GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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アリウス・ノーヴァを討伐したものの、何ともないと言う事はなく…

今回グロ描写があります。グロ描写は※で挟んでありますので、苦手な方は飛ばしてください


mission82 恐怖

 -???-

 

 ユウキは気が付くといつもの様に真っ暗な空間にいた。

 

「また…」

 

 『この夢か…』と憂鬱になりながら、諦めたようにその場に佇んでいた。

 

「まったく…とんでもない人ですね…」

 

「っ?!」

 

 いつの間にかユーリが目の前にいてユウキは驚いて後ずさる。

 

「仲間を喪い心を痛める…お優しい自分を演じる為なら仲間をも手にかけるなんてね…」

 

「ち、違う…俺は…そんな事…」

 

 何処からともなくエリックがユーリの隣に現れた。ユウキはエリックの言う事を否定しようとする。そんなつもりは無かったが、もしかしたらエリックの言う様な事を考えていたのかと思うと、ハッキリと否定する事が出来なかった。

 

「ほら、貴方が手にかけたお仲間さん…すぐそこに居ますよ?」

 

「イタイよ…ユウ…」

 

(っ?!???!!!)

 

 不意に足元から怨嗟の籠った聞き覚えのある声が聞こえてきた。その後ヒタヒタと手のひらを地面に着け、ズリズリと胴体が地面を這いずる時の音が聞こえてくる。足元で音が一瞬止まると、ガッチリと右足を掴まれる。

 

「シオとユウ…トモダチ…」

 

(やめろ…)

 

 右足を掴んだ後、左手が膝裏を、その後は右手が腿を掴み、少しずつシオがよじ登ってくる。

 

「なんで…なンで…シオのコト…」

 

(見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな…)

 

 少しずつ登って来たシオ横腹、背中と登って来て、遂にユウキの顔の右側まで来ていた。

 『嫌だ、怖い、見たくない』と必死に見ないようにしていたが、何故か顔は勝手にシオを見ようと錆びた機械の様にぎこちなく、ゆっくり右を向く。

 

「コロシタノ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには血涙を流し、右目が飛び出て垂れ下がり、口周りが裂けて、腕は骨が露になる程に削がれ、胴体からは肺や胃が飛び出て血に塗れたシオがいた。

 

 

「あ"ぁ"ァ"あ"ぁ"あ"ァ"あ"ぁ"あ"ぁ"ァ"あ"ア"ア"ア"ア"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ア"ッ!!!!」

 

 ユウキの絶叫が響いた。

 

 -医務室-

 

「ア"ア"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ア"ッ!!!!ア"ッ"ア"あ"?!?!ア"ぁ"ぁ"ぁ"ア"ッ!!!!」

 

 アリウス・ノーヴァとの戦闘が終わり、ユウキが医務室で寝かされてから丸1日、突然叫び声をあげて飛び起きた。

 

「落ち着いてユウキ君!!ゆっくり!!ゆっくり深呼吸!!」

 

「ア"ッ!!!!ア"ッ"ア"ぁ"!!"ぁ"ッはッ!!ハッ…はぁ…はぁ…」

 

 突然の事に驚いたが、その場にいたルミコがユウキにハッキリと聞こえるように大きな声で、かつ威圧的にならないように気を付けながらユウキに落ち着くように諭していく。

 ルミコの声を聞いて、辺りの景色を見たユウキはここが夢ではなく極東支部だと分かると、少しずつ落ち着いていき、次第に呼吸も穏やかになっていった。

 

「そう、ゆっくりね。ゆっくり。息を整えて。」

 

 ユウキはルミコの指示で数回深呼吸をすると、取り敢えずは落ち着いた。

 

「落ち着いたかい?」

 

「は、ハカ…セ…?」

 

 今度は別の方向から声が聞こえてきた。その方向を見ると、そこにはペイラーが立っていた。

 

「お、俺…し、しお…シオを…こ、コ個…この手で、子、コロ…コロ炉ころころころ… 」

 

「落ち着くんだユウキ君。君が倒したのはシオじゃない。アリウス・ノーヴァが最後のあがきに、かつて奪った特異点からシオの姿を写し取ったものに過ぎない。」

 

 アリウス・ノーヴァとの戦いで自分のやった事を思い出し、ガタガタと震えながら再び錯乱し始めたので、ペイラーが声をかけて落ち着かせる。

 

「けど…シオと同じ姿で…お、俺は、何の…迷いもなく…こ、こ、こ、殺せばたくさささん…喰えると思ったら…い、いついつの間にか…こ、殺すのを、たの、たたた、楽しんで…み、皆の事も…襲って…喰って…」

 

 本格に錯乱こそしなかったが、ユウキの両手は掛け布団の端を強く握りしめたまま震えていた。その様子を見たペイラーは、第一部隊が帰還した時にヒバリ聞いた『今は消えていますが…あの時のユウキさんから…オラクル反応が出ていました…』と言う報告を思い出していた。

 それは後戻り出来ないかも知れない程にアラガミ化が侵攻していると言うことに他ならない。その事を理由にしてどうにかユウキがこれ以上自身を追い詰めない様、それらしい言い訳にして暴走した経緯を話していく。

 

「今回の件は君のアラガミ化が急速に進行したために起こった事だ。その結果、思考がアラガミに乗っ取られた状態だったんだ。何もかもユウキ君が背負う必要はないと思うよ。」

 

「…」

 

 かなり苦しい言い訳ではあるが、アラガミ化が進行していたのだから暴走しても仕方ない。そうでも言わないとユウキが自らの身を滅ぼす様な事をしかねない。実際ユウキは納得していない事を示す様に黙り込んでしまった。

 

「なに、気持ちが落ち着いたら皆に謝ればいい。きっと許してくれるよ。」

 

 ユウキは許されたいと思っている訳ではないと言う事は分かっている。少し的の外れた受け答えしか出来ない事に『我ながら酷い茶番だ…』とペイラーは自嘲する。

 

「さて、それじゃあアラガミ化を治す為にも、まずはサンプルの提供を頼むよ。」

 

 そう言ってペイラーは注射器を取り出し、採血の準備を始める。その様子を見ていたルミコはこっそりと医務室から出ていった。

 

 -廊下-

 

「先生!!」

 

「ユウは?!ユウは無事なんですか?!」

 

 ルミコが医務室から出てくると、第一部隊がルミコの元に詰め寄る。その中でも特に慌てた様子でコウタとアリサが真っ先にユウキの安否を尋ねてきた。

 

「うん。今さっき目を覚ましたよ。でも、会わない方が良いかな?シオって子とそっくりなアラガミを倒した事も原因だけど、皆に手を上げた事で酷く心が不安定になってる。」

 

「で、でもそんなの!!俺達が気にしてないって伝えれば…」

 

 攻撃を受けた自分達が許せばそれで解決する。コウタはそう思っていたが、ユウキの性格上、今はそれが難しい状態になっている事にコウタは気付いていなかった。

 

「いや、たぶん君達が会うだけでも危ないかも知れない。今あの子に会って、皆が許しても、『皆優しいからそう言ってるだけだ』って誤解するかも…そうなると余計に自分を追い詰めかねない。」

 

 『まあ、一種の人間不信みたいな状態かな。』とルミコは最後に付け足す。もっとも、現時点でユウキが最も信じられないのは自分自身であるが。

 

「あの、私が感応現象で助けられた様に、ユウの事も…感応現象で助けられないでしょうか?」

 

 アリサの提案を聞いたルミコは考え込む様な表情になる。

 

「…難しいと思う。アリサが錯乱したのは正しい認識が出来てなかったからなんだ。その認識を修正して、記憶を整理するのに感応現象は一役買ってるけど、アリサの回復はあくまでもユウキ君やサクヤさんのフォローを受けてアリサ自身が立ち直る強さがあったから出来たんだ。」

 

「…そう、ですか…」

 

 かつてアリサ立ち直れたのは感応現象のお陰ではなく、自身が立ち直る力があったからだ。状況は似ているが今のユウキには立ち直る為の気持ちの余裕がない状態だ。

 とにかく自分自身で気持ちの整理を着けてからでなければ、逆に追い詰めてしまう。それを聞いたアリサは悲しそうな顔になって引き下がった。

 

「当事者である俺達は何も出来ない…いや、しない方が良いってこと…か。」

 

「そうだね。気持ちの整理が着くまでは、そっとしておいてあげて。」

 

 『ちゃんと経過報告はするからさ。』と言うとルミコは医務室に戻っていき、それを第一部隊は後ろから見ている事しか出来なかった。

 

「…何だか歯痒いわね。こんな時に会うことも出来ないなんて…」

 

 仲間を助けようにも、会いに行くだけでも、その仲間に強い精神な

負担を強いてしまう。そんな現状にサクヤはごちる。

 

「たぶん、怖いんじゃないか?」

 

「え?」

 

 今まで沈黙していたリンドウが不意に口を開いた。

 

「自分の意識とは関係なく、また仲間に手をあげてしまうかも知れない…それが怖いんだろうな。」

 

「「「「…」」」」

 

 リンドウもかつてアラガミ化し、自らの意思に反して仲間と戦った。その時に味わった自身の意思とは関係なく身体が動き周りを傷つける恐怖や後悔は口では言い表せないものだった。

 実際に体験した人間の言葉だったからか、その場の空気は重くなり誰も口を開く事が出来なかった。結局、リンドウの『戻るぞ。』と言う一言が出るまで誰もその場を動く事が出来なかった。

 

 -ラボラトリ-

 

 ユウキが目覚めてから3日が経った。目覚めて以降面会謝絶となり、ユウキのアラガミ化の進行度合いを調査、アラガミ化の進行阻止、治療の研究のためにユウキとペイラーはラボに籠っていた。

 その間にアリウス・ノーヴァ討伐の功績から全員が昇進、ユウキは大尉、他のメンバーも尉官クラスに上がった事が伝えられた。

 その他にもユウキが抗体持ちにも関わらず、明日にでもアラガミ化が発症しかねない程に進行している事を伝えられた。ペイラー曰く、非科学的ではあるが、アリウス・ノーヴァの気配を感じた事で、侵食しているオラクル細胞が生き残るために活性化したせいじゃないかと考えている。

 

  『ビーッ!!』

 

 ペイラーがユウキサンプルを採取している中、突然ペイラーの電話機に内線が入る。

 

「おや?ちょっと失礼。」

 

 ペイラーはサンプル採取を一旦止め、デスクの受話器を取る。

 

「やあ、何かあったのかい?…うん…うん。そうか…分かった、すぐにそっちに向かうよ。…その後の事は任せて良いかい?…ああ、助かるよ。それじゃぁ。」

 

 短い会話の後、ペイラーは内線を切るとユウキの方を向く。

 

「すまないユウキ君。野暮用で少しばかり席をはずすよ。すぐに戻って来るから。」

 

「あ、はい。」

 

 用事が出来た事だけ伝えると、ペイラーそのままラボから出ていった。

 

 -訓練室-

 

 ペイラーがラボを出てから数分後、訓練室には神機使いがほぼ全員集まっていた。さらにはヒバリにツバキ、ペイラーもその場に居た。

 

「たった今アラガミの集団が外部居住区に向かっていている事が分かった。諸君らには敵勢力を排除してもらう。ヒバリ、状況説明を。」

 

 どうやらアラガミの団体が外部居住区へ迫っているようだ。ツバキが神機使いを集めた理由を話すと、ヒバリに現在の状況を説明させる。

 

「はい。現在、外部居住区の北から2つの集団が接近しています。前衛には小型、中型種を主力とした集団、その後ろから10体程度の大型種の集団が追従しています。両グループ共にかなり外部居住区に接近してはいますが、接触までにはまだ時間はあると思います。」

 

 ツバキの指示と同時にでスクリーンが下ろされる。ヒバリは即興で作り上げた資料を片手にスクリーンに映った外部居住区周辺の状況を説明していく。

 

「外部居住区と接触するまでの予測時間は?」

 

「およそ30分かと。」

 

 ペイラーがアラガミ部隊と接触するまでの時間を聞くとおよそ30分だそうだ。思いの外余裕がない。ツバキは一旦考えてあった作戦の準備が時間までに間に合うかをシミュレートする。

 

「うむ…ではこれよりアラガミ部隊討伐作戦の概要を説明する。まず第一部隊はヘリで上空から後方の大型集団を分断してもらう。現場の指揮はリンドウ、お前に任せる。」

 

「了解しました。」

 

 準備の工程を飛ばすなりして短縮すればギリギリ間に合うと言う結論に達したので、ツバキは後続の大型種の部隊をリンドウを指揮官に置いた第一部隊に任せる旨を伝える。

 

「その後、前衛の集団はそのまま侵攻させる。残った部隊は二段階の防衛戦を張り、そこで前衛部隊を撃破する。」

 

 後続を止めても恐らく前衛は構わずに侵攻してくると言う予測から、前衛のアラガミ部隊を残りの第二、第三部隊と言った残りの部隊が2ヶ所で迎撃する作戦を伝える。

 

「とにかく時間がない。各自10分以内に準備を進めろ。アラガミを外部居住区に侵させるな!!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 ツバキの号令に全員が勢い良く返事をする。

 

「よし。全員無事に帰ってくるように。作戦の成功を祈る。」

 

 ツバキが最後に激励の言葉をかけると、神機使い達は各々作戦準備に入る。

 

「ツバキ君、あとは任せるよ。」

 

「分かりました。」

 

 準備の為に神機使い達が訓練室を去っていく中、『神裂さんは出ないのか?』『調整が出撃までに終わらないんだろう?間に合えば来るさ。』と言った、少し能天気な会話が聞こえてきた。ペイラーはその様子を見ると、ツバキに作戦を任せてユウキが待っているラボに向かった。

 

 -外部居住区外、ヘリ内部-

 

 第一部隊が準備を終え、ヘリで降下ポイントの近くまで来ていた。下にはアラガミの団体が前後に2つ。今回第一部隊が相手をする後ろの団体は、情報通り主に大型種で構成されていたが、固まっているせいでセンサーが反応を拾いきれなかったのか報告よりも多くなっている。

 

「見えてきたな…よぅし、お前ら。後続の団体様のお相手をするのが今回の任務だ。図体がデカイくて数も多いがお客様だ。最上級のおもてなしでお迎えするぞ。」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 リンドウがおどけた口調で任務の確認をする。少しおふざけの入った確認でめ第一部隊は理解して返事をする。

 

「…ん?」

 

 そしていざヘリから飛び降りようとしたところで、ソーマが先行するアラガミ達を見てあることに気がつく。

 

「おい待て。前衛のアラガミ…まさかあれは…」

 

「ん~?…おいおい、ヤバいぞあれは。第二、第三部隊は経験があるからまだ良いが…他の部隊には厳しいかも知れないな…かと言ってこっちも戦力を減らす訳にもいかないし…」

 

「え?何?何なのさ?」

 

 ソーマが何か動揺していたので、リンドウも目を細めて前衛のアラガミを見る。それにつられて他のメンバーも前衛のアラガミを見たが、思いの外状況が良くない事に気づいたのはリンドウだけだった。

 

(最終的な判断は姉上に任せるか…)

 

 リンドウは状況説明のため、インカムのスイッチを入れながらヘリの搬入口へと向かっていく。

 

「よし、全員出るぞ!!ヘリはその場で待機!!もしかしたら数名戻すかも知れないからな!!」

 

 後衛には大型の禁忌種もいる。討ち漏らして先に行かれると防衛ラインを守る神機使い達に大きな負担になる。不測の事態に備えて移動の足は確保した上で、リンドウの指示で第一部隊は予定通りに全員ヘリから飛び降りた。

 

 -ラボラトリ-

 

  『ビーッ!!』

 

 アラガミ部隊の討伐作戦が始まってから数十分後、再びラボに内線のコールが響いた。

 

「おや?失礼するよ。」

 

 ペイラーはサンプルの解析を中断して内線に出る。

 

「何かあったのかい?」

 

『は、博士!!…あの、実は少し前から第二、第三防衛ラインから援軍要請が来ているんです。その…ユウキさんは出られないのかって…』

 

 内線の相手はヒバリだった。何やら慌てていると思いきや今度は言いにくそうにユウキは出られないかと聞いてきた。

 

「むぅ…しかし今の状態では…」

 

『はい…ユウキさんを今の状態で出撃させる訳にもいかないのですが…前衛側にも大型種種や禁忌種も多数居るようなんです…ユウキさんでなければ…倒しきるのは難しいと…』

 

「リンドウ君達は?加勢出来ないのかい?」

 

 ユウキのアラガミ化について、皆が動揺してはいけないと話さなかったのが仇になってしまった。未だ何の処置も出来ていない以上、戦場で暴走する危険がある。今のままではユウキを出すわけにはいかない。そのためペイラーはリンドウ達を下げ、防衛戦に参加させようと考えていた。

 

『第一部隊は現在禁忌種に囲まれていて…すぐには向かえないんです。ユウキさんの出撃については、ツバキさんも出撃不可能とは言ってはいるのですが…防衛ラインもかなり圧されていて…このままでは…』

 

 しかしリンドウ達はアラガミに囲まれているらしく、すぐには救援に向かえないようだ。

 

「皆…戦ってるんですか…?」

 

「…」

 

 ペイラーの会話の内容と、所々聞こえてきた『加勢』や『救援』と言った単語から、仲間が戦っていて助けが必要な状況なのは察しがついたが、ペイラーは答えない。

 

「…博士、俺も…行きます!!」

 

「ユウキ君…しかし…」

 

 ユウキを出せばアラガミ化が進むかも知れない、戦う事への疑問のせいでとんでもない事になるかも知れない…しかし単騎でアラガミの集団と戦え、加勢に向かえるのはユウキだけ…しかも決断が遅れれば確実に防衛ラインを突破されるこの状況に頭を抱えていた。

 しかも先の受け答えを聞いていた限り、やはり戦う事への疑問は残っているようだ。そんな状況で戦場に出せばどうなるか分かりきっている。

 

「…作戦時間が30分経過、または防衛ラインが持ち直せたらすぐに撤退する事、それからブレイクアーツは使わない事…いいね?」

 

 しかしペイラーは任務に出す事を決めた。現状を打開するためのカードはユウキしかない。あとは使うか使わないか…ペイラーは使わなかった時のデメリットの方が大きくなる可能性が高くなると考えて使うと決断した。

 ただし任務時間を短くする等制限をつけた。でなければ暴走の危険があるからだ。

 

「はい。」

 

 任務を了承すると同時にユウキはラボを出ていく。しかし、迷いを持ったエースが戦場に出る。それがいかに周りを危険に晒すか…少し考えれば分かる様な事も、今のユウキには考える余裕はなかった。

 

 -外部居住区外-

 

 ペイラーの指示で戦闘地域に着いたユウキは、目に飛び込んできた光景に言葉を失った。

 

「なん…だよ…」

 

 それはさながら地獄絵図の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防衛に出た神機使い達の半数は血みどろになって死んでいるのは当たり前、体はバラバラ、臓器は飛び出す、あるいはぶら下がり、偶然なのか皮を剥がれた遺体もある。それらをアラガミ達は気にせずに踏みつけるからなおさら遺体はぐちゃぐちゃになっていく。

 

 

「クソッ!!」

 

 血の匂いでむせ返りそうにながらもユウキは戦場に向かう。そんな中、1人のフェデリコがシユウらしきアラガミの攻撃を受けて倒れているのが目に映る。

 

「うわぁぁあ!!」

 

 フェデリコの首を跳ねようと、右の翼手から放たれた手刀が迫ってくる。

 

  『ガキンッ!!』

 

 しかし手刀はユウキが間に入り、左の神機の装甲で防御する。そして相手を見たユウキは驚いた。

 

「禁忌種?!」

 

 シユウだと思っていた相手はセクメトだった。禁忌種が徒党を組むのか、それともただ紛れ込んだだけなのか…気になることは色々とあるが、今はフェデリコの救助が先だ。

 ユウキは右の神機を右下から左上に振り上げて、防いだ右翼手を切り捨てる。そのまま左足をバネにしてジャンプし、セクメトの眼前に迫ると、右足でセクメトの側頭部に回し蹴りを叩き込んで蹴り飛ばす。

 

「ありがとうございます!!先輩!!」

 

「早く体勢を立て直せ!!俺は他の支援に行く!!」

 

 フェデリコは礼を言って立ち上がると、ユウキが蹴り飛ばしたセクメトと再度戦闘に入った。禁忌種がいた事が気になり辺りを見回すと、あることに気が付いた。

 

(禁忌種が多い…こいつらが防衛線を崩したのか?)

 

 先のセクメトの他にもハガンコンゴウも居る。しかもこの場にいる中型種は殆どが禁忌種だった。さらには大型種も紛れ込んでいる。これでは禁忌種討伐経験がある第二、第三部隊はともかく、そもそも戦う事自体が少ない偵察部隊等では相手取るには難しいだろう。

 実際、タツミ達は第二防衛ラインからさほど後退していないが、彼らより経験の浅いフェデリコやアネットは第三防衛ラインまで下げられている。この状況ではいずれ残った禁忌種や大型種が外部居住区に流れ込んでくる。それだけは阻止しなければならない。まずは第三防衛ラインを立て直すため、近場のアラガミに向かって走る。

 

「うわぁぁあ!!」

 

 何処からともなく叫び声が聞こえてきた。声のした方を向くと先とは別のセクメトが炎を纏って神機使いに突っ込んで行くのが見えた。ユウキは銃形態に変形し、セクメトの頭を撃ち抜く。

 

  『ッ?!』

 

 セクメトは予想外の攻撃を受けてバランスを崩し、さらに頭は結合崩壊を起こした。ユウキはセクメトを倒すことはせずに今戦っていた神機使いに対処を任せる。

 

(クソッ!!数が多い!!捌ききれるか?!)

 

 敵の多さに内心舌打ちしながら、宛もなく手当たり次第にアラガミを攻撃する。すれ違い様に腕や足を切り落とし、相手の戦闘力を削ぐ。そしてハガンコンゴウに殴られそうになっている神機使いを助けようと、右の神機でハガンコンゴウの右腕を切り落とす。

 ハガンコンゴウが攻撃を中断したのを確認すると、今度は左の神機を銃形態に変形し、離れた所で砲塔を神機使いに向ける青いグボロ・グボロ堕天種に向ける。爆破弾を撃ち込むと、砲塔は呆気なく結合崩壊を起こしてグボロ・グボロ堕天種は怯む。その間に別のアラガミをターゲットにする。

 

「グゥッッ!!」

 

 呻く様な声が聞こえると、カオルが尻餅を着いていた。相手のセクメトが両手を合わせて付き出しているところを見ると、火炎弾を受けきれずに倒れたのだろう。このままでは殺される。ユウキは考える間もなく、右の神機を振り上げてセクメトの後ろから飛びかかる。

 しかしこの状況ではセクメトを倒さなければカオルを助けられない。倒さなければいけないが、倒して良いのかと迷ってしまった。その一瞬の隙を突いてセクメトはその場で回転し、左の翼手で払い除ける様にユウキを迎撃する。

 

「ッ?!」

 

 辛うじて左の神機の装甲を展開して防御したが、空中では踏ん張れる筈もなく、ユウキは吹っ飛ばされ、返り討ちにあった。

 邪魔する敵が居なくなり、セクメトはカオルと向き合う状態になるまで回転を続け、勢い良く右の手刀をカオルに向かって振り抜いた。

 

「た、助けて!!かみさっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオルの助けを乞う叫びは最後まで紡がれる事はなかった。セクメトの翼手がカオルの胸部から『スパンッ!!』と綺麗に真っ二つに切断される。

 

 

「カオルゥゥウウッ!!!!」

 

 それを見ていたヤナギが悲鳴に近い声をあげる。

 

「神裂テメェッ!!!!何でカオルを見捨てたァァアッ!!??」

 

 倒せるはずだった。攻撃体勢に入るタイミングも問題なかった。それでもユウキは攻撃しなかった。そのせいで相棒とも言えるカオルを喪った。ヤナギは自らの憤怒を隠す事なく怒りと憎しみの籠った目線と怒号をユウキに向ける。

 

「グォァッ?!」

 

 しかし、その声に反応してハガンコンゴウがヤナギに飛びかかってきた。しかもそのハガンコンゴウは右腕を切り落とされている、別の神機使いを助けようとしたときの個体だった。

 戦力を削いだはずのハガンコンゴウが残された右腕でヤナギを押し潰そう張り手の様に手を付き出す。ヤナギは咄嗟に装甲を展開して防いだが、押されたまま倒れてしまい、身動きが取れなくなった。

 

「ヤ、ヤナギさん!!」

 

「く、クッソォォオ!!!!」

 

 ハガンコンゴウが片腕だったためか、押し潰されずに耐える事は出来た。しかし身動き出来ない状態ではハガンコンゴウが大口を開けて迫ってきていても逃げる事も叶わない。

 

  『グズュッ!!』

 

「…ぁっ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキが救助に向かうも間に合わずに、ヤナギは頭を喰い千切られた。

 

 

「ッ?!」

 

 助けられなかった。意気消沈していると、ハガンコンゴウは振り替えってユウキを殴り飛ばす。そしてハガンコンゴウは再度後ろに振り向いて他の神機使いの元に向かっていった。

 

「うわぁぁあ?!」

 

「ギャアァア!!」

 

「い、嫌だ!!死にたぐぇッ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハガンコンゴウが近くの神機使いを背後から後頭部を殴打して殴り殺す。そして別の場所からは方翼を切り落とされたセクメトが火球で神機使いを焼き殺し、砲塔を撃ち抜かれたグボロ・グボロ堕天種がまた別の神機使いを喰い殺す。

 

 

「ぁ…ぁぁ…」

 

 アラガミは倒したくない。でも倒さねば仲間が死ぬ。ならば誰でも殺せる様に弱らせておこう。そんな中途半端な支援をした結果、多くの神機使いが殺された。

 自身が招いた最悪の事態を受け入れる事が出来ず、倒れたユウキは泣きそうな顔で小さな声で呻く事しか出来なかった。

 

「キャァ!!」

 

「アネット!!」

 

「ッ!?」

 

 知っている声で短い悲鳴が聞こえ、フェデリコがアネットの名を叫んでいるのを聞いてユウキは我に返る。悲鳴が聞こえた方を見ると、スサノオが尻尾の剣を転んで尻餅を着いたアネットの近くに刺している。さらにはボルグ・カムラン3体がアネットを取り囲んでいた。

 

「私…死ぬの…?」

 

「…っ!!」

 

 絶望的な状況に思わずアネットは死ぬのかと呟く。その呟きはユウキにも届き、それを聞くとユウキは両目を見開いた。

 

(死ぬ…?…皆…仲間が…死ぬ…?)

 

 何で親しい人たちが死ぬのか、どうして仲間が死んでいくのか…何故こんな事になってしまったのかをユウキは思考する。

 

(…俺のせい…俺が…迷っているから…)

 

 そしてかつて『戦えないなら失せろ』と言った事を思い出す。戦う事に迷いを持ち、それでもでしゃばり、戦場に出た結果がこの惨事だ。一体自分は何がしたかったのだろう?仲間を喪ってでもアラガミを生かしたかったのだろうか?

 その場面をイメージするが、何の感情も沸いてこない。次に仲間達とアラガミを倒し、生き残ったところを想像する。皆が生きていて安心する、今日も生き残る事が出来て安堵する。少なくともアラガミが生き残った所を想像したときにはなかった感情だ。

 

(そうだ…アラガミと仲間達…どっちが大事かなんて…考えるまでもないじゃないか…)

 

 ユウキにとって仲間とアラガミ…どちらが大切か、答えは出た。

 

(だったら…迷う事なんてない…)

 

 迷いがなくなったユウキは急激な眠気に近いものに襲われた。

 

((アラガミ)はすべて…滅ぼせ(喰い尽くせ)…!!)

 

 ユウキの心の内で、悪魔()が囁いた。

 

「アネットォォオ!!」

 

 アネットを囲んでいたボルグ・カムランのうち、左右にいるものが尻尾の針を構え、アネットに向かって突き刺す。フェデリコが助けに入るも間に合わない。

 

  『『ギィンッ!!』』

 

 しかしユウキが間に入り、装甲を展開したときの合わせ目を利用して、白刃取りの要領でボルグ・カムランの針を止める。装甲の間に針を挟まれたボルグ・カムランは針を引き抜く事が出来ずに必死にもがいている。

 

「あ…」

 

「先輩!!」

 

「…」

 

 フェデリコが呼び掛けるもユウキは応えなかった。

 

  『グルラアオオオ!!』

 

 スサノオが尻尾の針でユウキの顔面を目掛けて突き刺してくる。だがユウキそれを左足を上げ、内から外へと振り回し、スサノオの剣の側面に足を当てて強引に起動を変える。そしてそのまま地面に突き刺さる様に剣を踏みつけてスサノオの動きを封じる。

 

  『キシェァアッ!!』

 

 しかし今度はボルグ・カムランがユウキの顔面目掛けて針で突き刺してくる。アラガミ3体の動きをその身1つで止めているユウキに避ける術はない。

 

  『ガギィッ!!』 

 

「「先輩!!」」

 

 その場にいたフェデリコとアネットは針がユウキに直撃したと思っていた。しかし、ユウキは針の先に噛み付き、自身に刺さる前に止めていた。

 

「ヴヴヴヴヴ…」

 

 ユウキが低く唸ると、首を左に向けつつ口を開けて針を離す。すると針をは標的を失いながらも直進する。だがユウキが側面から噛み付き再度動きを止める。

 

「ヴゥ"ゥ"ゥ"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァア"ァ"ァ"ァ""ア"ア"ア"!!!!」

 

 ユウキがこもった声で雄叫びを上げながら、両手の神機で捕らえたボルグ・カムラン2体と噛み付いて捕らえたボルグ・カムランをまとめて振り回し始める。右に回転して勢いをつけ、スサノオの真上に叩き落とす。

 

「ひっ…!!」

 

「何が…どうなって…」

 

 フェデリコとアネットはボルグ・カムランを振り回していたユウキを見て小さく悲鳴をあげる。ユウキの目は真紅に染まり、瞳孔が縦に割れ、獣そのものへと豹変した事に理解が追い付いていなかった。

 そんな後輩達に目もくれずにユウキは叩き付けた両手のボルグ・カムランをもう1度、少し離れた場所にそれぞれ叩き付け、その後互いにぶつけ合わせて、最後には装甲を収納して両サイドへと投げ飛ばす。

 

「ヴゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"オ"オ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!!」

 

 ボルグ・カムランを投げた後、両手の神機が紅いオーラを纏う。そして投げた時とは逆方向に両腕を振り、紅い斬撃を飛ばすと両サイドのボルグ・カムランを両脇に居る辺りのアラガミごと両断する。

 

「オ"ォ"ォ"ォ"ォ"オ"オ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!!」

 

 ユウキは吼えながら咥えていたボルグ・カムランを再度地面に叩き付けようと今度は縦に振り回す。

 

  『バキッ!!』

 

 しかし地面に叩き付けるよりも先にボルグ・カムランの針を噛み砕いてしまい、捕らえていたボルグ・カムランを先ほど神機使いを殺したセクメトに投げ飛ばした。

 

  『ガリッ!!ベキボキッ!!ゴリッ!!ゴリッ!!』

 

 ユウキは残っていた硬い針を噛み砕き喰っていく。ユウキがボルグ・カムランの相手をしているうちにスサノオは体勢を直し立ち上がろうとする。

 しかし、いつの間にかユウキがスサノオの目前まで来ており、ゆっくりとスサノオの身体を踏みつける。

 何のつもりか知らないが攻撃してこないのなら好都合だ。スサノオは立ち上がろうとする。

 

  『グル…グラッ…グラォォォ…!』

 

 何度立ち上がろうとしても全く立ち上がれない。目の前の男がそうさせているのなら排除するまで。スサノオは両腕の神機でユウキに襲いかかるが、ユウキが両手の神機を振り上げてスサノオの両腕を斬り捨てる。そして両手の神機を変形して、コバルトマグナムを発射する。標的は先ほど投げたボルグ・カムランとそれに巻き込まれたセクメト、そして目の前に居るスサノオの尻尾を消し飛ばした。

 

「…」

 

 スサノオの両腕と尻尾を消し飛ばしたユウキは無言のままスサノオを蹴り上げる。宙に浮いたスサノオを下から切り上げてコアごと両断する。

 その直後、ほぼノータイムで両サイドで戦っていたグボロ・グボロに向かって神機を投げる。すると神機は高速でグボロ・グボロをコアごと貫通した。

 

「オ"ォ"ォ"ォ"ォ"オ"オ"ォ"ァ"ァ"ァ"ァアァ"ァ"ァ""ア"ア"ア"!!!!」

 

 ユウキは吼えながら砲塔を破壊したグボロ・グボロ堕天種に向かって一気に前に飛び出す。そして素手のままグボロ・グボロ堕天種に飛びかかり、右手を振り下ろす。

 

  『ザシュッ!!』

 

 ユウキは素手だったにも関わらず、小気味良い音と共にグボロ・グボロ堕天種が3つに別れる。

 何故ならユウキの両手は真っ黒に染まり、指先には鋭い爪が生えていたからだ。この爪でグボロ・グボロ堕天種を切り裂いたのだ。ユウキがグボロ・グボロ堕天種に気を取られているうちにシユウ堕天種がユウキを潰そうと翼手を広げて迫ってきた。

 

  『ブジュッ!!』

 

 汚い音と共に血が吹き出る。ユウキがシユウ堕天種の胸部を右手と同様に鋭い爪を生やした左手で貫いた。そしてそのままシユウ堕天種を左に投げ、それを追い、大きく飛び出す。

 投げられたシユウ堕天種は第二防衛ラインで戦っているタツミを囲んでいるコンゴウとハガンコンゴウに突っ込んでいった。

 

「うわぁっ?!な、何だ?!」

 

 突然目の前のコンゴウにシユウ堕天種が突っ込んできてタツミは驚いく。すると次の瞬間、ユウキがコンゴウとシユウを両手の爪で3つに斬り裂く。そしてそのまま地面に手を着いて急ブレーキをかけて反転する。

 

  『ビキビキッ!!』

 

「お、お前…それ…な、何だ…?」

 

 ユウキはタツミの後ろで怯んでいるハガンコンゴウと目を合わせる。それと同時にユウキの背中と頭からそれぞれ枯れ木の様な白い角と棘が生えてきて、腰からは白いボロ切れの様なものが生えてきた。ユウキのおぞましい表情と人にはないものが生えてきた事でタツミは動揺を隠せなくなっていた。

 

「グルァァァアアアッ!!」

 

 雄叫びと共にユウキは一気に前に出る。タツミは驚いて身構えたが、ユウキはタツミの横を通りすぎてハガンコンゴウに向かっていく。ハガンコンゴウはカウンターに右フックで殴りかかってきたが、ユウキはそれを右足を大きく前に出し、半身になりながらしゃがんで避ける。そして左足で裏回し蹴りの要領でハガンコンゴウの腹を蹴り上げる。そのままジャンプして宙に浮いたハガンコンゴウに接近して両手の爪でハガンコンゴウにとどめを刺していく。

 

「ガルァァァアアアッ!!」

 

 着地と同時に、ユウキは吼えながらプリティヴィ・マータと戦うカノンとブレンダンの元へと突っ込む。

 

  『ガアァァァア!!』

 

 プリティヴィ・マータが吠え、冷気を放ってまとわりつくブレンダンとカノンを攻撃しようとするが、突然横から攻撃を受けて吹っ飛んだ。そのまま横に倒れたプリティヴィ・マータの腹部を踏みつけて身体を屈めて、ユウキは左手を振り上げてプリティヴィ・マータの首を切り捨てる。そして両手の爪を振り下ろして左の前足を無理やり切り落とし、その後切り落とした左前足の肩から右手を突き刺して体内でコアを破壊すると、突き刺した右手を引き抜いた。

 

「グルルル…」

 

 ユウキが低く唸るとブレンダンとカノンをおぞましい表情で睨み付ける。

 

「ひっ…!!」

 

「ユウキ…なのか…?」

 

 ユウキが人とは思えぬ表情と姿で現れた事でブレンダンもカノンも理解が追い付いていないのか、小さく声を上げる事しか出来なかった上、カノンに至っては半泣きになっている。

 しかしユウキはそんな2人を気にする様子はなく、そのまま後ろを向くと全速力で別の場所に走り出した。

 

「ルァァァアアアッ!!」

 

 今度の標的は第三部隊が交戦していた赤いグボロ・グボロ堕天種、セクメト、ハガンコンゴウの3体だった。

 ユウキは体勢を崩し、膝を着いているシュンに殴りかかろうとするハガンコンゴウに接近して先制攻撃をしかける。ユウキは両腕を横に振ってハガンコンゴウ細切れに切り裂く。その間にカレルを追い回していたグボロ・グボロ堕天種はユウキの方に向きを変え、火球を撃ってきた。

 対してユウキは迷わずに火球に突っ込む。そして火球が眼前まで迫ると左手で払い除ける様に内から外へ爪を振るい火球を切り裂いた。

 しかし左手も唯ではすまなかった。腕全体は火傷し、左手も火球をモロに受けたため崩れていた。でもユウキは止まる事はなく、まっすぐにグボロ・グボロ堕天種に突っ込む。そして残った右手の爪を振り下ろし、グボロ・グボロ堕天種をバラバラにした。

 その間にジーナと撃ち合いをしていたセクメトが炎を纏って後ろから突っ込んできた。ユウキは回転して、右足でセクメトの首もとを捕らえて蹴り飛ばす。

 蹴られたセクメトは体勢を崩しながらも両手を合わせて火球を作る。そして空中で体勢を整えて着地すると、両手を突き出して火球を発射する。ユウキは上に跳び、火球を躱すとそのままセクメトに接近して、セクメトの頭を右手で掴み、そのまま地面に向かって叩き付けながら首を引きちぎる。そしてすぐさまセクメトと向き合い、左手を更に崩しつつも、振り下ろして胴体ごとコアを切り裂いた。

 

「…」

 

「何が…どうなってる…」

 

「な、何なんだよ…お前…」

 

 人とは思えぬ姿と戦い方に、ジーナとカレルは何が起こっているのか理解出来ず、シュンは信じられないものを見た様に声を震わせていた。

 結局、このセクメトを倒した事で、ユウキはここに来るまでの間に第二、第三防衛ラインを崩したアラガミを単騎で全て倒してしまった。

 辺りにアラガミが居ないと悟ったユウキはセクメトの頭を落とすと右足で踏み潰した。 

 

「ヴオ"ォ"ォ"ォ"ォ"オ"オ"ォ"ァ"ァ"ァ"ァアァ"ァ"ァ""ア"ア"ア"!!!!」

 

 まるで勝利の雄叫びと言わんばかりに、天を震わせ、耳を劈く様な咆哮が響き渡る。

 

  『ブジュッ!!』

 

 しかし突然ユウキから生えてきた角や棘、腰のボロ切れが粘着質な音と共に崩れ去る。両手の爪も液状化したと思えば霧散し、元の人の手に戻っていった。そして異形の姿から完全に人の姿に戻るとユウキはそのまま膝を着いて倒れた。

 だが突然異形の姿に変わり、暴走してアラガミの大群を単騎で圧倒する戦闘力を見せつけたユウキに恐れを抱いたのか、第一部隊が来るまで誰も倒れているユウキに近づこうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人は自分が理解出来ない事に■■心を抱く…■■するからこそ、自身から遠ざけ、排除する。それで言えば…心の内や、考えている事が分からない他人もまた理解出来ない存在だ。

 だからこそ、人は■細な事で誤解し、争い、分かり合えないのかも知れない。そんな誤解が新たな誤解を生み、いつしか嫌悪に変わり憎しみとなり、他人を理解しようとする事を放棄してしまう。

 だが…俺達はかつて、もっと分かり合うのが難しいアラガミと分かり合えた。そんな経験があったからだろうか、俺達は何処か人と人が誤■なく分かり合えるのは簡単だと…そんな甘い認識を持っていたのかも知れない。その認識が間違っているのか、そうでないのか…それが分かるのは…このすぐ後のことだった。

 

極東支部第一部隊活動記録 

著:ソーマ・シックザール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『カチッ』

 

 ■〇の歯車が噛み合った。

 

To be continued

 




後書き
 ようやくユウキが迷いを吹っ切りました。ただし多くの仲間を犠牲にしましたが…さらにアラガミ化の件も全員に知れ渡りここからユウキへの扱いも変わり、極東支部の人間関係も大きく変わっていきます。
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