-訓練室-
ユウキが目覚めた翌日、リッカが神機の調整を終わらせた後、訓練室にて神機の試運転も兼ねた模擬戦を行っている。
今はあくまで試運転のため、少数の大型、中型種との戦闘をしている。右手には今まで使っていた神機に強化した護人刀神討を装備、左手にはユーリが使っていた神機をユウキ用に調整したものをそのままの状態で使って、ユウキが大型、中型種と戦闘している。
そしてその様子をリッカが管制室から神機の状態を見ながら観察していた。
「うん、ここまでは何ともなさそう。」
模擬戦用のヴァジュラをユウキが斬り捨てるのを見ながら、2つの神機から送られてくる様々な数値やグラフを読み取りながらボソッと呟く。
(…ここからパターンを変えてみようかな?)
ユウキが順調に訓練用のアラガミを倒すところを見たリッカが、心の内で次の別の戦闘パターンでのデータを集めようと考えると、操作盤のスイッチを押していく。
その頃、ユウキは飛びかかってきたコンゴウの下を潜り抜けると右に回転する。そして振り向き様に右手の神機を振り抜く。まだ空中に居たコンゴウの両足を斬るが、足の厚み半分程の傷がついた程度の傷だったので、今度は身体ごと回転させて左手の神機で同じ場所を斬り裂く。
(…神機が2つに増えた事で広範囲をカバー出来る様にはなったけど…一撃の威力は落ちた様な気がする…片手で扱うせいか?)
両足を斬り落とされたコンゴウは着地に失敗して、ユウキに背中を見せた状態で近くに倒れる。その様子を見たユウキは神機の攻撃能力が落ちている様に感じる。今までは両手で振るっていた神機を片手で振るとなると、1つの神機にかけることのできる力はこれまでの半分と言う事になる。
(筋トレするか…)
攻撃能力の落ちは結局のところ、腕力不足が原因と考えた。解決策は筋トレしかないだろうとして、今後は『筋力を倍に上げるか』軽く考えていると、その間に摺り足でユウキに近付いてきたシユウが手刀を振り下ろそうと構えていた。
「チッ!!」
ユウキは身体を回転させた勢いのまま右手の神機を振る。シユウの翼手に神機が半分食い込んだ状態で、手刀を止める。するとユウキは食い込んだ神機を軸にして上へ跳び、シユウの頭の高さと程まで跳び上がる。
そして左足でシユウの頭に蹴りを入れて怯ませると、蹴った自身の足に添うような軌道で左手の神機でシユウの頭を斬り飛ばす。
シユウが視覚を失った隙に右腕の神機からインパルスエッジを発射する。その勢いで右手の神機が翼手を斬り落とし、シユウが再び怯んだ隙にユウキが少し離れた位置に着地する。そしてユウキは一気に距離を詰めると外から内への軌道で両手の神機を振ってシユウを両断すると、再度踏み込んで今度は内から外に向かう軌道で倒れていたコンゴウを斬り捨てる。
(オウガテイルにザイゴート…)
シユウとコンゴウを倒したところで、離れた場所にオウガテイル、ザイゴートがそれぞれ2体現れた。出現するとすぐに全員がユウキに向かってくる。
ユウキも距離を詰めながら両手の神機を銃形態に変形して、遅れているオウガテイル2体に銃口を向ける。
(ッ!?)
しかし、銃形態に変形してからすぐに違和感に気が付く。銃形態は本来『両手』で持って使う事を前提にした形状をしている。つまり片手では持つことは出来ても照準を合わせる事は出来ないのだ。
『『バンッ!!』』
発砲音と共に2つの神機から狙撃弾が射たれるが、どちらもオウガテイルを捉える事なく空を切っていった。
「チッ!!」
今のままの銃形態では狙いもまともにつけられない事に舌打ちをすると、ユウキは両手の神機を剣形態に変形して、接近してくるザイゴートに向かっていく。
まずは先に接近してくる右側のザイゴートを跳び上がりながら上から下へと縦に斬り捨てると、今度は左側から大口を開けて迫ってきたザイゴートを左手の神機を外から内に振ってこれまた横方向に両断する。
残ったオウガテイルが右前と左前から迫ってくる中、ユウキは空中で左手の神機を投擲する。投げられた神機は左側のオウガテイルに突き刺さって怯ませる。
その間にユウキは右手の神機を両手で握り直し、着地と同時に右側のオウガテイルとの距離を一気に詰める。そして間合いに入ると袈裟斬りを繰り出してオウガテイルを斬り倒すと、神機が刺さったままのオウガテイルが体勢を立て直す前に敵との距離を詰める。そして刺さった神機に左手で手をかけると、勢い良く外に神機を振って最後のオウガテイルを倒した。
『オッケー、テスト終了。1度会議室に集まろう。』
-会議室-
試運転が終わり、会議室に来たユウキとリッカは試運転中に得られたデータを見ながら神機の強化プランを話していく。
「さて…一通り試運転してみたけど、一番大きな問題点は…」
「…銃形態がまともに使えないってところだな。」
リッカとユウキが共通した問題点として、銃形態を使用したときの不具合が挙げられた。
「そうなんだよね。私も神機を2つ使う事ばかりに気を取られてて…こんな初歩的な不都合に気が付かなかったなんてなぁ…」
「銃形態は両手持ちすることを前提にグリップが配置されてるし…いっそのこと銃形態を封印してしまうか…」
神機を2つ使うと両手が塞がるため、両手持ちを前提とした銃形態はかなり扱い難くなる。幸いこの不具合は銃形態の時のみであるため、銃形態そのものを封印してしまえば、問題の解決にはなってないが、取り敢えず大きな不具合と呼べるものはなくなると言うのがユウキの考えだった。
「それじゃあ新型のコンセプトから離れちゃう。新型から銃形態を取ったら出来る事が半分以下になっちゃうし、何より戦闘で咄嗟に出てくる動きや考えってのは今までの様な銃形態も使用したものだと思うし…どうにかして銃形態を使い続けたいんだけど…これがまた難しいんだよねぇ。」
「う~ん…どうしよう…」
しかしリッカの考え方あくまでも銃形態を使う事も可能にした上での改修をすると言うものだった。これまで培ってきた経験や戦い方は銃形態ありきのものだ。強力なアラガミが出現し続けている状況で、慣れきってしまった戦い方を急に変えるのは危険だ。そのためどうにかして銃形態を使えるようにするべきだと言うのがリッカの意見を聞いたユウキが、どうにか打開策は無いものかと首を捻る。
「プランはいくつか考えてあるんだけど…あまり現実的じゃないものばかりだね。一番簡単なのは銃の様なグリップを追加する方法なんだけど、これじゃぁ片手持ちで持ち直さなきゃいけないんだよね。」
「戦場じゃそんな余裕が無い場面が多いし…咄嗟に銃形態を使えないのもな…何とかして持ち変え無しで使えないものか…」
リッカが提示した最も簡単な解決策は、銃形態用のグリップを新しく付けて、拳銃の様に保持しようと言うものだった。しかし両手が塞がっている中、別のグリップに持ち変えるのはほぼ不可能な上、変形の際に握り直して万が一にでも落としたらそれこそ大きな隙になる。どうやら持ち変える必要がある方法は採用出来そうにはない。
「そうなってくると変形機構そのものに手を入れるとかって話になるけど、神機の基本構造から改造する必要があるんだよね。」
「変形機構って改造出来るの?」
次にリッカが提案したのは神機の変形機構そのものの改造だったが、ユウキはそんな事が出来るとは思わなかったため聞き返す。
「ある程度ならね。実際ポール型神機への改修とかもあるし。ただ個人的にはあまりオススメしない。小さな変更ならともかく、大きく変えてしまうとまた神機の学習に時間がかかるし、上がった適合率にも影響あるかも知れないから…」
「じゃあ、今の神機の持ち手を銃形態の時に折ったら、銃の様な持ち方が出来るんじゃ…?」
神機の変形を多少は弄れると聞くと、ユウキは今付いている持ち手を銃形態に変形するときに折ってしまえばいいと言う。
「それはダメ。と言うか、ユウの場合やっちゃいけない。」
「え…?何でさ?」
「君の腕力、神機の武装を破壊するような力を出せるんだよ?そんなので中折れ式のグリップなんて使ったら衝撃で神機が根元から折れちゃうよ。そうなったら修復不可能…2度とその神機は使えなくなる。」
「あぁ…そうか。強度がかなり落ちるんじゃ実戦に使えなくなりそうだし…どうしようか…?」
ユウキの提案は恐らく誰もがまず最初に思い付く変形方法だろうが、リッカはその案をバッサリと切り捨てる。
と言うのもユウキは過去に自身の腕力で神機の装備を破壊したことがある。そんな力で芯が通ってない武器を振るっても、強度が足りずにそこから折れるのが落ちだろう。
良い案だと思ったが、結局強度不足と言うことで廃案…改善案が出ないまま振り出しに戻る事となった。
-1時間後-
「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"…ダメだ。何も思いつかない…」
「何とか早めに改修したいけど…どうするかを思いつかないとなぁ…」
かれこれ1時間程、あーでもないこーでもないと2人で頭を抱えていたが、集中力が切れてきたのか、ユウキはぐったりと机に突っ伏し、リッカも椅子の背もたれに思いっきり背中を預けて脱力していた。
「刀身の改造の事もあるし…もうこれ以上時間をかける訳にもいかないか…」
「そうだね。今回は一旦終わろう。あとは気になる事ある?」
以前破壊した刀身の修繕、強化もまだ手付かずの状態だ。今までとは違う強化の仕方であるため、強化方法を早く確立させる必要もある。いつまでも解決策の見付からない問題に集中している余裕は無いのも事実だ。
「剣形態なんだけど、今まで両手で振ってた神機を片手で扱うからか、一撃の威力が落ちた気がする。神機のグリップ同士を接続して1本にして両手持ちにしたりって出来ないかな?」
「その程度なら大した事はないね。やろうと思えばすぐに出来る。」
「ならそこは任せるよ。それから、刀身の改造…何か必要なものってある?」
ユウキが戦闘中に2つの神機を1つに繋げる事が出来る方が良いと言う。少しばかり手間はかかるが、大した作業でもないため、任せるようにリッカが言う。
「うーん、まだなんとも…一応方法は考え付いたから、これからダミー品で試験する。要るものがあればその後に言うよ。」
「分かった。変形機構はこっちでも何か考えてみる。」
刀身の強化は何かやり方を思い付いたらしい。リッカが試験の後に必要なものを伝える。今は待つしかないようなので、ユウキはその事を了承すると、変形については自分でも考えてみると言って椅子から立ち上がる。
「了解。刀身の方は上手くいけば数日中には完成すると思うから、その時は試運転するから必ず来てね。」
「うん。それじゃあ。」
最後に刀身の試運転には必ず来るように言われて、ユウキは会議室を出ていった。
-翌日-
ツバキから召集を受けた昼過ぎに、ユウキを除いた第一部隊はエントランスに集まっていた。そんな状態でしばらく雑談をしていると、ユウキがエレベーターから降りてきて、第一部隊の元にやって来た。
「あ、ユウ…」
「よ、よう。珍しいよな?ユウが一番最後って…」
前回の逆ギレが凄まじかったのか、アリサとコウタがユウキに気が付くと若干よそよそしい態度で話しかける。
リンドウ、サクヤはいつもと変わらない様子で普通に話しかけてきた。そしてソーマは考え事でもしているのか、気付いている様子もなく特に何も言わなかった。
「あ、あの…」
少しの間沈黙が走ったが、おずおずとおずおずとユウキが話しかける。
「えと…その、この前の事…ごめんなさい。」
ユウキが頭を下げて前回怒鳴り散らした事、他人の神機を使ったことを謝る。
「アリサが言ってた様に…どんな状況であっても他人の神機を使ったのは悪手だった。アイツの動き自体は見切れていた以上、どうにかして逃げる手を考えるのが得策だったのに、俺は戦って倒す事に固執した…何を言われても、俺の判断ミスだったのに、皆に八つ当たりしまった…ごめんなさい…」
ユウキが頭を下げたまま話していく。
「いいって、気にすんなよ。」
「そうよ。色んな事が一辺に起こって頭を整理仕切れなかったんでしょ?」
「ま、生きてりゃそんな事もあるさ。そんなに気負うなよ。な?」
コウタ、リンドウ、サクヤは特に気にした様子もなく、いつもと変わらない様子で気にするなと言ってた。
「…まぁ、そうだな。」
そしてソーマが少し遅れて賛同する。しかしついさっきまで考え事をしていたせいで上の空だったのか、何処かハッキリしない口調だった。
「あの、私の方こそごめんなさい。博士から聞きました。事後処理で…ユーリのご両親から色々言われたって…そんな時に、私もキツいことを言ってしまいました…ごめんなさい。」
「ううん、あれはアリサが正しいよ。あの時にも言ってたけど、動けなくなる可能性の方が高かったんだから、やっぱりあれは悪手だったと思う。」
「でも…」
恐らくペイラからの助け船だったのだろう、ユウキがユーリの両親にボロクソに言われた事はどうやらアリサ達にも伝わっていた様だ。
流石にそんな事があった後に色々と言われたらとな虫の居所が悪いのも無理はないと思い、アリサはキツく言ったことをユウキに謝る。
しかしユウキが怒られる事になったのは、他人の神機を使った事が大元の原因であり悪いのは自分だと言ってアリサ達に謝
結果、謝罪の無限ループが発生したが、リンドウがユウキとアリサの間に割って入る。
「まぁまぁまぁまぁ、このまま謝り倒しても埒が明かないのは目に見えてんだからよ。お互い今まで通りに接するて事で手打ちにしよう…な?」
「…はい。」
「分かりました。」
何時かと同じように、互いを許すなら今まで通りに接しようとリンドウが言うと、ユウキもアリサも落としどころとして納得した。
「話は終わったか?」
「ツバキさん?!」
いつの間にかいつものボードではなくタブレットを持ったツバキがユウキの後ろに立っていた。
『いつからそこに?!』とユウキは驚いた様子だったが、ユウキが謝罪し始めた頃にはもうエントランスには来ていた。ただエレベーターから降りたところで気が付いたので、リンドウ達には見えていて、ユウキには見えない位置で待っていたのだった。
「ユウキ、何度も言うが、今後このような事はするなよ?」
「は、はい…すいませんでした。」
話の内容は聞こえていたのか、ツバキが目を鋭くして強い口調でユウキに厳重に注意する。プレッシャーに圧されたユウキが冷や汗を流しながら応えると、ツバキは任務の話を始める。
「さて、ブリーフィングを始めるぞ。本日の任務は、旧地下鉄に大量発生したコクーンメイデンの討伐だ。」
「コ、コクーンメイデン…?何だってそんなのを俺達が…?」
「ただのコクーンメイデンじゃない…ってことだろ?」
まさかの討伐対象にコウタが驚きに不満が混ざった声を上げる。通常コクーンメイデン討伐は現場の空気に慣れさせる訓練も兼ねて新人達に回されるもだ。それをベテランや極東支部のトップクラスの神機使いが集う第一部隊に回される事などまずあり得ない。
ならばこのコクーンメイデンが第一部隊が討伐するに値する敵となっている特殊な個体なのだろうとソーマは予想し、周りに気を引き締める様に促す。
「その通りだ。現在、このコクーンメイデンはこれまでとは違うオラクル反応を示している。その影響か分からないが、周囲のアラガミが旧地下鉄に集まりつつある。」
件のコクーンメイデンに引き寄せられる様に周囲のアラガミが依ってきているらしい。ツバキはその事を伝えるとタブレットを操作して旧地下鉄周辺の地図を表示するとそれをユウキ達にも見せる。
「この旧地下鉄に向かっているアラガミ群は2つ…まず最初に接触するのは小型種で形成される小さな一団だろう。」
旧地下鉄を中心に表示された地図を見ると、確かに地下鉄の東側に小さな三角で示されたアラガミの一団とその更に外側から囲うように細い円形で示された一団がある。
「そしてその後に接触するのは、旧地下鉄を包囲するように近づいて来る大きな団体だ。以前のヴァジュラの様な例もある。後から接触するアラガミ群とのとの戦闘を避けるため、任務時間は30分とする。」
「30分…」
「短いですね。」
「今回の任務では第一部隊を戦闘、調査を行う1班と退路の確保、防衛をする2班の計2班に分ける。」
先日のヴァジュラの様な強力に進化した個体もこの大きな一団の中に居る可能性もある。この大多数を相手にしながら特異に進化したアラガミと鉢合わせようものなら、間違いなくあの世行きとなる。それを防ぐ為にもツバキは任務時間の制限を設けたのだ。
「旧地下鉄の周辺にアラガミが展開している以上、ヘリによる上空からの侵入となる。1班はそのまま地下街へ調査に向かい2班はヘリの防衛と地下街へのアラガミの侵入を阻止する。班員編成はユウキ、お前に一任する。」
「分かりました。」
既に作戦領域が方位されかけているため、第一部隊を現地調査と退路確保に分ける必要がある。ツバキはその班員構成をユウキの判断に任せるとタブレットをしまった。
「ブリーフィングは以上だ。何か質問は?」
沈黙が返ってきた。誰も作戦に意義や質問は無いとし、ツバキはブリーフィングを終わらせる。
「よろしい。今回の任務はノヴァの残滓や第二のノヴァからの影響について詳し知る事が出来る可能性もある。必ずサンプルを回収するように。以上だ」
-煉獄の地下街-
ブリーフィングの後、現地調査の1班をユウキ、リンドウ、サクヤとし、退路確保のた2班をソーマ、アリサ、コウタで振り分けた後、ユウキは右に持つ神機に強化しておいた『護人刀神討』、左に持つ神機はクレメンサーから変更しないで作戦領域へと向かった。
実際に現地でコクーンメイデンと戦ったまでは良かったが、特に変わった様子もなくすぐに任務は終わり、待機ポイント付近まで移動してきた。
「あっけないわね…本当に特異な反応を出していたのかしら?」
「戦った感じだと、普通のコクーンメイデンと変わらない気がするんですけどね…」
サクヤとユウキが口々に何の変哲もないコクーンメイデンだったと言っている。
「…」
しかしリンドウはそれらに応える事はなく、別の事が気になっていた。
(ユウのヤツ…どうしたんだ…?)
リンドウは先のコクーンメイデンとの戦闘で、ユウキの戦い方に違和感を感じていた。と言うのも、いつもなら前線に出るユウキが徹底してサポートに回っていたからだ。
特にリンクバーストのための捕食も、コクーンメイデンの身体の隅の方を捕食していたりと、まるで殺さない様に気を使っているようだった。
「なあユウ、お前…」
意を決したリンドウが先の妙な戦い方は何だったのかを聞こうとする。しかし…
『皆さん!!緊急事態です!!』
ヒバリからの通信に阻まれた。
「ヒバリさん?!一体何が?!」
『今、高速でそちらに接近するアラガミ反応を2つ確認しました!!こちら…ら…地上な………下……か…分か………ので、1班2…共…警…し……だ…い!!』
コクーンメイデンが居たせいか、通信にジャミングがかかり、次第に通信のノイズが酷くなってくる。
『ガァァァアン!!』
通信の内容がまともに聞こえず何なのかと思っていると、突然地下街の壁を破壊してハンニバルが現れた。
「ッ!!」
そしてハンニバルはそのままの勢いで鋭い爪でユウキに切りかかる。どうにか左手の神機の装甲を展開して攻撃を防ぐが、装甲を大きく抉った傷を作りつつユウキを吹っ飛ばす。
「コイッ…ツッ!!」
ユウキは吹っ飛ばされて大きく後ろに後退しながらも何とか踏みとどまる。
「ユウ!!後ろ!!」
しかしサクヤの声でユウキは後ろを向く。すると今度はハンニバル侵食種が殴りかかる。
「グッ!!」
今度は右の神機の装甲を展開して防ぐが、殴られた事で装甲が凹み、その威力を示す様にユウキは弾丸の様な勢いで殴り飛ばされる。飛ばされたユウキは壁を砕きながら叩き付けられる。
「ケハッ!!」
叩き付けられたユウキは一瞬意識を飛ばされながら肺の空気を吐き出す。
(なん…つう威力だよ…)
飛びかけた意識の中で異様な威力に驚きつつ、内心この状況に危機感を覚える。
「ハッ!!」
「こっちよ!!」
リンドウがユウキの間に入ってハンニバル侵食種と戦闘に入り、サクヤは離れた位置からハンニバルの注意を引く。
「ユウ?!大丈夫?!」
「はい!!」
サクヤの呼び掛けでユウキの意識がハッキリした。装甲を閉じるとハンニバル侵食種をリンドウに任せてその脇を抜ける。そしてサクヤが気を引いているハンニバルに向かっていく。
「ゼアッ!!」
右の神機を振り下ろし、装備された護人刀神討がハンニバルの左手に装備されている籠手を捉え、刀身が食い込んだ。
(チッ!!攻撃は通るけど片手じゃ威力が…!!)
この攻撃で防御性能はほぼ原種と変わらない事は分かったが、まだ二刀流に慣れておらず、片手持ちでは両手持ちの時と比べて一撃が軽い事に心の内で舌打ちをする。
『ブンッ!!』
「うわっ!!」
最後まで斬れないと分かった瞬間、ハンニバルは左腕を外側に振り、ユウキを振り払う。ただ刀身が食い込んだだけの神機を握ったユウキはそのまま投げ飛ばされる。
「グッ!!」
投げ飛ばされつつも体勢を立て直し、左腕のクレメンサーを地面に突き刺して、左肩を痛めながらも壁にぶつかる前に急ブレーキをかける。
『グォォォオッ!!』
ハンニバルが両手に炎で剣を作り、雄叫びを上げながらユウキに接近する。
「させない!!」
サクヤがハンニバルの後ろから狙撃弾を射つ。しかしハンニバルは左に回転しつつ左手の炎の剣で狙撃弾を焼き切り、右の炎の剣でユウキに斬りかかる。
ユウキは後ろに跳んで躱す。だが躱した先にハンニバル侵食種が飛びかかる。
「当たれッ!!」
今度はリンドウがオラクル弾を放つ。最初の1発がハンニバル侵食種の眼前に飛んできたので、ハンニバル侵食種は空中で身体を捻って向きを変える。そして黒炎の輪をリンドウに向かって放ち、尻尾をユウキに叩き付ける。しかしその間のリンドウの射撃は明後日の方向に向かってくものばかりだった。
「リンドウさん!!ちゃんと狙ってください!!」
「無理言うな!!銃なんて2、3回しか使った事ないんだからよ!!」
「にしたって下手すぎですよ!!」
リンドウとユウキは罵り合いながらハンニバル侵食種の尻尾をジャンプで躱す。跳んでいるユウキを狙ってハンニバルが拳を構えるが、サクヤの狙撃弾を放った事を察知すると、左に回転して裏拳を放ちながら籠手で狙撃弾を弾いた。
「捕食する!!」
ユウキは身体を捻って勢いよく身体に回転を加え、両手の神機から捕食口『弐式』を空中で展開してハンニバルの右腕、ハンニバル侵食種の尻尾を捕食してバーストする。
『『『ドクンッ!!』』』
(ッ?!?!)
しかしバーストした瞬間、両手の神機だけでなく自身の内側で『何か』が脈打つのを感じつつ、いつものバースト以上に力が溢れる感覚を覚えてユウキは驚く。
そして捕食された事で2体が怯んだ隙に着地し、もう1度身体を回転させてハンニバルに向かって左手の神機を振り上げる。
(…)
ユウキはその瞬間にハンニバルを真っ二つに斬り裂く様を鮮明に想像する。
『グォォォオッ!!』
(ッ!?!!)
しかしユウキが神機を振り下ろすよりも先にハンニバルが殴りかかる。その一瞬後にクレメンサーを振り下ろす。
『ギィィィンッ!!』
「そんな!!」
「折れた…だと?!」
しかし、ハンニバルの拳を斬り付けたクレメンサーは甲高い音と共に折れてしまった。
幸いにも斬り付けた時の衝撃で拳の軌道が逸れて、ユウキの眼前を通り過ぎる。拳を振り抜いた後の腕を体勢を直しつつ右足で蹴り、ユウキはハンニバルから離れる。
「全員撤退!!リンドウさんとサクヤさんは先に行ってください!!」
ハンニバルと距離を取りつつ着地すると、ハンニバル侵食種が爪を立ててユウキに突っ込んでくる。それをハンニバル侵食種の股下に飛び込んで避けつつも、このハンニバル達の異常な攻撃力を前にして、今の自分達じゃ敵わないと判断して撤退の指示を出す。
「ユウ?!何言ってるの?!」
かつてリンドウを置いていった時の状況と似ていたため、思わずサクヤは止めようとする。
「…信じて良いんだな?」
「リンドウ?!」
対してリンドウは撤退指示に従うつもりのようだ。サクヤは正気かとでも聞きたそうな表情でリンドウを見る。
「大丈夫です!!考えはあります!!」
ハンニバル侵食種の股下を抜けると、右回転しながら護人刀神討でハンニバル侵食種の左足を斬りながらユウキが応える。
ユウキとて死ぬ気はない。かといってこのまま放置して帰ればハンニバル達がここを抜け出して外部居住区等に攻めてきたら対処のしようがない。
最低限動きを止めて外部居住区に侵攻するまでの時間を稼ぐ必要がある。そのためにはハンニバル達がターゲットとする対象が複数居ては誘導しにくいので、結局誰か1人を囮にする以外に方法は無いのだ。
「分かった。サクヤ!!撤退するぞ!!」
「…ユウ!!絶対帰って来なさい!!」
リンドウとサクヤが撤退するのを確認すると、ハンニバル侵食種がリンドウ達を追って走り出す。
「行かせねぇ!!」
右の神機でジャンプしながら斬り上げてハンニバル侵食種の頭を狙う。しかしユウキの攻撃もハンニバル侵食種が急ブレーキをかけて首を後ろに引いた事でそれを避ける。
だがユウキは斬り上げた勢いで身体を回転させ、左手の神機の銃口をハンニバル侵食種の頭に突き付ける。
「ぶっ飛べ!!」
ユウキの怒号と共に左手の神機からインパルスエッジが発射される。ユウキの神機程強化していなかったため、そこまで威力は高くはないが、ハンニバル侵食種の頭部に傷を作るには十分な威力だった。
「ほら!!こっちだ!!」
インパルスエッジの衝撃でユウキはハンニバル侵食種から離れつつ着地した。すると今度はハンニバルが拳を作ってユウキに飛びかかる。それを後ろに跳んで避ける。そしてユウキは待機ポイントを通りすぎて地下の旧ショッピングモールに続く道を真っ直ぐに下っていく。
逃げるユウキをハンニバル侵食種が追い、遅れてハンニバルが追いかけてくる。
ハンニバル侵食種が立ち止まって黒炎の輪を吐き出してきたのを後ろを見て確認する。それをジャンプで避けると、今度はハンニバルが両手の爪を立てて走ってきた。ユウキは身体を捻ってハンニバルと向き合う様にすると、着地と同時に後ろに大きく跳ぶ。
ハンニバルが両手の爪で切り裂いてきたのを躱し、また同じ道をショッピングモールを越えても走っていく。
外したと分かると、ハンニバルは幅跳びの要領で再度前に出て、両手の爪でユウキを狙う。
しかしユウキは大きく踏み込んで前に跳ぶ。さらに跳んだ先の壁を蹴り、方向を変えてもう1度跳ぶ。
だがその先には道はなく溶岩となっていたが、ユウキは構わずに溶岩の上を跳び、氷柱の様に上から垂れ下がっている岩に向かっていく。そして岩に届くと右手の神機を突き刺して踏みとどまる。
『グォォォオッ!!』
ハンニバルが吠えながら溶岩の上を大きくジャンプして、ユウキを爪で引き裂きにかかる。それを確認したユウキは神機を引き抜いて足場にしていた岩を蹴り、向かってきたハンニバルの上を通り過ぎる。
「ジャラァッ!!」
ユウキはハンニバルの背中まで来ると、道から遠ざかる方向に全力でハンニバルの背中を蹴った。その衝撃でユウキは陸地に、ハンニバルは溶岩に向かって跳んでいく。
ユウキが陸に着地すると、今度はハンニバル侵食種が右手の爪で突き刺そうとしてくる。その攻撃をユウキは地面を蹴ってハンニバル侵食種の懐に飛び込んで避けると、ジャンプして両手の神機の銃口をハンニバル侵食種の胴体に突き付ける。
「吹っ飛べっ!!」
『『バァンッ!!』』
両手の神機からインパルスエッジを発射するとハンニバル侵食種が仰け反り、胴体に傷ができる。しかし溶岩に落とすには後ひと押し足りない。ならばやることは1つだ。
「落ちろ!!」
ユウキがハンニバル侵食種の胴体を蹴り飛ばすと、ハンニバル侵食種が宙に浮いて、溶岩に向かって跳んでいく。
ユウキは陸に着地するとハンニバル、ハンニバル侵食種共に溶岩に落ちているところを見ていた。
「ハア…ハア…」
丁度泳げない粘度なのか、ハンニバル達は溶岩の中でバタバタともがくのだが、まるで底無し沼の様に動けば動くほどにハンニバル達は溶岩に沈んでいく。その様子をユウキは息を切らしながら見ていた。
「2度と這い上がって来んじゃねぇぞ…」
完全にハンニバル達が溶岩に沈むのを見届けると、ユウキは捨て台詞を吐いて踵を返す。
アラガミを溶岩で倒す事など出来はしないが、時間稼ぎ位は出来るだろう。その間に撤退と対策を済ませなければいけない。ユウキは今後どうするか考えながら待機ポイントに帰っていく。
(クソッ…)
しかしユウキは苦虫を潰したような表情になる。このハンニバル達には勝てない。直感的にそう思い、倒すのではなく動きを止めて時間稼ぎをした。倒せないアラガミに出会い、敗走に近い状態で任務を終えた事に、ユウキは複雑な感情を覚えた。
To be continued
後書き
今回は二刀流の練習と実践、神機改修、そして任務はバーストでのDLC『鬼さんこちら』を元にした話でした。ハンニバル2体に見つからずにコクーンメイデンを全て狩り尽くすのはステルスゲームみたいな特殊な任務と言った感じでドキドキしながらメイデン狩りしてましたね。
たまにハンニバルを全て倒してからコクーンメイデンを倒したりもして、色んな楽しみ方が出来る楽しい任務でした。