を犠牲にしてでも見出だした希望も、人間達は自分の欲望のためにだけ使い、協力してアラガミとの戦う処か、本能に従い未だに同じ人間同士で奪い合いをしている。

 しかし、そのような欲望があったからこそ、人間はここまで高度に発展をしてきた事もまた事実だ。

 

「これ以上は平行線だね…ともあれ、シオのコア…終末捕食の特異点が摘出されてしまっては…もう私に打つ手はない…」

 

「私を欧州に仕向けてまで時間を稼ごうとしたようだが、勝敗は既に決していたのだ。」

 

「フッ…やはり気付いていたのか…どうやら時は、君に味方をしてしまったようだね。」

 

 ペイラーが自嘲的な笑みを浮かべる。ここまでハッキリと負けたと実感したのは初めてなのだろう。

 

「そう悲しむことはない。この特異点は、次なる世界の道標としてこの星の新たな摂理を指し示すだろう。それ定められた星のサイクル…言わば、神の定めたもうた摂理だ!そして、その摂理の頂点居るものは、来るべき新たな世界にあっても、『人間であるべき』なのだ!!そう!!人間は…いや、我々こそが!!『神を喰らう者』なのだ!!」

 

 神が与えた人類が滅ぶ摂理さえもねじ曲げ、人類が居ないはずの新たな世界で再び頂点に君臨し続ける。まさしく人類こそ神を超える存在だと、そう語る間に管制塔の外側にサナギの様な物が競り上がる。そのサナギが開くと、アイーシャによく似た女性型の女神と手鏡に獣の様な腕を生やし、フェンリルのエンブレムと同じ顔が着いた男神の2身1対のアラガミが現れた。

 その全容が現れると、作業用のゴンドラをアラガミの真上に移動させ、ヨハネスはゴンドラから飛び降りて、後にアルダ・ノーヴァと呼ばれるアラガミに自ら取り込まれた。

 

「人が神となるか、神が人となるか…この勝負、とても興味深かったけど…敗けを認めるよ…今や君はアラガミと変わらない…でも君は、それも承知の上なんだろうね。科学者が信仰に頼るとは皮肉な事だが…今は、君たちを信じよう…ゴッドイーター達よ…」

 

 そう言ってペイラーは下がる。このままここに居ても邪魔になると判断したのだろう。それを見届けると、ユウキはソーマの神機を掴んでソーマの足元目掛けて投げつけた。

 

  『ギィン!!』

 

 神機が高い音を立てて床に突き刺さる。その音を聞くと、ソーマはユウキ達の方を向く。

 

「行くぞ、ソーマ…この戦い…お前の力が必要だ。支部長を倒して、計画を止めるぞ。」

 

 ユウキの言葉を聞くと、ソーマはシオをゆっくりと寝かせて神機を掴んで引き抜く。そしてユウキ達の元に戻る。

 

「リンドウ…見てる…?やっとここまでたどり着けたわ…ここにいる皆のお陰よ…」

 

「…俺、これまでずっと、家族や皆が安心して暮らせる居場所を、誰かが作ってくれるのを待ってたんだ!でも気づいたら簡単なことだった…自分がその居場所に なれば良いんだって!!それを作るために…俺は戦う!!」

 

「私も…皆がいたから気づけたんです。こんな自分でも、誰かを守れるんだって…」

 

「おしゃべりはここまでだ…お前ら…背中は預けたぜ?」

 

「ああ…やろう!俺達が生きてきた証を刻んだ世界を…これから皆と生きていく世界と人々を!絶対に守り切るぞ!!」

 

 第一部隊が決意をそれぞれ語り、臨戦態勢に入る。アラガミとなったヨハネスも自らの意思と正義を貫くため、決着をつけるつもりのようだ。

 

「降り注ぐ雨を…溢れだした贖罪の泉を止めることなどできん…その嵐の中、ただ1枚の舟板を手にするのはこの私だ!!!!」

 

「いいや!!犠牲を強いて、自分だけ助かろうとする貴方は間違ってる!!こんなクソッたれな世界でも生きようとする者は居る!!そんな人とも!そうでない人とも!皆と共に俺達はこの世界で生きる!!行くぞ!!!!」

 

 ユウキの咆哮にも思える叫びを合図に、第一部隊はアルダ・ノーヴァに向かって行った。

 

To be continued




後書き
 リッカの作ってた新装備は制御ユニットのことでした。ここでの制御ユニットはリザレクション仕様ではなく、バースト仕様です。個人的には制御ユニットはリザレクションよりバーストの仕様の方が好きです。
 次回、アーク計画編最終決戦です!!9割戦闘なので頑張ります!!
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