-神機保管庫-
自室前でレンと話をした後、ユウキは神機の調整を頼みに神機保管庫に居るであろうリッカの元を訪れていた。
「リッカ?居る?」
そう話しかけるユウキの目は、先程レンと話した時の様な人形と呼ばれていた頃の無機質な目ではなく、普段通りの大人しそうな目付きだった。
「ん?どうしたの?」
「神機の強化を頼みたいんだけど…」
リッカは資料を読んでいたが、ユウキに話しかけられると資料を読むのを止めてユウキの方を見る。
「分かった。どの装備を強化するの?」
「全部。出来る所まで強化してほしい。」
『全部』と言う言葉に多少驚きはしたものの、やれない事はない仕事だったので作業内容を確認する。
「と言うと…刀身4種と銃身、装甲も?」
「うん。可能な限り早くやってほしい。」
「おっけ!!」
元気良く返事をすると、読んでいた資料を机に置いてユウキの神機を弄り始める。しかしユウキは資料を置かれた机の上に散乱した多数の制御ユニットが気になっていた。
「ねえリッカ、その大量の制御ユニットは一体…」
「新しい制御ユニットを開発してね。その試作機達なんだ。」
そう言ってリッカは一旦作業の手を止め、その内の1つを手に取る。
「こんなに作ったの?」
「そうだよ。これが傷の治りを早める『プラーナ』、こっちは消音効果と隠密性能を高めて不意にキツい一撃を与える『アサシン』、これは細胞の結合を強めて防御能力を上げる『スルト』、それから今ユウが装備しているソルジャーよりも更に攻撃性能を高める『ベルセルク』!!ただ制御回路をどれだけ調整しても細胞結合が弱まって防御性能が落ちちゃうんだよね…ちょっとした攻撃ですぐに怪我とかしちゃうから、あまりオススメは出来ないね。まだまだあるけどすぐに使えるのはこんな所だね。」
「…」
リッカは嬉々とした様子で新開発された制御ユニットの説明をしていく。現状、すぐにでも使える制御ユニットの説明を聞いたユウキは、顎に手を添えて、何か考え込んでいるようだった。
「どうかした?」
「リッカ、制御ユニットもベルセルクに変えてもらえるかな?」
ユウキが制御ユニットを変更する様に頼むと、リッカは驚いて目を丸くした。
「え?あの…話聞いてた?ベルセルクは人体の細胞結合さえ弱めてしまうから防御力が落ちるどころか最悪自分の攻撃で自分の体を壊しかねないんだよ?!」
リッカ曰く、ベルセルクは神機と神機使いの攻撃能力を大幅に上げるが、その代償として自身の身体の細胞結合をも弱めると言う欠点がある。この事はさっき話したし、オススメも出来ないと伝えたはずだった。なのにあえてベルセルクを選んだユウキの考えるが信じられなかった。
「大丈夫だよ…その辺は加減するし、攻撃なら当たらなければ良いだけだ。加減については今までだって似たような感じたったし、いざって時に強烈な一撃を与えられれば問題ない。」
しかし、ユウキはリッカの忠告にも聞き入れずに、ベルセルクを装備するように頼む。
今回の任務では、アラガミ化したリンドウと戦う事になる。そうなった時、心の内ではリンドウをそう何度も攻撃したくないと言う思いもあった。リンドウを殺すと決断しても、いざ戦闘になると決心が鈍る可能性は十分にある。
今回は黒いハンニバルだけでなく、自分自身の決心も敵になる。何にしても時間をかける訳にはいかないと考えた結果、火力を上げる事を選んだのだ。
「うーん…まあ、分かった。そこまで言うなら…」
「ありがとう。」
リッカも渋々承諾し、装備の強化作業を始めていく。
「あっ!!それから、強化については優先度とかはある?」
「護人刀を強化して銃身はアルバレスト系列に強化、そこから装甲かな?後の刀身は順次強化って感じで。」
「分かった。」
ユウキが強化の順番を指定すると、リッカは1度作業を始めたが、すぐにユウキの方に向き直る。しかし、その表情は何処か不安そうだった。
「…ねえ…」
「なに?」
リッカは何処か遠慮がちにずっと気になっていた事を聞いてみる事にした。
「何か…いつもと雰囲気が違う気がする…何かあった?」
「そう?そんな事ないと思うけど?」
「…そっか…なら良いんだけど…」
リッカの問いにユウキは何とか平静を装い答えた。これ以上ここにいると余計な事に気が付きそうな気がして、ユウキは早々にこの場から立ち去る事にした。
「じゃあ、装備の強化…頼むよ。」
「うん。そんなにかからないと思うから、日付が変わる前には終わると思う。それまで待っててね。」
「分かった。」
リッカが作業終了の目星を伝えると、ユウキはそのまま踵を返して神機保管庫から出ていく。リッカはその様子に何故か不安を覚えながら見送った後、神機の強化を始めた。
-自室-
リッカに装備品の強化を依頼した後、ユウキは真っ先に自室に戻って来た。そこには本来であればこの部屋には居ないはずのレンが、暇そうにしながらソファーに座っていた。
と言うのも、ユウキの部屋以外ではリンドウの件について話す事が出来ないため、レンを部屋に入れたのだ。
「準備は終わりましたか?」
「…」
レンが話しかけるが、ユウキはそれに答える訳でもなく、目を伏せたまま自室のターミナルを弄り始める。
「つれないですね。無視しなくでも良いじゃないですか。」
「…誰のせいでこんな事をする羽目になったと思ってる?」
レンがいじけた様な声色でありながらも冗談混じりな口調でユウキに再度話しかける。
しかしユウキはレンを足蹴にし、苛立ちを隠す事なく再び人形と呼ばれていた頃の目でレンを睨む。
「僕を諸悪の根源みたいに言わないでください。僕が教えなくても、リンドウ抹殺の指令はいつか貴方がする事になるんですから。」
「…」
『そう言う規則なんですよ。』とレンが付け足して説明する。かつてレンからアラガミ化した神機使いの処理方法を聞いた後、何かリンドウを救う手はないのかとノルンでアラガミ化について調べたが、結局有効な解決方法を見つける事は出来なかった。
それどころか、アラガミ化した神機使いの処理方法の情報に、『部隊員がアラガミ化した場合、部隊長には介錯及び情報隠匿の義務が生じる』とはっきり書かれていた。
今回のケースの様に部隊長がアラガミ化した場合については書かれていない。だがこの方法しかない場合、その後に隊長に就任した人間に介錯が回される可能性は大いにある。遅かれ早かれユウキがリンドウにとどめを刺す可能性はかなり高かったのだ。
その事を実感すると、返事をする着も失せたユウキは無表情のまま無機質な目でターミナルに戻して再びレンの事を無視する。
「その顔付き…まるで人形と呼ばれてた時のようですね。」
今のユウキの顔を見たレンが懐かしそうな雰囲気を含ませた声で話しかける。しかし、それを聞いたユウキは何処か違和感を覚えた。
(…?何でレンが…リンドウさんが話したのか…?)
「正気のままじゃリンドウを殺せない…だから自ら暗示をかけて心を殺し、一切の容赦を無くす…と?随分と器用な事をしますね。」
よくよく考えると、かつてユウキが人形と呼ばれていた事を何故レンが知っているのかと言う所に疑問を持ったのだと気が付いたのだが、今はそんな事はどうでも良い。レン言葉に耳を傾ける事なく、携行品のチェックをしていく。
(まさかあの男の暗示を体験したことがこんな形で生きてくるなんて…世の中何が起こるか分からないものだなぁ…)
そんな中、レンは呑気にユウキが『感情を殺す』と言う器用な事が出来たのかを考えていた。
「…本題は?」
しばらくはレンを無視してターミナルを弄っていたユウキだったが、作業半ばでレンに意識を向ける。この状況で単に世間話をするためにベラベラと話していた訳ではないはずたと何となくだが感じて、その真意を聞き出そうとする。
「リンドウの居場所が分かりました。」
「ッ?!何処に居る?!」
リンドウの居場所が分かったと言われると、ユウキは目を見開いてリンドウの居場所を聞いてきた。
『感情を殺した』はずなのに、欲しい情報を聞くと無視を崩して動揺する辺りまだ完全に感情を殺しきれていないようだ。
「今現在は海の上…恐らく泳いでいるのでしょうかね?そのまま行けば行き先は…エイジスです。」
「エイジス…」
迎え撃つ場所は決まった。ならば後は万全な準備をしていくだけだ。1度崩れた顔を無表情に戻して再度ターミナルを操作する。
「後は大きなものは神機の準備だけでしょう?貴方は周りに覚られないように出撃してください。」
「…分かった。けど、リンドウさんの神機はどうする?あの神機も俺が持ち出すのか?」
ユウキはターミナルを触りながら今後の動きを確認する。以前レンから聞いた話では、アラガミ化した神機使いを殺すには、神機使い本人が使用していた神機を使わなければならない。ならば今回の相手にリンドウの神機を使う必要がある。その準備はどうするのかレンに訪ねる。
「その辺は僕が何とかします。貴方はいつもの様に出撃してください。でも…何度も言いますが、くれぐれも覚られないようにお願いします。」
「…分かってる。深夜に出るから、リンドウさんの神機は任せた。」
「ええ…それじゃあ僕は失礼しますね。時間になるまで仮眠でも取って調子を整えておいてください。」
『それじゃあ。』と言ってレンはユウキの部屋を出ていく。そのままユウキはターミナルを操作していたが、携行品の準備が終わり、すぐに操作を止めてベッドに横たわる。
(やるしか…ないのか…?)
自身にリンドウを殺さなければいけないと言い聞かせたはずなのに、今になって僅かな迷いを見せ始める。
しかし今さらどうしようもない。もう1度リンドウを殺せと自身に言い聞かせながら、ベッドで横になったまま時間が経つのを待っていた。
-ベテラン区画-
ユウキの部屋を出て行ったと思われたレンだったが、実際にはユウキの部屋の前で顔を伏せ、目を閉じたまま背中を預けて佇んでいた。
「それじゃあ、貴方の決意と覚悟…見せてもらいますよ。」
レンがゆっくりと顔を上げて目を開く。その目は何時かユウキに見せたゴミを見るような冷たさを秘めた目だった。
「リンドウを救えるかは…貴方の決意と覚悟にかかっているのだから…」
誰に聞かせるわけでもなく独り言を呟くと、レンはエレベーターに乗り込んだ。
To be continued
後書き
今回は準備回と言う事で短めでしたが…今まで第二、第三部隊との話がメインだったのでリッカが出てくるのが随分と久しぶりな気がします。
次回ついに黒いハンニバルとの決戦であの名場面に入ります!!