GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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「少年よ…これが絶望だ。」


mission65 絶望

 -食堂-

 

「おかしいです…」

 

 リンドウの捜索が再開されてからはや1週間、女性神機使い達が少し遅めの昼食を摂っている中、アリサの機嫌は悪かった。

 

「どうかしらね?あのくらいの歳の子ならフラッと出ていく位ありそうだけど。」

 

「1度や2度なら気にしなかったかも知れませんが…ここ1週間毎日朝帰りですよ?!絶対何かおかしいです!!」

 

 リンドウの捜索は多くの神機使いが捜索に出ているにも関わらず、成果はないと言える状況だった。その事に苛立ちを覚えてはいるのだが、それ以外にもユウキが毎日朝帰りをしている事が気になっていた。

 あの歳の男子ならば普通の事ではないかと言うサクヤに対してアリサはどうにも納得いかない様子だった。

 

「うーん…ユウの事だから、何があっても大丈夫だとは思うけど…何も言わないのは確かに心配ね。」

 

 ユウキの腕っぷしの強さは全員がよく知っている。そのため、誰かに絡まれても撃退出来るだろうが、何も言わずに出ていかれるとやはり心配にはなる。

 

「あ!!もしかして『彼女』が出来たんじゃないですか?」

 

「…え?」

 

 心配するサクヤの声をに反してカノンの爆弾発言にアリサが固まり、サクヤはマズいと言いたげな表情になる。

 

「あ、あり得ません!!そんなはずないです!!」

 

 彼女が出来て朝帰り…つまりは『そう言うこと』をしてきたと思い、アリサは羞恥と信じたくない気持ちから真っ赤になって反論する。

 

「でもあの子、押しに弱くて可愛い系の顔だし…年上のお姉さんに人気ありそうだけど?」

 

 今まで特に興味が無さそうに黙っていたジーナがユウキの外見と中身を考えて、どんな人に人気が出そうか話していく。

 

「居住区でお姉さんに声をかけられてそのまま2人で…なんて事があったかも知れないわね…」

 

「なっなっ…!!」

 

「あわわわ…」

 

 何があったのか、自分の予測で話していくジーナの声は情事を連想させる様な艶やかな声色で情欲的な雰囲気を出していた。

 何があったのか想像したアリサ真っ赤になって口をパクパクと動かして言葉にならない声を上げ、事の発端となった発言をしたカノンはそんな事まで考えてはいなかった様で、アリサと同様に真っ赤になってパニックになっていた。

 

「私もあの子がフリーなら狙ったわ。」

 

「ダ、ダメです!!絶対ダメです!!」

 

 ジーナがユウキを貰うと言うと、アリサは声を荒らげてダメだと言って必死に止める。

 

「フフッ冗談よ。確かにあの子は魅力的だけど、今は戦場での命のやり取りに夢中だもの。」

 

 悪戯な笑みを浮かべるジーナを見ると、アリサは気が抜けた様に肩を落とす。

 

「もう…そうやってアリサに意地悪しないでよ?後から落ち着かせるの大変なんだから…」

 

「フフフ…ごめんなさい。ムキになって反応するから、つい…ね。」

 

 やはりただからかっていただけのようだ。ユウキの事で暴走したアリサを影で落ち着かせてるサクヤにとっては、意図的に暴走させられてはたまったものではないと言うのが本音だった。

 そんな中、突然4人を呼ぶユーリの声が聞こえてきた。

 

「あっ!!アリサさん!!カノンさんにサクヤさんにジーナさんまで!!今お昼ですか?」

 

「はい。もう終わりそうですが…」

 

 そこにはユーリ、アネット、フェデリコのルーキー3人がトレーを持って立っていた。

 ユーリの質問に申し訳なさそうに話すカノンの元にはほとんど空になった皿が置かれてある。他の人も同様に、もうほとんど食べ終わっている様だった。

 

「じゃあ途中までご一緒してもよろしいですか?」

 

「はい、いいですよ。」

 

 同席の許可がアリサから出ると、ユーリは小さくガッツポーズをしていた。当人は上手く誤魔化しているようだったが、端から見るとバレバレだった。

 

(前途多難…ね…)

 

(モテるわねぇ…アリサ本人は気付いてないみたいだけど…)

 

 そんな様子を見てサクヤとジーナは似たような事を考えていると、カノンが3人に話しかける。

 

「3人は任務だったんですか?」

 

「はい。神裂先輩と俺たち3人でシユウの討伐任務に。何とか3人だけで倒せましたよ。」

 

 どうやら3人だけでシユウを倒してきたようだ。その時の様子をフェデリコが話していく。

 

「確かこっちに来てから1ヶ月位でしたよね?凄い速さで強くなってますね!」

 

「いやぁ、僕たち3人ともここに来る前に基礎訓練と演習は済ませてあるので、実質2ヵ月ちょっとってところですね。まだまだ精進しないとあっという間に周りに置いてかれちゃいます。」

 

「それでも十分に早いですよ。自信を持って良いと思います。」

 

「ありがとうございます。」

 

 極東支部に来る以前に行った基礎訓練や演習の分を入れると、新人3人は既に2ヵ月程神機を握って戦っている。その事を考えても、連携を取って中型種を倒せる様になっている辺りその成長速度は侮れないものだ。そこを素直に誉められてユーリは何処か嬉しそうだった。

 そんな中、ユーリはユウキが食堂に入ってきたのを見つけた。

 

「あ、神裂先輩!!」

 

「ユーリさんケガしてるじゃないですか!!」

 

 手を振っているユーリの右腕には包帯が巻かれていた。それに気が付いたアリサが思わず声をあげる。

 

「え?ああ、でも大したケガでもないですし、神裂先輩に応急処置はしてもらいましたので特に問題は…」

 

「ダメですよ。オラクル細胞による攻撃を受けたのなら、ちゃんと除染処置もしないと。傷口からアラガミのオラクル細胞が入り込んで身体に異常が出るケースもあるんですから。」

 

「は、はい…じゃあお昼の後に行きます。」

 

 傷口からオラクル細胞が入り込むと、今のユウキと同じ様に身体に2つのオラクル細胞を宿す事になる。放っておけばアラガミ化や内側から喰われて肉塊になる。

 幸い、ユウキのように偏食因子を取り込んだユウキと違い、オラクル細胞は偏食因子程小さくない上、オラクル反応で追うことも出来る。直接摘出も可能な上、どのアラガミの細胞を取り込んでしまったか分かれば沈静化も可能だ。

 しかし、それも取り込んでから然程時間が経っていなければの話だ。時間が経ってしまえばオラクル細胞による侵食が進んでしまう。そうなると治療も出来なくなるので、アリサは早く治療に行くように言っているのだ。

 

「もう…」

 

「…ここにいたんだね。探したよ。」

 

 ユーリ達の元に行く途中にもユーリの世話を甲斐甲斐しく焼くアリサの2人が見えていた。それを見てから『何だろう…モヤモヤする?何か変な感じだ…確かリンドウさんの神機を使ってから初めて自分の神機を使った時もこんなだったような…』と思っていた。

 

「ユウ!!ちゃんと除染処置をするように言ったんですか?ユーリさんまだ医務室に行ってない見たいですけど?」

 

「え?まだ行ってなかったの?」

 

 ユウキ自身は帰ってきたらちゃんと除染処置をするように言ったはずなのだが、未だに医務室に行ってない事に驚いていた。

 

「あ、えっと…私のお腹が鳴っちゃって…それでご飯を優先してくれたんです…」

 

 『あはは…ごめんなさい…』とアネットが苦笑いしながら説明する。

 

「そっか…除染処置は大事だから、次からは気をつけて。」

 

「はい。」

 

「となると、除染処置の事も考えると…1時間…いや、1時間半後に次の任務だ。この任務では君たちが一人前になれたかをテストする。」

 

 ともかくオラクル細胞を取り込んでしまったかの確認はしなければならない。医務室に行くようにもう1度言うと、ユウキはユーリ、アネット、フェデリコに次の任務の予定を伝える。

 

「それって…もしかして…」

 

「ああ。3人だけで大型種の討伐だ。俺も万が一に備えて同行するけど、君たちなら出来ると判断した。期待してるよ。」

 

 その目的は新人達が1人でも任務をこなしていけるのか、実力を図るものだった。新人達が期待と不安が入り交じった声色で任務の確認する中、伝える事を伝えると、ユウキはそのまま踵を返してしまった。

 

「あれ、先輩ご飯は…?」

 

「先に報告書を済ませるたいから後にするよ。任務には間に合わせる。気にしないで。」

 

 アネット達はユウキと昼食を摂るつもりだったが、やることを済ませてからと言うと今度こそ食堂を出ていった。

 

「あっ!!ユウ!」

 

 アリサは思わず部屋を出ていくユウキを追いかけに行った。

 

 -廊下-

 

「ユウ!!待ってください!!」

 

「…何?アリサ。」

 

 ユウキを追いかけてきたアリサが話しかける。それにユウキは一瞬の間を置いて答える。

 

「…私達に何か隠している事…ありませんか?」

 

「…いや、ないよ。」

 

「…そうですか…」

 

 何処かギクシャクした空気の中、アリサが探りを入れていく。ユウキも居心地の悪さを感じながら答えていく。

 

「なら、ここ最近の朝帰りは何ですか?」

 

「…何でもないよ。アリサには関係のない事だ。」

 

 リンドウを探して見つけたとして、アラガミ化が手の施しようのないレベルまで進行していた場合、リンドウを殺さなければならない。そんな事をバカ正直に話せるはずもない。

 

「そうですか。リンドウさんを探さなければならないこんな時に、年上のお姉さんの彼女作って遊んでたんですね!!信じられません!!」

 

「なっ!!何でそうなるんだよ?!そんなんじゃないって!!」

 

 だが、食堂でユウキに彼女が出来たと言う話題になったせいもあり、アリサの中では『彼女を作って遊んでいた。』と言う結論で固まってしまっているのだ。

 当然ユウキには身に覚えのない話なので、訳の分からない疑いをかけられた事で声を大にした上に怒りを見せ始める。

 

「なら何をしてたんですか?!疚しい事をしてないなら教えてくれても良いじゃないですか!!」

 

「…それは出来ない。だいたい、何の権限があって俺の事を探ってるんだよ!!1から10まで何をしたかアリサに報告しなきゃいけないのかよ?!」

 

「そんなこと言ってないじゃないですか!!」

 

「アリサが言ってるのはそう言う事じゃないか!!」

 

 とうとうユウキとアリサで喧嘩になった。互いに大声で喧嘩している事もあり、その声は食を始め、至るところに届いていた。

 

「はいはい、2人とも落ち着いて。こんなところで喧嘩したら他の人にも迷惑よ?」

 

「「…すいません。」」

 

 騒ぎを聞き付けたサクヤが2人を止める。ここで2人は少し頭が冷えたのか、ようやく自分達の声が辺りに響いていた事に気付いた。

 

「もう…で?何があったの?」

 

 『まあ、何が原因かは分かってるけどね。』と心の内でサクヤは思っていた。大方ユウキの朝帰りの件だろうと考えていると、ユウキがいつもより低く、静かな声で答える。

 

「…何でもありません。報告書の件もあるので、これで失礼します。」

 

「あっ!!ちょっと!!」

 

 そう言うとユウキはそのままエレベーターに乗り込んで去った行った。

 

「…はぁぁぁ…やっちゃいました…」

 

「何があったの?」

 

 冷静になると同時に自身の失態に嫌気がして、アリサは思わず両手で顔を覆いその場にしゃがみこんで落ち込んだ。ほぼ何が原因か分かっているが、念のため事情を聞こうとサクヤが話しかける。

 

「…ユウの朝帰りが続く件…問い詰めたんですけど…何をしていたか話してくれなくて…挙げ句彼女を作って遊んでたと決めつけて…勝手に怒ってユウに酷い事言って…絶対嫌われてしまいました…」

 

「ユウを取られたと思って焦っちゃったんでしょ?大丈夫よ。ちゃんと謝ればあの子は許してくれるわ。」

 

「…はい…」

 

 ユウキが自分の知らないところで他の女の彼氏になったと思うとショックで思いもしない事を言ってしまった。サクヤはその事を見抜いて、責める事をせずに、謝るように促したのだ。

 しかし、これはアリサがユウキに好意を持っていることが周りにバレていると言うことだと分かり、赤面するのはまだ先の話である。

 

 -エレベーター内-

 

(マズいな…まさかもう気付かれていたなんて…)

 

 自室に向かうエレベーターの中、早くも抜け出している事がバレているのだと、心の内で焦りを感じていた。

 

(でも…伝える訳にもいかない…リンドウさんを殺さなければならなくなるかも知れないなんて…)

 

 リンドウを発見した際、取り返しの着かないところまでアラガミ化していたら、その時は殺さなければならない。未だに決心がつかない。考えたくはないが、最悪その状況も考えなければならない。

 しかし、今になってリンドウを殺す可能性を伝える事など出来るはずもない。

 

(そうならない様に…夜中にアナグラを抜け出してるんだけどな…)

 

 少しでも時間を無駄には出来ない。その為に夜中でも単独で捜索に出ているのだ。それを誤解されたのは遺憾ではあるが、正直に全て話す事は出来ない。

 

(そうだ…全部…俺が方をつければ良いだけの話だ…)

 

 ならば最悪の可能性を知っている自分が全てを終わらせるのが得策だろう。踏ん切りはついていないが、万が一リンドウを殺す様な事態になれば、誰にも知られずにそれを実行すれば良い。そうすれば皆希望を捨てずにリンドウの幻影を追い続けるだろう。それにもしリンドウを殺したとバレても自分が責められるだけの事…少し前と同じ状況になるだけだ。

 勿論そうならないのが1番良いのだが、ここ1週間で手がかりが無かった事を考えてると、もう最悪の可能性も無視できなくなってきていると、ユウキは実感していた。

 

(…アリサに謝っとかないとな…)

 

 エレベーターがベテラン区画に着いた頃、喧嘩したアリサに謝らないといけないなと考えながらエレベーターを降りて行った。

 

 -贖罪の街-

 

 ユウキとアリサが喧嘩してから約束2時間後、ユウキ、ユーリ、アネット、フェデリコは旧市街地にやって来た。

 その理由は当然…

 

「やあぁぁあ!!」

 

「せい!!」

 

「当たれ!!」

 

 極東ではルーキー卒業の目安となるヴァジュラの討伐だ。ヴァジュラはフェデリコに飛びかかってきたが、フェデリコは装甲を展開して防御する。

 そして今度は着地の隙にアネットが神機を振り下ろしてヴァジュラの前足に強打を叩き込む。

 ヴァジュラが痛みで怯んだ隙にフェデリコが装甲を収納し、袈裟斬りを繰り出し、ユーリが銃形態でオラクル弾を連続で撃ち込んでいく。

 しかし、ヴァジュラもすぐに体勢を立て直すと、アネットの方を向いて腰を落としてバチバチと帯電し始める。

 

「アネット!!一旦下がって!!」

 

「わ、分かった!!」

 

 ユーリの指示でアネットほ後ろに跳んで、ヴァジュラと距離を取る。すると、ヴァジュラは前面に雷球を1つ作り出す。

 

「電撃が来る!!フェデリコ!!アネットのフォローに!!」

 

「了解!!」

 

 フェデリコがアネットの前に立つとヴァジュラは雷球を発射する。それをフェデリコが装甲で受け止めると、アネットが後ろから飛び出して神機を振り下ろす。しかしヴァジュラは右に飛び出して回避した。

 

『成る程…やっぱり個々の状況判断能力には差があるか…単機の能力としては及第点だけど、統率者の元での連携は合格点か…ここまで見た限りではもう毎度俺が同伴する必要は無さそうだな。』

 

 ユウキは壊れた教会の上に座り込んで3人の戦闘を見ていた。ここまでの動きを見る限り、連携を前提として出現するのであればもう自分が着いていく必要は無いだろう。

 そう考えていると、状況が変わってきた。ユーリがアネットの攻撃を避けたヴァジュラを追撃しようとオラクル弾を発射するが、縦横無尽に走り回るヴァジュラを捉えきれずに苦戦しているようだ。そんな中、ヴァジュラはフェデリコの方に突進してくる。

 

「「フェデリコ!!」」

 

 しかしフェデリコは避ける様子はない。装甲を展開してヴァジュラの突進を防御すると、体を僅かに左にずらしてヴァジュラに密着する様に横を抜けていく。

 

「くらえぇ!!」

 

 装甲をしまうとヴァジュラの頭に神機を振り下ろして結合崩壊を起こす。

 

 

  『ガアァァァア!!』

 

 頭を結合崩壊させられたヴァジュラが怒りで活性化する。電撃を纏って周りに飛びかかり、3人に襲いかかる。

 

「うわっ!!」

 

 ヴァジュラはまず手始めに近くに居たフェデリコに襲いかかる。フェデリコはどうにか避けられたが、ヴァジュラはそのままアネットとユーリに飛びかかる。

 

「キャァァァ!!」

 

「ウァァァア!!」

 

 体当たりはどうにか避けられたが、ヴァジュラの纏う電撃を受けて2人は感電する。

 

「アネット!!ユーリ!!こいつ!!」

 

 フェデリコがフォローのため、モタつきながらも銃形態に変形してスナイパーの銃身から狙撃弾を撃って牽制する。

 しかし、縦横無尽に走り回るヴァジュラには思うように当たらず、結局蛇行させるのが精一杯で、ユーリとアネットへの接近を許してしまった。

 

「く、くそっ!!」

 

 このままではマズいと感じて、フェデリコは剣形態に変形してヴァジュラに向かっていく。

 

  『ガアァァァア!!』

 

「フェデリコ!!目を閉じろ!!」

 

 ヴァジュラがユーリに飛びかかる。『間に合わない』そう思ったとき、ユーリから指示が飛んできた。そしてその指示で、これから何をするかを理解して、フェデリコは目を閉じる。

 

  『バァンッ!!』

 

 破裂音と共に辺りが閃光に包まれる。スタングレネードで視力を奪われたヴァジュラは動揺して動きを止め隙ができる。

 

「今だ!!捕食して総攻撃!!」

 

 ユーリの指示でフェデリコと電撃を受けたアネットもチャージ捕食の体勢になる。3方向から捕食して全員がバーストする。フェデリコはそのまま剣形態で切り刻み、ユーリは弐式で再度捕食、アネットはチャージクラッシュの体勢になる。

 

  『ガアァァァア!!』

 

「グアッ!!」

 

 しかし、予想よりも早くヴァジュラが視力を取り戻し、さっきから切りつけてくるフェデリコに後ろ足で蹴る。辛うじて避けられたが、ヴァジュラが動かないアネットの方を向くのを許してしまった。

 

「させない!!」

 

 ユーリが足止めのためにヴァジュラの横からアラガミバレットを放つ。ヴァジュラは咄嗟に後ろに跳んだ事で、マントにアラガミバレットが当たり、マントが砕け散った。

 さらには後ろに跳んだ事でフェデリコとの距離も縮まり、フェデリコは咄嗟に神機を構える。

 

「ダァァァア!!」

 

 フェデリコが袈裟斬りでヴァジュラの後ろ足を切り落とす。ヴァジュラが足を失い、動けなくなった隙にアネットがチャージクラッシュの準備を終える。

 

「アネット!!」

 

 そしてユーリが受け渡し弾を渡して、リンクバーストLv3に引き上げる。

 

「やぁぁぁあっ!!」

 

 動けなくなったヴァジュラに、リンクバーストLv3に引き上げられた神機のチャージクラッシュが叩き込まれる。

 

  『ズガアァン!!』

 

 轟音と共にヴァジュラが真っ二つに割れたミンチになる。しばらく新人3人は倒したと認識出来ていないのか呆けていた。

 

『どうにか倒したか。これなら任せても大丈夫かな。』

 

 教会の上から戦闘を見ていたユウキはもう自分が着いていく必要は無さそうだと感じ、今後は彼らだけで任務に行ってもらおうと考えながら教会上から飛び降りて、3人の近くに着地する。

 

「3人共お疲れ様。良い連携だったよ。」

 

 ユウキの声を聞いて3人はようやく我に帰ったようだった。

 

「あ、せ、先輩…」

 

「あの、俺達…」

 

「勝ったん…ですよね?」

 

 未だに自分達だけで大型種を相手にできた事が信じられないのか、たどたどしく任務が終わったのかと聞いてくる。

 

「うん。君たち3人の力で勝ったんだ。これで3人とも一人前の神機使いだね。」

 

「や、やったよ!!勝ったんだ私たち!!」

 

「あ、ああ!!俺達の…自分達の力で勝ったんだ!!」

 

「うん!!これで…これで僕達も一人前の神機使いだ!!」

 

 ユウキの言葉を聞いて一人前となれた事に感激しているのか、3人で肩を組んで喜びを分かち合っている。そんな光景を微笑ましく思っていたユウキだった。

 

『ピリリリッ!!』

 

 だが突然ユウキの端末に連絡が入り、ユウキは意識を端末に向け、電話に出る。

 

『ユウキさん!!聞こえますか?!』

 

「はい、聞こえます。何かあったんですか?」

 

 電話の相手はヒバリだった。何やら慌てた様子だったので、用件をすぐに聴くことにした。

 

『先程、外部居住区周辺にアラガミの群れがやって来ました!!そちらは防衛班で対応しているのですが、遠方から未確認の大きなオラクル反応を示すアラガミも確認しています!!禁忌種の可能性を考慮して、ユウキさんには迎撃に出て欲しいのです!!連闘になりますが…お願いします!!』

 

「了解!!すぐに向かいます!!ナビゲートは任せます!!」

 

『分かりました!!』

 

 どうやらアラガミの群れが外部居住区に近付いてきており、防衛班がその対処をしているようだ。しかもそれとは別の未確認の反応を出しているアラガミも近付いてきている。確かに禁忌種の可能性を考えると即座に向かわないといけないだろう。

 ヒバリに現地へのナビゲートを頼むとユウキは1度通話を切った。

 

「先輩?一体何が…?」

 

 さっきまで一人前になれたと無邪気に喜んでいたアネットが何処か不安そうな面持ちでユウキに何があったのか聞いてくる。

 

「外部居住区にアラガミの群れが向かっている。すぐに迎撃に向かう!!早く車に乗れ!!」

 

「「「はい!!」」」

 

 外部居住区にアラガミが迫っている。それを聞いた3人は、思ったよりも切迫した状況だと理解して、さっきまでの浮かれた雰囲気を捨て去った。

 ユウキの指示で全員がすぐに待機ポイントのジープに乗り込み、ヒバリのナビゲートで現場に急行する。

 

「あの、俺たちは防衛任務ではどうしたら…?」

 

「いや、皆はそのままアナグラに帰投するんだ。色々と消耗した状態での連戦だと防衛班の邪魔になる。」

 

 フェデリコは現地に着いたときたの動きをどうするのかを確認したいようだ。しかし攻撃を受け、体力も消耗し、携行品もいくつか使った後では戦力としては不安がある。 

 確かに彼らは一人前と言えるほどに成長したが、まだ入り口立ったばかりだ。半人前と一人前の境目を行ったり来たりしている状態では無理をさせる訳にはいかないと言うのがユウキの本心だった。

 

「車は最後には皆に渡すから、これに乗って帰投するんだ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 3人は素直にユウキの指示に従う。正直な所、ユウキはここで自分も行くなどと言わない子達で本当に良かったと内心思っていた。

 

 -外部居住区近辺の廃工場-

 

 アラガミの群れが外部居住区に近づいてくる中、付近にある廃工場が進路にあるので、防衛班はそこで防衛線を張り、迎え撃つ作戦を展開している。そしてタツミ、カレル、シュンの3人は群れのほとんどを倒しきり、残るはコンゴウ1体となっていた。

 

「貫け!!」

 

「ダアッ!!」

 

 カレルが雷属性のバレットを撃ち込むとコンゴウは怯み、その間にシュンの袈裟斬りが決まる。するとコンゴウが大きく仰け反る。

 

「よしっ!!この調子だ!!このまま倒しきるぞ!!」

 

 その隙にタツミが身軽なショートブレードで連続切りを決めていき、コンゴウがダウンする。しかし、その視界の端に別のコンゴウか近づいてくるのが眼に映る。

 

「クッ!!新手か!!」

 

 ダウンしたコンゴウにとどめを刺す前に、別のコンゴウがタツミ達から見て右側の建物の影から現れて、タツミに殴りかかって攻撃を仕掛ける。タツミは後ろに跳んで回避すると、ダウンしたコンゴウが体勢を立て直す。

 

  『グオォォオ!!』

 

 しかし、右側の建物の影から咆哮と共に黒いハンニバルが高速で走りながら現れた。

 一瞬のうちにコンゴウとの距離を詰めると、右足を前に踏み込んで左足を前にして左フックを繰り出して、コンゴウを壁に叩き付ける。その後、間髪入れずに右足で踏み込み、右ストレートでタツミ達がダメージを与えたコンゴウを殴り飛ばす。

 だが最初に殴り飛ばしたコンゴウは即座に体勢を立て直し、黒いハンニバルに後ろから飛び掛かる。それをバク転で躱し、コンゴウと向き合うタイミングで鋭利な爪を振り下ろすと、コンゴウは一撃で爪に引き裂かれてコアごとバラバラになる。

 さらにはもう1体のコンゴウは、元々ダメージを受けていたこともあり、体勢を立て直しきれていない隙に、黒いハンニバルはコンゴウの腹部に勢い良く爪を突き立てて、後ろの壁を砕きながらコアもろともコンゴウを貫いた。

 

「おいおい、こいつは…かなりマズいぞ…」

 

「な、何だよ…この化け物…」

 

「敵は単体だ!!全員散開して逃げ続けろよ!!」

 

 タツミの言う通り、今まで相手にしていたコンゴウは黒いハンニバルが一瞬で全滅させた。残る敵は黒いハンニバルのみ。散開してしまえば逃げること自体は難しくない。動揺するカレルとシュンに逃げるように指示を出すが、それを邪魔するように黒いハンニバルは右フックを放つ。

 辛うじて後ろに跳んで躱すと、今度は右腕で凪ぎ払うように裏拳でタツミに攻撃する。それを装甲で防御するも、衝撃を殺しきれずに弾かれて後ろに飛ばされて背中から着地してしまった。

 

「うぁっ!!」

 

「「タツミ!!」」

 

 カレルとシュンが思わずタツミの身を案じる。

 

「はは…こいつは…マジでヤバいな…」

 

 起き上がるタツミと黒いハンニバルが睨み合う。追撃のため、腰を落とし始める所を見て、自身の命運もここまでかと感じていた。

 しかし、そんな中黒い人影が全速力でタツミ達の元に向かっていた。

 

『ユウキさん!!目標との接触まで、あと100mです!!タツミさん達の援護、お願いします!!』

 

「了解!!」

 

「「「ユウキ?!」」」

 

 ユウキがヒバリの通信に返事をすると、その声がタツミ達にも届く。思わぬ増援に3人は驚ていた。その間に右腕を振り上げた黒いハンニバルとタツミの間にユウキが割り込み、装甲を展開してする。

 

  『ガキィッ!!』

 

「ッ!!」

 

 しかし黒いハンニバルの拳を鈍い音と共にしっかりと装甲で受け止めた瞬間、ユウキの意識は一気に遠退いていった。

 

 -???-

 

「…ここは…何処だ?俺は…何だ?」

 

 感応現象によって、一面の雪と見覚えのある景色でユウキには全く身に覚えの無い記憶を体験する。『まさかアラガミと感応現象を起こしたのか?』と考えていると、誰かが呟く声がする。

 場所は恐らく旧寺院、声の主は他に人の気配は無い事から、このアラガミの声だろう。だが気になるのはその声がリンドウと同じ声だと言うことだ。しかも頭の中でもリンドウの声が何重にも響いて聞こえる。

 

「神機…どこやった…?」

 

 一瞬下を見ると、少し前にリンドウの神機と感応現象を起こした時に見た異形の右腕が目に入る。

 

「俺は…死んだのか…?」

 

 本殿のある上階から階段を下りて、中階に出る。どうにか歩けているが、意識がはっきりしてない上にフラフラする。

 

「そうだ…エイジス…エイジスはどっちだ…?」

 

 エイジスの事を気にした瞬間、ユウキ達第一部隊しか知らないはずのシオとの別れの場面を幻視する。

 

「あぁ…眠いな…」

 

 意識がはっきりしないと同時に異様な眠気が襲ってきた。

 

  『ドクン…』

 

 眠気に負けて意識を手放した瞬間、リンドウの中で何かの鼓動が響いた。

 

「アラガミ…?」

 

 次に意識が戻った時には、既に死体となったプリティヴィ・マータが目の前に横たわっているのが眼に映る。

 

「誰だ俺を呼ぶのは…?」

 

 エイジスから何かを感じ取り、エイジスを見た瞬間、急に意識が飛んでしまった。

 

  『ドクン…ドクン………ドクンッ!!』

 

 完全に意識が飛ぶ直前、2回小さな脈動を感じた後、一瞬間を置いて強い鼓動を感じた。それを最後に、完全に意識がなくなった。

 

「貴様らぁぁぁあ!!」

 

 次に意識が戻ったのは目の前にコンゴウが2体が映り、視界の端でタツミ、カレル、シュンが戦闘をしている最中だった。

 

「仲間に…手を出すんじゃねえぇぇぇえ!!」

 

 仲間がアラガミに襲われているのを見て、ただ怒りに任せて2体のコンゴウを殴り飛ばす。

 

「チッ!!浅かったか!!」

 

 どちらもまだ倒しきれてない事を確認すると同時に、1体のコンゴウが向かってくる。

 

「邪魔くせぇんだよ!!」

 

 コンゴウが向かってきたと思ったら、視界が急激に反転してコンゴウはバラバラになっていた。

 

「貴様らさえ居なければ…くたばれぇぇぇえ!!」

 

 もう1体のコンゴウは未だに体勢を立て直せていないようだ。それを確認すると、コンゴウの腹を貫いて倒した。

 

「アイツら…どうなった?」

 

 タツミ達の安否を気にして視界に入れた途端、自身の右腕が勝手に動き出す。

 

「ッ?!なっ!!何で?!体が勝手に?!」

 

 固く握った拳で右フックを放つ。辛うじてタツミが後ろに跳んで躱すが、間髪入れずに裏拳を放つ。

 

「クソッ!!避けてくれぇ!!」

 

 避けてくれと願うもそれは叶うことはなく、直撃こそしなかったがタツミは後ろに飛ばされた。

 

「ウロチョロしてんじゃねえ誰だ!!」

 

 飛ばされたタツミの方を見ると、黒い人影が走ってくるのが眼に映る。

 

「神裂?!」

 

 タツミ達の前に立ち塞がった人物を見ると、ユウキだった。しかし自由が効かず、なおも殴りかかろうと右腕を構える。

 

「クソッ!!止まれっ!!やめろぉぉぉお!!」

 

 願いも虚しく拳が振り下ろされ、ユウキの神機が展開した装甲を殴った所で、意識がホワイトアウトした。

 

 -外部居住区近辺の廃工場-

 

 感応現象が終わり、ユウキの意識が現実に戻ると、黒いハンニバルは拳を下げて、そのまま興味が失せたように工場の壁を軽々と飛び越えて去っていった。

 

「あ…お、追い払った…のか?」

 

「みたいだな。」

 

「サンキュー、助かったよ。」

 

 タツミ、カレル、シュンの3人は取り敢えず生きて帰れる事に喜んでいたが、ユウキにはそんな様子はなく、黒いハンニバルが去っていった後、俯きながら防御のために構えていた両腕をダランと垂らす。

 

『リンドウさんの足跡を追って、運良く彼を見つける事ができたとしましょう…その時、彼がアラガミとなって立っていたら、貴方は…そのアラガミを殺せますか?』

 

(何で…アイツからリンドウさんの記憶が…まさか…そんな…)

 

 生存が確定してからここ1週間、毎日必死で探したが結局見つかる事はなかった。もし黒いハンニバルがリンドウであるなら、今まで探していても見つからないのも当然だ。何せ外見が完全に変わってしまっているのだから、気付きようがないなのだ。だが、その最悪の可能性が現実になったと考えると全ての辻褄が合うのも事実だ。

 

(間に合わなかった…のか…?)

 

 ユウキの足元には完全に光を吸い込む程に黒い、完璧な形の羽が落ちていた。その『闇色の大翼』とも言える羽を拾い上げ、黒いハンニバルが去っていった方を見つめる。

 レンの語った最悪の可能性が現実になったと実感し、青ざめた顔でどうするか考える。だが思考が纏まることはなく結局真っ白になった思考では何をどうするか考えられる事もなかった。

 

「お、おーい…どうした?」

 

 ユウキの異変に気が付いたタツミが、ユウキの目の前で手を振ってみるが、

思考が真っ白になった状態ではそんな分かりやすいものさえ認識出来ずに、端から見るとユウキはただ空虚を凝視するだけのように見えていた。

 

 -極東支部-

 

 任務が終わり、闇色の大翼をペイラーに預けると、ユウキは自身の部屋の前に戻って来た。するとそこにはレンがユウキの部屋の扉に背中を預けて立っていた。

 幸い…と言って良いのか分からないが、すぐ近くの部屋の主であるサクヤは任務、ソーマは研究室に居るので、今会話を聴く者は居ない。全てを話すには丁度良いかも知れない。

 

「その様子では…リンドウには会えたみたいですね。」

 

 全てを見透かしたようにレンはユウキが話そうとしていた要件を言い当てる。

 

「で?どうしますか?認めたくない現実を目の前にして…それでもまだ、ありもしない希望を追い求めますか?」

 

 アラガミ化した人間は元には戻らない。それでもあの黒いハンニバルをリンドウとは認めずに、潰えた希望に縋るのかを何処か刺のある声色で聞いてくる。しかし、ユウキ自身はもうどうするか答えは出ている。

 

「いや、覚悟を決めたよ…」

 

 そう語るユウキの顔は俯いていて、表情を読み取ることは出来ない。

 

「俺は、リンドウさんを…」

 

 もうどうしようも無いのなら、せめて自身の選択がリンドウを救う事になると信じる事しか、今のユウキには出来なかった。

 

「…殺す…」

 

 リンドウを殺す…そう言って顔を上げたユウキの目は、かつて人形と呼ばれて居たときの様に、無機質で感情の無い目に変わっていた。

 

To be continued




後書き
 朝帰りの件でアリサと喧嘩、ルーキーズの成長、やたらと多い外部居住区襲撃、黒いハンニバルの登場とやたらに詰め込み過ぎて少し読みにくいかも…今後は気を付けねば…
 リンドウさんを殺す決断をしたユウキ、その選択は吉と出るか凶と出るか…次回、黒いハンニバルとの決戦!!の前に準備等のワンクッションです。
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