GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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 リンドウ救出編の後日談です。なんだか長くなってグダグダになった気が…


after2 宴会

 -外部居住区外 荒野-

 

 日も落ちて辺りが薄暗くなり始めた頃、黒い服を着た少年が運転するジープが荒野を走っていた。

 

(思ったより時間がかかったな…)

 

 少年…神裂ユウキはジープを運転しながら先の戦闘の事を思い出していた。

 

(小一時間で終わると思ったんだけど…次から次へと増援が来るとは…)

 

 戦闘を開始した当初、大型、中型、小型すべて合わせて30体程のアラガミを相手にしていた。しかし、その戦闘の気配が気になったのか、周囲のアラガミまで寄ってくる事になり、気が付いたら100体近いアラガミを処理していた。

 

「式…終わってるよなぁ…」

 

 リンドウとサクヤの式は昼から始まる予定だったが、今は夕方を過ぎて夜になりつつあった。

 とうに結婚式は終わったのだろうなと思いながら、思った事が思わず独り言として口から出てきた。

 

(…あれから1ヵ月か…早いな…)

 

 ユウキは運転しながら、リンドウが帰ってきてから1ヵ月の事を思い出していた。色々と詰め込み過ぎたせいなのか、リンドウとの戦いがえらく昔の事のように思えた。

 

(またアリサに怒られそうだ…)

 

 ユウキは帰った後の事を考えながら、この1ヵ月の事を思い出す。

 

 -1ヵ月前 医務室-

 

 時は1ヵ月前の医務室、ツバキが去った後のこと。相変わらず冷や汗を流しながら正座させられている男2人に素敵な黒い笑顔を見せているサクヤとアリサ…まずは事の中心人物のひとりであるリンドウにサクヤが問い詰める。

 

「さあ、リンドウ?当時の事、色々と話してもらうわよ?」

 

「あぁ…その…」

 

「ハッキリしない返事ね。まあ、いいわ。まずひとつ目、何で襲撃された時、あの場に残らなかったのか…ふたつ目、出ていった後一体何処に居たのか…みっつ目、出ていかないといけない状態だったとして、何故通信のひとつも入れなかったのか…さあ、話なさい?」

 

 『変な言い訳はしないでね?』とサクヤは黒い笑顔のままリンドウに微笑み、圧力をかける。

 

「あぁ…その、実は…当時の事、ちゃんと覚えてないんだよ…」

 

「…あらあら、言い訳しないでって言ったのに話してくれないのね…ねぇ?リンドウ?」

 

 リンドウの下手な言い訳にしか聞こえない答えに、サクヤは額に青筋を浮かべ、黒い笑顔がより一層黒くなる。

 

「あの…サクヤさん…」

 

 ユウキがおずおずと右手をあげ、サクヤの話を遮る。

 

「あら?何かしら?私今リンドウと話しているんだけど?」

 

「と、当時の事、リンドウさんが覚えてないのも無理はないと思います。アラガミ化の影響で終始ぼんやりしてて意識もほとんど無かった様なものでしたから…」

 

 サクヤの雰囲気に圧され、言葉に詰まりながらもユウキはリンドウを弁護する。

 

「ふーん…何で知ってるの?」

 

「か、感応現象で追体験したからです…」

 

 黒い笑顔を向けられたユウキはその恐ろしさから冷や汗をダラダラと流しながら答える。

 

「ユ~ウ~?何でそんな大事なこと話してくれなかったんですか?」

 

 今度はアリサが笑顔を向けきた。ただし目が笑ってない。怒りの矛先が全て自身に向いた事を自覚した瞬間、ユウキは『ヤバい、墓穴掘った…』と後悔する事となった。

 

「落ち着きなさいアリサ。さあ、話して。」

 

 サクヤに促され、ユウキは感応現象で体験したリンドウの過去を話始める。ディアウス・ピターとの戦闘で腕輪が壊れた事、シオが現れディアウス・ピターを追い払った事、いつの間にか旧寺院付近に居て、シオにアラガミ化した腕を制御してもらった事…思い出せる事は全て話した。

 リンドウの件にシオが関わっていた事を知るとサクヤもアリサも驚いていたが、ユウキが一通り話終える頃には落ち着きを取り戻している様に見えた。

 

「そう…大体分かったわ。」

 

 声と表情もいつもの様に落ち着いたものに変わっている。どうやら先程の怒りは鳴りを潜めたようだ。

 

「でも、それを聞く限りシオのお陰で意識がハッキリしていた時期もあったんでしょ?何でその時に連絡をくれなかったの?戻ってくることは出来なかったの…?」

 

「あぁ…その…通信機が壊れたのもあるんだが…何より、こんな腕だったからな…」

 

 そう言ってリンドウは自身の右腕を撫でる。自分が人ではなくなる。それを悟った事で、行方不明になった事を利用して皆の前から離れる事にしたのだ。

 

「もうアラガミ化は止められない…それが分かった瞬間、戻る事は出来ないって思ったんだ…」

 

「…それでも、何か言って欲しかった…リンドウが居なくなって何度も泣いて…生きてるって分かっても…凄く…心配したわ…」

 

「すまなかった…」

 

 どんな状況、状態でもいいからリンドウの情報が何か知りたかった。リンドウを愛しているからこそ、どんな結末であっても知りたいと思えるのだろう。

 サクヤの意思が伝わったのか、リンドウは素直に頭数を下げて謝る。するとサクヤは『顔、上げて』と言うと、リンドウは恐る恐る顔を上げる。そこにはさっきまでとは違い、優しい笑みをしたサクヤが居た。

 

「おかえり、リンドウ…」

 

「ああ…ただいま、サクヤ。」

 

 サクヤの一言でリンドウは目をぱちくりさせたが、すぐに微笑み返してただいまと返す。

 それから数秒、互いに見合っているのを見たユウキは、周りに怒られてもリンドウを連れて帰ってきた甲斐があったと感じていた。

 

「何『よかったね』見たいな顔してるんですか?私の話は終わってないですよ?」

 

 しかし、黒い笑みのアリサの一言でユウキは一気に現実に引き戻された。

 

「え?あ、いや…今何かいい雰囲気だったし、このままキレイに終われば…」

 

「初犯ならそれでも良かったんですけどね…ユウ、リンドウさんの神機を使ったの…今回で2回目でしたよね?」

 

「…はい…」

 

 それを言われるとぐうの音も出ない。しょんぼりして縮こまっているとアリサはどうしても聞きたかった事を口にする。

 

「私、ひとりで無茶しないでって何度も言いましたよね?なのにまたリンドウさんの神機を使って出撃して、挙げ句リンドウさんと戦うなんて大事なことを誰にも言わないで…何で私たちにも何も言わなかったんですか?」

 

「…言えるわけない…俺は…」

 

 アリサだけではない、色んな人から無茶をするなと言われた。それでも今回誰にも言わず、何のフォローも無しで危険な任務に単独で向かった。だがユウキとしてもこの事を誰かに話す事が出来なかったのも事実だ。その真相を話すか一瞬迷ったが、下手に誤魔化しても余計に怒らせて詮索されるだろうと思い、顔を伏せて当時の事を話始める。

 

「リンドウさんを殺すつもりであの場に来たんだ…」

 

 その言葉を聞いた瞬間、サクヤとアリサは両目を見開いて絶句する。リンドウを助けるためにあの場に行ったと思っていたため、2人は衝撃を受けた。

 

「1度アラガミ化したてしまうと、もう人には戻れない。そうなった神機使いは…殺すしかないらしい…」

 

 アラガミ化した人間の処理方法は殺すしかない。その事実をユウキはポツポツと話していく。

 

「皆がリンドウさんの生存を知った後じゃ…このことを伝えることは俺には出来なかった。だから、独りで行ったんだ。」

 

 リンドウの生存が伝わり、意欲的に捜索している状況で『アラガミ化が進行しているのでいざとなったら殺します』などと言えるはずもなかった。

 

「皆が知らないところで殺れば…皆リンドウさんの幻影を追ってくれる。いざそれが外に漏れても、俺が皆に恨まれてそれで終わりだ。」

 

「「ハァァァア…」」

 

 ユウキが独りでリンドウとの決戦に向かった経緯を話すと、サクヤとアリサは怒りを通り越して呆れた様に大きなため息をつく。

 

「…まったく、うちのリーダーは2人とも…置いていかれたこっちの気も知らないで…」

 

「本当ですよ…そんな大事なこと何も言わずに行ってしまうなんて…ドン引きです。」

 

 2人の怒った様な、呆れた様な、それでいて少し拗ねた様な雰囲気を感じ取り、ユウキは周りに心配をかけたのだと理解した。

 

「…ごめんなさい…」

 

「…ユウ…」

 

 ユウキは顔を伏せたまま謝る。するとアリサから声をかけられて、ユウキは顔をあげる。

 

「ここでもう1度…約束してください。もう2度と独りで無茶しないって。そうしたら…許してあげます。」

 

「…分かった。約束する。」

 

 一瞬の間の後、ユウキは無茶をしたないと言う約束を了承する。

 

「…絶対ですからね?言質は取りましたから、本当に約束してくださいよ?」

 

「う、うん。分かってるよ。」

 

 アリサはユウキが独りで無茶しないと約束した事を何度も確認する。その一連の確認が終わりると、ユウキは『信用無いなぁ…』呟く。すると『どの口が言うんですか!!』とアリサがまたプリプリと怒り出した。

 そんな2人を観ていたリンドウとサクヤは、ヤレヤレとでも言いたげに顔を見合わせていた。

 

-外部居住区外の荒野-

 

(正直軽蔑されると思ったけど…一応は許してもらえたん…だよな…?)

 

 怒られたり呆れられたりはしたが友情や仲間意識が崩壊する事はなかった事にユウキは安堵する。

 しばらくボーッとしながら運転していると、サクヤとアリサに怒られた後の事も思い出してきた。

 

(…そう言えば次の日から筋トレ漬けだったな…あれはもう2度とやりたくないな…)

 

 動けるようになった後、ツバキの筋トレ特別メニューと言う名の懲罰が終わった時の事を思い出しながらふと空を見上げる。

 暗くなりつつある空を見て、ユウキは速く帰ろうと少しアクセルを強く踏んだ。

 

 -3週間前 エントランス-

 

 ツバキからの懲罰と言う名の筋トレ地獄期間を終えた日の深夜…誰も居ない薄暗いエントランスで、何故か眠れなくないユウキはソファーに座ってボーッとしていた。

 

「…よう。」

 

「…?リンドウさん?」

 

 突然声をかけられた。完全に不意を突かれたせいで、ユウキの身体は少しだけ跳ねさせながら声のした方を見るとリンドウが居た。

 そしてリンドウはそのままユウキの隣に座る。

 

「どうした?眠れないのか?」

 

「はい。あのとんでもない筋トレのせいで疲れてるはずなんですけど…」

 

 腕立て腹筋スクワットにその他諸々…各筋トレを1時間以内に1万回やると言う10倍式メニューをを1度もこなす事が出来なかった。それを週間続けて身体はヘトヘトなはずなのに、何故か目は冴えていた。

 

「やっぱりな。あの筋トレメニュー…身体限界を超えて酷使するせいなのか、疲れてるはずなのに終わった後妙に目が冴えちまうんだよな。」

 

「頭は起きちゃってる感じですかね?」

 

「まあ、そんな感じだろうな。それよりどうだ?元俺の部屋は?」

 

 同じ様に筋トレをさせられていたリンドウも目が冴えているあたり、眠れないのはやっぱり筋トレのせいなのだろう。

 2人して同じ事を考えていると、リンドウが隊長用の部屋の使い心地について聞いてきた。

 

「特に不自由もなく快適ですよ。何なら返しましょうか?」

 

「何言ってやがる。あの部屋は第一部隊のリーダーが使う部屋だぞ。アラガミの少女の事やらアーク計画を止めた事やその後の立て直し…アナグラが大変な時にこの支部を支えていたのは間違いなくユウ、お前だ。本当によくやったよ。もう一人前のリーダーだ。」

 

 『あれ、シオの件知ってたんですか?』とユウキが聞くと、リンドウは『ん?サクヤから聞いた。』とあっけからんと答える。

 

「それに、俺の事…昼も夜も関係なく探し回ってくれたみたいだな…ありがとな。」

 

「リンドウさんがアラガミ化するかもって状況でもあった訳ですから…急がなきゃって思っただけです…あれ、でもなんでその事知ってるんですか?」

 

 夜中にリンドウを探し回ったていた事は誰にも伝えていないはず。なのに何故リンドウは知っているのかユウキは疑問に思った。

 

「ハンニバル侵食種の状態で初めてお前と感応現象を起こしただろ?あのときにな。」

 

「そう言う事ですか。」

 

「あー…それと…もうひとつ、謝る事があってだなぁ…」

 

 話の最中、突然リンドウは右手で頭を掻きながらバツの悪そうな顔になり、言葉の歯切れが悪くなった。

 

「…その…左目の事…悪かった…」

 

 突然リンドウが膝に手を突いて頭を下げて謝る。ユウキは一瞬何の事か分からずに面食らってしまった。

 

「最後の最後…もう少し奴に抵抗できたら…」

 

「そんな事気にしないで下さい。それでリンドウさんが助かったんなら、俺の左目なんて安いものですよ。」

 

 左目など安いもの…ユウキの本心からの言葉だったが、リンドウはそれを聞くと両目を見開き、信じられないと言った表情になる。

 

(…ああ、そうか…コイツはまだ…)

 

 『立ち直れていないのかも知れない』そう思いながらもリンドウは顔を上げ、真剣な表情になる。そして目の前居る、周りに嫌われない様に『イイ人の仮面を必死に被り続ける』…否、被っていると言う自覚さえない少年に語りかける。

 

「…なあ、お前…ひょっとしてまだ…」

 

 『昔の事引き摺ってるのか?』と聞こうと思ったが、リンドウはそこで口を閉ざした。

 

「…いや、何でもない。」

 

「…?」

 

 ユウキの過去…その全容をある程度知っているリンドウには、どうしても今の神裂ユウキと言う人間の人格には違和感を感じないでもなかった。

 人としての尊厳も、生きるための居場所も、何もかも全て奪われ、獣の方がマシだと思えるような生活を今までに送ってきて、こんな優等生気質な性格になるとはとても思えなかった。だが元々こんな性格だっただけかも知れない。

 とにかく本人が話したがらないのであれば、こちらから傷口に抉る様な真似をする必要は無いだろうと、リンドウは今の話を止める。

 

「わっ!!ちょっと?!」

 

「ったくよぉ…アリサやリッカが過保護になるのも分かるわ。自分の左目を『安いもん』だなんて言いやがって。」

 

「え?」

 

 結局ユウキには何が言いたかったのか分からないままになり、頭に疑問符でも浮かび上がっていそうな表情になっている。するとリンドウは両手でユウキの頭をワシャワシャと撫で、ユウキは何でちょっと乱暴に撫でられているのか分からずに抵抗する。

 

「お前は優しいヤツだよ。それがお前の美徳でもある。でもな、それが行きすぎて『自分の事を勘定に入れない優しさ』になると今度は仲間を傷付ける。」

 

「…」

 

 突拍子もない話をされて、ユウキは理解が追い付かないまま黙ってリンドウの話を聞いていたが、内容はいつかアリサに叩かれた時の内容と少しだけ似ているように感じた。

 

「多分、リーダーだから全部一人で出来なきゃってどこかで思ってるんじゃないのか?一人で出来る事なんてそんなに多くないもんだ。」

 

 確かにユウキ自身、リーダーとなってから色んな任務に出られるようにならねばならないと考え、多くの任務に出るようになった。その結果、大抵は一人で出来るようになっていた。リーダーとはそう言うものだと思っていた事もあり、何故その事を指摘されているのか理解できないでいた。

 

「だからユウ…色んなもん抱えちまって…一人で抱えきれなくなったら、俺達を頼れ。誰かに任せて少しは楽をする事を覚えろ。な?」

 

「楽する…って言われても…」

 

 一人で色々と出来た方がいいと考えている事もあり、ユウキ自身楽をしろと言われてもあまりピンとこない様子だった。

 

「難しく考えるな。一人じゃ難しい、回せない、仕事がだるい、面倒だって時に周りに声をかけろ。俺やサクヤ…コウタ、ソーマ、アリサにリッカ…ここにいる連中はお前の力になってくれるさ。」

 

 『榊のオッサンや姉上、第二、第三部隊の連中や新人達もな。』とリンドウは最後に付け足すと、ユウキの頭を撫でていた手を下ろした。

 

「ふぅ…わりい、何か説教臭くなっちまったな。ん"~そろそろ眠くなってきたなぁ。」

 

 リンドウは立ち上がりながら背伸びをする。

 

「ま、何にしても今のお前の課題は仲間を頼る事と、自分を大事にする事だ。世間ってのはお前が思うほど冷たくもないし、敵に溢れてる訳でもない。少なくともここにいる連中はお前の事を助けてくれるさ。」

 

 リンドウは振り向いて、周りに居るのは冷たい人ばかりではないとユウキに言う。

 

「特にアリサとリッカにはしっかり頼れ。あの2人なら泣いて喜ぶぞ。」

 

「何ですかそれ?泣いてるのに喜ぶって。」

 

「分かんねえならその意味、しっかり考えな。でも最後には1人を選べよ?欲張ってどっちにも手を出そうとするとどうせろくなことにならねぇからよ。」

 

 リンドウが何を言っているのかよく分からず、ユウキが困った様な顔になる。すると次の瞬間、リンドウがニヤニヤしながらとんでもない爆弾発言をする。

 

「ああ、それから…元俺の部屋、隊長用ってこともあってか防音効果が高くてな。励むにはもってこいだぞ?」

 

「はぁ…そうなんですか?」

 

 しかし何の話しか分からないとでも言いたげに、ユウキはポカンとした表情になる。それを見たリンドウは『あぁ、こいつ分かってねぇな…』と思いながらアリサとリッカに同情する。

 恋愛において、ニブチンを相手にするほど面倒な事はない。2人の恋は前途多難だと思い、自分の頭をガシガシと掻いた。

 

「ま、使う使わないはお前の自由だ。俺はそろそろ戻るわ。」

 

 そう言うとリンドウは踵を返して、右手を上げてヒラヒラと振ってエレベーターに向かう。

 

「んじゃ、またな。」

 

「あ、はい。おやすみなさい。」

 

 エレベーターに乗り込むリンドウの背中を見送った後、ユウキはその場でしばらくボーッとしていた。

 

 -外部居住区外 荒野-

 

(リンドウさんが最後に言ってたあれは…結局何だったんだろう?)

 

 ジープのアクセルを踏みながら、リンドウが言った『アリサとリッカなら頼られると泣いて喜ぶ』と言っていた事を考えていた。しかし何故そうなるのか、自分なりに考えてみたが、あまりそれらしい理由が浮かんでこなかった。

 

(そう言えば…リンドウさんの言った通りかも。最近アリサとリッカ…やたらと構ってくるような…何でだ?)

 

 アリサとリッカの事を考えた事で、この1ヵ月の2人の変化を思い出していた。アリサは何処に行くにも着いていこうとするし、一緒に行けない場合は帰ってきた時に身体の調子はどうかとか怪我をしてないかを毎回聞いてくる。

 リッカもあの件以降、何かとユウキの身体の調子や怪我を気にする様になり、更には制御ユニットをベルセルクから防御性能を上げるスルトや傷の治りを早めるプラーナ、気配を消すアサシンと言った防御や回避を優先したものに強制的に変更した。だがその後、やはり合わないと言うことでリッカがベルセルクの防御面を再調整したものを装着し直している。(ただし防御面を調整した事でこの分攻撃能力が落ちたが…)

 甲斐甲斐しく世話を焼く彼女らとリンドウの1人を選べと言う言葉…『もしかして?』と思ったが、すぐに首を横に振る。

 

(まさかな…)

 

 自意識過剰だと、そんなはずないとして1度考えた可能性を否定する。

 

(まあ、追々考えれば良いか。)

 

 結局今の時点では結論が見えてこない。ウンウンと唸りながらジープを運転していると、ようやく外部居住区の外壁が見えてきた。

 

(そろそろか。すっかり遅くなったな。)

 

 日もすっかり沈み、夜になってしまった。思いの外帰りに時間がかかった事を少し恨めしく思いながら、ユウキは外部居住区のゲートに向かった。

 

 -極東支部 食堂-

 

 あれからしばらくしてユウキは極東支部に戻り食堂に向かった。夕飯時にはやや遅いが、それでも本来ならまだ人が多い時間帯のはずなのだが、今は電気も点いてなく食堂そのものが薄暗くなっていた。

 

「…流石に終わってるか…」

 

 昼から始めた式にその後の披露宴…会場が大きく移る訳でも無いため、全てのスケジュールを終えるにはそこまで多大な時間を要する事はない。恐らく3、4時間で終わるだろう。

 そしてユウキが帰ってきたのが式が始まってから5時間…時計は8時を回ろうとしていた。

 『夕飯は無しか…』と気落ちしながら帰ろうとすると、食堂の真ん中辺りの机にタワーの様なものが置かれているように見えた。暗闇に溶ける影の様にボンヤリとだが確かに見えたので、何かと思い近づく。

 

(これって…ウェディングケーキってやつか?)

 

 結婚式と披露宴をやると決めるまでウェディングケーキなんて見たことも聞いたこともなかったが、目の前にあるものは準備の時に資料で見たウェディングケーキに近い形をしていた。何故未だに残っているのかと疑問に思っていると、突然食堂の電気が点く。

 

  『パァンッ!!』

 

「っ!?」

 

 電気が点いてほんの一瞬遅れてクラッカーの音が響き、ユウキは驚いて目をぱちくりさせた。

 そして 何処からともなくアネットが現れて『さあ、本日の披露宴、3人目の主役が到着しました!!』とマイク片手にアナウンスしている。『ア、アネットさん!マイク返してください。』と慌ててヒバリがフェデリコ、ユーリと一緒にアネットからマイクを取り替えそうとしている。

 

「えっ?!はっ?なっ何?!」

 

 状況が飲み込めない。『は?』とか『え?』と困惑したように声を出すことが精一杯の状況で、いつの間にかゾロゾロと極東支部の神機使いを始めとしたスタッフが現れた。

 

「へへっ!!やぁっときたな!!」

 

「まったく、待ちくたびれたぜ…」

 

「コ、コウタ?ソーマ…」

 

 コウタとソーマが黒い礼服を来てユウキに待っていた事を伝える。そしてユウキは2人の『待っていた』とはどう言うことかなのか理解出来ないでいた。

 

「随分と遅かったね。そんなに手間取ったのかい?」

 

「ふっ…敵戦力を見誤ったか?あまり待たされるのはいい気分ではないからな。次同じことをするなら手早く終わらせるように。」

 

「博士…ツバキさんまで…」

 

 ペイラーとツバキはいつもと変わらぬ服装だったがその口振りからユウキが何をしてきたかは分かっているようだった。

 

「よう、ようやく来たか。」

 

「貴方が居ないまま始めるなんて、やっぱり出来ないのよね。」

 

「リンドウさん、サクヤさん…え?披露宴、まだ始めてなかったん…ですか?」

 

 今度はタキシードを着たリンドウとウェディングドレス姿のサクヤまで現れた。そしてサクヤの一言でようやく披露宴はまだ始まってないのだと気が付いて、ユウキはさらに困惑する事となった。

 

「そうよ。元々この披露宴はユウへの恩返しってことでリンドウが企画したんだから。貴方が居ないと始められないのよ。」

 

「え、俺…への?」

 

 ユウキへの恩返しと言われてもユウキ自身にはそんな事される事をしただろうかと疑問に思いながらもなんとか返事をする。

 

「あぁ、まぁな。皆が式を派手にやるってことで、資金やら食料を出し合ってくれたろ?そん時に皆に声かけて色んなもん多めに分けてくれるよう協力してもらったんだよ。」

 

「え…えっと…お、遅くなってすいません。」

 

 ユウキが命懸けでリンドウを連れ帰らなければ、この式自体がなかった。皆それを分かっているから快く物資を分けてくれたのだ。

 だがユウキ自身はそこまで考えが至る事もなく、皆がユウキには内緒でこの披露宴を企画し、それに遅れた事に対してユウキはいたたまれなくなって思わず謝った。

 

「いいさ。式、邪魔されないようにしてくれたんだろ?」

 

 そう言うと、リンドウはユウキの肩に手を乗せ軽く笑って見せる。すると、リンドウの横から『そうだとしても!!』とアリサの怒った様な声がユウキの耳に届くと、ユウキはアリサの方を見る。

 そこにはいつもと同じ配色のオフショルダーのパーティードレスを着て、ナチュラルメイクを施したアリサが居た。

 

「独りで出撃するなんて何考えてるんですか?!今回は何ともなく終わったみたいですけど…何かあったらどうするつもりだったんですか?!」

 

「…」

 

 しかしユウキは怒られているにも関わらず両面を見開き、アリサを凝視していた。

 

「ユウ、聞いてますか?!」

 

「あっい、いや…その…」

 

 名前を呼ばれた事で、ユウキは我に帰る。するとユウキの顔が一気に赤くなり、視線はあちこちに泳ぎ始める。

 

「す、凄く…綺麗だ…って、ぉもって…」

 

 ユウキは気恥ずかしさからアリサを直視出来なくなり、口元を拳で隠しながら視線を反らす。綺麗だと本心から思い口に出すが、最後の方は注意しなければ聞こえない様な声量になったいた。

 

「え…?あっき、き?!」

 

 しかしアリサの耳には届いていたようだ。綺麗だと想い人に言われたと理解すると、アリサもユウキと同じように顔を真っ赤にしつつ、気恥ずかしさらユウキを見れなくて俯いた。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 アリサも消え入りそうな声でどうにか返す。見ていると恥ずかしくなる様な、あるいは背中が痒くなりそうな光景をユウキとアリサが作り出していると、アリサがハッと我に帰る。

 

「って!!き、気を逸らそうとしてもダメですよ!!」

 

「まあまあ、それより!!どう?私の制服姿!!」

 

 説教の続きだと言いたげにアリサは照れ隠しの意味も込めて怒り出す。しかし、横からリッカがアリサを落ち着かせる。そしてリッカはいつもと違う服装の自分をアピールする。

 

「あ、あぁ…いつもと雰囲気が変わったからかな?可愛いと思うよ。」

 

「先輩!!私のドレスも見てください!!」

 

 今度はアネットがユウキの視界に飛び込んできた。全体的に今までと同じイメージカラーである青い色のドレスを着ている。

 

「アネットは青のゴシックドレスか。イメージにも合ってるし、綺麗だよ。」

 

「…何かアリサの時と私たちの時とで温度差ない?」

 

 ユウキからしたら普通に褒めたつもりだった。実際、リッカの事もなくアネットの事も可愛いとも思ったし、綺麗だとも思った。

 しかし、リッカはそんなユウキの反応に何処か不満を覚えたのか頬を膨らませていた。

 

「へ?そんな事ないよ。」

 

 そんなこんなでユウキがリッカやアネット、アリサと話しているのをユーリが複雑そうな表情で見ていた。

 

(やっぱり…僕じゃダメなんですね…)

 

 少し前にアリサに告白してフられたが、どうにかしたら振り向いて貰えるかもと思ったが、自分とユウキの態度の違いにそれも無理だと悟った。

 ユーリへの態度は精々手の掛かる弟程度だったが、ユウキに本気で怒ったり心配したりする姿は、惚れた男の身を案じているが故だと気が付いた。もう自分には気持ちが向くことはないと分かって諦める方向に気持ちが向いている事に気が付いた。

 

(初恋ってのは…実らないものなんだなぁ…)

 

 この披露宴でやけ食いと決めたところで、マイクを取り戻したヒバリの声が響く。

 

「さあそれではっ!!ただいまよりリンドウさんとサクヤさんの結婚披露宴を始めます!!」

 

 ヒバリの開始の音読で遂に披露宴が始まった。

 

「「「先輩!!」」」

 

 しかし開始とほぼ同時にユウキは4、5人のガチムチ系神機使いに囲まれ、近くのテーブルに座らされた。

 

「え…な、何?」

 

「こ、これ!!俺らで作ったんです!!是非食べてください!!」

 

 男たちは海に浮かぶ孤島にも見える巨大なカレーを差し出す。その物量に驚きながらも『いただきます』と言ってユウキはカレーを食べ始める。

 

「あ、美味しい!!」

 

 意外と好みの味付けだったのか、ユウキはすごい勢いでカレーを平らげていく。

 

「「神裂さん。」」

 

 今度は数人の女子があるものをユウキに運んできた。

 

「これも食べてください。」

 

 それは人の頭より一回り程大きい巨大なプリンだった。まだカレーを食べ終わってないにも関わらず、ユウキはプリンを頬張り次はカレーを食べていく。

 次々と目の前の食べ物を食べていき、カレーとプリンのほかにも肉丼、ラーメン、麻婆豆腐等々…10人前程食べきるその光景はもはや一種のショーになっていた。

 

「これもどうぞ。」

 

「お兄ちゃん!!これどうぞ!!」

 

 すると横からサイコロステーキが出された。さらにはそのステーキとは別でカップに入れられたコーンスープも一緒に置かれていた。

 

 

「エドワードさん?!エリナちゃんまで?!」

 

 差し入れしたのはエドワードどエリナだった。予想外の人物の登場にユウキは驚いていたが、エドワードはなにやら神妙な顔になる。

 

「…エリナの事、聞いたよ。」

 

 その事を聞くと、ユウキから冷や汗が流れる。まさかと思い、横目でエリナを見ると舌を出して『やっちゃった』と言いたげな顔をしていた。

 

「…すいません。」

 

「いや、いいさ。この子もこの子なりに…前に進もうとしていたんだろう。むしろ私のワガママが、エリナの歩みを止めてさせてしまっていたようだ。」

 

 『娘に余計な事を吹き込むな』と怒られると思ったが、帰ってきたのが答えは肯定的な答えだった。

 

「この子が良い神機使いになれるかは分からないが…その時はよろしく頼むよ。それじゃ、失礼させてもらうよ。」

 

 そう言うとエドワードは踵を返して別の別の場所に行ってしまった。それに続いてエリナも『じゃあね』と言って父親の後について行った。

 それを見送って、目の前のサイコロステーキとコーンスープを食べていくと、今度は白衣を着た人がユウキの隣に座った。

 

「やあ。」

 

「ルミコ先生?」

 

 顔を見ると、隣に座った人物の正体はルミコだった。手にはウイスキーの入ったグラスが握られていた。既に少し酔いが回り始めているようだ。

 

「本格的に酔っちゃう前に例の件話しておこうと思ってね。」

 

 ルミコは以前ユウキから頼まれていた事について話したいと言うと、ユウキから視線を外す。

 

「左目…やっぱり治せないみたいなんだ。」

 

 それを聞いた時、『やっぱりか』とユウキは内心思っていた。ダメ元で言うだけ言ってみたがそんなに都合良くいかないようだ。

 

「回復錠は自然治癒力を大きく高める薬なんだけど…それらは臓器やそれらを包む筋肉や皮膚を再生させる効果はある。でも目や耳のような外からの刺激を関知する感覚器には効果が無いみたいなんだ。」

 

 『ごめんね』とルミコは謝るとユウキは首を横に振る。

 

「 大丈夫ですよ。左半分見えないのは不利ですけど、まだ戦える。普通の生活でも特に不自由はないので、気にしないでください。」

 

「うん…分かった。そうしとく。」

 

 ルミコは『何か治せそうな方法見つけたら教えるよ』と言って立ち上がり、その場を後にしようとするも、何かを思い出したように『あっ!!そうそう』と言ってユウキの方に向き直る。

 

「君のアラガミ化なんだけど…不思議なことに悪化はしてないみたい。僅かに侵食された細胞が残ってはいるけど、それもじき消滅して少しずつリンドウさんの神機を使う前の状態に身体が戻ってるみたい。もうアラガミ化の件は気にしなくても良いと思うよ。」

 

 そう言って今度こそルミコはその場を後にした。取り敢えず諸々の心配事はなくなったのだろうと思い一安心した所でふとリンドウとサクヤの方を見る。そこには第一舞台を始め、第二、第三部隊、それ以外の神機使いに囲まれて談笑しているリンドウとサクヤが目に映る。

 誰もが笑っていられる未来…その第一歩を掴み取れたと思うと、危険な橋を渡った甲斐もあったと言うものだ。

 そんな中、アネットがフェデリコ、ユーリを連れてリンドウとサクヤに話しかける。

 

「結婚おめでとうございます!!リンドウさんのタキシード姿はカッコいいしサクヤさんは綺麗で、私感動しました。」

 

「ふふっありがとうアネット。」

 

 するとアネットは『ん"ん"っ!!』と咳払いして、マイクを持っている様な動作で右手を自分の口元に持ってくる。

 

「それでは少し質問があります。この結婚を期にお子さんの予定は?なんて…」

 

 まるでジャーナリストの様にマイクを相手に向ける仕草で右手をリンドウに向ける。フェデリコとユーリは『いきなり失礼じゃないか?』や『何かすいません』とテンションの上がったアネットを止められないことを申し訳なく思っていた。

 

「ん~まあ、しばらくはなさそうだな。まだ色々とドタバタしてるんでな。けど、名前だけは決めてあるんだ。俺の事をずっと支え続けてくれていた相棒の名前で貰ってな…」

 

 そう言うとリンドウは右手のコアに当たる部分を一目見て撫でると、アネットの方にもう一度向き直る。

 

「『レン』って言うんだ。」

 

Next Part 71




 色々詰め込んだ結果グダグダになりました。結局の所、何時ものように周りに説教されただけなのに…((( ;゚Д゚)))
 次からはリザレクション編に入りますが、オリジナル要素が濃くなり、グロ描写も増えていきます。そんな要素要らねぇよと言う方は今後の閲覧には注意してください。
 構成のし直しやらで次の投稿はかなり遅れると思いますが、また読んで頂けると嬉しいです。
 以下にオリキャラの紹介します。興味の無い方はスルーしてください。

Norn -登場人物-

  ユーリ・イヴァーノビチ・ヴァルバロス
 性別:男
 年齢:17
 誕生日:8月6日

使用神機
 刀身:クレメンサー
 銃身:サイレントクライ
 装甲:ティア・ストーン

 ロシア支部から新型育成のため、極東支部に転属となった癖のある金髪に青い目が特徴の少年。所属は遊撃任務を主とする第四部隊。元々新型育成はアリサから得られた戦闘記録を元に、ロシア支部で行われる予定だったが、本人の強い希望で極東支部でアリサとユウキから指導を受けることに。
 ロシア支部出身で他を寄せ付けない活躍をするアリサのファンと言うこともあってか、戦い方もアリサと似通った所があり、後衛と支援を得意とする。神機使いになった当初は常にベストな動きをしようとして、長考する欠点があったが、ユウキとアリサの実戦形式の指導もあり、新人3人の中では最も早く成長し、長考する癖もかなり改善されている。また、戦闘では立ち位置的にも状況に応じて指示を出せるようになってきている。
 アリサに対して異性としての好意を持っているが、アリサのユウキへの態度を見てアリサの気持ちを察したがダメ元で告白、玉砕した。
 アリサに会いたいと言うこともあり極東支部へ転属することを決意した。


【挿絵表示】


  神裂ユウキ

使用神機
 刀身:火刀極、大氷刀極、雷刀極、護人刀真打
 銃身:アルバレスト極
 装甲:剛汎用シールド

 アナグラがヴァジュラテイルに襲撃された際に適合していないリンドウの神機を使用し、アラガミ化の兆候が現れるようになる。
 ただし漏斗型抗体持ちだったため、アラガミ化の進行は非常に緩やかなものとなっているが、神機の能力解放、脳のリミッター解除は出来なくなった。
 以前からアーク計画を止めた事による負い目から、残してしまった人たちを護る事に固執し、周囲から生き急いでいる様に捉えられる。そしてリンドウの神機を使った事を期に、仲間達と自身の間で『神裂ユウキ』への価値観がズレていると感じ始める。
 その後後輩の指導をしながら、レンと出会い、感応現象を駆使してリンドウを取り戻すも、左目を摘出する怪我を負うことになる。
 なお、リンドウの神機を2度使ったが、2度目に使った後から、アラガミ
化の兆候は消え、侵食を受けていた細胞は完全ではないが元に戻っている。残った侵食を受けている細胞も活動を弱めている事から、アラガミ化の心配は無いだろうとされている。
 ちなみにリンドウの一件でファンクラブが出来たが、女顔と自らの命を省みずにリンドウを救う男気のため、女子よりも男子の方が会員数が多かったりする。現状他にはカレル、ソーマのファンクラブがある。リンドウのファンクラブも存在するが、K.I.Aになった事で解散し、戻ってからすぐにサクヤと結構したことで現状復活の予定は無いらしい。
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