GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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 遂に始まったリンドウだったアラガミとの死闘…仲間同士での殺し合い、その果てにあるものとは…


mission67 逃げるな

 -エイジス-

 

  『グオォォォオ!!』

 

「…」 

 

 エイジスの管制塔、その真ん中で黒いハンニバルは月を見て佇んでいたが、ユウキの気配を感じると、ユウキの方に向き直って雄叫びを上げる。

 

(やっと見つけた…リンドウさん…)

 

 『今の貴方はリンドウの神機と接続して人の体を保っている。今、比較的安全に使えるのは貴方だけです。とどめは貴方がさしてください。』

 

 レンからアラガミ化した神機使いの処理方法を聞き、今それを出来るのはユウキだけだと分かった。

 しかしそのリンドウの神機を担いだままでは戦いにくい。なのでレンが後から神機を持ってくる事になっている。なのでリンドウの神機はレンに任せ、ユウキ自身は目の前の敵に集中する。

 

「…今…殺してやるよ…」

 

 ユウキは黒いハンニバルを無機質な目のまま睨む。

 

  『グオォォォォォォオォオ!!』

 

 黒いハンニバルは構えながら右手から黒い炎を吹き上げて吠える。攻撃行動に出ないなら先制するまで…吠えている間にユウキは黒いハンニバルとの距離を一気に詰める。

 直前に強化した『護人刀真打』を装備した神機を横凪ぎに振ると『ヒュンッ!!』と空気を切る音がした。手応えは無い。何故なら黒いハンニバルが後ろに跳んで躱したからだ。しかし躱されたと分かると、ユウキはもう1歩踏み込んで再度距離を詰める。

 今度は逆向きに神機を振るが、黒いハンニバルがユウキの上を跳んでまた躱される。ユウキを飛び越えた黒いハンニバルは、空中で右手をついて姿勢を変えて、ユウキの方に向き直る。

 

  『ゴォォォオ!!』

 

 着地よりも先に黒いハンニバルが黒炎を口から吹き出し、ユウキを焼き付きそうとする。ユウキは後ろに神機を回して、強化した装甲『剛汎用シールド』でブレス攻撃を受け止める。

 ブレスが止むと同時に、黒いハンニバルは着地する。ユウキもまた同時に振り替えりつつ銃形態に変形し、強化した『アルバレスト』の銃口を黒いハンニバルに向ける。

 

  『バンバンバンッ!!』

 

短い間隔で3発の狙撃弾が黒いハンニバルの膝を狙って放たれる。黒いハンニバルは1度後ろに跳んで初弾を避け、続いて2撃目も右腕を左に移しつつ後ろに下がって避ける。そして3撃目は右手から黒炎を吹き上げて生成した剣を振り上げて狙撃弾を焼き切る。

 次の瞬間、黒いハンニバルの方から距離を詰めに入る。

 

「…」

 

 ユウキは無表情のまま飛び出して、剣形態に変形しつつ黒いハンニバルに向かって走る。しかしこのままではユウキと比べると遥かに巨体で手足が長いハンニバルの間合いに先に入る。つまるところ黒いハンニバルの攻撃の方が先に飛んでくるのだ。

 

  『ブンッ!!』

 

 案の定、ユウキが攻撃するよりも先に黒いハンニバルの右腕が空を切る音と共に振り下ろされる。

 

「…」

 

 だが次の瞬間、ユウキは全力で地を蹴り、一気に加速する。すると黒いハンニバルの右腕の下を潜り抜け、懐に潜り込む。

 神機を構えて切り上げようと構えるが、黒いハンニバルが左手の爪を立ててユウキを押し潰す様に振り下ろす。

 間一髪、ユウキは姿勢を低くして更に前に出て、黒いハンニバルの股下を潜り抜ける。完全に抜けた瞬間、ユウキは振り向き様に黒いハンニバルの足の付け根を後ろから斬る。

 

「…ッ!!」

 

 神機を振り抜いた時、確かに手応えはあった。黒いハンニバルには確かに斬り傷がついていた。しかしその時の手応えと同時に、ユウキは横腹を何かで叩き付けられた様な鋭い痛みを感じ、勢い良く飛ばされた。

 飛ばされつつも体勢を整えるが、勢いを殺しきれずに後ろに下がりながら両足で踏ん張る。そして黒いハンニバルの方を見ると何が起こったのか理解した。黒いハンニバルの尻尾がユウキを飛ばした方向に振り抜いた様な位置にあったのだ。恐らくあの尻尾で弾き飛ばされたのだろう。

 そんな事を考えた瞬間、一瞬だがユウキに隙が出来る。黒いハンニバルは黒炎で出来た火の輪を吐き出す。

 しかしその数は通常のハンニバルとは違い、左右に1つずつ増えていた。計3つの火の輪が広がりながら迫ってくる。広範囲をカバーするその攻撃に回避は間に合わないと判断すると、ユウキは装甲を展開する。

 装甲に火の輪が当たると小さな爆発を起こし、黒いハンニバルは一瞬ユウキを見失う。

 

  『バンッ!!』

 

 炸裂音が鳴ったと思ったら、狙撃弾が黒いハンニバルの頭を撃ち抜き左目を潰す。突然の事に黒いハンニバルが怯むとユウキは剣形態に戻して飛びかかる。

 怯んでいる間にユウキが間合いに入り、上に跳ぶ。頭を狙って神機を振り下ろすが、右腕の籠手で防御される。

 しかし、防御したがために攻撃を受けた籠手に大きな傷を着ける。ユウキはそのまま神機を軸にして飛び上がり、銃形態に変形する。振り向き様に後ろから黒いハンニバルの頭に狙撃弾を射つが、尻尾を振り回して狙撃弾を弾いて追撃を防ぐ。さらにはその巨体からは想像出来ないような速さで振り向きながら左腕で裏拳を放つ。

 

「…ッ!!」

 

 ユウキは剣形態に変形しつつも空中で無理矢理体を捻って、裏拳を躱す。しかし黒いハンニバルはそのまま巨体を回転させて、今度は右腕の鋭利な爪をユウキに振りかざす。

 ユウキはさらに体を捻り、ギリギリのところで装甲を展開して防御する。しかし空中では踏ん張る事が出来ずに後ろに飛ばされる。

 

「…クッ!!」

 

 無表情を貫いていたユウキの表情が崩れて僅かに険しくなる。背中から着地するよりも先に体勢を変えて神機を地面に突き刺して急ブレーキをかける。

 

  『グオォォォオ!!』

 

 神機を突き刺して止まった瞬間、黒いハンニバルが距離を詰めていた。爪を立てて、ユウキを切り裂こうと両腕をクロスする軌道で振り下ろす。

 対してユウキは神機を引き抜きつつ後ろに下がって避ける。そして黒いハンニバルの爪を避けきると、すかさず前に出て神機を横凪ぎに振る。

 だが黒いハンニバルは上に大きく跳んで避ける。そして右手で拳を作ってユウキに殴りかかる。再度ユウキは少し後ろに跳んで攻撃を躱すと、ゼクスホルンを展開して右腕を捕食してバーストする。そして捕食と同時に黒いハンニバルの籠手が結合崩壊を起こし、ユウキは捕食後にゼクスホルンのオラクル噴出で後ろに跳ぶ。

 その後、間髪いれずにユウキは前に出て黒いハンニバルの頭上に飛び上がり、黒いハンニバルの頭を狙って神機を横凪ぎに振る。しかし黒いハンニバルは突然前に出て狙いを逸らしてすると背中の逆鱗を狙わせる。

 

  『バギィッ!!』

 

 一撃で逆鱗を粉々に砕き、結合崩壊させる。すると背中から黒炎を吹き上げると同時に黒炎の輪と同じ色の炎の羽が6枚生える。

 

「…ッ?!」

 

 軽く黒炎を受けたことでユウキはダメージを受けたが、普段と少し違った。咄嗟に出た左腕が軽く黒炎に焼かれただけでいつも以上に痛みが走り、神機を振った右腕は攻撃しただけで血管が切れた様に節々から血が滲んでいた。

 

  『グオォォォオ!!』

 

「…」

 

 黒炎を受けて吹き飛ばされたユウキが綺麗に着地し、自身の変化を確認する。ただ神機で攻撃した時の衝撃だけで怪我をした。『これがリッカの言っていた細胞結合が弱まると言うことか』と考えながら、活性化した黒いハンニバルを再度見据える。

 ほんの一瞬の睨み合いの後、両者共に相手に向かっていった。

 

 -極東支部-

 

 ユウキがこっそりと極東支部を出てから少し経ち、午前3時を回った頃、極東支部にけたたましい警報音が鳴り響いた。何でも外部居住区でアラガミが『発生』したらしい。警報で極東支部に居た者は全員叩き起こされたが、現れたのは小型種が数体と非常に小規模なものだった。その為、第二部隊がこのアラガミの処理に向かったのだが、増援もオペレートも必要無いとし、極東支部に居る神機使いほぼ全員が再度自室に戻っていった。

 しかし、第一部隊とヒバリは完全に目が冴えてしまい、どうせならと朝になるまで談笑しようとカウンターに集まっていた。

 ユウキが来ない事を気にしつつ(アリサは気が気でなかったが)1時間程話していると、機材が居住区とは別の場所でアラガミの反応をキャッチした。

 

「っ!!エイジスにて大型種の反応を確認!!このパターンは…恐らく新種の黒いハンニバルです!!それにこれは…」

 

 エイジスからの反応を確認すべく、ヒバリは端末のキーボードを叩いていく。その結果、先日遭遇した黒いハンニバルと別の反応を確認した。

 

「え?!く、黒いハンニバルとユウキさんが…単独で交戦中!?」

 

「えっ?!ど、どういう事?!」

 

「ユウが…1人で?!」

 

 ヒバリから予想もしない報告を聞いて、コウタとアリサが同様を隠せない様子で聞き返す。

 

「あのバカ野郎が!!おい!!全員出るぞ!!」

 

 何故ユウキが居ないのかようやく分かった。ソーマは苛立ちを覚えながらユウキのサポートに向かうため、第一部隊全員で出撃するよう進言する。それに異を唱える者は居らず、第一部隊の面々はすぐに出撃準備に入ろうとする。

 

「全員動くな。まだそのまま待機しろ。」

 

「えっ?な?!ど、どういう事ですか?!」

 

 しかし、突如現れたツバキが出鼻を挫くように第一部隊に待機を命じる。コウタは納得いかないのか、慌てて理由を聞いてきた。

 

「たった今、黒いハンニバルから採取した羽の解析が終わった。あれは、アラガミ化したリンドウだ。何処で知ったかは分からんが…それを知ったからこそ、アイツは1人で向かったのだろう。」

 

「「「…っ!!」」」

 

「どうして…」

 

 ユウキが戦っている黒いハンニバルの正体を聞いた瞬間全員が愕然とする。何故仲間同士で殺し合わなければならないのか?そんな現実を目の当たりして、サクヤは悲しみの声を漏らす。

 

「サクヤ!!お前はリンドウに銃を向ける覚悟はあるのか?」

 

「それは…」

 

 リンドウに銃を向ける事は出来るかと言うツバキの問いに、サクヤは戸惑いを見せている。

 

「お前たちもだ。その覚悟はあるのか?」

 

「「「…」」」

 

 サクヤへ投げ掛けたものと同じくものを第一部隊に問いかける。彼らもまた、リンドウを討つ事が出来るとは思えず黙り混んでしまう。

 

「無いなら…今ここで覚悟を決めろ。これより、新たな特別任務を通達する!!目標はエイジスに出現した黒いハンニバル…『ハンニバル侵食種』だ!!」

 

「「えっ?!」」

 

 ツバキの与えた任務内容にコウタとアリサは驚きを隠せなかった。黒いハンニバルの正体がリンドウだと聞かされた後では戸惑うのも無理はない。

 

「可及的速やかにこれを排除しろ。なお、ハンニバル種の様な蘇生能力を持つ個体の場合は、現存戦力での対抗は難しいだろう。対ハンニバル種への対策と同様、コアを回収した時点で即時撤退する事…分かったな。」

 

「「…」」

 

 命令の内容は分かる。しかしリンドウに銃を向けられるか、攻撃出来るのはまた別の問題だ。ツバキからの命令への返答を躊躇っていると、ツバキがまた新たな命令を出す。

 

「それからサクヤ!!これは命令だ。お前は残れ。同じ悲しみを何度も目の当たりにする必要はない。」

 

 ツバキなりの気遣いなのだろう…サクヤは今回の任務には出るなと言う命令が出された。これからリンドウと戦いに行くとなると、最悪リンドウに引き金を引かなければならない。もう1度リンドウを喪う悲しみを与えるのは酷だと考えた末の結論だろう。

 

「…いいえ。命令には従えません。私にはリンドウの…愛する人の結末を見届ける義務があります…」

 

「サクヤさん…」

 

 しかしサクヤはその命令には従わないと言い返した。そこにはサクヤの絶対に引かないと言う強い意思を感じた。

 そしてサクヤの返答にソーマ、コウタ、アリサは驚きを隠せなかったが、ツバキは何かを察した様に『仕方ないな…』と言いたげな表情になった。

 

「…いいだろう…」

 

 説得は不可能だと感じたのか、ツバキはサクヤが任務に行くことを承諾する。

 

「うん…俺も…覚悟を決めました。まだ…頭じゃ納得してないかもですけど…」

 

「…俺達の仕事は何時だって、1人で背負い込みがちなバカを支える事だけだ…だろ?」

 

「うん。」

 

 コウタ、ソーマもリンドウと戦う覚悟を各々決めたようだ。何時より引き締まった表情をしている。

 

「…そうですね。でも…楽観的過ぎる気もするんですけど…私、何とかなる様な気がしているんです。ユウが理由もなくこんな事をするとは、どうしても思えなくて…」

 

「フッ…そうかもな…」

 

 アリサは楽観的だと言うが、その場に居た全員が根拠は無いがアリサの言う通り、何とかなると信じていた。

 もっとも当のユウキ本人はそんな期待とは真逆の理由でリンドウとの戦いに挑んだが…

 

「よし!!全員現場に急行しろ!!そこで取っ組み合っている2人にこう伝えろ。2人とも無事に生還した時のみ、懲罰を免除するとな。」

 

 ツバキから出撃を指示すると、第一部隊はすぐに出撃準備に入った。

 

 -エイジス-

 

 どのくらい時間が経っただろうか?爪を防ぎ、黒炎を避け、活性化したハンニバル侵食種の猛攻の隙を突いて反撃する。

 そんな戦闘が続き、バースト状態は解除され、ハンニバル侵食種は至るところに結合崩壊を起こし、ユウキはあちこちから血を流し、両者とも既にボロボロになっていた。

 

  『グオォォォオ!!』

 

 両手に黒炎の剣を作り、ハンニバル侵食種は一歩踏み込んで右腕を振り下ろす。ユウキは外側に跳んで黒炎の剣を躱す。しかしハンニバル侵食種は右腕を外に振って追撃する。

 

「チィッ!!」

 

 いつの間にか無表情を崩し、必死な表情で舌打ちをしながら床に這うような体勢になって黒炎の剣の下を潜る。

 ハンニバル侵食種はさらに左腕で横凪ぎに黒炎の剣を振り、ユウキに斬りかかる。咄嗟に装甲を展開して黒炎の剣を受け止める。だがそれでもハンニバル侵食種の追撃は終わらない。振り抜いた右腕を戻す方向に振り、黒炎の剣ごユウキの背中に迫ってくる。

 

「クッ!!」

 

 黒炎の剣が背中に来るよりも先にユウキは、装甲で攻撃を受けた場所を中心に横回りに回転する。上下が入れ替わると、対抗する力を失った左腕によってユウキは縦に回転する。

 すると調度良く後ろから向かってきた右の剣と受け止めていた左の剣の間をすり抜ける事が出来た。

 そしてハンニバル侵食種が両腕をクロスするような体勢になりると、ユウキはハンニバル侵食種と向き合うタイミングで右手に持った神機を投げ付ける。神機は高速で回転しながらハンニバル侵食種の頭に突き刺さり、思わずハンニバル侵食種は怯んでしまった。

 その隙にユウキはハンニバル侵食種の頭に飛び乗り、頭に突き刺さった神機を掴んで振り抜いた。

 

  『グルァァァア?!』

 

 ハンニバル侵食種は痛みに耐え兼ね暴れだす。その結果、頭を振り回してユウキを床に叩き落とす。

 

「カハッ!!」

 

 背中から勢い良く叩き落とされ、軽くバウンドする。すると、ハンニバル侵食種はユウキを見つけて右腕の爪で切り裂いてきた。バウンドした衝撃で意識にノイズがかかったような状態では避けることも出来ずに、ユウキは爪をもろに受け、左半身に裂傷を作って吹き飛ばされた。

 

「ガッ!!ケホ…」

 

 辛うじて飛ばされた先には柱があり、管制塔から落とされると言った事は防ぐことはできた。

 その間にハンニバル侵食種がユウキに向かって走り始める。

 

「クッ…ソ…」

 

 ユウキは回復錠を服用し、簡易的に傷を治すと、ハンニバル侵食種に向かっていく。ハンニバル侵食種は両手に黒炎で槍を作り、大きく飛び上がる。そのまま急降下してユウキに向かって落下していく。

 

「クッ!!速い!!」

 

 予想以上の速さで迫ってくるハンニバル侵食種に驚きつつも、ユウキは後ろに下がって槍を回避する。

 黒炎の槍を避けてすぐ、ユウキはシュトルムを展開して下がった分の距離を一気に詰めていく。

 

  『グシュッ!!』

 

 捕食口がハンニバル侵食種の右腕を喰い千切り、ユウキは再度バーストする。しかし懐に飛び込んだ事でハンニバル侵食も反撃の体勢になる。左腕でユウキに殴りかかるが、ユウキも寸でのところで後ろに下がって躱す。

 するとハンニバル侵食種は両手に黒炎の剣を作り、腕をクロスする。そして左腕を外から横凪ぎに振る。ユウキは大きくジャンプして黒炎の剣を躱し、ハンニバル侵食種の首元を目掛けて飛びかかる。

 しかし、今度はハンニバル侵食種が右腕を横に振ってユウキを両断しようとする。対してユウキは神機を上から振り下ろし、黒炎の剣に叩きつけてそこを軸に再度飛び上がる。

 自身を守る手段を失い、反応が遅れたハンニバル侵食種の頭を横切り、懐に潜り込んで遂にハンニバル侵食種の首元にたどり着く。

 

「オォォォオオ!!」

 

 咆哮と共に神機を振り下ろす。すると、ハンニバル侵食種の首から足元にかけて両断する。新しい制御ユニット『ベルセルク』のお陰で、この一撃でハンニバル侵食種は文字通り皮一枚で繋がった状態になる。

 ハンニバル侵食種が大量の血を吹き出し動きを止めると、ユウキは後ろに下がって様子を確認する。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 ようやくハンニバル侵食種が膝をつき、崩れ落ちる。それをユウキは肩で息をしながら眺めつつも、神機をしっかりと握り締めている。

 

(頼むから…立ち上がらないでくれ…)

 

 ハンニバルと初めて戦ったとき、再生能力で痛い目を見た。今回の相手もハンニバルの亜種である事を考えると蘇生する可能性は十分にある。

 そうなるとまたリンドウを攻撃しなければならない。正直戦っていくうちにも決心が鈍ってしまい、もう何度も攻撃したくないのが本音だった。

 

「今ですよ…」

 

「っ!!」

 

 突然後ろから声が聞こえてきて振り替えると、そこにはレンが着ていた。その手にはリンドウの神機が握られている。

 そのままユウキの横を抜けて少しだけ前に出ると、レンはユウキの前にリンドウの神機を地面に突き刺した。

 

「さあ、この剣で…リンドウを殺してください。」

 

 『遂に来た』と思い、神機に左手を伸ばそうとするも、『本当にこれでいいのか?』と疑問に思い、手を伸ばす事を躊躇っている自分が居る。

 手を伸ばすのを躊躇い、動けないで居ると、後ろから複数人の足音が聞こえてきた。何事かと思い振り替えると、そこには第一部隊が神機を携えて現れた。

 

「ユウ!!」

 

「っ!!何で…!!」

 

 ユウキの姿を見ると、アリサは声をかける。しかし、ユウキからしてみれば彼らに知られないように方をつけるつもりだったので、予想外の事態にユウキは驚いていた。

 

「…倒した…のか?」

 

 倒れてからピクリともしないハンニバル侵食種を見て、コウタが小さく呟く。すると、ハンニバル侵食種の口元から黒い炎が上がり、次第に傷や結合崩壊した逆鱗が再生していく。

 

「あっ!!」

 

 するといつかのようにハンニバル侵食種は中に浮きながら蘇生し始め、それを見たコウタは思わず声をあげる。

 しかし次の瞬間、その場に居た全員の目が驚愕で見開かれる。

 

「っ!!あれ見て!!」

 

「ッ!!」

 

「リン…ドウ…?」

 

「クソッ!!リンドウ!!さっさとそこから出てこい!!」

 

「リンドウさん!!目を覚まして!!」

 

 ハンニバル侵食種が体勢を変えると、胴体に張り付けにされた様に四肢が埋め込まれたリンドウが居た。張り付けになったままぐったりとしているリンドウを見て、どうにか意識を取り戻させようと第一部隊のメンバーが声をかける。

 

「何を躊躇っているんですか?リンドウを殺せるチャンスは今しかない…これを逃せば、もう倒せないかもしれないんですよ…?」

 

 しかしレンは無慈悲にも早く神機を手に取れと言う。ユウキも神機の近くまで手を伸ばしたが、最後の最後で踏ん切りが着かないでいる。

 

「グッ!!…ウゥ…」

 

 そんな中、突然呻き声が聞こえてきた。声のした方を見ると、リンドウが微かに意識を取り戻し弱々しく目を開いている。

 

「俺の事は…放っておけ…」

 

「リンドウ…リンドウなのね?!」

 

「リンドウさん!!」

 

 サクヤとアリサがリンドウの意識が戻った事を確認するように呼びかける。しかしレンはそんなリンドウに目もくれずに、再度ユウキに神機を取るように説得する。

 

「ここに着て…まだ迷っているんですか?貴方はリンドウを殺す…そう決断したんじゃないんですか?」

 

「お、俺は…リンドウさんを…」

 

 ユウキは自身にリンドウを殺すためにここに来たのだと言い聞かせ、何度か神機握ろうとするも『これでいいのか?』と考えてしまい、神機を握らずに考え込んでしまう。

 

「立ち去れ…早く…」

 

「イヤ…もう置いていくのも…置いていかれるのも…イヤよ…リンドウ…」

 

「リンドウさん…力ずくでも貴方を連れて帰ります!!それが貴方に償える…唯一つの方法だから!!ユウだってきっと…そのためにここに来たはずです!!」

 

「ッ!!」

 

 リンドウが教会で孤立した時、サクヤは何も出来ないままリンドウを置いていくしか出来ず、そのままリンドウに置いていかれた。あのときの無力感と悲しみを思い出したのか、サクヤは涙を流し、その声は震えていた。

 アリサも同じだ。かつて自分が死なせたと思っていた相手が目の前で生きていたのだ。自分の罪の償いもだが、リンドウが帰ってくる事を望んでいる人は大勢いる。アリサの言葉には意地でも連れ帰ると言う意志を感じ取り、ユウキもその言葉を聞いて何処かで同じように考えていると気付かされた。

 

(助ける…どうやって…?)

 

「決断が遅れれば、それだけ余計な犠牲が生まれる!!リンドウに仲間を殺させたいんですか?!」

 

(レンの…言うことも、分かる…けど…!!)

 

 しかしレンの言うことも正論ではある。ほぼ完全にアラガミ化してしまった以上助けようも無い。

 さらに、アラガミ化したリンドウと感応現象を起こしたことで、アラガミ化しても雨宮リンドウとしての意識は微かにでも残り続ける事を知っている。自身の意思に反して仲間を襲った時の辛さをユウキも『体験』している。

 レンの言うことは現状を分析するまでもなく、現実的な方法なのはすぐに分かる。例え自己満足な解釈だとしても、仲間殺しをさせ続けるくらいならいっそのこと死なせる方がリンドウの為なのかもしれない。

 

「俺はもう…覚悟は出来ている…自分のケツは…自分で…拭くさ…」

 

「さあ!!貴方の手で!!リンドウをこの血生臭い連鎖から解放してやってください!!」

 

 アラガミ化した神機使いを殺せるのはその人が使っていた神機だけ…そしてその神機を使えば使った本人がアラガミ化する。次は他人の神機を使った人間がアラガミ化し、また別の人がその人の神機を使う…これが延々と続いていく事になる。

 レンの言う血生臭い連鎖とはこう言う事を言っているのだろう。そして今比較的安全にリンドウの神機を使えるのはユウキ以外には居ない。今リンドウを殺す事が出来るのはユウキだけだ。

 ユウキ自身もリンドウを殺すべきだと分かっているがやはり何処か納得出来ない。

 

「ここから…逃げろ!!これは…命令だ!!」

 

(逃げろ…何処に?)

 

 しかしユウキが躊躇っている間に、ハンニバル侵食種は傷が残っているものの、完全に蘇生した。

 浮遊していたハンニバル侵食種は着地と同時に右手から黒い炎を吹き上げて構え、尻尾で地面を叩きながら戦闘体勢に入る。もう身体の自由は利かないが自分が何をするかは理解したリンドウは全員に逃げるように指示する。

 

「早く!!この神機でリンドウを殺せ!!!!」

 

(殺せ…良いのか?)

 

 それを目にしたレンは余裕の無い様子で、リンドウを殺せとユウキに怒鳴り散らす。

 助ける事を望む第一部隊、逃げて生き延びる様に言うリンドウ、負の連鎖を断ち切る為、リンドウを殺せと迫るレン…助けろ、逃げろ、殺せと三者三様の望みを聞いてユウキは益々混乱し、頭の中では助けろ逃げろ殺せと迫られている様に感じた。

 

 助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ助けろ逃げろ殺せ…

 

  『ウルセェ』

 

「うるせぇぇぇええええぇええ!!!!」

 

「ユウ!?」

 

 突然のユウキの咆哮にアリサ達は驚き硬直する。その間にユウキの左手は遂に地面に突き刺さっているリンドウの神機を握る。

 

「今のリーダーはリンドウ…お前じゃない!!この俺だ!!!!俺の命令に従え!!!!」

 

 リンドウに啖呵を切るとユウキは神機を引き抜く。そして神機から触手が伸び、背中を回ってユウキの腕輪と接続する。

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"!!!!」

 

 激痛から絶叫し、それと同時に、抗体持ちでも抑えられない程にアラガミ化が進行し、ユウキの左腕がアラガミ化して赤黒い異形の腕に変化する。

 

「「「「ユウ!!!!」」」」

 

「逃げるなぁぁぁあぁあぁああ!!!!」

 

  痛む左腕を押さえながらユウキは全身全霊の力を込めて叫ぶ。

 

「い、生きることから…逃げるなっ…これは…命令だ!!!!」

 

 生きろ言うユウキの叫びを聞いて、リンドウの目が見開かれる。

 

「おぉぉおおぉぉぉおぉぉぉお!!!!」

 

 自分の神機とリンドウの神機…2つの神機を構えて、誰もなし得なかった二刀流でハンニバル侵食種に向かって全速力で走る。

 対してハンニバル侵食種は左フックを放ち、ユウキを迎撃しようとする。それをユウキはジャンプして躱す。空中でも止まる事なく、そのままハンニバル侵食種に向かっていく。

 しかしハンニバル侵食種はすぐさま右フックで反撃して、空中に居るユウキを捉える。

 

  『バキッ!!!!』

 

 拳はユウキの左目付近に直撃した。それでもユウキは止まらず、身体を捻りながら殴られた勢いを利用して右方向に勢いよく回転して、そのままハンニバル侵食種に向かっていく。

 『ザシュッ!!』と何度か小気味良い音を立てながら回転した勢いでハンニバル侵食種の口から横に斬り裂き、胴体近くまで進んでいく。回転が止まり、胴体付近から進めなくなった瞬間、ユウキは返り血を浴びながら力任せにハンニバル侵食種の斬り口から上下に抉じ開け、ハンニバル侵食種の口から首元まで引き裂いた。

 すると首元には緋色の球体…ハンニバル侵食種のコアがあった。それを見るとユウキは左腕を引き、拳を固く握る。

 

「帰ってこい!!リィンドウォォォォオォオオ!!!!」

 

 そしてアラガミ化した左腕で捻りを加えた拳で剥き出しのコアを殴る。その瞬間、ユウキの意識は遠退いていった。

 

To be continued




後書き
 ようやくバースト編の目玉の『逃げるな』まで来ました。ハンニバル侵食との戦闘もとっちが勝ってもおかしくない様な死闘になるように書いてみました。
 あと少しバースト編も終わりと言うことでもう一踏ん張りと言うところまで来ましたが、リアルの都合でまた更新が遅れそうです。なので気長に待って頂けると幸いです。
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