-1ヶ月後、支部長室-
「…あれから1ヶ月…か…」
ユウキが失踪してから1ヶ月が経過した。しかしユウキの所在を掴むのに有力な情報はまだ見つかっていなかった。そのため、今後どう動くかを、ペイラー、ツバキ、リンドウが話し合っていた。
「ちょいちょいユウが居たと思われる痕跡は見つかってるんですけどねぇ…」
「発見地点、潜伏時期共にバラバラ…手がかりはあってもこれでは…」
『まだ先を読む事は出来んな…』とツバキが呟く。リンドウの言う通り、ユウキが居た痕跡は何度か見つかっている。しかし海辺で見つかったと思いきや今度は山で見つかり、その次は荒野で見つかる…痕跡を残した時間も見つかった順番と一致しないため、そう言った情報を整理し、ユウキの行動を読むにしても手がかりがまだ少ない状態だった。
「こうなると…もう水辺を中心に捜索と言うのはセオリーから外れてしまっているかも知れないね。」
「となると、現状出来る対策としては単純に捜索範囲の拡大になるが…」
今まで水辺を中心に捜索してきたが、時間が経ち、手がかりも見つからなくなってきた事を考えると、捜索範囲を拡げる他ないだろうとペイラーとツバキは良いにくそうに提案する。
「そりゃぁ難しいと思いますよ?ただでさえ防衛戦で戦力が減ってる状態で捜索規模を無暗に広げたら…」
リンドウの言う通り、1ヶ月前の防衛戦で多くの神機使いが殉職した。一応は何人か新たな神機使いが入隊したが、未だ新人の域を出ておらず、捜索の人員に回す事など出来ようもない。
そうなると先の防衛戦で生き残った者で捜索範囲を拡げるしかないが、ただでさえ少なくなった人員を広範囲捜索に回すと支部と居住区の守りが薄くなる。これが何を意味するのか、この場に居る者はすぐに理解出来た。
「ハンニバルの時の二の舞…か…」
かつてハンニバルの蘇生対策のため、出られる神機使いを総動員した事を思い出していた。何にしても支部の守りを崩すのは良くない。そうなると捜索に出られる神機使いはかなり制限される事になる。
「…仕方ない。第一部隊の皆にはかなり無理を強いる事になるけど、君たちの捜索範囲を拡大するとしよう。」
「…それしかないですね。」
「ですかね。分かりました。」
結局人員を増やせないなら現状の人員でどうにかするしかない、と言うのがペイラーの結論だった。ツバキ、リンドウもそれしか無いだろうと思い、2人共同意する。
「私はアラガミ化対策の研究に戻る。うまくいけば近いうちに基礎理論は出来上がるかも知れない。私も何とか研究の完成を急ぐ。皆も何とかユウキ君を見つけてくれ。」
「了解しました。」
第一部隊には大きな負担を強いる事になるが仕方ない。その間にペイラーは研究を進め、ユウキのアラガミ化を止める足掛かりを掴まねばならない。リンドウ達に指示を出すと、ペイラーは足早にラボラトリに戻る。ツバキ、リンドウもそれぞれ任務のため、ペイラーに続いて支部長室を出ていった。
-ラボラトリ-
リンドウ達と別れた後、ペイラーは自身の研究室でユウキから採取した血液を顕微鏡で観察していた。また、ルミコも助手として、別の顕微鏡で違う日に採った血を調べていた。
「それにしても1ヶ月で基礎理論の完成だなんて…研究ってそんなに早く進むもの何ですか?」
「まさか。本来は何ヵ月もかかるどころか1年以上かかる事も珍しくないさ。今回はソーマの着眼点が良かったからここまで早く進める事ができたんだよ。」
「着眼点…ですか?」
ルミコが記録を取りながらペイラーに質問すると、ペイラーは顕微鏡の倍率を変えながら答える。
「そう。今の技術ではアラガミ化の治療は不可能だ。だから治すのではなく、制御する事でアラガミ化を完全に止めようと言うやり方にしたんだ。」
ペイラーは顕微鏡を覗いたまま、ソーマが何に着目したのかを話していく。
「リンドウ君のアラガミ化は、完治こそしなかったものの、完全な制御下に置かれている。これはアラガミ化した右腕をコアで制御しているからだ。ユウキ君のアラガミ化も、リンドウ君の右腕と同じようなやり方で制御出来ないだろうか…と言うのがソーマの考えなんだ。」
「要は、ユウキ君にアラガミ化を制御する為のコアを埋め込むって事ですか?」
相変わらずペイラーは顕微鏡を覗きながら話している。対してルミコは記録を取り終わり、また新しいサンプルを用意しながら、ペイラーの説明を要約する。
「平たく言うとね。コア作成に関しては神機と言う実績があるからね。この技術を流用すればコアを用意することは可能なはずだよ。問題は彼のアラガミ化を制御するのに必要な偏食因子、彼の何処を中心にアラガミ化しているのか…これが共にが分からない事だね。」
「偏食因子はともかく…何でアラガミ化している部位が分からないといけないんですか?」
ユウキの血が入った試験管を新たに用意したルミコは、薬品をスポイトで試験管に入れながら、ペイラーの説明で気になった事を聞いてみる。
「アラガミ化の制御は、いわば神機の制御に通じるものがある。神機と言うオラクル細胞の塊を制御するにはコアとそれに適した偏食因子が必要になる。しかし、アラガミ化と言うのはコアと偏食因子がない、あるいは一致していない状態で神機を持つ状態に似ている。そこでオラクル細胞の塊である、アラガミ化が進行している部位と言う『神機』にコアを埋め込んでやれば…制御が可能になるかも知れない…と仮説を立てたと言う訳だ。」
プレパラートを交換し、新しい血液サンプルを調べながら、ペイラーはルミコの疑問に答える。ペイラー曰く、アラガミ化の制御は神機の制御とよく似ているそうだ。そのためオラクル細胞の塊…アラガミ化が大きく進行した部分を神機に見立てて、そこに制御用のコアを埋め込めばアラガミ化を制御出来るはずだと言うのだ。
「なるほど。その仮説通りかを調べるためにリンドウさんの右腕を調べる必要があったと。」
「その通り。大まかに仮説通りだと分かったけど、結局は彼の現状を確認して、サンプルと差異がないかを調べないといけない。このままコアと偏食因子を培養しても、彼が更なる変化を遂げているとまた一から…」
『バリッ!!』
「ひゃぅっ?!」
ペイラーが話をしていると、突然ユウキの血が入っていた試験管が割れ、すぐ横に居たルミコが驚いて短い悲鳴をあげる。
「大丈夫かい?ルミコ君。」
「は、はい。でも何で急に?触ってもないのに…」
「兎に角片付けよう。」
ペイラーがルミコの様子を気にかけて怪我をしてないか確認する。何ともなさそうだったので、ペイラーはルミコを下げさせて、突然割れた試験管を片付け始めると、試験管の破片を見てあることに気が付いた。
(これは…試験管の底がかなり薄くなっている?それに残った試験管の割れ方もおかしい。まるで溶けた様に波打って…)
目の前の事象にペイラーは少し混乱する。今回血を保存したのはプラスチック製の試験管だ。プラスチックを溶かす液体や薬品は確かに存在する。しかし試験管に入っていたのは血液だ。そんなものが含まれているはずがない。そんなものがいつの間にか混入したのか、どう言う状況ならプラスチックが溶けた様に見えるかを考える。
(まさか…)
目の前の現象を起こし得る可能性を考え、ペイラーの頭にいくつかそうなるであろう仮説が過ると、ペイラーは勢いよく振り向いて大声でルミコを呼んだ。
「ルミコ君!!今すぐユウキ君の最新の血液サンプルと彼の遺留物を用意してくれ!!髪でも皮膚片でも何でもいい!!」
「え?あっ?!はい!!でも、どうして急に?」
ペイラーの要求にルミコは驚いて目を丸くする。そして何故突然そんなものを必要としているのかを尋ねる。するとペイラーは深刻そうな顔つきになって答えた。
「もしかしたら私達は…大きな思い違いをしているのかも知れない…」
-外部居住区外-
捜索範囲を拡げてから3日後、今のところ作戦領域外にも捜索の手を伸ばしているが、今のところ進展はなかった。
そんな中、第一部隊は諦めずにいつもとは違う居住区跡の近くでユウキの捜索をしていた。
「ここにも居なかったね。」
しかし、第一部隊だけではどんなに捜索範囲を拡大しようとも見つけるのは難しい。案の定この日もユウキの所在に繋がりそうな情報は見つからず、思わずコウタは肩を落とす。
「本当に…何処にいるのかしら…?」
「考えてたってしょうがない。とにかく、辺りをくまなく探すぞ。この辺りはまだ探してない地域だ。もしかしたら新しい手がかりが…」
『ズガァァァン!!』
サクヤがユウキの安否を心配していると、リンドウがユウキを探そうと促す。するとそれを言い切る前に轟音と共に、少し離れた場所で紅い斬撃が宙に向かって放たれるのが見えた。
「紅い…斬撃?」
「ユウ…!!」
遠方から紅い斬撃が見え、それがユウキの仕業だと確信するとソーマとアリサの表情は、希望が見えたのか少し明るくなる。
「行くぞ!!きっとあそこに…ユウが居る!!」
あんなものを放てるのはユウキしかいない。リンドウの掛け声と共に、第一部隊は斬撃が見えた方向に走っていった。
-防壁外、居住区跡-
作戦領域とは別の居住区跡地、そこでいつもの隊長服ではなく、黒のスラックスに黒いコートを着たユウキは大きな黒い鳥…カラスの様なアラガミと戦っていた。
アラガミは空中から急降下し、ユウキに向かって突進する。
「…チッ!!」
アラガミの攻撃を横に跳んで避け、反撃に神機を振るうがアラガミは急上昇してこれを避ける。
「ちょこまかと…」
ユウキは右手の神機を銃形態に変形し、飛び上がったアラガミに向かって銃口を向ける。
「ウゼェんだよ!!」
ユウキは荒い口調でコバルトマグナムを発射する。しかしカラスの様なアラガミは空中で急旋回して攻撃を避ける。すると再び急降下し、ユウキに向かって突進する。
「クソがッ!!」
ユウキは咄嗟に左へ跳び、攻撃を躱す。そのまま左手の神機で何とか反撃しようとするが、既にアラガミは飛び去っていた。その代わり右手の神機で狙撃するが難なく躱され、ユウキは悪態をつく。
(サリエル種とは違う…直接的だが素早く、旋回性の高い飛行能力…オマケに攻撃のために降りてきたと思えば即飛び上がる事も出来る…厄介だな…)
しかし、ユウキはイラつきながらもどうにか相手の特徴を分析していたが、高い機動性と運動能力に翻弄され、ユウキの攻撃は1度も当たらないまま時間が経ち、体力も尽き始めていた。
「ユウ!!」
そんな中、聞き覚えのある声、アリサの声がユウキの元に届く。
「っ!!何で…」
そんなはずないと思いながら振り向くと、神機を構えて走ってくる第一部隊が目に入る。
第一部隊が集結した事で6対1となった。この状況を不利と感じたのか、アラガミは第一部隊を一瞬見た後、反転して何処かに飛び去ろうとしていた。
「待てっ!!」
それを追撃すべく、ユウキは右手の神機をアラガミに向け、コバルトマグナムを放つ。
しかしアラガミは戦闘機で言うところのバレルロールの様な動作で後ろからの攻撃を避けると、そのままユウキ達から離れていった。
「クソッ!!」
標的を取り逃がした事でユウキは悪態をつく。それに、今まで接点など無い、初めて会ったはずのアラガミなのに何故かユウキはあのカラスの様なアラガミが気になっていた。
その事もあって、ユウキは苛立ちを抑えられなかった。
「さ…探したんですよ?ユウ?」
「…」
明らかにイラついている雰囲気を出していたが、どうにかアリサはユウキの後ろから声をかける。しかし、ユウキはアリサの方を見る事もなければ、一向に返事が返ってくる気配はない。
「どうしたんだよ?帰ろうぜユウ。」
「手間をかけさせるな。早く帰るぞ。」
「帰るぞ、ユウ。」
「皆待ってるわよ。」
沈黙に耐えかねたコウタが帰るように言う。それに続いてソーマ、リンドウ、サクヤがそれぞれ声をかけるが、今のユウキにはそれが何処か可笑しく思えた。
「皆って…誰だよ…?」
「…え?」
半笑いになりながらユウキは皆の言ったことを嘲笑う。それを聞いた第一部隊は信じられない事を聞き、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔になっていた。
「帰るつもりはない。お前達だけで帰れ。」
「ま、待って…ッ!!」
冷たい言葉を返したユウキは、そのまま第一部隊を見向きもせずに踵を返す。そんなユウキを追いかけようとアリサが駆け出すが、ユウキは勢いよく振り向いて左手の神機を下に向かって横凪ぎに振る。
『ズガァァァン!!』
轟音と共に砂ぼこりが立ち上がる。砂ぼこりは広範囲に広がり、アリサ達は思わず目を閉じる。
「…え?」
砂ぼこりが収まり目を開くと、そこには想像もしなかった光景が広がっていた。ユウキが神機を振り抜いたところの地面が裂けており、ユウキと第一部隊を分断していた。
「ただの人間に…こんな事が出来るか?こんな事が出来ても…まだ人間だなんて言えるか?」
ユウキが神機を下ろし、冷めた目で第一部隊を見る。
「もう俺は普通の人間でもなければただの神機使いでもない。挙げ句アラガミになったり人になったり…どっち付かずの半端なバケモノだ。」
相も変わらず、ユウキは冷たい目で淡々とした口調で自らをバケモノと呼び自傷する。
「こんなバケモノが近くに居たら皆が不安になるだろ?だから…アナグラに不和をもたらす以上、戻る訳にもいかない。」
ユウキは右手の神機を剣形態にしつつ両手の神機をしまい、そのまま第一部隊に背を向けて歩きだす。
(ま、まさか…あれ…聞いて…)
ユウキの言葉を聞いたアリサは頭が真っ白になる。『マズイ』、『ヤバい』と言う思いが頭をぐるぐると回っているが、どうしたら引き留めめられるかまったく思い付かなかった。
「…もう俺の事はほっといてくれ。このままいつかアラガミ化して…皆は何も知らないまま俺を殺してそれで終わりだ。あとは時間が経てば俺のことなんて忘れるさ。」
「待て!!今お前のアラガミ化を制御する研究をしている!!この研究にはお前の協力が必要なんだ!!」
「…」
ソーマがユウキのアラガミ化を止められるかも知れないと言うが、ユウキはそれを無視して歩き続ける。その先には地面が陥没して崖になっており、ユウキは迷いなくその崖から飛び降りて第一部隊の元を去っていった。
少年は暴走して圧倒的な力を見せつける…それを見た仲間達は恐怖を覚え、暴走した少年を排除しようと殺意を向ける。それでも俺達は、少年と築き上げてきた絆は本物だと信じて…説得すれば応じてくれると思っていた。
だが…俺達がよくても、仲間達との間に出来た亀裂をどうにかしなければ意味がない…かつてアラガミとも『トモダチ』になれた。そんな経験があったからだろうか…敵となり得る存在があまりにも身近に居る事への恐怖を忘れていた。
そして少年は大きすぎる恐れを与えた事で、仲間達と…俺達との関係は…もう戻らないところまで拗れてしまっていた…だが仲間との絆を盲信するあまり、俺達はその事に気付かなかった。それが後に…大きな悲劇を招く事になる。
極東支部第一部隊活動記録
著:ソーマ・シックザール
『カチッ』
歯車は全て噛み合った。あとは…動き出すのを待つばかり…
To be continued
後書き
失踪したユウキを探してあちこち奔走する第一部隊が遂にユウキと接触しました。しかもカラスの様なアラガミが現れて、ユウキは帰る事を拒んだりと色々と動きだしました。この先どうなるか…暫しお待ちを!
ちなみに今のユウキが着てる服はスイーパーノワールの上下です。
※次回の更新は遅くなりそうです